もっと廃墟画像とか見なきゃ(使命感)
「まずは、皇族の方々が暗殺された事から話さないといけないかな?」
「...皇族が暗殺されるって、誰に⁉︎」
「不明。暗殺が成ったと同時に“無貌異変”が起きちゃったからね。今の千尋くんと同じ顔をしているという事しかわからない...まぁ多分、下手人は異変の主人に通じていたんだろうけどね」
「...生き残りはいるのかい?」
「いないそうだよ。ただ、広域極大魔法の重ね合わせによる皇居ごとの消滅だなんて真似がそこらのサマナーにできる筈がない。だから、今のところ“葛葉キョウジ”が下手人と目されているかなー。まぁ、あの日から行方が分からないって事も拍車をかけているんだけど」
「...そうですか」
つまり、あの日偶然に出会い共に映画を楽しんだマッサン、西之宮真里亞内親王殿下とは、もう会うことはできないのだ。
この2年、他にも多くの人が亡くなっただろう。その中に友人や知人がいないとは限らない。
...覚悟だけは、しておかなくてはならないだろう。
「それから、どうなったんですか?」
「うん、国の最高戦力であり心の支えだった皇族がいなくなった事で、国は大混乱。異変によって議員や総理が自分をできなくなったってのも理由だね」
「...MAG情報による認証とかはできなかったんですか?」
「気付いてないのかい?千尋くんたち顔無しはMAGパターンまで同一なんだよ」
「てことは、声紋とかも誤魔化されるんですか」
「うん、そこも問題なんだよね。全ての要素が顔無しの識別を妨げている。千尋くんもできるかも知れないけど、身長体重体格性別全てを弄くれるんだよ、顔無しは」
「...それは、特殊な訓練とかが必要になりませんか?」
「ならないよ。必要なのは認識。自分を自分でどう認識するかってだけで姿形を変えてしまうんだよ顔無しは。これは、シーホースの受け売りだけどね。もっとも、顔だけはあのままなんだけど」
ドクターは生きているのか。...まぁ、あの工房が崩れるというのは考え辛いのだが。ドクター自体も強いし。
「サマナー、ちょっとホッとしているね」
「そりゃな」
「まぁそんな訳で、顔無しってだけで信用がされなくなったのが2年前。でも、顔無しじゃないのって種付きの上澄みだけだから自然と無政府状態の出来上がり。ヤタガラスでさえ顔付きと顔無しで権力闘争の殺し合いすら始まってたんだから世も末だよ」
...恐ろしい。ただ顔がわからなくなるというだけで、人はここまで纏まることができなくなるのだろうか。
...いや、違う。恐怖だ。
ある日突然自分の隣にいる人が別人に入れ替わっているかも知れない恐怖は、人々の判断基準を狂わせたのだろう。
「その混乱の中、所長達は何を?」
「権力闘争に巻き込まれるのとか面倒だから、街にいる人を襲う悪魔やサマナーを殺して回ってた」
「凶事を好機と見る連中ですか」
「そ、ガイアメシアファントムヤタガラス問わずね」
「...ヤタガラスにもいんのかよ」
「人の体は色々使えるからねー。それに、顔がなくなった事で凶行の歯止めが効かなくなったのもあるのかな?」
「成る程、もし誰かに見られたとしても、顔形を変えられる顔無しなら何も問題はないということか」
「...本当に、辛い時期でした」
「でも、最悪はそこじゃない。ネットワークが生きていた頃はまだ国という体裁は整えられていたのさ」
「そういえば、スマホはずっと圏外でしたね。てっきり基地局が潰されたのかと思ったんですが」
「そうじゃないんだ。どこかはわからない、けれど確かに侵攻があったんだ」
「侵攻?」
「武力によって相手の土地や人を奪う行為、それを地域単位で行ったんだよ。混迷するこの世界の中でいち早く人を纏め上げて」
「...それは、戦争じゃないか」
「そう、そして侵攻したその国は電霊をばら撒いた。ネットワークによる情報伝達の阻害が目的だろうね。お陰で、どの地方のどの国が侵略をしてるのか、それがどんな手管なのか、まともな情報が全くわからない」
「サマナーネットは?」
「見てみればいい」
言われた通りスマホでサマナーネットを開く。
そこには、こんな文面のスレッドが流れ続けていた。
終末の時は近い、汝未来への望みを捨て欲望を解放せよ
「凄えな、1000スレッド以上続いてやがる」
「そう、お陰でサマナーネットも麻痺。これで情報源はアナログの口伝のみに絞られた。志貴くんが今いないのはその関係だね。七夜街までの安全なルートの探索に行ってる。それに、七夜街には志貴くんのお父さんも居るからね」
「それで、ネットワークが潰れてからこの街はどうなったんですか?ここに来る途中で顔無しの集まりを見つけましたけど、素人なりに武装していました」
「...へぇ、まだ群れてたんだ連中」
「所長?」
「なんでもないよ。聞きたいのは武器の入手経路かな?」
「はい。いくら旧式のAKといっても、一般人が手に入れるには難しいものですから」
「...実の所、詳しくはわかってないんだよね。尋問しても“旅の者”に貰ったとしか言わないから」
「旅の者...他所からの工作員か何かですかね」
「多分ね。武器が配られだしたのは異変からすぐの事だから」
「政情の混乱を持続させる為の工作員...厄介ですね」
「まぁそれでも遡月はマシな方だよ。他所じゃメシアとガイアの抗争が日常茶飯事だったらしいからね。ネットワーク封鎖前の情報だけど」
つまり、現状この遡月の街はメシアでもガイアでも堕天使でもヤタガラスでも自警団でも支配できていない空白地帯という事なのだろう。
どっかが舵を取ってくれていた方が今後の方針は楽だったのだが、まぁ仕方ない。
「この2年間の事、大体はわかりました。でも、一つだけ。内戦状態って事らしいですけど、ヤタガラスは今どうなってるんですか?なんだか凄く恨まれていましたけれど」
「...あー、ヤタガラスはねー」
「その話は、私からさせていただきます」
侵入者感知の結界に反応はなかった。抜かれた?
いつでも戦闘に移れるように警戒をしつつ振り返る。
そこには、顔無しの女性がいた。肩にかけているのはカスタムされたAK47。やり手だ。
「すいません、驚かせてしまいましたね花咲さん」
...その声に、聞き覚えはあった。何故こんな場所に来るのかという疑問はあれど、味方なら心強いことこの上ないトルーパーズの上司様だろう。
「お久しぶりです。ミズキさん」
「私も居るわよ、花咲」
ミズキさんの背中からひょいと出てくる女性、顔にさほど特徴を見出せないが、それが立ち振る舞いの技術によるものだと自分は知っている。情報量の多くなった異変後の世界でも使えるとは、流石忍者の末裔だ。
「風魔、久しぶり」
「ええ、ここ2年間もどこにいたのよ」
「時間を吹っ飛ばされてたんだ。2年間」
「運が悪いわねー、あんた」
「ええ、時間跳躍現象はこれまでにこの遡月の街だけに絞っても十数件は確認できています。ただ、2年間とまでなると恐ろしいほどの運の悪さとしか言いようがありませんね」
「...飛ばされた人の傾向とかってわかります?」
「そうですね、実力者で人望の厚い人が多かったです。...お陰でヤタガラスの内部の亀裂は深刻なものとなりましたから」
...どうにも、時間跳躍現象が意図されて起こされたものに見えてならない。遡月の街を統一させないが為の策略だろうか。
まぁ、普通ならそんな真似はしないだろう。時間を飛ばすより普通に殺す方が楽だろうし。
「それで、今のヤタガラスはどうなってるんですか?」
「...組織保全の為に顔付き以外を排除しようとしている過激派、顔の有無にかかわらずに人を使いヤタガラスの機能を再建しようとしている穏健派、そしてどちらに対しても信を置かずヤタガラスの使命を果たそうとしている中立派の三つの派閥に分かれ...日々殺しあっています」
「...対話による段階は、過ぎてしまったんですね」
「ええ。最初にどちらが仕掛けたのかは知りません。ですが、殺し合いは始まってしまっている。止まらないのですよあの狂気は」
「...配置は?」
「過激派も穏健派もヤタガラス支部に異界を張ってそこを根城にしています。中立派は支部の外に出て、各々のセーフハウスを拠点としているらしいですね」
「やっぱ、中立派には柱がいないんですか」
「ええ、中立派には誰も派閥を纏め上げるだけの力を持った人が居ないんです。強者は過激派に行き、弱者は穏健派に行く。そしてどちらにも与しない我の強い者が便宜上中立派と呼ばれているだけですから」
「じゃあミズキさんは中立派なんですか?」
「はい。ただ、私も薊も拠点となる場所を持っていなかった為、こうして浅田さんの所に身を寄せている。というのが私たちの現状です」
「実際助かってるんだよねー、外の情報とか集めてくれるのはミズキちゃん達だから」
「...道理で。所長にしては情報が詳しいなとは思ってましたよ」
「酷いなー、でも千尋くんっぽいね。帰ってきたって感じがするよ」
ミズキさんの目を向けると、どこか達観したかのような目で俺を見ていた。うん、苦労したんすね。この人の無茶に付き合わされて。
「それでミズキさん、ガイアやメシアについては何か知ってます?」
「ええ、多少は。ガイアは顔がわからなくなった事で不明瞭になった内部序列を確かなものにする為に戦いを行なっているそうです。内部抗争とはなっていないのは、ガイアの支部長になった後藤が良い手腕をしているのでしょう」
「後藤って、後藤大地ですか?」
「はい、お知り合いですか?」
「ええ、ちょっと一緒にアイドル活動のサポートをした事があって」
まさかの出世のプロデューサーである。奇妙な縁もあったものだ。
これなら、いざという時にガイア教団のサポートを受けられるかもしれない。
「メシア教の方は、正直よくわかりませんね。異変が起きてから早々に病院を占拠したのはわかっているのですが、そこから先の動きが妙なのです。病院を即座に放棄、今では西区のパトロールついでに教会に人を集めて保護しているいる、というのが見てわかる程度のことです」
「病院内でなくなったモノとかは?」
「...流石にそこまでは」
「いえ、情報ありがとうございます」
テンプルナイトを保持するメシア教が病院を放棄した理由はいくつか推論を立てられなくはないが、考えるだけ無駄だろう。
大方、権力闘争がどうのこうのという話なのだろうから。
「とりあえず情報は出揃ったみたいなので、一旦俺は戻ります」
「戻るって、どこに?」
「円蔵山の大空洞にです。そこに連れがいるもんで」
「一緒に行っても良いですか?千尋さん」
「ちょっと確認してみる」
『内田ー、聞こえるかー?』
『聞こえるわ、こっちは異常なしよ』
『そりゃ良かった。こっちは2年間時間が吹っ飛んで、人間の顔が分からなくなって、それが原因でそれぞれの勢力が内部抗争をしてるって感じだ』
『...新手のジョーク?』
『残念ながら真実だよ。信用できる筋からの情報だ』
『じゃあ、残り2年ってことね。間に合うの?』
『間に合わせるさ。...美遊ちゃんの様子はどうだ?」
『まだ起きてない。まぁ、フィンの水を飲ませたから体に後遺症が残るとかはないわね』
『ありがとう。それと、戻るときこっちの仲間を連れて行って良いか?』
『...話通ってるの?私結構やらかしてるんだけど』
『顔がわからなくなってるから大丈夫だろ。ガーディアンは封じたままだし』
『そんな適当なのに任せられないわよ。私今殺されたら死ぬのよ?』
『...しゃーないか。了解した、そっちには俺とデオンで戻る』
『ええ、そうして』
「駄目だってさ」
「千尋さん⁉︎」
「警戒心の強い奴なんだよ」
「...じゃあ、仕方ありませんね」
縁は、渋々といった感じで引き下がった。顔が顔だけに罪悪感が凄い。それに、感情が伝わってくるのは慣れないものだ。
「じゃあ、向こうで方針固まったらまた戻ってきます。多分今度は、連れと一緒に」
「ただまー」
「気安すぎない?花咲」
「そうか?仲間相手ならこんなもんだと思うんだが」
「...どうしてこうも信頼できるんだか」
「さぁね、正直私としても不思議なんだサマナーのそれは」
ぐだぐだな会話をしつつも造魔さんは常に美遊ちゃんを守れる位置にいる。愛のなせる技だな。妹さんか何かだったのだろうか。
「それで、美遊ちゃんの様子は?」
「フィン曰く、そろそろ目覚めるそうよ。長いこと眠ってたから起きるって機能が麻痺してたみたい。けどそれはフィンの水で治療できたそうよ」
「万能だなー、フィン・マックール」
美遊ちゃんを診察しようと顔を見ると、彼女の目が開いた。
翠玉色の、美しい目だ。
「...悪魔?」
「一応人類だ、安心してくれ」
「美遊!」
感極まって美遊ちゃんに抱きつく造魔さん。
当の美遊ちゃんは何が何だかわかっていないようだったが、その胸の暖かさは伝わったのだろう。暖かい表情をしていた。
だが、次に美遊ちゃんの発した言葉で造魔さんは固まった。
「あの、誰ですか?」
「...美遊?」
「あなたが悪い人じゃないのは、わかります。けど、私はあなたの事を知りません。ごめんなさい」
「...長いこと寝てたから記憶に抜けができちまったのかね?」
「そんな事起こるものなの?」
「300年モノの眠り姫だ、何が起こってもおかしくない」
美遊ちゃんを守るという思いでこの世に残っていた造魔さんにとっては、酷な事だが事実は変わらない。
「...じゃあ、自己紹介からはじめよう。俺は遡月士郎。君の、兄貴の幽霊だ」
「幽霊?」
「ああ、そこら辺は俺も曖昧だから、また今度な」
美遊ちゃんの頭を撫でて、俺たちへ視線を移させる。
なら、まずは俺からだろう。
「俺は花咲千尋。君を利用するために解放した
「そして、私はデオン。この悪辣でお人好しのサマナーの騎士をしている。よろしくね、お嬢さん」
「えっと、よろしくお願いします」
「私は内田たまき。よろしくね」
「アレ?アリスじゃなくて良いのか?」
「あんたが内田内田言うからでしょうが」
「そりゃすまんかった」
「誠意が足りないわね」
「じゃあ最後に、君の番だ。君のことを教えてくれ」
「スルー⁉︎」
内田に付き合ってコントを続けるのも悪くないかもしれないが、今はポカンとしているだけの美遊ちゃんにも会話に加わる機会を作るべきだ、なんてことを考えていた。
今までの反応から、この先に起きることは何となく予想はついていたからだ。
「えっと、私は...ッ⁉︎」
頭を抱えて呼吸を荒くする美遊ちゃん。どうやら、案の定だったようだ。
何度も言われた美遊という単語、それに対しての反応が曖昧だったからそうではないかと推測できてしまったのだ。
「大丈夫だよ、深呼吸深呼吸。吸って、吐いて、吸って、吐いて」
背中をさすりながら、そんな事を言う。こっそりと
「落ち着き、ました。ありがとうございます」
「いいのいいの。じゃあ、わかる範囲で言ってみてくれ」
「...私が誰かは、思い出せませんでした。ここがどこかも、わかりませんでした。私は、誰なんですか?本当に、美遊って子なんですか?」
「ああ、兄貴の俺が保証する。君は、遡月美遊。俺の妹だ」
美遊ちゃんは、どこかしっくりときていない様子だった。他の呼び名で呼ばれていたからか?
あるいは、それほどまでに自我というものをなくしてしまっていたからだろうか。
「ま、おいおい慣れていけばいいさ。時間はまだ残ってるんだから」
「そうね、お兄さんと過ごしていけばそのうち記憶は戻るでしょ、人間の脳ってそういうものなんだから」
「だが、無理をしてはいけない。君はまだ病み上がりなのだから」
「...ありがとうございます、花咲さん、内田さん、デオンさん」
「じゃあ、ちょっとターミナルを確認するから、離れててくれ」
「何か問題でもあるの?」
「ないかを確かめるんだよ。この結界相当に急造品だからな?2年も走らせたんだからボロが出てもおかしくないんだ」
アーカイブに生身で接続する。精神防護の術式を走らせる必要があるかと思ったが、やめた。コレに繋がって正確な情報を得るには、多少の汚染を恐れてはいけないのだとわかったからだ。
情報の波が俺を襲う。自分が自分でなくなるようなその奔流の中で、自我を再定義し必要な情報を取捨選択する。
「
結界は概ね計算通りの数値を出してくれていた。ただ、問題なのがハッキング。逆探知できないということは、相当にターミナルの扱いに慣れているという事。
俺以外にそんな技術者がいるとは、やはり世界は広い。
「あー、疲れた」
「サマナー、大丈夫なのかい?」
「まぁ、なんとか。ただやっぱ問題なのはGPだよなー、どこも儀式やってないからゲートパワーが下がらない。お陰で現代はちょっとした悪魔の楽園だよ」
「どのくらいの数値よ」
「大体ミドルクラスが自然顕現するくらい」
「魔境ねー」
正直結界張り直してすぐに遺物探索に出るつもりだったからこの辺りの数値はさほど気にしていなかったのだ。おのれ時間跳躍現象。
「とりあえずターミナルで調べたい事は終わった。この分なら結界維持に関しては何かする必要はなさそうだよ」
「じゃあ、いよいよ出陣って訳ね」
「いや、そうはいかない。ここのターミナルにハッキングがあったんだよ。幸い余剰演算領域に仕込んでいた術式で対応できたがな」
「...ここのターミナルを転送に使うのは危険って訳ね」
「ああ、そうだ。...それにしてもターミナルに詳しいな」
「それ、ウチの拠点にもあったのよ。使ってたのは中島だけど」
「中島?」
「なんて言えばいいんだろう...なんか変なの?」
「人間扱いされてねぇのかよ中島さんとやらは」
「実際人間じゃないし」
何者なんだ中島さんとやらは。
まぁ今は本筋ではないのでいいだろう。気になったら後々聞いておけばいい事だ。
「てな訳で、遺物探索に赴くにあたっての択は2つ、陸路で行くか」
「ターミナルを奪うかね」
「いや、それは最悪の場合な。幸いにも今ヤタガラスはグダグダだ。その隙を突いてヤタガラスの大将にこっちの味方を据えればターミナルを使い放題って訳だ」
「権力者のアテはあるの?」
「ああ、悪魔だけどな」
こういう時こそ、キュウビさんとの縁が生きるだろう。封印術式を解けるかどうかは実際に触れてみるまではわからないが、やれない事はないだろう。結界の構造は強力であるものの術式は古典的なものだった。封印を刻んだのが同一人物なら、術式の穴から介入は可能だ。
「じゃあ、問題なのは美遊ちゃんをどうするかだな。流石にこんな洞窟の中にほっぽっとく訳にはいかないし」
「あんたの所で預かれない?」
「...ま、とりあえずはそれでいいか。内田も来るよな?」
「それしかないから、ひとまずは行かせて貰うわ。...それにしても何で中島の奴連絡付かないのよ」
「連絡が付けば転移できるのか?」
「ええ」
それが、攻めるにも逃げるにも内田を支えていた転移現象の正体だったのか。確かにあれは見たことのないシステムだった。それがターミナルのおかげとなれば、組んだのは相当の術者だろう。
「良いシステム作ったなー、中島さん。話してみたくなったわ」
「中島も多分あんたの事気にいると思うわ。アイツも魔導バカだし」
「じゃあ、美遊ちゃん、士郎さん。行きましょうか。あいにくと世界は荒れていますが、念願の外です」
「大丈夫なのか?なんか、二人の話を聞く限りじゃあ危険みたいだが」
「「大丈夫ですよ、コイツがいますから」」
「そこで自分がいるからとは言わないのだね、サマナーという奴は」
互いに指を指す俺と内田。信じられているというか押し付けられている?何故だ。
「えっと、士郎さん。私、外に行ってみたいです。私に何が起きたのか、私が何をするべきなのかを知るために」
「...じゃあ、一緒に行くよ美遊。俺が、お前を守る」
「約束だ」と小指を差し出す遡月さん。おずおずといった感じで美遊ちゃんも小指をだし、結んだ。
指切りげんまん、嘘ついたら針千本飲ます、指切った
そんな、古めかしい契約の形で、遡月士郎さんは美遊ちゃんの仲魔になった。
「おめでとう美遊ちゃん。君も今から、
ちょうど良く、COMPとなるスマートフォンを手にしていた。曰く付きだし間に合わせだがこれでひとまずは大丈夫だろう。
ヤタガラスの内情はネットが途切れてたからまったくわからなかったしね!メモとかも残ってなかったからね!クソが。
「えっと、ありがとうございます?...すいません、この板どう使うんですか?」
「あー、世紀末だとスマホなかったのか。こりゃ失敬。まず、下のボタンを押して」
「...ッ⁉︎」
黒かった画面にロック画面の絵が出た事にびっくりしていた。文明の利器って凄いよなーと改めて思う、うん。
「そしたら、もう一回さっきのボタンを押して。そしたらホーム画面に出るから」
「えっと、はい。出来ました」
「そしたら、ここにある悪魔召喚プログラムアプリケーションってのをタップ。画面の上から触ってみるといい」
「...なんだか、わかってきました。これ画面が全部ボタンなんですね」
「そう、タッチパネル式ってんだ」
「それで、この仲魔ってのにある造魔シロウというのが」
「ああ、さっき契約した俺だ」
「ここで士郎さんやこれから仲魔にするかもしれない悪魔の状態は把握できるんだ。まぁ、本当の使い方である悪魔召喚と送還は造魔な士郎さん相手じゃ無意味だから、新しく仲魔ができた時に教えるよ」
「わかりました」
その後、内田のストレージから美遊ちゃんがギリギリ着れる洋服を取り出して白無垢から着替える。のはいいがなんでエプロンドレスやねん。服屋が道中にあったら美遊ちゃんの服を漁ろう、うん。
「キミキミ、マッカの蓄えはある?」
「当然よ。このレディに似合う服を頼むぜ」
「よ、よろしくお願いします」
護衛に造魔二人を携えてセレクトショップだった場所に赴くと、そこは悪魔が経営する魔境と化していた。ジャックフロストがオシャレして店員をしているのはマスコットっぽい。
だが、それを従えているこのグラサンのお姉さんは何者なのだろう。サマナーか?
「うん、素材が良いから何着ても似合いそうネ。要望はある?」
「動きやすい服でお願いします」
ぶかぶかなエプロンドレス、動きにくそうだったものな。
「じゃあ、イメージをガラリと変えてみましょうか!活動的な感じに!」
パパッと動いてパパッと服を持ってくるグラサンさん。早業だ。
「白のシャツに深緑色のズボン。それに小物入れのポーチの組み合わせ。どうです?」
「...じゃあ、それで」
「待った、これ強化繊維ですよね。価格帯考えるとそっちが赤字になりかねないと思うんですが」
「そこは秘密って事で」
「それに、こんな世界でも子供は元気に生きて欲しいじゃない?」
なんとも、奇特な人だ。まぁ、2年間を生き抜いた人に曲者じゃない人はいないのだろう。
「じゃあ、即決って事で。あと、この辺りに女性用の下着が売ってる所があるならその情報も買いますよ」
「下着ならウチでも作れるよー。ってかこの辺りに生きてる服屋とか他に無いから選択肢は他に無いんだけど」
「じゃあ、何着か追加でお願いします」
「りょうかーい。じゃあサイズ測るから脱いで?」
「は、はい」
「デオン、護衛頼むな」
「了解だサマナー。一人の騎士として、少女を一人にはさせないよ」
そうして手持ち無沙汰になる俺と士郎さん。「こういう時野郎は待つしかないのがアレですよね」「そうだな」と苦笑しあった。
今のやり取りだけで、士郎さんが物凄くいい人である事が分かるあたり、表情がよく見えるというのも捨てたものではないのだろうか。
あるいは、だからこそ人々は纏まる事が出来なかったのだろうか。顔にかけられていた仮面がなくなって、心を守る事が出来なくなったから。
「てか、内田どこいったし」
「あの子なら外にいるぞ。周囲の警戒をするとかで」
「着せ替え人形にされるのが嫌で逃げたな」
内田は改造されて中身は完全に人外のものだが、見た目は15くらいの美少女なのだ。そりゃこの手の押しの強い店員さんから見たら格好の
「できたわよー」
「早いな、サイズの合うのがあったのか?」
「いえ、何というか...サイズを測られたと思ったら、あっという間に出来上がってました」
「...恐ろしい技術と速さだったよサマナー。正直私も見たことを信じられない気持ちだ」
なんでも、布を念動魔法で宙に浮かせ刀でそれを形にし、ミシン以上のスピードと正確さでの手縫いで下着を作り上げたのだとか。なにそれ。
「残り6着もできたよー」
「ありがとうございます。下着と服、合わせていくらですか?」
「そうだね...500マッカでいいよ。美遊ちゃん可愛かったし」
「安すぎですよ!3500は払います。チップって事で」
「いやいやいや、気持ちは嬉しいけどそんなには受け取れないね。せめて700くらいでしょ」
「...じゃあ口止め料とかを含めて3000!」
「いやいや、オネーさん口は堅いから。でもそんなに言うなら300は受け取ってあげる合計1000マッカね」
「...くっ、これ以上付加価値を考え付けないッ!」
「オネーさんの勝ち、かな?」
「ねぇ士郎さん、何で買う側が値上げして売る側が値下げしてるの?」
「正直わからん」
「サマナーは適正な価格での取引を望んでいるのだろうよ。...まぁ、眼前の光景が奇妙であることは否定しないけどね」
結果、この世界ではかなり貴重な新品の衣服と下着をたった1000マッカで手に入れることになってしまった。これは大きな借りだ。知人友人を紹介してあの店に貢献しなければ!
「終わった?」
「ああ、負けたよ。完敗だ」
「そうなの...やっぱり相当なやり手なのね、あの店主」
なんか勘違いされているようでそうでない感じを孕みつつ進む。
とはいえ、大橋は破壊されている。どう川を渡ったものか...
『ペガサス、お前5人を引っ張っていけるか?』
『ヒ、ヒン...』
『流石にやった事ないか。まぁ、手綱を握れる奴がいるならともかく、自然のままのお前は本来自由に走る奴だ。細かい作業はお前の負担だろう。別の手を考えるよ』
さて、どうしたものかと考え始めた所、美遊ちゃんのCOMPからバイブレーションが鳴った。それと俺のスマートウォッチの警戒反応バイブレーションも。エネミーソナーか?
「デオン、警戒」
「ああ、だが力の流れはミユからだ」
「神稚児の力の暴走か?こんなどうでもいい時に?」
「...あの、このCOMPに変な表示が出てるんですけど」
「どんなのだ?」
「MAG充填許容量オーバーと」
「...50万MAGは溜め込めると思うんだが、そのCOMPでも」
「50万しか溜め込めないからこうしてMAGが漏れてるんでしょうに。もっと良いCOMP渡しなさいよ花咲」
「手持ちのCOMPがそれしかなかったんだよ。...しゃーなし、MAGアブゾーバー起動。もう遅いだろうけど」
戦場の空気を感じ取ったのか、士郎さんは両手に白と黒の双剣を取り出していた。しかも概念装備だ。良い獲物を持っている。
「士郎さんは美遊ちゃんの護衛と可能なら援護を。先頭は内田とデオン、殿は俺の陣形でこの場から離れます。感知範囲にいる悪魔は75匹、うち15匹が接近してきます。デカくてミドルクラス前程度ですが、油断しないように」
潤沢なMAGの匂いを嗅ぎつけて悪魔がやってくる。美遊ちゃんのMAGを奪い取ればこの街の有力な悪魔になれるのだとわかっているからだろう。それだけ、この純度のMAGは強い。
「敵になりそうなサマナーの感知は?」
「厳しいな。アクティブソナー出したらもっと多くの悪魔が寄ってくるのは目に見えてる。だから、今悪魔を召喚していないサマナーとは出会わない事を祈るしかない」
「...めんどくさいわね。逃走ルートはどうするの?」
「最終的に未遠川にたどり着ければそれでいい。高度に柔軟性を維持しつつ臨機応変に頼むわ」
「何、銀英伝って300年経っても読まれてんの?」
「ああ、小学校の読書感想文で賞貰ったぜ」
「何その微妙な面白エピソード気になるんだけど」
「話は後でな!さぁ走れ!」
上空から悪魔の群れが飛んでくる。あれは凶鳥チン。範囲衝撃魔法を放ってくる面倒な相手だ。
「ニンゲン!ニンゲン!ウマソウ!」
「じゃあ神経弾をご馳走だ。ああ、お代は命で構わない」
俺の走るスピードのと向こうの飛翔速度を計算し、P-90を1匹につき5発くらいずつ置いて当てる。低級悪魔であり銃撃に耐性を持たないチンは、神経弾の毒もあってパラパラと落ちていった。落下のダメージで死んでくれたら御の字だがまぁその辺りはいいだろう。
問題は、今の銃声で荒事を感知する連中だ。周囲の25匹が追加でこっちに寄ってきている。
こちらは美遊ちゃんの走る速度に合わせているためそうスピードは出せない。ペガサスを出して美遊ちゃんを乗せるかとも思ったが、それはそれで問題ありだ。カバーできる範囲に美遊ちゃんがいなくなる。
「次の通りの右から悪魔の群れが来る。内田、行ってMAG稼いで来い!」
「オーケー!フィンを呼べる分くらいは稼いでくるわ!」
トップスピードを出して行く内田。アリスという
「美遊、大丈夫か?」
「はい、なんとか」
「無理そうなら、士郎さんに抱えてもらうからいつでも言ってくれ」
「...はい」
『花咲!こっちは鬼シリーズが群れてる!到着までには殺しきれないわ!斬撃耐性ウザいわね!』
『クラスは⁉︎』
『あんたのセンサー壊れてんじゃないの!ハイクラス届くくらいよ!』
予想外が起きるのはやめてほしいものなのだが。と思考を回した事で、このGPで存在を保つために放出MAGを抑えていたという事だろうと結論が出てしまった。適応して進化しているのだろう、悪魔も。
『追い打ちされても面倒だ。全戦力で突破する!』
「士郎さん、遠隔何持ってますか⁉︎」
「弓が使えるぞ」
「精度は?」
「悪魔を外した事は一度もない」
「頼りになる事で!デオンは内田と交代して大物足止め、士郎さんは大将首を!雑魚狩りは内田に!飛んでくる連中は俺達が止める!サモン、ドミニオン」
若干キャパオーバーだが、ハイクラス相手なら手段は選べない。最悪メドゥーサの召喚すら考慮に入れないといけないのだからやってられない。最悪の場合は美遊ちゃんにMAGを恵んでもらおう。土下座してでも。
だが、そんな俺の考えは通りに出た士郎さんの神がかった技量と術理により吹っ飛ばされた。
弓を引き始めたのは通りの見える前。番えたのは熟練の持っていそうな高純度のMAGを溜め込んだ剣。それを正確に鬼の眉間に当ててみせた。
そして、力場に着弾した瞬間に内蔵MAGが爆発する。
「驚いた、まだ死なないんだな」
「だがナイスサポートだよシロウ。今ので力場が剥がれた」
純粋MAGによる破壊は、属性にしてみれば万能属性と同じような現象を引き起こした。力場が消し飛んだのだ。
その薄くなった力場の隙に、デオンは神速の踏み込みで鬼の頭蓋にサーベルを突き刺した。
力場の減衰効果が無くなったその名のある鬼の身体は、それでも頑強だ。だが、そんなものは関係ないのだ。デオンの怪力を十全に活かすあの剣技には。
「討ち取ったり!」
「雑魚が逃げるからそういうのは言わないの!」
大将が討ち取られて唖然としている所を、内田がヒノカグツチで耐性力場越しにぶった切る。
そこからは掃討戦だ。逃げようとする鬼を士郎さんの弓が膝を射抜いて転ばせ、デオンと内田がトドメを刺す。向かってくるのはそのまま倒す。これで、鬼の集団は消えた。だが、未遠川までに行くにはもう一団体相手しなくてはならなさそうだ。
「迂回する?」
「いや、どっちみち気付かれてる。そうなると川越えの時に邪魔されるのが最悪だ。殺しておくぞ。ドミニオン、敵は見えるか?」
「ええ、あれは妖精。ケルピーの群れでしょうか」
「川や湖のあたりに出てくる悪魔だな。大した耐性はないし、やれるだろ」
「さっきの奴みたく、擬態してるかもよ?」
「...その時は、頑張ろう」
「サマナー、考えるのが面倒になっていないかい?」
「いや、レアケース考慮して動けなくなるのは意味ないだろ。行こう」
「待ってくだせぇ!サマナーの方々!」
話し込んでいたのか、1匹のケルピーがこちらに向かってくるのに気付かなかった。とはいってもかなり距離はあり、広域魔法でも回避可能だったが。
「なんだ?命乞いか?」
「そうでやす!俺たちゃまだ死にたくねぇんですよ!」
「じゃあ、対価を差し出せ。あいにくこっちには時間がない。なるべく早くな。こっちのお兄さんの弓がお前を貫くその前に」
「あっしが仲魔になりやす!あと川渡りにあっしらを使ってくだせぇ!」
「何故、俺達が向こうに行こうとしてると思った?」
「こっちに来る実力者は、大体向こう目当てでやんすから」
「オーケー、交渉は成立だ。ただし、術式は俺が補助する事と、お前と契約するのはこの子だってことは認めてもらうがな」
「わかったでやんす」とケルピーは近づいてくる。そこに、魔法陣展開代行プログラムで契約の陣を敷き、美遊ちゃんに従うよう強く縛る術式を仕込む。もっとも、士郎さんがいる以上裏切られても大事はないだろうが念のためだ。
「さぁ、美遊ちゃん。名前を名乗るんだ。契約はそれで成立する」
「...あの、良いんですか?悪魔の力を私が持ってしまっても」
「良いに決まってるさ。世界を救った後君は自分の人生を歩くんだ。その時の選択肢は多い方がいい。サマナーだってその一つだよ」
「...わかりました」
陣の中でケルピーと向き合う美遊ちゃん。覚悟もなにもかも半端だろうが、それでもその名乗りで変わることはある。
「私は美遊、遡月美遊!」
「あっしは妖精ケルピー!よろしくでやんすよ!」
ここに、契約は結ばれた。そしてそれと同じくして、彼女の心に遡月美遊という名前がしっかりと定着した。それは確かな一歩だろう。
「さて。案内しますよ、サマナー方!」
その後、ケルピーの群れの背に乗って俺たちは無事東区へと渡る事が出来た。
「仲魔を頼む」と言葉足らずに言われながら。
その後は散発的な悪魔の遭遇こそあれど大事は無く無事に事務所へと辿り着く事が出来た。
すると、事務所の前で黒髪青目、黒いシャツに灰色のズボンの少年と顔を隠した人物の姿が見えた。少年の方にメガネがない事に違和感を覚えるという事は、そういう事なのだろう。というか、あのレベルの魔眼を見間違えはしない。
「や、志貴くん」
「...千尋さん、ですか?」
「そうよ。大っきくなったねー。しかもイケメンときた。時代が時代ならほっとかれないだろうに、残念だったね」
「...2年間も何してたんですか。そっちの子が理由だってのはわかりますけど」
「詳しい話は中でな。ミズキさんから情報詳しく聞きたいし、志貴くんにもできれば参加してもらいたいからさ」
「今度は何するんですか?」
「...殴り込み、かな?」
何故かその言葉でため息を吐かれた。
「まぁ、千尋さんですし。なんかの詐術の類だと思って信じておきますよ」
とりあえず、殴り込み仲間1名ゲットのようだ。
「それで、そっちの人は?依頼か?」
「ええ、そうです。千尋さん、デオンさん」
外套のフードを外した事で長い黒髪と黒曜石のような黒目が現れる。顔は縁レベルに整っており、大和撫子とはこうだというイメージに全く反さない容姿をしていた。
そして、その容姿というか立ち振る舞いにはどこか見覚えがあった。
最近思い出したからか、その名前は記憶の中からすんなりと現れた。
「久しぶり、マッサン」
「マリアです!」
皇族、西之宮真里亞はどんなトリックがあったのか、今生きてここにいる。それはとても嬉しい事だと俺には感じられた。
感想欲しいよぉ!(再燃)
いや、読者の皆さんが居てくれるのはわかるのですが、やっぱり何かしらのリアクションが欲しい(強欲)ので、評価のコメント欄をオンにしてみます。感想には書けないけど!な事でも評価コメントに書いてくれればかなり嬉しいものなのです。
という姑息な評価誘導作戦。効果はないでしょうねー。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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