白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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渡来亜市は沖縄の北の方に位置しているという設定です(超曖昧)
300年に渡る統廃合で村や町の名前が変わり、公募で募った名前の中からかつての祖国の名残りを感じる渡来亜(トライア)市という名前になったのです。


渡来亜市探索

「まず確認したいのは、聖杯の欠片がどうして盗まれたかですね。結界に影響が出ていない事からこの街の外には出てないでしょうけど」

「そしたら、別れて探すかい?幸い戦力は整っている」

「あー、それなら私仲魔集めしたいから別行動で良い?ついでに悪魔の方から情報を集めるから」

「任せた。刻印はどうする?」

「このままで良いわ。思考が汚染されてないってかなり楽だから」

「じゃあ、連絡は念話でな」

「了解」

 

そんなやりとりを耳にして、どこかニヤニヤとする所長。全くこの人は...

 

「千尋くん、内田さんとエッチしたの?」

「え⁉︎そうなんですか⁉︎」

「結び方は色々ありますから、パス=性行為って訳じゃねぇですよ。自分に春が来ないからって下世話な勘ぐりはやめて下さい」

「そう切り返してくるとか、戦争ものじゃない?」

「というか、サマナーにも春なんて来てないんだから自爆ものだと私は思うのだけど」

「言うなデオン。その言葉は俺に効く」

「効くんですね...」

 

どこかホッとしたような、かつ微妙そうな表情で呟く縁。まぁ、兄的存在が女にうつつを抜かすとか割と微妙だものな。

 

「それで、割り振りはどうします?」

「俺とデオンと縁、所長と真里亞の2組に分かれて様子を見ましょう。訓練された民兵がいるって事は、それを指揮する指揮官がいるという事。それは、現地のヤタガラスに関係した人物の可能性が高いと俺は考えます。真里亞、沖縄に頼れる人は居るか?」

「すみません、本格的な公務に出ていた兄様や姉様なら別だったのでしょうが、私にはまだ人脈というものが無いのです」

「ま、できなきゃ場末の探偵事務所なんかには来ないか」

「バスター業は儲かってるんだけどねぇ...」

「場末は否定しないんですか」

「事実なんですよ、西之宮さん」

「真里亞で構いませんよ。縁さん」

「それじゃあ、真里亞さん。誠心誠意護衛をさせて頂きます!...必要があるかは、疑問ですけどねー」

 

業界の知識が浅く、皇族とは化け物的存在であるとあまり認識できていなかっただろう縁には先の制圧戦はさぞたまげただろう。

 

まぁ、自分も知識しか知らなかったから八咫の鏡を実際に見た時は内心かなりビビったのだが。

 

「じゃあ、ここから北側は所長達が、南側は俺たちが行きます。民兵を組織している奴らが何者かはわかりませんが、接触は慎重に。合流地点はとりあえずここ、より良い場所を見つけたらラインを通じてマッピングアプリにマーキングします。良いですね?」

 

皆が頷く、行動開始だ。

 


 

「野良悪魔、強いの少ないですね」

「ああ、間引きが上手いんだろうな。その割には異界強度(ゲートパワー)高いのが気になるが」

「案外、術者が居ないのかもしれないね。悪魔の出を下げる儀式というのは、そこそこの知識が必要なのだろう?」

「...ヤタガラスの術者が全滅したとは考えたくないんだがなぁ」

 

かなりありそうな理由だ。

異変後に覚醒した民兵があれだけ訓練されている事は、ガイアか在野の武力派が戦い方だけを教えたからだろう。

 

というのが、この都市を牛耳っているのが善人であった場合の想定。

 

邪悪がのさばっているのなら、それは知略に長けた者だろう。民兵を誘導して悪魔を殺し異界強度(ゲートパワー)を引き上げて、高位悪魔の召喚、もしくは降臨を狙う輩だ。

 

だが、それが聖杯探索に繋がるかと言われればノーだろう。邪悪の手に聖杯の欠片があるのなら、まどろっこしい事はせずに使用して高位悪魔を降臨させれば良いのだから。

 

「詰まる所、出たとこ勝負かね」

そうして注意して周りを確認していくと、廃車を使って作られたバリケードを見つけた。民兵の組織の拠点が近くにあるのだろうか。

 

「魔術的トラップの類は見えないな。デオン、そっちはどうだ?」

「なかなかに策士だね。車の上に二重のワイヤートラップがある。片方は見えやすく、片方は見えにくい工夫をされているよ」

 

見えたワイヤーをかわしたら、見えにくいワイヤーのトラップにかかるという罠か。よくやるな。

 

「物理的な罠で有効なのは、やっぱり爆弾ですかね?」

「ああ、廃車の中は見えないから、隠し放題だろうしな。それに、侵入を知らせる合図にもなる」

「じゃあ、飛んで躱すとしようか。サマナー、足場頼むよ」

「了解。狙撃気をつけろよ」

「気をつけはするが、多分居ない。殺気の類は感じないからね」

「殺気を隠せる凄腕かも知れないぜ?」

「その時はその時さ」

 

デオンを先頭にバリケードの上に置いた反発(ジャンプ)の魔法陣に乗り、トラップに触れないように動いていく。

狙撃のラインは通ったが、デオンの言う通り殺気は感じられなかった。ここが外縁部だからだろうか。

 

さて、ここからどうしたものか。ここから50m先に見えるのはまたしても廃車を使ったバリケード。有刺鉄線の類も敷き詰められている。

 

それ自体は不自然さはない。が、それはあのバリケードが破られる事を想定していないという事を匂わせてくる。

それもブラフか?とも思うが、ひとまずバリケードとバリケードの間のこの区域を探索するのが先決だ。案外何か情報が拾えるかも知れない。

 

そうして、何軒かのビルや一軒家を家探ししてみるとわかったことがある。

まず、電気は死んでいるということ。発電所か変電所は潰され、太陽光パネルなども整備不良や悪魔の血肉などでスマートグリットシステムは潰れている。

まぁ、これは想定内だ。遡月もそんな感じだったし。

 

次に、物資の類の残りが多い事。鍋や包丁などの調理道具は集団を統率するにあたって便利なのにだ。という事は、潤沢な生産施設、あるいは補給があるという事が見て取れる。

 

だが、バックに組織があるのならヤタガラスのターミナルの重要性はわからないわけはない。放置されている理由は何だ?単純に知らないだけ?

 

「バックにある組織は、ターミナルを使わせないようにしているのか?」

 

これが今のところ一番しっくりくる理由だ。ターミナルを使い結界を攻撃してきた術者がその組織にはいるのだろう。

 

「さて、ある程度情報は取れた。が、俺たち側からはこれが限界だな。危険だが、民兵の長と接触するしかなさそうだ」

「とすると、接触の仕方だね。私単独で行くというのはどうだろうか?」

「サマナー隠しか。だが、無駄に警戒されるだけだろうな」

「どうしてですか?」

「単純に、俺たちは沖縄の2年間の事を知らないからだ。共通のはずの情報がないってのは、疑念しか生まない。そこからは俺たちが遡月から来たって事を話さない限り良好な関係は無理だろうよ」

「なら、皆で行った方が良さそうですね。敵対的な人達なら全力で食い破れば良いですし、友好的な人達なら隠し立てをしない事で良い印象を持ってくれますから」

「強かになったな、縁」

「目指した背中が、千尋さんでしたから」

「...かなり恥ずかしいんだけど」

「良いじゃないかサマナー、先輩とはそういうものだよ」

「じゃあ、縁の案を採用。ただし、リーダーを見つける前に内田か所長からのアラートがあれば即離脱。それでいいな?」

 

頷く二人。なら、探索を続けるとしよう。

 


 

「セイ!ハァ!」

「タカギ!腰が入ってません!盾は体全体で使うのです!」

 

探索を続けて見えたのは、訓練風景。覚醒者の力で丸太を叩きつけ、それを盾で受け流す訓練のようだ。畑違いの意見だが、盾使いの技量を上げるにはかなり有効なトレーニングに思える。悪魔の攻撃って大体衝撃を受け流さないと死ぬし。

 

兜と赤いマントの盾使いが若者に指導をしているようだ。彼がこの民兵組織の長か?

 

「サマナー、多分気付かれた。赤マントの位置が私たちから訓練兵達を逃がせるように位置取りを変えている」

「じゃあ、ファーストコンタクトと行くか。デオン、この石を赤マントの足元あたりに投げてくれ」

「了解だ」

 

デオンが怪力を活かした強肩で100メートルは離れているその男の足元に石を届けた。ネットワークが潰されてから、有用だと思いいくつか作っていた通信用のストーンを。

 

訝しげな表情を浮かべながら石を拾う赤マント。会話をしつつ情報を抜き取ろう。

 

『こちら、侵入者です。念話聞こえてますか?』

 

びっくりしてわたわたと石を取り落す赤マントさん。意外とドジっ子属性なのだろうか。いや、筋肉男のドジとか誰得だよ。

 

おっかなびっくりな感じで再び念話の石を拾う赤マントさん。石を色んな角度から見ている。MAG感知の方がよく分かると思うのだが、とりあえずそこは気にしないでおこう。

 

『聞こえていたみたいなので話を続けます。俺は花咲千尋、ある事情があって旅をしています。貴方がこの民兵組織の長ですか?』

『頭の中に声が響く、なんと面妖な...まさか、これは呪術の類では⁉︎どうすれば良いのでしょう、呪術は筋肉でレジストできるのでしょうか』

『思考ダダ漏れですよ。伝えたい言葉を表に、それ以外の思考は止めるか裏に隠すようにするかで伝わらなくなります。あと、呪術じゃありません、現代魔導技術です』

『なるほど、なんとなく使い方はわかりました。現代魔導技術と呪術の違いはよくわかりませんがそこは置いておいてまずは自己紹介を。私はレオニダス、自警団においては訓練を取り仕切っています』

 

自警団の長という訳ではなかったのか。

 

『改めて、花咲千尋です。こちらに来た時にあなた方の戦いぶりは見させて頂きましたが、連携の取れた良いものでした。貴方の訓練の賜物という事ならば納得です』

『それはどうも。それで、何用があってこのような接触を?』

『探し物がありましてその情報を集めてる最中なんです』

『探し物、ですか』

『ええ。ただ、危険物である事は間違いないのでこの情報を話すべきか自警団の事を調査しているというのが現在の段階です』

『ふむぅ...手放しで信じてもらえないのは残念ですが、この末法の世です、仕方ないのかも知れませんね』

『交渉の札としていくつか用意しているものはあります。例えば、悪魔の出現そのものを抑える儀式の情報とか』

『そんなものがあるのですか⁉︎』

 

レオニダスさんは反応的に白、とすればここの大将がどう動くかだな。

 

『ええ、本来ヤタガラスが率先して行わないといけない事なのですけどね』

『いえ、助かります。日に日に強くなっていく悪魔との戦いは皆に苦難を強いてしまいましたから』

『じゃあ、それを交換条件に自警団のリーダーとの通話を希望します。可能ですか?』

『...正直なところ、都合が良すぎる気がしてならないのです。その上、あなた方は顔すら見せない。疑うには十分な理由では?』

『なら、そちらに向かいます。顔を見せなかったのは、あくまで保険。他所者を問答無用で殺すタイプのコミュニティでないことを確認するためですから』

『そんな風に見られていたのですか...』

『仲間の一人が、そういったコミュニティと接触してしまった経験があるんです。結束を高めるために外敵に苛烈になる事は決しておかしくありませんから、仕方ないといえば仕方ないんですけどね』

 

ちなみに、そんな経験をした旅する皇女様は極大魔法をぶっぱする事で圧倒的実力差を見せて切り抜けたのだとか。流石人類最高戦力、火力が違うぜ。

 

『じゃあ今から向かいます。攻撃したりしないで下さいね?』

『ええ、我が祖国に誓って』

 

「話は纏まった。とりあえず会うことになったが、他の皆の事は隠しておく。いいな?」

「信じられない人だったのかい?」

「逆、人柄的には信じられ過ぎるくらいだよ。だけど、レオニダスさんの立ち位置が分からん。組織ってのは摩訶不思議だからな」

「...良い人が上に行けるなんて希なんですよね、やっぱり」

「だな」

 

警戒されないようにゆっくりと歩いて進む。その時、所長からの念話が届いた。

 

『千尋くん、こちら海岸エリア。...酷いことになってるよ』

『具体的には?』

『海から悪魔が際限なく結界にぶつかっていってる。量は、数えるのが面倒になるくらいだね』

『結界面が近づいているんですか?』

『うん、とりあえず北から来てるのは黒っぽい魚人の群れ。海岸から目測で2キロだったのが結構な速度で近づいてきてる。あと2日あったら陸まで上がってくるよ』

『数による力押しで結界を抜けようとしてきてるんですか...報告ありがとうございます。こっちから提供できるネタになりそうです』

『何?もう民兵組織と接触するの?』

『訓練担当のレオニダスさんは信用できそうです。こっちからも鎮魂儀式の術式の提供という目に見えたメリットがあるのでそう拗れる事はないかと』

『千尋くん、交渉は任せるよ。正直、今の戦力だけじゃああの群は殺しきれない。数が多すぎる。こちらも手数が必要だ』

『了解です。聖杯探索するにしても、悪魔の支配する地域より人の生きてる世界の方が幾分かマシですからね』

 

念話を切り、レオニダスさんの前に行く。

 

鍛え上げられた身体、業物と分かる盾に、少し劣るように思える槍。

近接型の異能者に間違いはないだろう。

 

「まさか、こんな子供達だとは思いませんでしたよ、花咲殿」

「実戦経験は異変前からなんで、頼りにしても良いですよ?レオニダスさん」

「なんと!」

「とりあえず自己紹介を、俺は花咲千尋、こっちは仲魔のデオン。んでこっちが神野縁。さっきも言った通り、探し物があって旅をしてます」

「私はレオニダス。見ての通りこの自警団で訓練を担当しています」

「では、訓練終了後にそちらの長と通話、あるいは面会をさせて頂くという事でよろしいですか?」

「ええ。年若いというのもあるのでしょうが、貴方方は良い目をしている。謀略の類ではないでしょうからね」

 

そんなんで信じて良いのだろうか?顔無しの目などいくらでも誤魔化しが効くというのに。いや、嫌な予感しかしないから自己認識による変身はまだやっていないのだが。

 

「なんだか一方的な信頼ってのもアレなんで、訓練を手伝いましょうか?」

「いいえ、彼らはまだ基礎を固めている段階。気遣いは無用です」

「...なるほど、道理で若い子達が多かったんですね」

「ええ、彼らには槍など持たせたくはなかったのですが、状況はそれを許しませんからね」

「やはり、北の?」

「はい。連中が上陸するのは2日後。その時に私とヘクトール殿、この自警団の長は特攻を仕掛けるつもりです」

「...死ぬ気ですか?」

「まさか。生き残ってみせますよ。まだ私には彼らに教えなくてはならない事が沢山ありますからね」

 

それは、自分を鼓舞する言葉ではなかった。盗み聞いている少年たちに心配をかけまいとする言葉だった。

 

この人は、良き人なのだと今心で理解した。

 

「こりゃ、生き残らせたいな」

「花咲殿?」

「いえ、今後の方針を決めていたってだけです。では、レオニダスさんは訓練に集中してください。俺たちのせいかも知れませんが、集中してないのがちらほらと見えますよ?」

「...しまった!」

 

そうして訓練に集中するレオニダスさん。

盾の使い方を指導し、生き残る為の戦い方を教え導くその姿は、王たる風格をどこか思わせた。

 

「良い人ですね、レオニダスさんって」

「優しく、厳しく、強い。かのスパルタの王ももしかしたらこんな人だったのかも知れないね」

「スパルタの王?」

「ああ、300人で10万の軍を押し留めたという伝説の王の名前も、レオニダスと言うのだよ」

「スケールがデカい、流石に10万人は盛りすぎだろ」

「うん、私もそう思う」

 

というか、そのレオニダスのアウタースピリッツなのでは?という考えが過ぎる。まぁ、それはそれで構わないか。2年間に渡って自我を保てているのなら、アウターコードとやらから自我を保つ方法を知っているのかも知れない。

積極的に敵対する理由はないか。

 

この時は、そんな風に考えていた。

 


 

訓練を眺めていると、無精髭と名槍を携えた飄々とした雰囲気の武人がやってきた。彼が、自警団の長であるヘクトールだろうか。

 

「頑張ってるねー、皆。オジサン感心だよ」

「ええ、ヘクトール殿。時に、何故ここに?」

「ん?いや単純単純、新しい子達が来たみたいだから様子見にね」

 

俺たちを見つけたから?レオニダスさんは連絡をする素振りを見せていなかった。なら、誰かの念話?

 

まぁ今はいいだろう。自警団の長にはいくつか聞きたい事もあったのだし。手間が省けたと思っておく方がいい。警戒は必要だろうが。

 

「それで、少年たちは俺たちに助けを求めたって訳じゃないみたいだけど、何の用?いや、オジサン的には若い子が増えるのは嬉しいんだけどね」

「花咲千尋です。探し物があって旅をしています」

「...へぇ、こんな世界で旅ねぇ」

「まぁ、異変前から戦ってたんで」

「そりゃ凄い。見たところ20歳超えてないのに...ってレディに歳を聞くのは野暮だね。ごめんよ」

「いえ、大丈夫です」

「ま、そっちもこっちも話をしたいだろうし、拠点に案内するよ」

「...良いんですか?」

「ま、隠し立てはしてないしね」

 

「レオニダス、訓練頼むよー」と緩く声をかけた後、俺たちを案内するヘクトールさん。

 

隙だらけのように見えるが、隙がない。一筋縄ではいかないという事がよく分かる。

 

「じゃ、オジサンの質問があるんだけど、良いかい?」

「ええ、答えられない事には黙りますけど」

「君ら、どうやってこの街に来たの?」

「アマラ経路という別次元の道を利用しました。なんで、沖縄の他の事は知りません」

 

実は嘘は言ってない。ターミナルでの転移はアマラ経路を情報化して通り抜けているというものなのだから。

 

「へぇ、そこはどんな所なの?避難民の移動もそれを使えたら楽なんだけど」

「アマラ経路は高位の悪魔が根城にしている魔境です。レオニダスさんの訓練で多少戦えるようになったとしても、餌になるのがオチですよ」

「じゃあ、君らはどうやって抜けたの?」

「流石にそれは言えませんよ」

「んー、そう言われると気になるねー」

「駄目なものは駄目です。俺の所属しているコミュニティを守るために必要な事なんですよ」

 

そんな会話をしていると、所々補修されている建物に辿り着いた。

 

地図を照らし合わせてみる。ここは、沖縄に3つあるウカノミタマプラントの一つだった。なるほど、補給拠点としては最上だ。

 

「ここが何か、知ってるんだ」

「ええ、食糧生産プラントですよね。ここなら非常用電源やMAG炉心、そして何より食料にありつける。良い所を拠点にできたと思います」

「んー、良いね。ウチにも君みたいな知恵者がいたらもっと楽だったんだけどねぇ...」

「ヤタガラスの職員の生き残りは居ないんですか?」

「...あいにくと。1年前にヤベーのが現れてね、それを撃退するのに皆死んじゃったのさ」

 

飄々としているが、その言葉には重みがあった。後悔があったのだろう。

 

「すいません、辛い事を言わせてしまって」

「謝んなくていいよ。事実は変わんないからね」

 

警備の兵士を抜けて内部に入る。入り口を入ってすぐのロビーにはソファが備え付けられていた。受付だった場所だろう。

 

「じゃ、ここで良いよね?」

「はい、構いません」

 

内部構造は見せない、そういうつもりだろう。やはりやり手だ。

 

「じゃあ、まずは君達の話を聞くとするよ。探し物してるんだって?」

「ええ、渡来亜神社の祭具殿に収められていた聖遺物を探しています。心当たりはありませんか?」

「あるよー」

 

あっさりとのたまうヘクトールさん。欠片とはいえ聖杯の力だ、何かに使われてもおかしくはないのにそんな簡単に情報を渡すものだろうか?

 

「でも、タダじゃ教えられない」

「覚悟はしてます。けど、言わせてください。北からやってくる魚人の群れを迎撃する作戦に参加しろというのは、条件から外させてください」

「うん、大丈夫。そんなことは頼まないからね」

「ええ、こちらは利益など関係なく防衛戦に参加するつもりですから」

 

ポカンとするヘクトールさん。予想外の事だったのだろう、無償で援軍が現れるなどは。だが、これで良い。この手のタイプの人を相手にするのなら、主導権を握らせてはならない。

 

「君ら、正気?」

「ええ。正気で、世界を救おうとしています」

 

真っ直ぐと目を合わせる。ヘクトールさんはどこか測りかねるような目だったが、やがて根負けしたかのように両手を上げた。

 

「オジサン、君みたいな子は初めてだよ」

「まぁ、レアケースな自覚はあります」

 

「オジサンの目も衰えたかねぇ...」とボヤいて頭を掻くヘクトールさん。

 

交渉の第一段階、信用を得る事はとりあえず成功したようだ。

 

「...無償で働かせるのも悪いから、君らにはタダで情報をあげちゃう。もののど真ん中、聖杯の欠片のありかを」

「いえ、防衛戦に参加するのはこちらの勝手です。その情報の対価としては、悪魔の出現を抑える儀式についての術式情報でお願いします」

「...あー、やっぱ殺すだけじゃダメだったのね、連中」

「はい、悪魔の死体から出てくる非活性マグネタイトは異界強度(ゲートパワー)の上昇を引き起こします。なので、定期的にそれを下降させる儀式をする必要があったんです。儀式の種類は色々ありますが、主に鎮魂の儀って呼ばれていますね」

「それ、誰でも出来る事なの?」

「出来るようにします。魔法陣展開代行プログラムに土地の基点から基点に鎮魂が伝播するような術式を組み立てています。現地での微調整は必要でしょうが、これで沖縄のゲートパワーの上昇は抑えられる筈です」

「オジサン、ちょっと信じられないなー。君みたいな若い子がそんな複雑な魔法を使えるだなんて」

「伊達に異変前から戦ってはいないんですよ」

「それに、サマナーの実力を測るなら格好のが居るだろう?」

 

瞬間、デオンからMAGの奔流がヘクトールさんにのみ向けられる。ただの威嚇行為だが、十分な効果は得られたようだ。

 

「参った、人型の悪魔だったのね」

「ええ、造魔って言います」

「ああ、これは信じる証拠だ。こんな強いのを従えてる奴が無駄な嘘を吐く必要はない。信じよう」

「ありがとうございます」

「じゃあ、後でウチの実戦部隊の指揮官にその魔法陣ってのを教えてくれると助かるよ。顔無しだから見分け付きづらいけどね」

「では、聖杯の欠片のありかは何処にあるか、質問してもいいですか?」

「答えは単純、オジサンの身体の中」

 

「オジサン、聖杯の力で蘇った幽霊なのよね」

 

それは、ヘクトールさんがアウタースピリッツであるという事。

平成から令和に変わっても、アウタースピリッツ問題は継続しているようだ。

 


 

合流地点にした空き家にて、今日の報告会議を始める。

内田はミドルクラスの悪魔を数匹仲間にできたそうだが、前線で使うには少し心許ないとの事だ。合体施設がないのが響いてくる。

 

「んで、肝心な悪魔からの情報。北からやってくるのはダゴンって悪魔よ。分類は魔王、結界を押してるらしいのはその眷属ね。1年前にやってきたときは、人も悪魔も関係なく殺して食い荒らしていたそうよ」

「魚人の弱点属性はわかるか?」

「魔王の眷属の弱点はだいたい素体にした奴によるわ。前にやりあった魔王もそんな感じだったから。面倒だから気を付けて」

「素体ってのは、やっぱ人間か」

「そうよ。2年前にテクスチャが剥がれてから、黒点現象の見える沖縄では絶望に飲まれる人が多かったんだって。それで本土に船で逃げようとして、張ってたダゴンに食われて眷属化した。こんな感じじゃない?」

「...やるせないですね」

「...パニック状態の人間なんてそんなもんよ」

 

妙に実感のこもった内田の声だった。内田も、そういったパニックに巻き込まれて悪魔側の世界に入り込んだのだろうか?そんな考えがふと過ぎる。

 

まぁ、過去の詮索などあまり意味はない。今は来たるべき戦闘に対してどうするかを考える場だ。

 

「じゃあ、北側見てた私たちね。北側は悪魔も逃げてる無法地帯。半壊してる民家の家探しとかしてみたけど、物資は残りっぱなし。探索の結果は、北からの連中はヤバイとしか言えないね」

「あまり役に立たず、申し訳ありません...」

「いーのいーの、誰かが北に行かなきゃ千尋くんの詐術のネタにはならなかったんだし。それに、私たちのメインは戦闘だよ?交渉は得意な子に任せるで良いの」

「一応言っときますけど、今回は騙したりはしてませんよ。善意からの協力を申し出ただけです。そうした方が有効だと思ったので」

「詐術よりタチが悪いよ、サマナー」

「そうですね。でも、結果的には最良になったので良い事だと思います」

 

どこか暗い表情の縁、何か問題でもあったのだろうか?

 

「縁さん、気持ちはとてもわかります。誠意と真実だけで付き合っていけるのなら、それはとても素晴らしい事ですから。ですが、人間は組織に入るとそう単純にはいられなくなる。そういうものなのです」

「わかってはいるんですけどね」

 

「私の2年間の努力が、一瞬で千尋さんに抜かされてしまったように思えてしまったんです。...いけませんよね、こんなの」

 

「いや、戦闘型で誠意で動くお前と支援型で詐術で動く俺を比べてどうすんだ。お前が居るから俺は安心して交渉に行けたんだぞ」

「...え?」

「お前の守りは鉄壁で、戦闘勘から奇襲対応も良い。そんなのを後ろにつけてた俺は言わば虎の威を借る狐だぞ。わかってんのか?」

「サマナー、流石に自虐が...過ぎないな、当然の評価だ」

「でも、デオンさんが居るじゃないですか!」

「デオンがカバーできるのは高位魔法クラスまでだ。皇室が広域極大の重ねでぶっ壊されてる世界だぞ、その程度で安心できるか?俺は無理だ」

 

「だから、俺はお前がいて良かったと思ってるよ」

 

その言葉で、縁は衝撃を受けたような顔をした後に顔を伏せて、こう呟いた。

 

「...千尋さんは、狡いです」

「それが取り柄だからな」

 

とりあえず、縁の顔から曇りは消えた。それで良いだろう。

 

「じゃあ、寝ずの番はデオンと内田の悪魔に任せて、寝るとしようぜ」

 

そう言って、デオンに電子書籍の入ったタブレットを渡す。そういや、ネットが潰れてるから新しい本は読めないのか。これは、道中に本を探す必要もありそうだ。暇は大敵だからな。

 

「おやすみー」と言って様々な部屋に散る皆。できればベッドを使いたいが、寝袋があるので無くても問題はない。

 

「花咲、ちょっと良い?」

「どうした?内田」

「刻印の解除ってどのくらい時間かかる?」

「一瞬で済むぞ。そんなに完璧な術式じゃないからな。やろうと思えば力尽くでもやれるかね?」

「そ、ありがと。じゃあ明日の夜一旦解除する感じでよろしくね」

「あいよー」

 

「久し振りに厨二モードのお前か...皆になんて説明しよう」

「ありのままでいいんじゃない?あんたは私の奴隷になったって」

「まだ契約は成立してないんだよなぁ」

「じゃ、お休み」

「おやすみー」

 

と、送り出した内田は、すぐに戻ってきた。

 

「ベッド全部埋まってたわ」

「あれま、三人家族だったのか。ブルジョワだなー」

「私、寝袋持ってきてないんだけど」

「貸せってか?いいけど」

「良いんだ」

「野郎としては、女の子に体を痛めて欲しくはないんだよ」

「なにそれ、男たるもの!って奴?流行らないわよ、それ」

「流行で行動は決めてねぇよ」

 

そんなわけで、俺は絨毯の上で寝る事となった。内田は寝袋で隣にいる。

 

「ねぇ、花咲」

「なんだ?」

「あんた、愛されてるわね」

「そーなんかねー?」

「2年間も離れてたのに、覚えてもらえてるってすごい事なのよ?」

「それは、本当に感謝してる。けど、覚えてくれていたのは多分お前の思ってるのとは違う理由だと思うぞ」

「...なんだってのよ」

「俺は、異変の起こる前の世界と紐付けされて覚えられてたんだよ。だから、花咲千尋は忘れられてなかった。それだけだよ」

 

「その理屈じゃあ、私が忘れられたのは...」

「...内田?」

「...なんでもないわ、寝る」

「ああ、お休み」

 

内田は、誰かに忘れられた経験があるのだろうか。

だとしたら、それは悲しい事なのだと思う。

 

長くを生きている内田には、きっとありふれた事であったとしても。

 

「なぁ、もう寝たか?」

「...何よ」

「俺の魔導技術には、継承の儀っていう術がある。それは、記憶と知識を後継に明け渡すってものだ」

「...それが?」

「俺は、お前を忘れない。俺の後継になる奴の記憶にも、お前は残り続ける。だから...」

 

「お前を、一人にはしないよ」

 

「...馬鹿」

「すまんね、性分なんだ」

 

それから程なくして、俺は眠りについた。何となく隣からの視線を感じながら。

 




防衛に関しては右に出る者がいないコンビが今回のお助けNPCです。正直、この二人のどっちにするか迷ったその時、「どっちも出せばいいじゃない!」と閃いたのです。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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