白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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無貌の悪魔

マサカドの帝都侵略は、ゆっくりと、しかし着実に進行していった。

 

まずは、敵対勢力をその力でねじ伏せ始めた。ガイアを、メシアを、ヤタガラスを。

 

その過程で、マサカドは顔付きを喰らい始めた。

 

それにより、始めは多少強力な悪魔でしかなかったマサカドは急速な速度で、急速すぎる速度で力を付けたのだ。

 

そうして戦うたびに強くなっていくその姿は、敵としてみれば最悪の敵だったが、味方としてみれば英雄そのものだった。

 

その力に、魅了されてしまったのだ。

 

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そうして、敵対勢力を食い終わった後にマサカド公はこんな事を言い放った。

 

「更なる力の為に、身を差し出せ」

 

構成員たちはそれに、狂喜乱舞した。選抜されたのは組織でも有数の力を備えていた顔付きの者達。

 

そして、彼らは二度と帰ってくることはなかった。マサカドに喰われたが為に。

 

そう、マサカドはマサカド自身のみが強くなるためにファントムソサエティという営利組織を掌握したのだ。その構成員達の命を、食らう為に。

 

そうしてマサカドは力を付けていき、神に匹敵する力を手に入れた。それによって帝都結界、および令和結界を侵食しているのが今の護国神マサカドだ。

 

そして、そのことになんの躊躇いも持っていない。

 

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それがシェムハザにわかったのは、帝都から顔付きが消えたからだったため、何も手は打てなかったが。

 

そうして、信仰による神格化のせめてもの妨害に、顔無しの悪魔人間化を進めるというプランを通して、マサカドの情報を集めてようやく今に至るのだ。

 


 

「大まかに端折りましたが、だいたいこんなものです。無敵に繋がるタネはありませんね」

「...いや、あるかもしれない。そもそも、何故顔無しの護国神が顔無しであるキョウジさんを襲った?」

「大の為の小の犠牲、そんな考えでは?あの護国神はロジカルに動きますからね。人を単位で見るならば間違いではないかと」

「...なるほどな、そうまでしてでも隠したかった不死身のタネに近づいていたから、俺を襲ったって訳か」

「で、キョウジさんが襲われたのっていつでどこなんですか?」

「2週間前、皇居の地下に寝かせてるある邪神の封印の補強をしている時だったな。その邪神が何かについては大した情報を持っていねぇ。情報が広がることで顕現が確定するタイプの悪魔だってことくらいだ」

「なら、次の目的地は皇居の地下ですね。その邪神に対してなんらかのアクションを起こしていたなら、それが無敵のタネかもしれないですから」

「...ええ、行きましょう。キョウジ叔父様と違い、私には皇族としてのアカウントがあります。深く探るなら必須でしょう」

「マリア、無理をするものではないよ。君が無茶をしなくてもサマナーなら何かしらの裏技でどうにかしてくれるさ」

「ふふっ、そうかもしれませんね。ですが、私は見たいのです。今の私なら、皇族とはどういうものなのかを本当の意味で理解できるような気がしますから」

「了解だ。ならシェムハザ、マサカドの監視が弱まったら連絡をくれ」

「ええ、私は一旦ファントムに帰らせて貰います。皆様のご多幸をお祈りさせていただきますね」

 

「待て、悪魔」

 

そんな、白々しい言葉で去ろうとするシェムハザを、マサカドが止める。

 

側に居るだけで伝わってくる、超一級の殺気を放ちながら。

 

「待て、マサカド。シェムハザをファントム戻さない為に殺したら、その時点でマサカドに迫る手を失う。それどころかこの拠点がバレる危険性だってでてきちまう。シェムハザの持ってるMAGはかなりの量だからな」

「安心しろサマナー、一つ明らかにしておきたい事があるだけよ」

 

「悪魔よ、貴様は何のために我らに手を貸す?」

「そんな事、決まっているでしょう」

 

「私は、多くの同胞達が願った世界の実現の可能性で考えているだけです。あの護国神につけば、可能性はゼロ。対してこちらにつけば...まぁ那由多の果てかもしれませんが可能性はあります」

「ファントムソサエティの理念、か...」

「ええ、人と悪魔の垣根を超えて、利益のみを追求する団体。それがまかり通るのが、同胞達が願った世界です」

 

「商売というのは、悪魔にとっても楽しいものなのですよ」

「ふむ、とりあえず理解はした。が、貴様の存在はこの国の害になることも理解できた。いずれ死合うことになるのだろうな」

「ええ、そうかもしれませんね。では、これにて」

 

そう言って転移魔法で消えていくシェムハザ。

奴の言葉には嘘はなかったように思えたが、それは真実を語っているという保証にはならない。

 

とはいえ、シェムハザに命を握られているという状況は多少マシになったように思える。なにせ、狂将マサカドを共に懐柔し、共闘の誘いに乗ったという証拠も残させた。

 

普通に議事録として回していた、テープレコーダーに声を残すというノーガードで。

 

「いずれ殺しあうだろうけど、今は...ってのは、めんどくさいんだよなぁ」

「そうなのかい?サマナーは割とそんな手をよく使っているように思えるけれど」

「だって、頭の隅に流れ続けるんだぜ?ここで殺しとけ!って誘惑が」

「...サマナーはどうしてそう思考が外道なんだい?」

「デビルサマナーはそんなもんだよ、多分」

 

そんな会話を最後に、シェルターにあった物資を使ってのささやかな祝勝会を行った。

 

藤太さんが食料の類は出せるから不足は酒くらいしかなかったが、その酒がちょっと問題だった。

 

なにせ、酒を持っているのが俺だけなのである。

 

宴会と言えば飲み比べよ!応!と殺した殺されたコンビが乗ったが為に、渋々と出した缶ビールはかなり懐にくるものだ。なにせ補給が効かないのだから。工場がなくなったであろうから、下手をすればそこいらの地酒やらワインやらよりも流通回復が遅いかもしれない、それを考えるとビールの価値は今や超うなぎ登りであるはずなのに、それを普通に飲むという行為で使わざるを得ない状況、サイフポイントが目に見えて減っていくのがわかる為にかなり心にくるのだ。

 

ああ、COMP内の在庫整理を仲魔の前でやらなければ良かったのに。おのれメドゥーサ、裏切りには相応の報いを与えてやるからな!こう、具体的には落ちたダンベルに尾を挟まれるとかの呪いで!

 

まぁ、思うだけでやらないが。

 

今現在はマサカド公と契約したが為に、若干キャパシティオーバーしているのだ。そのために、常に制御補助術式を回していたりしている。地味に燃費が悪いぞこの宴会。そして、そのために制御はガバガバであるため、反旗を翻されたら防ぐ術はないのだ

 

もう一つ二つサブで使えるCOMPを探そう。うん。それにCOMPの制御を分ければこの状況も多少はましになるだろう。

 

「サマナーよ、貴様も飲まぬか」

「もう全部ビールは出したんだよ...」

「ふむ、ちと飲みすぎたか」

「あー、畜生。ビールの作り方とか知らねぇから補給できねぇんだよなー」

「サマナーよ、麦なら出せるぞ」

「いや、確か色々他にも必要だったんだよ。なんだったか...」

「ホップと酵母だね。だが、詳しい作り方は私もわからないよ」

「ふむ、この苦味はなかなか癖になるのだが、作れぬなら仕方ないの」

「ああ、安酒だろうとわかるが、悪くないな。余への捧げものは大体が一級品の酒だったが為にな」

 

 

 

 

そんな風にわいわいと騒ぐ連中。

その顔には未来への不安は感じられなかった。奇妙な事だ、護国神の力を考えれば、未来に希望など見えないはずなのに。

 

「ま、それを言うなら俺もか」

 

シェムハザから話を聞いてからなんとなく思えているこの感覚。本当に奇妙だが、なんかいける気がするのだ。

 

流れに乗ってる、そんな感じだ。

 

「...この感覚が良い流れの予兆だと良いんだけどな」

 


 

そうして、シェムハザからの連絡を元に旧皇居へと向かった。

そして、封印の前に来て理解できた。

 

これは、もう抜け殻だと。

 

「キョウジさん、追えますか?」

「無理だ、かなり前に喰われてる。だが、結界が壊されたって訳じゃねぇな。中と外からの共鳴で力だけを渡したって感じだ。中の悪魔は生きてはいるだろうぜ」

「...開けますか?」

「微妙ですね。せめてこいつの正体でもわかれば良いんですが...」

「こいつが死ぬ事は、間違いなくあっちのマサカドに伝わるだろう。全面戦闘の準備はできちゃいねぇんだから、放置が良いだろうよ」

 

そうして、周辺の情報だけでも漁って帰ろうとしたその時、声が聞こえた。

 

「そこに、いるのか?」

「...ええ、俺は花咲千尋。あなたは?」

「我が名は◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎...いや、無貌とでも呼んでくれ」

 

しれっと恐ろしい真似をしてくれやがったこの悪魔。名前を伝えるという行為すら害になるとわかっているのだろうか。

 

「では無貌さん。あなたは、何故こんなところに?」

「ただ在るだけで危険だと判断されたからだろうよ、全くヒトというのは臆病なものだ」

「まぁ、ヒトって基本クソザコなんでそこは納得してくださいな」

 

今現在生き残っているヒトは、相当なタフガイ達だという事からは目を逸らしておく。

 

「では、あなたはどうしてここからの解放を願わなかったんですか?護国神マサカドを名乗るあの者に」

「...それが、最善だと考えたからだ。今、この世界には依って立つ象徴がいない。だが、彼ならそうなってくれると信じた。信じ、たかったのだがな...」

「というと?」

「彼は、力に飲まれた。私を受け入れる器ではなかったのだ」

「じゃあ、その力とやらの正体を教えてくれませんか?ちょっとそいつを殺さなきゃならない側ですから」

「...力はそう単純なものではないのだが、その者の本質を強くするようなものだと考えて構わない」

「つまり、無敵の理屈はマサカドになる前の人間の本質って事か...サカキってどんな奴だったんですか?」

「ファントムの頭らしい、手段を選ばない奴だ。が、マサカドになる前はそう邪悪って奴でもなかったな」

「闇の組織のトップだろう?それがどうして邪悪でないと?」

「アイツは、マサカドになる前は陣取り合戦に積極的に参加してなかった。ヤタガラスとガイアとメシア、全組織に公平に兵站を回す事で戦況をコントロールしてはいたがな。だが、それ以上に干渉はしていなかった。外道と邪悪の線を引いて、外道でいられるラインを超えなかった。だからこそ、ファントムは一年半蝙蝠を続けられていたんだよ」

「なるほど...」

 

とすると、やるべきはファントムの内情を探る事だろうか。

シェムハザの後ろ盾があるから、探りを入れる事は不可能ではない。が、それは違うと何かが叫んでいる。

 

「...なぁ、無貌さん。俺にその力って奴は渡せるか?」

「不可能ではない...が、見たところ中に異物を入れているな?その状態では貴様の本質次第ではどうなるか保証はできない」

「...なるほど、大体わかった」

 

「つまりお前は、封印されている意味なんてないんだな」

「その通りだ、私は所詮端末の一つでしかないのだからな」

「サマナー、どういう事だい?」

 

「こいつは、なんらかの方法で外部とコンタクトを取っている。それも、無意識に語りかけるようなやり方で。キョウジさん、ここに来るまでになんかいけるような気がしませんでしたか?」

「...ああ、マサカド公が仲魔になった事が原因だと勝手に思っていたが、それが...誘導ってのはそういう事か」

「はい、感じたままを言うならば、こいつは顔無しに干渉する力を持っている、その権能として。そしてそれが、この皇居地下に封印されている理由。こいつのMAGパターンから作られたんでしょうね、出産器の中身は」

「待ってください、何故そのようなことが?」

「正直勘がロジックの補強をしているので確実にとは言えないが、こいつに操る力があるとするならばその根本は同じものであると考えるのはそう間違っていない。そして何より、こいつに対してどこか懐かしさのようなものを感じてしまっている。それはつまり、こいつが親って事なんだろうよ」

 

その言葉と共に、感じていた抜け殻のような感覚が消え、混沌としたMAGが伝わってくる。封印越しでこれなのだから、恐ろしい話だ。

 

「花咲千尋、本当に奇妙な男だ。故に、私を受け入れてくれると思ったのだがな」

「それが、お前のミスだよ。あの時俺は、護国神に勝つためには同じ力を手に入れるしかないって思っていた。そこが、絶対にありえないんだよ」

「ほぅ?」

「だって俺は...」

 

「他人の力と詐術で戦うのが基本の他力本願サマナーだぞ!」

 

瞬間、デオンと真里亞から冷ややかな視線が向けられる。だって仕方がないだろう、事実なのだから。

 

「それでいいのか?花咲千尋」

「サマナー、彼にも言われているよ」

「うっせ、事実なんだから仕方ないだろ」

 

 

「それはともかく!俺に力は必要ない。いや、必要ではあるんだが、それは降って湧いた力じゃなくて知識と努力と根性とあと金の力で手に入れるものであるべきだ。なんの代償もない力なんざ、信用できないからな」

「ならば、我々を殺すか?」

「必要ならな。だが、お前がいないと人類は終わる訳だから当分は見逃してやるよ。そもそも殺せるかどうかって問題は置いておいてな」

「面白い、気に入ったぞ花咲千尋!」

 

奇妙な笑いが封印越しで伝わってくる。嘲笑のような、しかし心からの笑いのような、奇妙な感覚だ。

 

きっと、無貌というのはこいつを名前で括る為の一種の封印なのだろう。この者の存在原理を理解した自分にはわかってしまう。

 

「その通りだ!ここまで来れば貴様には伝えられるな!我が、名を!」

 

「我が名はニャルラトホテプ。汝が心の海より出でし者なり!」

 

キョウジさんは平静を保っている。デオンと真里亞も大丈夫だ。

つまり、この奇妙な邪悪が流れ込むような感覚を味わっているのは自分だけなのだろう。というか、伝わったのが自分だけなのだろう。

 

ニャルラトホテプ、その名前を聞いたのは初めてだが、その存在は理論的に証明されていた。

 

ペルソナ能力の研究により、それが心の海より出る力なのだとわかった時、心の海そのものの研究がなされた。その過程で見つかったのがシャドウ、ペルソナになれなかった人格の成れの果てだ。

そして、その中には人格のようなものを持つ者さえ居たりした。

 

それが大いなる者に進化する過程ならば、人格を持たないシャドウに、制御されたペルソナに影響を与える大いなる者の存在があるはずだと調べ上げられた。そして理論上存在する、というか存在しないとおかしい存在があった。それが、人の心の総意のペルソナ、あるいはシャドウ。人の心が心の海でつながっている大きなものなのだから、それに対応する心の海に匹敵する存在がいないと釣り合いが取れないからだ。

 

 

それがこの、ニャルラトホテプなのだろう。

 

 

「では、私はここで黙るとしよう。この終わりゆく世界を回すのは、貴様になるだろうからな」

「いや、黙らないで構わない。なにせ、こっちは大して応えてないからな」

 

左手を、もっと言うならその指先を頭に添えながらそう言った。

 

「花咲千尋?」

「...ああ、もう慣れた。これがこうなるのか。ペルソナってのは知識としては知ってたが、扱いは理論的に考えるより感覚でやる方がいいってのは本当なんだな」

「ッ⁉︎私との接続を、断ち切った⁉︎」

「そう言うことだ。力の方は遠慮なく使わせてもらうぜ。これはかなり役に立つだろうからさ」

 

そう言って、左手を銃の形にして、自分の頭を撃つように構える。なんとなく感じた、ペルソナの最も簡単な発現方法。

 

「来い、ペルソナ!ソロモン!」

 

背後に現れる、どこか暖かい力。72柱の魔神を従えた超級の悪魔召喚士が、心の海からやってきた俺の心の形らしい。それはなんというか、過分な気がしてならない。

 

だが、まぁそんなものだろう。ペルソナには理想の人が現れるケースというのもあるらしいのだし。

 

「真里亞、ちょっとアカウント借りるぞ」

「は、はい。...あの、ちょっと付いていけてないのですけれど、大丈夫何ですか千尋さん」

「ああ、力と情報はこいつが勝手にくれたから、あとはしっかり蓋をしておかないとな」

 

真里亞とリンクして、皇族としてのアカウントを使ってニャルラトホテプの封印に干渉する。といってもそんな大した事をする訳ではない。ただ、緩んでいた封印を締め直すだけだ。

 

ペルソナ使いとして目覚めた事で流れ込んできた数多の知識を利用した、最小の労力で最大限の力を発揮する締め方で。

 

「...私が世界の終わりを見届けられないのは残念だが、まだ我々の端末はある。せいぜい貴様の足掻きを見届けさせて貰おう」

「やめろよその私が死んでも第2第3の私が現れるだろう!とかいう奴、こっちはもうお腹いっぱいなんだよ」

 

「封印術、ソロモンの鍵。じゃあ、二度と会わない事を祈るぜ」

 

その言葉を最後に、ニャルラトホテプの気配も声を聞こえなくなった。どうやら封印は成功したようだ。

 

このままあと300年ほど黙っててくれないかなーと思うが、ほかの端末に俺の事は知らされているだろうし、面倒が増えたという感じがしてならない。

 

「さて、マサカドの無敵のネタはわかりました。これから向こうのアクションを見つつ、攻略をしていきましょう」

 

無言で義手の銃口を向けてくるキョウジさん。突然こんな怪しい事を言う奴を信用できないのだろう。

 

真里亞とデオンは、なんだか諦めているような顔をしているが。

 

「まず、ネタがわかったのはニャルラトホテプからの知識って訳じゃありません。ソロモンを発現した事で俺の知覚範囲が増した事が原因ですね」

「知覚範囲?」

「はい。今、この帝都は二つあります。表と裏。護国神はいつからかは知りませんが、この帝都の裏側にもう一つ異界を使っていたんです。そして、その帝都では表の四天王ならぬ裏の四天王がいるんでしょう。...いや、この辺は推測なんですけれどね」

「ほう、それに至った理由はなんだ?」

「ちゃんと話しますからチャージをやめてくださいキョウジさん。ソロモンの戦闘能力は俺とどっこいなんでそれに当たったら普通に死にます」

 

こほんと一度咳払い。

 

「裏の帝都ではゲートパワーが安定しています。異変前の帝都レベルに。そんな事がまかり通せるのは、異界の作り方が本当に前の帝都と同じくらいの完成度を誇っているという事。だとしたら、帝都って土地を土台にしている以上四天王による帝都結界も再現していると見て間違いないでしょう。そして、その絶対に届かないところに自分を偏在させているから護国神マサカドはダメージを受けない。多分魂の根っこをそっちに置いてるんでしょうね、だから真里亞の草薙による概念切断も通用しなかった。あれは結局のところ魂へのダイレクトアタックですから、そこに触れられなかったから斬る事が出来なかった。それは、護国神の速度の事から見ても納得できる説だと思っています。相対時間が表の帝都よりも早いから、そっちに魂を合わせれば俺たちから見れば高速で動いているように見える。...細かい事は間違っているかもしれませんが、ソロモンで感知できたところから導けた仮説はこんなものです。なんなら、今から観測データをそちらに送りましょうか?」

「...いや、構わん。完全に信じたという訳ではないが、こっちにはそもそも縋る藁すら無い。その言葉を当面の指針にさせて貰う」

 

そう言って、キョウジさんは銃口を下ろした。

 

「所で、こっちのマサカドと同じように分身...いや偏在だったか?それをしているなら、護国神も7人に分かれられるという事にはならないか?」

「...あ」

 

デオンの言葉が響いた瞬間、これなら行ける!という感覚が完全に消えた。まだイケイケにする干渉残ってたのね。おのれニャルラトホテプ!

 


 

そうして護国神の隙をついての観測調査をした結果わかったのは。

 

四天王結界についているのは、毘沙門天たち護国の四天王であること。そして、その護衛にマサカドの分身が付いている事。

 

そして、結界の中心には常に2人の護国神がいるという事。

 

「あの、ちょっとやめてくれませんかそのガチムーブ」

「サマナー、現実を見よう」

 

裏の帝都に侵入して四天王の暗殺をしなければ戦闘のスタートラインに立てないのに、どうしてそこにいやがる自称護国神!いや、裏帝都を国と捉えれば間違ってないけども!

 

ちなみにこれを伝えたシェムハザは、あっさりとキョウジさんを人柱にして護国神に裏切ろうと俺に持ちかけてきやがった。悪魔かお前は。

 

それをするならお前を拘束魔法でガチガチに縛って連れてくわ。

 

「さて、どうするか...」

 

とりあえず今のところの候補は、四天王の館の真下に入り口を開いてのメギドラテロだ。運が良ければ四天王は死んでくれるかもしれない。

あるいは、陳宮さんの掎角一陣を使っての自爆テロ連打。材料が必要になるが、同時に4箇所攻撃できるから妨害の可能性は最も低い。

が、陳宮さんの生きていた世界とこの世界は違うため、代用できる材料にも限界がある。陳宮さんが顕現した際の材料の量から逆算すると、あと6発だけ。せめてあと2発あれば四天王1柱につき2発の自爆を撃ち込めたのに...と思わなくはないが、そもそも自爆では殺しきれるかどうか微妙なため保留。破壊範囲的にはメギドラに少し劣るのだ、掎角一陣は。

 

そして、最後の策は...

 

「この規模の異界だと、核に差し込まないと通じないよなぁ...メディアさんなら遠隔でもやってのけるだろうけど」

 

四天王とマサカドをガン無視して、裏帝都の核に破戒すべき全ての符

(ルールブレイカー)を突き立てる事。

 

これは、馬鹿みたいなハイリスクハイリターンだ。

 

決まれば、全戦力で裏帝都結界の力をなくしたマサカドを総攻撃できる。しかし失敗すれば裏帝都結界の力全てを使うマサカドの護国神としての力で塵すら残らないだろう。

 

そもそも通じない可能性すらあるのに、これに賭けるのはどうかと思う。

 

「せめて、護国神を足止めする部隊でもあれば...ん?」

 

そういえば考えるのを後にしていたが

 

どうしてシェムハザは、顔無しの悪魔人間化を推し進めていたのだろうか。

 

全ての顔無しの親であるニャルラトホテプの権能を持っているであろう護国神には、顔無しは無力だ。だから、傷をつけられるように悪魔人間に作り変えたのではないか?

 

もしそうなら、シェムハザの計略は...

 

「サマナー?」

「...ああ、ようやくまともな博打を打てそうだ。そうだよな、侵略するってんなら要るのはまず人手だよな!」

 

そうして、その瞬間から方針は決まった。

決行は2週間後、内田たちが増援に来てすぐだ。

 

そのための準備として

 

工作機械を使っての大量のメギドラストーンの量産を、ファントムの根城で行う。

 

それをもって、物量で裏四天王結界を破壊する。その後、精鋭部隊による護国神マサカドの討伐。それが、今取り得るプランだ。

 

デオンを傍らに置けないのはかなり恐ろしいが、そうも言っていられない。マサカド公との戦闘で間違いなく目を付けられているだろうから。

 

その点、俺なら顔無しとしての性質からMAGは割れていても問題はない。というか、ペルソナに目覚めた事でさらにMAG性質は変化したし。

 

「うん、どれだけシェムハザに付いてくるかはわからないが、希望はあるな」

 

これで、勝率はゼロじゃ無くなった。それならば賭けるには十分な値だ。

 

そうして俺はシェムハザに協力を取り付けて、俺はファントムへと渡った。

 


 

「作業は順調ですか?花咲千尋」

「ああ、機材が揃ってるからな。ペルソナっていう手も増えた事だから作業効率は二倍以上。この分なら行けるよ。だが、こんな大量のMAGどうやって調達したんだ?」

「そんなもの決まっているでしょう?私が何をしてきたと?」

「...生贄、か」

「いえ、彼らには私を神として崇めさせました。継続的にMAGが稼げるのでそちらの方が結局特なのですよ」

「オイ!湿っぽくなった俺に謝れ畜生!一瞬MAGとして使うの躊躇いかけただろうが!」

「ちなみに彼らには高度な戦闘訓練を受けさせているため、決行の際には多少の役に立つでしょう。とはいえ顔無しなので護国神には通じないため、護国神に付くファントムの馬鹿どもを殴る程度ですがね」

「しれっと身内殺しの部隊を編成してやがる。悪魔だこいつ」

「組織とはそんなものですよ。それに、悪魔と言うなら貴方もでしょう。仮にも帝都を守ってきた四天王をその館ごと吹き飛ばしてしまおうなどとは信心深い者なら考えもつきませんよ」

「いや、だって敵だろ?」

「まぁそうなのですがね」

 

そうして一時止まる会話。作業は続くが、なにやら奇妙な目で見られているような気がしてならない。気が散るからどっか行って欲しいのだが、

 

「...はい、決めました」

「...何をだ?」

「護国神を倒した後、私を貴方の仲魔にしてはくれませんか?」

「...なにが目的だ?」

「直感です。あなたは、面白い運命の元にある。どうせこの戦いの後ファントムは壊滅するでしょうし、それならば、より面白い方に居たいと思うのですよ。世界を救うなどとは別に、あなたの側にいたみたいのです。私の願いの為には、今の人間を知る必要がありますからね」

「...まぁ、こっちの指示に従ってくれるなら文句はねぇよ。お前の実力は知ってるからな」

「ええ、では内定という事で」

「ああ。ま、俺が死んでる場合もあるかもしれないけどな」

「そこは私では?」

「いや、俺の戦闘力って基本クソザコだし」

「そこは譲らないのですね...」

「ま、他力本願なのが基本だからいいんだけどな。幸い頼れる仲間も仲魔もいっぱいいる。俺が戦いの場面で無茶をする必要はそんなにないさ。...いや、最近無茶ばっかしてるような気がするけどもそれはきっとそうだ気のせいだ」

 

そんな、なんだか奇妙な距離感で、準備の日々は進んでいった。

 


 

そうして、やってきた決行の日。

 

メギドラストーンの相乗効果による範囲固定の威力強化術式をファントムの術師さんとの会話の中で思いつき作り上げたせいで前日までは徹夜だったが、今日はしっかり寝てコンディションは正常。

 

そして戦力を補強する為にターミナル前で皆で待っていると、一つの手紙だけが届いた。

差出人は内田から。内容は単純で、しかし予想だにしていなかった事だった。

 

「縁がターミナルを使ってどこかに飛んだせいで、ヤタガラスのターミナルはまだクールダウン中...?」

 

俺のいない間でも、この世界の中心になりつつある遡月の街は動いていたようだ。

 

大切な、仲間すら巻き込んで。

 




一万二千文字に、届かないッ!

アンケート取っておきながら、なかなかに難しいです。初期の俺は一体どうしてあの文字数をキープできていたんだ?と自分のことながら疑問です。


あ、多分文字数が減ってる理由その1だと思うのですが、新作を投稿しました。不定期更新になりそうですが、ご一読して頂けると幸いです。

FE風花雪月の2次創作、双紋の魔拳。作者ページからどうぞ!
という卑劣な宣伝を挟んでみたり。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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