白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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ダゴンvs渡来亜自警団プラス花咲一行
開幕です。


渡来亜海岸防衛戦

「術式の調整は終わりました。これで、この渡来亜が基点になる鎮魂術式はあなたのものです」

 

電気屋に転がっていたスマートフォンに悪魔召喚プログラムと魔法陣展開代行プログラムをコピーしたものを渡す。

 

「...いささか信じられないな。いや、隊長を疑ってる訳じゃないが、君らみたいな若い子がよくわからない魔法に通じてるってのはどうにもね」

「異変前からの知識の継承って奴ですよ。じゃあ、MAGの供給バランスにだけは注意してくださいね。最初の一回は俺もサポートに入るつもりですけど」

「まぁ、やってみるさ。悪魔が出にくくなるってのならこちらからも願ったりだ」

「じゃあサダハルさん、任せます」

「ああ、任された。だが、その鎮魂の儀とやらは何で今やっちゃいけないんだ?」

「単純ですよ、北からの防衛には悪魔も使うからです」

「悪魔を⁉︎」

「ええ、なんでこっちの強い悪魔が行動しやすいようにまだ異界強度(ゲートパワー)は高い方が良いんです」

 

それに、アウタースピリッツであるヘクトールさんとレオニダスさんのパフォーマンスにも影響が出る。

もちろん、敵の動きも良くなるだろうが、それは誤差レベルだ。何せ、ゲートパワーの影響は霊基が強くなればなるほど強くなるのだから。基本的にミドルクラス下位の集まりである魚人達の足を鈍らせるよりはこちらの持ち札をフルに活かせる布陣を敷いた方が良い。

 

コレは、実際に防衛戦に当たる全員で決めた事である。

 

「...とりあえず納得した。だけどいいのか?昨日来たばかりのお前達を死地に向かわせる事になったのに」

「今のこの世界、死地じゃない所の方が少ないですよ」

「そりゃそうだが...」

「だから、心情的には守りたいんですよ。損得とか抜きにして」

「...納得した。お前、根本的にお人好しなんだな」

「詐術士とも良く呼ばれますけどねー」

「オイ、信じる要素をいきなり蹴っ飛ばしてくるな」

「すまないねサダハル、サマナーって割とこんな感じなんだ」

 

まさかの身内からの離反である。おのれ。

 

「まぁ、優しい嘘つきもいて良いって事で納得しとくよ。花咲先生」

 

そんな言葉と共に、パラメータの調整は終わった。コレで、契約条件はイーブンだ。

 

貸し借り無しで、共に戦いに挑もう。

 


 

「オジサンの見立てじゃ、陸に着くのは明日の筈だったんだけどねぇ」

「私の見立てもそう。つまり、ラストスパートをかけてきたってことだね。おそらく広域の強化魔法。ダゴンの術だと思うよ」

「何にせよ、こちらから打って出る時期が少しズレただけの事です。花咲さん、行きましょう」

「ああ!サモン、ペガサス!空襲の時間だ!」

 

ペガサスの上に優雅に乗る真里亞。

ヘクトールさんの投げ槍を筆頭にひたすら遠距離で削るのが作戦の第一フェイズ。

 

魔力のこもったヘクトールさんの投げ槍で結界にダメージが入り破られる基点になってしまうが、それはこちらの狙い通りである。どこから入ってくるかわからない連中よりも、一点から雪崩れ込んでくる連中の方が相手取りやすい。

 

そして、こちらには広域殲滅を得手とする使い手がいる。

 

「来たよ!」

「では、開幕の号砲を頂きましょう。極大火炎魔法(アギダイン)

 

結界の空いた穴に、極大クラスの白い火炎の塔が突き刺さる。

今の一撃だけで、1000は消し飛んだ。流石、人類最高の血統だ。

 

だが、それで稼げたのは3分程度、別の所からすぐに別の魚人が寄ってくる。先ほどの量とは比べ物にはならないが、それでもかなりの量だ。しかも、結界から入ってすぐに散開している。先ほどの炎の塔と同じ轍を踏まない為だろう。

 

「そんなので躱せると思ったの?可愛いね!」

 

その逃げた先に、高位の呪殺の力がこもったトランプナイフが配置される。そして、狙いを違わずに落下し、その命を奪った。

この街で仲魔にしたグリフォンに乗った、内田の仕事だ。

 

だが、逃れた魚人も少しは残っていた。

 

「前衛、カバー!」

「お任せあれ!ウルァアアアアアア!」

 

戦士の咆哮(ウォークライ)、レオニダスさんの得意とする技術だ。

殿が自身であると敵味方皆に示す事で、敵意を集中させるという技術だ。デオンの魅惑のものとは違う、戦士のあり方が示す力だろう。

 

「よそ見厳禁!起きろ、喰魔剣(クレイモア)!」

 

そして、その致命的な隙に入り込むのが今回の戦闘で遊撃に回っている所長。海面を割るほどのスピードで魚人を切り裂き、その血肉でMAGを回復させる半永久機関。

 

切れば切るだけ強くなる、魔人の姿がそこにはあった。

 

「...3分!縁、蓋!」

「はい!」

 

結界の穴に、縁の守りの盾で蓋をする。ここまでが1セット。

縁の守りの盾は、結界と比べれば破壊しやすい、故に魚人達は集まって押し崩そうとしてくる。想定通りに。

 

そして、5分程度で崩されたその壁に、再び真里亞の極大火炎魔法(アギダイン)が突き刺さる。

以下は、ローテーションだ。魚人を誘引して真里亞の火炎と内田のトランプナイフで数を減らし、残りを所長が喰い尽くす。

そして、散発的な攻撃にならないように、敵を集めるのが縁の穴を塞ぐ守りの盾。

 

圧倒的な少数であるこちらの取れる策は、こんな感じだ。

 

この作戦の肝である縁の盾はかなりのMAGが使われているが、それは実の所大した消費ではない。

 

何故なら、ウチには美遊ちゃんが居たからだ。

 

出立前に彼女の生み出す生体MAGを皆のCOMPに分けて貰った。あの炉心のような出力で生み出されたMAGは、多少どころかかなりの無茶をしても何も問題はないほどに自分たちに潤沢な力を与えてくれた。

 

この戦いが終わったら嗜好品の類を積極的に集めて、その労に報いるべきだと思考の何処かで考える。

 

「お前さん達、そろそろ出番だよ?」

「そりゃ、来ますよね。雑魚じゃ意味がないってわかってんですから」

 

「作戦を第2フェーズに移行!」

 

一撃で守りの盾をぶち壊す、縦に5mはありそうな巨大な蛇のような悪魔。腕が4本あるのが少し厄介そうだ。

それが、魚人の群れの先頭を抜けてくる。スピードはかなりある。流石はハイクラスだ。だが、それは周りの魚人と足並みが揃っていないという事の証明。

 

刈り取る隙には、十分だ。

 

「レオニダスさん!」

「ええ、見せましょうスパルタの矜持を!炎門の守護者(テルモピュライ・エノモタイア)!」

 

レオニダスさんの技とも術とも違う力、アウタースピリッツの能力、それは砦と300人の兵士を召喚するというもの。

 

その威はダゴンをも無視できないと悟らせるものであった。

 

この隙に、ペガサスと真里亞が縁を回収していた。コレで問題なく撤退できる。

 

「来ます、レオニダスさん!」

 

ダゴンは、口にMAGを集中させてブレスを放とうとしていた。

奴の特性から考えると、恐らく水のブレス。

 

それが、砦と300人の兵士をなぎ払おうとし

 

「これが、スパルタだぁあああああ!」

 

300人の一糸乱れぬ連携により、そのブレスは前衛の50人を削るだけに収まった。

 

そして、この能力はそれで終わりではない。攻撃を受けた事により蓄積されたダメージは、そのまま反撃のための力になる。

 

それが、レオニダスさんの能力。

 

今、残った250人の力は、倍増されている。

 

「遠距離隊、雑魚狩り!兵士達の道を開け!」

 

海上にあらかじめ準備しておいた反発(ジャンプ)の術式を発動し、兵士達の足場を確保する。

 

そして、兵士達は走り出した。

守るべき民の為に。

 

「鬱陶しいわ!我はダゴン、大海の主であるぞ!」

「では名乗り返しましょう。我が名はレオニダス!かつてスパルタの王であった者であり、今は無辜の民を守る為に戦う者!」

 

「大海の主、なにするものぞ!」

 

その名乗りの間も走り続けていたスパルタの兵士達は勇敢に海上を駆け抜けていった。

 

だが、ダゴンは伊達ではなかった。物理耐性の力場を広げて兵士の接触そのものを妨げ、4つの手にそれぞれ水の弾を作り出して射出してくる。術式は水撃魔法(アクア)だが、MAG密度は高位クラスだろう。次々と兵士たちが撃ち落とされている。

 

だが、値千金の情報は手に入った。ジャマーのない悪魔であるダゴンには、()()()()()()()()()()()()

 

「よし、第2フェーズ終了!弱点は射撃と電撃、無効は火炎と疾風、耐性は他全部!」

 

「メドゥーサを中心に戦闘を組み立てる!死ぬ気でカバーするぞ!」

 

その言葉と共にメドゥーサを召喚、そして即MAGの過剰供給(オーバーロード)。溢れる力をコントロールして、限界以上の一撃を放たせる。

 

極大電撃魔法(ジオダイン)...ふぅ、わかっていても辛いものですね」

 

光の柱がダゴンに突き刺さる。力場を抜いたクリティカルヒットだ。

 

だが、ダゴンは倒れない。ダメージがない訳ではないだろう。だが、問題なく動いている。傷が再生しているのだ。

 

「メドゥーサ、再生のコアを探したい。撃ちまくるぞ」

「悪魔使いの荒いサマナーですね」

「すまん、今度ケーキとか作るからそれで勘弁してくれ」

「それは楽しみですね。では、参りましょうか」

 

メドゥーサと意識をリンクさせる。オーバーロードの火力よりも、今は手数が必要だ。メドゥーサを発動媒体にして、極大電撃魔法(ジオダイン)を狙った軌道に乗せて放つ。それも、4つを連続させて。

 

魔導の術の一つである、遅延発動と同時起動の合わせ技である。今、メドゥーサの周囲には4つの魔法陣が展開している。それが一つずつ術を放っているのだ。

 

胸は最初に吹き飛ばしたので除外、なのでセオリー通り頭を狙っているが、向こうもメドゥーサを警戒し始めたのか回避行動を取るせいで頭の中心に当たらない。

 

「同胞達よ!奴の動きを止めるのです!」

 

そこで出てくるのがレオニダスさん。話に聞いていた砦の発動制限時間が近いのだろう、兵士たちで動きを止めつつレオニダスさん本人が頭を狙うつもりのようだ。

 

砦から飛びかかるレオニダスさんに放たれる水弾、それを華麗な盾さばきにて全て払いのけた。

 

「フン!」

 

耐性力場の上に立ち、槍を突き刺すレオニダスさん。

 

まだ前哨戦だというのに無茶をする。が、お陰で海面に張っている魔法陣にダゴンは縫い付けられた。

 

「メドゥーサ!」

「ええ!極大電撃魔法(ジオダイン)!」

 

4連ジオダインがダゴンの頭に向けて放たれる。レオニダスさんは槍を手放してグリフォンを駆っている内田に拾われていた。

 

ついでとばかりに、トランプナイフの雨を降らせながら。

 

この4連ジオダインで、確実に頭は潰せた。

 

だが、ダゴンは再生を始めている。そして、偽装が解けたようだ。

 

考えられるのは、コアのない再生タイプ。MAGが切れるまで殺し続けるしかないようだ。ハイエストクラスの悪魔ならば、そんな理不尽もやってのけてくるだろう。

 

偽装が解けた事により感じるプレッシャーはこれまでのものとは桁違いだ。

 

「おのれレオニダス!おのれデビルサマナー!我の眷属に牙を向けるどころか我が身体の戒めさえ破壊するなど!」

「許せないか?まぁ税金払ってないんだから諦めろ。お前にこの国にいる権利はないんだよ」

「小癪な人の子風情が!」

 

激昂するダゴン。ここで冷静になられるのが一番困る事だったので正直有り難い。

 

ダゴンは俺に向けて突進してくる。俺の位置は後方、住宅街に繋がる大きな道路の上だ。

 

そこに向かい、陸の上へとダゴンは身を乗り上げてきた。

 

「殺戮フェイズ開始!ヘクトールさん!」

「とりあえず、頭もらうよ。不毀の極槍(ドゥリンダナ)!」

 

ビルの上に移動したヘクトールさんが、手甲からの炎でブーストをした投げ槍をダゴンの脳天に向けて投げつけた。

 

頭を貫き、蛇のような体をズタズタに引き裂きながらドゥリンダナは大地に突き刺さった。

 

だが、再生は止まらない。削られた肉がすぐに埋まっていく様は、ちょっとしたグロ動画だ。

 

「この槍、覚えているぞヘクトール!恨みは必ず晴らしてやるからな!」

「オジサンちょっと遠慮したい気分ね。君はほら、見た目が蛇っぽいし。オジサン蛇肉はそんな好きじゃないのよね」

「愚弄するのも大概にせよ!」

 

適当な事を言いながらヘクトールは建物から建物へと逃げ回る。事前に準備した侵攻ルートにダゴンを乗せながら。

 

「...あいつ、冷静になったらヤバイな」

「そうだね、広域魔法は当然あるだろうし、強力な魚人との連携を取り始めたらそれだけで攻め手が絞られる。こちらの攻撃で有効なのはヘクトールの投げ槍とメドゥーサの電撃しかないのだから」

 

今のところ所長と真里亞が苦もなく倒せているそうだが、後続になればなるほど魚人は強くなっていっているそうだ。

 

ダゴンの親衛隊という奴だろうか。

 

なんにせよ、先回りだ。

バイクのサイドカーにメドゥーサを乗せ、デオンの運転で移動する。

 

優れた身体能力でポイントに駆ける縁は、もうじき目標ポイントに到達する。

 

ヘクトールさんのドゥリンダナのリチャージはもう少しかかるので、今回は準備していた投げ槍を使用する。それでも十分な火力を出すあたり、ヘクトールさんはアウタースピリットだ。味方で良かった。

 

「クソ、ハイアナライズ完了。完璧に再生のネタが無い奴だ。削りきるしか無い」

「殺して死なない者ならば、封印するというのはどうですか?」

「無理、その場凌ぎにすらならない。この異界強度(ゲートパワー)なら2日と待たずに破られる」

 

鎮魂の儀は、即座に劇的な効果が起きるものではない。よって、この化け物に対しての対応は、どうにかして殺す以外にないのだ。

 

『オジサン、そろそろ配置に着くよ。大丈夫?』

『問題ないです。十字砲火(クロスファイア)で削れるだけ削りましょう!』

 

事前に配置していたMAG反応式のトラップが起動する。対象に対して緊縛の状態異常を引き起こす特注の鎖が絡みつくものだ。鎖一本7万マッカ。それが20本。

メディラマストーンが高値で売れていた頃に、込められた術式の綺麗さに衝動買いしたものだが、役に立つのだからこの業界って不思議。だが、後で冷静に考えると単価クッソ高いので相応の相手にしか使えない為、死蔵していたという過去を持つ。

 

「ぬぅ、小癪な!」

「高かったんで壊さないでくださいお願いします!」

「サマナー、阿呆言っている暇かい⁉︎」

 

ダゴンは鎖に絡まれて身動きは取れていない。その隙に、ひたすら連撃を叩き込む。

 

極大電撃魔法(ジオダイン)!」

「おりゃ!っとね」

 

「小賢しい。纏めて吹き飛べ下郎ども!」

 

ダゴンはダメージを喰らいながらもMAGの集中(コンセントレイト)を開始した。

 

それは、間違いなく災害を引き起こすレベルの力。極大広域クラスの魔法の準備だ。だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「「任せた!」」

 

「はい!」

 

そんな暴威に対して、一人の聖女が立ち向かう。

 

「この世の何処かで見守りたもう我らが神よ、私の願いにその加護を!」

 

「吹き飛べ!極大広域水撃魔法(マハアクアダイン)!」

「神威の盾!」

 

縁のガントレットが解けて、暴威を防ぐ盾になる。それは、どこか神々しさすら感じさせる願いの結晶。ただ、護るという事に特化した高位覚醒者神野縁の奥義。

 

俺たちを襲うはずだった水の濁流は、盾を貫く事無く全て受け止められた。

 

「貴様⁉︎」

「チャンスタイムはまだ続いてんぞ!撃ちまくれ!」

「ついでです。効果が薄くても、通りさえするのなら!」

 

水を受け止めた盾が、再びガントレットへと再構築される。

その中に、強大すぎる水の力を内包させながら。

 

「オジサン、地味だねぇ!」

「有効打にはなっていますよ。極大電撃魔法(ジオダイン)!」

「握る拳に、願いを込めて!神威の一撃!」

 

槍がダゴンを貫き、電撃がダゴンを焼き、縁の拳が力場に当たり、受け止めた水流を一点に解き放った。

 

「グゥッ⁉︎」

「やはり耐性力場は抜けませんか!」

「...受け止めた力を、そのままに拳に込める技か。見事としか言えぬな」

 

『不味いね、冷静になられた』

『普通カウンター決められたらキレると思うんですけど』

『オジサンもよ。ダゴンは力だけの奴に見えてたんだけどねぇ...』

 

「しからば、我の魔王としての誇りを持って蹂躙させてもらおう!」

 

瞬間、投げられる槍。そしてそれに結び付けられた袋。

ダゴンの頭に当たり、袋が弾ける。

 

中にあったのは、茶色い物体。

 

というか、糞尿だった。

 

「貴様どこまで我を愚弄するかヘクトールゥ!」

「いや、隙だらけだったからねー」

 

『お見事です』

『でも、芯が冷静になってるよ。2番から7番のトラップは見せ札にして最終防衛ラインで決める。異論は?』

『ありません』

 

ダゴンは怒りからか、鎖の戒めを力ずくで解いた。術式の効果時間も考えるとまぁ持った方だろう。

 

「さぁ、貴様の死ぬ番だ!」

「怖いねー」

 

4本の腕から放たれる水撃を華麗に回避するヘクトールさん。躱しながらダゴンに対して投げ槍を決めている。だが、逃げながら放つその投げ槍には先ほどレベルの力は込められていない。

 

「メドゥーサ、足を引っ張るぞ!」

「できることは変わりませんけどね。極大電撃魔法(ジオダイン)!」

「邪魔だ小虫が!」

 

こちらに向けて放たれる水撃魔法(アクア)。デオンのドライビングテクニックにより着弾はしないが、破片がバイクを襲う。ギリギリの回避だけではいずれバイクがお釈迦になるだろう。

 

『2番、よろしくね』

『はい!』

 

2番は、属性地雷だ。主要属性の高位ストーンを埋め、アナライズ結果に基づいて起爆させる手筈になっている。

 

だが、一つ目のトラップで警戒が高まっていたのか、ダゴンは大きく跳ぶ事で属性地雷のエリアを抜け出した。

 

「着地狩り!」

「ええ、極大電撃魔法(ジオダイン)!」

 

「いい加減鬱陶しい!」

「よそ見して良いの?オジサンやる気割とあるんだけど」

 

放たれる全力の投槍。槍はダゴンの目から頭蓋を貫き抜けた。

 

「おのれヘクトール!」

「うーん、オジサン蛇野郎に言い寄られる趣味はないんだよねー。ほら、あっちのメドゥーサちゃんにしたら?蛇同士案外話あうかもだし」

「愚弄するのもほどほどにしておけぇ!」

 

再びヘクトールさんに放たれる水撃魔法(アクア)の嵐。ダゴンを見てもいないのに華麗に躱す姿は、ちょっと気持ち悪さすら感じさせる。

 

ダゴンはヘクトールさんを追いかけつつ仕掛けていた魔導トラップの類を全て回避してのけていやがる。ちょっとは応えてくれないと困るのだが、そのあたりは流石の魔王と言ったところだろう。

 

「さぁ、そろそろクライマックス。ここが最終防衛線だ!」

 

拠点エリアをぐるっと一周しながら逃げていたヘクトールさんは、自警団員全員を動員した防衛線にダゴンを誘導してみせた。

 

そこには、先回りしたレオニダスさんと内田が既に構えている。

 

「誘い込まれたか⁉︎」

「もう遅いよ、後ろからやってくるのは、おっかないお嬢さんなんだから」

 

海岸からペガサスに乗った真里亞が、MAGの過剰集中(コンセントレイト)を行いながらやってくる。

 

自警団総員78名プラス雇われ4人とアウタースピリッツ2名と、皇族一人による挟み撃ち。

ダゴンは一瞬迷った後に、自警団を突破する方が早いと確信して全力の密度のアクアブレスを放とうとして。

 

炎門の守護者 (テルモピュライ・エノモタイア)ァァ!!」

 

再び現れた砦と300人の兵士達が、一糸乱れぬ統率で盾を振り上げるのを見た。

 

300人の兵士は、それぞれの命が断たれてもなお盾を構え続け、ブレスの勢いを殺してみせた。

 

これが、仲間を守るためなら命を全力で燃やすあり方がスパルタなのだと言わんばかりに生き抜いたその一瞬は、闘う戦士たちに反撃のチャンスを与えてみせた。

 

「総員、撃てぇえええええ!」

 

レオニダスさんの号令と共に砦の上にいた自警団の皆が銃撃を開始する。一人一人の弾は通常弾でしかなく、火力に数えるのにはあまりに小さいが、それでもダゴンの肌を傷つけ、多少の再生のMAGを使わせてみせた。

 

「まだ終わらぬ!極大水撃魔法(アクアダイン)!」

「この砦は、我が命に代えても守り抜く!今を生きる、仲間たちの為に!ぬぉおおおおおおお!」

 

レオニダスさんがアクアダインに衝突し、盾を全力で叩きつける事で軌道を天へと逸らしてみせた。

 

だが、それは致命的な隙。

残り三つの手から放たれた水撃魔法(アクア)がレオニダスさんを襲い。その身体を貫いた。

 

そして、その仕留めたという隙こそが、狙っていたものだった。

 

MAG過剰供給(オーバーロード)!ぶちかませ!」

「これが最後です!極大電撃魔法(ジオダイン)!」

 

「オジサンも、格好つけないとね。標的確認、方位角固定……不毀の極槍 (ドゥリンダナ)! 吹き飛びなッ!」

 

二つの力がダゴンを貫き押し留める。そして動けなくなったところで、()()()()()()()()M()A()G()()()()()()()()()()()()。これで、1発限りの真打の登場だ。

 

「日出ずる国の象徴として、この聖なる炎を捧げます!極大広域火炎魔法(マハラギダイン)!」

「炎は、我には、効か、ぬ⁉︎」

「3種の神器が一つ、八尺瓊勾玉を介して放たれた力は力場を貫く性質を持つのです。貫通現象と学者は呼んでいましたね」

 

「貴方の敗因はただ一つ。力に奢った事。くだらぬ挑発になど乗らずに後衛としてその暴威を振るっていれば、結末は変わったでしょう」

 

「その命燃え尽きるまで、せいぜい悔やんでいなさい」

「おのれ、おのれ、おのれぇええええ!」

 

身体が溶けながらも真里亞に襲いかかろうとするダゴン。

 

そこに、騎士と戦士が立ち塞がる。

 

「させませぬ!」

「同意見だ、最後くらいは美味しいところを持っていかないとね」

 

「ぬぉおおおおおおお!」

「我が剣は祖国の為に。百合の花散る剣の舞踏(フルール・ド・リス)

 

体に3つの穴が開きながらも果敢に攻めるレオニダスさんの槍と、チャンスと見るなり飛び出した怪力無双の剣がダゴンを地に縫い付ける。

 

「人の子、風情、が...」

 

そんな捨て台詞を残して、ダゴンは燃え尽きた。

 


 

その後、勝鬨を上げようとするレオニダスさんが血を吐いた為緊急治療を行ったり、回避されてしまったトラップを回収したりとそれなりに忙しくしていたら日は暮れてしまった。

 

ちなみに、途中から一人で大暴れしていた所長の負傷はかなりのものだったが、ダゴンを失った後の魚人達に何故か敬われた為に事なきを得たとの事だ。どういう事かわからないが、とりあえずカオスの思想のおかげなのだろうと納得しておく。

 

「ふぃー、これでこの街の問題は解決かね?自警団はちゃんとできてるし、鎮魂の儀の術式は渡せた。後は、ヘクトールさんから聖杯の欠片を抽出する術式を組み上げれば、帰れるな」

「...サマナー、来客だ」

「こんな時間に?」

 

「あらー、バレちゃった訳ね」

「ふむぅ、どうやら私には隠密行動は難しかったようですね。すみませぬヘクトール殿」

 

そこには、ヘクトールさんとレオニダスさんがいた。

 

何やら、覚悟を決めた瞳で。

 

「お二人とも、自警団の仕事は大丈夫なんですか?あんな事があった後ですし」

「いやー、そもそもオジサン達あいつと相撃つ気だったからさ、後の引き継ぎとかはちゃんと済ませてんのよ。あ、次の自警団長はサダハルね。アイツ個人はちょっと頼りないけど、周りにゃ支えてくれる仲間がいる。だから、なんとかなるなって」

「ええ、花咲殿と会ったあの日の訓練は、子供達に自警団がなくなっても生き残る術を与える為のものだったのですよ。旅の者との取引がなくなっても、盾さえあれば案外生き残れるものですから」

「そうだったんですか」

 

ここでも旅の者。なにか嫌な感じはするが、この世界で武器を流通させて得になるのは人間側だけだ、信頼できるだろう。

 

「すいません、ここの自警団は旅の者になにを提供していたんですか?」

「主に食料ですね。うかのみたまぷらんととやらのお陰で作物は3日で実が付くため、そう困る事ではありませんでした」

「大量の武器を作ってくれた事にはほんと感謝だよねぇ。どこの国の占領政策かは知らないけどさ」

「やっぱ、そう見えますか」

「それ以外ないでしょ。あらかじめ好印象を持たせておく事で、スムーズに占領をできるようにする政略。単純だけど有効だねぇ」

「...流石は、トロイア戦争の英雄ヘクトール殿ですね」

「知ってるって事は、そっちの騎士さんご同郷かね?」

「いえ、ですが私の祖国フランスにも兜輝くヘクトールの逸話は伝わっていました」

「...知られてるって意外と恥ずかしいもんだねぇ」

「それほど素晴らしい生き様を見せたという事でしょう!誇るべきですぞヘクトール殿!」

「オジサンそのノリにだけは付いてけそうにないわ」

 

なんかぐだぐだになり始めたところで、ヘクトールさんが背中に隠していた酒を取り出す。

 

「今日の功労者である魔術師殿と一杯やりたくて探してたのさ。どうする?月見酒でも悪くないと思うけど」

「この黒に囲まれた空の月って、肴になりますかね?」

「酒ってのは何で飲むのかも大事だけど、やっぱ誰と飲むかだよ」

「それもそうですね。じゃあ、頂きます」

 

ブルーシートとちゃぶ台をストレージから取り出して、即興の宴会場を作る。

 

「すいません、つまみの類は持ち合わせてませんでした」

「いいのいいの。むしろなんでこんなの持ち合わせてるのか気になるんだけど」

「野営用です」

「なるほどねー、建物はいくらでもあるんだから、このシートさえあればどこでも拠点にできる訳か。ストレージって便利だねぇ、オジサンの時代にも欲しかったよ」

 

どうせなら今回の功労者であるメドゥーサも労わりたい、そんな事を言ってみると、意外にもすんなりと受け入れられた。

 

「では、本日の勝利に」

「「「「「乾杯!」」」」」

 

自警団にも他の仲間にも内緒の、ヘクトールさんとの最初で最期の酒盛りが始まった。




ちなみに描けていませんでしたが、所長は強くなり続ける魚人相手に無双ゲーやってました。途中までは真里亞の援護付きでしたが、作戦の推移と共に悪魔を剣で喰って強くなっていったため、一人で抑えられるようになったからです。闘争の中で強くなり続ける、まさにカオスなり。

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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