白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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またしても遅刻投稿。リングフィットアドベンチャーはメンタルを奪って行くのだ...


次への歩み

氷川を殺し、サマエルを倒した事で指揮系統は混乱。その隙に暴れん坊所長とラストエンプレスはしっかりと指揮官クラスを仕留めてくれたそうだ。今堕天使達は散り散りになって逃げている。

 

とりあえずこの街の防衛は成功した。

だが、それはこれから堕天使に守られていたこの街が解き放たれるという事で、それはこの終わりかけた世界にて餌が野放しにされるという事。

 

これから先、大変だろう。他人事のように思う。

 

「じゃあ、秋葉さん達の治療します。優先度的に後になるんで、エミヤさんはしばらく気合で頑張ってください。MAGさえあれば持ち堪えられるでしょうから」

「...全く、無茶を言う」

「じゃあ、治療に使ってる拠点に運びます。良いですね」

「...ええ、構わないわ」

「では、長距離転移魔法(トラポート)!」

 

そうして遠野屋敷地下牢へと秋葉さん達を連れて行く。

 

秋葉さんはその場所に一瞬面食らったようだが、そうなのだと理解したのか何か受け入れるように目を閉じた。

 

「カプセルの設定を対人設定に変更、MAGの流出阻止を最優先。秋葉さん、入れますね。デオン」

「ああ」

 

デオンが秋葉さんを優しく抱き上げ、カプセルの中に入れる。

 

そうしてカプセル越しにソロモンの鍵を使い呪いの解除を試す。

 

...どうやら、相当の呪いのようだ。主人を失って尚効果を保ち続けている。

 

これの解呪は、相当に手間だ。人間の体を媒介にしているから、アンリマユで台無しにしてしまうわけにはいかない。魂が汚染されてしまう。

 

仕方ない、ズルをしよう。

 

「起動、破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)

「...随分な物を持っているな」

「過分だと思いましたけど、託された物です。あげませんよ」

「...ああ、それが良いだろう。その短剣の主からの信頼を得たのならな」

 

そうしてカプセルの蓋を開け、呪いに向けて短剣を的確に突き刺す。この呪いは呪術的なものであるため、それを解くのにはこいつが手っ取り早い。

 

呪術とて、術の一つなのだから。

 

「はい、後は気合で治して下さいね。正直気を抜いたら死ぬレベルの損傷なんで」

「...感謝するわ、花咲千尋」

「いいですって。じゃあ、エミヤさんは別室で。カプセルはもうないんで荒療治になりますから」

「...承知した。ではマスター、くれぐれも死なないように」

「わかってるわよ、エミヤ」

 

デオンがエミヤさんを別室へと持っていく。

今回も治療はルールブレイカーを使ってさらっと行ってしまおう。

だが、エミヤさんに関しては確認しておきたいことがある。

回復の陣を組み上げながら聞いてみよう。別にそれがどうしたという訳ではないのだけれど。

 

「エミヤさん、あなたのサマナーって秋葉さんじゃないですよね」

「...まぁ、気付くか」

「はい。でも、だったらどうして秋葉さんを見捨てなかったのか?って疑問が生まれちまうんです。あなたの主は、復讐を望んでいるのに」

「...なんてことはない」

 

「彼女は、復讐を終えたら死ぬだろう。生きていく理由が消えてしまうのだからな。だから、遠野秋葉にはまだ生きていて貰わないと困るというだけだ」

「...良い人ですね、エミヤさんは」

「...買いかぶりだ」

 

そうして回復の陣の中にエミヤさんを入れて、解呪をした瞬間からありったけのMAGを注ぎ込む。

擬似的にカプセルと同様の空間を作り出す為だ。

 

その状態でMAGの流出を阻害するパッチを当てて、しばらくの間存在が消えないようにする。

これで、とりあえずは死なないだろう。後は魔石を叩きこみながらカプセルが開くのを待つだけだ。

 

「じゃあ、魔石はここに置いとくんで、自分で使って回復して下さいな」

「随分と適当な後処理だ」

「つきっきりが望みですか?」

「いや、気楽で良い」

 

念のためアラームトラップをかけて、カプセルのある部屋に戻る。

 

そこには、やはりというべきか琥珀さんがやってきていた。そりゃ、念のためここに隠れていろと言ったのだから気付くのは当然か。

 

「あ、花咲さん。エミヤさんはどうでしたか?」

「はい、なんとかしました。とはいっても霊核へのダメージデカイんで、カプセル使わないと本格的な治療は無理ですけどね」

「魔法でぱーっとは行かないんですか?」

「あいにくですけど、覚醒者の体ってMAGが本体ですから。MAGを生み出す霊核が傷ついてたら結構ヤバイんです。具体的には超痛いです。動けない訳じゃないから戦闘中の応急処置なら良いですけど、その後は傷が広がって死にますね」

「そうなんですかー」

 

などと言いながら、持ってきたお茶を皆に渡していく琥珀さん。

 

「それで琥珀、どうしてここに顔を出したの?」

「バレてしまったので、お叱りを受けようかと」

「...貴女には私に復讐する権利がある。どうこう言うつもりはないわ」

「...複雑な関係だな」

「サマナー、首を突っ込むものじゃないよ。これは二人の問題だ」

「いえ、別に構いませんよ。なんとなく、もう良いかなーって思ってたんで」

「...琥珀?」

「志貴さんに言われたんです。『リボンを無くしてごめん』って。私も忘れてた約束なのに、あの人は大切に思ってくれていた。そう思ったら、なんだかあの日々にも意味があったんじゃないかなって思えて」

 

「だから、私はちょっとだけ復讐から離れてみようかなって思えたんです。ずっと被っていたこの仮面に肉が付いているのなら、きっと今までとは違うものが見えると思いますから」

「...そんな深い意味で言ったんじゃないんだけどな」

 

そうごちる志貴くん、それに笑う琥珀さん。その笑顔はやはり仮面のようで、しかしどこか柔らかかった。

 

「というわけで秋葉様。勝手ながら本日をもってこの屋敷の使用人を辞めさせて頂きます」

「...ええ、承知したわ」

 

そう言って綺麗に一礼をする琥珀さん。なんともまぁ、不思議な関係だ。殺す事を望んでいる者と殺されても良いと思っている者、そんな関係なのに互いに互いを思っている。

 

「あ、それなら仕事頼んで良いですか?琥珀さん」

「なんですか?」

「この街に自警団作らないとヤバいので、エミヤさんの教導が欲しいです。どれだけの人が集まってくれるかはわかりませんけれど、守る為の牙を持たないと潰されるだけです」

「まぁ、何をするってビジョンもないので構いませんけど、どうして花咲さんがこの街の心配をするんですか?」

「いや、このまま去って悪魔に食い物にされたってのは後味悪いですし」

「人が良いのですね、花咲さんは」

「...それなら、俺もしばらくここに残って良いか?」

「...心配か?」

「ああ。皆には悪いけど、しばらくこの街に残りたい」

「...それなら、ちょっと施術してからな」

「千尋さん?」

「バイタル見てんだよこっちは。目の使いすぎバレてないとでも思ってんのかコラ」

「...本当にアンタはアンタだな」

「元々戦い続けてた事で脳にダメージが来てるんだ。そろそろ抑える為の道具が必要な頃だろう」

「了解、頼むよ千尋さん」

「あいよ」

 

そうして別室で志貴くんの脳へのダメージを治療する。脳の治療は精密なMAG操作が必要だが、ソロモンという最高の道具を手に入れた事でびっくりするほど簡単に施術は終了した。

 

まぁ、焼け石に水だろうが。

 

「志貴くん、眼鏡ってまだ持ってる?」

「...すまん、壊した」

「じゃあ、アイマスクか包帯くらいしかないなー。どっちが良い?」

「...包帯で頼む。花咲さんのアイマスクってあれだろ?そんなのを常に身につけてたまるか」

「えー、良いじゃん。ぱっちりお目目のアイマスク。あれ結構性能良いんだぞ」

「...まぁ、そうだろうなとは思ってた」

 

そんなわけで、包帯にソロモンの鍵を使って術式を刻み付けていく。ちょっとこの術の便利さがヤバいが、便利なので気にしないでおく。

 

志貴くんのデータはもうあるので、それに対応する魔眼殺しと、包帯をつけたままでも周囲を認識できるように透過の術式を練り込んでいく。

 

うん、突貫工事にしてはなかなかの物ができた。

 

「志貴くん、テスト」

「...本当に凄いな、大分楽になる」

「って事は、ちょっとは見えてる?」

「ああ、少しな」

「じゃあ、もうちょい干渉を強くするか?」

「いや、このくらいが良い。包帯を取らなくてもある程度はやれるから」

「...うーん、凝り性な身としては完璧に見えないようにしてやりたいんだけどなぁ...」

「まだ良いよ。ただ、グレイルウォーが終わって世界がどうにかなったら、本当にちゃんとした奴を頼むな」

「はいよ、友達価格で安くしてやるからな」

「なら、マッカはちゃんと稼がないとな」

 

そうして、包帯マンとなった志貴くんを連れて秋葉さんの元へと向かう。聖杯のカケラのありかを吐いて貰わないといけないのだから。

 

「さて、秋葉さん気分はどうだい?」

「...兄さんに何をしたの?」

「治療だよ治療。志貴くんの目を抑える為のな」

「そう、なら良いわ」

「じゃあ、秋葉さん。聖杯のカケラはどこだ?防衛に戦力を割かなかったことから、ありかは察しているけど」

「...ええ、聖杯は有栖の中よ」

「なら、抜かせて貰う。受胎術式は降ろす悪魔のデータがないからもう使い物にならないからな。構わないか?」

「...ええ、構わないわ。他人に聖杯のカケラを譲るつもりはないけれど、兄さんの友人なら、そう不安になることもないでしょう」

「あいよ。...よし、霊核の修復は8割完了、後は自然治癒で治せる。デオン、エミヤさんを持ってきてくれ」

「了解だ、サマナー...しかし、持ってくるとは酷い言い方ではないかい?」

「事実だろうが」

「まぁそうなのだけどね」

 

そうしてエミヤさんの治療も無事終わり、無事に聖杯のありかも聞き出せた。

 

ひとまず、勝ちと言って良いだろう。

 

さて、次は交渉の繋ぎ役をやらなくては。

 


 

「というわけで、聖杯は回収してきたぜ。これで4つだ」

「堕天使の目論見を潰せたのは大きいな。これであちらも遡月へと赴いて来ざるを得なくなる」

「遡月の街を戦場にはしたくないんだが、まぁ攻めて来るよなぁ普通。あー、説得の通じる相手であって欲しいな畜生」

「その前に、私が奪うがな」

「やらせねぇよ。...ってそんな話じゃなかった。大厄災前の暮らし保ってた三咲って街がある。そこに物資の援助をして欲しい」

「リターンは?」

「俺からは特に、この街の大将はパソコンの前にいるから、そっちで交渉してくれ。一応言っとくけど、秋葉さんこっちが引くくらい強いぞ」

「ふむ...遠野の混血か。確かに交渉次第では使えそうだ」

「じゃあ、話は終わりな」

「待て、補給物資は必要ではないのか?」

「ボーナスがあってね、とりあえずまだ必要はないんだよ」

「...いや、必要だ。これから君たちはターミナルを求めて新潟に行くのだろう?ならば、コレは必要だと思うがね」

 

そうして中島が示すのは、教典だった。確かに、それは必要だろう。なにせ、新潟はメシア教の本山なのだから。

 

だが、忘れてしまいたい事だがそれは今回は必要ないのだ。なにせ...

 

「ウチの所長の前職、忘れてないです?」

「...あれは誤記ではなかったのか...」

 

あの人メシアン時代の装備をメンテして使い続けているので、何気に教典とかも持ったままなのだ(ストレージの肥やしになってるともいう)

 

「じゃ、そういう訳で。吉報を期待していてくれよ。お前にとってもそっちの方が得なんだから」

「...仕方ない、こちらから出させて貰う。術式を解析させてもらいたい。対価として、ソーマを提供しよう」

「...随分と羽振りが良いな。何が狙いだ?」

「氷川の受胎術式だ。あれを応用すればより少ないエネルギーで私の目的を果たせるかもしれない」

「じゃあこっちからも条件だ。受胎術式に使う女神の召喚プログラムを渡してくれ」

「...君が興味を持つとは思わなかったな」

「こっちは人類の進化系(ネクステージ)に全部賭けてるつもりだけど、それが失敗した時の保険は用意したきたいんだよ。そうしたら、生き残った連中の中に次の手段を取ってくれる奴が現れるかもしれない」

「...利他的だな」

「いや、死にたくないから足掻いてんだよ。それのどこが利他的だ?」

「まぁ、そう思っているならそれで良いさ。術式のデータを」

「はいよ」

 

そうして術式データを渡して、意識を裏サマナーネットから引き戻す。

 

パソコンの画面には、『交渉を承諾した』と出てきた。

 

「じゃ、秋葉さん頑張ってね。部外者がいると言えない事もあるだろうから、俺はターミナルの様子見て来るよ」

「...本当に、何から何までありがとうございます」

「良いの良いの。秋葉さんは同僚の前世の妹だからねー」

 

そうして、遠野ビルの地下に設置されたターミナルを見に行く。

どうにも長野の聖杯を奪うついでに、ターミナルを根こそぎ奪い取ってきたらしいのだ。だが、今まで技術者が居なかった為に設置できていなかったとの事だ。

 

それを設置したのが俺だ。理由は、志貴くんの遡月への帰還のため。

 

とはいってもターミナルが起動するまでにかかる時間は膨大だ。このスピードでは2〜3ヶ月はかかるだろう。それまでの長い間この三咲に留まっておくのは無駄なので、ここから行ける範囲にある新潟へと赴くのだ。

 

戦力低下は惜しいが、それは志貴くんが選んだ道だ。強制する権利は誰にもない。

 

そんな事を考えながら、ターミナルの起動シークエンスに間違いがないかを見ていると、背後に気配を感じる。隣のデオンが警戒をしていないことから、琥珀さん辺りだろうか?

 

「なにか御用ですか?」

「...一つ、確認をしに来た」

「エミヤさん?」

「お前の言う、遡月士郎という男は何者だ?」

「魂を造魔に移しても大切な家族を守る為に戦い続けたスーパーマンですね」

「...では、楽園戦争時代から生きているのか?そいつは」

「...ずっとスリープモードで結界の守護者をやってたんで生きてるかってのは微妙ですけれど、確かにそうですね。楽園戦争時代からずっと妹さんを守っていたっぽいです」

「...ならば、間違いはないな。花咲千尋、そいつには心を許すな。そいつの心は壊れている」

「まぁ、知ってます」

 

「けど、壊れててもあの人はちゃんとしてます。ほかの人と繋がって、大切な人の幸せを願って生きてます。だから、俺は士郎さんを信じます」

「...そうか、それならば今の言葉は余計だったようだな」

「いえいえ、忠告はしっかり受け止めさせて頂きます。ありがとうございました」

 

その言葉を最後にエミヤさんは霊体化した。気恥ずかしかったのだろうか?

 


 

それから数日が経った。ターミナルの起動シークエンスは手作業が必要な部分は完了した。あとは並行世界からMAGを集めて勝手に起動する。

 

住民達の中には堕天使に襲われた者やそれを見た者達が居て、彼らは戦う為に武器を取る事を選んでくれた。それは蛮勇なのかも知れないが、彼らが種火になっていずれ大きな力になってくれるだろう。

 

というわけで、別れの日だ。

 

「じゃあ、色々頑張って下さいね、秋葉さん」

「あなたもね」

 

「有栖ちゃん、妹ちゃん達の面倒ちゃんと見るんだよ!」

「なんであなたそんなに気休いのよ!面倒は見るけど!」

 

なんだか縁と有栖が妙に仲良くなったのが、不思議といえば不思議だ。同族意識という奴だったりするのだろうか?

 

ちなみに妹さん達とは、氷川に作られた6人の有栖の複製体達だ。徐々に自我を獲得してそれぞれ個性の片鱗を見せ始めていたりしている。たった3日だというのに、凄まじいものだ。

 

「じゃあ、また」

「ああ。またな、志貴くん」

 

そう言って握手をして皆と共に車に乗る。ファントムの資材の中にあった黒塗りのバンだ。

 

瓦礫だらけの悪路を走ることになるので助手席には自分が、運転席にはデオンが座っている。後ろは真里亞と所長、縁とパスカルという席順になっているが、パスカルにシートベルトをどうつければ良いのかわからないのがちょっと不安だ。ロケットランチャーでも叩き込まれなければそうそう事故る事はない性能をしているのだけれど。

 

振り返らないで、車を走らせる。高速道路は車だったものの残骸で大変だが、まぁ無駄にMAGを消費するよりはマシだろう。

 

とはいっても高速に乗るまでに反発(ジャンプ)の術式で空を走ってショートカットしたのだが、それはそれ。いちいち回り道などしていられるか。

 

「...酷いね。血の跡が固まって悪趣味なアートになっているようだ」

「...こりゃ、立て直した後の政府は大変だな、真里亞」

「ええ、ですがやらなくてはなりません」

 

そうして行くと、ある所から急に残骸がなくなっていった。

誰かが、撤去してくれたのだろうか?

 

うん、メシアンだな。間違いない。

 

どこかに進軍する為に、道路の整備をしているのだろう。

 

そうしていると、目の前で簡単な検問が敷かれていた。

 

「こんにちは、こんな世界でも敬虔な信徒である事を誇りに思います」

「あー、そういうのは良いよ。俺は雇われだからな。それよりお前、どっから来た?」

「ちょっと長野の三咲って所から。堕天使の支配がなくなって大変でさ。やりたい事もあるんでね」

「堕天使の支配が消えた⁉︎本当か!」

「ああ、本当だよ。遠野の当主様達が堕天使を操っていたサマナーを倒したんだってさ」

「そうかそうか!タニグチ、この人達を司祭のとこまで案内しな!これで南進できるぞ!」

「はいっす!では、こちらについて来て下さい!」

 

そうして案内の元導かれたのは城塞都市。幾たびも悪魔の襲撃があったのか、細かい所に補修の跡が見える。

 

「タニグチ、どうした!」

「この人ら、三咲から来た人なんすよ!先輩がこの人らを司祭様の所まで連れてくようにって!南進いけるかもしれないっすよ!」

「...そいつは凄えな!堕天使から逃げ延びたのか⁉︎」

「いえ、遠野の当主様達がやってくれたんですよ」

「... って事は、本当に南進行けるかもしれねぇな!良く連れてきたタニグチ!」

「はいっす!」

 

「それでは、サマナーの所まで彼らを案内すれば良いのですね?私が行きましょう」

 

そうして振り返った先には、金髪の綺麗な人がいた。

縁を初めて見た時に感じたものと同じ感覚だ。

 

あれは、聖女なのだろうか?

 

「よろしくお願いします。俺は花咲千尋、この一団の...指揮役をやってます」

「そこはリーダーではないのですか?」

「はい、俺より偉い人も強い人もいるんで」

「では、私も自己紹介を。ジャンヌ、ジャンヌ・ダルクと申します」

 

メシアンの街で長い付き合いになるそのアウタースピリッツは、デオンが驚くほどの有名人だったようだ。

 


 

「サマナー、三咲から来た方々を連れてきました」

「ありがとうございます聖女様。では、下がっていて下さい。外壁の補修をやると自分で言い出したのですから、やり遂げなくてはなりませんよ」

「はい、少しでも皆さんの力になる為に頑張らせて頂きます」

 

そうして去っていくジャンヌさん。働き者だ。

 

「それで、どうしてあなたが三咲から来たのですか?バルドルのサマナー」

「むしろお前はなんで司祭になんかなってんだよ鉄砲玉。いや名前知らないからそう言ってるだけなんだけどさ」

「ミハエル・ヤジマだ。お前は?」

「花咲千尋、こっちはデオン」

「神野縁です」

「...真里亞と申します」

「浅田彼方よ、よろしくミハエルくん」

「浅田彼方...まさか、100人斬りの!」

「んー、もうちょっと多かったと思うよ」

 

マジか...と空気が固まる。いや、こういう人なんです所長は。

 

「なんにせよ、心強い。あなたがメシアに戻れるように天使さまに掛け合いましょう。あなたがメシアを追われた理由はどう考えても不当だ」

「そんなのは別に良いんだけどね。今更な話だし」

「それは残念です。が、この街に来た以上働いて貰いますよ」

「構わないよ、私は雇われのバスターだし」

「では、食事にしよう。この方々の分も食事を持ってきてくれ」

「ハッ!」

 

そうして自分たちは食事に招かれることとなった。

 

この街の地獄を見る、その晩餐へと。

 


 

「縁、話がある」

 

千尋さんから話を持ちかけられたのは、氷川を倒して2日後の夜。どうやら、受胎術式の解析が完了したのでその詳細を私に伝えに来たのだとか。

 

「それを、どうして私に?」

「お前には聖杯のカケラを取り込めるだけのキャパシティがある。受胎術式を起動させられるだけの性質もある。そして、核になる女神アラディアとの相性も良い。だから、本当に最悪の状況になった時に人類を絶滅から救えるのは、お前だけだ。今、お前のCOMPに術式のデータを送った。カケラが4つあれば、場所を選ばずに行ける。それだけは、覚えておいてくれ」

「...受胎って、結局何が起きるんですか?」

「...世界を殺して、範囲内にいた奴以外の全てをMAGに変換する。そしてそのあとで内部でコトワリと呼ばれる新しい世界の形を定義させる...ってんだけど、それに耐えられるのは人間の魂を持ってる奴だけだ。だから、お前と内田と転生者くらいしか生きていられない。本当の本当に最後の手段だ」

「...私は、使うつもりはありませんよ」

「俺だって使わせるつもりはねぇよ。死にたくねぇし。けど...」

 

「俺が失敗した時にも誰かには生きていて欲しいし、縁にはもっと生きていて欲しい。ぶっちゃけそれだけだ」

 

そんな事を言わないで欲しい。そう言ってしまうのは簡単だったが、やめた。それを伝えると、千尋さんはきっと背負いこんででしまうから。やっと見つけた千尋さんの逃げ道を、閉ざしてはいけない。

 

この人の心は強いけれど、無敵というわけではないのだから。

 

だから、今もきっと悩んで、苦しんでいる。この状況を受け入れるかどうかを。

 

このメシアの街は、とても上手く回っている。顔無し達は()()()()()()事で悪魔化する危険性をなくして、顔付きたちに尽くしている。

顔付きも、力を得る為に進んで力を得る為に()()()()()()()()()()

 

それは、アートマという印を刻む処理、それをすると専用の食料しか食べられなくなる代わりに悪魔に等しい力を簡単に手に入れる事ができる。

 

そう、教会の人達は言っていた。

 

そして、その食べているものの正体を知っているのは少ない。千尋さんと、所長さんと、私くらい。

 

彼らは男女の交わりにて宿るそれを、食料にしているのだ。

 

それは、人として産まれる筈だったものたち。

 

それを見てミハエルを殴り飛ばさなかったのは、少し大人になったからだろう。

 

このメシア教の治める地獄をなんとかしなくてはならない。それは、きっと変わらない私達の戦う理由。

 

グレイルウォー第5戦は、ここに静かに幕を開けた。




定時更新は難しい。そして、どこまで描写して良いのか分からないのがヤバイです。

ちなみにR18クッキングの仕方は、受精卵を取り出してMAGをぶち込んで膨らませる感じです。慣れてない人は焼いたりするけど、通な人は生で食べるヨ!

なんでこんな設定考えついたんだろ、俺

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
  • 平均8000字の中盛りコース
  • 平均1万2千文字の現在目指してたコース
  • 平均1万5千文字以上の特盛コース

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