白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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遠野秋葉

背中合わせの氷川とサマエル。

それを挟むように布陣する俺たち。

 

「サマエル、噴き飛ばせ」

 

そんな所にメギドラオンぶっぱとかやめろ下さい!

 

だが、今回のメギドラオンは全方位に対しての拡散型。向こうは縁の盾で守りきれるだろう。

 

対してこちらは、回避は不可能。故に!

 

『一点突破だ!阿弖流為!』

『承知!』

 

阿弖流為が取り出したのは槍。そこに万能属性エネルギーを込めて全力の突きと共に解き放つ。

 

万魔の一撃、いや、万魔の槍撃だろうか?

まぁ、技の名前なんてフィーリングなのだし気にしない。

 

そうして阿弖流為が貫き、突き進むその背中にくっつき、噴射(ジェット)で後押しする事で俺の安全圏もついでに確保する。

 

そうして、絶殺の光が収まる。そして、その瞬間に乱戦に持ち込もうと高速で接近する皆。最速で接近したのは阿弖流為ではなくパスカル。獣の本能か、距離を取らせた先は敗北しかないとわかっているのだろう。短刀による斬撃は、サマエルの羽を一枚切り裂いた。

 

続いて前に出てきたのは真里亞。火炎魔法をバーニアにした加速と、極大火炎魔法(アギダイン)をさらに圧縮して作った炎の剣にて、サマエルの残った羽を焼き切った。

 

そうして浮力を失ったサマエルの顔面に、阿弖流為と真里亞が同時に攻撃を仕掛ける。

 

その一撃は強力無比。しかし、真里亞の一撃は間に入られた氷川の防御の体さばき、回し受けという奴により完全に流された。それで流された体がデオンの斬撃を妨げ、結果デオンは真里亞を受け止める事を優先したようだ。この段階でまだ殺せないのだ、なら長期戦に向けダメージを少なくするのは響いてくるだろう。

 

そしてもう一つの攻撃、阿弖流為の槍は当たったが、寸前で頭を動かしたサマエルは致命傷だけは避けていた。

 

そして再びの全体回復魔法。今のは氷川が使った術だ。

 

だが、回復の後には一瞬の隙ができるもの。目配せした訳ではないが、俺の左手から放たれるこの世全ての悪(アンリマユ)がサマエルの体を侵食し、術後の氷川をエミヤさんが狙撃で攻撃をした。

 

驚くことに、偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)だ。カスタムの傾向も似るとか、案外士郎さんの先祖だったりするのでは?と思う。

 

「...サマエル、少し待て。攻撃を禁じる

 

苦悶の表情を浮かべるサマエル。そこにすかさず追撃するパスカルと真里亞。だが、今の呪言は...ッ⁉︎

 

『真里亞、パスカル!俺の側に!』

「禁を破った者に、裁きを。地獄への導き」

 

瞬間、世界そのものから発生する呪い。それに真里亞とパスカルは飲まれかけて、しかし阿弖流為に俺が投げられる事で二人を抱え、この世全ての悪(アンリマユ)で作り出した球体フィールドでその呪いを受け止めきる。

 

『サマナー、無事会かい!』

『ああ!真里亞もパスカルも今の所な!呪いはどうなってる?全方向から来てる事しか分からん!』

『その通りだ!私たちには害はない呪いが、パスカルと真里亞を襲っている!世界そのものからの攻撃だ!』

『...ルール違反に対してのカウンターか!だが、俺自身である泥を透過できてないから防ぎようはある!奴の呪言を聞き逃すなよ!』

 

「...どうにも面倒な手合いだな。防御を禁じる

 

瞬間、泥を全て攻撃に転用する。サマエルと氷川の位置は変わっていない。が、おそらくサマエルの魔法により氷川とサマエルは回復をしていた。そして、世界からの呪い攻撃はリセットされている。防御を解いたのは勘だったが、悪い方の目は出なかったようだ。

 

そうして泥が氷川に襲いかかり、それに対して氷川はサマエルに乗って大きく回避した。

 

いまのは、呪言に対しての反射の無理目で無茶な攻撃だ。泥としての性能以外に攻撃能力はなかった。それは氷川もわかっていただろう。同系統の力を使っているのだから。

 

つまりは、防御したくない理由があった?

 

思えば、先ほども妙だった。呪いによる攻撃があったにせよどうして突けば破れるような脆弱な泥の防御を破壊してこなかった?

 

つまり、呪言の影響は敵も受ける。そういう事だと仮定する。

 

『今、連中は防御行動を取れない!デオン!呪言のインターバルは⁉︎』

『3分だ!』

『つまり、残り1分間はチャンスタイム!敵が攻撃を始める前にこっちから撃ちまくれ!』

『そういう事ならば!』

 

抱えていた真里亞が地面に降り立ち、高位火炎魔法(アギラオ)を連射する。多種多様な軌道で、敵に防御させたという結果を作るために。

 

そうして皆のチャージまでの時間を作り上げ、それぞれの最高攻撃が氷川とサマエルを襲った。

 

だが、それは悪手だった。ルールの主導権は奴が握っているのに、どうしてこちらが有利だと認識してしまったのか。

 

...もしかしたら、それがこの空間のトリックなのかもしれない。会話を、音を消して情報を制限させる事で逆に思考を促し、一縷の望みを持たせること。

 

それが正しいのなら、悪辣なこと極まりない。

 

治療を禁じる

 

その言葉と共に吐き出されたサマエルの呪い。忌念の戦慄というあの技だろう。警戒を、いつのまにか解かされたッ!

 

これは、死んだ。緊縛状態や石化状態などの症状により体は動かなくなり、毒により命を削られる。そして、それを打開しようと回復をすると世界に呪い殺される。

 

これは、ガチでどうしようもない。

こちらの攻撃を誘ったのは、この攻撃を予測でしてのフォーメーション作りをさせない為。掌の上だった。

 

だから、最後は全開だ。この術くらいは破って終わらせる

 

ソロモンの、鍵だ。

 

倒れ伏した地面からMAGを流し込んで、この空間の核を破壊する、それが最後の出来ることだ。

 

そうしていると、何故か体が楽になった。誰かが治療を使ったのかッ⁉︎いや、この感じは誰かじゃない!縁だ!

 

思わず叫ぶ。音は響かない。

世界からの呪いが縁を襲う。それを縁は、避けるでも防ぐでもなく、受け入れていた。

 

だが、その呪いは文字通り、皆の身体によって防がれた。阿弖流為など4人に分散している。それでも僅かの隙間から呪いは入ってくるが

 

『千尋さん!』

 

即死でないなら、間に合わせてみせる。コンディションは良好、敵の攻撃までの時間はそう長くない。

 

だから、それまでに終わらせる。

 

それが出来るのが、俺の仮面(ペルソナ)、ソロモンの力だ。

 

「捕まえたぁ!」

「シジマの世界で音をッ⁉︎」

 

内的宇宙空間を構築する術式に干渉して、そのMAGを泥で食い尽くす。

 

それにより、俺たちは音のある世界に戻ってこれた。なんつーギリギリ!

 

「...だが、結果は変わらん!サマエル!」

「変わるさ!ここがあのシジマの世界でないのなら!」

「...忌念の戦慄」

『真里亞!』

「閉所なら私の炎で焼き尽くせる!広域極大火炎魔法(マハラギダイン)!」

「...人体を骨に魔を肉に、我が魂を贄に宿れ、叡智の魔王よ!」

「古典詠唱⁉︎...サマエル、施設は気にするな!消し飛ばすぞ!」

 

もう遅い!と叫びたいがそれをすると詠唱が止まるのでやめる。シェムハザは苦笑気味だった。

 

「インスタンス人柱降魔(D・ライブ)!シェムハザ!」

 

 

 

「散々見せてもらったんだ、こっちも返させて貰う!」

 

右腕のみの降魔。だが、それにより俺とシェムハザ、魔術を扱うのに使う思考領域は拡張され、それにより()()に届いた。散々見せてもらった構築術式を回転させて解き放つ。

 

「「極大万能属性魔法(メギドラオン)!」」

 

シェムハザの特化された魔力を使っての魔法は、サマエルの魔法と衝突し、まるで何も起きなかったように対消滅した。

 

「なん...ッ⁉︎」

 

そして、それから遅れて発生する超級の衝撃。それにより俺たちは施設の壁をぶち抜いて外に飛ばされた。

 

「千尋さん!縁さんの治療を!」

「わかってる!拠点に戻るぞ!」

「...全く、君達は忙しないな。私もかなりダメージを受けた、ここは引かせて貰う」

「エミヤさん!ありがとうございます!」

「...敵に感謝をするものではない、甘さが出るぞ」

 

そんな言葉を残してエミヤさんは消えた。霊体化という奴だろう。

 

だが、しっかりと通信石を持って行ってるあたりちゃっかりしている。

 

「さて、後のことはカプソ任せだ!あんだけ暴れればセキュリティは死んだだろ!」

 

そうして、転送魔法を使って遠野屋敷に帰還する。

縁への呪いは、かなり珍しいタイプだが治療法がないわけではない。霊核まで達していなかったからだ。

 

これは、縁の強い魂に感謝だ。

 

「おかえりなさい、皆さん」

「ただいまです琥珀さん、カプセル使います」

「縁さんがやられたんですか、ずいぶん強敵だったんですね」

「はい、ですが仕留め損ないました」

 

カプソの視界を確認しながら、治療用カプセルに縁を入れる。そうして、魂の損傷を確認して、そこに適切な量のMAGを流し入れる。

 

呪い自体は、魂に直接作用するというスタンダードなタイプな為そう治療は難しくなかった。

 

問題なのは、アレが万能属性の即死の呪いであると言うこと。防御する方法は、非対象者の身体でMAGを阻害することくらいしかない。そういう意味では、アンリマユの泥はうってつけだったのだ。アレはどんなに邪悪で混沌的な性質を備えていても、生命であるのだから。俺がルールを破らない限り俺は壁として戦える。

だがそれは、氷川も同じこと。あの時はサマエル以外の仲魔を殺しておいたためどうにかなったが、一方的にルールを押し付けて、それを破った者をアンリマユの泥で覆えば損傷なしに踏み倒せる。

 

だから氷川を殺すには絶対に必要になる、ルールそのものをぶち壊すジョーカーが。

だが、その到着を座して待つだけが、先輩の仕事ではない。出来ることをしなくては、何気に毒舌の志貴くんに何か言われてしまう。

 

『サマナー、見つけたよ』

『...あると思ったが、ここまで数を揃えてるとはな。スペアの聖母体。合計6人か、意識はあるか?』

『...んー、感情の揺れが小さいね。これはまだ魂の定着がなってない子供のものだ。だからこの機械で成長を促進させているのかな?』

『...うし、録画できた。後はエミヤさん次第だな』

 

その数秒後、カプソは死亡した。母体を確認しに来た氷川の銃撃一発だ。あいつ銃まで使えるのかよ。万能の人か。

 

カプセルは縁に使っているので、カプソは雑に地返しの玉で蘇生させる。悪魔はハイクラスになるほど蘇生に伴う感覚のズレが大きくなってくるのだが、カプソはぶっちゃけ雑魚なのでその辺は魔石を与えればすぐに戻る。コイツ本当に使い勝手いいな。

 

そうしていると、カプセルの中の縁が目を覚ました。手を振ってみると、辛そうだが手を振り返してくれた。うし、大きな問題はなし。詳しいことは治療した後の問診が必要だろうが、普通に蘇生した時の感じだろう。

 

「さて、琥珀さん。あなたに謝らなくてはならないことができました」

「どうしたんですか?花咲さん」

「遠野秋葉達への交渉、暗殺じゃなくて本気で手を組むつもりでいます。その為のカードは手に入りました。というかそうしないと氷川は殺せません」

「では?」

「...こちらから話すつもりはありませんが、潜伏場所について聞かれたら琥珀さんの立場が悪くなってしまうかもしれません。もしかしたら復讐そのものが不可能になるほど遠野秋葉の心象が悪くなってしまうかもしれません」

「そうですかー」

「ですが、氷川の件が終わった後はあなたを支援するつもりです。口約束しかできませんが、あなたが居なかったら俺たちの命はなかった。だから、あなたが幸せに至れるように尽力します」

「花咲さん、どうしてそんな話を私にしたんですか?言わなくても問題なんかないのに」

 

仮面の笑顔をそのままに語る琥珀さん。だが、そんなものは決まっている。

 

「俺は、あなたの事が嫌いじゃないんです。恩があるとかその辺を置いといて、人として」

「私が、ニンギョウだとしても?」

「...仮面を長く付けてると、それには肉がついて来るらしいです。知り合いのペルソナ使いの言葉ですけどね」

 

「だから、人のフリをしてるあなただって、もうあなたの顔の一つなんです。ただの優しい人じゃなくて、優しくあろうと振る舞っているあなただから、俺は手を貸したいって思いました。それが、全部です」

「...変な人ですね、花咲さんって」

「まぁ、デビルサマナーなんてそんなもんですよ」

 

その言葉に、初めて琥珀さんは笑顔を見せた。

どこか泣きそうで、でも綺麗な笑顔だった。

 


 

『てな訳で、エミヤさん。受胎術式のデータってアクセスできます?』

『難しいな、あいにくとこの時代の機械には不得手でね』

『なら、首かけてやるしかないですか。無茶言ってすいませんでした』

『...だが、本当にそうなのか?君の憶測が外れていれば、君は無駄死にとなるが』

『...いや、賭けに十分なデータは揃ってるんですよ。だって遠野ビルがそこに立っているんですから』

『ならば、マスターに伝えるとしよう。花咲千尋が交渉に来るとな』

『ああ。時間は明日の朝7時ジャスト。真っ正面から行くと伝えてくれ』

 

早速持っていかれた通信石を使ってエミヤさんと密談。というかほぼ降伏の相談だ。

 

「...千尋さん、大丈夫なんですか?」

「何とかする。大丈夫だ、データは裏切らない。だから、停戦くらいには持っていくさ」

 

そうして、縁の心配気な目と、全く心配していない他の皆という妙な悲しさを感じながら、晩御飯を食べて就寝する事した。

 

そして翌日、のんびりと目覚めては遅刻してしまうのでささっと顔を洗った後に武装を解除した普段着に着替えて、トラフーリストーンを使う。

 

「いってらっしゃい、サマナー」

「ああ、行ってくる」

 

見送りなどいいというのに、律儀な奴だ。

 

そうして、7時ジャスト、遠野ビルの前に転移した俺を待っていたのはエミヤさん。

 

「交渉に来ました」

「...という事だマスター。武装はしていないし、相棒の騎士も連れていない。与太話だと思ったが、どうにも本気でこちらと話し合うつもりのようだ」

 

それから少し経って、エミヤさんに「ついてこい」とだけ言われた。正直ココで殺される可能性が一番高かったので、とりあえず一安心だ。

 

そうしてビルの内部に入ると、そこには遠野秋葉が待ち構えていた。

視界に入っているということは、俺では召喚で盾を作る前に殺されるだろう。

 

まぁ、戦闘になった時点で敗北確定なのだから構いはしないのだが。

 

「話とは何かしら?花咲千尋」

「今から画像データを投影したい。が、一応印刷したのも持ってきたんだがどうする?」

「構わないわ、あなたが何かをする前に、私なら殺せるもの」

「じゃあ、画像データの方で。ほいっと」

 

そうして見せたのは、カプソの見つけた研究施設のあの部屋のデータ。

カプセルに有栖と全く同じ顔の子供たちが入っているあの施設の様子だ。

 

ゴクリと、遠野秋葉の息を飲む音が聞こえた。それはそうだろう、全く同じ顔の少女を、彼女は連れているのだから。

 

「これがあったのは三咲の南外れにある施設だ。脱出路を探索中に見つけて、堕天使のサマナーが居ると踏んで踏み込んだ。その時に隠密行動させてた仲魔が見つけたものだ」

「...堕天使どもは、外道ね。でも、純粋な人間の母体があることは私にとっては好都合な事よ」

「その通りなんだが...どうしてそのことをあんたは知らない?遠野秋葉」

「...私と堕天使を反目させるつもり?」

「そのつもりだけど、それは俺の仮説を聞いてからにしてくれ。決めるのは、あんただ」

 

精神をフラットにするために一応深呼吸。論理的説明に、感情は不要だ。

 

「まず、新しい世界を作るっつー受胎術式に必要なのは母体と聖杯のカケラ二つだ。現状、カケラはあんたらが持っている。母体になり得る縁は俺たちが持ってるが、そっちの有栖でも代用できる筈だ。だけどなんらかの心配が受胎術式にあったから、あんたは有栖を使っての強引な受胎をまだ行ってない。ここまでに間違いはあるか?」

「...ないわ」

「んで、その不安は堕天使側が術式に何かトラップを仕込んでいるというものだ。魔導知識に詳しくないあんたには、受胎術式が本当に知らされているだけの効果を持ち合わせているのかを計算できない。だから、縁を攫った。この世界で唯一の、旧人類を。それが、俺があんたらが母体のクローンを作っている奴と繋がっていないという証拠でもある」

「...否定はしないわ。堕天使達と私たちの関係は良好とは言い難いもの。けれど、それがあなたが命を捨てに来た理由になるのかしら?」

「なるよ。タイムリミットは母体のうち一つでも魂を定着させた時だ。そうしたら堕天使側にはこの街を攻めない理由がなくなる。ゲートパワー増大による境界の不安定化、カケラの奪取、儀式場の確保、全てが堕天使の攻めてくる理由になるからな」

 

「だから、あんたと一時的な同盟を結びに来た。堕天使から、この街の日常を守るために」

「...私の目的は、受胎術式を完遂させて世界を作り変えることよ」

「俺の目的は、その受胎術式で本当に世界が救えるのかを逆算することだ。...正直、この遠野ビルを儀式場に選んでいる時点で相当に臭いんだよ、この術式は」

「...どうして?」

「ここが龍脈の中心点でないからだ。こんなところで儀式を行えば、術の力は龍脈を辿って流れ出して、どこか別の所で別の形で完成する。そして、それを計算尽くで行うことができるってのは現代魔導では知られているんだ」

 

「だから、停戦に際してのこちらの要求は一つ。受胎術式を解析させてくれ」

「あなたが解析結果を偽るかもしれないのに?」

「...どこでも突っ込んで見やがれ。算出過程を一部の隙もなく説明してやる。それでも納得できないなら、俺の首を刎ねればいい」

「...いいわ、儀式のプログラムを見せてあげる」

「ありがとよ」

 

そうして、エミヤさんの作った手枷で背中側に手を縛られながら電算室へと連れて行かれる。

 

「...エミヤ、手枷を外していいわ」

「了解だ、マスター」

 

さて、両手も自由になったことだし、この型落ちのパソコン一つが儀式のプログラムかどうかの確認が最初だ。

 

「ここにあるのは、儀式プログラムのコピーだよな?」

「ええ、SSDまるごとコピーしたものよ」

「そいつはありがたい。早速見させて貰いますよ」

 

儀式始動の際のMAG量に違和感はなし、術式によく使われている基本関数を確認しても、特に弄られた形跡はない。

とすると、やはり術式本体に何か仕込まれているのだろう。

 

中身を見ると、わざとスパゲッティコードにしたような形跡がある。見にくいだろうが畜生。

 

そのコードを弄らないで、頭の中で術式を組み立て直して結果をシミュレートする。

 

そうして、儀式場の力が龍脈の力に乗って散乱する事が算出できた。

 

...ここから先は、流石に人力での計算は無理だ。COMPに数字入れてシミュレーションしよう。

 

「とりあえず、この術式は罠だってことはわかった。説明は要るか?」

「お願いするわ」

「じゃ、なるべくわかりやすく。このソースコードだと、儀式場の中心に集中しなくてはならない力が龍脈に乗って散乱する事がわかった。まず、この部分。龍脈からMAGを汲み上げる術式だが、この際に龍脈に対して儀式の力が漏れるようなパスが作られている。ソースコードでうまく隠してるが、ココと、ココと、ココがそれぞれ作用しあって段階式にパスを作り上げてるんだ」

「...エミヤ、わかる?」

「あいにくと、現代魔導には詳しくなくてね」

「...検証できない問題か、基本書の類は遡月だからなー。しゃーなし、説明する。まず、大原則として悪魔召喚プログラムを筆頭にしたエミュレーションプログラムは...」

 

その説明は、2時間近く続いた。秋葉さんは基礎知識が抜けていたが、飲み込みは早かった。結構考えて戦うタイプだからか、地頭が良いからなのかどちらなのかはわからないが、たった2時間でこの儀式プログラムの問題点を自分で算出できるようになっていた。これは得難い才能だ。エミヤさんとか要所以外での理解はほとんど諦めていたのに。

 

「ありがとう、花咲千尋。それで、散乱した力の収束するポイントは?」

「ああ、いま計算中だ...ここは、学校か?」

「学校?」

「今地図を投影する。三咲市の南の方にある学校だな。...って、この辺りのことは秋葉さんが詳しいか」

「...ええ、ここは統廃合や建て替えは沢山あったけど、兄の母校だったの」

「なら、守らないとな」

「...この位置なら、花咲さんの説明にあった力の集約の条件は整ってる。現在の三咲の龍脈のツボだものね」

「あ、そこわかりやすく言い換えた奴だから。正確には極所的龍脈作用座標。調べる時はそっちでな」

「...あなた、案外先生とか向いているのかもね」

「そうか?」

「ええ、そうよ。あなた、特に何かあるわけでもないのに話してると信じられるもの。それって、先生に対しての信頼に似てない?」

「んー、分からん。これまでの人生で良い先生に恵まれた事はないしなー」

「そうなの。あなたの魔術の師は?」

「隣にいたって理由で俺を殺しかけたデンジャラスなじーさんだよ。まぁ、恨んではないけどさ」

「そう、会ってみたいわね」

「...爺さんは、もうとっくに死んだ。だから、記憶の中でしか会えない」

「...そう、ごめんなさい」

「気にすんなよ」

 

そうして、正式に共闘関係を結ぶ為に契約書を出そうとすると、COMPがアラートを発した。

 

アンテナ近くに仕込んでいたアラームトラップが鳴ったのだ。

 

「お、良いタイミング。ウチのイカしたメンバーを紹介するぜ!」

 

アラームには、誰がやってきたかを探る機能もあった。

なのでやってきた二人。を紹介できる。

 

「ウチのカオス&デンジャラスな所長、浅田彼方と...」

「...兄さん...ッ⁉︎」

「あら、知り合いだったん?だが今志貴くんはウチの社員なので紹介を。楽園戦争以来の歴戦のデビルスレイヤー!七夜志貴くんだ!」

 

その姿を見た秋葉さんは、ストンと膝を落とした。

 

その目に、涙を浮かべながら。

 


 

「申し訳ありません、サマナー」

「良い。敵が手練れだった。花咲千尋というサマナーは、相当に質の良い仲魔を自在に操っている。そして術に関しての知識も豊富だ。...故に解せん。どうして私ではなく遠野に近づく?」

 

「この世界が終わるのが先か、剪定され消滅するのが先か、どちらかだけを対処する時間など残されていない。故のアラディアの受胎だというのは痕跡の断片から理解できている筈だ。...ベルセルク、わかるか?」

「...恐らくは」

「ほう、言ってみろ」

「あやつは、本気で世界を救おうとしています。ただの数ではなく、その繋がりを世界と見て。故に、繋がりを断ち切るサマナーのやり方に賛同できなかったのだと」

「...繋がり、か...」

 

「そんなもので救えるのなら、とうの昔に世界は救われているというのに...愚かな賢人とは、こういう者を指すのか?」

 

堕天使のデビルサマナー、氷川はそう一人ごちた。

 


 

志貴くんに合わせてほしいというたっての願いを聞き入れて、秋葉さんを連れて遠野屋敷へと向かう

 

「へぇ、志貴くんって秋葉さんの義理の兄さんだったんだ」

「...はい」

「ただ、志貴くんかなーりしんどい生き方してたから、覚えてないかも知れないよ。それでも大丈夫?」

「...それでも、会いたいんです。大切な兄さんに...」

 

そうしていると、周囲の空気が変わった。異界化だ。

 

「お出迎えかね?」

「私か花咲さんか、どちらを狙ったのかは知りませんが」

 

「「この程度の量で、殺せると思うなよ?」」

 

高等悪魔召喚魔法(サバトマダイン)によりベル・デルを、COMPからの召喚によりシェムハザを召喚して、P-90を構える。

 

秋葉さんは紅の髪を幾多にも張り巡らせた髪の結界を作り上げ、俺の防御もしてくれている。なんと頼りになる中衛か。

 

それに対するは、純白のレースを着て、ラクダに乗って現れた女性型の堕天使。そしてそいつが指揮しているであろう堕天使が300ほど。

 

「アキハ、残念ですが貴女には死んでもらいます」

「こちらは残念ではないわね。こっちのことを好きなだけ利用した連中を殺せるんだから」

 

「そうですか、なら焼け死になさい。貴女の炎では、私の炎は消せはしない!極大広域火炎魔法(マハラギダイン)!」

「...そういえば、私の異能について説明していなかったわね」

 

「...略奪、私の髪は熱を奪うのよ」

 

獄炎が、赤い髪に触れた瞬間に消える。まるで昇華したかのように。

 

「じゃあ、オフェンスは俺たちか。シェムハザ」

「ええ」

複数目標設定(ターゲットロック・マルチプル)、遠隔起動魔法陣、展開」

「雷よ迸れ、極大広域電撃魔法(マハジオダイン)!」

 

そうして、雷の雨により300はいた堕天使達は、一瞬で消し飛んだ。

 

まさか、自分たちがこの程度で殺されるような雑魚に思われていたのだろうか?

いや、氷川の指示ならそれはない。二の矢三の矢が仕込まれているはずだ。

 

『千尋さん!』

『そっちから状況は確認できてるか⁉︎』

『はい!今、所長と志貴くんが向かいました!』

『ナイスタイミング!とりあえずこの異界を解く!そしたら堕天使の核ごと殺しちまえ!頭はコイツなんだから、指示出される前に止めれば策もなにもない!』

 

そうして、ソロモンの鍵で異界の中心をハッキングして泥で食い尽くす。

 

それに動揺した素振りを見せない堕天使は、次の手を放とうとして

 

神速で背後から胸を突かれて、死亡した。

 

「志貴くん、ナイス」

「...とりあえず移動しましょう。この攻撃が最後だとは思えませんから」

「だな、秋葉さん、行こう」

 

「兄さん、なんですか?」

「...ごめん、俺は七夜志貴だ」

 

そんなどこかギクシャクした空気が二人の間にはあったが、多分時間が解決するだろう。そんな緩い考えで、遠野屋敷への道のりを行くのだった。




電子書籍は、沼だ!
鬼滅の刃全巻買ってしまいました。めっちゃ面白かったです。
お陰で今週も執筆このざまですよ!目標は、1万二千文字平均なのに!

ジリジリと下がっていく小説情報の平均文字数に心がやられてくる作者なのでした。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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