YCSJの準備とかで執筆時間が取れてなかったんですよねー。まぁ結果は2連敗とかいうクソ雑魚ナメクジでしたが。
メシアンの街に来て、2日。この街は異変開始時から即座に対応を始めた為に、ヤタガラスは民主的に弾圧されて消滅し、ガイアは物理的に消滅しているという事がわかった。
堕天使を呼んでいた氷川のプランに便乗したのか利用したのかそれとも組んでいたのかは不明だが、関係がないというわけではないだろう。でなければ、異変の後に即応できる筈がない。
とはいえ氷川はもう故人。流石にここから第二第三の氷川が!...とはならないだろう...とはいえないのがこの魔境である。だってちょっと知識のあるだけの自分がそこそこに強くなってしまっているのだし(耐久面以外)
氷川から盗んだペルソナ、アーリマンの性能はソロモンより多少攻撃力というか泥の操作性能は高くなったが、切り札の呪術の性能に反して、耐久面はソロモンとどっこいかそれ以下なのだ。相変わらず霊核に掠ったら即死なスペランカーモードとかなー。
まぁ、基本は前に出るタイプではないから仕方ないのだけど。
さて、とりあえずは現状の再確認。
現在俺たちは、ネットワークが断たれている事を悪用し、司祭としての知識を持っている所長を中心に纏まっているメシアンの流れ者としてこの街に滞在させて貰っている。所長がカオスの権化だと知っているのは、ヤジマだけだろう。あの腐れイケメンはこの街での
その目的は、言わずもがなという奴だろう。
そんなわけで、今日も今日とてメシアでの仕事だ。警戒網や結界は敷いているが、やはりゲートパワーは高い為に強力な悪魔が街の外縁部に発生することが多いのだ。このあたりは高位天使が存在しているが故のことだろう。
ある程度自由に動ける信用を得る為に、カードだって切らせて貰った。もはや
天使を仲魔としているというのは好感度が高いようだ。作り方はアレだったのは気にしない方向で。
だが、やはり完全に上手くはいかないものだ。顔無しでかつ悪魔召喚士である自分は今のメシアンの中ではやはり異端であり、隔離される異物だった。
その為、自分は判断保留とされ、監視を置かれながら戦力として扱われている訳である。
とはいえ、こんなことを考えられるくらいには、ほどほどの任務なのだが。
具体的には、監視に付いている彼女が強すぎて自分はクー・フーリンの強化に集中するだけで十分終わる程度の任務だ。楽で良いね。
「お疲れ様です、千尋さん」
「お疲れ様ですジャンヌさん。やっぱジャンヌさんの支援は強いですね。未来予知の技能ですか?」
「...はい、そのようなものです。ですが、私の啓示にこんなに早く適応したのは千尋さん達が初めてですよ」
「いえ、まだ適応はしてはいませんよ。動きながら理由を考えてるだけです。頭の回転は早い方がなんで」
「そうなのですか...それは少し羨ましいですね。私はさほど頭が良いというわけではありませんでしたから」
「でも、ジャンヌさんは良いんですか?自分みたいな一番怪しいのの監視って事になっても」
「はい。今の教会には余剰戦力はありませんが、かといってあなたを無条件で自由にさせてしまうというのも面子が立たないそうなので、私の監視下できちんと働いたという証拠が欲しいのです。...まぁ、花咲さんはこの街に害を為す人ではないと分かっているのですが...」
「デビルサマナーってのはやっぱ異端ですからねー。平気で悪魔使うメシアンもいましたけれど」
「...ところでデオンさん、どうしてそこまで緊張しているのでしょうか?」
そうして、俺のカバーに回ってくれていたデオンに話が振られる。
デオンは、珍しく緊張していた。というか、萎縮していた。
そんなにこのジャンヌダルクという方は凄い人なのだろうか?歴史が途切れた現代人の身ではさほどピンとこないのだけれど。
「申し訳ありません、聖女様。生前よりあなたの話を聞いて育った為に、雲の上の方よように思えてしまうのです」
「...そういえば、今は私が上官でしたよね」
「...はい」
「では、デオンさん。私のことは是非ジャンヌとお呼び下さい。異界に蘇ってしまったとはいえ、同郷の方と話ができるのは嬉しいのです。...私が死んだ後のフランスの事も聞きたかったですから」
「...わかりました、ジャンヌ様。私の知る限りの全てを話しましょう」
そうしてデオンの巧みな話術により話されるフランスの事。それはデオンの生きてきた僅かな歴史の事でしかなかったが、鮮明に思い描くことが出来た。
そういえば、フランスの事を聞くのはこれが初めてだったかもしれない。
が、話に集中して当初の目的である警戒区域における悪魔のサーチアンドデストロイを疎かにしては本末転倒だ。話はほどほどに聞きながら、しっかりと探査をするしよう。
そうしてこの警戒区域を探査していると、人間の反応があった。さて、どうしたものか。悪魔なら迷う事はないのだが、生憎こちらは監視付きだ。勝手な真似はできない。
ので、もう一枚手札を切ろう。正直見せたくはなかったが、仕方がない。アクションを起こさないというのも何か違うのだし。
「サモン、カプソ」
「うん?サマナー何の用かな?今レトロゲームやってて忙しかったんだけれど」
「何やってたん?」
「真・魔界村」
「...よくアレに立ち向かえたな。セーブできないからしんどいんだよなー」
「うん、二週目回れって言われた時はぶっ殺してやろうかこの女って思ったよ。まぁ、残機もなくなるとこだったし丁度いいのかな?」
「じゃ、とりあえずポーズかけとくわ。幸いスーファミゲームの容量なんてカスみたいなもんだし、仕事が終わったら再開して良いぞ」
「んで、命令はなんだい?」
「今送った座標に行ってくれるか?一応白旗持って」
「白旗?地上から一人残らず殲滅するの?」
「バッフ・クランの常識を語るな。てかイデオン見てたのかい」
「面白かったよねーアレ。でも、なんであんなの持ってたの?」
「悪魔との交渉には案外サブカルが効くって昔サマナーネットで聞いてなー。とりあえず無料であった過去のアニメーション映画を拾ってみただけだよ。...まぁ、事務所のパソコンにはアニメ版全部保存してあるけど」
「嘘、帰ったら見せてよ」
「仕事終わったらなー」
そうしてカプソを送り出す。そんな様子を不思議に思っていたジャンヌさんと、また何かやったのかコイツ?という目で見ているデオンが対照的でちょっと面白かった。
「それでサマナー、何があったんだい?」
「妙な反応があったから偵察に行かせた。けど、まぁ戦いにはならないだろうよ」
「...悪魔ですか?」
「それを確かめるための偵察です。悪魔なら殺すってオーダーですよ?」
「それもそうですね。では、私たちは?」
「このまま事前に決めたルートを回っていきましょう。無駄な体力使って悪魔に殺された!じゃ本末転倒ですしね。無理せず、しかし手を抜かずって感じで」
「はい、わかりました。...花咲さんは優秀な指揮官なのですね」
「必要に迫られてやってたらなんか向いてたみたいです」
「珍しいね、サマナーがそこで謙遜をしないなんて」
「そういう気分の時もあるっての」
「気分なのか」
「それよか、フランスについて聞かせてくれよ。結構面白いんだ、俺にとっても」
そんな言葉を聞いて、ジャンヌさんは柔らかく笑みを浮かべた。
「仲が良いのですね、お二人は」
「まぁ、濃い時間を過ごしてきましたからね」
「本当にね」
そんな和やかな会話をしながら、ゆっくりと警戒しつつ歩みを進める。
そうして時折現れる悪魔を最小のコストで討伐しながら進んでいくと、カプソが例の人間の所に辿り着けたようだ。
ただ、入り口らしき入り口はなく、完全に隠し部屋のようだ。
『通気ダクトはどうだ?』
『網と、フィルターかな?そんなのでガッチリ固められてる。無理だね』
『じゃあ、声だけ出してくれ。なんか反応あるかもしれないし』
そうして、意識をカプソの方に集中させる。
「こちら、流れの悪魔召喚士花咲千尋!偶然そちらを発見した為に情報交換を求める!メシアの街から逃げない理由を聞きたい!」
ひぃ!っと声が聞こえる。驚かせてしまったようだ。
「わた、わたしはキョウカっす!外はどうなってるっすか!私、父さんにここに入れられて、でも出方は分からなくて!」
「...救助を求めるって解釈でいいか?」
「はいっす!」
「じゃあ、帰りに拾っていくから、もうしばらくそこに居てくれ!周囲の安全を確保したら迎えに来る!それまではコイツとおしゃべりしててくれや!」
「というわけで、カプソだよー。よろしくねー」
「...はい、よろしくお願いします、カプソさん!」
そんな会話の後に意識を戻す。さて、要救助者のことをどう説明するべきか...
「...はい!私はキョウカと申します!助けていただいて本当にありがとうございましたっす!」
「何、構わないよ。サマナーは十中八九罠だろうと思っていたのがまさか本当だったとかそういう話だろうからね」
「...まぁ、だいたい合ってるけどさ、それでも助かって良かったよ。...まぁ、部屋の開け方は分からなくて穴開けたのは悪いと思ったけどさ」
「それより、この部屋はキョウカさんのお父様が作られたと聞きました。名前を教えていただいてもよろしいですか?」
「父の名前は、シンと言います。ご存知ですか?」
「...サマナーネットで名前を見た事はないな。ジャンヌさん、避難民にそういう人は居ましたか?」
「いえ、私に心当たりはありませんね。アートマを刻む施術院なら記録が残っているかもしれません。帰ったら調べてみますね。...とはいえ、2年間もどうやって生き延びていたのですか?」
「えっと、パソコンのストレージって所に食事や水がいっぱいあったんです。あとは...ゲームとかずっとやってました」
「うん。...よく頑張ったな」
「...はい」
「うし、湿っぽいのは終わり!荷造りしちまおうぜ。服とかは...俺が立ち会ったらあかんやつだな。デオン、手伝ってやれ。俺は内部の機械の点検とかやってるわ。つーか発電機とか龍脈利用してねぇんじゃねぇか?どんだけブルジョワだよシンさんとやらは」
「普通のウチだったと思うんですけどねー...」
なんて会話をしながら様々なデータをパソコンを操作して見ていく。
どうやら、この部屋は完全なスタンドアローン状態であったようだ。メギドでくり抜いた壁の材質から考えて、MAGステルス機能持ちのコンポジットマテリアル。事務所の金庫と同じ材質だ。
だから、この部屋の。正確にはユニットバスを含めたこの2部屋の中で完全に完結していたのだ。その動力は溜め込まれた莫大な過ぎるMAG。あと2年は暮らしていけただろう。なんだこれ。総工費で兆とか動いてたんじゃないか?
「あ、そういえばカプソさんはどうしたんっすか?まだ見えませんけれど」
「あー、あいつ?今優しすぎるラスボスに爆笑してる」
「...まさかのゲーム中っすか⁉︎」
「ま、そんな訳だからちょっと待ってな」
なんかぐだぐだっとしつつも、キョウカさんの荷造りを終えて部屋を出る。そして、念のため部屋の壁を戻してストレージに入っている生コンクリで穴を埋めておく。悪魔にでも荒らされたら大変だからという理由と、ぶっちゃけここを第二の拠点にできたらなーという下心からである。まぁ、使わないに越した事はないのだけれど。
「じゃあ、帰ろうか。デオンはキョウカさんの護衛をメインに。俺はクー・フーリンを中心に、状況が不味かったら仲魔で対処する。ジャンヌさんは啓示での奇襲警戒を基本にして下さいな」
「...なかなか手札は見せてくれないのですね」
「まぁ、ヤジマとは殺し合った仲ですからね。全部信用してどうこう!っては思えないですよ流石に」
「...なんか花さん達の会話が殺伐としすぎてるんすけど、大丈夫なんすか?」
「ああ、大丈夫だ。サマナーはいざという時に切るカードを間違えない男だよ」
「...いざという時が来ないように立ち回るのが一番なんだけどなー」
「それは仕方がないのでは?あなたは優しい人のようですから」
「損をするタイプってか?知ってるよ畜生」
そんな悪態を吐くと、ジャンヌさんはなんだか優しい目で笑っていた。
もう会えない、誰かを思い浮かべているように。
「では、帰りま...花咲さん、敵です」
「サモン、クー・フーリン。ジャンヌさん、どっちから...ってのは見えました。クー・フーリン、北からだ。妖鳥の群れ、タイプはスパルナだな」
「人が出てきた⁉︎なんなんっすかコレ!」
「ヒトじゃねぇよ、悪魔だ悪魔。サマナー、連中は確か衝撃魔法効かねぇんだよな。援護がねぇとちと時間かかるぜ」
「そうか、なら増援だ。サモン、ドミニオン。強化した冥界波で一掃する。クー・フーリンは遊撃、ジャンヌさんは防衛で」
「また増えたぁ⁉︎」
そんな感じに新鮮なリアクションがびっくりだ。この世界にはまだこんなにスレていない子がいたのだなー。
「キキッ!ニンゲン、ニンゲン!餌だぁ!」
「まぁ、餌なのはお前らだけれどな。高濃度のMAGを抱え込んでいても所詮はミドルクラス程度!」
なんかおかしな事を言ったような気がするが、気にしない。
感覚が麻痺してるなーとは思うけれども。
そうして、クー・フーリンの大立ち回りと、ジャンヌさんの鉄壁の防御。そして、強化を重ねたドミニオンの冥界波により妖鳥スパルナの群れは殲滅できた。まぁ、MAGを溜め込めても出力もコントロールもおざなりなのだから当然ではあるのだが。
そんなものを異世界の風景を見ているかのようにぽやーんと見ていたキョウカさんは、平和だった頃の事を思い出させるなーと思う。
だが、平和な世界の常識のままでは生き残れる世界ではなくなっている。出来る限りのことを教えなくてはならないだろう。
それが、助けたなりの責任という奴だ。
「とまぁ、現在のこの世界の状況はこんなもんだ。だけど、メシア教の支配地域に居られたのは幸運だったよ。あそこは一応“人間を守る”って大義が残ってるからな」
「...薄々分かってたっすけど、終わってんですねこの世界」
「「終わって ねぇ/ません よ」」
不思議と、声が重なる。それはジャンヌさんの心のこもった声だった。
「キョウカさん、あなたは生きています。他にも生きている人たちは多く居ます。だから、世界はまだ続いているのです。世界は、人が織りなすものなのですから」
「それに、この世界はまだ続いてる。だから、現状もどうにかするよ。とりあえず世界は延命させるし、その先で生きていく術も確立させる。これでも俺は、ちょっと凄い魔術師なんだぜ?」
そんな言葉を言ってから、ジャンヌさんと目を合わせて苦笑する。やはり、意外と噛み合うようだ、この人とは。
「...なんか、凄いですね」
「まぁ、慣れてんだよ。...いや、慣れたくはなかったけどさ」
そんなことを話していると、門が見えてきた。
門番達は警戒態勢を取っていたが、ジャンヌさんの姿を見るとあからさまにほっとしているのがわかる。
流石、聖女と言った所だろう。
「ただいま帰りました。何か変わりはありませんでしたか?」
「はい!異常無しでありました!」
「それなら良かった。では、私たちはこれで。交代まではあと1時間ほどですが、気を抜かず、かといって気負い過ぎずに頑張って下さいね」
「はい!」
そんな話をしながら街の中に入る。
その後は、キョウカさんに施術をする為に施術院に通す事になる為に俺は外縁部でジャンヌさんと別れる。
内地に入る許可はまだ与えられていないのだ。面倒な決まり事だなー。
まぁそのおかげでこの街の姿はよく見えているのだが。
「じゃあデオン、宿に戻るか」
「そうだね。明日もまた任務だ。1日でも早く信用を得る為に頑張ろうか」
そう言って、街の宿。どう見ても元ラブホテルだったそこに入る。
どうやら今日もお盛んのようだ。薄い壁から喘ぎ声が聞こえる。今日のお隣さんは随分なテクニシャンのようだ。女性の声が喜びに満ちているのを感じる。
「あー、エロテクニシャンとか人生楽しんでんだろうなー畜生」
「サマナー、なんなら手管を教えようかい?」
「やめておく。なんか俺ばっか開発されて快楽堕ちしそうだし」
「...そんな風に見られていたのかい?私は」
「いや、適当言った」
「今日は随分と気を抜いているね」
「ま、出来ることはここ二日で終わらせちまったからな。ターミナルがあるのは内地だ。内地の調査は結界の関係で外からは無理。許可待ちだなー。...久々に内職でもするか」
「今日は何を作るんだい?」
「メディラマストーン。ここの連中はアートマのおかげで素の能力は強いけど、経験はそんなでもないからな。回復アイテムは需要あるだろうよ」
「なるほど」
そうしていると、ふと妙なMAGを感じた。
この街の人々とは違う、強力で凶々しいMAGだ。
「デオン、出るぞ」
「了解だ。しかし、内地への侵入は禁じられているのだろう?どうするんだい?」
「外から見る。出来ることはないだろうけど、何もしないのは多分違うからな」
そうして内地を守る二段目の城壁のちょっと外へと駆けて、反発《ジャンプ》の術式で足場を作り城壁の上から内地を見る。
どうやら、内地に悪魔が出てきたようだ。
白い体に赤いライン、腕に二本のブレードを携えた鬼のような姿。しかし、その姿にはどこか女性的なものを感じる。
...このハイエストクラスの天使が支配する街で勝手に悪魔が現れた可能性は、まぁ低いだろう。つまり人為的なもの。
だが、周りの人達に危害を加えようとする時に、ギリギリで動きを止めている。テロではないようだ。ならなんだろうか?
...まぁ、そんなものは解剖して拷問して調べていけばいいだろう。
そんなわけで、MAG欠乏症っぽいその悪魔に対してMAGの道を作る。
それの匂いに惹きつけられて、その悪魔は一度の跳躍で城壁を越えて来た。これは街の中でやり合うには面倒が多いだろう。被害者が出たら大変だ。
「サモン、ペガサス!アンド...縛鎖!こっちだ白悪魔!」
ペガサスに乗ることで白いのの攻撃から逃れ、ついでに逃がさないように鎖を絡める。奴には飛行能力がない為に、これならば安全に外まで連れて行けるだろう。
だが、あの白鬼はブレス系の攻撃が使えるようだ。上手く両腕を縛った為に鎖が斬り裂かれるという事はないだろうが、込められたMAGの量からいってかなりの威力だ。
だが、こういう時は便利な盾が自分にはある。
放たれるアクアブレスとそれを受け止める為に召喚したバルドルが衝突する。
「デオン、鎖を離すな!」
「分かっている!」
「俺には何も無しかクソサマナー!」
「なんか頑張れ!」
「適当か!」
そんな会話をしながらも走り続けてくれたペガサスのおかげで、どうにか外城壁を越えられた。ここからが戦いの始まりだ。
「ペガサス、上空で加速しててくれ!サモン、ドミニオン!デオンを中心に近接でアナライズ完了まで粘れ!そこから先はノリで動く!」
「了解だ!」
駆けるデオンと、鎖を破壊した白鬼。その二人の剣がぶつかり合う。
白鬼はブレードを力任せに振るっていたが、デオンにはそれは通じない。だが、デオンの剣は力場を抜いてはいるものの硬い皮膚に弾かれて致命傷には至らない。
そして、恐るべきはその獣性だ。完全にタガの外れたコイツは両腕のブレードだけでなく噛みつきでの攻撃すら行い始めている。なんとも食欲に忠実な奴だ。
「デオン、どうだ⁉︎」
「殺すならどうとでも!だかそれが目的ではないのだろう!」
「...しゃーなし、飯を食わせるか!展開、無尽俵!お米を食らえぇ!」
⁉︎って感じの反応でデオンを喰らおうと開いた大口に米をぶち込む。これなら食欲とMAG欠乏も同時にどうにか出来ると踏んだからだ。
だが、コイツはその米を受け付けないようだ。なんとか食べていた分も吐き出してしまっている。
「ハァ、ハァ...ここは?」
「街の外縁部。残念だったな、街の中に入れなくて」
「待って、下さい、花咲さん...なんか、お腹空いちゃって」
「米吐いたじゃねぇかお前...つーか、お前どうしたよ。随分なイメチェンだな、キョウカ」
「...サマナー、あの食事はどうだろうか?私たちは食していなかったが、高密度のMAGなのだろう?アレは」
「ま、ストレージの肥やしにするよかマシか。...もう、育てることはできないもんな」
そうして、暴れ始めるその白鬼キョウカの口にデオンが食事をたたき込む。
それを咀嚼すると、ようやく飢えが収まったのか悪魔の姿から人の姿へと戻っていった。
「んで、どうしたん?」
「...サマナー、移動しながらの方が良さそうだ。外に連れ出したのは見られているのだから、追手が来かねない」
「だな。キョウカ、とりあえず適当な所に隠れるぞ」
「...わかんないっすよ!何がなんなんすか!私の体があんな化け物になって!人を、食べたいって思っちゃって!意味わかんないっす!こんなんなら、私はあそこで一人で暮らしてた方がマシだったっすよ!」
「...それでも選んだのはお前だ。だから、後悔はしてもいい。けど、前を見ないで蹲るのだけはやめてくれ。それは、何にもならないから」
その言葉に、ひとまず納得したのかキョウカは黙った。
動くのは辛そうなので、デオンに抱きかかえさせてまだ形を保っているデパートへと滑り込む。
戦闘エリアには消滅パターンに似た波形を起こす術式は置いておいたので、まぁ誤魔化せるだろう。
「私は、顔無しって奴らしくて。危ないから手術するって聞いたっす。なんか、エンジェルハイロウのアートマが適合するだろうって」
「天使ってか鬼だったがな。すまん、アートマが刻まれたのは何処だ?」
「首の裏っす」
「どれどれ...うん、首の裏にはないな」
「そうなんすか...」
「ただ、背中になんかあるのがちょっと見えるな。デオン、確認してくれ」
「任された。失礼するよキョウカ」
アートマとはやはり悪魔変身のトリガーだったのか。断っておいてよかった。もし処置されてたらアーマリンの馴染んでいない俺はパーンとなる所だったなうん。
そんな事を、衣擦れの音を聞き流しながら考える。
「見えたよサマナー。天使の羽と悪魔の羽の混ざり物、といった所かな。魔術的解釈はあるかい?」
「まぁ、堕天使だろうな。デオン、触ってくれ。一応データ取っておく」
「なんかそこはかとない背徳感が...」
「安心してくれ、邪なことはしないよ。騎士の誇りにかけたっていい」
そうしてCOMPに流れ込む測定データ。
データが少ない為まだなんとも言えないが、多分このアートマはメシアンの街で付けられているアートマとは別物だ。
なんというか、荒削りなのだ。
「キョウカ、飢えが起き始めたのはアートマをぶち込まれてからだよな?」
「はい」
「じゃあコレ間違いなくメシアンの研究者のミスだな。休眠状態ないい所を無理に起こしたんだろ。...となると、面倒になったな。街にはこのまま戻れないし、かといってあの隠れ家に戻る訳にもいかねぇしな」
「...どうしたらいいっすか?私は」
「アレ食わないと他に飢えから逃れる術はないから、街から離れる訳にはいかんしな...まぁ、とりあえずジャンヌさんに相談してみる。このデパートの管理人室に結界張っておくからとりあえずそこでゆっくりしててくれ。念のため仲魔を置いておく。サモン、カプソ、メドゥーサ」
「...やっほー、久しぶりー」
「カプソさん⁉︎猫だったんすか⁉︎」
「悪魔だけどねー」
「私とは初対面ですね。よろしくお願いします、キョウカ」
「ど、どうもっす」
「つーわけで、まぁしばらくのんびりしてろ。お前の体のアートマは間違いなくめちゃくちゃ重要な研究成果だ。メシアンもそれがわからない訳はねぇんだから、それなりの待遇は期待できるさ」
そんな事を言い残して、デパートから去っていく。
状況はこんがらがっているが、まぁ何とかなるだろう。
ペガサスに乗ってテンプルナイト達の頭上からスタッと着地する。デオンが。
相変わらず絵になる奴だなーとペガサスの上から見る。
「私はサマナー、花咲千尋の仲魔だ。街での異変に気付き悪魔を誘導して戦闘を行った所だよ。ちなみに先ほどまでは、周囲の索敵をしていた。質問はあるかい?」
「...どうして周囲の索敵を?」
「念のためさ。あの悪魔がどうして街の中に現れたにせよ、目指したのが中央ではなく外というのは疑問を抱くべきだろう?街の中に現れた方法がこちらの理外のものならば、戦闘エリアにしたここも実は私達が誘導されていたという線は否定しきれない。故に、周囲の悪魔やサマナーの有無を確認していたのさ」
「...随分と用心深いな。だが、悪魔に交渉を任せて自分はその天馬に隠れている事から言ってその性格に偽りはないだろう。異端らしい醜悪さだ」
「これでも私はサマナーに対して忠誠を誓っている。あまり言葉が過ぎるなら、その時はわかっているね?」
「...忠犬か?」
「さてね、狂犬かもしれないよ?」
「どうでもいい事だ。それで、死体は何処だ?」
「それを教える意味はあるのかい?」
「...庇い立てする気か?」
「私は意味を聞いているだけだけどね」
「...チッ、話にならんな。そこのサマナー!降りて来い!」
「え、やだ」
「...は?」
あ、やべつい声出しちゃった。
「やだとはなんだやだとは!子供か!」
「まだ17だよ!子供で悪いか!この世界じゃ悪いよな!ごめん!」
「サマナー、ボロを出すのが早すぎないかい?というか謝るのかいそこで」
「いや、だって守るべき子供ってコミュニティ的には邪魔じゃん。短期的にしか考えないならだけども」
「...気が抜けた。貴様のような者がヤジマの命で何らかの悪事に関与しているとも思えん。引くぞ」
そんな掛け声の元に一糸乱れぬ統率で街へと帰還していくテンプルナイト達。...アレが思考停止ではなく一人一人考えを持った上での最適解だというのだから恐ろしい。いくら仲魔に恵まれている自分だとしても、彼らに敵とみなされたら3日と保たないだろう。
弱者の戦いを強者がする。だからテンプルナイトは恐れられているのだ。
「とりあえず、ジャンヌさんに連絡取りたいが明日になるか。内地への侵入は出来ないし、どうせ明日の任務で一緒になるんだし」
「そうだね、無理をしたところでどうにかなるものでもない。私たちは異端なのだからね」
「だなー」
そうして翌日、壁の薄いラブホテルでの暮らしにもちょっと慣れてきた時に、その急報は飛び込んできた。
先日自分たちを詰問してきたテンプルナイト達、その長であった男が喰らい殺されたのだ。白い鬼の悪魔に。
この表面上は完璧に統治されているこの街に、良くも悪くも風が吹いたのだろう。
どうにも、暗闘が始まりそうな気配だ。
どうでもいいですが、自分は小説版アバチュは五代ゆうさんのクォンタムデビルサーガが好きです。あれは良いものだ。というダイレクトマーケティング。
週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。
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4000字〜6000字のお手軽コース
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平均8000字の中盛りコース
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平均1万2千文字の現在目指してたコース
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平均1万5千文字以上の特盛コース