白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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なかなかUA伸びない事に、前作のヒロアカ効果って凄かったんだなぁと改めて思います。
これが俺の真の実力だ!(マイナス方面)


悪魔討伐者(デビルバスター)浅田彼方

神野を加えて3人体勢となった浅田探偵事務所。とは言っても、神野は完全なるニュービー。戦闘どころか日常生活を送ることすら難しい。

しかも、本人が聖女ときた。正直なところを言うと、メシア教会にぶん投げるのもありなのではないかと思うが、それをすると神野の“未来を選択する自由”が失われてしまう。それは避けたい。俺がまだ人であるために。

 

そんな事を考えていると、またも紙コップが握りつぶされた。熱々のコーヒーが入っている奴が。

 

「熱ッ⁉︎...くない?」

「...熱に耐性ができたか?本当に能力は当たりだな、神野」

「耐性、ですか?」

 

ストレージからおしぼりを取り出して投げ渡す。服にシミがついてしまうかもしれないが、まぁそれは自己責任だ。

 

「千尋くん。せっかくだし縁ちゃんに講義してあげたら?脅威は実際に体験してみるまではわからないものだけど、知識はそうじゃないしね」

「それは私も気になるな。現代の悪魔と戦う者の知識、聞いておいて損にはならないだろう」

「...わかりました」

 

そう言って、スマートウォッチでアナライズシステムを起動させる。対象は神野だ。

 

「神野、自分が人間じゃなくなったってのはわかってるな?」

「...はい、悲しいですけど」

「そういった人間以外の存在ってのは、生体マグネタイトの力場を無意識に展開しているんだ」

「...はぁ」

「その力場は、ある種の概念を防御している。例えば、お前の火炎耐性みたいにな」

 

そう言って、神野のアナライズ結果を見せる。

 


[聖女] 火炎、電撃、精神耐性、破魔無効、呪殺弱点


 

「なんか、ゲームみたいですね」

「表示情報がわかりやすく簡略化されてるからな。ま、耐性って一口に言っても細かく言えば炎に焼かれない体質だったり、熱を遮断する体質だったりと色々あるんだが、いまはそれはいい。つまり、お前の体から出ている力場は熱と電気と精神異常からお前を守ってくれるって事だ」

「この、呪殺弱点ってのはなんですか?」

「ああ、これは文字通り。呪殺魔法はお前の力場で防げないって事だ」

「響的に怖いですね、呪殺魔法なんて」

「ああ、実際、当たれば即死だからな」

 

固まる神野、とは言っても呪殺魔法の怖さは実際に体験してみるわけにはいかないのだからしっかりと言い含めて置かなくてはならない。

 

「人の生きる力の根源、魂への直接攻撃だ。力場が呪殺を弾いてくれないお前の場合だと、どんなに鍛えていても、どんなに意志が強くても、当たれば死ぬ。だから、絶対に受けちゃいけないんだ」

「...死ぬ、ですか」

「悲しいことに、お前が突っ込んだこっちの世界は人間に優しくないからな」

 

これくらい言い含めておけば、まぁ大丈夫か。

 

「とはいってもそれは力場が防げないってだけだから、装備とかでどうにでも補強は利く。安心しろ。呪殺対策は、この業界の基本だからな」

「...はい、わかりました」

「とまぁ、こんな感じにこの業界に生きてる人や悪魔は固有の力場を持っている。だから、ただ闇雲に攻撃しただけじゃあ耐性に阻まれて効果がないなんてザラなんだ。だから、相手を観察することが悪魔を殺すための第一歩だ」

「...殺す、ですか」

 

その言葉を吐いたときの神野の表情には、躊躇いがあった。優しい子なのだろう。

 

「千尋くん、強い言葉を使い過ぎだよ。彼女はまだ、戦士ってわけじゃないんだから」

「...そうですね。神野、悪かった」

「いえ、大丈夫です。分かってますから」

 

「私を襲った吸血鬼みたいな化け物がいて、それが影ながら人々を脅かしている。だから、殺して止めなくちゃならない。だから、戦ってる人たちがいる。そうですよね」

「縁ちゃん」

「...なんですか?所長さん」

「理解と納得は別なんだ。無理しなくたっていい」

「...え?」

「君はまだ、この世界を見たばかりだ。道を決めるには早すぎるよ」

「...そうなんですか?」

「そうさ、君の道を選ぶ自由は、私たちが守る。この業界の先達としてね」

 

それを害意なしの全力で言えるから、所長は所長なのだなと改めて思う。デオンも、所長がどういう人なのかを納得したようだ。

 

そんな事を考えていると、所長の携帯にメールが着信した音が響いた。

 

「さ、ガイア教と交渉は終わったよ。千尋くん、縁ちゃん、デオンくん、行こう!」

「ですね」

「...え、何処にですか?」

「裏社会見学、だよ」

 


 

倉庫にあった所長の予備の装備、アフダルベストと呪殺無効効果を持つネックレスを装備させた神野を連れて街外れにある森林部へと向かう。

 

デオンの運転する車にて。

 

「多芸だねぇ」

「芸は身を助けるというやつさ」

「今度、デオンくんの免許申請してみようか。案外簡単に通るかも」

「...え、デオンさん無免許なんですか⁉︎」

「気にすんな、動けば同じだ」

 

実際、運転するだけなら俺でもできる。あんなものは慣れだ。警察などには魅了魔法(マリンカリン)で記憶改変を行えばいいのだし。

 

「着いたよ皆。ここが、ガイアーズの所有する異界“闘争森林”だよ」

「門番をしている者達、なかなかの手練れだね」

「そりゃそうさ。主が協力的とはいっても、異界の維持なんて滅茶苦茶やって儲けてんだから」

「すいません、ガイアーズって何ですか?」

「それは僕も聞きたいな。異能者の集団のようなニュアンスだが」

「あぁ、そっからか」

「ガイアーズっていうのはガイア教徒のこと。まぁ簡単に言えばメシア教以外の宗教の寄り合いに入ってる人だね」

「メシア教は知ってます。よく駅前で募金活動してますから」

「そのメシア教ってのは、基本的に他の宗教に排他的なんだ。だから、自分の身を守るためって建前でガイア教は悪魔の力を使ってるんだよ」

「「...建前?」」

「ガイアーズとメシアンの抗争は、もう何百年と続いてるからなぁ、多分どっちもどっちが原因とか覚えてねぇよ。アイツらどっちもノリで生きてるし」

「...いや、それはどうなんだい?」

「まぁ、節度を持って話し合えばどっちも分かり合えないって訳じゃないから、そこは安心していいよ。私、メシアンにもガイアーズにも顔が利くし」

「やっぱ凄いんですね、所長さんって」

 

適当な所に車を止めて、鳥居を守る門番達に挨拶する。

 

「カナタの姐さん!お久しぶりです!今日は鬼童丸との殺し合いですかい?」

「いいや、新人研修さ」

 

「...今、さらっと殺し合いとか言いませんでした?」

「言ったよ。所長ここの主と仲いいんだとさ」

「戦う事での異種族コミュニケーションか。私にも覚えはあるな」

「あるんですか⁉︎」

 

「...へぇ。男の方はともかく、二人は逸材ですね」

「まぁ、二人ともまだ仮雇用なんだよね。悲しいけど」

「姐さんのとこなら喜んでついていくでしょうに、新人どもは生意気ですねぇ」

 

「じゃあ、使用時間は申請通り4時間。他に使っている人はいるかい?」

「ええ、最近ガイアーズになったサマナーが一人、中で仲魔集めをするって言ってましたぜ」

 

門番の一人、キバさんに案内されて鳥居の奥に入る。

 

すると、空気が一変した。

周囲からひしひしと感じる殺気。出入り口を見張っていたのだろう。

カモがやってきたと思われているのだ。いささか癪だな。

 

「ここ、は?」

「ここは異界、悪魔の領域さ。ほら、そこら中から殺気が飛んできているだろう?」

「...これが、殺気」

「ま、所長とデオンがいるんだ。大事にはならねぇよ」

 

そうして、わざと無警戒に異界の奥に入る。当然囲まれるが、

 

「さ、縁ちゃん。最初の課題だ」

「な、何ですか?」

「この場から、生き延びてみせて!」

 

周囲から悪魔が飛び出してくる。数は見えているだけで14、幽鬼ガキと魔獣カブソ、凶鳥イツマデなどが主だ。

 

「ひゃっひゃっひゃぁ!新鮮なMAGだぁ!」

「殺していい人だよね!」

「ピィイ、ガァアア!」

 

遠距離魔法による包囲殲滅はなし。念のため出していた魔反鏡は必要なかったようだ。有り難い。まだ製法が確立されていない非売品なので、あまり使いたくはなかったのだ。

 

「デオン、前出るぞ」

「...エニシを守らなくていいのかい?」

「ああ、戦いを学ばせるにはこれが一番手っ取り早い」

「それで、彼女が死んでもかい?」

「死なねぇよ。神野は聖女、高位覚醒者だ。この程度の雑魚に殺されはしない」

 

高位の者をこの程度の戦力で殺せるのなら、この業界はもっと人間に優しくなっているだろう。

 

それだけ、隔絶しているのだ。力場の力が。

 

前に出てきたガキとカブソをデオンが流れるように斬り伏せ、空からデオンを狙ってくるイツマデを俺が狙い撃つ。デオンの華麗な剣舞は見ている者全てを引きつける。お陰で動きやすくてたまらない。

 

弾も最低限の消費で済んでいるので、かなりの黒字が見込めそうだ。

 

さて、あらかたの悪魔は討伐し終えた。所長も同じようだ。

 

残りは、神野に襲いかかっているガキが2体。それに対して神野は、乱暴に手を振り回している。

だが、目は開いている。これは、戦闘面でも逸材かもしれない。

 

「ウギャァア!」

 

そして、振り回していた一発がガキに当たった。ただのラッキーパンチだが、聖女がガキを屠るには十分な威力だった。

 

そして崩れ落ちた仲間に驚いたガキは驚きから動きを止めた。そこに神野のテレフォンパンチが放たれる。

 

ガキは腕でガードしたが、それごと吹き飛ばされ絶命した。

 

「これが...私の力?」

「初勝利、おめでとさん。人間じゃないって言った理由、わかったろ?」

「...はい。私は、こんなに簡単に命を奪えるんですね」

「気負うことはない。その力を振るうのは、君の意思さ」

 

「じゃあ、縁ちゃん大丈夫そうだし行こうか。ここから先は縁ちゃんは見学ね。私が護衛でデオンくんと千尋くんが戦闘役」

「了解、ついでに仲魔集めを狙うことにしますよ」

 


 

探索が始まった。この闘争森林に出てくる悪魔はどいつもこいつも血の気が多い。が、低位の悪魔ばかりだ。デオンがいれば手こずることなく倒すことができる。

 

「さて、コボルトくん。君には選択肢がある。MAGを全部置いていくか、このまま蜂の巣になるかだ」

「...お前、それ動けない奴に言うことかよぉ!」

 

神経弾が効き、身動きの取れなくなったコボルト相手に交渉をする。脅迫と言い換えても構わない。

 

悪魔相手の交渉など、こんな感じでいいのだ。

 

「わかった、わかったよ!MAGならくれてやる!」

 

そういって解放されるMAG。見た感じ通り、結構溜め込んでいたようだ。

 

「さて、コボルトくん。君には選択肢がある。魔貨(マッカ)を全部置いていくか、デオンに刻まれるかだ」

「今度はマッカかよぉ!」

「わかった。デオン、やれ」

「サマナーの指示だ、悪く思うなよ悪魔。元はと言えば君が襲いかかってきたのが悪いんだ」

「わかった、マッカはやるよ!でも、マッカは俺しか知らない場所に隠してる。だから!」

 

見苦しくも命乞いをするコボルト。というか、そんな見え見えの罠にはかかってやるつもりはない。

 

「デオン」

「了解だ、サマナー」

 

スパッという綺麗な音と共に、コボルトの首は飛んだ。

 

「なん、でだ?」

「そりゃ、お前を自由にする理由なんてないからな」

「この...悪魔め!」

 

首が離れてもある程度喋れるとか、やっぱ悪魔って怖い。気をつけよう。

 

「所長さん、なんか悪魔が可哀想に見えてきました」

「それは気の迷いだよ、縁ちゃん。いや、千尋くんのあのやり口は私も引くけれど」

 

そんな会話をよそに、先に進もうとする。だが、茂みが揺れる音が聞こえた。

 

見れば、ピクシーが茂みの中でプルプルと震えている。敵がまた見つかった。

 

「あのー、千尋さん。その辺にしてあげても...」

「いや、ピクシーがいるって事はあれが来るって事だ。どうせ戦いになるのなら敵は少ない方がいい」

 

「やめて、殺さないで!」

「じゃあ増援を呼ぶのを止めろや。そっちが殺す気で来るからこっちも手加減できねぇんだよ」

「...なぁんだ、バレてたん、だ!」

 

ピクシーの電撃魔法(ジオ)を回避してデオンに指示を出す。ピクシーはいた茂みごとぶった切られた。

だが、増援を呼ぶピクシーのMAG波形は発振された後だった。

 

「...遅かったか」

 

走ってくる音が聞こえる。ずんぐりむっくりとした巨体と、それを十全に生かした走り方。

 

妖精スプリガンが、やってきた。

 

「サモン、ノッカー、モコイ、カラドリウス!」

「儂の出番か、面倒じゃの」

「また強敵の壁やらされる気がするんだよね、僕」

「大丈夫さ、デオンがいる!」

 

妖精スプリガン。妖精を守る戦士。普段は小柄だが、戦う時には巨人となって襲いかかってくる。

そして、この闘争森林に住んでいるのだからこのスプリガンがかなりの実力を備えているのには間違いない。遠目で見た感じでも、体長は5mはありそうだ。

 

「デオン、巨人との戦闘経験は?」

「多い方ではないね」

「なら、指示は俺が出す。アナライズが終わるまでは攻撃をいなしつつ、足を狙ってくれ」

「了解だ、サマナー」

 

ノッカー、モコイ、カラドリウスにそれぞれ強化魔法を使わせる。これでデオンは俺の手札の中で最強になる。

 

「ウォオオオオ!ピクシー、無事かぁ!」

「あいにくと、彼女はもう斬った」

「...許さん!死ねぇ!」

 

巨体を活かした振り下ろし。力尽くだが、それ故に恐ろしい。強化をかけていたとしても、ノッカーでは耐えられなかっただろう。

だが、デオンはいとも簡単に捌いた。まるで舞踏のように軽やかに。

 

「カラドリウス、回復待機!ノッカー、顔面狙って氷結魔法(ブフ)!モコイ、ブフが通ったら突撃!」

 

そう言って、走り回りながら銃を放つ。力場により威力はだいぶ削がれたが、弾着はした。ダメージは見えない。銃撃耐性か?

 

そしてブフが当たり顔が氷で覆われたところに、モコイの突撃が入る。ダメージは少ないが、体勢を崩す事くらいはできた。

その隙に、デオンが右足にダメージを重ねていった。

 

「うぃいいい!鬱陶しい!」

 

そんな言葉と共に、デオンを無視して俺に殴りかかろうとしてくる。右のテレフォン。術はなし。回避は容易だ。

 

もっとも、回避する必要があるかは疑問だったが。

 

「どこを見ている?妖精の戦士」

 

デオンが、その隙にスプリガンの足の腱を切り裂いた。それによりスプリガンは巨体を支えきれなくなり、顔面から転げ落ちた。

 

そして、アナライズ完了。弱点属性は火炎だ。

 

「デオン、その位置から2歩下がれ。せっかくだし俺の術を見せてやるよ。」

 

スマートウォッチを操作して、魔法陣展開代行プログラムを起動。発動する術式は、MAGの通り道を作り出すことでストーンの火力を増大させるもの。この術式が俺がこれまで生き残ってこれた理由であり、大物殺しの必殺技だ。

 

「アギストーン。超過起動(オーバーロード)!」

 

ルーン魔術により低級魔法を入れたストーン(自作、材料費2000円)を爆発させ、その火力を全てスプリガンにぶち当てる。

 

「俺はぁ!」と一言言い残し、スプリガンは炎の中に消えていった。

 

「どうよ、ちょっとは見直したか?」

「ああ、君は実に有能なサマナーだとわかったよ」

「後は前衛張ってくれる仲魔がいれば最高なんだが、どうよ」

「あいにくと、まだ決められないな。僕には案外知らないことが多くてね」

 

ひとまず周りに悪魔の気配がなくなったことをエネミーソナーで確認したのち、神野と所長に向き直る。

 

「デオンくんが入ってから、動きが随分と良くなったよ。これは何をしても捕まえておかなきゃね」

「案外手強いんですよ、デオンは。なんか良い策ないですかね」

「それを本人の側で聞くか、サマナー」

 

「...凄いですね、千尋さんって。あんな大きい悪魔に対して一歩も引かないでやっつけちゃうなんて」

「それは、お前がまだ自分の力を把握できてないだけだよ。多分、お前だとワンパンで沈められるぜ?」

「...え?」

「そうだね、体と魔力の使い方を覚えればすぐに千尋くんよりも強くなれるよ。それは保証する。それだけ凄いんだ、聖女ってのはね」

 

いまいちわかってない神野を置いておいて、探索を続ける。大物であるスプリガンを消費少なく倒せたことにより黒字はさらに加速した。これなら、70万MAGの超赤字を取り返すのもそう遠くはないのかもしれない。

 

「サマナー、取らぬ狸の皮算用という言葉がある」

「...良い仲魔を持ったよ俺は」

 

まぁ、今は神野の裏社会見学が無事終わることを優先しよう。うん。

 


 

そして、異界を一回りしたのち、主のいるフロアに辿り着く。一段と濃い異界強度(ゲートパワー)。この辺りからは死力を尽くさねば万が一があるだろう。ノッカーモコイカラドリウスのいつものメンツは召喚済みだ。

 

だが、悪魔の気配はあれど、襲いかかっては来ない。それどころか俺たちの事を気付かれていないかもしれない。奇妙だ。

 

「皆、戦闘音がする。誰かが鬼童丸と戦っているようだ」

「例の新入りガイアーズですかね」

「止めるよ。この異界がないと新人の死亡率は跳ね上がる。まぁ、鬼童丸が負けるとは思わないけどね」

「はい」

 

森の奥に入ると、奇妙な光景が目に入った。

倒れ伏している男、防戦一方の牛の皮を被った鬼、鬼童丸。そして、どこか狂気的な動きで鬼童丸を圧倒している女武者。

 

所長がハンドサインで下がれと伝えてくる。女武者は、鬼童丸をたやすく圧倒している。足手まといがいてはまずいことになりそうだ。

 

「あらあらあら、珍客ですね」

「すまないが、その辺りにしてくれないか?この異界はしっかりと管理されている。鬼童丸を殺したところで意味なんかないよ」

「何を馬鹿な事を。この鬼は、人を喰った事のある人に害なす鬼です。命ある者として、殺すのが当然でしょう」

 

鬼殺しを成す程の実力、歪んだ思考、女武者、これだけ要素があれば逸話の一つでも引っかかるものだろうが、全く情報がない。何者だ?

 

「...気を付けろ、カナタ!コイツは、ただの悪魔じゃない!」

「アナライズ結果出ました。全属性不明、アンチアナライズフィールド張ってます」

「仕方ない。千尋くんは鬼童丸の回復を!私がこの武者を討つ!」

「皆、いつものを所長に!」

攻撃力強化(タルカジャ)!」「防御力強化(ラクカジャ)!」「反応性向上(スクカジャ)!」

「鬼に与する者...そうですか。なら貴方も殺しましょう」

 

武者と所長は、爆ぜるような高速移動の後真正面から衝突した。

 

「鬼童丸さん、魔石です」

「...ありがとよ」

 

鬼童丸は、受け取った魔石を砕いた。すると、中にある活性マグネタイトが体に吸収され、その傷を魂の側から治療する。

 

治療の様子を見ながら、女武者と所長の戦いを見る。まるで、嵐のようだ。強化魔法で強くなっている所長の疾風を纏う斬撃を、雷を纏った刀剣で真正面から迎撃している。その余波で離れている俺たちにも衝撃が飛んでくるあたり。あの嵐の中心で人間がどうなるかは考えたくない。

 

「...所長一人じゃ持たないかもしれません。あの武者の耐性と使用技を教えてください」

「あの武者の動きは、()()。だが、鬼殺しの概念装備を持っているのは間違いないぜ。斬撃に耐性のある俺が、刀やマサカリでダメージを受けた」

「...成る程、悪魔に概念装備を持たせられるサマナー。かなりのやり手ですねあのガイアーズは」

「それが、どうにもそういう訳じゃねぇ。悪魔に武器を与えたにしては、あまりにも手に馴染み過ぎている。元々奴の装備だったみたいにな」

「ということは、魔人?」

「んな訳あるか。奴の強さは武人のそれだ。心を悪魔に明け渡すなんて真似するかよ」

「謎しかねぇですね。でも、とりあえずできる事をやってみます。魔石をもう一つどうぞ」

「...うし、これで戦える。感謝するぜ、坊主」

「俺は花咲千尋、サマナーです」

「ッハ!鬼に名乗るとはいい根性してんぜ!俺は邪鬼鬼童丸!今だけは、テメェの味方さ!」

 

鬼童丸が、嵐の中に飛び込んでいく。鬼童丸の性質、知略をもって襲う鬼にしては随分と杜撰に見える。

だが、鬼童丸なりの考えがあるのだろう。例えば今、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()についての事とか。

 

「デオン、当てられて動けないとかないよな」

「大丈夫だ。少し見入っていただけさ」

「じゃあいくぞ。嵐を抜けて、サマナーを殺す!」

 

「待って下さい!」

 

走り出そうとした俺とデオンの前に、神野が立ち塞がる。その足は震えていたが、その意思は強かった。

 

「殺すのなんて駄目です!生きている、人なんですよ!」

「でも、殺さないと所長と鬼童丸が殺されるそうしたら次は俺たちだ。行くしかないんだよ。」

「それでも、他に方法があるはずです!」

「エニシ、綺麗事では誰も守れない。悲しいけど、それが現実なんだ」

「いいえ、いいえ!綺麗事が悪い訳がない!だって綺麗事ってのは、みんなの望んだ未来の形なんだから!」

 

青い理想、青い強さ。叫ぶたびに、足の震えは収まっていった。

この神野縁という少女は、命を賭けると言ったのだ。話したことすらない赤の他人のサマナーの為に。

 

その高潔な意思に当てられたのか、ため息が一つ出た。

 

「デオン」

「...仕方がない。僕もこの輝きは奪えない」

「...それじゃあ!」

 

「ノッカー、モコイ、カラドリウス!後先考えるな!全力の魔力で支援を!」

「僕ら、今度は死ぬまで働けってさ。ブラックだね」

「ええじゃろ。そういうサマナーに仕えるのも面白いのじゃからな」

「さ、行くのさ!」

 

「神野!デオン!俺の盾になれ!」

「わかりました!」「任せてくれ、サマナー!」

 

戦闘の余波だけで草木がなぎ倒される嵐を突っ切って、敵サマナーの元へ向かう。デオンと神野を盾にして。

 

「成る程、“こんぷ”とやらを狙う気ですね。そうはさせません!」

「させてみせるさ!それが私の戦いだ!」

「よそ見してんじゃねぇ、俺を見ろ!」

 

「無駄です。私を止めるには、貴女方では3人ほど足りない。牛王招雷・天綱恢々(ごおうしょうらい・てんもうかいかい)

 

瞬間、女武者が5人に分身した。増えたそれぞれが刀、槍、弓、マサカリを握っている。どれも一級品の概念装備だ。

 

風を纏う弓を、所長がクレイモアで受け止める。

光纏うマサカリを、鬼童丸が根本で受けてその力を止める。

神速で入り込んだ槍を、デオンが払い続く刀にぶつける。

 

だが、雷光をチャージしていた本来の女武者の攻撃を防ぐ手段は俺にはない。斬撃と電撃の複合属性では、物反鏡でも魔反鏡でも防ぎきることはできない。

 

だから、ここで諦めても仕方がないのだろう。全員纏めて雷光に焼かれて死ぬのが、最も可能性の高い未来だ。

 

だが、俺はやはり諦めが悪いのだろう。敵サマナーの方に走る足は止まらなかった。そんな俺に、女武者の照準が定まったのを背後から感じる。

 

このままでは俺は死ぬだろう。だから、()()()()()()

 

「私が、死なせない!」

 

彼女の、力に。

 

「体の内側の想いを、叫ぶように解き放て!それが、お前の力だ!」

「...これが、私の想い!護りの盾!」

 

アクセル全開の術のぶっぱ。それは、高純度で作り上げられたマグネタイトの障壁。倒す力でなく守る力。聖女らしく、彼女らしい力だ。

 

それを嬉しく思う。

 

「まさか、私の雷を防ぐ子がいるとは。人の世は、面白いですね」

 

あと、動けるのは俺だけ。分身は大技を放った事で実体を取れなくなったが、リチャージはそう遅くないだろう。

だから、俺は俺のやるべき事をする。

 

「プログラム、起動!マグネタイトライン、ハック!逆流しろ、マグネタイト!」

 

サマナーが左手に握っているスマホに対して魔導ハッキングを仕掛ける。パスワードのかかっている待機状態ならともかく、起動し操作待機状態の悪魔召喚プログラムならハッキングは容易だ。

それをもって、英雄“ライコウ”に伝達されているマグネタイトを逆流させ、マグネタイトを回収する。

 

送還は、悪魔側に力があれば拒否できてしまう。故にこれが、サマナーを殺さないでできる俺の精一杯だ。

 

「力が、抜けていく...ッ⁉︎」

「肉の体を持たずマグネタイトに依存する。それが、悪魔の限界だ!」

 

クレイモアに、風が集まる。疾風魔法(ガル)と斬撃を組み合わせた所長、浅田彼方の必殺の大上段。

当然、ライコウは迎撃しようとするが、デオンにより投げつけられたサーベルが腕を貫いた事で、その迎撃は防がれた。

 

そして、ライコウの脳天から疾風の斬撃が振り下ろされ、右と左、二つの半身に別れて地に落ちた。

 

風王斬撃(エアリアル・ザッパー)

 

その技の名前が呟かれ、それが終戦の合図となった。

 


 

「どうだい?千尋くん。サマナーの様子は」

「意識が戻りませんね。ハックした時の感じからですが、マグネタイトの主導権がライコウという悪魔にあったのでしょう。このサマナーは、電池として扱われて、MAG欠乏症に陥って死にかけています」

「どうにかならないんですか⁉︎」

「今どうにかしてる。魂を傷つけないようにゆっくりとMAGを浸透させていけば、まぁ死ぬ事はないさ」

「ありがとうございます、千尋さん!」

 

その笑顔がちょっと辛い。これは別に善意からの行動ではないのだ。

 

「それで、ライコウとかいう悪魔についてはどうだ?」

「...それが、わかりません。スマホをハッキングし直してみたんですが、契約悪魔から英雄“ライコウ”の名前は消えていました。どうにもただ事じゃないですね」

「どういう事ですか?」

「悪魔召喚プログラムってのは基本的に、契約の代行をしているだけなんだ。だから、本当の契約は魂と魂で行われてる。だからライコウって悪魔がぶった切られたとしても、その魂はこのサマナーに引っ付いていないとおかしいんだよ」

「へー」

「わかりませんって素直に言えや」

 

「てへ」っと頭をコツンと叩く神野。不細工がやればムカつく事この上ない仕草だが、容姿の整っているコイツには似合っているので怒るに怒れない。なので、ため息一つついて終わらせる事にした。

 

「...にしてもライコウか、嫌な名前を付けやがる」

「済まない、私はこちらの神話に詳しくないのだ。ライコウとは何者なんだ?」

()()()()()()()()()()()()()、ライコウってのは昔のデビルバスターの名前だよ。俺は昔奴に殺された」

「それが鬼童丸の由来だね。牛の皮を被ってだまし討ちしようとして、しかし見破られて射殺されてしまった。ってね」

「そんな()が、昔いたのさ。あー、胸くそ悪りぃ」

 

鬼童丸は異界のマグネタイトを吸収する事で回復したのか、準備運動を始めている。それを見た所長も、「仕方がないなぁ」と言いたげな目で戦闘準備をした。

 

「さ、デオン、神野、離れるぞ。」

「...え、何が始まるんですか?」

「異種族コミュニケーションだね。でもいいのかい?鬼童丸は異界の主なのだろう?」

「そこんとこは良く知らないが、多分大丈夫だろ。じゃれあいみたいなもんだしな」

「...所長さんの事がよくわからなくなりました。普通の人だと思ったのに」

「所長は、色々ダメなバトルジャンキーだ。それが祟ってテンプルナイツ追い出された筋金入りだから、比較にはするなよ」

 

その言葉に、二人はどこか納得して戦いを見つめた。

 

鬼童丸の攻撃を正面から弾き、受け止め、必殺の一撃を入れる。

数合と持たなかったが、鬼童丸も所長もどこか楽しげだった。

 

「また強くなりやがったなカナタ。成長の遅い悪魔のこの身が恨めしいぜ。悪魔合体でもするかねぇ」

「やめてくれ、友人が減るのは辛いんだ。君は君のままが一番良い」

「...ありがとよ、カナタ」

 

そんな一幕を見ていると、倒れていたサマナーが目を覚ました。

 

「...ここは?」

「闘争森林の奥、主の間だよ。災難だったなお前」

「...そうだ、ライコウは⁉︎」

「分からん。ぶった切られてからスマホに戻ってないのは確かだ。...じゃあ、これから尋問を始める。拷問の経験はあまりないから、早めに喋ってくれることを祈るぜ」

 

「わかった、話す。だが俺もライコウの事はよく知らないんだ」

「サマナーなのにか?」

「この異界で仲魔を集めていたら、急に現れたんだ。右も左もわからないってんだから騙して手駒にしようとしたんだが、気付いたら契約を乗っ取られてた。んで、MAG電池の出来上がりさ」

「ライコウが現れたときに前兆みたいなものはあったか?」

「...いや、俺には感知できなかった。まるでそこに元からいたみたいな自然な出現の仕方だったよ」

「これは、ヤタガラス案件ですかね」

「契約を乗っ取る悪魔。それがライコウ以外にもいたのなら大事だよ。警戒を促さないと」

 

そんな会話を最後に、俺たちは異界から立ち去っていった。

 


 

「なぁ、嬢ちゃん」

「なんですか?えっと...」

「ミナモトだ」

「神野縁です」

「縁ちゃんは、どうして俺を助けたいって思ったんだ?距離が離れていても殺す手段なら幾らでもあったし、第一俺はライコウのサマナーだったんだ。殺されるのが筋ってもんだぜ」

「知らないですよ、そんな事」

 

「死んで良い人なんていません。死ぬのが筋だなんて間違ってます。そう思ったら後は体が勝手に動いていたというか...」

「成る程、大した嬢ちゃんだ。」

 

「ガイアに用があるときは俺に連絡をくれ。絶対に力になる。命の恩には、命で返すぜ。俺たちはメシアンと違って義理堅いんだ」

「...はい!」

 


 

それからのこと。

 

神野の裏社会見学は、想像以上の成果をもたらした。アクセル全開の力の使い方を覚えたことで、力のコントロールをなんとなく理解したのだ。それに、戦う事に対しては及び腰だが、守ることに関しては躊躇わないという神野の性質も理解できた。

 

これなら、しっかりとした知識を与えれば道に迷うことはないだろう。この事務所から神野が離れるのは少し寂しい気がするが、まぁいいだろう。

 

「どうしたんですか?千尋さん」

「いや、安心したってだけさ。お前大活躍だったし」

「まだまだですよ。結局皆さん頼りになってしまいましたし」

「そう謙遜するものではないよ、エニシ」

 

「君の力は、とても好ましい。きっと多くの人を守れるさ」

「...はい、ありがとうございます!」

「元気がいいのは何よりだ。じゃ、これからお前の取るべき道について説明する。その中から何かを選ぶのも、自分で新しい道を見つけるのも自由だ」

「それって、メシア教とかガイア教とか大きい組織に私を入れるって事ですか?」

「ああ、お前にとっても悪い話じゃない。デカイ組織には、デカイだけの理由があるからな」

「...私は、ここに居たいです。所長さんと、千尋さんと、デオンさんがいるこの事務所に」

「...そうか」

 

随分と気に入られたものだ。だが、デオンはその言葉に笑っていた。所長もだ。聖女の力を必要とする者たちは多いのだから、それなりの組織にいるべきだと思うんだが、それは未来の神野の選択に任せてみよう。とりあえず、この事務所にいるというのなら...

 

「じゃ、座学な」

「...それはご勘弁を」

「何言ってんだ、こんな小さい事務所にいるんなら、知識は滅茶苦茶必要なんだよ。所長がアレだと尚のこと」

「千尋くん、酷くない?」

「だったらもっとちゃんとしてください。公認権限失効されたいんですか」

「...返す言葉もございません」

 


 

ヤタガラス。それは古くから日本を守る異能者の集団。

そんな彼らの元に、一つの報告が届いた。

 

「現れたか、アウタースピリッツ」

「今回は在野のサマナーにより討たれたようですが、影響は広がり続けています。平成結界が完全に崩れ去る前に、早急な対策が必要かと」

「じゃがのぉ、奴らには既存の悪魔との戦い方が通じぬ者もおる。精鋭部隊を作るにも人選は難しいぞ」

「...とりあえず一人、心当たりがあります」

 

「撫で斬りカナタ。今回現れたライコウを討伐したやり手の悪魔討伐者(デビルバスター)です」

 

世界は、着実に動き始めていた。




デオンくんちゃんにしれっとおかしい事をさせるスタイル。でも剣技を宝具にしてる化け物技量勢なので問題はないはず。

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