白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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令和一発目です。元号が変わった時ってあけましておめでとうで良いのでしょうか?

それはともかく4月30日の平成結界防衛戦も大詰め、妙な気が起きなければGW中に一章を終わらせられるでしょう。多分。


平成331年4月30日 その3

5手。それが、こちらにあったアドバンテージが全て吹き飛ぶまでにかかった手数だ。

 

鎧がなくなった事による防御力、力場の減衰の可能性を考えて、残っている全員で別の鎧を着られる前に最大火力を撃ち込むという作戦は、俺もミズキさんも共通の認識だった。故に沙悟浄の極大水撃魔法(アクアダイン)とメドゥーサの極大電撃魔法(ジオダイン)を皮切りに、攻め込もうとした。

 

しかし、黄金の王は飛翔する円盤とは別に鏡のように綺麗な盾を空中に配置し、極大魔法を受け流したのだ。()()()()()()()()()。それにより極大水撃魔法(アクアダイン)はメドゥーサに、極大電撃魔法(ジオダイン)は沙悟浄とミズキさんに直撃することとなった。それによりメドゥーサと沙悟浄は死に、その余波を食らったミズキさんは吹き飛んだ。

 

これが、1手目。

 

極大魔法の反射という曲芸をしでかした黄金の王は、続いて黄金の砲門を開いた。だが、射撃をインターセプトできる距離には今デオンと斉天大聖がいる。止めると信じて任せて走る。が、デオンからの危険を知らせる念により、ショートソードで飛んできた剣雨を払う。

 

急所への直撃は避けたが、槍が足に掠った。そして、それだけで太腿の骨が持っていかれた。今すぐ回復してもすぐに走ることは難しいだろう。

 

デオンと斉天大聖の動きは、確かに迎撃を止めるに足るものだった筈だ。現に近接距離ではデオンが槍と、斉天大聖が斧と獲物を合わせている。だが、黄金の王の射撃はつつがなく行われた。

 

並列思考というやつだろうか。これまでは手を抜いていた?

 

何にせよ、次黄金の王の視界が俺に向いたら終わりだ。片手間での射撃でさえこのザマなのだから。

 

と、この段階で気づく。デオンと斉天大聖の足元に黄金があると。

黄金の砲門を足元に開いたのだろう。あれでは、足が取られて回避は出来ない。二人は死ぬだろう、このままなら。

 

咄嗟に放った反発(ジャンプ)の魔法陣を踏みデオンは初撃を躱し、二撃目以降は、初撃を躱せなかった斉天大聖の如意棒がデオンを押しのけ命を救った。

 

斉天大聖の命と引き換えに。

 

これが、2手目。

 

ハイクラス悪魔斉天大聖の瞬殺。正直思考を止めてしまいたい。何という火力だろうか。

 

だが、ここで止まれば完全に全滅する。だから、前に出る。

反発(ジャンプ)の術式で初速を作り、滑走(スリップ)の術式で無理やり距離を詰める。どうせ動けないのだから、この隙に魔石を使って足の骨を繋ぐ。

 

違和感甚だしいが、これで一応動ける。

 

「縁!」

「はい!」

 

射撃のインターセプトは不可能になった。だが、比較的安全圏が近接距離なのは変わらない。

 

故に、縁に2、3手稼いで貰うしかない。それだけの時間があれば、クー・フーリンとデオンのスピードなら近接距離に戻れる。

 

「ハレルヤ!」

「...ほう、あ奴だけかと思ったが。居るものだな」

 

だが、近接距離に入る前に鎖を持って絡め取られた。その後の斉射は縁の刃通さぬ竜の盾よ(タラスク)により防いだが、数秒で鱗の盾を砕き縁を貫いた。頑強性の高い縁だから両手足に剣や槍が刺さってもまだ生きているが、継戦は不可能だろう。

 

これが、3手目。

 

そして、今近接距離には誰もいない。無理目の接近をしていたが故にデオンとクー・フーリンは回避行動を取ることができていない。

 

斉射が、始まる。

 

何がどうなっているのかなどもはや認識できていない。

今までの攻撃が児戯に思えるほどの嵐。

 

幸い俺は滑走(スリップ)での摩擦係数の減衰により最初の一撃を受けてそのまま吹き飛ばされたから軽傷で済んだが、クー・フーリンとデオンはボロ切れのように吹き飛ばされた。

 

これが、4手目。

 

「甘ぇよクソ金ピカ!俺にはこの程度効かねぇんだよ!」

「...契約による傷害の禁止か。だが、見ればわかるものを誇るとは、三流だな貴様は」

「ほざけ!」

 

弾幕を突っ切るバルドル。その体には傷一つ付いていない。だが、衝撃は消せないのか進路は定められていた。

 

「ではな、疾くと往ね」

「効かねぇつってんだろ...ッ⁉︎」

 

誘導された先に、一本の矢が放たれる。

「ヤドリギ、それが貴様の弱点なのは見て取れた。契約の際の不手際か、つまらぬ落ち度よな」

「て、めぇ」

 

それが5手目。今まで鉄壁を誇ってきた最後の砦バルドルすら、あの黄金の王にあっさりと殺され消滅した。

 

現状を再確認

 

戦闘可能なのは、俺とペガサスとカラドリウスのみ。

 

これが、奴の鎧を剥がしてから2分間の出来事であった。

 


 

デオンは造魔な故に消えてこそいないが、重症なのは見て取れる。

 

「カラドリウス、宝玉をデオンに」

「サマナー、死ぬよ?」

「...死んでないのが、俺の長所だよ」

 

ショートソードをかるく一振り。数多の概念武具を受けても刃こぼれ一つしていない、現状唯一の俺の頼みの綱。

 

その切っ先を、黄金の王に向ける。

 

「ほぅ、足掻くか雑種。貴様の札は全て使い切られたというのに」

「...まだ、俺の命が残ってる」

「雑種の命一つで何ができると?」

「お前と、戦える。サモン、ドミニオン!」

 

俺の背に召喚されるドミニオン。

意思は、伝えた。

 

正直人の身体で耐え切れるかどうかはまだ計算の余地はあるが、まぁどうせこの手の術は最後は気合だ。

 

やらなければならないのなら、やるだけだ。

 

「とっておきたいとっておきだ!人柱降魔(D・ライブ)、ドミニオン!」

「...ほう」

 

ドミニオンの構成要素を分解して、デオンに降魔するのと同じ要領で俺自身にインストールする。

 

魂が軋みを上げる音がする。

そんなものは、無視だ。

 

天使の白い翼を背中に構成し、足の不調を誤魔化す。

 

「悪魔の分不相応な力を握った程度で、我を殺せるとでも思っているのか?」

「思わねぇよ。でもこの姿だから出来ることがある!」

 

合図もなく放たれる剣の嵐。ドミニオンの翼で自由に飛翔する事でその嵐を最小限のダメージで潜り抜ける。

 

ドミニオンの霊基により強化された俺の頑強性なら、掠っただけで死に至る事はなくなった。

 

流れ弾がカラドリウスやデオンに当たらないように位置を調整しながら嵐を躱し続ける。

 

俺の力ではどう頑張ったとしてもあの黄金の王に勝つ事は出来ない。だからこそ、時間稼ぎだ。

 

あるかどうかわからない可能性に賭けて、ただひたすらに飛び回る。

 

「...成る程、これが狙いか」

 

放たれた二股の槍にカラドリウスは撃ち落とされ地面に縛り付けられた。身体の小ささが上手いこと作用し生き残ったようだ。何というか、幸運すぎて笑えるわ。

 

だが、撃ち落とされたことによりカラドリウスが持っていた宝玉は転がっていった。デオンの元には届かない。

 

「それで、次は何をするつもりだ?雑種」

「...万策尽きたな。俺の回避速度じゃあお前にこれ以上近づけない」

「とすると、何か手があるという事だな?」

「素直に信じてくれよ畜生。油断しろよ慢心しろよ強いんだから」

「戯けが。貴様なら何かしでかす、そう我の勘が告げているのだ」

「そりゃどーも!」

 

思考操作で取り出したMGL140を二発放つ。弾速と風向きを計算して、一発目が頭上に着弾すると同時に二発目が正面に着弾するように放つ曲射だ。

 

あの円盤で防がれるだろうが、それはそれで良い。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『サマナー、そろそろ限界です。これ以上は貴方の魂に関わる』

『ありがとうドミニオン。お陰でこっちの勝ち筋は残った。お前は、最後の仕事を頼む』

『ええ、ですがあの魔女も癒してしまうのは考えものですがね』

『...そりゃ、秩序(Law)のお前には所長はなぁ。すまんとしか言えないわ』

『心にもない事を言わなくて結構ですよサマナー。...着弾します』

 

グレネード弾の着弾と同時に魂でタイミングを合わせて、D・ライブを解除する。俺は下に落ち、ドミニオンは上に飛ぶ。

 

「目眩しか、その手にはもう乗らぬわ」

 

着弾で巻き上がった煙により一瞬視界が遮られたが、黄金の王の取り出した扇の一振りにより嵐と共に煙は晴れた。

 

だが、この風は人為的なもの。速度も方向もわかっている。

 

ならば、()()()

 

魔導障壁を足に貼り、風を掴む。

暴風に乗って空を舞うのは、そこの部分だけを切り取って考えるならばとても得難い経験だった。なんでこの選択肢を選んだのか疑問に思うレベルのマジでくたばる5秒前な道だったが、完全に成功した事でノーダメージでかつ逆に黄金の王に近づくことができたという大金星を得ることができた。

 

そして何より、俺を見た黄金の王は天に昇ったドミニオンの意図に気付かなかったのだから。

 

「この身を捧げます...生命転換回復魔法(リカームドラ)

 

自爆じみた密度の回復魔法により、ドミニオンの命に見合った分の回復量の蘇生回復魔法が解放される。それはCOMPの中に死亡状態で帰還していた他の仲魔たちと、空中から確認できた所長の傷を癒してみせた。

 

他の人たちも治療したいが、距離が遠い上にどこまで飛ばされたか分からない。ラインで位置を確認できた所長以外の確認はできなかったのだ。どこか建物の中に入ってしまったのだろうか。心配だが、今は良い。

 

「だが、動けるまでには多少の時間が...ッ⁉︎」

 

黄金の王の驚きも当然だ。

黄金の王の視界には、真っ先に警戒していた筈のデオンの姿がもうそこにあったのだから。

 

それもそのはず。デオンの回復に関しては、俺が契約のラインを通じてドミニオンの高位回復魔法(ディアラマ)をかけ続けていた結果なのだから。でなければ人柱降魔(D・ライブ)などやる訳がない。身体の制御をドミニオンに完全に任せて、デオンの回復に集中する為の手が必要だったからリスクを背負ってでも行ったのだ。

 

最後のリカームドラは、まぁ成功してもしなくても変わらない見せ札だ。なんの因果か通ってしまったが。

 

そんなわけで、黄金の王の認識の外側にいた筈のデオンは、殺せる距離まで近づく事に成功したのだ。

 

「おのれ雑種が!」

「ようやく私に気付いたね。だが、もう私以外を見せはしない。百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)

 

デオンの美しき剣戟が円盤の防御を力と技ですり抜け、その剣の冴えをもって黄金の王の首まで届きかけた。

 

その剣に見惚れた黄金の王だったが、円盤の防御が間に合ったのか目の上を切り裂く程度で済んでいた。

 

あれは、自動防御だったのだろうか。まぁなんにせよ破壊には成功した。もう無視して良いだろう。

 

「そこまで剣を磨くか...なんとも見事なものだ」

「お褒めに預かり光栄至極。なんてね!」

 

続く剣舞。黄金の王は砲門を開いて幾重にも射撃を重ねるが、デオンは絶対の安全圏に陣取り続けることによりその射撃を躱し続けた。

 

それは、剣を振るう事すら難しいショートレンジ。そこに攻撃を加えるにはデオンの側面に門を開いて放つ必要があるだろうが、それはデオンも承知している。だからこそ遠隔視点(俺の視点)から門の出現を把握して動き続けているのだ。

 

「鬱陶しい!」

「...心が乱れた、隙だよそこは」

 

無理目の薙ぎ払いを宙に飛び躱し、天井のように展開した反発(ジャンプ)の術式を足場にして突きを放つ。

 

その剣は右肩を深く貫いた。

 

「チィッ!」

「このまま、持っていく!」

 

着地する前に剣を捻り更なる深手を負わせるデオン。黄金の王が回復系の術を使えるとは思えないが、もしアイテムの類を持ち合わせていたとしてもあの深手を完治させるには数瞬かかる。それだけあればデオンなら首を取れるだろう。

 

「...やってくれるな」

「君は、王だ。名乗らずともその風格で伝わる。だが、だからこそ戦いに狂った者という訳ではない。今なら言えるよ」

 

「君の動きは良く見えるよ」

「ほざいたな!」

 

無事な左腕で斧を取り出して、射撃とのコンビネーションを始めようとする黄金の王。しかし、その動きの精彩は欠いている。だからこそ、デオンの次の動きを通してしまったのだろう。

 

デオンは、右肩に刺さったサーベルをそのままに斧を持つ腕を掴み、力ずくで頭から地面に投げ落とした。変則的な背負い投げだろう。あのパワーに掴まれたら同等のパワーを持ち、かつ技術に優れている者でなければどうこうできはしない。

 

アスファルトに叩きつけられる黄金の王。脳天からの一撃を喰らえばタダではすむまい!

 

『サマナー、思考が漏れている。遊ばないでくれないか?』

『遊んではいねぇよ。それで、手応えは?』

『叩きつける前に()()感覚があった。まだ何かあるよ』

『そうか。距離は離さずに警戒しろ。致命打には届かなかったんだろうさ。...今度のトリックはなんなのかねぇ』

『さてね、まぁ戦っていれば分かる...ッ⁉︎』

 

黄金の砲門が開かれる。デオンを中心に囲むように。

外側からでは見えないが、まるでアイアンメイデンだ。

 

デオンを始点にして内部に反発(ジャンプ)の足場をつくりあげる。

 

『足場作った、跳べ!』

『それしかないかッ!』

 

デオンは剣の嵐の中をスピードを落とさない多段跳躍によって駆け上り、あえて開けられていただろう天に抜ける。

 

そして予想されていたであろう斉射をペガサスがデオンを咥えて飛び去る事で回避してみせた。

 

「我に土をつけるか雑種ども...」

 

土煙の内側から現れた黄金の王は、体を完全に回復させていた。あの隙に宝玉かなにかを使ったようだ。

 

そして、右肩に刺さっていたデオンのサーベルは折り砕かれた。だがあれは数打ちの剣。多少の時間があれば物質化(マテリアライズ)で作り出せる。ペガサスの上に乗り距離を取ったデオンにとっては戦力の低下にはなっていない。

 

戦闘の再開だ。まずは自分の身を守る術も嵐を躱す術もないという今の現状を逃れるために跳ぶとしよう。

 

デオンから再び投げられる鎖。掴んでペガサスの上にいるデオンに引き上げてもらう。

 

瞬間の後に俺のいた場所が数多の剣群に吹き飛ばされていた。

 

冷静さを取り戻されたか。

とすれば、本当に打つ手がない。

 

「雑種、我の流儀には反するがサマナーとの約定がある。搦め手を使わせてもらおう。誇れ、それだけ貴様らは強かったという事だ」

 

黄金の王は、一つの帽子を取り出した。

それを被った瞬間に、そこにいたはずの黄金の王は()()()()()()()

 

「姿隠し⁉︎」

「サマナー、来るよ!全方位からの攻撃だ!視点すら絞らせるつもりはないのだろうね!」

「...ペガサス、走れ!」

 

「ここは、逃げるしかない!」

 

カラドリウスを送還(リターン)し、再召喚。反応性向上(スクカジャ)をかけてから魔石の入ったポーチを首からぶら下げさせて飛ばす。また撃ち落とされるかもしれないが、今重傷を負っているかもしれない皆の命を繋ぐにはこれしかない。

吹き飛ばされてから大した時間は経過していないため、命をつなぐくらいなら魔石で充分だろう。

 

問題は、ペガサスの速度に黄金の王はついてこれるかどうかだが、それは考える必要もないだろう。奴なら来る。自力での飛行手段がなければ今頃は骸を晒しているはずなのだから。

 

「サマナー、しっかり捕まって!」

「それだけじゃ足りない!ペガサス、足場!」

 

目の前の道を塞ぐように現れる黄金のヴェール。もはや見飽きた黄金の砲門だ。

 

そこからの斉射を回避するために、ペガサスはスピードを落とさずに反発(ジャンプ)を足場にして方向を転換する。

 

乗り手の俺たちの事を考えない高速機動。もはやこの戦闘速度になってはペガサスの手綱を取ることは不可能だ。ペガサスを真に乗りこなせない俺たちが不甲斐ないばかりだ。

 

「下から来るよ!」

「ペガサス、加速(アクセル)!」

 

瞬間的な加速術式により速度を上げて下からの剣の嵐を回避する。

ギリギリだが、回避はできている。だが、追い込まれている。

 

こちらが一手でもしくじれば死ぬ絶望の嵐の中なのに、最善策を選び続けた先が定められている気がしてならないのだ。

 

「サマナー、どうする⁉︎」

「乗るしかない!誘いでも、そこ以外に生き残れる道はないんだから!」

 

嵐を避けるようにペガサスを走らせる。

その間、黄金の砲門が俺たちを狙わなかった時はなかった。

 


 

全力で逃げ続けて、やってきたのは円蔵山のふもと。この辺りはギリギリ避難地区だが、人の気配がする。

 

そこには、動きやすく改造されたローブを羽織った人達と、それに対抗する各々自由な服装をしている若者たちがいた。

 

ガイアーズとメシアンの抗争?なんでこんな日に?こんな場所で...

いや、今はどうでもいい。叫ぶ方が先だ!

 

「逃げろぉおおおおお!」

 

だが、その声に反応できたのは一握り。ペガサスを追うように展開された黄金の砲門から放たれた嵐は、メシアンもガイアーズも関係なくその場にいる弱き者を薙ぎ払った。

 

「何奴⁉︎」

「若いのから死んでいったか。やるせねぇなぁ!」

 

空間に向かって放たれる銃撃や魔法の数々。

何故そこにという疑問は、舌打ちの音が聞こえたことで氷解した。見えていなかったが、いたのだ。空中のあの場所に。

 

「あの瞬間で感知して反撃したッ⁉︎なんて練度だよこの人ら!」

「だが、これはチャンスだ!私たちが餌になっていれば、この人たちが反撃をしてくれる!」

 

「そうはいかせないわ。だってここの人たちは私に殺されるんだもの!」

 

天より降り注ぐトランプナイフの雨。それを回避した熟練達は黄金の王の放った武具に貫かれて死んでいった。

 

残りは、2人。ガイアーズとメシアンの最強が残ったのだろう。有象無象とは覇気が違う。

 

「ケッ、また新手かよ」

「ですが、異教徒が死に絶えたのは良き事です。あと下手人に貴様に天馬のサマナー、そちらの少女を殺せば良い。容易い事ですね」

「いや、結構いるだろ。何自分は余裕ですーみたいな顔したんだクソ神父。俺よりちょい弱いお前なら嬢ちゃんと見えない奴のコンビネーションを抜けねぇだろ」

「そうでもありませんよ。有象無象が消えた事で枷をつけておく必要がなくなった」

「...へぇ、今までが全力じゃなかったってかい。俺もさ!」

 

爆ぜるように広がる二人のマグネタイト。メシアンは光の、ガイアーズは闇の属性を濃く発している。

 

だが、その属性による攻撃ではない。このクラスの使い手が扱う魔法など一つしかない!

 

「ペガサス、跳べ!」

「「高位万能属性魔法(メギドラ)!」」

 

メシアンとガイアーズが互いを殺すために万能属性魔法を解き放つ。

その余波は、これまで戦ってきた死体を消し飛ばし、宙にいる俺たちと黄金の王、そして内田に少なくないダメージを与えた。

 

「...ありがとう、ペガサス」

「ヒ、ヒン」

 

そのダメージがこれまで黄金の王の嵐をギリギリで避け続けてくれたペガサスの負っていた傷を広げ、その命を奪ったのだ。

 

二つのメギドラの火力は互角だった。とすれば、どちらかに与すれば戦況は変わる。メシアンは明確に俺たちを殺すと宣言している。とすればガイアーズの男を抱き込むのが正着か?

 

...いや、この時期に円蔵山に来ている事から、このガイアーズも知っていると見て間違いない。超過勤務であるが、世界を守る為なら殺すべきだ。

 

ふと、視線を感じたのでそちらを見る。

どうやら、黄金の王の姿を隠していた帽子が今の爆風で吹き飛んだようだ。姿がはっきりと見える。

 

が、この混沌の状況で背中を無警戒に攻め込むのが正着かといえばそうではないだろう。

 

俺とデオン、内田と黄金の王、メシアン、ガイアーズの四つ巴状態。そのうちでぶっちぎりの最弱は自分たちなのだから。

 

「サモン、クー・フーリン、メドゥーサ、バルドル!」

「...へぇ、なかなかのサマナーだねお前さん」

「そっちのガイアーズ!他二人を殺すまで休戦しないか!」

「阿呆か、突然現れたわけわからん奴に背中を預けられるかっての。てかその言い方だと手数の多いお前が有利な状況で裏切るだろうが」

 

痛い所を突いてくる。サマナーが契約に嘘をつけない事を理解されているのだろう。

 

「おや、頭が湧いているのですか?あなた方の下賎な力でも数を揃えれば私に届くかもしれないのに」

「うわ、こいつまだ自分が最強のつもりでいるよ。馬鹿じゃねぇの?」

「これだから教養のない者は!」

 

再び放たれる二つのメギドラ。今度はバルドルを盾にしたお陰で余波は受けずに済んだ。あるいは、互いに殺すために収束を強めた結果かもしれない。

 

とすれば、あの二人は無視できる。互いが互いに集中しているのなら余波以外が飛んでくることはないだろうから。

 

そしてそう考えたのは内田も同じであったようで、傍に黄金の王を侍らせてこちらを向いている。

 

「サモン、呂布奉先、フィン」

「■■■■■■■■■■■―――!」

「おや、私の出番かサマナー。とは言ってもかの王一人で十分だろうけどね」

「やるよ皆。花咲千尋は侮れない。まずはあいつを倒すことに集中して!」

 

だが、黄金の王はそんな内田の考えを吹き飛ばす暴挙をしでかした。

 

「この我がいる戦場(いくさば)でどこを見ているのだ、雑種ども!」

「「え?」」

 

武具の嵐が放たれる。その標的は最後まで残ったメシアンとガイアーズ。

 

メギドラを打ち合っていたその中に剣群は侵入していき、それぞれに多少の手傷を与えた。回避できたのは、もはや本能の域に達した危機回避能力からだろう。

 

「おいクソ神父。先にあの金ピカやらねぇか?タイマンの邪魔だ」

「...いいでしょう邪教徒。乗ってあげます」

「へーへーありがとさん!」

 

放たれる光と闇の魔法。あれは極大呪詛魔法(エイガオン)極大光波魔法(コウガオン)だろう。

 

だが、黄金の王は鏡の盾を取り出しその二発を打ち返した。流石にそんな単調な技が通る事はないとわかっていたのかメシアンとガイアーズはそれぞれに散って接近してくる。先ほどメドゥーサの極大電撃魔法(ジオダイン)と沙悟浄の極大水撃魔法(アクアダイン)を跳ね返した鏡の盾だろう。

 

恐らくは、なんらかの技術で魔返鏡の効果を永続化させたもの。

 

それと、これまでに見せた魔剣魔槍の類から、なんとなく傾向が見えてきた。

 

あれは、可能性だ。

 

未来において実現可能な技術の宝物を取り出しているのだ。それが奴の生まれた時代の古さから逆算しているから奴のストレージにはあらゆるものがあるのだろう。

 

思い返せば、ヴィマーナしかりグラムしかり、アーカイブでの適合率は90%程度だった。それは、宝物を構成する技術は同じでもそれが最新モデルであるからだろう。

 

...うん、だいたい方向性はあっているだろう。どこかピースを掛け違えている感はあるが、さして重要なものではない。

 

わかったところでどうしたものでもないのだから。

 

「天の鎖よ!」

 

ヴェールから放たれる数多の鎖。ガイアーズもメシアンもそれを危なげなく回避するあたりが実力を如実に表している。

 

「仕方ないわね...呂布奉先!フィン!今のうちに抜けるわ!ここで戦力を消耗してる場合じゃないもの!」

「行くがいいサマナー。貴様の足掻きは面白い。故に、露払いくらいはしておいてやる」

「ギルガメッシュ!...あなたの事は最後までわからなかったけど、本当に感謝してる。だから、自由にやりなさい!あなたの世界で!」

「...誰にものを言っているのだか」

 

黄金の王は初めて、今までの嗜虐的な笑みでなくどこか父性を感じさせる笑みを浮かべた。あの笑みを見てようやく奴が良き王だったのだと、心で感じた。感じてしまった。

 

「今から殺す敵の事、好きになってどうするんだか!」

「気持ちはわかるね。暴君かと思っていたが、あれなら王としての治世は良きものだったのだろうよ。少なくともその国に生きた人々にとってはね」

 

現状を把握する。あの二人の強者では黄金の王、ギルガメッシュには敵わないだろう。メギドラはあれど、それだけではあの鏡の盾は抜けない。地上からでは飛行能力を持つあの王を捉えきれないからだ。

 

それに、見たところあの二人はともに術師タイプの異能者だ。近接が全くできないということではないだろうが、それでもデオンとクー・フーリンを一瞬だが同時に相手取れる奴の格闘能力を抜けはしない。

 

だから、あの二人と協力してギルガメッシュを倒す。というのが正着()()()()

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

故に、必要なのは状況のコントロールか?あの二人がギリギリでギルガメッシュを倒す結末、あるいはその逆に至らせるために何をすれば良いか。

 

...待て、それだけか?

 

この円蔵山にこちらの、ヤタガラスの戦力は、もう一人いるッ!

 

「デオン、腹積もりは決まった。内田を追いかけるぞ」

「あの黄金の王ならばあの強者二人を殺せるよ。そうなれば挟み撃ちだ。私達に勝ち目はない」

「だから、その前に挟み撃ちで内田を落とす。俺達と、あの人で」

「つまりは、ペガサスの死んだ今であるにも関わらず、魔剣と光と闇の嵐舞う戦場を抜けて、後ろから撃たれる可能性を無視しながらあの山を登るというわけかい」

「そうなるな。だが、それが俺たちの唯一の勝ち筋だ」

「分の悪い賭けだね」

「嫌いか?」

「戦友となら、そうでもないよ!」

 

嵐の中を突っ切る為の算段は、一つだけある。

チャンスは一度きり。その間に発揮されるMAG量から考えて狙い撃ちにされるだろうが、なんとかならないならその時は死ぬだけだ。

 

MAG過剰供給(オーバーロード)霊基再臨(ハイレベルアップ)術式、代用起動!」

 

「おいおいおい!このガキ何しでかすつもりだよ!最高だな今日は!」

「悪魔の高純度化のようですね?成功すればこの状況を変えられる一手となるかも知れませんが、いかんせん若い」

 

「「高位万能属性魔法(メギドラ)」」

 

二人の強者から放たれる光の津波。全てを無に帰す破壊の力だ。

だが、そちらの心配はしていない。仲魔がやれると言ったのだから。

 

「知ってたさ、わかってる奴ならこの馬鹿なサマナーの賭けを邪魔しに来るってな!だから、仲魔(俺たち)が命懸けんだよ!起きろ、クルージーン!」

「ほう、光の剣か。だが通さぬよ。その雑種は、ここで屍を晒すが定めだ...何?」

 

砲門を開こうとするギルガメッシュの身体は、末端から石と化していた。

 

「侮りましたね、英雄の王。私の石化の魔眼(ペトラアイ)はあなたの事を捉えていた」

「...蛇が」

 

こちらに向けて放たれる数多の武具。だが石化により体のコントロールを乱されたためか、その狙いは甘かった。

デオンが俺に向かう剣を全て払える程度には。

 

だが、石化の魔眼に全力を集中していたメドゥーサはその守りの傘の下にいることが出来ず、剣群に身体を貫かれて死んでいった。

 

『勝ってください、サマナー』

 

そんな言葉を残して。

 

「全くいい女だねぇ!」

「本当にな!」

「じゃあ、任せるぜバルドル!俺よか先輩なんだから、しっかりサマナーを守りな!」

「言われるまでもねぇよ!」

 

その言葉に笑みを返して、クー・フーリンは命を燃やした。

 

光り輝く(クルージーン)...破軍の剣(カサド・ヒャン)!」

 

本来、クー・フーリンの今の霊基では扱いきれないクルージーンの全開稼働。城をも容易く切り裂く光の剣は、その剣形を自在に変えて最高最速の一振りをもってメギドラの波を切り裂いた。

 

光の向こうに、驚愕しているメシアンと強敵に笑っているガイアーズが見えた。

 

そして、術式は完了した。

足りないピースをマグネタイトの過剰供給により誤魔化した、インスタントの霊基再臨(ハイ・レベルアップ)

 

それは、光の神に相応しい輝く天輪とジェット機を思わせる加速パーツを彼に与えた。

 

俺の仲魔の中で最強の防御力を誇る、切り札(バルドル)へと。

 

「出番だ、飛べ!光の神!」

「おうよ、捕まれやサマナー、デオン!」

 

右手に俺を、左手にデオンを掴み、背中のジェットから光を解き放つ。

 

これが、俺の策。最速のバルドルをもってこの戦場を一直線に飛翔すること!

 

「あばよ!強い奴は強い奴同士で勝手に殺し合ってろ!」

「サマナー、捨て台詞が三下臭いぞ」

「お前ら、人が必死に飛んでる時に余裕だなぁオイ!」

 

まさかの逃走に唖然とする三対の視線をガン無視し、一直線に飛び抜ける。

 

この遡月の街にある平成結界の最大の基点のある位置、大空洞へと。

 


 

「貫け、水よ!無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)

「コウガサブロウ」

「あいわかった。極大衝撃魔法(ザンダイン)!」

 

円蔵山大空洞の入り口、そこにはアリス達と付和さんとその仲魔がいた。

今見えているのは必殺の霊的国防兵器であるコウガサブロウに、幻魔の方のクー・フーリンの2体。あまり多勢を率いて戦うタイプのサマナーではないのかも知れないが、その扱う仲魔は超一級だ。

 

戦闘開始してからどれだけ経ったかは定かではないが、あの頑強性を誇る呂布奉先がもはや死にかけているというのが恐ろしい。

 

だが、アリスにはムールムールによるものと自分自身によるものの二重の死霊召喚魔法(ネクロマ)がある。その上隠している仲魔とアウタースピリッツもあるのだろうから、戦況は5分だろう。

 

つまり、横槍を入れるのに最適なタイミングなのである。

 

「バルドル!ぶっ放せ!」

「違ぇよサマナー。今の俺は!ベル・デルだ!高位万能属性魔法(メギドラ)ァ!」

 

なんか名前の変わったベル・デルの解き放ったメギドラが、呂布とフィンを包み込む。

 

横槍は成功だ。だが、バルドルの移動音で気取られたのか、内田は地面を転がり回避をしてみせた。まぁ、そこまでの大金星は予想していなかったのでいいのだが。

 

そして、バルドルに投げられる形で前線に現れる俺とデオン。封印を守っていた付和さんも流石にこの乱入は面食らっていたようだ。

 

「花咲千尋ッ⁉︎」

「...まさか、ここまで来るとはな」

「麓で戦闘していた連中が上がってきたぞ。此奴を追ってきたのではないか?」

「どちらにせよ、一人も軍勢も同じだ。ここに来るなら斬って捨てる」

「一応味方ですからね!俺たちは!」

「どうだか」

「信用されてないね、サマナー!」

「悲しすぎるわ畜生!」

「自業自得だ、悪魔みたいな手口ばっか使ってるからそうなるんだよ」

「改名のベル・デルくん意外と辛辣な」

「改名のって要るか?クソサマナー」

「だってなんか自信満々で笑えたし」

「...ちょっと調子に乗ったのは認めるよ、畜生」

 

ぐだぐだな会話をしながらも、ベル・デルは両手に万能属性を溜める。霊基再臨(ハイ・レベルアップ)により習得した万能属性攻撃だろう。

 

メギドラの光が晴れた先には、膝から崩れ落ちる呂布奉先と、余裕綽々のフィン・マックール。がいた。位置取りからするに、フィンは呂布奉先を盾にしたようだ。

 

「畳み掛けるぞ、ベル・デル!デオン!」

「行くぜ!光翼起動、万魔の!」

 

背中のブースターから光を放ち超高速で接近するベル・デル。狙いはフィン・マックール。親指を噛んでいるその隙に差し込めるスピードが今のベル・デルにはあるからだ。

 

「...なるほど、読めたよ大神オーディンの子。どうやら、姿は変わっても弱点は変わっていないようだ」

「乱舞ゥ!」

 

放たれる五発の万能属性攻撃。ベル・デルのスピードを使った超高速爆撃であったが、フィン・マックールは余裕を持って回避してみせた。が、その程度は想定の範囲内。本命は

 

バルドル自身のスピードで突っ込む、体当たりなのだから。

 

「わかっていても、躱せないか!」

「さっきの乱舞は体勢を崩すための囮っつーわけだ。サマナーの入れ知恵だがな」

「しからば、正面から迎え撃つのみ!無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!」

「効かねぇし、止まらねぇよ!」

 

一度体当たりで吹き飛んだフィンに再び光のブースターで加速したベル・デルが襲いかかる。フィンは宙に浮いているため、先程のような回避は不可能だ。

 

だからこその正面衝突であり、出力勝負。

しかし、この決戦の時のために集めた全てのMAGを注ぎ込んだベル・デルは、斬魔の水流を押し返し、フィンの腹に右拳を叩き込んだ。

 

木々を薙ぎ倒しながら吹き飛ぶフィン。サーバには悪いが、あれはまぁ死んだだろう。

 

そして、死んだ奴の距離が離れたのがとても良い。内田のガーディアンのアリスと、堕天使ムールムールの使う死霊召喚魔法(ネクロマ)の射程距離から離れたからだ。

 

「どうよ、ウチの切り札は」

「厄介ね、でもまだ終わりじゃない!サモン、エイリーク!ダレイオス!」

 

「残念ながら終わりだ。退魔刀、抜剣」

 

そこには、付和さんが切り込んでいた。仲魔より先に。そうだと悟らせぬ神速の踏み込みで。

 

そして、エイリークとダレイオス、二体のアウタースピリッツの首を斬り裂いた。何という早業だろうか。

 

「残念、戦闘続行よ!」

 

死にかけた二人のアウタースピリッツは、この世に踏み止まる。

何かの身体操作技術だろうか?何にせよ不味い。

 

「血を、血を!血を寄越せぇ!」

「去ネェェイィィ……」

「面妖な」

「宝具展開、ダレイオス!不死の一万騎兵(アタナトイ・テン・サウザンド)!」

「ンンムオォォォー!!」

 

ダレイオスから輝きが放たれ、現れるは相当数の軍勢。木陰で見えないが、もしかしたら千を超えるかもしれない。先頭には仰々しい像が居る。その上にはダレイオスとエイリークと内田がいる。軍勢による破壊から逃れるためだろう。

 

「コウガサブロウ、クー・フーリン」

「「了解です、主人殿」」

 

衝撃魔法の付与(エンチャント)が、付和さんの退魔刀に宿る。あれは、極大(ダイン)級のMAGを2倍、いやそれ以上の変換効率で破壊エネルギーにしたものだろう。

 

「風魔神斬」

 

付和さんはダレイオスの像戦車ごと、軍勢を風の剣で薙ぎ払ってみせた。

 

「なんつーバ火力...いや、付和さん!まだ終わってない!」

 

風の剣を抜けて現れる血の巡っている斧を持つ巨漢、あの火力を軍勢の勢いだけで相殺したのかッ⁉︎

 

血塗れの戴冠式(ブラッドバス・クラウン)、GO!」

「ヌゥワワワワワワ!! ブルゥララララララ……」

 

エイリークの回転しながらの突撃。嵐には嵐と言わんばかりに斧だけで血の嵐を生み出していった。

 

あの大技を放ったばかりの付和さんでは回避は不可能。合体技を放つためにMAGのコントロールをしていた仲魔たちも同様だ。

 

つまり、このままでは付和さんは死ぬ。

 

最後の一発だが仕方ない。ここでカードを切るべきだ。

 

「ベル・デル!」

「チッ、乗ってやるよサマナー!」

 

血の舞い上がる嵐を、閃光が貫く。

ブースターで加速したバルドルによる横殴りだ。どんな威力の嵐だとしても、今のベル・デルを止める壁にはなり得ない。

 

エイリークの身体を高速の拳で撃ち抜いたその結果、エイリークはフィン・マックール同様木々をなぎ倒して吹き飛んでいった。

 

これで、付和さんを止めるアウタースピリッツは居ない。

 

「感謝する、花咲千尋」

 

その一声ののちに、一振りだけでは嵐の力を使い切らなかった風魔神斬が内田に向けて放たれる。

 

魔導防壁を張りはしたが、それも付和さんの退魔の一太刀には紙切れ同然だ。内田は、その身体を真っ二つに切り裂かれた。

 

「...ッ⁉︎」

 

そして、その身体は黒い泥と化し再構築され、付和さんをトランプを象ったナイフで貫いた。

 

相打ち、だろうか。

 

「...霊核を斬り裂いても尚生きるか。尋常ではないと思っていたがこれほどとはな」

「あなたこそ、この身体になってから死ぬのは久しぶりだったわ。でも、私の勝ちよ。私は、守護霊(ガーディアン)がいる限り死にはしない化け物なんだから」

「だが、まだ死なぬ。果たすべき、使命がある。短距離転移(トラフーリ)

 

付和さんは転移魔法により円蔵山大空洞の入り口に陣取った。呪殺の力にどうやって抗っているのか分からないが、そう長くない。

そして、追撃の手は収まることはないだろう。内田はまだ、生きているのだから。

 

だから、動いた。

 

示し合わせたわけではないのに、付和さんを守る位置に俺とデオンは立つ。俺は付和さんに反魂香を渡して付和さんの回復を促す。香の効果が効くには時間がかかるだろうが、魂が肉体に定着しているのならまだ生きる機会はあるかもしれない。

 

ここで、俺たちが内田を止めることが出来れば。

 

「...花咲千尋、何のためにお前は戦う?」

「人類の未来のために...ってのは建前ですね。俺は、普通にしてるだけのつもりです」

「普通?」

「知り合いが死にかけてたら助ける。そんな理由ですよ」

「すまないね、フワ。サマナーは、戦う者としては酷く奇妙な感性をしているが、決して悪人ではない。それだけを信じて今は身を休めてくれ。彼女は私たちが何とかする」

 

「範囲内に死体は二つだけ。ムールムールは温存しても良さそうね。死霊召喚魔法(ネクロマ)

「その手は読めてる!バルドル!」

 

バルドルに指示を出しつつ、MGL140を取り出し弾丸を取り替え発射する。対応してくるであろう次の一手を貫くための一発を。

 

高位破魔魔法(ハマオン)!」

「甘い!即死防御障壁(テトラジャ)ストーン!」

「読めてんだよ!起爆しろ、テトラブレイカー!」

 

グレネードに仕込まれたテトラブレイカーが爆発する。障壁フィールドを無力化する術式を仕込まれたそれは、テトラジャの障壁を破壊し、通るはずのない単調な破魔魔法を蘇ったダレイオスと呂布奉先に直撃させた。

 

それにより二人の魂は完全に消滅し、光になって消えていった。

 

「お前の死霊魔術は使わせねぇよ。俺達でお前を倒させてもらう」

「無理言ってるの、わかってる?」

「わかってるから若干ヤケになってんだよ!来いよアリス!仲魔なんか捨ててかかって来い!」

「サマナー、気が抜けるような事は言わないでくれ」

 

こちらの手札は、もう使い切った。ベル・デルの霊基再臨(ハイ・レベルアップ)は終了し、ブースターと光輪のない普通のバルドルに戻っている。

 

加えて言うなら残存MAGも心もとないため、大技の類は使えやしない。

 

平成の終わるその日の俺の最後の戦闘は、絶望的に手札の少ない今の状況から始まった。




戦闘シーンってどうしてこう長くなってしまうんでしょうねー、ギルガメッシュとの戦闘どれだけ長引かせるつもりなのやら。いや、人気キャラの扱いは慎重にしているだけなんですけどねー。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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