白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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定時投稿しくじったぁ!

いや、理由がFortnite始めたからだってのがクソ過ぎる。そしてFortniteでは頑張って生き残ってもロケランで終わるのがしんど過ぎる。どこで拾えるのだしそれ


氷川と堕天使サマエル

『こっちに襲撃は来たが、そっちはどうだ?』

『いえ、こちらにはまだ。しかし、志貴くんがそちらに向かいました』

『ああ、問題なく合流できた。てことは、堕天使の先走った連中かね?全員、合流地点変更、遠野ビルの聖杯のカケラを死守する』

『すいません、所長がもう迎撃に向かってます。今が一番面白いとかで』

『...うん、とりあえず防衛組と首狩り組に編成をし直す。遠野ビル集合で。琥珀さんは遠野ビルに来るなら誰か護衛を、そうじゃないなら地下牢への避難を。

 

「花咲さん?」

「すまん、集合地点を遠野ビルに切り替えた。カケラの防衛を優先したい。こっちの手札を全部見せていないのに虫のいい話って思うかもしれないが、頼む」

「いえ、仕方がありません。堕天使が...氷川がこうも早く動いてくるのは想定外でしたから。...それに、今受胎を引き起こされるのは困ります。私は、私のままで世界をやり直したいのですから」

「...俺は一応反対だって言っとくぜ。今まで住んでたこの世界...には実は未練はないんだけど、新世界を作るなら生きてる奴全員を連れて行きたい。そして、その世界で黒点現象が本当に発生しないのかの逆算ができるまでは、危険すぎて世界の全員渡すなんてできない」

「つまり、それらがクリアできていれば賛成だと」

「まぁな。俺の那由多の果ての可能性よか、よっぽど現実的な数字だ」

「そうですか。...それで、あなたはどう思ってるんですか?七夜志貴さん」

「...俺は連中を殺せればそれで良い」

「...連中とは?」

「...今の家族を、殺した奴ら。堕天使だ」

「...そう」

「...志貴くん、いつもは毒吐きながらも善良な若者って感じなの知ってる身としては、なんか田舎に帰ってイキってるヤンキーを彷彿とさせるんだが」

「あんたはこの雰囲気でそれを言うのか⁉︎」

「...田舎に帰ったヤンキー...ふふっ」

「...笑うなよ」

「いえ、花咲さんは兄さんといい関係を気付けているようで安心しました」

「...ったく」

「じゃあ、聞きにくいことすぱっと聞いとくんだけど、秋葉さんと志貴くんの関係ってアンタッチャブルな感じ?」

「...前世で兄妹だったのです。私たちは。楽園戦争の際に離れ離れになってしまいましたが」

「凄い運命的な接点だな...うん、とりあえずそこ以上は踏み込まない。楽園戦争での志貴くんを知ってるなら、チームアップに最適なコンビに思えたんだって理由だけだから」

「...やはり兄さんも戦っていたんですね」

「しかも、志貴くんの頑張りは地名になりました。凄い話だよな」

「やめてくれ千尋さん、これじゃあ本当に田舎に帰って自慢話をする不良と同じだ」

「...そうなんですか、それはその街を少し見てみたいですね」

「...今はまだ道を確保できてないから、そのうちにな」

 

最初はどうなることかと思ったが、案外このくらいの距離感の兄妹だったのかもしれない。きょうだい仲ってリアルだとそんなに良くないとか良く聞くし。

 

そんな事を考えながら撤退していると、上空を一匹の亀が飛んでいるのが見えた。

 

「ど、どうして回転しながら飛んでいるのですか?」

「タラスクさんの頑張った結果らしい。ただ、あの速度でも乗ってる縁は案外酔わないって話だ。俺は怖くて試してないから縁の超人説を唱えてるけれど」

 

とりあえず後発が追い抜いてしまったので、俺たちも急ぐことにする。安心安定のペガサスさんだ。

 

今回は、なんと秋葉さんの髪で皆を支えてくれるので、乗り心地も悪くない。これは是非仲間にしたい人材だ。受胎術式の中身が完璧な回答か、確実なクソである事を祈るばかりである。

 

術式の詳細な中身は、サブのCOMPにてまだ解析中だ。聖母に下ろす女神の性質によってだいぶ変わるが、仮定できたのは“虐げられた者達の女神”といえ性質だ。それならば、その内的宇宙の拡張により、今現在虐げられている者達、つまりヒトの新しい世界を作り出す事ができるだろう。

 

だが、この感じだと世界に内的宇宙を現出させるというよりも、世界そのものを裏返して世界を作るような術式になってしまう。それでは、当然中心点以外にいる者たちは死ぬだろう。

 

本気で世界を救う気があるのだろうか、この術者は。人のいない世界なんてただの空虚な箱だというのに。

 

「お邪魔しまーす」

「...ああ、戻ったかマスターに花咲千尋。それに七夜志貴。君たちの仲間たちはもう到着している。少々愉快な現れ方だったがな」

「あの大回転飛翔はなー」

 

そう言って中に通される。エミヤさんはたたたんとビル壁を登り監視の指定位置についた。格好いいなアレ、やりたい。身体能力向上でどうにかやれないだろうか?...うん、途中で虚空に投げ出されるのがオチだろう。

 

「では、私は有栖を説得してきます。皆様はここで」

「ああ、ロビーってのがあれだが、手持ちの機材を使って簡単な指揮所くらいにはしてみせるさ」

「頼もしいですね」

 

そう言ってロビーを超えて上へと向かう秋葉さん。

 

「さて、ほとんどノリだけど一時停戦はできた。今のうちにこの街をどうするかの会議をするぞ」

「この街には結構堕天使が紛れ込んでる。道すがら5、6体殺しておいたけど、どっかに避難させるとなるとやっかいな事になる。自警団とかいないんだろ?この街」

「ああ。なんで最低限の戦力で遅延防御しながら、氷川の首を取る。遅延防御には真里亞に任せて良いか?言われずとも役割をやってる所長の戦闘勘にはちょっと引くが、所長だけじゃカバーしきれない」

「...少々難しいですね。機動力がある方だとは言えませんから」

「...ペガサスを付けるか」

「すみません、私が長距離を飛べたら問題はなかったんですが...」

「いや、それでもあの飛び方だとMAGの消費がデカイ。どっかしらに無理は出てくるさ。こっちはペガサスいないなりに戦術を組み立てる。ただ、ペガサスからの支援はできないから攻撃役としては期待しないでくれ」

「はい」

「では、私たちが向かうのは」

「ああ、受胎術式の中心点、学校だよ」

 

そうして、降りてきた秋葉さんと有栖。むすっとした顔がこの共闘に賛同していない事を明らかとしているが、それはこちらの志貴くんも同じ。志貴くんが有栖を殺していないのは、ヒトの範疇だからだろう。

 

彼の殺る気スイッチは、割とロジカルに動いているのだ。

 

「思う所はあるだろうけど、この面子で最短最速で襲撃を遂行する。最前列に出るのは縁と俺とデオン、その戦いの中で隙を見つけたら1発のある連中は叩き込んでくれ」

「それでは足りないわね。アーチャー、貴方も前に」

「承知した。...ああ、君たちの動きは大体把握している、援護に関しては任せてくれたまえ」

「じゃあ、確認良いですか?」

「何だ?」

「遡月士郎、って名前に心当たりはありますか?」

「...いや、ないな」

「てことは、やっぱ先祖なんですかねー?ああ、こっちもエミヤさんの戦闘スタイルは把握してます。子孫っぽい人が遡月にいるんで」

「...随分と奇妙な縁もある者だな」

「ですね。エミヤさんは最後列から氷川の妨害をひたすらお願いします。氷川の仲魔は強力ですから、連携させたら面倒です」

「把握している敵は?」

「物理特化のベルセルク、魔法特化の女神、回復役の神樹、それにあの化け物サマエルだな」

「なるほど、私の役割は神樹の妨害か」

「はい。というか奴を殺さないと崩せません。カラドボルグなりフルンディングなり絨毯爆撃なりでやっちまってくださいな」

「承知した」

 

そうして、水際で迎撃に出て行った真里亞を横目に簡単な隠蔽の術式をかけて学校に進軍する。

 

道中に出会う堕天使は、実力者が揃っている。本腰を入れてきたのだろう。

だから、こちらの隠蔽術式なんて簡単に見破って突破してくる。

 

「「「「氷川様のコトワリの為に!」」」」

「秋葉さん、おなしゃす!」

「まぁ良いのですけど、その言葉使いを兄さんに移さないで下さいね。朱に交わればなんとやら、と言いますから」

「あ、それなら大丈夫大丈夫。もっと濃いのに交わってるから」

「...否定はしないけどさ、千尋さんも大概だからな?」

「まぁ、最近自覚は出てきた。俺って実は凄いんじゃないかと」

「サマナー、その冗談はあまり笑えないよ」

「ちょっとくらいイキっても良いじゃん、昔に比べたら雲泥の差だぜ?なんせペルソナ使いだし」

 

そんな無駄話をしているうちに昇華される堕天使たち。ヤベーわ秋葉さん。髪の感知はできるが、不意打ちでないMAGを乗せた髪の速度は尋常ではない。あれではわかっていても躱すことはできないだろう。

 

「じゃあ、COMPの反応から俺たちの位置を感知してくれ。やりやすい所でやりやすい方法で奇襲を任せる。できるなら1発で決めてくれよ」

「その必要はない、君たちはもう終わっているのだから」

 

瞬間、世界が切り替わる。白く静かな、シジマの世界に。

待ち伏せされていた。読まれていた。

よく考えれば当たり前のことだ。儀式の準備を進めるよりも、先に邪魔者を排除する方が合理的なのだから。

 

だが、どちらにせよ戦うのだ。最低限の準備はしていた。

 

ラインを繋いだ事で余っていた通信石を秋葉さんと有栖に投げ渡す。

これで最悪はないだろう。咄嗟に縁が全方位に盾を張ってくれたので奇襲はない。現状の把握に努められる。

 

『志貴くん、殺せる?』

『...点が見えません、ダメージは与えられてもそれ以上は』

『じゃあ、作戦指揮は俺が取る。即興チームなんでコンビネーションはその場のノリで。縁、壁解除!パスカル、GO!』

 

走り出すパスカル。その後をついていくデオンと志貴くん。

呪言の張られていない今のうちに、可能な限りダメージを与えたい。

 

そうして、ベルセルクとサマエルが前に出て、後衛に氷川と女神、それに挟まれるように神樹がいる。ベルセルクはどうにでもなるが、サマエルが邪魔だ。

 

そして放たれるサマエルの忌念の戦慄。それを即座に縁の回復魔法で中和するが、それでもデオン達は足を止めざるをえず、結果ベルセルクのデスバウンドをモロに喰らう位置に居させられた。

 

その剣を絡め取り蒸発させるのが秋葉さん。そしてベルセルクに炎の剣を打ち込んだのがエミヤさん。そして、サマエルに極大万能属性魔法(メギドラオン)を叩き込んだのが有栖。この面子、中々に頼りになる!

 

だが、どちらのダメージも討伐に至るまでにはいかなかった。サマエルは頭部をメギドラオンの射線から逃れさせた事で、ベルセルクは取り出した2本目の剣で炎の剣を防御した為に。

 

極大広域回復魔法(メディアラハン)

 

そして、即座に治癒される二体の悪魔。

 

そして、その後の女神の極大広域氷結魔法(マハブフダイン)は絶殺の攻撃だった。

 

その一瞬で駆け出した、うちのジョーカーさえいなければ。

 

「ッ⁉︎」

 

氷川の顔が、驚きに変わる。鉄面皮に思えていたが、流石に志貴くんのアレには面食らったのだろう。その無茶苦茶さが理解できるが故に。

 

志貴くんは、氷結魔法そのものを()()()のだ。

 

そして、サマエルに肉薄し、そのカバーリングをしたベルセルクの剣を蜘蛛のような動きで回避してその両足を短刀の一太刀で殺す。

 

そして首を断とうとした時に、サマエルのベルセルクを顧みない高位万能属性魔法(メギドラ)の抜き打ちにより回避を余儀なくされた。

 

だが、これでベルセルクは完全に打倒した。治療をしようが蘇生をしようが、()()()()()()()()()()()()のだから。

 

魔法タイプならともかく、近接タイプなら足がないのは致命傷だ。

 

「...これは厄介だな。ククノチ、蘇生はいい。前に出ろ。

 

だが、氷川もさるもの。即座に次の悪魔を準備してくる。しかも、今回もハイクラス相当の力を持っている。ソロモンの感知によると、あの神樹、ククノチが自らに支援魔法をかけたようだ。

 

『デオン、任せる』

『了解だ、サマナー』

 

そうして、デオンの剣がククノチを襲う寸前でデカジャストーンを起動させる。その動きのズレに対応できなかったククノチは、その剣を躱しきれずに一太刀受け、続く二の太刀にて命を奪われた。

 

そして、このタイミングで発動する連鎖召喚魔法(サバトマオン)。デオンの位置座標を参照して現れるのはアテルイ、シェムハザ、メドゥーサ、クー・フーリンの4体。そうして現れた仲魔たちは、シェムハザにより即座に張られた魔法反射障壁(マカラカーン)により女神の高位広域氷結魔法(マハブフーラ)を反射し、即座に氷川へと襲いかかった。

 

アテルイの鬼神楽、クー・フーリンの刺突、メドゥーサの石化の魔眼。

どれもが本命に足る威力を誇り、しかしどれもが次の仲魔の攻撃への布石になるコンビネーションだ。

 

だが、その連撃は完璧なタイミングで放たれたはずなのに、全てが氷川の()()()()()()()()()()()()により躱された。

 

そして、感じる異界の予兆。これは、ソロモンが以前この世界に干渉したから感じ取れるようになったのだろう。

 

呪言が、来る。

 

攻撃を禁じる

 

その呪いの言葉のどこかに、行けるという感覚が来た。何がかはわからない、直感だ。

 

だが、今回の勘は信じていいだろう。なにせ、何が良いのかわからないのだから、信じて外れても損はないのだから。

 

『全員固まれ!縁の盾のカバー範囲に!』

『これが呪言...破ったら呪い殺されるのですね』

『ああ、だが3分のタイムラグがある。...今回は、向こうの回復を黙って見てるしかないロスタイムだがな』

 

そうしているうちに神樹ククノチは氷川に蘇生され、その手によりベルセルクが蘇生された。

わかっているだろうが、確認したかったのだろう。志貴くんのトンデモを。

 

そうして、3分が経った。

 

敵はベルセルク以外万全、こちらも万全。戦いは現状こちらが有利だ。

 

次の氷川の言葉を聞くまでは、だったが。

 

念話を禁じる

 

瞬間、放たれるサマエルの極大万能属性魔法(メギドラオン)。それを受け止める縁の神威の盾。その盾が受け止めるMAGの出口を作るために、縁の盾の範囲外に魔法陣を敷いて、サマエルに向けて反撃のメギドラを6つ放つ。込められたMAGはそれなりだが、出力する俺自身の魔力がそう高いものでない為に直接メギドラオンに当てても意味はない。

それならば、曲射して本体を叩く方が有効だ。

その考えを汲み取ってくれたのがデオンとパスカル。大きく広がってそのメギドラに続いて進んでくれた。

 

その考えを汲み取らなかったのが、有栖。反撃に極大万能属性魔法(メギドラオン)を放ってしまった。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

それからは、もうぐちゃぐちゃだった。解かれなかった縁の盾は背後から放たれた極大万能属性魔法(メギドラオン)に破壊され、その分のエネルギーが削がれたメギドラオンは全開のまま放ち続けているサマエルのメギドラオンを完全に相殺出来ず、衝撃でこちらは大きく吹き飛ばされた。

 

そうして転がる視点の中で、反撃の糸口を探すが、それを伝える手段がない。言葉を奪われただけで、こちらは完全に後手に回ってしまっている。力量では向こうが上なのだから、常に先手を取るしかないというのに。

 

現状、俺は後衛にいる。それは自ら望んでではない。吹き飛ばされた先がたまたまそうだっただけだ。

 

現在、指示を出せる連中は俺より吹き飛んでいなかった為前の方にいる。それはつまりハンドサインによる指示は不可能である事。

 

俺のハンドサインが通じる所にいるのは、有栖のみ。だが有栖は俺との連携なんて考えれはしない。

 

急造チームであることが裏目に出た。

 

だが、ここでなんとかしなければ全員まとめてあの世行きだ。

 

ならば、行動を起こすしかない。行動を起こさせるしかない。

 

守りには、入らない!

 

有栖の肩に手を置いて、任せる、と音にならない声で伝える。気分だが、まぁやらないよりはいいだろう。

 

そうして、地面に手を置いてこの世界に干渉する。ソロモンの技、ソロモンの鍵だ。

 

当然、この力で一度この世界を破られている氷川はこちらに向けて攻撃をしてくる。感知できた魔力から感じるに、メギドラあたりだろう。

 

それを、同じく抜き打ちで相殺する有栖。どうしようもなかった初手を防げた、ならチャンスはある。

 

ソロモンの鍵で内的宇宙を侵略する。しかし、今回は全開の不意打ちとは違い、しっかりとプロテクトがかけられている。以前のような手段ではこの結界を破ることはできないだろう。

 

だが、それでもやらなければならない。連携の取れていない今、サマエルの忌念の戦慄が来たら終わりだ。

 

だから、タイムリミットはそう遠くない。それまでにこの世界をぶち壊さなきゃならない。

 

だから、少しでもこの世界を揺らがせろ。

 

守りは、今の行動で敵の動きの変化に気付くだろう皆に任せて。

 

俺が、この世界を破壊する。

 

外部からのハッキングで世界を揺らがして、少しでも脅威に思わせるのだ。

 

そうして繋がっていると、なんとなくアンリマユと似た感覚がある。ペルソナの共鳴もだ。

 

これが、いけるという感覚の正体のようだ。

 

心を響かせて、体を適応させて、泥から、世界から感じるイメージで()()()()()()()()()()

 

どうやら、これが行けるという理由のようだ。こんな土壇場で、顔なしの変化適応能力に目覚めてしまったのだ。...いや、単にアンリマユという共通項と、心とも言えるこの世界に触れた結果という参照できるものが多かったからなのだけれど。それでもできるのだ。

 

ならば、やる。

 

「ペルソナスティール、アルカナ、The moon!アーリマン」

「シジマの世界で、声を出せたのはそういう理屈か、顔なしのペルソナ使い」

「そうみたいだ、自分でもびっくりよ」

 

「「回復を禁じる/許可する!」」

 

「全員、聞け!呪言は盗んだ!思う存分暴れてこい!」

『なら、あとは力勝負!』

『...お兄さん、あの!』

「文句も感謝もこれが終わってからな!有栖!さぁぶちかませお前が主砲だ!」

『...はい!』

 

そうして、チャージされるメギドラオン。それを感知したサマエルもメギドラオンをチャージする。

 

MAGの消費合戦になるが、それでもサマエルの行動をメギドラオンに限定できるのは大きい。あの忌念の戦慄を封じる事ができるからだ。

 

そして、サマエルがチャージに集中する事で、速い連中は脇を抜けられるようになる。パスカルの斬撃によりククノチは切り裂かれ、女神は念話がなくなった時点で迷いなく走り出していた志貴くんによって点を突かれ殺された。

 

そして、クー・フーリンと青のアテルイがコンビネーションを繋ぐ華麗な槍さばきによって氷川を押さえ込んでいる。二人のスピードにより、氷川は防戦一方だ。

 

そんな中で、氷川がふと笑みを浮かべた。

まだ隠し球があるらしい。だが!

 

「後生大事に抱えたままで死に晒せ!アーリマン!」

 

アーリマンにペルソナを変えた事で、精密にコントロールできるようになった泥を数多の槍にして連射する。それに対して氷川もアーリマンを顕現させて防御をした。だが、その姿はブレている。ペルソナスティールは、アカウントの乗っ取りに似ている。自分が氷川のアカウントでアーリマンの力を使っているから氷川は十全にアーリマンを使えないのだ。

 

そして、泥の弾幕から抜けたデオンが、その絶技を持って氷川を打倒する。

しかし、その魂は肉体から離れてサマエルの元へと向かっていった。

 

「...一手遅れたな、花咲千尋」

「人の体を捨てるとか、覚悟決まりすぎだろアンタ」

「私は、私の理想の世界を願っている。ならば命など賭けて当然だろうに」

「...その先にヒトとしての矜持があれば、こんな争いになることもなかったろうにな」

「それで世界が救えるのならそうするさ。だが、そうではないからこうしている。行くぞ、サマエル!」

「承知した、サマナー!」

 

そうして、繋がる氷川とサマエル。

 

あれは原理としては人柱降魔(D・ライブ)とは別物だ。悪魔の身体に人間の魂。本来なら人間の魂が塗りつぶされて終わるが、それが氷川のような強い魂であるのなら

 

それは、サマエルの肉体を氷川が完全に制御する、魔人化に他ならない。

 

現に、サマエルの身体は人の大きさに収まり、赤い翼の竜人の姿になっていた。あれが、今の氷川の最強戦闘形態なのだろう。

 

そうして、ふわりと向けられる掌。瞬間的に距離を詰められて、その掌は俺の体を貫こうとし、寸前に有栖が俺のことを引っ張って回避させてくれた。

 

「サンキュ!」

 

そうして、空いた一瞬でバルドルを間に入れる。久々の肉盾運用だ。

 

「ギリシャ神話のバルデルか!」

「博識だな!てかギリシャって何処⁉︎」

『昔の国だ!』

 

その稼いだ一時で、紅の檻がサマエルを包み込む。そして、その檻の隙間から放たれる剣の弾丸(ソードバレル)。なにか仕込んでたのはわかっていたが、これはなかなかにやる!

 

『花咲さん!遅れました!』

「大丈夫!生きてるから!」

 

そうして、一人になったサマエル氷川の行動は、迎撃だった。

だが、あいにくこちらにはそれを封じる手段があったりする。

 

防御を禁じる!

 

呪言の利用。これまで散々と苦しめられたそれを、今度はこちらが使う。ペルソナスティールの面目躍如だ。

 

そうして、迎撃を防御と捉えられた氷川には、発動と共に世界からの呪いが発現し襲い掛かったが

 

氷川のソレは、髪の檻と、剣の檻と、呪いの檻。その全てを消しとばしてみせた。

 

全方位に向けてのメギドラオンに似た何か。それは、大いなる力を感じさせる恐ろしいものだった。

 

だが、氷川も使いあぐねたのだろう、エミヤさんの献身によりどうにか秋葉さんだけは命をつないで見せた。

 

エミヤさんはその半身を、秋葉さんはその両足を犠牲にして。

 

「縁!回復!」

『はい!我が祈りは人の為に、メシアライザー!』

 

だが、その回復が二人に届くことはなかった。治療を阻害する呪い付きだろう。ならば!

 

『チェンジ、ソロモン!ソロモンの鍵!』

「させるものか、解呪を禁じる

「チェンジ、アーマリン!解呪を許可する!シェムハザ、治療できるか!」

『...難しいですね。これはおそらく魂への直接攻撃です。呪いを解いても失われた魂を補填するにはそれなりの設備が必要です。現状は戦闘不能と言わざるを得ませんね』

 

解呪に必要なソロモンの鍵の発動を阻害してくるか。ならば、二人の命を救う為にはいまから最速でサマエル氷川を殺す必要がある。

 

それができるコンビネーションは、ペガサスと志貴くんにはあった。ペガサスの突撃に合わせて反発(ジャンプ)の魔法陣を敷き、空間全てを利用した殺戮軌道だ。

 

だが、現状志貴くんは完全にマークされている。氷川は常に志貴くんに目を向けている為に、遠距離の飽和攻撃で潰されてしまうだろう。

 

ならば、なにかで代用するしかない。あのスピードを捉える檻を作るには、何か、何か?

 

『サマナー、私が目を盗む。その隙に終わらせる術を作り上げてくれ』

 

デオンのその言葉に、一つ思いつくものができた。

使うのは、アーリマンの能力の応用。...うん、やれる。

 

目を盗む事ができるなら、スピードの問題は解決する。

感知ができていても、一瞬抜けることができるならば

絶殺の回答が、こちらにはある。

 

「デオン、終わらせるぞ!」

「...宝具か」

 

高まっていくデオンのMAG。そうして始まる剣舞に、氷川は目を盗まれた。

 

百合の花咲く豪華絢爛(フルール・ド・リス)、デオンのただ美しい剣舞だ。

 

その目を取られた一瞬で狙ったポイントに泥を発現させ、それを見た志貴くんは全てを察して動き出してくれた。

 

使ったのはなんてことはない。志貴くんの偶像だ。肌の色をしっかりと見れば見抜かれるが、志貴くんのMAGパターンと同じ物を作り出したので感知には引っかからない。

 

そして、志貴くんにはMAGを隠す隠形の技がある。

 

目さえ誤魔化せば、あと一手の距離までは詰められる。

そこから先は、まぁ志貴くん次第だが。

 

志貴くんならやれるだろう。それだけの信頼を、俺は志貴くんに持っている。

 

そうしてデオンが奪った時間でチャージを終えた仲魔たちが、MAGを撒き散らしながら連射する。

 

緑のアテルイの弓、クー・フーリンの投げ槍、メドゥーサの電撃、シェムハザのメギドラ。そして仕込みをしたバルドルの万魔の乱舞だ。

 

それらは散らばり、さまざまな方向から氷川を襲うが、氷川はまたごく当たり前のようにその雨をくぐり抜ける。

 

...ここだ!

 

潜伏する悪意(ステルスワンプ)

 

バルドルの万魔の乱舞を殻にして、その内側に仕込んだ泥の弾丸、それが隠蓑となり、完全に回避し終わった後の氷川を襲う。

 

だが、それすらも読まれて躱された。

当たって怯んでくれればワンチャンあったというのに、全く面倒な!

 

だが、その動きは先程までの当たり前の動きではなく、焦ったような動きだった。それはつまり、完全に今のは不意を衝けたということ。

 

奴の感知は、完全ではない。だから、あと2手あれば確実に行ける。

 

「秋葉さん!エミヤさん!死にかけてるからって止まってんじゃねぇですよ!」

『勝手な、事を、言いますね!』

 

そうして、作られる紅い髪の檻。そして、放たれる妖刀の剣弾(ソードバレル)。そして、狙いすまされたトランプナイフの一投。

 

それが、全て繋がって一つの攻撃になる。サマエルは動きを止めて、防御に力を注いだ。万能タイプの魔法障壁だ。

 

が、それを発動したという事は完全に足が止まったという事。見えていたちょっと凄まじい奇襲には対応できまい。

 

そして、パスカルがウォークライと共にMAGを解放する。その体からは青い稲妻が流れているようだ。

 

そんなパスカルを、縁が拳で射出する。その動きの速さは凄まじく、氷川は対応できずにその背中の羽に食いつき、食い破った。

 

そして、それら全てがフェイントとなり、七夜志貴は走り抜ける。

 

もう不可避な時点で志貴くんに気づいた氷川は、自分からではなく世界から発動する遠隔魔法で志貴くんを牽制するが、その魔法は1発たりとも掠ることはない。

 

秋葉さんの作り上げている髪の檻が足場となり、志貴くんに回避するための力を与えてくれたのだ。

 

「まだだ!「攻撃を禁じる/許可する!」ッ⁉︎」

「あいにくと、読めてんだよ似たタイプの思考はさ!」

「花咲千尋ッ!」

 

そして、氷川はやってくる志貴くんの死を感じて、足掻くのをやめた。

 

「そうか、これが死の静寂か...」

 

その言葉を最後に、氷川は死んだ。死の点を貫かれたのだから、霊核に終わりが訪れている。

 

故に、ここに残っているのはサマエルだろうか。僅かばかりの残留思念が、ここにいる。

 

「ヒトの子よ、お前は何故ヒカワの企みを阻んだ?それ以外に道などないというのに」

「...単純な理由ですよ。受胎で救えるのは、今を生きてる人達じゃない。だから、世界が終わるその時まで諦めるつもりはありませんし、そもそも世界を終わらせるつもりもありません。...それが、那由多の果ての可能性でも、掴んでみせます」

「全く、ヒトにしておくには惜しい男よ。ならば、餞別だ。この世界はいずれ剪定される。それが故にヒカワは犠牲を払ってでも世界を繋ぐ道を選んだ。それが、この世界の終わりより早いかは知らぬが、聖杯を集め、黒点を消滅させようと戦いは終わらない。今を繋ぎたいのなら、その先も見据える事だ」

「...並行世界理論の、エネルギー限界説か...」

 

世界を繋ぐエネルギー総量は決まっており、ある期間を過ぎるまでは並行世界が生まれそれぞれ適切に運用されるが、ある期間を過ぎたらそのうち“より可能性を生まない世界”は剪定され、次の世界達のエネルギーに変換されるという理論。

 

アラカナ回廊を使って辿れていた世界に行けなくなった事がその仮説の裏付けだと論者は説いていたが、そうではないのか。

 

この世界にはもう可能性がないから、もう剪定される準備に入っているのだろうか。

それが理由なら、対策は言うだけなら簡単だ。

 

人類の進化系(ネクステージ)理論で、次のステージを開いてしまえばいい。

 

人類どころか世界の未来まで背負わなくてはならないのは辛いが、まぁどうせ出来る事もやる事も変わらない。

 

だから、頑張ろう。心だけは折れないように強く強く強く。

 

そんな事を最後に氷川のシジマの世界は消えた。

 

残ったのは学校と、6人の虚な目をした少女達。

 

そして、堕天使達が撤退したのかやってきた所長と真里亞は戻ってきていた。

 

そして、朝日が登る。

この三咲市での戦いは、ひとまず終わったようだ。




三咲編、戦闘パートは終了です。
結構難産でした。が、秋葉の髪を足場にして跳び回る志貴を書けたので悔いは多分ある誤字脱字くらいしかありません。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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