白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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もう平均1万文字にボーダー下げても良い気がしてきました(諦め)



遠野屋敷の女中さん

「なぁ、縁。あの有栖さんとやら知り合いか?」

「いえ、彼らの仲間で、私たちの敵です」

「...よし、逃げるか」

「サマナー、早くないかい?」

「いや、アレはしんどいぜ?真っ正面からやり合うには札が足りない。バルドルは死にかけだし、クー・フーリンは死んだしアテルイは両手消し飛んだし」

「つまり...前衛は私とデオンさんだけですか?」

「そゆこと。バックには期待の新戦力がいるがな」

 

瞬間放たれる広域極大呪怨魔法(マハエイガオン)。いや、それに似た何か。

 

それに対して、シェムハザは迷う事なく魔法反射障壁(マカラカーン)を張る。十分なMAGで作られたその反射障壁は呪怨を跳ね返し、しかし呪怨を吸収する有栖の力場により一挙逆転とはいかなかった。

 

「簡易アナライズ結果!ジャマーあり!試射する!アギストーン、シュート!」

「そんなので、私が怯むわけないじゃん!」

 

穴から漏れ出る力場だけでその火は消え去ったが、力場に触れたということは火炎魔法に対しての耐性を観測できるということ。

 

まぁ、無効力場だとわかっただけなのだけどね!

 

「火力を遠野に集中!リーダー狙いだ!野郎ぶっ殺してやる!」

「させないよ、お兄ちゃんたち!」

「ああ、些か甘いな」

 

そうして、言葉を素直に読み取った有栖と赤い射手は遠野さんのカバーに入る。

 

そして、事前に決めていた符号の通りに()()()()()()()()

 

「エミヤ、追って!」

「いや、死兵がいる。これを抜くのは手間だな。...使い魔使いの荒いマスターだ」

「...あいにくと使い魔ではない。仲魔だ」

「その通り。こちらにもかなり自由はあるのですよ」

「そうは見えないがね」

 

両手を失ったアテルイはバランスのとれた赤鬼の側面を表に出し、シェムハザは即座に障壁を作れるように両手で術式を練り上げていた。

 

二人の悪魔の即席コンビネーション。それは、俺たちの逃げる値千金の時間を作り上げてくれた。本当にありがたい。

 

「...めんどくさい、殺すね秋葉」

「待ちなさい有栖!それはあなたには過ぎるわ!」

「チッ、下がるぞマスター!」

 

そうして、シェムハザを通じて俺の目は見る。

 

俺の使ったなんちゃってではない、本物の伝説を。

 

極大万能属性魔法(メギドラオン)

 

それでも、シェムハザもアテルイも最後まで諦めなかった。

障壁を捨てて、最高密度まで収束させた高位万能属性魔法(メギドラ)を放ち道を作り、そこにアテルイが鬼神楽を叩き込むという特攻戦術。

 

だがしかし、それはただのエネルギー量の圧倒的な差によって羽虫のように潰された。

 

後に残るのは、極光が天へと登る輝きだけだ。

それは、吸い込まれそうになるほど美しく、しかしその力から明確に死を感じさせられた。

 

伝説を、使いこなしている。

 

今回も、難敵が相手になりそうだ。

 

「サマナー、君のその見る目はどこで養ったんだい?数手逃げるのが遅れていたら私たちは塵も残らなかっただろうね」

「どんだけ修羅場潜ってると思ってんだよ、いやマジに。...なんで俺こんなしゅらばらばらな暮らししてんだろ」

「そんなことより、どこに向かってるんですか?迷いのない走りでしたけど」

「アンテナがあった屋敷だ。あそこならアンテナなり事務員なりを人質に取れるかもしれないし、遡月からの援軍の合流が一番手っ取り早い」

「でも、それは制圧戦という事だろう?この戦力でいけるのかい?」

「安全地帯を数分でも作れればドミニオンの生命転換回復魔法(リカームドラ)で大分立て直せる。とは言ってもシェムハザとアテルイは時間かかるだろうがな。あそこまで綺麗に吹っ飛んだならダメージも相当だろう。メインはクー・フーリンとベル・デルの蘇生だ」

 

「死んでねぇだろコラァ!」とCOMPから声が聞こえるが、実際死んだようなものなのでどうこうは言わせない。

 

というか、これからの屋敷の制圧戦で死ぬ可能性はかなりある。

 

「ですが、あの屋敷は本当に遠野の物なのでしょうか?」

「さぁな?だが、なんの関係もない場所にアンテナがあるとは考え辛い。遠野の私邸ってとこじゃないか?」

「その屋敷っての、私知らないんですけど」

「マジか...その辺の話はちゃんと聞きたいけど今は逃げ込むぞ」

 

そう言ったのと同時に屋敷の外壁まで辿り着く事ができ、トラップの簡易チェックの後に一気に飛び込む。

 

さて、鬼が出るか蛇が出るか。どっちなのだろうか?

 

「それでサマナー、どこから攻める?」

「離れからだ。屋敷内部には人は居なかったか出払ってたかくらいの情報は引き出せるだろうよ。あの人がスーパーな達人だったら、その時は...どつしようか?」

「ノープランッ⁉︎」

「仕方ないだろ!あんなのが出てくるとか予想外だっての!士郎さんモドキと遠野だけでもいっぱいいっぱいなのにさ!」

「お二方、声を抑えて。もう離れが見えます」

「...じゃあ、制圧は迅速に。真里亞とパスカルは周辺の警戒を。制圧パターンDな」

「「了解」」

 

そうして、P-90を取り出して離れのドアを開ける。即座に障壁を張りつつ前に出る縁と、その後ろから飛び出せるように構えるデオン。

 

だが、そんな考えはあっさりと否定された。

 

「あ、戻ってきましたかー。今、お茶を入れますね?」

 

そんな、のほほんとした赤い髪に琥珀色の瞳をした彼女の登場によって。

 

「...あのー、俺たち侵入なんですが」

「知ってますよー」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

この人は、奇妙だ。笑っているのにMAGの揺れが全くない。

だが、他に縋れる藁もなく。渋々と銃を下ろすのだった。

 


 

「この屋敷は、遠野屋敷と呼ばれてます。まぁ、昔は幽霊屋敷とか言われてたんですけどねー」

「で、ここの切り盛りは琥珀さん一人で?」

「いえ、もう一人いたんですが、多分もう死んでますねー。彼女、秋葉様に呼ばれで任務に出たので」

「...その人を殺したのは、俺です」

「知ってます。じゃなかったら屋敷のアンテナに気付けるわけありませんから」

 

「あれ、取り付けるの苦労したんですよー」とのんびりした口調で言う彼女。

息を飲む。この人は、同僚を殺した奴だとわかっているのに平静でいる。それはつまり、謀殺したという事に他ならない。

 

見たところ志貴くんと同じくらいの年頃だというのに、どうにも肝が座ったものだ。

 

「理由を聞いていいか?同僚を死なせても良かった理由を」

「あ、別に死んで欲しかったわけじゃありませんよ?ただ、彼女が死んだ時にココにたどり着ける人が居なくなるのは最悪でしたから、彼女のCOMPにデータをちょっと入れただけです」

 

そういえば、たしかにアンテナの情報は最重要機密の癖にかなり触りやすい場所にあった。それも計算されていたのだろう。ひとまずは琥珀さんが敵でなくてよかったと安堵する所だ。こういう手合いは本当になんでもするので敵に回したくないのだ。

 

『サマナーが言うかいそれを』

『うっさいわ』

 

呆れたようなデオンの念話、人の事を言えないのはわかってるわ。

 

「それで、俺たちに何をさせたいんですか?遠野秋葉と有栖の暗殺なら言われなくてもやりますけど」

「いえ、そこまでは求めていません。求めるのは、最低でも一つの聖杯のカケラの奪取。要するに受胎の妨害ですね」

「...すまない、浅学を晒すようで申し訳ないのだが、受胎とはなんなのだい?遠野の世界を産むという言葉ではイマイチ察しがつかないのだ」

「それは私もです。異界を作るという意味合いには取れませんでしたから」

 

「アレは、この屋敷に呼ばれた氷川という術師が堕天使の知恵で作り出した受胎という術式です。要するに、新しい世界をまるごと産んでしまおう、というものですね。その為に必要になるのが巫女。有栖さまはその為に堕天使たちと遠野によって人工的に作られた悪魔因子(デモニックジーン)を完全に持たない存在です」

「でもにっく、じーん?」

「あー、要するに出産器の中身な。...なるほど、だから遠野は縁を求めたのか」

「はい、簡易検査しかできていませんが縁さんの因子はゼロ。流石この世界で自然出産された奇跡の聖女ですね」

「あの、真里亞さんや内田さんはどうなんですか?私と似た感じだと聞いたんですけど」

「私に関して、というか皇族に関しては悪魔因子(デモニックジーン)は絶対に混ざっています。なにせ、私たちは現人神としての側面を持っていますからね。その強大な力に対応する為に私たちの身体は進化していったのです」

「内田は後天的に悪魔因子(デモニックジーン)を取り入れたタチだな。でも、魂には作用してないから受胎には使えるんじゃないですか?」

「ああ、内田たまきさんですね。ですが受胎に必要になるのは肉体も魂も完全に旧人間である事なんです。照応の概念がどうとかで」

「人体と魂をを世界と照らし合わせるのか?また随分面倒な術式だ」

「さぁ?そのあたりはなんとも。畑違いですので」

「んで、有栖に何か不具合があったから、なんらかのルートで縁の情報を手に入れて拐かしたって解釈で合ってるか?」

「そうです。有栖さまは異界の存在と交信したことで、異能を、不純物を得てしまった。それは本当に想定外のことだったらしいんです」

 

異能...あの顔無しを悪魔にする歌だろうか?それともあの強大すぎる力のことか?

どちらにしても、現状の戦力差が覆ることはないのだが。

 

「堕天使や遠野のお偉方はそれを使っての現世支配に傾きましたが、秋葉さまの粛清で方針はとりあえず受胎の方に傾きした。戦力としてエミヤさんがこの地に現れたのも大きいですかねー。そうして実権を握った秋葉さまは有栖さまを使った受胎計画を続行しました。それが、今に至るまでの大体の経緯ですね」

「...聞きたいことがあるのだが」

「なんでしょう?」

「まず一つ、聖杯のカケラをどうして集めたんだい?受胎に必要なのはエニシかアリスの筈だ」

「儀式に必要だからと聞きましたが、詳しいことは」

「あー、大体ならわかる。魔術の原理的に肉体と魂って別物なんだよ。だから、肉体と魂、二つを一つにまとめて照応させるにはその二つの間を埋めるつなぎが必要なんだ。それを、カケラの持つ莫大なMAG収集機能で補おうってんだろうさ」

「なるほどね...では、次だ。どうして君はそこまでの内情を知りながら彼女、アキハに反逆する?思うに、君はそう邪険になどもされていないし、信頼もされている。でなければ一介の女中にそれほどの情報は集まってこないからね」

「あはは、それは簡単なことですよ」

 

「フクシュウって、そういうものでしょう?」

 

からりと、空回る音がした。

なにやら、琥珀さんには心の闇やらがありそうだ。が、それを今日会ったばかりの侵入者がどうこう言うのはお門違いだろう。

 

「...謝罪をさせてもらおう。君を警戒するあまり君の心に深入りしすぎた。すまなかった、コハク」

「いえいえー、構いませんよ」

 

そう朗らかに笑う琥珀さん。さて、とりあえず彼女が味方...というか敵の敵であることは理解できた。なら、共闘関係は作れるだろう。

 

「じゃあ、手配してもらいたいものがある。この屋敷には地下室か何かはあるか?」

「はい、昔使われていた拘束用の地下室が」

「まぁ、そこでいいか。簡易的な治療施設を作りたい。これからは仲魔を使ったテロで仲間が来るまでの時間を稼ぐつもりだ。だから、送還された仲魔をすぐに治せるように拠点を作りたい。良いか?」

「ええ、構いません。ですが、やれるのですか?」

「内田ならこの修羅場に誰を連れてくるかは読める。帰還可能人数の関係で2人しか来れないし。つまり、ウチの事務所のジョーカーが来るってことさ」

「ジョーカー?」

「七夜志貴、ウチの異能使いだよ」

「...え?」

 

完全無欠の笑顔の仮面が、一瞬綻んだ。そのことに少し引っかかりを覚えながらも、とりあえず地下室へと赴く。

 

なんにせよ、戦力を整えてからだ。

 


 

「秋葉、大丈夫?」

「ええ、これから堕天使たちに連絡を入れるのは少し面倒だけどね」

「仕方があるまい。ああも連中が短慮を選ぶのは想定外だ。全く、下の連中にも躾をしておいて欲しかったが、畜生にそれを求めるのは些か高尚過ぎたか」

 

濃縮されたMAGを静脈注射で打ち込みながらゆっくりと思考を練る。

 

有栖を母体にした受胎は、不確定要素が多い。自身の陣営には術者が居ないのだから仕方がないが、術式の根幹部分を堕天使であるゴモリーに任せてしまっているのだから。

 

活動していないターミナルを抱えているとはいえ、やはり何かしらの罠を感じてしまう。

 

だが神野縁を母体にした受胎ならば、過去の有栖のデータを流用することができる為に、狂う前の人として世界を作り出そうとした人の為の受胎を完遂することができる。

 

それは、本当に魅力的な甘い蜜。悪魔に狂わされた自分たちの人生をやり直すことができるかもしれないという願いの塊。

 

それを前にしてしまったが為に迷いを止めることはできなかった。

 

「...兄さん」

 

口に出るのは、遠き日に別れた兄のこと。実の兄妹以上に愛してくれた遠野秋葉にとっての本当の兄。

 

世界を受胎しやり直すことができるのならば、黒点現象などといった災厄がなかったら

 

父が死んだ事をキッカケに、兄を屋敷に呼び戻すつもりだった。

 

だが、それは叶わぬ夢。

国を、人を守る為に行われた異能徴兵により自分は戦い、殺し

 

そして、兄が死んだ事を理解してあっさりと命を絶たれた。

 

それから、再び目覚めたのは300余年過ぎてから。転生現象という事であっさりと受け入れられた自分は、ただ惰性で生きていた。

 

ある日この屋敷を訪れた、ひとりの男に出会うまでは。

 

「あなたは?」

「私はヒカワ。まぁ、サマナーという奴さ」

 

そうしてヒカワは屋敷に度々訪れて、父と、次の当主である私に教えてくれた。

 

彼の、世界の救い方を。

 

それは、本当に夢のような話。

 

世界を再演算し、黒点現象という異物を排除して再構築するという試み。

 

当然、この世界はリソースを失い滅びるだろうが、そんなことはどうでもいい。もし、黒点現象がなければ、もし、あの日に兄を、遠野志貴を呼び戻すことができていれば。

 

私は、彼に思いを伝えられていただろうか?

 

 

 

そんなことは、今の私にはどうでも良いことだ。そう、頭を振り払って堕天使への抗議文を繋がっている有線ネットワークにより送る。

 

ひとまず、これで堕天使の侵略は止むだろう。この街のゲートパワーをギリギリまで保たなくては、急激なゲートパワー増大による時空境界の不安定化を引き起こせないのだから。それは、堕天使とて同じ想いのはず。

 

とすれば、頭を悩ませるのはやはり神野縁の問題だ。

 

街の皆を動員して探してもらおうか?いや、彼らの日常を今は壊してはならない。日常を信じるという彼らの存在があってこそこの街のゲートパワーは保たれているのだから。

 

だとすれば、動員できる人は限られている。というか、一人しかいない。

 

「エミヤ、街の防御は任せたわよ」

「...君のことは常に視界に入れておこう。無理はするなよ、マスター」

「ええ、あなたも」

「...ごめん、私寝るね。ちょっと疲れたみたい」

「ええ、ゆっくり休みなさい。有栖は少し無理をし過ぎたんだから」

 

そう言ってトボトボ部屋を出る有栖。なんとなく、私と一緒に外に出たかったのだなと感じられた。

妹がいたら、こんな風なのかもしれない。何度目かわからないそんな想いを、飲み込んで街に繰り出した。

 

その髪を紅く染めたまま。

 


 

『琥珀、町中の監視カメラはどう?痕跡は見つかった?』

「すいません、カメラには影一つありませんねー。魔法でも使ってるんでしょうか?」

『その方が感知しやすいのだけど、そんな簡単に影を踏ませてはくれないのね、“英雄殺し”の花咲千尋は』

 

やめろ、その異名は俺に分不相応だ。そう叫びたいのをぐっと堪えて、黙々と作業を進める。ファントムから盗ってきた治療カプセルにMAG発電機、あとはカプセルにMAGを入れて治療の準備は完了だ。

 

通話が切れたのを確認してから、魔力隠蔽結界を牢に区切って発動し、その中でドミニオンを召喚する。

 

「さぁ、わかるよな?」

「最悪ですよ本当に。ただ、食事は期待して良いのですよね?」

「当たり前だ。まさかの本場の女中さんの料理に、藤太さんの無尽俵だぜ?びっくりするくらい美味しいのが出てくるに決まってるさ」

「期待されても困りますけどねー」

「いやいやいや、その着物に割烹着とかいう純和風スタイル。期待しない訳にはいかんでしょう」

「サマナー、見た目どころか服装で判断するのはどうかと思うよ」

「そうですよ千尋さん、服装で料理は美味しくなりません。ならないんですッ!」

「いや、何があったよ縁」

「...料理は形からと、エプロンドレスを着たミズキさんが呪殺の力がこもったようにしか見えない劇物を作り上げたことがありまして」

「マジか、二重の意味でマジか」

 

あの人料理できないのかよ。というかエプロンドレスとかいい大人が着るものじゃねぇだろ。なんだかどんどんぽんこつな面が見えてくるような気がしてならない。いや、2年吹っ飛んだせいで皆よりミズキさんとは付き合い短いのだけれど。

 

「じゃ、頼むわ」

「はいはい、生命転換回復魔法(リカームドラ)

 

ドミニオンの尊い犠牲により、死んでいた仲魔達の体が再構築されていく。そうして回復カプセルの中に遺体を入れて起動させる。

一人分の回復時間で仲魔全員の回復ができるとは、ちょっとお得な気分だ。

 

「ドミニオンの死に慣れている様に哀愁を感じるのは私だけかい?」

「...すいません、私もです」

「ワン?」

「パスカル、そこは疑問に思う所ではありません」

「そういやパスカルってどんな暮らししてたんだろなー?」

「たしかに、相当な力を持っているね...この子も英雄だったりするのだろうか?」

「まさかそんなことは...と思うが、正直否定できないな。スーパードッグだし」

 

本人に語る口がないので謎は謎のままだ。

 

そんなこんなで、とりあえず回復カプセルの前でのんびりと過ごすことにした。

いや、この地下牢から外に出るとあの士郎さんモドキの視線が通るかもしれないのだ。怖くて確認できないが、彼の目が超常のものであるのなら透視の類をやってくるかもしれない。

 

なので、極力ここから出ないというのは理にかなっているのだ。

 

地下牢というのが、ちょっとアレだけどな!

 

「ではお食事はどうしましょうか?食料の買い足しはできませんし」

「ああ、それならば!かの英雄俵藤太より託されたこの俵の力を見せましょう!」

「サマナー、ちょっとテンション上がってる?」

「いや、ちょっと使ってみたかったのよこの俵。まじめに凄いから」

 

そう言って、俵の中身を取り出す。というイメージで様々な食材を作り出す。

 

事前に解析して使用方法は調べたのだ。食材限定だが、イメージを投影してそれを実像にするというのがこの俵の動作原理。MAGを使っているとはいえ、無から有を作り出しているようなものなのだ。世界をどうにかした後はコレの研究だけで食っていけるだろう。いや真面目に。

 

「良し、出来た!」

「千尋さん、ぶっつけ本番だったんですか?」

「はい、帝都を離れるのは急なことでしたから」

「真里亞、そこは言わんでも良いんだよ」

 

「では、何を作りましょうか?」

「仲魔連中にも食わせてやりたいんで、量作れる料理でお願いします」

「じゃあ...カレーですかね?」

「やっぱそこに落ち着きますよね日本人」

「お袋の味ですからねー」

「...そういえば私、お母様の作ったもの以外のカレーを食べるのは初めてかもしれません」

「あはは、内親王殿下の始めてを貰ってしまいましたかー」

 

「だがサマナー、スパイスはどうするんだい?カレールーは多種多様なスパイスの混ぜ物なのだろう?」

 

 

 

 

 

「出てこいカレー粉出てこいカレー粉出てこいカレー粉ォ!」

 

無理だったので、肉じゃがになりました。

 


 

「いやー、作りがいありましたよ」

「面目ない...」

 

「サマナーってどうしてこう締まらないんだろうねぇ?」

「人徳じゃないかな?悪い方の」

「人徳って悪い方にも使われるんだねー」

 

ドミニオンも回復して、しっかり食事をした後。琥珀さんのタブレットにあるこの街の詳細な地図や龍脈図などを渡してもらい、作戦会議をすることにする。

 

夜討ち朝駆けは基本やし、明日の早朝から動きたいのだ。

 

「...良いとこにビル立てましたねー。龍脈の力をしっかりコントロールできる位置で、かつ龍脈逆流の被害を受けないような位置になってる」

「それで、どうするんだいサマナー。敵の言葉が確かなら、向こうには聖杯のカケラが二つある。MAGパイプの遮断は堕天使との反目には使えるかもしれないが、儀式には使えないのではないかい?」

「...琥珀さん、確認なんですがもう有栖を使っての儀式を始めてるって事はないですか?」

「ありませんね。遠野ビルの消費MAGはモニターしてますから」

「なら、ひとまずは撤退の素振りでも見せておきましょうか。諦めて逃げようとしてる!って印象つけられたら儲けものですし、単純に堕天使の数を減らすのは向こうの手数を減らす事につながりますから」

 

そうして、今回もう見せた札であるシェムハザとアテルイとクー・フーリンを転移魔法で送り込んで、堕天使の包囲網への威力偵察をする事になった。

 


 

『クー・フーリン、大技は要らない!シェムハザに寄らせるな!。アテルイはそのまま大型を抑えてくれ!』

MAG集中(コンセントレイト)完了です。クー・フーリン!アテルイ!」

 

瞬間、戦況を保っていた二人がシェムハザの射線の外に出る。

 

そうして放たれたのは、高位万能属性魔法(メギドラ)。輝きは存分に放たれ、堕天使の軍勢を消しとばした。

 

だが、すぐに補充が現れる。広域で吹き飛ばしてんのが四発だぞ?どっから湧いてくるんだこの数は。

 

『しゃーなし、3人は撤退!置き土産は自由にして良いぞ!』

 

そうして、放たれる弓と槍と雷光。それぞれ三方向の堕天使に大きなダメージを与えて、すぐに送還で撤退した。

 

死んでも治せるとはいえ、使うMAGのことを考えると死なないに越したことはないのだ。

 

『じゃ、カプソ。任せたぞ』

『スニーキングミッションだね。ちなみに僕はメタルギアを見ていただけの悪魔さ』

『自慢になってねぇじゃねぇか』

 

そうして、崩れた包囲網の穴にカプソを潜り込ませる。まぁ、隠密行動できるような柔なセキュリティはしていないだろうが、それでも堕天使の内情を探るのには一役買ってくれるだろう。

 

そうして堕天使の包囲網を抜けた先にあったのは、よく見た光景。

いつも通りの終わった世界だ。

 

『サマナー、どう動く?』

『この数の堕天使を指揮してる奴の位置を把握しておきたい。外周からくるっと包囲網を見てくれ。お前が死んだあたりが頭の場所だ』

『最後のソレ必要かなー?』

 

文句を言いながらもこっそりと歩みを止めないカプソ。堕天使達はどうにも堕落しているようだ。街の主要な道以外からの逃走をそんなに警戒していない。

 

『サマナー、拠点っぽいのを見つけたよ』

『...オーケー、位置情報はプロットした。距離をとって外周を回ってみてくれ。観測データから施設の用途がわかるかもしれない』

『了解さー』

 

そうして数秒後に、カプソの命は尽きた。

完全なる奇襲だった。

 

「さて、カプセル使うか」

 

カプセルの中にカプソの遺体を放り込みMAGを供給する。

とりあえず、今回の結果は上々。だが、遠野からのアクションはなし。どうにも打開の芽が見えない状況だ。

 

最低限の行動をしながら増援を待つのが正解かもしれない。

 

「あー、最悪の最悪まで考えておくべきかもなー」

 

実の所、この街の安定したゲートパワーと新たな世界を作るという目的からどうすれば受胎を止められるかは真っ先に思いついているのだ。その手を感情的に取りたくないから、そんな理由で後回しにしているるだけで。

 

「民間人の虐殺は、最後の手段にしときたいんだがなぁ...」

 

だが、同時にこうも思ってしまう。

遠野を殺し、守護者がいなくなったこの街で彼らは生きていけるのかと。

それならば、幸せの残るウチに殺してやるのも情けではないかと。

 

何目線のどんな理屈だクソ野郎。

そんな考えを振り払って、琥珀さんの作った朝食の席に着くのだった

 




一線を越えること選択肢に入れるあたりが千尋くんなのです。王道主人公じゃありませんからねー。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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