あ、結婚は脳内彼女としました。選択肢に出てきたのなら選ばざるを得ないでしょうアレは。
「おかえりなさい、皆さん」
「ただいま、マッさん」
ターミナルを使い、遠く北海道から遡月の街に帰ってきて数時間、護衛と思わしき人たちを連れて真里亞が、労いの言葉をかけにきてくれた。
「今回の報告はまだ書面に纏めてないから、ちょっと待ってくれ。正直、別行動してた時間が多過ぎてまだ誰も正確な行動結果を把握していないんだ」
「ま、途中からは千尋くんの思惑通りに進んだから、ごちゃごちゃしたのは千尋くんが囚われてた間くらいかな。あの間、通信できなくて困ったんだよねー」
「すいません、通信妨害術式にあんな妙なのが張られてるとは思わなかったので。次行く前には皆の通信石をアップデートしておきます」
通信が繋がらなかった理由、というか俺からの通信が繋がった理由としては単純に、俺が常駐させていたプログラムの関係だ。
傍受されるのを避けるために通信にある種の暗号化を自前でかけていたのだが、なんとその暗号化処理により通信情報が結界を抜けられるようなフォーマットになっていたのだ。
こんなのは、結界を張った人がある程度術に長けていれば簡単に防げる事なのだが、何故だろうか?
意図的に作られたバックドアであったりするのだろうかとは考えたが、まぁ多分結界を張った人はもう天に召されているのだろうから気にしないでおく。
「千尋さん、囚われたと聞きましたが大丈夫なんですか?」
「ああ、デストラップを利用してパワーアップして帰ってきたぜー」
「なんですかその改造手術で脳を改造し損なうかのような大失態は」
「ま、運が良かったんだよ」
実際、あの拘束では結果的に得しかしていない気がする。術式を練り上げる十分な時間、念願の出力回路の代用品の獲得、そして、ハイエストクラスまで引き上げられる心強い仲魔の獲得。
うん、指が切り落とされてから無様に逃げ回った事くらいしかマイナスはないな。
「さて、そっちはどうなってる?一月で大分変わったみたいだけど」
「地盤を固める事は出来ましたよ。まぁ、なんか親衛隊とか出来てしまいましたけど」
「私より弱い人はいらないんですけどねー」とぼやく人類最強の血族。実際のところどうなのかと護衛の人に聞いてみたところ、事務の補佐をすることがメインの組織のようだ。なので、キュウビさんの傀儡政権という事なのだろう。
そして、キュウビさんなら取って代わられる可能性は無い。単純に強いし、経験もある。
これは、真里亞を自由に動かせるようにする為の組織編成だろう。考えた人はなかなかにやり手だ。
「じゃあ、親衛隊の皆さんはこの辺で。敵の手がどこまで伸びているかわからない以上、情報の共有は最小限にしたいんです」
「はい。お気をつけて、真里亞様」
「はい、皆さんもお仕事頑張ってください」
そうして、親衛隊と別れてキュウビさんの待つ中央執務室へと向かう。道中でミズキさんと風魔を拾えたのは幸いだった。聖杯の護衛には士郎さんたちが付いているようだ。もっとも、今の浅田探偵事務所は皇室直属の調査兼戦闘部隊というとんでもない尾ひれの付いた魔境と化しているので、そうそう手を出す者も居ないだろうが。
そして、執務室にやってくる。
意外なことに、キュウビさんはそこそこ暇をしているようだった。もっと修羅場を予想していたのだが、何故だろうか。
「おお、花咲か。首尾は上々のようじゃの」
「ええ、きっちりとぶんどってきましたよ。やっぱ攻める側は楽でいいですわ」
「では、妾の封印されていた部屋へと行くぞ。あそこに強力な結界を張った。7つ全てとはいかぬが、3つ程なら気配を外に漏らさずに済むであろうよ」
「一つ所にカケラをまとめて置くのは危険でしたから、本当にありがたいですね」
そうしてキュウビさんの案内の元、支部をあっちこっちに巡って封印の間へと辿り着く。
感じる感覚が、この中は別物だと告げている。
「凄いの張りましたね。これは、解呪は無理そうです」
「まぁ、勉強したからの」
結界の内容はシンプルだ。入れる人物を限定するというもの。その強度は、メギドラオンを当ててもこじ開けるのは難しい程だろう。
欠片を受け取ったキュウビさんは中に入り、数分してから出てきた。
問題は、なさそうだ。
「お主、妾が欠片を隠匿する可能性を考えたな?」
「...はい」
「お主はそれで良いのだろうな。信じる事と疑う事、両方同時にできないのならサマナーはやっておれぬであろうからの。安心するが良い、欠片は誓って守り抜こうぞ。なんなら、契約を結んでも良い」
「その言葉、信じさせて貰います」
というか、ここに置くと決めた時点で信じるとは決めていたのだが、やはり疑念というものは浮かんでしまうのだ。欠片を間違った使い方をしたヨスガという実例を見てしまったから尚更に。
「では、お主らは帰って存分に休むと良い。どの道ターミナルのクールダウンに時間が必要なのじゃからな」
その言葉と共に、キュウビさんは小さな狐となっていった。今まで見ていたのは、分身だったのか...
確かに、勉強したというのは本当のようだ。警戒していたが全く気付かなかった。
「じゃあ、帰って報告会といきましょうか」
「そだねー」
そうして身軽になった自分たちは、ヤタガラスから生鮮食品の類を分けて貰い家路につく。
ガイアの街の食事は、色々と凄まじく雑だったので、繊細な士郎さんの料理が食べたいのだ。
まぁ、そもそも食事がどれくらいぶりなのか数えていないというのも食欲に結びついているのはあるだろうが。
「できたぞー」
「生姜焼き!やっぱりこういうのが人間の食べ物だよねー!」
「はい、ガイアの街の食事は...アレでしたから」
「どんなものかだったんですか?」
「基本は悪魔食ですね。カラキタウワを量産工場で作っていて、それの肉を焼いて食ってました。ただ、調理するって一手間を加えずに、適当に焼いて適当に塩を振ってって感じだったので、本当に雑な味だったんですよ」
「調理技能を持ってる人がそもそも死んでるか転がってるかだったからねー」
「本当、あの街がこれから良くなる事を願うばかりですよ」
「ま、ラクシュミーならなんとかするでしょ」
そんな事を喋りつつも食事進める。
生姜の香ばしい香りが、米を食べる箸の進みを止めさせない。素晴らしい料理の技だ。士郎さんは生前板前の息子さんか何かだったのだろうか?いや、どちらかと言えば家庭料理の色が強い。つまり...これは、日常の中で研磨されていった技術だと言うのか⁉︎
と、馬鹿な考えを見抜かれたのかデオンにジト目で見られる。本気にはしてねぇよ。
そんな中、味噌汁に手をつける。
味噌汁の中では、乱雑な形の豆腐が見える。なんでも、豆腐はちぎる事で味噌汁と接触する表面積が増えるため、豆腐の味が味噌汁にうまく伝わってくれるのだとか。
ちなみに、これは美遊ちゃんが拾ってきた料理本から仕入れた知識なのだとか。
何気にこの遡月の街を歩き回っているので、崩壊してからのこの街についてとても詳しくなっているとのこと。
それに、悪魔の知り合いが結構増えたようだ。MAGを渡す事で交渉を始め、そこからなんだかんだで友情を育んでいるのだとか。
守らなければならないお姫様のイメージを、一瞬で放り投げていくあたり美遊ちゃんはなかなかこちら向きである。
「ご馳走さまでした」
「はい、お粗末様」
そうして、皆で片付けをする。
水道が止まっているので、皿洗い一つ取ってしても面倒だったりするのだ。故に、地味に皆が勝負の空気を醸し出し始めている。具体的にはじゃんけんの。
「最初はグー、じゃんけんポン!」
そして、覚醒者達のスペックをフルに使った超次元じゃんけんにより勝負が決まる。
肉体スペック最弱の自分の敗北という形で。手を出す瞬間に出す手を変えるスイッチスタイルなら読まれないと思ったが、それも含めて見られていたようだ。やはり身体スペックは最弱なのね俺。
尚、美遊ちゃんは普通にやって普通に勝っていた。ある意味凄いわこの子。
「千尋くーん、水汲みから皿洗いまでよろしくねー」
「ふふふ、我に秘策ありですよ」
これまでは、水を汲んでからその水を大事に使って皿洗いをやっていた。
だが、それも今日までの事。
「魔法陣展開代行プログラム起動!擬似展開、
キッチンの上に水球が現れる。術式への理解と
術式をイメージで練り上げて、その魔法陣を汲み取って描くことができる事。それが魔法陣展開代行プログラムの利点なのだ。
「千尋くん...新しい力を手に入れたからって、それを見せびらかす為にわざと負けるのはどうかと思うよ?」
「ガチ負けですよ悪かったですね!」
ガチの超人には、覚醒者になっても人間の範疇を出れていない自分の気持ちはわからないのだ。多分。
そうして、水球から必要な分の水だけを取り出して皿洗いをする。これは思った以上に便利だ。水道が使えていた頃よりも楽チンかもしれない。
ともあれ、さらっと皿洗いを終わらせてデブリーフィングに移るとしよう。今回もまた、ハードだったのだから。
「私からは以上だねー。ガイア側のヨスガに従わない不穏分子って、大体強い奴だったから集めるのは簡単だったよ」
「...どうしてヨスガとやらはその強い者達をそのままにしておいたのでしょうか。自分に刃向かう者ならば処断するのが定石だと思うのですが」
「んー、多分だけどそれはヨスガの中では違ったんじゃないかな?」
「...違ったとは?」
「ヨスガは、論理的思考をしているけど、やっぱり根っこはカオスなんだよ。だから、戦ってきてくれる敵を心のどこかで求めてた。そんな感じじゃない?」
「...私にはわかりません。それが、あんな弱いというだけで虐げられる理由にしてしまうような街を作る理由になるなんて」
「私にもわからないかな。だって」
「やっぱり、カオスの思想の根本にあるのは自由なんだよ。運命にも、悪魔の力にも縛られない自分たちの意思で掴み取る自由。その為の弱肉強食であって、弱肉強食の世界がゴールじゃないんだよ」
「そういった意味だと、ヨスガはガイアの中でも異端だったのかな?まぁもうどうでも良いけど」
そんな言葉を最後に、デブリーフィングは終了した。
「報告書にまとめ終わったら事務所のサーバーにも上げとくから、気になったとこがあるならまずそっちを確認してくれ」
「では一つだけ。千尋さんの閉じ込められた異界についての説明が薄い気がするのですが、それはどうしてですか?」
「あー、薄いも何も、本当に何もなかったんだよ」
「時間間隔を極限まで引き伸ばした関係で、アテルイとアンリマユ以外何も存在してなかったんだ。聖杯のカケラでの回復の為の異界だったから、時間間隔以外必要なかったんだろうよ」
「成る程、理解しました」
「ねぇ花咲。アンリマユってアンリ・マンユの事よね」
「ああ、外の世界に昔あったゾロアスター教ってのの悪神らしい。まぁ、会ったのは生贄にされた少年だったから多分別人だけどな」
「そう...恩返しの機会は、まだ先って事ね」
「何かあったのか?」
「...昔仲魔だったのよ、アンリ・マンユって悪魔が」
なんともまぁ、奇縁である。お互いにアンリマユから力を貸して貰っていたとは。
「じゃ、以後自由時間で。次のグレイルウォーは順当に行けば新潟だ。海の近くだからダゴンみたいなのがいるかもしれない。欲しい装備品があったら明日の昼までにリストに上げてくれ。中島に交渉してみる」
皆は各々散っていく。
さて、とりあえず自分は事務所の施設の点検から始めよう。一月も留守にしていたのだから、何かしら不具合が起きていてもおかしくはない。
注意して、見るとしよう。
「デオン、すまんが護衛頼む」
「了解だ。だが、今シロウと美遊がプリンを作っているのだそうだ。手短に終わらせよう」
「了解。...しっかしプリンとは、牛乳どっから調達したんだ?」
あとで入手経路を聞いてみよう。俺も久しぶりにケーキ作りたいし。
生クリームとかもあるだろうか。いや、無ければ無いなりに作るのだが。
そうして事務所の周囲からの結界の状態確認をしていると、不自然な事がわかった。
結界の少し外に、何かが刺さったような跡があるのだ。これは、剣だろうか?
「...うわ、士郎さんエグいなー」
「これは、攻撃の跡かい?」
「いや、手動反撃結界って感じだな。外から入ろうとしてきた奴を、こうして水際で迎撃してるんだろ。...あんな風にな」
見れば、餓鬼の群れの中の「俺はやってやるぜ!」というイキった印象の餓鬼がこちらの事務所へと入ろうとして
空中に現れた剣によりその命を断たれた。
「感知からの抜き打ちが早すぎだろ」
「来るとわかってれば躱せない程ではないが、不意打ちでこれはなかなかに厳しいかな」
「うん、しかもこれで片手間ってのがヤベーわ。よく敵対しないで済んだな」
「あのとき強行突破を選んでいたら死んでいただろうね、私たちは」
「だな」
外からの結界の漏れはなし。悪魔の進行を士郎さんが止めてくれた事が大きいのだろう。いっそのこと、結界の感知に士郎さんをリンクさせてみようか。その方が楽で精度もよくなるだろうし。
「護衛サンキューなー」
「構わないよ、仲魔だからね」
「じゃあ、美遊ちゃんに聞いて本のある所を巡ってみるか。お前もそろそろ手持ちの本なくなってきた頃だろ?」
「まぁ、タブレットに新しくダウンロードできないからね。...銀河英雄伝説が最後まで読み切れなかったのは地味に気になっていたのだよ」
「銀英伝の本とか割とプレミア物だな。初版は結界以前の本なんだから」
「遡月にあるかなー?」と呟きながらも中に戻る。
そうして、結界の状態確認をしたのちに美遊ちゃんと士郎さんの元へ行く。どうやら、プリンはちょうど焼き上がった頃のようだった。
焼き上がりたてのプリンと、ちゃんと冷やしたプリン、どちらも美味しいのが悩みどころだ。というか、それでちょっとした論争が起こっている。焼き上がりたてを食べたい派の風魔と、しっかり冷やしたい派の縁で。
何気に噛み合わない二人なのだ。いや、仲は決して悪くないのだが。
というわけで、超次元じゃんけん再びである。
「...サマナー、じゃんけんの風圧で書類が飛び回っているのだが大丈夫なのかい?」
「大丈夫だ、二人にちゃんと掃除させるから」
そうして、自分には捕らえきれない程のスピードで繰り広げられたグーとチョキとパーの応酬は、手がもつれてグーチョキパーを出してしまった風魔の負けとなった。
尚、かかったのは10分ほど。これでは焼きたては食べられなかったので結果的に正解である。
「縁ちゃんも愉快になったねー」
「どっかのカオスの影響じゃないです?」
「朱に交われば赤くなる、と言うしね」
「酷いなー、もー」
そうして、二人はいそいそと書類の片付けに回っていた。
時間も空いたようなので、美遊ちゃんと士郎さんを連れて街巡りと行くことにする。士郎さん達も夕食の食材を近所に住んでる人々とやりとりをするのだそうだ。
電気というか冷蔵庫が生きている自分たちのウチの冷蔵庫は、ご近所さんの肉の保存に一役買っているらしい。
代わりに、現象加速系の術や技で作る手作りの醤油や砂糖を譲ってもらっているのだとか。
異界にデミナンディの牧場を作っている人もいるらしく、牛乳はそこから調達したのだとか。
美遊ちゃんと士郎さんのネットワークが何気に凄い事になっている気がしなくもない。
そして、その中で異質なのがこの古書店だ。
「お邪魔します、アンデルセンさん」
「ふん、俺は勝手に居座っているだけだと言っているだろうが。...見ない顔があるな、名乗れ」
声が渋い。奇妙な少年だ。
いや、この感じはアウタースピリッツか?
「花咲千尋、サマナーだ」
「シュバリエ・デオン、仲魔をしているよ」
「ほぅ、随分と警戒されるものだな。お前、同郷だろう?」
「なぜそれを?」
「ネタ探しにフランスの奇妙な騎士の話を聞いた事があったのだよ。なに、生前はしがない物書きでね」
「へぇ、何を書いたんで...アンデルセン?アンデルセン童話?」
「ほぅ、こんな遠い土地にも伝わっていたか。多少は有名だったのだな」
「だから言いましたよね。美遊に人魚姫を読み聞かせた事があったって」
「...ふん、まぁいい。それで、この土地のお前は何を思った?」
「検閲後の物しか読んでないので、物語の全てを汲み取れた訳じゃないと思いますけど、とても良い物語だったと思います」
「検閲?」
「はい、アンデルセンさんの童話って影響力が強すぎて由来の悪魔が出てきかねないものだったんですよ。なんで、20年ごろに検閲喰らったらしいです」
「...随分と物書きに厳しい世界だな」
「必死でしたからねー。後の世界にちょっとでも良いバトンを渡したかったんでしょう」
「ふん、理解した。では、さっさと殺すと良い」
「殺す?どうしてですか?花咲さん」
「まぁ、ややこしい話なんだが...」
「どこかから、人を殺せと念が飛んでくるのだよ」
「ッ⁉︎アンデルセンさん⁉︎」
「だが、安心しろ。ただの作家に人を殺す手段などないのでな!そちらの美遊嬢にすら負けるこの身で何をしろというのだ、この世界の意思とやらは」
ぽかんとする美遊ちゃん。なんともまぁ、人選ミスという奴であろうよ。確かにただの作家にこの魔境の人類を殺せなどとは無理があるだろう。生き残ってる人類は皆高濃度MAGにより潜在覚醒しているのだし。
「じゃあ、なんか悪影響が出る前に送還術式使いますね」
「ああ、そうしてくれ。ちなみに聞くが、それに痛みはあるのか?」
「無いように作りました」
「それは安心だ。まぁ、最悪自刃するつもりではいたので大して不安はなかったがな」
「千尋さん、アンデルセンさんは殺すしかないんですか?」
「ああ、アウタースピリッツが暴走したら、大きな被害が出る。だから、その前に殺してあげなくちゃあならない。その尊厳を守る為に」
「...でも!」
「美遊嬢、気にする事はない。死人があの世に帰るだけだ。この時代の名作を読めたのだからある意味得かもしれないな」
「美遊、本人が納得してるんだ。だからそれは止めちゃいけない」
「そう、ですね」
「でも、俺たちは納得なんかしてません。アウタースピリッツはこの世界にとっての異物ですが、それは悪魔だって同じ事。採取したデータから、アウタースピリッツが安全に存在できるようにする術を作り上げてみせます」
「それはいい!ならば実験体として俺の体を提供しよう」
「...良いんですか?」
「何、貴様が成功すればもう少し長く居られるのだろう?あいにくと、この書店の本をまだ読み切っていないのだ」
「なら、よろしくお願いします」
そうして、始まった突発的な実験。
というよりも、答え合わせのようなもの。
北海道にいたラクシュミーさんは、悪魔アラクシュミーの力を受け取ることで干渉を弾いていた。
そして、ドリーカドモンの外殻を持っていたとしても安定し過ぎているデオンへの干渉。
その共通点は、悪魔の力。もっと言えばこの世界の力。
それで自分の存在をオーバーライドする事で、干渉の段階をリセットできるのだろう。
一時的に、世界が対象を見失うという奇跡で。
「じゃあ、行きます。強制
そうして、一瞬の光と共にアンデルセンさんは上書きされた。
こちら側の、存在へと。
「...どうやら、失敗のようだな」
「それは、どうして?」
「こうして、お前たちを殺してしまいたくなっているからだ!避けろよ貴様ら!
そうして放たれた拙い疾風魔法は、この中で最も戦闘経験の浅い美遊ちゃんを襲い
その力場により完全に弾かれて霧散した。
「...士郎さん、お願いします」
「俺たちがやるよ。元はと言えば欲を出した俺のミスだ」
「いえ、私がやります」
「アンデルセンさんは、私の友人でしたから」
そうして、アンデルセンが次の術を発動しようとしたその前に
白と黒の剣にて、士郎さんがアンデルセンさんを切り裂いていた。
「全く、良い目になったものだ。迷いはそのままに、それでも強くあるその瞳」
「良い女になるな、お前は」
そんな言葉を最後に、アンデルセンさんは消えていった。
光の粒子に、体を変えて。
その後、黙祷を捧げてから美遊ちゃんと共に書店を出て行く。
本を漁る気には、ならなかった。
だが、思考だけは止めはしない。
理論は間違っていないはずだ。でなければデオンに思念が届いていない理由がない。
見落としているとすれば、悪魔のスケールか?アウタースピリッツに悪魔の力を加える事で存在を拡張するD・インストールは、アウタースピリッツにとっては諸刃の剣だ。デオンのように自分の霊基を守る外殻がなければ、悪魔と自我のバランスが保てなくなり精神が崩壊する。これは、考えるまでもない前提だ。だから、最小限の力の悪魔であるカラドリウスを使ってD・インストールを行った。
それが失敗したという事は、つまり
アウタースピリッツとのバランスが完全に釣り合っている悪魔を見つけなければ、アウタースピリッツの無害化は出来ないという事だろう。
そんな奇跡が、ありえる筈はない。つまり、アンデルセンさんに提示したこの回答の答えは×である。
「...力が手に入って、増長したかね?」
「いいや、サマナーはいつも通りだよ。悪魔より悪魔のような思考で、より良い未来を願ってる。結果が伴わなくても、そこだけは変わっていない」
「そんなもんかね?」
「そんなものさ」
そうして、アンデルセンという奇妙なアウタースピリッツとの出会いはこうして終わった。
「...私、少しだけ思い出したかもしれません。記憶のこと」
「美遊?」
「私にも多分、アンデルセンさんみたいにこうと決めた覚悟があった。それが何かはまだ思い出せないけど。きっと大切な事だった...と思う」
「...ああ、そうだよ。美遊は意外と頑固だからな。そうだって決めた後は止めても聞かなかったよ」
「その答え、教えてもらっていいですか?士郎さん」
「...いいや、それは美遊自身が思い出すべき事だ。俺、実は今でも納得はしてないから、思い出さないでいてくれるのはそれはそれで良いんだよ」
「...そう」
そんな会話を、一つ残して。
事務所に戻り、皆で冷えたプリンを食べる。カラメルソースがカスタードと絡まって良い味を出している。やはり良いものだ。
出来立てプリンを望んでいた風魔も、素直に食べている。とても幸せそうな顔で。
うん、やはり甘いものは良いものだ。
そんな時、スマートウォッチがアラートを発した。このサインは、円蔵山のターミナルに反応があったという事を示している。
「デオン、内田、行くぞ!真里亞はヤタガラスの方のターミナルに異変がないかを確認してくれ!ミズキさんと風魔はそっちに!所長と縁は聖杯の護衛を!」
そうして、最速で大空洞内部のターミナルを確認すると、そこには一通の手紙が落ちていた。
差出人の名前は、葛葉キョウジ。
内容は救難要請。聖杯を見つけ、封印しようとした時に強大過ぎる力を持った悪魔が現れたのだとか。
故に、
「他人へのラブコールだけど、行かない訳にも行かないか」
付和さんこと葛葉ライドウが今どこにいるのかわからない。ならば、取れる手段で対応するべきだろう。
そう思い、大空洞の外に出る。
どうやら、次の目的地は決まったようだ。
次の目的地は帝都、悪鬼渦巻く日本の中心だ。
準備をスパッと切り上げて次に行きます。
グレイルウォー第3戦、帝都マサカド大決戦へ。
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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