白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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GW中に一章完結の目標達成!
いや、4月中に終わらせるつもりだったんですけどねー。おのれ遅筆。




平成331年4月30日 その4

「サモン、ムールムール!」

 

内田は、定石の手を打ってくる。そりゃ、こちらが3人(内一人足手まといのサマナー)なら、数の差を誤魔化すために仲魔を呼ぶだろう。

 

だが、ムールムールは両腕が切り落とされ、身体はホチキスのようなものでの仮接合をされているかのようなボロボロの状態だった。

あれが、志貴くんの直死の魔眼の効力だろう。死を押し付けるが故にその傷は癒される事はない。

光明が見えてきた。

 

「バルドル、空を飛ぶムールムールは無視して良さそうだ。内田を狙うぞ」

「だな、あのナリじゃ攻撃魔法も使えねぇだろ。傷口からMAGが流れ出てる」

「油断は禁物だよ、二人とも。向こうにとっても貴重なMAGを使っての召喚だ。何かあるのだろうさ」

「じゃ、小手調べくらいはしてみるか」

 

MGL140を取り出し、力場反応信管の榴弾を仕込んで三発撃つ。

 

力場反応は、以前より縮小しているのがわかる。おそらく耐性も弱体化しているだろう。

 

「BOMB!」

「サマナー、一発外れているから格好はつかないよ」

「だな」

「...うっせ」

 

爆発の煙が晴れると、そこには傷だらけになったムールムールがいた。MAG流出量から考えるに、もうすぐ死ぬだろう。ついでに下のグリフォンは何故か今の爆発で死んでいた。それほどのダメージはないだろうに、何故...ッ⁉︎

 

「ククク、我が死霊魔術を舐めないで下さい花咲千尋。これだけ私の傷ができたのなら!」

 

「自身を死霊化し操作することも可能なのですよ!」

 

ムールムールは地面にグリフォンとともに落下し、混ざり合い、異形と化した。

 

「まさか、悪魔合体⁉︎」

 

そうして、異形はだんだんと形を取っていった。

 

「ありがとう、師匠...ムールムールとグリフォンをリミックス!サモン、GO!」

 

「夜魔、ニュクス!」

 

そうして異形がマグネタイトの輝きに包まれた後には、黒衣に身を纏った女性型の悪魔が現われ出でた。

 

「...ええ、あなたの為にこの命を使いましょう。サマナー」

「行くわよニュクス!こいつらを倒せば、私たちの願った世界に手が届く!」

「させねぇよ!バルドル、デオン!」

 

「「行くぞ!」」

 

手始めに放たれたニュクスの高位広域電撃魔法(マハ・ジオンガ)。それをバルドルを盾にする事で防御しつつ接近する。残り三発の力場信管グレネードを時間差で着弾するように放つ。

 

見たところニュクスは術師タイプ。なら、接近さえしてしまえばやりようはある。

 

「させるわけないじゃない!」

 

だが、こちらの接近を防ぐ手は当然撃たれている。呪殺物理混合属性のあのトランプナイフだ。

 

空中にナイフを浮かべそれを射出するスタイルは、先ほどまで戦っていた黄金の王ギルガメッシュを思い浮かべさせる。

 

おそらくは、彼の戦闘スタイルを真似したのだろう。強いイメージは、その個人に独自の技や術を発現させるからだ。

 

だが、先ほどまで戦っていたからか狙いが甘く速度も遅いことが見て取れた。これならば、行ける。

 

あの嵐に比べれば、このナイフ群はただの雨だ。

 

「躱しながら、進んできたッ⁉︎」

「比較対象が悪かったね。あの嵐に目が慣れた私たちにはこの程度の技は通じないよ」

 

ストレージにMGL140をしまい、P-90を取り出す。まず狙うべきはニュクスだ。内田の不死身のネタは付和さんが殺した事実と知識を照らし合わせると大体わかったが、それを崩すには手数が必要だからだ。

 

邪魔な手駒は、ここで仕留める。

だが、前に踏み込んだ瞬間に俺の身体の動きが止まった。この感覚は、麻痺状態ッ!

 

「残念、そこにはトラップを仕込んでおいたの。サマナーって頭が回るのね」

「そして、今のあなたは私の術を躱せない。じゃあね花咲千尋」

 

「死んでくれる?」

 

「お断りだ!」

 

ケプラーベストの内側に縫ってある非常用ポケットに入れていたディスパライズを起動させる。これにより麻痺を治療して、短い間の耐性を手に入れる。

 

そして、再びのトランプナイフの雨だが、今回の躱し方は簡単だ。

 

全速力で後ろに下がればいい。

 

別に、今サマナーである俺が内田に接近する必要はないのだ。

内田としても俺に前に来られると困るからそちらにナイフの雨は厚く敷き詰められていた。故に、下がれば安全圏に抜けられる。

 

「ほんと思い通りに動かないわねあのサマナー!」

「それが、花咲千尋という人間だよ。君も少しはわかっているだろう?」

「...まぁね!」

 

内田はニュクスを左に大きく展開させる。こちらの攻撃手段が近接のみである事を理解したのか、術による十字砲火(クロスファイア)を仕掛けるつもりのようである。

 

だがそれは、死霊召喚魔法(ネクロマ)の射程距離からも逃れるということ。今が、ニュクスを討ち取るチャンスだ。

 

「バルドル、盾!デオン、GO!」

「サマナーはどうすんだ⁉︎」

「内田を、抑え込む!」

「言ってくれるわね花咲千尋!なら、その増長を抱いて死になさい!」

 

デオンとバルドルがニュクスの方に向いた瞬間に、空間が歪んだ。その中にデオンとバルドルは閉じ込められてしまったのだろう。しかも最悪なことに通信不可の異界。1対1を作らせず、2対3のアドバンテージを保ち続ける方針は無に帰した。

 

だが、まだ俺が残っている。

 

護衛が離れて好機と見る内田は、トランプナイフの雨を打ち出しながら、紅いオーラを纏う両手剣を取り出した。

 

ひしひしと伝わってくる。あれは、超級の概念装備だ。

 

「起きろ、ヒノカグツチ!」

「迎え撃て、俺の初任給ソード!」

「それ叫ぶ意味ないでしょうが!」

「うるせぇ、ノリだ!」

 

反発(ジャンプ)の反発係数を最大に設定し、加速(アクセル)の術式で最大のスピードでナイフの雨を抜け、内田のヒノカグツチにショートソードを叩きつける。向こうの方が振りは遅い。筋力値では向こうの方が強いだろうが、大剣相手なら速度が乗る前に勢いを削げば打ち合える。

 

今の打ち合いで感じた。対人剣を内田はあまり理解していない。剣の師となる者がいなかったのだろう。対悪魔相手なら、武術の理より筋力に任せた攻撃の方が有効だからそういうのがまかり通ってしまうのだ。

 

だから、付け入る隙はある。

 

「疾いッ⁉︎」

「その大剣、大層な業物なんだろうな!だけどこの距離なら!」

「魔術師の筋力で、改造人間(わたし)が止められる?」

「剣は、力だけで振るんじゃないんだよ!」

 

それは、シュバリエ・デオンという高い筋力を持ちながらそれに奢らず技巧を極めた剣術を使う姿をずっと見ていた事で、俺の中に得られた経験が生んだモノ。魂と肉体の接続が濃い為にイメージをダイレクトに動きに反映できるという覚醒者の基本的な性質を利用した、模倣剣理。

 

だが、やはり模倣は模倣。デオンの剣ならばヒノカグツチを弾き飛ばしてみせただろうが、俺では弾くのが限界。次の太刀を読みきれなければ俺の身体は真っ二つに切り裂かれるだろう。

 

視線を交わす。弾かれた事で多少動揺しているが、ヒノカグツチを使って俺を斬るというのが本筋なのは変わらなさそうだ。

だが、トランプナイフの雨で俺を呪い殺すという線も確かに存在する。俺の感知能力でも背後に自分ごと貫かせるラインでのナイフが作られているのがわかる。

 

だから、弾いた剣の勢いでショートソードを脇構えに。反発(ジャンプ)の術式で加速し、内田の脇を斬り抜ける。

 

手ごたえは、スライムのようなモノを斬った時と同じだった。内田の身体は死んですぐに生き返ったからかかなり無理をしているのだろう。

 

だが、仮に今ので殺せたとしても意味は無い。内田の無限蘇生の原理は、降霊召喚(ガーディアンサモン)の術式だからだ。

 

細かい術式はわからないが、死ぬと同時にアリスを降霊召喚し、アリスの持っている魔界からの持ち込みのMAGをもって肉体を再構築し、戦闘を続行しているのだろう。

 

...強い。ガーディアンに決して肉体の主導権を握らせない内田たまきの意思が。

 

だが、意思の強さ比べなんて意味のないモノに割くべき思考のリソースはない。戦闘を続行する。

 

内田の生み出したトランプナイフは、柄の部分のMAG構築を爆散させる事で勢いをつけて俺に襲いかかってくる。

 

斬り抜けた勢いのまま反発(ジャンプ)の術式で宙に駆け上がりそのナイフの雨を回避し、ストレージからP-90を取り出して内田の頭に神経弾を叩き込む。改造された身体の構成要素から考えると神経毒が通る可能性は低いが、他に当たって得になる弾がない。

 

「そんな豆鉄砲で!」

「まぁ、防いで来るよな!」

 

高密度の魔導障壁で弾丸を防がれる。そして、落ちる俺を待ち構えるように構えられるヒノカグツチ。

 

再び、視線が交わる。こちらの道は3つ。加速して落ちるか、減速して落ちるか、裏をかいてそのまま落ちるかだ。

 

だが、どれを選ぼうと改造人間とやらの反応性で切り裂かれる感じがする。勘だが、そう的外れではないだろう。

 

ならば、タイミングをずらすしかない。

 

重力魔法(グライ)ストーン、起動!」

 

空中からの落下速度を増す為に自分自身に重力魔法をかける。効果範囲を縦に長くした為、内田にも多少の影響はあるだろう。魔導障壁では魔界魔法は防げるものではないのだから。

 

「こんな程度?」

「それはどうかな!」

 

重力で加速した分も対応するのは目に見えている。だから、直前に弾性(クッション)の魔法陣を敷くことでタイミングをずらす。

 

ように見せかけて、俺が当たる直前に術式を解除してそのまま落ちる。弾性術式を見抜いていた内田は、見抜いてしまったが故に1テンポ遅れ、俺のショートソードにより肩口から腹までを切り裂かれた。

 

だが、俺もここまでだろう。ここから着地するまでの間に内田は再生を完了してしまう。そうするだけの根性が内田にはあるからだ。

 

「さようなら、花咲千尋」

 

肩口を切り裂かれたまま、ヒノカグツチを俺に向けて振る内田。その姿は異形のものそのものだが、その目の輝きは諦めない人間の気高いものだった。

 

だから、この結末になったとしても後悔はない。

 

いつか死ぬはずだった命が、死にきるだけだ。

 

その筈なのに、何かが心に引っかかって離れない。多分それは、最初はありふれたもので、今では夢物語のようなそんなものが。

 


 

「お前と一緒にフランスって国を見に行かないといけないからな」

 


 

悪魔召喚士(デビルサマナー)が、男が、吐いた言葉を嘘にして良いわけがない。だってそれは、破りたくない約束なのだから。

 

心に、一つの思いが燃え上がる。今まで感じたことのない、本当の意味での激情。

 

それを胸に、()()()()()()

 


 

「バルドル急ごう!サマナーでは長くは保たない!」

「わかってるよんな事!だが、実際問題どうする!」

 

「奴の夜の帳に飲まれた俺たちには、サマナーを援護する手段は無ぇ!最速でコイツを殺すこと以外はな!」

「クッ...やはりそれしかないか!」

 

夜の帳、満月を背に浮かぶニュクスは異界からのMAG供給を使って高位広域電撃魔法(マハ・ジオンガ)を放ち続けていた。

 

時間にして、もう1分以上。

 

外で戦闘が行われているのはなんとなく伝わってくる。覚醒者とはいえ、身体的な異能を持たないサマナーではいずれ手品の限界はやってくる。

 

「畜生、俺にベルの力がありゃあ!」

「無い物ねだりは意味を持たないよ!」

「...信じられませんね、そこまでサマナーに忠を尽くすだなんて。彼らにとって私たち悪魔はただの道具でしかないというのに」

「...普通、そうだよなぁ...」

 

雷の波を掻き分けて前に進むバルドルとデオン。雷光で目を潰されているためニュクスの位置はマグネタイト感知でしかわからない。だが、その位置は数多のデコイによって撹乱されていた。

 

「残りのMAG使ってこじ開ける。それで俺はMAG切れで送還されるだろうから、後は任せた」

「...一つだけ聞きたい」

「何だ?時間ねぇってのに」

「君はどうしてサマナーに尽くす?道具のように使われているのは確かだろう?」

「...大した理由じゃねぇよ」

 

雷光で見えないが、どこか自嘲的な雰囲気の笑みを浮かべているのが雰囲気で伝わる。

 

「前に召喚された時に人間に殺されて冥界に戻った時によ、昔の事を思い出したんだよ」

「...昔の事?」

「俺は、人を守る光の神だった。そこを曲げたからあの人間に心で負けたんだってな」

 

「だから、今度は人の味方をしようって思っただけだ」

 

その答えに至るまでの葛藤や苦悩は推し量れない。だが、その言葉は不思議と信じられた。

それはきっと、同じ主をもって、短くとも濃い時間を共に過ごしたが故のことだろう。

 

間接的にでも、心は繋がっているのだ。

 

「不粋なことを聞いたね、バルドル」

「今度、てめぇの分の給金でなんか奢れ。それで勘弁してやる」

 

電撃を体に受けながら、バルドルは光を作り出す。それは魂の燃焼だ、知識の少ないデオンでもそれは分かる。

 

だが、それを止める気にはならなかった。

 

「私がどれだか分かるのですか?」

「あいにくわからねぇよ。だから」

 

「全部吹き飛ばしゃいいだけだ!高位万能属性魔法(メギドラ)!」

 

周囲から放たれていた雷光を極光が飲み込み、その奥にいるニュクスを露わにした。

 

判断は、一瞬。雷光と極光の相殺した混沌とした場を最速で駆け抜けて、サーベルを腹に突き立てる。

 

そして、そのまま脳天に向かって切り上げる。ニュクスは、何か信じられないものを見たかのようだった。

 

サマナー無しでの、仲魔の完全なるコンビネーション。それがどれ程の妙技なのかをデオンたちはまだ知らない。

 

「私の負け...ですが、逃さない。この夜の帳に私の全ての力を注いだ。貴方は後数分の間逃れられない」

「何ッ⁉︎」

「せいぜい足掻いてみせなさい。貴方が貴方の主を救いたいのならば」

 

せめて、念話を送ろうとする。現界してからずっと練習していたこの術に全神経を集中させるデオン。

 

その強い念が通じたのか、あるいは主を失ったことでこの夜の帳の隔離性能が劣化したのか定かではないが、その瞬間に確かに届いた。

 


 

『...デオン、お前の剣を俺に貸してくれ。ただの模倣じゃあ、絶対に届かない』

『わかった。けど良いのかい?死人に、悪魔に命を握らせるなんて』

『信じた。...違う、信じたいからだ。共に過ごした、あの日々が紡いだ絆を』

 

『それが、俺が信じる光だから』

『なら、光り輝かせてみせよう!白百合の騎士の名にかけて!』

 

トランス状態で行われたその会話にかかった時間は刹那にも満たない。だが、確かに行われた。

 

その結果が、今の俺だ。

 

振り下ろされたヒノカグツチをショートソードを手放して自由になった右手でヒノカグツチの腹を叩く。

 

その力は、俺の身体を剣の殺傷領域から逃すのに最小限のものであった。

 

「ッ⁉︎」

 

内田が驚くのも無理はないだろう。事実俺でさえこの絶技には驚きしかないのだから。

 

そして俺の身体は内田の身体からショートソードを抜き、首を切り裂く。頸動脈を確実に切り裂いたその斬撃は、最小限の力で内田に致命傷を与えるものだった。

 

内田の身体はすぐに再生するが、それでもその絶技に対して驚きを隠せていなかった。

 

「花咲千尋、貴方ッ⁉︎」

「気付いたか。そう、これは本当のデオンの剣術だ。隔離された夜の帳の中から、それでも俺を救う為にやってくれた絆の力。侮るなよ?」

「...絆の、力」

 

「来ないなら、こちらから行くぞ!」

 

足運びひとつ取っても、自分の模倣したものとデオンの操る俺のものは違う。剣の理の深さが、その差を作るのだろう。

 

重心を軽く乗せた突きを2発。振り下ろされたヒノカグツチをステップで回避して手首に斬撃を放つ。

 

返す刀で横薙ぎをしようとしていた内田は、ヒノカグツチを支えきれずにその剣を取りこぼしかける。

 

だが、再生が間に合ったのか落とすことはしなかった。

 

だが、俺たちの剣は次が繋がる。

 

返す刀で足首を切り落とし、踏ん張れなくなった所を蹴り飛ばす。

そして体勢が崩れた所で霊核にショートソードを突き立てる。

 

だが、内田もさるもの。すんでのところでヒノカグツチを手放し重心をずらし、霊核から剣先をずらす。

 

そして、自分ごとトランプナイフの雨で俺を貫こうと抱きつこうとしてきた。

 

それを読んでいたデオンの意思はショートソードを手放し、横に転がる事で()()()()()を手にとってその回転の勢いのまま内田に振り抜く。

 

超高ランクの魔剣、ヒノカグツチを。

 

それを内田は、俺のショートソードを手に取り受け止める。

 

そして互いに所有権を利用し、分解と再展開をする事で互いの手には元々の武器が戻った。

 

流石に所有権の奪取はできなかったが、それは向こうも同じ事。

 

距離は少し離れてしまったのが辛い所だが、どちらにせよそろそろだ。

 

左手にスモークグレネードを取り出して放り投げる。MAG感知を妨害するチャフ機能付きの優れものだ。いや、単に煙の成分にMAGを仕込んでるからなのだが。

 

煙の中で、視界と感知を遮られたまま、それ以外の感覚で位置を掴んで斬り結ぶ。

 

天から降り注ぐトランプナイフは脅威であるが、呪殺属性を含んでいるが故に即死防御障壁(テトラジャ)ストーンにより防御するのが可能なのだ。

だが、物質化(マテリアライズ)されている物質であるが故に完全に弾くことはできない。だが、一瞬。目を切る事が出来ればそれで良かったのだ。

 

煙の中で斬り結ぶ。MAG感知を阻害する煙の中であってもヒノカグツチという超一級の武器が放つ力を感知することは容易い。だから、目印には事欠かなかった。

 

ヒノカグツチの間合いで斬撃を交わす。

速度が乗る前に叩く先ほどと同じ防ぎ方。されどそれを読んでいた内田は手にトランプナイフを作り出し投げつけてくる。

 

それを、空いている片手で掴み投げ返す。内田の霊核に向けて。

その曲芸に驚くも、物質化(マテリアライズ)を解除する事でダメージを防ぐ内田。

 

そして、ナイフ投げで崩れた体勢を狙うように片手で大剣を横薙ぎに一振りする。

それをしゃがみ込む事で回避し、両足に対して斬撃が放たれる。

 

その手も読んでいたのかジャンプして回避する内田

 

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「花咲千尋、何で⁉︎」

 

スモークグレネードの煙が晴れる。

今、目の前でヒノカグツチと打ち合っていたのは、()()()()()()

 

「単純な手品だよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「そういう事。偶然できた機会だったが、狙わせて貰ったよ」

「...詐術士ッ⁉︎」

「手が無いなら、無いなりにやるさ。それが、俺の戦い方だ」

 

内田に打ち込んだ拘束術式は本人のMAGを利用して拘束の強度を上げる対内田用の切り札だ。

 

基点になっているのは内田の魂の隙間に差し込んだ術式だ。サーバを介する事で俺と内田は繋がっていた。死んでも死なない原因こそ探れなかったが、内田の魂の性質くらいは把握できたのだ。

 

だからこそ、このオーダーメイドの拘束術式は破れない。霊的出力が守護霊(ガーディアン)由来のものなので、魂が守護霊にアクセスする信号と守護霊が内田にアクセスする信号を止めてしまえば内田の能力の大半を無力化できるのだ。

 

実際、内田はアリスを使ってのトランプナイフの物質化(マテリアライズ)を試みているが、成功はしていない。意思の先にMAGが固定化されていない。物質化の失敗の時の現象だ。

 

「...これで、私の負けだと思う?」

「ああ。あとは吸魔術式でお前の保有MAGを奪い去れば、お前は止められる。俺たちの、勝ちだ」

「そうでもないわ。まだ、仲魔は残ってる!来て、フィン・マックール!」

 

「やれやれ、傷は重いのだがね」

 

デオンが反応して俺の体を押し倒す。そして俺の体があった所を通ったのは水流。フィン・マックールのウォーターカッターだ。

 

「バルドルのやつ、仕留め損なったのかよ」

「いいや、彼は私を殺すに十分な攻撃をしたさ。ただ、私がダメージを食らう前から癒しの水で回復を行なっていたというだけの話だよ。もっとも、かなりのダメージは残っているがね」

 

実際、フィンの体は血濡れだった。多くの傷をそのままに致命傷だけを治したからだろう。

 

「内田の力は封印した。投降はしないのか?」

「しないとも。私は存外、彼女の事は気に入っているのさ」

 

緊張が走る。こちらは内田の封印を完全なものとする必要がある。しかし、ガーディアンの力を封じられて尚内田たまきという女は諦めてはいなかった。その手にはヒノカグツチが強く握られている。

 

ガーディアンによる能力上昇はなくとも、侮れは首を晒すのはこちらだろう。

 

そんな時に、麓から戦闘音が響き渡ってきた。今までは目の前のことに集中していて気付けなかったが、間違いなくギルガメッシュとメシアンとガイアーズの3人だろう。

 

もう、すぐ近くに来ている。

 

やばい、どうしよう。

 

「サマナー、流石にノープランという事はないよね?」

「何言ってんだ。最初っから生き返った付和さんが全部倒してくれるにオールベットだよ」

「他力本願の極みだね」

「そりゃ、それしかなかったからな」

 

「それなら安心しろ。お前のおかげでどうにか命は繋いだ。後は、任せろ」

「行くのか、ライドウよ」

「ああ。ここに来る連中を相手取れるのは、俺だけだ」

「ライドウ...まさか⁉︎」

「あなたが日本の守護者、葛葉ライドウだったのね。どうりで強かった訳よ」

 

右手に二本、左手に二本の管、封魔管を取り出して旧式の悪魔召喚術を行うライドウ。現れた悪魔は見たことがないものだったが、その力の凄まじさは感じ取れた。

 

「...私とやり合った時は全力じゃなかったのね」

「当然だ。俺は今日一日この大空洞を守ることが役目だったからな。次が来ているのにお前程度に全力を出せるものか」

「...なんて化け物」

 

その言葉に一つ苦笑を零して、ライドウさんは歩いていった。

 

「花咲千尋」

「なんですか?」

「ここを任せた」

「...任されました。ただし、生きて帰って来ないと承知しませんよ?反魂香の代金はしっかり取り立てさせて貰いますから」

 

その言葉に、背越しに手を振る事で返してきた。ああいう仕草を格好いい男がやるとどうしてこう似合うものなのか。不思議だ。

 

「さて、内田」

「何よ、花咲」

「殺しあうか?」

「...やめておくわ。私は、ギルガメッシュがライドウに勝つと信じて待つ。ここで膠着状態を続けましょう」

「そりゃ良かった。知らない仲じゃないから、殺し合いたくはなかったんだよ実の所」

「こんな刻印を用意しておいて?」

「万が一に備えるのが俺のやり方なんだよ」

「...どうしてさっきまで殺し合ってた相手にそんな感情を向けられるのか、不思議でならないわ」

「花咲千尋というのは、そういう人物なのだよサマナー。罪を憎んで人を憎まず...とは少し違うんだろうが、そんな所だよ」

「適当だな、フィン・マックール」

 

その言葉を最後に、ただ目の前行われている大怪獣決戦を眺める。

 


 

嵐に向かって歩いていくライドウと黒猫の業斗童子。

 

その足取りは、不思議と軽やかだった。

 

「良いのかライドウ、あやつに門を任せておいて」

「奴なら、信じられる。実力もそうだがその心が」

 

「そういえば、見誤ったのは初めてだな」

「...貴様の目には、どう映っていたのだ?」

「普通の、どこにでもいるような奴だと見えていた。...故に警戒していたのだがな」

「化けの皮は、見えたか?」

「本当に普通の善人だった。後付けの力がなければ、ただ善良に生きるだけの者だったろうよ」

 

「そんな奴に助けられたのだ。ライドウを継いだ者として、奮起せぬ訳にはいくまい」

 

背中に必殺の霊的国防兵器、コウガサブロウ、テンカイ、ミチザネ、オモイカネの4柱を背中に従えて、最強が歩いていく。

 

「先手を取るぞ、テンカイ」

「了承した、主よ高位万能属性魔法(メギドラ)!」

 

メギドラが宙から数多の武具を放ってるギルガメッシュと地を走るメシアンとガイアーズの男を吹き飛ばす。広範囲に広げた為に致命傷とはいかないが、面倒な味方のわからない乱戦という状況を作らなくて済むだろう。

 

3人まとめて相手にする方が、ライドウにとっては楽なのだ。

 

「新手か⁉︎」

「あれは、葛葉ライドウ!情報はやはり正しかったのか!」

「...サマナーは敗れたか。...あの雑種か」

「お前の言う雑種とやらが花咲千尋の事を指しているのなら、そうだ。情けないが、命を救われた」

「...なるほど、認めたくはないがあやつがこの末世の希望という訳か」

「希望?」

「いつの世にも現れるものだ。か細い可能性を乗り越え続ける者がな」

「確かに、俺の目では花咲は十に九は殺されて死ぬと見えた。だが、奴は残りの1を引き当てて勝ってみせた。それが、希望という理由か」

「へぇ、あのガキが希望ねぇ?信じられるかい?エセ神父」

「いいえ、希望とはメシア様の事。信じられるはずがないでしょう邪教徒」

 

「ならば、今の俺は希望を守る戦士という訳か。似合わぬが、全うするとしよう」

 

テンカイが高位万能属性魔法(メギドラ)のチャージを、オモイカネが極大広域氷結魔法(マハブフダイン)のチャージを、ミチザネが極大広域電撃魔法(マハジオダイン)のチャージを始め、それを守る形でコウガサブロウとライドウが前に出る。

 

周囲の空気から乱戦で散っていたマグネタイトが消え去るほどの大魔法。その脅威を肌で感じた3人は、各々の攻撃を放った。

 

極大呪詛魔法(エイガオン)!」

極大光波魔法(コウガオン)!」

「行け、王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

そしてその全てを、ライドウとコウガサブロウは打ち払った。

光と闇、二つの極大魔法はコウガサブロウの衝撃魔法を纏った剣にて、天から降り注ぐ数多の武具はライドウの空を駆けるような動きで払いのけてみせた。

 

「行け!」

 

放たれる3つの魔法。それはそれぞれが相互に干渉し反発し

 

山の木々を含めて一帯を消し炭すら残らない更地に変えた。

 

「...これで殺せないか。やはりこの世界は広いな」

 

メシアンとガイアーズの男たちは、最早勝ち目なしと判断して長距離伝送魔法(トラポート)で逃げ出した。その判断の早さは賞賛されてしかるべきだろう。こうして生き残り続けたからこそここまでの強さを手に入れられたのだから。

 

だが、だからこそ驚愕するべきはその三つの極大魔法を受けて尚立ち塞がっているギルガメッシュという英雄だろう。

 

防御用の宝具を幾重にも重ねたという事実はある。だがそれでもあの極大魔法の嵐を受け止めたのは、この英雄の根性なのだから。

 

「やってくれるな、現代の英雄よ」

「今のを耐えて良くも言う。古代の英雄よ」

「...だが、残念ながらここまでだ。鬱陶しいのを弾いてきた力まで使わされた。ここから先の我は我ではない。我による世界の破壊を防ぎたいのなら、止めてみせるがいい」

「何故、それを俺に?」

「我が、英雄王だからだ」

「さっぱりわからんな。だが、承知した。貴様は、ここで終わらせる」

 

瞬間、ギルガメッシュの体がブレる。まるでテープを高速で再生しているかのような奇妙な動きの後に、ギルガメッシュは抜いた。

 

三つの輪が連なった奇妙な長物。柄だけ見ると剣のものなので、ライドウはアレを剣と認識し、その認識が間違いなのだとすぐに改めた。

 

回転する三つの輪。それが回るたびに世界が軋みを上げている。

 

アレは、世界を砕くナニカだ。

 

「ライドウよ、あれを振るわせてはならぬ!世界が割かれるぞ!」

「ああ、全開で行くしかあるまい。コウリュウ!」

 

ライドウは、手元に封魔管を取り出して最強の仲魔を召喚する。天を舞う黄金の龍、コウリュウだ。

 

その背中に、召喚されていた仲魔たちが集まっていく。ただ一刀、ライドウの全力に力を集約させる為に。

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

「百魔大忠義閃!」

 

マグネタイトと魔力の混ざり合った閃光が、空中で衝突する。

 

心の底から叫ぶライドウ。無言で、機械的に剣を振るうギルガメッシュ。

 

両者の決着は、その剣に込められた想いの差で決まった。

 

世界を嘲笑し、それでも救う為に足掻く一人の少女に付き添った一人の王は、その剣先にいた少女を殺すまいと最後に意思を捻じ曲げた。それが、互角だった二つの力の均衡を崩したのだ。

 

「ではな、せいぜい足掻くといい。道化に化かされたこの終わり行く世界で、それでも生きる英雄よ」

「ああ、足掻くさ。最後まで」

 

その言葉と共に英雄王ギルガメッシュの体は光と化し消え始めた。

 

『ギルガメッシュ!』

『たまきよ。存外、ヒトモドキどもは侮れぬ。お前一人でこじ開けられぬ世界の壁を開く一助となるやもしれんぞ?』

『...そうかもね。花咲の絆を信じる戦い方を見て、思い出したわ』

 

『私たちだって、皆で戦ってたんだって事を』

『ならば良い。では、息災でな』

 

世界を覆う天蓋が割れ、果ての見える空が見え始める。

 

世界を切り裂く乖離剣は、その力の十分の1をも伝えることはなくともこの壊れかけの世界を砕くことを可能にしてしまった。

 

その壊れた天蓋から、堕天使たちが舞い降りてくる。その数は、万を超えていた。

 

世界の崩壊が始まった。

 


 

「今のは何だ⁉︎内田!」

「ギルガメッシュの切り札、世界を切り裂いた天地開闢の剣よ!そんなもの、まともなら放つことはないのに...ッ!」

「もしかして...COMPのエラーコードに、アウターコードは出ていないか⁉︎」

「待って、確認する...」

 

そう言って内田は目を宙に彷徨わせた。脳波制御タイプのCOMPなのだろう。ARで情報を見るタイプのものだ。かなり高いのに...羨ましい。

 

「あったわ、outer code ってのが一年前からずっとギルガメッシュに流れてた!何で言わないのよあの馬鹿!」

「一年間⁉︎...あのジークフリートが耐えられなかったアウターコードだぞ?なんて精神力だよ...」

「サマナー、それは今重要な事じゃない!この割れた世界をどうするかだ!降りてきた堕天使たちをどうするかだ!君ならできるんだろう!」

「...すまん、デオン」

「出来るの⁉︎今の一撃は平成結界の基点であるこの遡月の天蓋を破壊した!それは伝播するわよ、直ぐに!」

 

思考を加速させる。必要なのは平成結界の基幹術式だ。それは記憶の中にある。

 

改竄に必要なのは、認証コード。純粋な人間の魂。

それは、ちょうど今手近にある。

 

「...内田、手を貸せ。お前の魂の認証コードが必要だ」

「...わかった、行くわ。あなたを信じて!」

 

内田を目を合わせて、覚悟を確認し合う。これは、命を捨てるような真似だ。

 

海馬の魔術師の知識では、この大空洞入り口には元々強力な封印が施されているとされている。それをバックドアでこじ開けるのだから、霊的トラップの類が押し寄せるのは疑いない。

 

それでも、行く。

今、この世界を救えるのは自分たちだけだろうから。

 

走り出しながら周囲にアクティブソナーを走らせる。残りのMAG量から考えるに残り数回で頭打ちだろうが、確実に罠を発見できるこのやり方は頼りになる。

 

「内田、結界入り口まで罠は無し!だが、結界を抜ける時に一手間必要だ!」

「なんでもやるわ、任せなさい!」

「言質は取ったぞ、後で文句言うなよ!」

 

認証結界のある門に辿り着く。ここから先は、純粋人間しか通ることは出来ない。が、何事にも裏道はあるものだ。

 

「内田、こっち向け」

「何よ...ッ⁉︎」

 

反応される前に内田の唇を奪い、隷属の術式を起動させる。

主人が内田で、下僕が俺。

 

これで、俺は内田の所有物になった。

 

「...なるほど、そう言う手ね」

「ああ、お前の所有物なら中に入れる。そういう理屈だ」

 

そのまま、結界門を通り抜ける。デオンもフィンも問題なく通り抜けられた。やはり、所有物扱いの存在で、かつ悪魔でないのなら抜けられるという算段は正しかったようだ。

 

「それで、私の下僕になった気分はどう?」

「正直最悪だよ!なんで自分から奴隷の首輪を嵌めなきゃなんないんだよ!」

「美人とキスできたんだから、得と思っておきなさい!後、思い返すと結構恥ずかしいわね!」

「俺もだよ!」

 

結界の内側に入って再びアクティブソナーを起動。残りは2発。

 

異界トラップが三重に仕掛けられているのを発見した。入れば一生出れない類の人造異界だろう。

 

「どう抜ける?」

「足場は作る、跳んで行く!」

 

人造異界の発動ポイントとなっている足場を無視して、反発(ジャンプ)の魔法陣を敷いて走り抜ける。

 

そして再びアクティブソナー。このまま進むと広間に出る。そこには、悪魔の存在があった。反応からして、造魔。

 

流石に、これを抜ける方法はないだろう。

 

「...戦闘になる。こればっかりは避けられそうにない」

「...じゃあ、私が戦ってる隙に花咲が先に行きなさい」

「行けるのか?」

「なんとかするわよ」

 

そして門を開けると、剣の丘があった。

いや、洞窟の中で丘という表現はおかしいのはわかるのだが、剣たちから感じるイメージを言葉にするとそうなるのだ。

 

「何の用だ?」

 

剣の丘の番人である造魔が口を開く。どうやら、意思があるようだ。

造魔とは心を持たぬ悪魔だというのが定説らしいが、俺の見た造魔はどいつもこいつも魂を持っている。

 

「平成結界が壊された。しかも、その隙に堕天使が入り込んできている。その数は万単位。時間とともにもっと増えているかもしれない!時間がないんだ、通してくれ!」

「...断る」

「私達が皇族じゃあないから?」

「違う、誰であってもここは通さない。どんなに理由が崇高だろうが、どんなに犠牲者が出るとしても。俺は、俺だけは美遊を守る。それが、俺の理由だ」

「じゃあその子に危害を加えるってなら後ろから俺たちを斬るので構わない。通してくれ!とにかく時間がないんだ!」

「...死ぬ覚悟は、あるんだな?」

「ねぇよ。けど、だからこそ生きるって決めてるんだ。生かすって決めてるんだ」

「...わかった、案内する」

 

「...熱いだけの説得も、たまには通るのね」

「信じた訳じゃない。ただ、現状ボロボロのお前たちなら殺すのは容易いから、こんな事を許しているんだ」

「こっちの状況もわかって言ってんのね。強かな奴」

 

内田と造魔の会話を最後に、剣の丘の奥へと進んでいった。

 

「ここが、結界の中心だ」

「...広いな」

 

大空洞の最奥、そこにはこの世のものとは思えない光景が浮かんでいた。

地面に刻まれた梵字、ルーン文字、英字問わない無茶苦茶な、しかし機能的な魔法陣は今も光り輝いている。

 

「花咲、これちゃんと動いてるんじゃないの?」

「いや、無い。正常に動いているならあんな大穴は開かない筈だ。結界の構造的に他部分と補完しあって悪魔を止める仕組みになってるんだよ」

「随分詳しいんだな」

「この結界を敷いた遠坂の魔術師は海馬に吸収されたからな、どういう魔法陣でどういう効果かってのは理解してる」

「じゃあ、美遊の事もか?」

「理解してるよ。でも、やらなきゃならない」

「何のために?」

「...普通に生きて普通に死ぬ。そんな日々を守るためだ。それがどれだけ遠くてもな」

「まるで、正義の味方だな」

「んな訳あるか」

 

「俺は、悪魔召喚士(デビルサマナー)だよ」

 

魔法陣の中心に向かっていくにつれて、時間の流れに変化があるのを感じる。おそらく、平成結界が崩れた事により時間の加速が不安定になったのだろう。

 

急がなくてはならない。

 

そして、中心で綺麗な白無垢を着た少女が横になって眠っているのが見えた。

 

あれが、平成結界を作り出した聖遺物、()()()()()()()()

 

だが、それだけではない。少女の傍には、一つの装置が置かれていた。

 

()()()()()だ。

 

それも、支部にあるような情報にフィルタリングをかけるような器具の一切無い、剥き出しの。

 

何かに突き動かされるように、それに手を伸ばす。

そして指先がアーカイブに触れた瞬間、()()()()()()()()()。この瞬間に限っては、俺は全知となっていた。

 

足りないピースは、手に入った。

 

「内田、ちょっと頼まれてくれるか?」

「何よ、花咲」

()()()()()()()()()()()()、そうしたらアーカイブを美遊ちゃんの居る場所に置いてくれ。新しい結界を作り上げる」

「どんなもの?」

「タイムレートは外の8倍、今いる堕天使を弾くのと、入ってこれないようにはするが、それ以外の効果は無い」

「タイムリミットを自ら削ってどうするのよ!花咲千尋!」

「神稚児の容量に7つの聖遺物を集約すれば、一つの強大無比な願望機になる。それなら、行ける筈なんだ」

「...どこへ?」

人類の進化系(ネクステージ)へ」

 

「そもそも、黒点現象の向こう側に足を進められなかったのは、どんな科学的、魔術的防護を行なったとしても人間という規格(スケール)では黒点の分解現象に耐えられないからだ。なら、耐えられる規格(スケール)の進化系になれば、黒点の向こう側に向かう事ができる」

「それは、美遊を道具として扱うって事か?」

 

殺意も混ざった造魔の目を、受け流す。

 

「今みたいな、エンジンとして生かされ続けている状況は脱せられる。それに、この子を不幸な目には合わせない。それでも心配なら、お前が守れ」

「...美遊の幸せを願うなら、どっちが正しいんだろうな」

「本人に聞けばいい。だから、俺の案に乗れ」

 

「美遊」と呟いたその声の少し後に、深々と頭を下げてきた。

 

「頼む。美遊に、自由を」

「任された」

 

美遊ちゃんを覆っている防壁に侵入。皇族でなければ開けられないコントロール権限を、遠坂のアカウントに偽造してバックドアから侵入し取得。破壊された箇所に向かって無駄に放出しているMAGをゲートパワーの減少と脅威の排除に回す。

 

その後、美遊ちゃん本人にかけられていた様々な術式を全て保留状態にして造魔に渡す。

 

そして美遊ちゃんがいた場所に内田がアーカイブをセットした。

 

ならば、後は陣を敷くまでだ。

そして、そのための労力は代用できる。

アーカイブ用に変換した、魔法陣展開代行プログラムによる大魔法陣の展開。アーカイブ自体の演算性能を使っているので、問題はない。

 

そして、アーカイブ本来の機能を解放する。数多の次元に広がるアマラ宇宙への接続。それがアーカイブの本来の使用用途。

 

これは、ターミナルなのだ。

 

「良し、MAG吸収術式稼動確認!無限のアマラ宇宙からMAGを取り込むこの術式は、一度回れば止まらない!」

 

そして、ターミナルに十分なMAGが溜まった。崩壊寸前の世界がいくつかあったので、その世界に対する吸魔速度を上げた事が時間短縮の決め手だろう。多分。

 

「花咲式令和結界術式、起動!」

 

瞬間、この世界が塗り替わる。残留していた平成結界のテクスチャは自然崩壊するのを待つしかないが、まぁ欺瞞の風景が変わった所で大した事にはならないだろう。むしろ、危機感を煽れて良いかもしれない。

 

「これで、後には引けないわね。花咲」

「引ける先とか、この世界にあるのか?」

「...それもそうね。魔界ですら黒点に飲まれて消えかけている今何だから、安全なんてないか」

 

「サマナー、外と連絡を取るべきではないかい?」

「いや、あいにくとまだ仕事が残ってる。造魔さん、美遊ちゃん貸してくれ」

「何をする気だ?」

「この子を拘束している術式を、ひっぺがす。美遊ちゃんが必要になるのは各地の聖遺物を集めてからだから、しばらくは自由だよ」

「そんな真似、できるのか⁉︎」

「ひっぺがすだけなら、お手軽アイテムを貰ってたんだよ、実は。てな訳だ、起きろ破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

 

神代の魔術師、メディアに今際の際に託されたこの短剣、使用用途に気付くまで結構かかったがわかってしまえばこれほど有用な概念装備はない。良いモノを託してくれたものだ。

 

「...流石に、すぐ目覚めたりはしないか」

「300年間も眠り続けてたんだ。仕方ないさ」

「そう...だな...」

 

瞬間、ぐわりと世界が歪む感覚がした。言葉にするのは難しいが、ここだけ時間がブレたような感覚だ。

すぐさまターミナルに接続。結界の各種パラメータを見るも異常は無し。

 

「デオン、何か感じた...か?」

「サマナー...なのか?」

「ああ、俺は花咲千尋だ。お前はデオンで良いんだよな?」

 

服装、立ち振る舞い、契約、全てが目の前の騎士がデオンである事を示しているも、そうとは認識できない。

顔の部分が、おかしいのだ。目も鼻も口もある。なのに()()()()()()()()()()()()

 

「...外に出よう。私が原因なのかサマナーが原因なのかはっきりさせたい」

「じゃあ、すまん内田。ターミナルを見ててくれ。ないとは思うが、アマラ宇宙を辿って悪魔が出てくるかもしれん」

「...ええ、そして見てくると良いわ。世界が変わった事を」

 

大空洞を抜け外に出る。ここから見た限りでは、どうにか堕天使達の侵攻は止められたようだ。だが、ライドウさんが居ない。どういう事だ?

 

スマホを取り出して連絡を取ろうとするも、圏外。仕方ないので念話を使って所長と連絡を取る。

 

『千尋くん⁉︎生きていたのか!』

『はい、なんとか。そっちの状況はどうですか?』

『...私と縁ちゃんは、とりあえず無事。他の皆とは殆ど連絡取ってないからわからない。とりあえず、念話が通じるところまで来たのなら、事務所に帰ってきなよ。千尋くんの顔は、気になるしね』

 

そうして、街を歩いていく。だが、奇妙だ。つい先ほど堕天使の軍勢が襲撃をしてきたのだから俯く人が多いのはわかるが、それにしたって妙なのだ。顔を隠す人が多すぎる。

 

なので、とりあえずちょっと聞いてみることにする。

 

「すいません、ちょっと良いですか?」

「マサノブ⁉︎...じゃねぇな。なんだよ」

「どうして顔を隠しているのか、気になってしまって」

「テメェもわかるだろうが!」

 

男が、隠していた顔を露わにする。

目と、鼻と、口はある。しかし、それがどうにもチグハグな、福笑いで作られたような印象の顔に見えるのだ。

 

「2年前に顔が変わって!しかも自分と同じ顔の奴が狂ったほどにいるなんて状況だぞ!こんなクソみたいな顔納得できねぇよ!だから隠してんだよ!」

「同じ顔...ッ⁉︎」

 

道行く人々の顔を注視する。顔を隠されているから確実にとは言えないが、皆、目の前の男と同じ顔をしていた。

 

そして、カーブミラーに映る自分の顔を見る。

 

そこには、目の前の男と同じ顔をしている男がいた。

 

というか、それが俺だった。

 

「...確認させてくれ、2年前に顔が変わったんだな?」

「ああ、クソ堕天使どもがやってきて、追っ払われたあの日だよ」

 

どうやら、結界敷設時の、世界時間速度のタイムラグ調整の際の揺り戻しか何かで2年間も時間が吹き飛んでしまったようだ。

 

ここから先の聖遺物探索は、どうにもただ悪魔が敵なだけのような単純なものではない。そんな予感がする。

 

そんな事を、横で事実を飲み込みきれずに目をパチパチとしている顔貌の整った騎士様を見ながら、思った。

 

 

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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