白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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2章スタートです。




真・女神転生アウタースピリッツ
変わり果てた人々


「なぁ、デオン。俺はどうなってる?」

「正直、奇妙だとしか言えないね」

「...2年間吹っ飛ばされてた事とかも考えると重いんだが、どうしたもんかね」

 

とりあえず、この顔についての問題は放置でいいだろう。2年前に起きた事なのなら、今現在どうこうという話ではない。

 

それに、顔が変になった程度だ。まだ特に気負う必要はないだろう。

 

「んじゃ、2年後の街を散策するかね」

「呑気だね、サマナー」

「構えてても世界は変わらないからな。とりあえずは回復道場だ。2年で何が起きたかは知らんが、流石にマッカが使えなくなる事はないだろうよ」

 

ストレージからサイドカー付きのバイクを取り出してデオンに運転を任せる。移動は迅速に、だ。

 

「...車道の舗装が所々崩れている。手入れをされていないんだろうね」

「行政機関の麻痺か。確かに、変わった世界についていけてないってのはありそうだ」

 

すると、エネミーソナーが反応する。確認したが襲撃ではない、野良悪魔の顕現だろう。

 

「一応狩ってくぞ。MAGを補給したい」

「ああ。それに無辜の民が襲われていたら事だからね」

 

方向を変えて悪魔の方に向かう。

そこは、悪魔が親子を襲っている場面だった。

 

「デオン、GO!」

「了解!」

 

バイクを急停止させ、その勢いのままに飛んで悪魔を切り裂く。

見たことのないタイプの悪魔だったから警戒はしたが、エネミーソナーで感知できたレベル通りの雑魚だったようだ。

 

「大丈夫かい?ご婦人」

「...人殺し!」

 

助けた親子の母親が、そんな事をのたまう。殺したのは悪魔で、助けられたのは親子であるのにもかかわらずだ。

 

『...錯乱させてしまったのかな?』

『多分違うだろ。悪魔が人に化けていたのを見ていたからって線で、話聞いてみる』

 

「すみません、奥さん。ですが、人を襲った悪魔は殺すのが筋。悪魔が人になる事はありませんからね」

「襲われてなんかない!あの人は、私たちに抱きつこうとしていただけよ!心まで悪魔になんてなっていなかったのに!」

 

母親が、懐から拳銃を抜いて俺に向けてくる。

 

その構えは意外にも堂に入っていた。2年間は、人々に銃を握らせる事を強いるおぞましいものだったようだ。

 

「...あの人が居なくなったら、私どう生きていけばいいのよ...」

「抱いてるその子を守る事、それを芯にしとけば大きく間違える事はないだろうさ」

 

その言葉を最後に、その場を立ち去る。後味悪い事件だったがら死人が出ないだけマシだろう。

 

『サマナー、あの親子の顔もサマナーと同じだったね』

『なんでこんな事になってるんだか。...こんなんで、所長達に俺って認識して貰えるかね?』

『さてね。私がいれば大丈夫だとは思うが』

 

瓦礫を避けて回復道場に向かう。すると、軍用装備を身に付けた一団が見えた。フルフェイスのマスクを被っているため、顔は見えない。

 

「止まれ!」

「...検問ですか?」

「そうだ。貴様、サマナーだな?」

「だったら?」

「名乗れ、信用のない者にはこの回復道場は使わせられん。ここは我々自警団の要なのだ」

 

銃口が向けられる。

隣にデオンがいなければ危うい状況と言えるだろう。

 

だが、今更カスタムもされていないAK程度でビビれる程、俺は素人というわけではないのだ。悲しいことに。

 

「この街でまだ通じるかわからんが、ヤタガラスのライセンスだ。名前は花咲千尋。...つっても、顔が同じに見えるなら誰かから盗んだとも取れちまうのか。難儀だな」

「お前、随分と落ち着いているな」

「修羅場には慣れたんだよ」

「私はデオン。サマナーの仲魔の、造魔という奴だ」

 

ざわつく周囲、連中はどうやら造魔の存在を知らなかったようだ。自警団といっても知識的には名ばかりなのだろう。

 

「それで、通っていいのか?」

「通すわけにはいかん。貴様がサマナーなら、今が討ち取るチャンスだ!ヤタガラスの者など信用できるかよ!」

「...デオン、峰打ちな」

「了解だ、サマナー」

 

流れ弾を食らってもアレなので、バイクをストレージにしまう。

それから体内の活性MAGで魔導障壁を張り、弾丸を受け止める。軽く感知した通り、弾丸に魔導術式は刻まれてはいない。ただの弾だ。

 

通常弾とか、この業界では逆にレアだと思うのだが。これも空白の2年間が生んだ現象なのだろうか。

 

「魔法陣が、壁になって...ッ⁉︎」

「無駄玉を撃つくらいなら素直に私の剣を受けてくれ。その方が怪我は浅く済む」

 

デオンの流れるような剣さばきにより、襲撃してきた自警団達は倒されていった。一分待たずに9人を気絶させたその手並みは、見事という他にない。

 

「さて、君が最後の一人な訳だが。どうする?」

「...通さねぇ。ここがなくなったら、仲間が死ぬ!だから、命に代えても守る!」

「普通に利用しにきただけなんだがなぁ...」

 

説得は通じない。そう思ったので次善の策だ。ここで力ずくで通ったとしたら、花咲千尋は力で薙ぎ払っていく悪鬼として伝わっていくだろう。

なので、イメージ回復のためにストレージから取り出したメディラマストーンを持って自警団たちを回復させる。

 

「デオン、仕方ないから他のとこ行くぞ。ガイア寺院ならマッカを持ってかれるだろうが回復してくれるだろうからな」

「ガイアか...いい思い出はないね」

「俺もだよ」

 

「待て!」

 

歩いていく俺たち二人を、自警団の男が呼び止める。

 

「どうして、殺さない?」

「いや、俺がお前たちを殺す理由なんかないだろ。だから殺さなかった、それだけだ」

「...奇妙な男だな、お前は」

「普通にしてるだけなんだがねぇ...」

 

「わかった、回復道場の使用を許す。お前は、大丈夫そうだ」

「...いいのか?お前の一存で決めちまって」

「小隊長程度だが、権力はあるんだ」

「なら、お言葉に甘えさせてもらうよ。正直いきなり不意打ちとかされないかずっと怖かったんだ。ありがとさん、小隊長さん」

「中での今日の符丁は、はんぺんだ」

「何故そこではんぺん?」

「知らん、隊長に聞け」

 

たかがメディラマストーンの消費で信用が買えるとか、ありがたいことこの上ない。やったぜ。

 

そうして建物の中に入ると、何人かの自警団の交代人員と何かに怯えているかのような人々がいた。

 

「何者だ?」

「花咲千尋、一応小隊長さんの許可は貰ったよ。符丁ははんぺん」

「わかった、通れ」

 

回復道場内部の構造は、様変わりしていた。回復用の施設の他に、MAG発電機とカプセル。それに大型のコンピュータ。

 

これは、物資輸送用の設備だ。この回復道場は自警団と難民を受け入れている一つのセーフティネットになっているのだろう。それにしては練度がお粗末なのが気になるが、まぁそれは良いだろう。他所様の都合に首を突っ込んだら切り落とされるのがこの業界だ。

 

回復道場の奥、かつてはデータでのやり取りだけだったそこには、40代ほどの夫人がいた。これまでの人との違う点としては、顔があることだろう。てっきり全人類あの気色悪い顔になったのだと思ったが、そういう訳では無いらしい。肌は白く、まつ毛が長い。顔筋もすらっと整っている。若い頃はさぞモテただろうとは思うが、やはり情報量が多い。この違和感の言語化ができないのがもどかしくて仕方ない。

 

だが、とりあえず今は置いておいて、回復を頼むとしよう。

 

「仲魔の回復をお願いします」

「...へぇ、サマナーかい。このご時世に珍しい。名前は?」

「花咲千尋、2年程前にこの街にいたので履歴は残ってると思います」

「あいにくと、過去のデータなんてアテにならんもんは捨てちまったよ。...そっちの造魔は良いのかい?」

「せっかくだが、守る盾は常にないとビビるタチなんだ。回復は後回しで。それに、大した傷は負ってないからな」

「はいよ」

 

COMPを操作して、ドミニオンの死体を施術台の上に召喚する。他の仲魔はまだ大丈夫だ。節約節約。

 

「...ここまでのクラスの悪魔を操るかい。花咲千尋、覚えておくよ」

「じゃ、施術お願いします。どれくらいかかりそうですか?」

「このレベルの悪魔だからね。20分は見ておいてくれよ」

「じゃあ、適当に時間潰しているので終わったら声かけて下さいな」

 

そう言って、一先ず施術所から離れる。そばにいては邪魔だろうし、せっかく人々が集まっているのなら、情報収集をしたい。

 

「デオン、自警団の人達から話聞いてみてくれ。ここの情報が欲しい」

「了解だ。サマナーは?」

「適当な奴に話を聞いてみる」

 

道場内を見回してみると、ちょうどいい感じに孤立している少年がいた。顔は俺同様。俯いたまま動こうとはしていない。

 

年の頃は、12歳くらいだろうか。しゃがみこんだ人の身長体重なんかを算出するのは難しいので概算になるが。大人でなく子供として見られる事に歯痒く感じる年頃なのは間違いないだろう。

 

口を滑らすのは、多分この少年くらいだ。

 

「こんにちわ」

「...こんにちわ」

「挨拶が返せるなら大丈夫そうだな。俺は花咲千尋。君は?」

「...タカヤ」

「じゃあタカヤくん、お兄さんとお話ししないか?実は仲魔の回復を待っている間暇なんだ。話し相手になってくれると助かるんだけど」

「いいけど、話せる事なんて何もないよ?僕、穀潰しだから」

「...誰に言われた?」

「皆。僕はいざって時のイケニエとして生かされているだけだって言う。僕も、そう思う」

「...この自警団は()()()に守られているだけだからな」

 

カマかけその1。コレはだいたい外れていないだろう。強い悪魔がこの辺りを陣取り、自警団の強い連中を軒並み殺した。だから今の自警団は練度が低い。

 

そして、この少年しかり他の蹲っている人々が生かされているのは、そいつが餌にするため。自警団側もコミュニティの存続のためとはいえ随分と非道な手を選んだようだ。それじゃあ、対処療法にしかなっていないというのに。

 

「大人だって敵わなかったんだ。僕じゃどうしようもない。わかってるけどさ、それじゃあ僕は何のために生きてるのかなって」

「...ま、生きてる意味なんて考えるには、タカヤくんはちょっと若すぎだね。そういうのは、ジジイになってから考えるもんだよ」

「そんな時間、僕にはないのに?」

「作ってみせるさ」

 

「俺は、悪魔召喚士(デビルサマナー)だからな」

 

「だから、アイツのことを教えてくれ。怖いかも知れないけど、思い出してみて」

「まずは名前から」

「アイツの名前は、ベルセルク」

「持ってる武器は?」

「剣、だと思う」

「顔は?」

「見えなかった、獣の毛皮を被ってたから」

 

敵の情報は集まった。獣の皮を被ったベルセルク。それは、妖鬼ベルセルクに間違いないだろう。剣を持っているというのも、サマナーネットでの目撃、撃破例から言って間違いでは無い。

 

弱点属性は確か火炎。ただ、ミドルクラス程度のパワータイプの悪魔だ、デオンの筋力なら弱点を突かなくても殺すのは容易だろう。

 

だが、倒す事はこのコミュニティの延命に繋がるのか?

短期的に見れば死ぬ人は少なくなるのかも知れない。しかし、長期的に見てここいらの主であるベルセルクを殺す事は善行に繋がるのだろうか。

 

まずは、情報を集める事。それが大事だ。

 

「花咲、治療は終わったよ」

「ありがとうございます。じゃ、タカヤくん。またね」

「...あの!」

 

「本当にアイツを、殺してくれるんですか!」

 

表情が読めすぎるというのは、考えものだ。タカヤ少年の悲痛さ、必死さ、諦め、そして希望。そんな色々な感情が伝わってきてしまう。

 

「ああ、任せとけ!」

 

だから、安請け合いをしてしまった。契約を結んでしまった。

 

それならもう、引き返せはしない。

 

 

「サマナー、ご指示を」

「よし、ドミニオン。生命転換回復魔法(リカームドラ)だ」

「...鬼ですかあなたは?」

「まぁまぁ、今度メシア教会行ったら聖書買ってやるから」

「...分かりましたよ、サマナー。生命転換回復魔法(リカームドラ)

 

ドミニオンの命の輝きが、COMPの中にいるクー・フーリン達を癒やす。十全に戦う事ができるようになるまではまだかかるだろうが、コレで戦力の回復という主目標は達成できた。

 

残っているMAGの関係で召喚させて戦うのはかなり難しいが、そこは仕方ない。アテができるまでは自転車操業だ。

 

「というわけで、もっかい回復お願いします」

「...仲魔に後ろから刺されないようにね」

「出来ないように契約で縛ってるに決まってるじゃないですか」

「すみませんご婦人、サマナーはちょっと外道が過ぎているんです」

「のようね。天使がなんでこんなのに付いているのかしら」

 

その後再び20分かけてドミニオンを治療し、この旧回復道場を出て行こうとする。

 

すると、なんとも間の悪いことに「奴が来たぞ!」なんて声が響いてきた。

 

「...周辺勢力の情報とか調べときたいんだけどなぁ...」

「だが、見過ごせないのだろう?なら行くべきさ」

 

自警団の男が、タカヤ少年の腕を引こうとする。

 

その腕をデオンが掴み取る。

 

「貴様⁉︎」

「ベルセルクの相手は、私たちがする。それでいいだろう?」

「無茶だ!アイツは隊長達が束になってかかっても勝てなかった化け物だぞ!それをお前達みたいな余所者が!」

「まぁ、奴が死んだら儲け物くらいに見てくれや」

「ふざけるな!余所者が勝手に首を突っ込んでいい話じゃないんだ!負けたら俺たちは皆殺しにされるだけだぞ!わかっているのか⁉︎」

「わかってるさ。ただ一つだけ」

 

「俺たち、こう見えても強いんだ」

 

回復道場の門を開ける。そこには、検問をしていた自警団達が獣の毛皮を被った人型の悪魔に頭を下げている光景があった。

 

「...ッ⁉︎お前らは、餌じゃないな!」

「その通り、お前が餌だよ!デオン、GO!」

 

ベルセルクの剣がデオンの剣を受け止める。

 

「な、ベルセルクが押されてるッ⁉︎」

「パワー勝負はこっちの勝ちだな。サモン、カラドリウス。避難誘導任せた」

「了解さ!」

 

素早い剛剣とかいう意味のわからない剣技により、ベルセルクは押されていった。自警団の人たちが巻き添えにならないようなこちらの戦闘可能エリアに。

 

「じゃ、決めるぞ。目標指定(ターゲットロック)火炎魔法(アギ)ストーン、起動」

 

デオンの剣戟の邪魔にならないように上空に火炎魔法を放り投げ、上空からロックオンした火炎が軌道を変えてベルセルクに突き刺さる。

 

だが、その火炎は()()()()。耐性力場現象だ。

ただのベルセルクがそんなものを持っている訳がない。それは詰まる所、ベルセルクが合体により作られた悪魔である事を示している。

 

「デオン、気を付けろ!サマナーが居るぞ!」

「サマナーの位置から確認できるかい⁉︎」

「周囲には見えない!物陰から制御するタイプの後方タイプのサマナーだ!今探す!」

「やり手の術師か!だが、させぬわ!」

 

ベルセルクの放った剣は、MAGにより幾重にも重なりつつ俺にまで届いた。この剣技はデスバウンドと呼ばれる技だ。

 

だが、流石は白百合の騎士シュバリエ・デオン。根元である剣を打ち上げることにより俺に届く魔剣を逸らしてくれた。お陰で、俺は特に何かをするでなく、アクティブソナーの術式を起動できた。

 

術式に使うのがCOMPに保存しているMAGではなく自前で生産しているMAGであるため使い過ぎが恐ろしいが、まぁ背に腹は変えられない。それに、敵サマナーとの交渉次第ではMAGはひねり出せるだろう。

 

取らぬ狸の皮算用という言葉が頭に浮かぶが、まぁ無視だ。

 

「...案外近いトコに居たな。マーカー付けた!先にベルセルクを殺してから、仕留めに行くぞ!」

「了解!だが、こいつはタフだ。何かないかい?」

「泣き言とは珍しい。じゃあ必殺アイテムを一つ。睡眠魔法(ドルミナー)ストーン。シュート!」

 

先程ターゲットロックをしたルートで睡眠魔法を叩き込む。ベルセルクは睡魔に襲われるもなんとか踏み止まったようだが、それは目の前で剣を交わしているデオンにとっては必殺の隙だ。

 

「さらばだ、狂戦士よ」

 

デオンのタメを作ってから放たれた一閃は、ベルセルクの剣ごとその首を切り飛ばした。なんとも恐ろしい剣である。

 

「敵サマナーは一つ向こうのビルの屋上から下に向かって走ってる。ベルセルクがやられるとは思わなかったんだろうな、慌ててるよ」

「では、その首を落としてしまおうか」

「...お前、今日ちょっと気が立ってるか?」

「私は、ああいった光景が嫌いなだけさ。だから、それを作り出した人を許せそうにない。それだけだよ」

 

デオンとともに走り出し、ビルの正面口から逃れようとする男に神経弾を撃ち込む。

ビルの正面から逃げるとは、ちょっとお粗末すぎやしないかと思うが、まぁ楽でいい。

 

「ハロー、サマナーさん。調子はどう?」

 

神経弾に撃ち抜かれた右足を引きずって逃げようとしつつこちらを見る敵サマナー。この状況で次の悪魔を出さないと言うことは、手札はベルセルクだけだったのだろう。

 

「そんな力があるのになんで顔無しを守るんだ!連中に生きる意味は無いだろう!顔無し同士の傷の舐め合いか!」

 

敵サマナーの顔を見る。さほど整っているとは言えないが、俺たちみたいな言葉にできない違和感はない。

 

顔を抜きにして見れば、ただの小太りのオッサンと言うのが俺の見立てだ。

 

「顔無しねぇ...確かに良い呼び方だ。要点を捉えてる。ただ、それは顔無しを食い物にしてるお前の罪が軽くなるわけじゃないぞ?」

「そういうわけだ、死ね」

「...わかった、わかった!マッカなら幾らでもやる!だから命だけは助けてくれよ!お前だって、これが美味しい話だってのはわかるだろ!」

「...ああ、確かに美味しい話だ。一つのコミュニティを完全に支配してMAGを確保する。だけど、それだけじゃあお前を見逃す理由にはならない」

 

そう言って、耳元でそっと囁く。

 

「お前の命に、お前は幾ら払える?」

「...5万マッカ、それでどうだ?」

「おいおい、口約束で良いわけないだろ。現物を取り出さなきゃ」

「この、悪魔が」

 

男がCOMPを操作する。スマートフォンタイプのCOMPであることは確認できた。ロック解除に指紋認証を使っていたことも。

 

「デオン、やれ」

「おい、話が違うぞ!」

「サマナーは、一度も君を助けるだなんて言っていないよ。まぁ、サマナーが見逃したとしても私がうっかり殺してしまうことはあるかもしれなかったけどね」

「うわー、仲魔に反逆するって言われたよ」

「ものの例えさ」

 

その言葉とともに、デオンはサマナーの首を切り落とした。

その恐怖の表情が、少し心にくる。情報量が多いせいだろう。苦痛と恐怖と、少しの安堵が見て取れてしまった。

 

「さてと、遺品を漁るかね」

「サマナー、心は痛まないのかい?」

「必要だからやってんだよ。さーて、まずはCOMPのロック解除っと」

 

そうして俺は、男の溜め込んでいたMAGとマッカ、それにヤタガラスのIDカードを手に入れる事ができた。男のCOMPを使えば、多少の情報を取得できるだろう。

 

天下のヤタガラスがこんな真似を通している事が少し信じられないが、とりあえずは溜まったMAGでアクティブソナーを放つ。

 

小物の群れはそこそこにいるが、大物は居ない。この分なら回復道場を離れても大丈夫そうだ。

 

「まぁ、潰れられても困るし、結界くらいは張っておくか」

 

回復道場内部の人数を考えるとそれなりの強度の結界が張れる。それなら悪魔に襲われる可能性は少なくなるだろう。

 

ただ、男の死体をどうするか。死体が残れば現ヤタガラスが捜査を始めるだろう。そうなれば、顔無しと呼ばれるあの自警団達に危害が及ぶかも知れない。

 

こういう時、人食いの悪魔がいれば楽なのだが。

 

『対処に困るのなら、私が食べてしまいましょうか?サマナー」

「いいのか?メドゥーサ。お前人食い好きって訳じゃないだろ」

『力を蓄える必要がある。そう感じただけですよ。でないと、サマナーを守れず無様に死体を晒す羽目になる』

「わかった。だが、無理はするなよ。サモン、メドゥーサ」

 

メドゥーサが蛇になっている髪の毛を使って男の死体をゴリゴリ食べていく。そうして5分ほど経った時には、もう男は骨だけになっていた。

 

「ありがとなメドゥーサ。これで処理が楽で済む」

「いいえ、構いません。ですが、流石に骨は食べられませんでした」

「十分だって」

「埋めるのかい?サマナー」

「そうだな...丁度いいし、あの木の根元にでも埋めてやるか」

 

ショートソードをスコップ代わりにして土を掘り起こし、骨を整えて埋める。化けて出ないように施餓鬼米を振りまいてから。

 

「うし、じゃ戻るか」

「そうだね」

「では私はCOMPに戻りましょう。要らぬ警戒を与えてしまうのも何ですから」

「そんな気遣いしなくて良いんだがなぁ」

 

メドゥーサは、見惚れるような微笑みの後に自分の意思でCOMPへと帰還した。顔の情報量が多くなって、今まで伝わってこなかった情報が伝わってくるのは結構心臓に悪い。まぁ、伝わってきたのは親愛の情だったため嬉しい悲鳴という奴なのだが。

 


 

「ベルセルク、およびそのサマナーを殺してきました」

「...そうか」

 

自警団の小隊長さんにその事を伝えると、安堵と不安の感情が伝わってきた。生贄を差し出さなくていいという安堵と、ベルセルクの庇護下から抜け出してしまった事の不安だろう。

 

「じゃあ、ちょっとこの回復道場周りに結界を張りたいと思うので、手伝ってくれませんか?」

「結界?」

「内部の人のMAGをちょっとずつ吸い取って、外の悪魔が入ってこれないようにする結界です」

「そんな事が可能なのか⁉︎」

「ええ、これでも魔術知識は豊富な方なんで」

「それなら、是非頼みたい。...だが、私たちには今渡せる報酬がない、それでもいいのか?」

「信用って、大事な報酬だと思いますけどね。まぁ、俺はともかくデオンの顔は皆さん覚えてくれるでしょうから、報酬はそのうち貰いますよ」

「わかった、感謝する」

「いえいえ。じゃあ、自警団の皆さんはこの建物の周りの指定したポイントにこの札を貼ってくれますか?五芒星で結界張るので」

「...見てくれはただの札だが...まぁ、やってみるとしよう」

 

そうして小隊長さんは部下達に指示を出し、5分くらいで結界の基点を貼り終えてくれた。パッシブソナーで確認したが、位置に問題はない。後、陣を展開するには魔法陣が必要だが、それはMAG入りインクのマジックペンで天井に書いておけば問題はないだろう。

 

「脚立ありがとうございました。じゃあ、起動させますね」

 

コホンと咳払いをしてから指を鳴らす。それが合図となり五行結界が起動する。指パッチンスカる事態にならなくて良かった、うん。

これで俺は、カッコいい魔術師という信頼とイメージを手に入れられたのだ!

 

「サマナー、最後の指を鳴らす意味は?」

「あった方がかっこいいだろ?」

「...それを言わなければ格好はついたと思うよ、私は」

 

ともかく、この2年後の世界に来て初めての事件はこれで終了した。

 


 

「行ってしまうのか?花咲」

「そりゃ、やらなければならない事がありますんで。ただ、折を見て様子を見に来ますよ」

「そうではない。顔無しである私たちには、この世界は厳しい。それはわかっているだろう?」

「まぁ、なんとなくは」

「なら!」

「でも、本当にやらなきゃいけない事なんです。空の果てがこの国を覆い尽くすその前に」

 

「まるで、世界を救うと言っているように聞こえるな」

「そう言ってるつもりでした」

「...助けて貰ったのに何だが、俺たちは手助けできん。世界の事よりも明日を生きることの方が難しく、大変だからだ」

「それが普通ですよ。それに、助けを期待したから助けたなんて理由じゃないですから」

 

こちらを見送るタカヤ少年に向けて手を振って、答える。

 

「約束を守るのが、悪魔召喚士なんですよ」

 

バイクのサイドカーに乗り、浅田事務所へと向かう。

 

この2年間で心配をかけただろうから何か土産でも持っていきたいが、残念ながら店の類はやっていない。

 

そりゃそうだと思う、ゲートパワーは決して高くはないが、悪魔が平然と闊歩する世の中になってしまったのだから。

 

「サマナー、橋が崩れてるね。どうする?」

「MAG補給しておいて良かったわな。サモン、ペガサス」

 

「ヒヒーン!」と嘶くペガサス。バイクをストレージにしまって今度は空の旅だ。

 

「しっかし、目に毒だな。テクスチャを剥がしたの俺だけど」

「だね、せっかくの空の旅が台無しだ」

 

西区から東区に飛ぶ左手の方。本来水平線が見える筈だったそこには、黒があった。全てを飲み込む、災厄の黒。

 

黒点現象が、日本に迫っているという何よりの証拠だった。

 

「残り時間は、何年だろうね」

「キュウビさんの話のままなら、現状の結界速度なら4年...じゃなくて2年か。短くて嫌になるわな」

「だが、君は回答を見つけた。この世界を救う為の」

「...そうなら、良いんだけどな。ただ、隠しても仕方ないから言っておく」

 

「神稚児の力が十全に使えたとして、人類の進化系(ネクステージ)に辿り着けるのは一人が限界だ。しかも、黒点を抜けた先に何があるのかなんてわからない。神か、悪魔か、世界の意思か、そんなものをなんとかしないとこの世界は救われない。それが現実だよ」

 

「確率にしたら、数パーセントも無いんじゃないかね」

「だが、それ以外に道はないのだろう?」

「時間を引き伸ばせば、見つかったかもしれない」

「...サマナー、そんなもしもばかり考えても仕方がないさ。君は、君の決めた道を行くしかないのだから」

「...そうだな」

 

気合いを入れる為、自分の両頬をパシンと叩く。

 

「じゃ、世界を救う為に頑張りますか!」

「その意気だよ、サマナー」

 

そんな会話を最後に、ペガサスは地に降り立った。

 

「ありがとう、ペガサス」

「ヒヒン!」

 

ペガサスを送還(リターン)し、再びバイクを走らせる。が、奇妙だ。川を渡ってこちら側は、随分と荒れている。悪魔が頻出するのだろうか。

 

...どうやら当たりのようだ。エネミーソナーがレッドアラートを鳴らし始めた。ミドルクラス以上の悪魔が付近にいる。

 

「...デオン、次右な」

「了解だ」

 

流石に放置をしておく訳にもいくまい。人が襲われていたら事だ。

 

「死ね、死ね!クソ悪魔が!」

「んな豆鉄砲が効くか!」

 

そこには、やはりAK47で武装した顔のある一般市民?の女性と牛の頭の悪魔である牛頭鬼がいた。女性は牛頭鬼の斧による斬撃を紙一重で躱して銃弾を当て続けている。なかなかやるとは思うが、思い切りが無い。思考が固まってしまっているのだろうか。

 

「戦闘中か、横槍入れるか?」

「そうだね。あの女性が撃っている弾は力場に弾かれている。耐性があるのだろう。そうなれば弾切れまで粘られて殺されてしまう。...まぁ、彼女の足の速さなら逃げられるかも知れないけどね」

 

「威勢のいい女は嫌いじゃねぇ、犯して孕ませてから食い殺してやるよ!」

「てめぇのフニャチンなんざ誰が受け入れるか!」

 

口が悪いなーと思いつつも、援護に入る。デオンを走らせつつアナライズの起動だ。

 

「チッ、新手かよ」

 

アナライズのMAG波によりこちらを感知した牛頭鬼。その隙に女性はある程度の距離を離せたようだ。

 

「顔無しが、コッチに何の用だ!」

「とりあえずは、あんたに助太刀に来た」

 

アナライズ完了、この牛頭鬼は銃撃耐性と打撃耐性と斬撃耐性の三点セットを持っている。かつてのサマナーネットではそんな情報はなかったので、どこかのサマナーの仲魔か?いや、それならそれならアナライズジャマーが走ってるだろう。

 

考えても仕方がないので、戦闘に戻る。牛頭鬼の弱点は氷結属性。耐性がある以上デオンでは決めきれない可能性が高いので、メドゥーサの限定召喚を行う。

 

自分の体の上に悪魔の体の一部を顕現させる事で、消費MAGやらなんやらを減少させる事ができる苦肉の策だ。所長からは金欠召喚とも呼ばれている。

 

事実なので言い返せない。

 

「行くぞメドゥーサ、高位氷結魔法(ブフーラ)!」

 

メドゥーサの右手のみを召喚して、牛頭鬼に向けて氷結の槍を放つ。

 

当然牛頭鬼回避しようとするが、そこはデオンの援護が光る。回避する前に牛頭鬼を氷の槍に向かって吹っ飛ばしたのだ。流石の筋力。

 

「テメェらッ!」

「死ぬといい、それが悪魔の正しき道だ」

 

牛頭鬼は氷の槍に体を貫かれ、絶命した。

トドメを刺したのだから、MAGはこっちが貰っていいだろう。言われたらちゃんと分担するが。

 

だが、ちょっと妙な事態になった。

こちらに向いているのである、助けた筈の女性の銃口が。

 

「すいません。物騒なもの下ろしてはくれないですかね」

「その通りだ。流石に私も、あなたのように美しいご婦人を手にかけたくはない」

「顔無しが信じられるとでも?」

「...助けたって行為で信用はして欲しかったですけどね」

「あなたの助けなんか無くても私は悪魔を殺せた」

「それは、要らぬお節介を。...とは言いませんよ」

 

「あの悪魔には、銃撃耐性の力場があった。あなたの攻撃手段が銃撃だけなのは見て取れましたし、特殊弾って訳でもないから麻痺や眠りを狙っていたという線もない。ただ一方的に命を狩られるだけの立ち回りでした。...せっかく良いセンスがあるんですから、もっと勉強しましょうよ」

「わかったような口を効く!」

「そりゃ、あなたが殺せなかった悪魔を瞬殺できる程度には、俺の仲魔は強いですから」

 

その言葉に反応してこちらを睨みつけてくる女性。サマナーである事は、この女性の怒りに触れてしまったのだろうか。

 

「...わかった、今日は見逃す。でも、次見かけたら殺す。悪魔召喚士(デビルサマナー)は、悪魔の手先でしかないんだから」

 

その言葉を最後に女性は去っていく。大橋の方向だ。

橋の向こう側に用があるのだろうか。

 

まぁ、余計な詮索をするものではない。さっさと事務所に帰ろう。

 

バイクを走らせつつ野良悪魔を退治して、およそ10分程度。ようやく事務所に帰る事ができた。

 

...とりあえず事務所に張ってある結界の類のメンテナンスが必要だという事は一目でわかった。いや、ちゃんと業者に頼めよ所長。あー、業者への連絡がつけられないとかの理由か?

 

商い魂逞しい人々なら、電話の通じない状態でも通じるサマナーネットで販路を広げられると思うのだがなぁ。

 

事務所一階のドアを開け、エレベーターに電気の通っていない事に若干の違和感を感じながら階段を登っていく。

 

「エレベーターの不調とか直せるかねぇ。電気工事についてとかちょっと齧っただけなんだが」

「探せばそういった事を仕事にしていた人も見つかるのではないかい?今日出会った人々も、2年前には手に職をつけていたのだから」

「...そうだな」

 

階段を上がるたびに、感じる違和感。清浄なるMAGと邪悪なMAGが同居しているかのような奇妙さ。いや、縁は順当に成長していけば聖女らしくなるのはわかっていたが、なんで所長はそんなダークサイドに落ちているんだか。

 

「ちわーす、ただいま帰りました」

「ただいま、エニシ、カナタ」

 

ソファに座っていた少女が、その言葉を聞いてぐわんと振り返る。

 

2年間の間の成長により、縁は健やかに育っていた。

 

近接格闘用に改造されているメシアンローブを着たその少女は、紛れもなく縁だろう。顔の情報量は増えているが、その雰囲気は変わっていない。

 

顔立ちは整っている。という言葉で済むのだろうかこれは。

一つ一つのパーツが、それぞれをより美しく引き立てている結果として、絶世の美少女と化している。

 

さらに言うなら、その表情から伝わる慈悲深さだ。

これはまさに、聖女という奴だろう。正直ここまで綺麗になるとは思っても見なかったため、かなり驚いている。

 

昔は、割とチンチクリンだったあの縁がなぁ...

 

「...千尋さん、なんですか?」

「ああ、花咲千尋だよ。ま、この顔じゃわかんねぇか」

「わかります!だってあなたは、千尋さんなんですから!」

 

嬉しさが爆発したかのように飛びついて抱きついてくる縁。それに応えるようにそっと頭を撫でる。

 

「...心配かけたか?」

「はい、心配しました。だから、もう少しこうさせて下さい」

「それは困る。さっきからこっちを面白そうに見てる所長が居るからな」

「...あ」

「縁ちゃん、忘れるとか酷くない?」

 

所長の顔を見る。所長の印象は、いたずら好きな魔女という感じだ。

整っている容姿よりも、悪戯っぽく笑うその表情が強く印象に残るからだろう。

だが、それは整った顔を損なうものではない。のはわかっているのだが、いかんせん所長という印象が強いものだから美しいと強く感じられないのだ。多分これは口にしたらぶっ殺されるだろう、うん。

 

「花咲千尋、ただいま帰還しました」

「うん、生きてるってのはわかってたけどやっぱり顔を見られると安心できるね。まぁ、君の顔は顔無しなんだけど」

「ああ、その辺の話とか詳しく聞いていいですか?ちょっと諸事情あって2年間吹っ飛ばされたもんですから」

「...なんだ、千尋くんの2年間の冒険譚が聞けると思ったのに。残念」

 

そんな言葉の後に、所長はこの2年間の話を話し始めてくれた。

 

「まずは、皇族の方々が暗殺された事から話さないといけないかな?」

 

そんな爆弾をはじめに口にしながら。




真・女神転生アウタースピリッツをこの小説のタイトルにしなかったのは釣り針の問題ですね。FGOから読者を引っ張ってくる為の卑劣な策でした。効果があったかは知りませんけどねー。

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