白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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がっつり戦闘回です。



正面衝突

翌日、早朝。

 

本当に用意されていたパインサラダを食して元気をつけた俺は、シェムハザから提供された各地の探知結界からの情報で狂将マサカドのルートから、襲撃地点を算出する。

 

正直これで今日のスケジュールの大半を占める予定だったため、正直かなり助かっている。

 

戦闘区域の選定は完了。迷彩術式の支援は紫式部さんに、周囲の悪魔の討伐は刑部姫に任せることができた。

 

これで、今の全戦力をもってマサカド公と相対することができる。

 

「覚悟はいいな?真里亞」

「はい、必ず公を説得してみせます」

「頼もしいな。じゃあ行こうか!」

 

マサカド公が来るのはルートから逆算すると、帝都大学。

そこに隠れている悪魔に狙いをつけているのだとか。

 

ファントム的には敵対よりの中立なので、潰れてくれることには何も問題はないとか。内部に強力な悪魔も有能な悪魔も存在しないらしい。

 

こういうのを殺し、食らうことで力をつけているのだ。故に狂将マサカドと呼ばれている。

 

そうして力をつける事で護国神を打倒するつもりのようだ。

 

義によって顔無しを殺し、理によって悪魔を食らう。ならば、忠はどこにある?

 

そんなものは決まっている。マサカド公が守り続けてきた人々の暮らしの中にだ。

 

だから、ただその一点だけに交渉の余地はある。

 

そうして、大学の入り口の赤門をくぐると

 

そこには、何故かこちらに対して正面から相対しているマサカド公の姿があった。

 

「予感があった。今日戦う者達こそ運命なのだと」

「やめろよそういうのでこっちの作戦挫くの。お前が中の連中とやりあってる間にトラップ祭りにしてやるつもりだったのに」

「外道か貴様」

「悪魔に言われたくねぇよ。サモン、アテルイ、俵藤太、刑部姫、紫式部。召喚魔法陣、転写(トレース)高等悪魔召喚魔法(サバトマ・ダイン)起動!来い、ベル・デル!」

 

アウタースピリッツとハイエストクラスの召喚。そしてCOMPを通さない高等召喚術式。

 

有効な戦力の全投入。後先は考えない。

 

そういうのは、全部キョウジさんとシェムハザ任せだ。

 

「貴様、藤原の?」

「そういうお主がこの世界の将門公か。随分と荒々しく、かつ神々しくなっておる」

「死んでから長いからの」

「旧交を温めるのは後でお願いしますよ、マサカド公」

「邪悪の眷属が、何をしに来た?」

「世界を、とりあえず3週間くらい延命させるために」

 

「貴方を、従えに来ました」

 

その言葉に、一瞬きょとんとした顔をしたマサカド公は、堰を切ったように笑い出した。

 

「さては貴様、正気ではないな!かといって狂気でもない!貴様のような者がいるとは、眷属にも面白い者はおるのだな!」

「ええ、本当に千尋さんは奇妙で、珍妙で、面白く、そして信頼できる人です」

「ま、とりあえずはぶっ飛ばさせてもらいます。そっちだって、力も示さない奴に力を貸すほど間抜けじゃあないでしょう?」

「その通りだ。では、構えるが良い」

 

一瞬、風が吹いた。対話は終わり、ここからは力を示す時間だ。

 

「アテルイ、紫の剣!ベル・デルは突っ込んでかき回せ!」

「了解だ」

「おぉおぉ!やってやるよ滅茶苦茶によぉ!万魔の乱舞ゥ!」

 

先陣を切るのはベル・デル。光の翼による最速軌道でマサカド公へと近づき、両手から5発の万能属性の弾丸を放つ。

 

マサカド公はそれを巧みな体術で回避してベル・デルに接近するが、ベル・デルは上空へと逃亡を図る。

 

だが、それは異次元の力場コントロール能力によって作られた力場の檻により妨げられ、マサカド公はベル・デルの首に一太刀浴びせた。

 

「何?」

「効か、ねぇよ!」

 

だが、万物に対して契約を結んだベル・デルの体に傷はつけられない。衝撃が逃げないように檻の中での斬撃だったのだろうが、それがかえってベル・デルが吹っ飛ぶといういつものを妨げてくれた。

 

「この距離だ、躱してみせろや!高位万能属性魔法(メギドラ)!」

「その程度、斬りさばく!」

 

そうして、マサカド公はメギドラを刀で切り裂いた。あれはおそらく万魔の斬撃。万能属性を込めた斬撃を放つという絶技だろう。そうでなければ万能属性に対してカウンターはできない。

 

だが、この程度は想定内。

 

というか、そうでなくては困ったことになってる。

 

何せ、マサカド公が切り裂いたそのメギドラの射線上には、アテルイがいたのだから。

 

「アテルイ、ぶちかませ!全能力強化魔法(ヒートライザ)!」

「奥義、一閃!」

 

紫の鬼の重く鋭い斬撃が、マサカド公の力場を貫き、その体に傷をつける。だが、浅い。マサカド公は体を捻らせて斬撃の致死圏から逃れつつ、アテルイの顔に一太刀の刀傷をつけてみせた。

 

斬撃打撃射撃、大体の物理攻撃に対して強靭な力場を持つ紫のアテルイにだ。

 

「...技のレベルが違うな。戦闘経験のなせる技って奴か」

「だが、()()()()()よ。力場コントロールに関しては任せる。前に出るよ、トウタ」

「おうとも。連携には不安はあるが、それはサマナー次第よな」

 

デオンが前、藤太さんが後ろから戦闘エリアへと進軍する。アテルイもベル・デルも大きなダメージはない。数的優位を取れているうちにダメージを重ねていきたい。

 

紫式部さんの術式制御では、そう長くこの戦闘を隠せない。

刑部姫の式神による遅延戦闘では、護国神やファントムの幹部級の悪魔がやってきたときには最悪の横槍を出されかねない。

 

つまり、シェムハザが護国神に仕込んだ信頼という毒と俺の作った迷彩、どちらかが破られたらおしまいなのだ。

 

「ちっひー!中の悪魔連中結構手強い!」

「わかってる!だが絶対に手を出させるな!向こうが穴蔵決め込むくらいには脅かしてやれ!」

 

刑部姫は泣き言を言いながら、紫式部さんは奥歯を噛み締めながらこの戦闘エリアを作ることに専念してくれている。

 

これはどちらも、彼女たちにしかできなかった役割だ。対軍勢の足止めと、術式の制御。

 

それを思うと、本当に恵まれている。

 

こちらの()()()の事も考えると尚更に。

 

「さぁ、真里亞!かますぞ!」

「ええ!力場はお任せします、千尋さん!」

 

デオンが前に出た事で、戦況は一転する。

 

マサカド公と剣のレンジでやりあえるデオンは、否が応でもマサカド公の目を惹く。デオンの剣はそういうものなのだから尚のこと。

 

身体のスペックでは全体的にデオンは負けているが、それを補うのが仲魔の力だ。術式を練るのと並行して、マサカド公の攻め手を一つずつ潰していく。時に、力場をベル・デルの魔法で搔き消したり。時に、力負けするデオンの剣にアテルイの剣を合わせて力を加えたり、時に、デオンのレンジから離れようとするのを曲射によって力場も意識をすり抜けて妨害する藤太さんの弓であったりだ。

 

「あやつに対しての切り札だが、ここで切らねば護国はならぬ!」

「来るか、戦神形態!」

「マサカド公の力を完全に解き放つ、護国の切り札!」

 

そうして、力場を完全に実体化させて作られたのは、神秘の鎧や具足。

 

感じるプレッシャーは段違い。正直、アンリマユの泥を取り込んで自分の情報量を増やしていなかったら今ので意識が吹き飛んでいた自信はある。

 

それほどまでの脅威。神の領域の力だ。

 

しかし、これは力を示す戦い。

 

これを打倒した先にしか、マサカド公の忠誠はありえない。

 

「だが、100%は出させない!術式遅延解放!全能力低下魔法(ランダマイザ)広域全能力向上魔法(ラスタキャンディ)!」

 

形態変化(ファームシフト)の隙に叩き込むと決めていた弱体化魔法と、仲間皆を強化する強化魔法。そして、最後の一つ。

 

「力場ハッキング術式第一号、火炎ガードキル!」

「ぬぅッ⁉︎」

 

これまで、出力回路(サーキット)がなかったが為に机上の空欄でしかなかった力場干渉術式。アナライズが完了した相手に対して調律しないと使い物にならない欠陥術式だが、今回に限っては最大の効果を発揮する。

 

これで、今まで燻っていた護国の炎がこちらの切り札になるのだから。

 

極大火炎魔法(アギダイン)!」

 

エネルギーを収束させた事で白い光を放つ炎の槍。それが、マサカド公のみを焼こうと突き進む。

 

「チィッ!」

 

その槍を防御するように作られる円形のフィールド。正面からその槍を受け止めたマサカド公は、半歩後ろに下がらされた。

 

ここが、勝負の分水嶺。マサカド公の戦神形態に実力を発揮させられたら間違いなく負ける。

 

故に、切り込むのならここしかない。

 

「藤太さん!」

「おうさ!」

 

そうして、マサカド公が防御に回ったその一瞬で、デオンと藤太さんのポジションが入れ替わる。

 

藤太さんが腰に帯びている刀を抜き放ち、“平将門を破った”という逸話的性質を持つその身でマサカド公の守りを切り裂く。

 

そして、その隙間にデオンが体を捻り無理やり侵入する。

 

夢幻降魔(D・インストール)、クー・フーリン!決めろデオン!」

「させぬわ!」

 

結界の内側に侵入されたことに対して驚きもせずに、マサカド公は予想していた最悪の手を打ってくる。

 

7人に分身する、マサカド公の権能だ。

 

そうして6人のマサカド公に囲まれて万魔の斬撃の六段重ねを放たれるデオンは

 

その手に握った、光り輝く剣の力を解放した。

 

光り輝く破軍の剣(クルージーン・カサド・ヒャン)!」

 

閉じられた力場内部での極光の斬撃。それはマサカド公の弱点であるこめかみを、体全体を纏めて切り裂く事で突いたのだ。

 

「甘いわ!」

「想定はしてんだよ!全員、突っ込め!」

 

だが、マサカド公の分身は再び現れる。本体が生き延びている限り。

 

その、タイムラグはわずか0.5秒。

 

その隙間に、全員で雪崩れ込む。

 

ベル・デルが神速で踏み込み、ゼロ距離から高位万能属性魔法(メギドラ)を放つ。

それを内側に入る事で回避したマサカド公はベル・デルを投げ飛ばして無力化する。だが、その背には紫鬼から速度特化の青鬼に変化したアテルイが、そのスピードそのままにこめかみに槍を差し込もうとする。

だが、マサカド公はベル・デルを投げた力の流れをそのままに前回りに空中で一回転し、その槍ごとアテルイを叩き切った。青鬼モードは耐久力が劣る為まともに一撃を喰らい、だが役目を果たさんと瞬時に赤に変わり吹き飛ばされる身体の力を利用した炎の回し蹴りにて視界を奪いつつダメージを狙う。

 

それを力場コントロールで防御したマサカド公は転がるように逃れ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

これで、0.5秒。

 

インターバルを逃げ延びたマサカド公が、再び7人に分かれる。

 

ここで仕留められなかったのは痛いが、まだ次の手はある。

 

「真里亞!」

「ええ!極大広域火炎魔法(マハラギダイン)!」

 

炎の瀑布が7人のマサカド公を覆い、その動きを足止めする。

ガードキルの効果で力場で反射できない今なら、これは有効打なのだ。

 

そして、その炎の瀑布の中で平然と突っ込む二つの影。

 

赤の姿に変わり火炎の無効耐性を得たアテルイと、無敵の身体を持つベル・デルだ。

 

「万魔の一撃ィ!」

「火炎纏・鬼神楽!」

 

2人の一撃が瀑布に押し流されたマサカド公のこめかみを穿つことで、2体の分身が搔き消える。しかし、先程まで本体だったマサカド公が分身へと変わったことで、本体の位置は分からなくなった。

 

あと、3手。残りは、5人。

 

確率は60%。だが、ここを逃せば自力の差で押し負ける。

 

賭けに出るべきだ。命をかけて。

 

瀑布の余熱で肺すら焼かれそうになりながら、念話にて意思を伝える。

 

ここで、前に出る。

 

そして、切り裂かれる炎の大瀑布。これで、足止めは完全になくなった。故に、奇策をねじ込むしか無い。

 

「突っ込めぇ!」

 

声を上げる事で一瞬意識を引きつける。その瞬間にデオンはクルージーンを手放しいつものサーベルを握り、ひとりのマサカド公に斬りかかる。

 

そして、その二つを見せ札にして後方から火炎魔法をバーニアにして飛んで来た真里亞の蹴りが放たれる。

 

それをギリギリの所で回避したマサカド公は、それを読んでいた真里亞の回し蹴りにてこめかみを打ち抜かれてかき消えた。

そして、その余波を知らないマサカド公と、知っているデオンの差が一瞬の隙を作り、サーベルを持っていない左手でナイフを取り出してマサカド公のこめかみを貫いた。

 

これで残り一手、残りのマサカド公は3人。

 

この時点でマサカド公は、どこか見えていた余裕を捨てて陣形を組み、防御の耐性を取った。残りの手の中に藤太さんが居ることがわかっているのだろう。それは最悪の選択だった。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

そう、陣形を組んだ事で、デオンが蹴り飛ばしたクルージーンがマサカド公の背後に置かれた。

 

排出(アンインストール)!クー・フーリン!」

 

クルージーンを媒体にして召喚が成立し、闘鬼クー・フーリンが、マサカド公の背後に現れる。

 

クルージーンを使っての斬撃に、一番後ろにいたマサカド公が反応し防御に移る。

 

しかし、クルージーンはただの剣ではない。恐ろしく柔軟な形を取ることのできる魔剣なのだ。

マサカド公の受け太刀をすり抜けて、奇怪な軌道を描いたその剣は的確にマサカド公のこめかみを貫いた。

 

これで、打てる手は全て打った。残りは2人、60パーセントの賭けは外れだった。

 

 

 

故に、ここからはただ死力を尽くすのみ。可能性は薄くても、それしかないから走り出している俺と藤太さんの即興コンビネーションに全てがかかっている。

 

こちらの攻撃に対抗して急所(サマナー)である俺の首を取りに来るなら、ラストのギャンブルの始まり。分身を壁にして安全にインターバルをやり過ごすなら向こうの盤石な勝利。

 

そんな、賭けになっていない賭けを成立させるのは

 

男の意地、それしかないだろう。

 

ただ、目を見るというだけでマサカド公を挑発した藤太さんがいたから。俵藤太という英雄が、かつてマサカド公に勝利を収めた男であるから。マサカド公には、真っ正面から打ち破りたいという欲が生まれるはずだ。というか、そうであってくれないと詰みだ。

 

そして、そんな一瞬の後に

 

マサカド公は、分身と共にこちらに対して戦闘行動を取ってきた。

 

これで、こちらの手は2手増えた。あの曲射を止めたことから完全に見切られていると思われる藤太さんと、へっぽこサマナーである自分。手としては、悪手の類だ。

 

だが、もうそれしか切れる手札はないのだ。

 

分身を増やされたら敗北が確定するので、待ちの手は使えない。故に、アクセル全開で突っ込む。

 

MAGを足の裏で爆発させる事での高速移動。無意識に皆がやっていることを、あえて意識して行う。

現在の俺のMAGは、アンリマユに汚染されている為にかなりの劇毒だ。それを散らすだけで警戒心を煽れる。そして、それに乗じて藤太さんは、無尽俵を投げつけた。

 

さすがに俵が飛んでくるのには面食らったのか、ほんの僅かに動揺した後に大きく躱したが、それが藤太さんの狙いのようだ。

 

2対2が、1対1が二つに切り離された。

 

即席のコンビネーションはこれで終わり。あとは、死力を尽くすのみ。マサカド公の本体は9割方藤太さんの方であるが、こちらを自由にしていい理由にはならない。

 

こちらの高速移動を完全に見切ったマサカド公は、どんな防御も貫通するだろう万魔の斬撃を構えて待ち構えている。それに対して俺は左手の指先をマサカド公に向けた。

 

それは、魔法でもない原始的な一工程(シングルアクション )魔術。指先を向ける事で、呪いを与えるという現代においては使い物にならない過去の遺物。

 

だが、今現在の俺の身体状況であれば、これは切り札になり得るのだ。

 

この世全ての悪の意思が練り込まれたその弾丸は、あらゆる耐性を貫通しての呪いとなる。意思の塊は、力場では防げないのだ。

 

気合いで耐えられるだろうが、それでも一瞬は奪い取れる。それは、同じ意思を共有している分身もそうだろう。というか、そうでないと困る。

 

このトリックプレイは、理解され防御されたら意味をなさないのだから。

 

「藤太さん!」

「おうよ、サマナー!」

 

藤太さんの着物に仕込んでいたトラフーリストーンを起動させる。瞬間的に位置がずれて、マサカド公のこめかみを刀で切り裂く。

 

だが、そのダメージにより、マサカド公は消滅してしまった。

 

()()()()()()()()()()()()()

 

これで、賭けは俺の負けだ。

 

もう、どうしようもない。できることがあるのならば、それは

 

 

「闘う意思を、絶やさないこと!」

 

 

ストレージからショートソードを取り出して、万全の体制で待ち構えている本体に向けて意識を集中させる。

 

「良く戦った。だが、騙し合いは余の勝ちだ。悔い無く往ね」

「まだ、だぁ!」

 

加速した意識のままに、マサカド公の万魔の斬撃に対して、浮き上がるようにガルストーンを起爆させる。

 

そうして爆発的に放たれた風に乗ってマサカド公の斬撃から身体を逃す。

 

両足が切り落とされたが、体はまだ動く。むしろ綺麗に切り飛ばされたお陰で俺の身体にかかっている慣性は、まだマサカド公の方を向いている。

 

そうして、剣をこめかみに叩き付ける。

 

手応えは、あった。死に際で尚前に出るとは思われていなかったのだろう。

 

ダメージを与えられたことで動揺したのか、マサカド公は半歩後ろに下がった。

 

そして、瞬間飛びかかりマサカド公に斬りかかる短剣を咥えた忠犬パスカル。完全に意識の外にいた為にマサカド公は躱せずに斬撃をモロに食らった。ダメージは致命傷とはいかないが、戦闘続行には回復が必要だろう。

 

そしてその隙に、仲魔達が俺の身体をカバーできる位置に来てくれた。

 

そんな状態のマサカド公に、真里亞が話しかける。ここが、交渉のポイントだと思ったのだろう。

 

「...マサカド公、まだ続けますか?」

「これは死合いだ。続けるしかなかろう」

「いいえ、あなたはもう戦う以外の道を思い浮かべている。花咲千尋という脆弱で、それでも前に出る不思議な人を見た事で」

「なぜ、そう思う?」

「私も、そうでしたから。強さではない所で戦う奇妙な人を見たときに、この人なら大丈夫だとなんとなく思えたのです」

「だが、邪悪の眷属である事には変わりあるまい」

「変わりはあります。だってそうでしょう?」

 

「千尋さんは、英雄じゃない。悪魔でもない。それでも、前に進むその意思であなたをそこまで追い詰めてみせた。だから、あなたは敵としてでなく、隣で見てみませんか?殺すかどうかを決めるのは、それからでも遅くはないと思います」

 

そうして、その言葉に数瞬悩ませた後にマサカド公はこう言った。

 

「邪悪の眷属よ、改めて聞こう。貴様の名は?」

 

その問いへの答えは、一つしかない。

 

「花咲千尋、悪魔召喚士(デビルサマナー)だ」

 

「ならば我が真名、平将門の名において契約を結ぼう。契約の内容はただ一つ、護国神を名乗るあの者を討ち果たすまでの共闘だ。貴様達なら、足手まといにはならぬだろう」

「依存はない。だが、ただ一つだけ条件を付け加えさせてくれ」

「ほう?」

「お前が俺を邪悪の眷属として、この世界の害悪だと判断したら斬ることを躊躇わないでくれ。こればっかりはまだ理解できてないから、何がどう転ぶかはわからない。邪悪とはなんなのか、何故顔無しは悪魔になるのか、まだまだ未知は多いからな」

「...自らを縛る枷を作るか、誠に面白きサマナーよな。貴様が人であれば、力を貸す事に躊躇いはなかったものを」

「一応、俺みたいなのが多数派なので、人は顔無しもですよ。そういう社会になってたんです」

「そうか...それならば」

 

「少し、俗世を見て回るとするか」

 

ここに、契約は結ばれた。顔無しと護国の雄との、奇妙な契約が。

 


 

マサカド公は俺の両足にMAGを流した。この感じ、回復魔法だろう。断面が綺麗だったからか、あっさりと足はくっついた。血の跡と切られたズボン以外に切られたという痕跡はない。

 

極大回復魔法(ディアラハン)だ。これでよかろう?あまり血を流し過ぎるな。仮にも余のサマナーなのだからな」

「ありがとうございます、マサカド公。では、早速結界に干渉します」

「堅苦しいのはいい、好きに話せ。どの道ここまで来たら一蓮托生だ」

「なら、単刀直入に。あなたを通じて帝都結界を誤魔化します。マサカド公の存在可能性を倍にする事で、ひとまず結界の崩壊は避けられるはずです。各地に流れる龍脈はまだ淀むでしょうからそう長く持ちませんが、その間に護国神マサカドのカラクリを暴いて殺して結界内のマサカド公の数を元に戻します。異論、質問は?」

「ない。そうせい」

 

「お前ら、とりあえず場所を変えるぞ。幸いシェムハザの言った通りにあっちのは来てねぇ。が、あれだけ派手にやったんだ。嗅ぎつけられない訳はねぇ」

「それと、私の結界維持も限界です。それに、刑部姫さまも...」

 

その言葉と共に、全力でこちらに逃げてくる刑部姫が見えた。

 

「うわぁぁん!ちっひー!無理!無理だからぁ!」

「ざけてんじゃねぇぞ!折角の大物食いのチャンスを潰してくれやがって!」

 

追っているのは、悪魔の軍勢。意外な事にハイクラス悪魔が存在している。よくも折紙の式神だけで戦えたものだ。

 

「では、少し力を見せるとするか。先ほどの戦いでは、主導権を握られたままだったからな」

 

そうしてマサカド公は刀を抜き、全力で逃げる刑部姫の横を通り抜けた後に、横薙ぎに刀を振るった。

 

瞬間、身体から吸われる大量のMAG。COMPに溜めていた分は今ので尽きたようだ。

 

そして、マサカド公が刀を振るったその先には。

 

ただの力を込めた斬撃で切られた悪魔の軍勢と、その先の大学の残骸があった。

 

「ふむ、死亡遊戯には程遠いな。やはりMAGが足りぬか」

 

そんな言葉を最後に、戦闘は完全に終了した。

 


 

「...良し、結界の改変完了。これで明日にでも世界が終わるって事はないだろうよ。一安心だな」

 

苦節三時間の作業の結果、どうにか結界を誤魔化すことに成功した。マサカド公と真里亞のアカウントのお陰でだいぶ作業を短縮できたが、それがなかったら世界は崩壊していたかもしれない。

 

だが、これはあくまで結界を誤魔化しただけ。原因を取り除かなくては意味はない。

 

「というわけで、ネタを割りましょうか。護国神マサカドの無敵には、絶対に理屈がある。そうだよな?()()()()()

「ええ、あいにくとこれまでにマサカド公に攻撃を通せた者は居なかったため、解析できたのはキョウジ様達の一戦のデータのみ。トライアンドエラーを繰り返して解析を進めたい所ですが、良くて1回の試行が限界でしょう。それ以降は、流石のあの装置的にしか動かないマサカドもどきとはいえ対策はするでしょうからね」

 

そうして、真里亞とキョウジさんのCOMPの戦闘履歴データと、シェムハザの観測データを照らし合わせて対策を考える。

 

狂将との戦いの後に護国神を連れて介入してこなかったこと、出されたデータが正しいものだったこと、それらを踏まえて考えるとシェムハザは当面の味方と考えていいだろう。との総意からシェムハザを神田明神地下のここに招く事にした。正しい状況と情報を交換し、護国神を打ち破る為に。

 

「まず大前提として、マサカドは無敵にまつわる逸話防御は持っていないよな?」

「余の悪魔としての力は、7人に分かれる力のみよ。それ以外は人であった頃と変わらぬ」

「つまり、護国神の防御はやっぱ別口か...」

 

正直、護国神の方とはまだ相対していないのでわからない事が多い。こういう敵のルール破りは直感がものを言うのだと教えられているし、そうだと体験もしている。

 

というか、変幻自在の次元切りである草薙の剣で傷がつかない時点で意味がわからない。概念のレベルでの攻撃だぞアレ。

 

そんな事が起きる理由は、何だろうか。

 

「うん、わからん。とりあえず、護国神がどうしてファントムの頭に収まってるからか話してもらっていいか?」

「そういえば、その事については聞いていませんでしたね」

「まぁ、我らにとっても狐に摘まれたような話ですので、あまり口外はして欲しくはありませんが...」

 


 

それは、平成結界が令和結界に切り替わってから一年半が経ち、帝都の半分以上を制圧したことでファントムソサエティの組織再編も成ったある日のこと。

 

突如として、盟主をしていた顔無しの男、サカキが成ったのだ。あのマサカド公に。

 

「これより、国を奪取する」

 

そんな言葉が、新盟主の最初の一言だった。

 

 

 




どうでもいい事ですが、クッソ安いキャプチャーボードがあったので物は試しにと買ってみました。Switchの録画には特に問題は無さそうです。

待っていろ、真V!初見実況プレイとかやってやる!

まぁ、その時までにキャプチャーボードが壊れてなければの話ですけどねー。安心できないメイドインチャイナなので。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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