白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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ファイアーエムブレムに熱中して体調崩すバカがいるらしい。虚弱ゥ!

風花雪月はかなり良いです。まぁ、クラシックハードで始めたのに死神騎士に喧嘩を売って死にかけたのは些細なこと。あいつ殴られたら動き出すとか顔見せボスの風上にも置けねぇですよ。敵将撃破がクリア条件じゃなかったらユニットロストの危機でした、はい。


願いのカケラ

牛頭天王をその身に宿したヨスガは、単体で冗談のような戦力を誇っていた。

 

浅田彼方と互角のスピード、万能属性魔法を使いこなした数多の形態変化、これに街レベルの概念装備の力が加わっていたかもしれないというのだから笑うしかない。

 

が、今この色物集団の指揮を取っている身としては、最低限の仕事はしなくてはならない。

 

「浅田彼方!死ぬ気で抑えなさい!撃ち合いになったらこっちは火力負けするわ!」

「わかってるって!」

 

袈裟斬りから始まる浅田彼方の空中剣戟は、踊るようで、それでいて死を予感させる鋭さを持っていた。

 

「それは、見た!」

 

だが、ヨスガはそれを空手空拳で受け流す。右腕からおぞましい悪魔の力が感じられるが、それだけなのにだ。

 

ヨスガは、武器を持たずに浅田彼方と互角の近接戦闘能力を保持しているという事だ。

 

正直、あの嵐のような戦いに援護を入れるのは簡単ではない。浅田彼方の心を理解している花咲なら違うのだろうけれど、奴は最後の締めの準備に取り掛かっている。

 

ならば、私なりのやり方でここは行く。

 

正々堂々、正面突破だ。

 

「サモン!キマイラ!ニュクス!作戦をCにスイッチ!」

 

「ウォオオオオ!」

「呪いを、喰らいなさい!」

 

浅田が宙に離れた瞬間に、キマイラの雄叫びとニュクスのフォッグブレスが放たれる。宙の浅田からの風圧により動きを止められたヨスガは、その2つの能力低下現象を引き起こす技により大幅に動きが鈍った。

 

「フィン!ラクシュミー!縁ちゃん!」

 

その状態なら、浅田の回復する瞬間の時間を稼ぐ事が、この強者達にはできるのだ。

 

「舞うが如く!」

「ハレルヤ!」

「一斉射撃!」

 

フィンが上空から、ラクシュミーが若干後方から銃撃で、縁ちゃんが低空からそれぞれ同時に攻撃を仕掛ける。

 

「邪魔ァ!」

 

だが、それでもなお実力はヨスガが上回る。力を削がれ、頑強性を削がれ、反応性も削がれた。

 

しかし、そんな状態であるにも関わらず銃撃を当たるものだけ防御しながら縁ちゃんの低空からのアッパーを踏み台にして高く飛び、フィンと空中で交錯して上を取り、メギドラを構えた。

 

そしてそれを、神野の神威の盾で防ぎきる。が、それすらも予想済みだったのか上空で悠々とデクンダストーンを使われた。これで、能力低下現象は解消されてしまった。

 

これで振り出し。

 

「浅田!ヒランヤよ!」

「サンキューアリスちゃん!もっかい行ってくる!」

 

そう、この戦いは一見互角の戦いのように見える。しかし、実際の所こちらの勝ち筋はたった1つしかなく、それをどこまで隠し通せるかが肝なのだ。

 

「さぁ!私がまた来たよ!」

「ええ、遊んであげる。あなたのMAGが尽きるまでね!」

「ッ⁉︎内田さん!」

「バレるのはわかってた事でしょう!うろたえない!」

 

そうして、再び始まるヨスガと浅田の死闘。

浅田はフルスロットルだ。軌道にも極大(ダイン)級の術を使っているから、息切れは早い。

 

対して、ヨスガはその膨大な保有MAGで消費の大きい万能属性魔法のデメリットを無視している。それが、絶対防御を誇るこちらが撃ち合いでは絶対に勝てない理由。

 

こちらが貯水タンクなら、向こうはダム。それほどにMAGの絶対量が隔絶しているのだ。

 

「ヒランヤで誤魔化せるのは3回まで、それまでになんとしてもチャンスを作らないと...」

 

そんな指揮してる側の心配を他所に、浅田彼方は狂気的で、蠱惑的で、美しい笑みを浮かべていた。

 

今この瞬間の死闘を純粋に楽しんでいるかの如く。

 


 

強い、この寄せ集め集団を見て素直にそう思った。

おそらく指揮官をしているサマナーはこの集団の本来の指揮官ではない。だが、寄せ集めの筈のこの集団を1つの部隊にしているのは彼女の手腕だ。

 

正直部下に欲しい。彼女はおそらく正義だ秩序だので動いていない、この反逆に勝ち目があると見て敵方についた雇われのサマナーだろう。勝ち方次第では雇えるかもしれない。

 

次に、鉄壁とラクシュミー・バーイー。

 

2つの守りは堅い。報告にあったが、ラクシュミーは城壁を物質化(マテリアライズ)するという話だ。鉄壁の盾と合わせるとメギドラを6発ほど収束させなくてはならないだろう。

 

そんな隙は、なかなか作り出せないが。

 

的確なタイミングであの金髪の槍使いが水流を放ってくる。力場で弾けるレベルではないので、喰らえば手傷を負わされる。

 

そして、動きを止めればキマイラとニュクスの能力低下技が放たれる。わかっているので当たるつもりはないが、それでも撃たれるだけで行動が制限される。一発目以降は当てるのではなく置くように放たれている。そこを、何かが狙っているのを感じる。

 

いや、わかっているのだこのヒリついた何かが原因なのだと。

 

どこにいるのかわからない、必殺の手を放つ誰かがいる。

 

この異界に引き込んだ時点で、自分を殺すなんらかの算段はついている筈なのだ。でなければ、挑んだりはしてこない。

 

だが、その敵の策が何であれ隙を晒さなければ問題はない。

 

そうして、迂回させたメギドラを当てる事でついにキマイラとニュクスを殺せた。

 

それが、敵の動きを変えるきっかけだった。

 

()()()()!プランA!死ぬ気で押さえ込みなさい!」

 

瞬間、隠れていたと思わしき3つの影が現れる。

 

一人は、よく知っている顔。その日暮らしができればいいだなんて事を言う、ガイアの昼行灯。

 

雷の抜刀斎、志島兼続。

 

一人は、顔無し。ただ純粋にぶっぱなせれば良いという独特の感性を持つ術者。

 

万能魔法のエキスパート、メギドラ。

 

そして、指揮しているサマナーの援護をしていた少年と同じ姿の者。

 

その目を、見間違えることは無い。侵略する夷狄に対して、その力に乗じて悪魔を是としてこの世界に覇を唱えようとした私と相打った、あの学生服の男。

 

殺人貴、七夜志貴。

 

「そうか、道理で脅威を感じなかった筈!鬼札を隠していたのか!お前の()()()()()()()()を使って!」

 

異界に侵入したタイミングもあり、隠れている奴はいると思っていた。だが、まさかここでコイツとは⁉︎

 

奴に切られた右腕は、転生しても動きはしなかった。だからこそ悪魔の力で右手を作り変えたのだから。

つまり、魂へのダイレクトダメージ。

 

3人は3人それぞれにこちらの首を取りうる技を持っている。

 

「さぁさぁさぁ!まずは私の私による私のための必殺術式!形態変化、両腕を砲身に変体!この発想をくれたちっひーに感謝を込めてぇー!高位万能属性魔法(メギドラ)!」

 

顔無しの特性である認識を弄る事により身体を自在に操れる事を利用して、()()()()()()()()()()()()なんて真似は常人の発想では無いだろう。

 

そして、それが作り出す火力は相当なものだ。収束率が高いが故に私だけを殺す術になっているが、収束していなければもしかしたら伝説に届いているかもしれない。それほどの威力だ。

 

だが、甘い。

 

その程度なら、力場のコントロールで力を逃がせる。私の膨大なMAGが作り出す強大な力場を意図的に弱める事でルートを作り、砲撃を曲げる。

 

やったことはないが、出来ると確信していた。

 

何故なら、それが出来なければ次の二人の絶殺を防ぐことなどできはしないのだから。

 

「来るか、電磁抜刀!」

「そりゃね、これしかないもんで!」

 

リニアモーターカーの原理を使っての抜刀姿勢を崩さない神速移動。そして、それをロケットの一段目としての鞘からの磁力の反発を使っての二段目の抜刀。そして、それに斬撃としての形を与える完璧な体さばき。

 

これは、ひとりの男が編み出した絶技。

 

だが、馬鹿正直に立ち会う必要はない。

これに対応するために、自分は手を自由にしていたのだから。

 

「初速を潰せば、抜刀は見切れる!高位万能属性魔法(メギドラ)!」

 

「ま、わかってる手札が通るわきゃねぇのは知ってるよ」

 

磁力のレールは、私に直進するのではなく緩やかに上へと登っていった。

絶殺技を知られているということを逆手に取っての囮とは、この策を考えた策士は間違いなく詐術士の類だ。

 

そして、2つの絶殺技を抜けた先には、かつての私を殺した男がいる。

 

あの、蒼く輝く死の瞳を持った。殺人貴が。

 

警戒するのはあの技。短刀を投げる事から始まる一連の暗殺技。

 

おそらく、前世では未完成だったそれはそれでも自分を殺してみせた。

 

観察しろ、予測しろ、想像しろ。

 

今、志島の絶殺技を防ぐためにメギドラを放った。故に、一瞬のチャージが必要になる。そこを突かない奴ではないだろう。

 

故に、こちらの取れる対処手段は純粋な体さばきによる回避のみ。

 

そうして、ナイフが飛んでくる。

 

それを、掴み取り投げ返す事で絶殺の一撃を凌駕する!

 

「後ろッ⁉︎」

 

そして、感じなかった背後に、七夜志貴の気配を感じた。

転移系の術式を疑い、ナイフを投げ返す先を咄嗟に変更したところ。

 

そこにいたのは、()()()()()だった。

 

ドッペルゲンガーだと気づいたのは、ナイフの来た方向からの死を感じ取ってからだった。

 

だが、私の最後の防御術、力場を爆発させる技はなんとか間に合った。力場が完全に戻るまで約30分、それまで私は無防備だ。

 

故に、この異界から逃げ出さなくてはならない。

 

「トラポートストーン、超過起動!」

 

そうして、力場の爆発で歪んだ空間の揺らぎからこの異界から抜け出そうとして

 

「行けよ、カオスの」

「ありがと、カオスの」

 

加速と疾風の加速を掛け合わせた加速で、疾風魔法を極限まで圧縮した斬撃が放たれる。

 

その一撃は半魔の体を切り裂いて、私の命を刈り取ってみせた。

 

「だが、私の命は一つじゃない!」

 

牛頭天王の魂を燃料にして刈り取られた命を賦活させる。そうして、ギリギリの所で私は撤退する事ができた。

 

「良し、ガーディアンは剥ぎ取った!あとは任せたよ、千尋くん!」

 


 

ギリギリの所で戻って来れた。あの一連の攻撃は、間違いなく私を殺す為に編み出されたコンビネーションだ。即席ではなく、とても練られた。

 

おそらく、敵は私と殺人貴の関係も知っている。それが故にそれを最後の一手に見せかけて、意識の外に逃げていた志島と浅田を使った一手を叩き込まれた。

 

完敗だ。ひさびさに、負けるというのを体験した。

 

だが、最後に勝つのは私だ。

何故なら私には依然聖杯のカケラがあり、それを活かすために作り上げた異界があるのだから。

 

「オペレーター!監視を怠らないで!」

 

そう言って、コンソールを操作しているはずのエンジェルに指示を出す。が、返答は帰って来なかった。

 

嫌な予感がして見てみると、そこには誰もいない。

 

私が戦闘に行っているウチに全てのエンジェルが殺されていた。

 

「シュバリエ・デオン...やってくれるじゃない!」

 

エンジェルなどいくらでも変えは効くが、いやらしい事をしてくれたものだ。

 

「いいや、私ではないよ」

「..,どの口が!」

「異界の中から悪魔が出てきてね、奮戦虚しくエンジェル達は食べられてしまったという訳さ。...ああ、そいつは異界に戻っていったよ。私を殺せないと分かっていたのかな?」

「...念のため、カメラを確認させてもらうわ」

 

そうして見えたのは、異界の中から紫の鬼が現れてエンジェル全てを切り裂き喰らったという事実だった。そして、この騎士とは戦わずに異界に戻った。互いに剣を向けあって威嚇しあっていたものの、この騎士は鬼を通した。

 

最悪のタイミングでの、悪路王の反逆だ。

 

「欠片の力でもう一度ねじ伏せてあげる。優先順位よ。まずは、異界でMAGのリチャージ、それから街造りで街の機能の再生、そして、このタワーからの遠隔攻撃だけで戦力を削って、着実に殺してみせる!」

 

そうして、異界に入る。

 

案の定、そこには悪路王が待ち構えていた。

 

あの邪悪の英霊と、顔無しの男を引き連れて。

 

「悪路王、あなたやってくれたわね」

「いいや、俺はもう悪路王ではない」

「何?じゃあなんだって言うのよ」

 

「かつてこの蝦夷の国を守る為に戦った、阿弖流為という男の成れの果てだよ」

「つまり、真名による二重契約って訳。コンプはないけれど、俺はデビルサマナーなんだせ?」

「んでもって、俺はアテルイから助けられたって訳よ、お前を倒す戦力としてな!馬鹿じゃねぇ?と思うけど俺に選択肢なんてないんだよなー!」

「...なら、契約は生きてるのね。そうならば、力でその意思は捻じ曲げられる!あなたは悪路王!私が召喚した、鬼よ!」

 

そう、契約にMAGを割いた瞬間に、自分の首が落ちた。

 

何が起きたのかは単純だ、シュバリエ・デオンが異界に入って無防備な私の背後から斬撃を放ったという事。

 

その瞬間、ここに至るまでの全ての絵を描いていた敵の姿を確かに理解した。

 

悪路王を懐柔してこの異界を乗っ取り、シュバリエ・デオンを通じてタワーの通信プロトコルや様々な情報を抜き取り、浅田とラクシュミーの二つの異なる思想を一つの目的に纏めて私を殺しうる作戦を組み立て、そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を逆手に取って命を奪いに来た。

 

認めよう、花咲千尋。コイツは本物だ。

 

そうして、欠片の力で己を改変し、もはや最後の足掻きでしかないMAG暴走形態へとフォームシフトする。

 

かつてなったバアルアバターには程遠い、ただの肉の塊に。

 

「デオン、アテルイ、アンリマユ」

 

「コイツを殺すぞ。俺たちの、エゴの為に!」

 

その言葉は、自分を終わらせる為の言葉であったはずなのに

 

何故だか優しくて、泣きたくなった。もう、涙を流す機能などないけれど

 


 

肉塊と化したヨスガは、その存在規模だけで言えばハイエストクラスの悪魔だ。

しかし、そこに戦いに臨む強い意思は見えない。

 

スライムになる前に、終わらせてあげよう。

 

「デオン、COMP頼む」

「ああ、それにしても、その左の指は痛々しいね。痛みはないのかい?」

「まぁ、幸いなことにな。他人の想いが中に入るのは慣れてんだ」

 

アンリマユの泥は、突き詰めてしまえばただの想いだ。故に、心さえ折れなければその絶対値は力にできる。

 

そして、俺は心が折れていないのが取り柄なのだ。自慢ではないが。

 

だから、行ける。

抗うのではなく、耐えるのでもなく、受け入れる事でその想いはコントロールできる。

 

まぁ、時間を加速できるこの異界の力を使って目一杯修行した結果なのだが、そこはちょっと格好悪いので黙っておこう。うん。

 

「さぁ、アテルイ。赤で、一撃だ。支援は任せろ」

「ああ、任された」

 

左の指で魔法陣を描き、それを自らのMAGで起動させる事で術を発動させる。こんな簡単な事が出来なくて今までクソ苦労していたのは正直泣きたいくらい悔しいが、お陰で様々な魔法陣の知識が手に入ったのだから人生万事塞翁が馬だ。

 

でなければ、この術は作れなかっただろうから。

 

「行け、アテルイ!全能力向上魔法(ヒートライザ)!続けて支援!加速魔法陣5枚重ね!」

「さらばだヨスガ、混沌の者であり、人の未来を力で勝ちとろうとした者よ!」

 

「火炎纏・鬼神楽!」

 

アテルイの物理攻撃に特化した赤鬼モードでの最強攻撃、MAGを収束しての蹴りがヨスガだった肉塊に炎のエネルギーを与え、それが内部で爆発した。

 

これが、アテルイの力。

 

新たに仲魔となった、心強い万能戦士である。

 

「じゃあ、約束通り欠片貰ってから、帰ろうか」

「そうだね」

 

そうして、石を使って皆に連絡を取る。

 

「作戦終了!お疲れ様でした!」

 

今ここに、ガイアの街を支配していた支配者ヨスガは倒され、グレイルウォー第2戦の勝利が確定した。

 


 

MAG化したヨスガの亡骸の中から、聖杯の欠片を取り出す。

相変わらず保管方法に困るものだが、まぁ風呂敷に包んでいい感じに血を付けておけば生首とかと思われてくれるだろう、多分。

 

「じゃあ、皆。出るぞ」

「あー、すまん。俺は無理だわ」

「...アンリマユ?」

「この異界?って奴のお陰で抑えられてるが、外出たら俺多分パーンってなるわ。わかるのよその辺」

「...アウターコードか」

「てな訳で、地獄に送ってくれや。悪魔召喚士(デビルサマナー)

「断る」

「即答⁉︎」

 

驚くまっくろくろすけ。

 

「いやマジでやべーんだって!」

「お前を退去させる術式はもう組み上げてある。泥は貰うから、お前は天国かなんかに行け。生贄にされただけで、お前には特に悪行の業はないだろ」

「サマナー...あんた馬鹿か?」

「自覚はしてる。けど、お前も楽していいだろ。こんな世界に来たんだからさ」

「これ、結構キツイぜ?」

「どっちみち、力は必要だったんだ。お前は邪魔な泥がなくなってラッキー、俺は力を得てラッキー、win-winだろ?」

「...なんか、それすら言い訳な匂いがするんだよなぁ、この詐欺師みたいな善人の言うことだと」

「そうなのかい?サマナー」

「...ああ、そうだよ」

 

「あんな辛いの、誰かに背負わせるくらいなら俺が背負う。そっちの方が気が楽なんだ。偶然とはいえ俺に未来をくれた恩人になら特にな」

「俺、特に何もしてねぇんだがなぁ...まぁいいさ。持ってけるだけ持ってきな。この世全ての悪って奴をさ!」

「ああ、じゃあ行くぞ、アンリマユ」

 

魔法陣展開代行プログラムで術式の下地を作り、左手で描く本命の魔法陣をそっとアンリマユに押し付ける。

 

契約のラインとは比べものにならない密度の死の念がやってくる。

しかし、もうその奥にあるものは見えている。

 

結局の所、これは人の想いでしかないのだ。だから、表面の叫びではなく、その奥に隠されている多種多様な希望を見ることができれば。

 

これは呪いではなく、願いの塊だと言えるだろう。

 

「驚いた。サマナーあんた、全部飲み込んじまいやがった」

「お前って出力の限界があるから、この世全ての悪って訳でもなかったんだろうな。というか、黒いのが抜けるとお前案外見れる顔じゃねぇか」

「まぁ、サマナーに比べりゃなぁ」

「...じゃ、貰ってくな。お前の受けた、願いのカケラ達を」

「おう、また会えない事を祈ってるぜー。まぁ、祈る神とかこの世界にはいすぎるだろうけどさ」

 

邪悪な気配を感じさせないで飄々と、ひとりの少年のようにアンリマユは光に消えていった。

 

「...アウタースピリッツって、本当に色々いるんだな」

「そうだね。でも、君で良かったよ。私でも他の誰でも、きっと彼の事を忌憚なく受け入れられはしなかった。...私は正直、嫌悪感からだけで彼を切り裂いてしまいそうだったよ。けど、あの黒が抜けた先には、普通の少年がいた。君は、それを見ていた」

 

「だから、たとえ一時でもアンリマユという少年のパートナーになれた事は、サマナーにしかできなかった凄い事だと、私は思うよ」

 

「..,そんなもんかね?」

「そんなものさ」

 

そうして、異界の外に出て

 

このガイアタワーに出入り口がない事に気付き、一日かけて転送妨害術式のバックドアを構築する羽目になったのは正直笑い話にもならなかったと思う。

 


 

「志貴くん、これで良かったの?」

「ええ、まぁ。因縁ってほど因縁がある訳じゃありませんでしたから。ただ、あの世紀末に出会って、殺しあっただけです。恨みつらみがあったりだとか、家族の仇だったりとか、そんな事は無い訳なんで」

「でも、殺しあった仲だったんでしょう?」

「...家族みたいな人達の仇を取って、血の衝動に任せるままに殺して回ってた時にたまたまバアル・アバターに会った。本当に、それだけなんです」

「ふーん」

「ま、昔の話ですよ」

 

たった一日で、ガイアの街は変わった。

 

これまでヨスガの力に従っていた天使たちは、ラクシュミーを中心に纏まり、人々を守る本来の役目のために動くようにすると言っていた。

 

ガイアの勝者たちも敗者たちも、ヨスガの後釜を狙おうと結界の解けたガイアタワーへの侵入を試みたが、物理的手段、魔術的手段どちらにおいてもタワー内部に侵入する事はできなかった。故に、現在は各所に散る重要施設の占拠争いが起こっている。まぁ、ウカノミタマプラントに関してはトラポートストーンの転移先に設定していたので、私たちに協力してくれた現地協力者への報酬という形で提供するという事になっている。

 

今後は、ラクシュミー一派の勢力を広げるのに役立つだろう。

 

千尋さんは無意識に、ここにラクシュミーさんが陣を構えると遡月への侵攻が遅くなるなんて事を計算に入れているのだろうけど、それ以上に善意を基幹にした考えでの事だ。

 

 

記憶の彼方の暖かい記憶を思い出す。もう、戦いの日々で薄れて消えてしまったけど、それでも、優しい日々はあったのだ。

 

なら、それでいい。七夜志貴という男の人生は、悲劇なだけではなかったのだから。

 

きっと、それで良いのだ。

 


 

「にしてもちっひーくんたち、ここからポイっとにげちゃうんだね。無責任だねー」

「元から流れモンだろこいつらは。ヨスガの遺産が手に入ったんなら次の街に行くのが道理って奴だ」

「通信越しでしたが、とってもお世話になりました。ヨスガのガーディアンを剥ぎ取るには手持ちの戦力では3手足りなかったので」

「そりゃこっちこそだよ。まさかあの短期間でトラポートストーンをあれだけ集めてくれるとは思わなかった。よくやるぜ本当。...まぁ、なんかどろっとしてたらしいけど」

「原材料がアレだったんで」

「アレってなんだよ」

「秘密です」

「気になるじゃねぇかよ畜生」

 

「じゃ、所長のガイア連中への挨拶という名のリンチも終わったみたいですし、そろそろ行きますね」

「おー」

「またね、ちっひー!」

 


 

「縁、お前には幾度も助けられた。正直に言えば、お前の仲魔として共に行きたいところだったが、ここで苦しむ人々を私は見捨てられない。すまんな」

「謝らないで下さい。最初に立ち上がってくれたあなたがいたから、私は耐えられたんです。この街に」

「フッ、確かに。私よりもずっと心で動いているのに、よくも耐えてくれたものだ。それだけ、軍師殿が大切だったのだな?」

「..,はい。この胸の想いを伝えられるかはわかりません。でも、大事に育てて愛にしたいと思ったんです。きっと、それが私が聖女じゃなくて神野縁で居られた理由ですから」

「そうか、それは応援せずには居られないな」

 

そんな、ガールズトークをした後に、「出れたー!」と声が聞こえたのは大分驚いた。

 

同じ想いを抱いている彼方さんにしか話していなかった小さな秘密。

 

とりあえずバレないで済んだことにホッと一息をついて、「おかえりなさい!」と元気な声で声をかける。

 

その姿を、ラクシュミーさんは微笑ましいものを見る目で見ていた。

 


 

「一応言っておくわ。あなたのタイムリミットは3ヶ月。アラクシュミーを取り込んだことでこの世界からの干渉があるお陰で大分伸びてるけど、それでも干渉がなくなったわけじゃないわ」

「ああ、それまでに後進を見つけて自刃するさ。民を守る為に立ち上がった私が、民を殺すための殺戮機械になどなってたまるものか」

「そ、なら安心ね。まぁ、このガイアの街で何が起こっても私達にはもう関係ないんだけど」

「...君は随分と、優しいのだな」

「何言ってるのよ、頭大丈夫?」

「ああ、頭は大丈夫だ」

「...ま、私が伝えたかったのはそれだけよ。せいぜい長生きしなさいね」

 

そう言って、不器用に優しかった彼女は去っていった。きっと、人に優しくする方法を忘れてしまったのだろう。それでも、その心が正しいものだったから、その優しさは惹きつけるのだろう、惹きつけられたのだろう。

 

あの、世界を救う旅路に向かう人々の流れの中に。

 

その中に加われなかったことが、少しだけ悔しい。

 

だが、どの世界でもそんなものだ。できることをするしかない。

 

私は、私のあると決めた在り方でこの街の人々を守ろう。

 

そう思い、旅路に着く者たちを見送った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その日の夜のことだった。

 

「失礼するぜー、大将」

「ああ、シジマか。どうかしたのか?」

「なに、大したことじゃねぇ」

 

「あんたの命を、取りに来ただけさ」

 

瞬間、光が走った。

 

MAGのチャージがあったわけではない。鞘から刀を出そうとするそぶりがあったわけでもない。

 

ただ、ほんの一瞬瞬いただけで、私の命は断ち切られた。

 

これが、電磁抜刀。

 

ヨスガが相性と事前準備で勝っていたというだけで、この街の最強戦力は誰かと聞かれれば真っ先に口に出る虐殺の抜刀斎。

 

これが、志島兼続という者だったのか。

 

この窮地を友に知らせる手段は既になく。

私はただ、一人の小娘のように生き絶えた。

 


 

「うっし終了。メギトラ、天使どもはどうだ?」

「ヨスガの遺産って良いねぇ。ひさびさにぶっ放しまくったよ。9割殺せた。これで、この街は真にガイアのものになった。正確には、この街の少し外れにあるターミナルが、だけどね」

「じゃあ、先生方が使ったターミナルのクールダウンが終わったら人員を送り込んで行くか。()()()()()()()()()()()()によ」

「うん、この世界の最終戦争になるんだから、楽しまないと!頑張ろー!」

 

そうして、この街の本当の悪意は胎動を始めた。

 

ヨスガの支配を良しとしなかった、純粋な闘争と殺戮のみを求めるガイアーズ達は、今翼を手に入れてしまったのだ。

 

ターミナルという、距離という最大の壁を超える翼を。

 

 




グレイルウォー第2戦、ガイアの街編終了です。

どうでもいい事ですが、ファイアーエムブレムまで書いた短編(だったはずの中編)を投稿したので、気が向いた方は作者ページからどうぞー

調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。

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