白百合の騎士と悪魔召喚士   作:気力♪

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毎週日曜投稿とか言ってた癖に水曜日に投稿する奴がいるらしい。
一度崩れたペースってなかなか戻りませんねー...


不死身の英雄

「行くぜ」

「できればこのまま帰って欲しいがな!ソロモン、高等悪魔召喚魔法(サバトマダイン)!来い、ベル・デル!」

「しゃあ!ぶち殺す!」

「短期は損気と言うらしいがね」

 

瞬間、神速の刺突が俺たちを襲うが、ベル・デルが体を張って止める。そしてそのタイミングでデオンが緑髪の首を狙い剣を振るうが

 

その剣は、皮膚に傷一つ付けることなく止まった。

 

「...そういうタイプかよ不死身マン!ハイ・アナライズをかける!時間稼げ!サモン、アテルイ、カラドリウス!」

「...遅い!」

「私がいるのをお忘れですか?悪魔」

 

瞬間俺を狙って放たれる氷結魔法の嵐を、ジャンヌさんがその旗と力場で弾き飛ばす。

 

だが、外れた氷結魔法が軌道を鋭角に変えて俺に襲いに来る。あの鬼のような見た目の割に、術に長けているようだ。

 

だが、召喚速度にはちょっと自信があるのだ。

 

...まぁ、ジャンヌさんが直撃を弾いてくれなかったら間に合わなかったのだけれども。

 

そうして、俺を襲う本命の氷槍をアテルイが砕く。

 

だが、防がれるのをわかっていたかのようにヴァルナの方も攻めてくる。

 

それに対してジャンヌさんが格闘戦を始めようとするが、少し嫌な予感がする。

こういう予感は信じるに限る。直感とは、考えが纏まらないままに答えを出す脳の機能なのだから。

 

「追加だ!サモン、メドゥーサ!シェムハザ!ジャンヌさんの援護を!」

「...あまり気が進みませんが、行くとしましょう」

「数奇な縁もあるものですね、全く」

 

そうして、ジャンヌさんに襲いかかるヴァルナに対して電撃と火炎魔法が放たれる。

 

そして、それは間違いなくヴァルナに当たったが、力場を抜く事は出来なかった。

この短期間に力場の弱点属性を変えてくるとかちょっとやめてくれこの野郎。

 

だが、魔法受ける前に一瞬止まったのが気になる。あの一瞬で何かをしたのだろうか。

 

障壁系魔法の発動はソロモンで感知できるはずなのだが...

 

「...そこ!」

 

などと思考を回していると、ジャンヌさんとヴァルナの格闘戦が始まる。

両手のブレードを旗で弾いているようだが、力場による力の減衰が見えない。ジャンヌさんの力場は強いというのにだ。

 

そういう振り方をしているようには見えないが、どういう事だ?

 

「サマナー!こっちにも援護を!この男、強い!」

「お前さんもな!そっちの悪魔は大した事ねぇがよ!」

「んなこた俺に傷を付けてから言いやがれ!」

「お前も俺に傷をつけられてねぇがな!」

「ベル・デル!挑発に乗るな!こちらの謎が解かれる前に彼の謎を暴かなければ死ぬのは私たちだ!」

「わかってる!つってもこっちに謎解きの札はねぇぞ!」

 

「待たせた!状況は!」

「首、胸、手首は無敵だ!だが衝撃は通る!」

「メギドでも傷つかねぇ!逸話防御確定だ!」

「...なら、まず足を止める!縛鎖、起動!」

「遅ぇ!その程度のもんで止まるかよ!」

 

ストレージから放たれる鎖。だが、コンポジット素材である強力なその鎖は、しかしあっさりと槍で払われて砕け散った。

 

拘束は効果あり。としたら、選手交代が良いだろう。

 

「ベル・デル!ジャンヌさんの方に援護入れ!メドゥーサ、目をこいつに!」

「おいおい、させるかよ!」

「そのカバーをするのは私さ」

 

瞬間、踏み込んでくる緑髪。しかしその刺突はデオンの剣に弾かれ、次の衝撃で吹き飛ばす太刀により後方へと吹き飛ばされた。

 

「だがサマナー、少し危なくなかったかい?」

「いや、勝算はあった。どうにもあの緑髪は遠隔攻撃や範囲攻撃を使ってない。チャージが要るのか、持ってないのか、弾数があるのか。なんにせよチャージが要るなら防げるし、チャージがないならお前が防げる」

「弾数があったのなら?」

「物反鏡は起動待機してる」

「なるほど、強かだ」

「...面倒なタイプだな」

「ありがとうございます」

「褒めて...んだな、敵だし」

「ですねー。所で名乗りとかしてくれません?緑髪とか地味に言いにくいので」

「なら、ライダーとでも呼びな。名乗りたいとこなんだが、サーフの奴が煩くてな」

「ならライダー。話に付き合ったくれてありがとな!」

「うわ面倒な奴だな本当!」

 

起動させたストーンで周囲に起こした重力魔法で一気に拘束しようとするも、その力を槍で払われた。退魔の力というよりも、単に力技だろう。

やはり、拘束は効果あり。

 

「メドゥーサ!」

「ええ、石化の魔眼(ペトラアイ)

「...用意しとくもんだな!ディストーン!」

 

そして、治った瞬間に神速の踏み込みから放たれる刺突。

デオンのカバーリングすら抜けてメドゥーサを一撃で仕留めてみせた。速くて、硬くて、強い。どっかしら抜けててくれやマジに。

 

「さぁさぁこれからだ!全力で来い!」

「ならばこのシュバリエ・デオン!騎士として戦わせて貰おう!」

 

そうして始まる異次元の剣戟、デオンはスピードで劣る。槍と剣の関係上リーチでも劣る、そしてなにより、傷つける手段を持たない。

どう考えても不利なこの状況、なのにその名乗りを上げた理由はシンプルだ。

そして、それを当然のように受け入れてしまっている事に内心苦笑する。大切なことなのだから、感謝の気持ちは忘れてはならないのに。

 

『サマナー、あとどれくらいかかる?』

『すまんが謎解きのとっかかりがない。ハイ・アナライズが終わるまではとりあえず耐えてくれ。生きて耐えてくれるだけで良い』

『つまり反撃に使う体力も残しておけってことだね?』

『そんな事できる相手か?余力とか考えるな、全力で良い』

『冗談さ。まぁ彼の槍はだんだんわかってきた。かの大英雄と似通う所があったから、その術理は掴みやすかったよ』

 

そうして突き出された槍を掴んで、そのまま力を利用しつつ自身の怪力を用いてでヴァルナに投げ飛ばすデオン。

 

あれほどのスピードの男がそのスピードと力を利用されてヴァルナと衝突した。まるで手品を見ているようだ。しかも突き出されていたライダーの槍がなんとデオンの手元に残っている。

 

「狙ったか?」

「牽制になればと思ったが、まさか当たるとは思わなかったよ」

 

「どけ、ライダー」

「悪い悪い!完全にしてやられたな!」

「さて、この槍ならばあの体も傷つけられるかな?」

「試してみたいが、やらせてくれないだろうな。デオン、体勢崩すなよ」

「...なるほど、手元に戻る力か」

 

そう判断したデオンは、その力に抗いながら地面深くへと槍を突き刺し埋めた。

 

ライダーの「マジかコイツ⁉︎」という目がちょっと面白い。まぁ俺も驚いているのだが。

 

「...仕方ねぇ、サーフ!()()!」

「了解だ」

「させるとでも...ッ⁉︎」

 

ライダーが指笛を鳴らした瞬間、発現する超MAGの奔流。

これが、この男のとっておき、ライダーと呼ばれるに至る理由なのだろう。

 

「シェムハザ!ベル・デルに支援!ベル・デル、死ぬ気で防ぐぞ!」

 

「向こうの技の射角が最悪だ!まともに受けたら城壁が吹き飛ぶ!死ぬ気でMAGをチャージしろ!」

「ハッ、守るものが多いのは辛いなオイ!」

「あの偽りの街が、守るべきものだと?」

「ああ、そこに人が居るんだから、そりゃ守りたいって思うだろ。普通にさ」

「そうか...なら、防いで見せろ! 疾風怒濤の不死戦車(トロイアス・トラゴーイディア)!」

「遠隔術式構築完了、MAG解放!」

「加速補助術式、展開。では、どうぞ」

「これが、全開だぁ!」

 

瞬間、駆け出す三頭の馬に引かれる戦車。それの出足を止めるようにMAGブーストで加速して万魔の一撃を叩き込むベル・デル。

 

その一撃は戦車を押しとどめたが、しかしヴァルナにより放たれた超高密度のアイスブレスにより直接戦車に当たることはなかった。

 

そして、込められたMAG量の限界で落ちていくベル・デルの出力と、前に進み始めることで力を取り戻していく戦車。

 

拮抗していたのは3秒ほど、それから徐々にベル・デルは押されていき、そしてMAGが切れることでブースターの推力が失われ、戦車の疾走に飲まれた。

 

「まだ終わらない!シェムハザ!」

 

「「高位万能属性魔法(メギドラ)!」」

 

ソロモンを介して放たれる俺の(貧弱な)光と、シェムハザの放つ強力な光が合わさりその力を重ねて威力を増す。

しかしそんなものは今の少しスピードに乗った戦車には関係のないことで、光の奔流を突っ切ってその戦車は現れた。

 

...今ので、ガス欠だ。生命燃焼術式でMAGを補うにしても、数瞬時間は取られる。そのうちに俺たちはゴミ屑のように吹き飛ぶだろう。

 

とはいえ、勝算がなかった訳などでは決してない。

自分は時間を稼いだのだ。全力で。

 

彼女が旗に力と祈りを込めるだけの時間を。

使ってくれるかは正直運だった。彼女が俺たちを謀殺しようとする天使の刺客なのかもしれないのだから。

けれど、それでも信じたのはそれしかなかったからなどではなく

 

そうしたいと、心が言ったからだろう。

 

「我が旗よ、我が同胞を守りたまえ... 我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)!」

 

そうして衝突するジャンヌさんの異次元レベルの障壁とライダーのチャリオット。

 

その守りは堅く、そしてこの後ろにいる自分たちに温かい力が流れ込んでくるのがわかる。

 

だが、戦車の突撃はそれでもなお止まりきらなかった。寸前で僅かに軌道を逸らし、障壁との正面衝突を避けたのだ。そうして障壁に擦るように空に上がり、そのまま速度を高めての二段目の突撃をするつもりのようだ。その馬首がこちらに向いたとき、待ちに待った声が聞こえた。

 

『サマナー、間に合ったさ』

『サンキュ、カラドリウス』

 

そうして、その飛んでいる戦車に疾風の如く襲いかかる影が一人。

 

「お待たせ、千尋くん」

 

そんな言葉の裏に隠しきれない闘志と殺意を込めるその人は、カラドリウスに持たせた信号弾を確認して城壁を文字通り飛んで越えた我らが所長、浅田彼方である。

 

「新手か!」

 

神速で走っている戦車に正面から突っ込む所長、あれは極大クラスの魔法を推進力に使っているのだろう。無茶をする。

 

そうして距離が縮まり、所長の剣がライダーに届く寸前にまたしても放たれるアイスブレス。

 

だが、所長はそれがわかっていたかのように剣に込められている疾風魔法を解放して体と剣の軌道を変更する。

 

そして、その剣は切り裂いた。

 

馬でもライダーでもない、戦車と馬を繋ぐシャフトをだ。

 

「マジかこの女⁉︎」

「これで、落ちろ!」

 

そして、続く二の太刀で馬から切り離されて飛ぶ力を失った戦車対して風を纏った一撃を叩きつける所長。

 

それにより戦車は大地に叩きつけられ、完全に破壊された。

...叩きつけられる寸前に乗っていた二人はしっかりと逃げ出していたのだが。

 

「流石に今ので死んでくれないか...」

「残念だったか?」

「そんなの、顔を見ればわかるでしょ?」

「違いねえ。...女にしておくには惜しいな、本当に」

「えー、それはちょっと傷つくよ?色男」

「じゃあ、続きと行こうか!」

「待てライダー、下がるぞ」

 

所長と緑髪が殺し合い宇宙を始めようとするその寸前で、ヴァルナがその一足目を止めた。

 

「...あー、なるほどな。こりゃ引いたほうが良い。流石にまだコイツら全体と正面からはやり合えねぇからな」

「...逃すとでも?」

「逃すさ。姐さん、頼む!」

 

瞬間、こちらを正確に狙ってくる矢の雨が降ってくる。

ソロモンの感知距離外からの曲射、正直信じられない絶技だ。おそらくコイツもアウタースピリッツなのだろう。

 

「前に進めば矢の雨か...」

「...まぁ姐さんが()()()に協力してくれるかは微妙だったんだけどな。じゃあな、女。次はケリが着くまでやりたいもんだ」

「所長、敵がこの二体だけじゃないってわかった以上深追いは危険です。集団があるのなら、スタンドプレイをしてるコイツらをメシアの戦力を削る為に利用するでしょうし」

 

「...わかったよ、次はその首切り落としてあげるから楽しみにしててね」

「何、俺の殺し方を暴けたらの話だけどな」

 

そして、一瞬で駆けて消えるライダー。そして転移ストーンで消えるヴァルナ。

 

ヴァルナの方は追えなくはないが、危険だろう。転移マーキングしたエリアにはたっぷりトラップをしておくのは基本だからだ。

 

「...ヴァルナ、感知距離から完全に離れました。最後は例のエリアに向かってました。やっぱあの二人は西洋者ってのの仲間なんでしょうね」

「...正直、助かりました。浅田彼方、貴女に感謝を」

「いーよ別に。ただ、私にあの色男は殺させてね?アイツとは楽しそうだし」

「...所長」

「いーじゃん、人生楽しんだもん勝ちだよ?」

 

相変わらず所長は所長である。ちょっとは大人しくしてて欲しいんだけどなー。

 

そして、一応待機中だったという所長は飛んで帰っていった。信号弾を見てすぐに飛んできたから、その釈明もしないといけないとのこと。

 

釈明(物理)にならないと良いなぁ...

 


 

そうして数分後、やってきたメシアの本隊にCOMPで録画していたヴァルナとライダーと謎の援護射撃の映像データを送る。

実力の割に機械の操作にワタワタしていたのが少し気になったが、この決死の戦闘はしっかりと上に伝えると約束してくれた。街を守ってくれた事もだと。

 

珍しいくらいの良い人だ。こういう所でのお決まりとしては、『異端を逃す失態を犯すなど言語道断!』なものだと思うのだが...

 

『サマナー、彼らも人だ。そればかりではないだろうさ』

『だなー。巡り合わせに感謝、と』

 

「じゃあすいません、仲魔の回復をするのでその間だけ守ってくれても良いですか?」

「構わねぇよ花咲千尋。サマナーにとって仲魔は生命線だってのは聞いてるからな。だが、街から見える所ではあまり召喚をしてくれるなよ?悪魔というだけで恐怖してしまう民衆も多い。だが、あれほどの激戦の後なんだから俺たちに後任を任せて休んだところで文句は言われねぇだろうに、どうしてそこまで頑張んだ?」

「...いい加減内地の仲間と合流したいんで、教会からの信頼がちょっとでも欲しいんですよ」

「そういえばお前は聖女エニシの同行者だったな。確かにこの世界を生き抜いてきた仲間と離れているのは辛かろうな」

「...いや、どっちかと言うとこういう街では目を離していたくない人が約1名いるからなんですけどねー。一体どんな問題が出てくるのだか分からなくて怖いんですよ」

「...愉快なもんだな。...そういや遅ればせながら自己紹介だ。

 

「俺はトドロキ、オーガメイスのトドロキだ。一応西側警備隊の大将をやらせて貰ってる」

「なら改めて、自分は花咲千尋。アートマはないんでただの花咲千尋です。こっちは仲魔のデオンです」

「そうか、よろしく頼むぜ花咲、デオン。だがよぉ、人と会話しながらできるようなもんなのか?悪魔の蘇生って」

「まぁ、地返しの玉と時間があれば結構簡単ですからね。強い悪魔ほど蘇生してからすぐに動く!ってのはできないですけれど」

「...サナマーの相手をするときは、雑魚は程々にして強い悪魔からぶっ殺せって事か?」

「はい。蘇生させる隙を与えないってんなら雑魚から殺すのはアリですけど、その辺は時と場合によりますねー」

 

などと話し合いながら、メドゥーサの蘇生をする。

メドゥーサは蘇生したてでぐったりしているが、その辺は時間が解決してくれるだろう。

 

「すみませんサマナー、不覚を取りました」

「ありゃアイツが強すぎたんだよ。ノーカンノーカン。むしろこれまでの頑張りを考えたらプラスまであるわ」

 

その言葉にふふっと笑うメドゥーサ。やっぱり美人は笑顔に限る。うん。

 

「では、私はCOMPに戻らせて頂きますね」

「おー、ゆっくり休みな」

 

そうして、送還(リターン)するメドゥーサ。それを見て、「うし、お前ら撤収!」と門の中へと戻っていく本隊の皆さん。

 

...改めて確認してみると、訓練を受けているような感じがしない。行軍の際のキビキビさというか、あのピシっとした感じがしないのだ。

 

テンプルナイトの総本山なこの新潟で、どうしてそうなっているのかは疑問と言えば疑問だが、それはそのうちに調べておけばいいだろう。

 

今は、ガス欠になった体にMAGをしっかり巡らせるのが先決だ。

 

COMPにMAGはまだある。だがどうしてガス欠など起こしてしまったのかという話だが、それは物凄くシンプルな理由だったりする。

 

瞬間的にMAGを使いすぎたのだ。それも補助術式もなしに。

 

便利だからと自前の出力回路(サーキット)に合わせて術式をチューニングした事で即応性は増したのだが、自分のMAG出力限界を考えるとそれだけにするというのも危ないのかもしれない。タンクにどれだけMAGがあっても、回路という蛇口は一つなのだ。回路ができる前はタンクの上の蓋を開けて結構な力技で使っていたようなものだから理解できていなかったのだろう。だから、器である体のMAGまでも使ってしまったのだ。

死ぬ前に気付けてよかったな、俺。

 

「んー、デオン。体の調子はどうだ?」

「問題はないね。大きなダメージは負っていない。とはいえ、面倒な相手だったよ。...サマナーのような言い方になってしまうが、正直どこかで勝手にのたれ死んで欲しいね」

「騎士の言うことかそれ?」

「今は悪魔だよ、私は」

 

そうしてその後は襲撃してくる悪魔も無く、無事に任務を終了することができた。だが、交代要員の「お前マジで助けに来てくれよ!あんなのとやり合うなんて御免だからな!今度こそ本当に死ぬわ!」という物凄く情けなくかつ切実な声を聞いてしまったので休憩しながらもしっかりと事件に即応できるようにしよう。

 

「...そういや、この時間帯の街歩くのって初めてだなー。...なんか女性の方が多いですね。こっちだと、病院か?」

「はい、配給の関係ですね。女性の方々の身体の一部を使って天使様の力を高める儀式をしているのだと聞いています。なので、それと交換で人工肉を貰って帰るというのがこの街に住んでいる方々の暮らしなのです」

「...すまんが、俺普通にご飯もらってんだけど」

「それはそうです。命をかけて戦う者には相応の対価が払われるものですから」

「まぁ、女じゃないから構わないんだけどさ。関係ないし」

 

そんな事を口にして歩いていると、後ろから声をかけられた。大人の女な気配がする。

 

「そうでもないわよ?坊や」

 

なんかエロい人が唐突に後ろから話かけてきた。その服装は扇情的すぎやしないだろうか?乳首が見えそうで、見えないッ!

 

『サマナー、邪な考えは隠した方がいい。手玉にとられてしまうよ』

『だなー』

 

「あなたは?」

「私はメリダ。まぁこの街に住んで長い女だよ」

「...そのような服で出歩いて大丈夫なのかい?」

「いいじゃないのさ、このくらい。天使様に怒られた事もないよ私は」

「それで、俺にも関係なくはないってのはどういう事です?」

「...配給を貰える量の話さ。その日の体調によって取れる量が違うとかで、その分に応じた肉しか貰えないんだけど...その評価を高くする裏技みたいなのがあるのさ」

「健康トレーニング的な話ですか?」

「確かに体力は使うね!」

 

何が面白いのか、俺の背中をバンバン叩くメリダさん。近い近い。あとなんか大人の色気がする!

まぁ、顔無しなのが全てを台無しにしているのだが。

 

そうして、耳に口を近づけてメリダさんはこう言った。

 

「セックスさ。ヤった次の日だと、配給量がいつもより多いんだよ」

「...それはなんとも...」

 

この街に来て最初に出された食事の事を思い出せば理由は分かってしまう。胸糞悪い事この上ないが、今は平静に。

 

「てか、それだと男はどうやって飯食ってんです?」

「そりゃ働いてだよ。天使様達に与えられたアートマのお陰で皆強くなったからねぇ。警備隊に配属されたり、城壁の修繕をしたりと色々だよ。まぁ、それじゃ微妙に足りないってんだから女と男で組んで配給を増やすって事をしてんのさ」

 

「...淫姦を勧める街、か。主は何を思っているのだろうね」

「さぁな。とっくの昔に死んでると思うぜ?...まぁ、生き返って世界を救ってくれたらいいなーとは思うけれども」

 

「花咲さん、デオンさん、どうしたのですか?」

「あら聖女様、あんたの連れだったの?」

「メリダさん、またそんな格好をして。男の人が居ないわけではないんですよ?」

「はいはい。じゃあ私先にいくわねー。また今度」

「全くもう...花咲さん、変な事を言われませんでしたか?」

「この街のシステムをちょっと」

「全くメリダさんは...一応言っておきますが、それを言い訳にして淫らな行為に及んだら分かっていますよね?」

「分かってますよ、監視対象として大人しくしますって」

 

などと言いつつ、どうにか探れないかを考える。

潜入任務に適しているカプソは、今キョウカの元にいる。最低限の護衛だ。

とすれば、どうするべきだろうか...?

 

『サマナー、少し離れていいかい?』

『どした?』

『取り出された人の子供になるはずだった者達...受精卵がどのように使われているのかを少し探りたい』

『駄目だ。俺とお前はセットで監視されてる。お前が離れればそれはこの街に害をなす行動として見られてもおかしくはないからな』

 

『だから、ジャンヌさんに頼んでみよう』

『天使の手の者なのにかい?』

『それも含めて知りたいんだよ。ジャンヌさんがどう扱われてるのか、どこまで知らされているのか、そういった所から味方を増やせる切り口ができるかも知れない』

 

『ターミナルの件もあるし、なによりキョウカをどっかに預けないと駄目だろ。カプソの話だと、そう長くは保たないっぽいぜ』

『...了解だ』

 

「ジャンヌさん、ちょっと良いです?」

「花咲さん、どうしました?」

「あの配給システム、ちょっと気になるんです。何も知らないままここに居続けるのはちょっとアレかなーなんて思うくらいには、あの肉は魅力的過ぎる。けれど、そういうのには得てして何か落とし穴があるものです。ここでもあの野郎が絡んでたら泣きますよ俺」

「あの野郎とは?」

「...話して知られるとその分強くなるタイプの悪魔です。前に会った端末は封印されてましたけど、アイツだけじゃないって話なんで」

「...なるほど、ではこのような往来で話はできませんね。ですが調べた所で悪い所が出てくるとは思えませんよ?この配給システムはラファエル様直々の管理ですから」

「それならそれでいいんですよ。転ばぬ先の杖って奴ですから」

「では、どのように調べるのですか?」

「輸送ルートですね。各地にある配給施設内部で肉を作ってる訳じゃないでしょうから、どっかに工場があると思います。だから施設から運ばれるそれを追いかけます」

「どのように?」

「俺のペルソナなら、意識を集中させれば対象を感知し続ける事は可能です。メリダさんの体のMAGは覚えたんで、それを追いかければ辿り着けるかと」

「ならば、どうして私に話したのですか?」

「どこまで行くのか分からないんで、配給施設の近くに居たいんですよ。感知距離は無限ってわけじゃないですから」

「...探られて痛い腹など天使様方にはないでしょう。なので、多少の寄り道を許可します。しかし、1時間です。それ以降は私のスケジュールに関わるので協力はできませんね」

「了解です。まぁ、所詮興味本位なんでそのくらいのが良いでしょうね」

 

そうして、配給施設近くのベンチに座る俺たち。なんとなくコーヒーが飲みたくなってきたが、あいにくと自販機など動いているわけもない。

 

ならば、在庫の豆からやってしまおう。

 

「うし、マジカルコーヒーメイカー始めるぞー」

「サマナー、遊ぶのは程々にしてくれよ?」

「分かってるって。だけどこんな日にベンチでぼーっとするってのも違うだろ」

「すみません、コーヒーとは?」

「ジャンヌの時代にはなかったのだね。コーヒーという植物の豆を砕いて、それをお湯に溶かして飲む飲み物だよ。苦味が眠気覚ましに良いんだ」

「...苦いのですか」

「大丈夫大丈夫、高い豆使うから。香りに慄き震えれば良いさ」

 

ちなみに高い豆を使う理由は、それしかないからである。ストレージに入れていたお宝なのだ。

 

「じゃあ、始めます。まずはコーヒー豆を取り出してー、マジカルに砕きます。そしてステンレスドリッパー越しにマジカルに温めたお湯をぶち込んで、終わり!」

「サマナー、マジカルとは?」

「ノリだよ、ノリ」

 

そうして、ポットに溜まったコービンをストレージから取り出したコップに注いでいく。

 

「これは、本当に良い香りですね...苦っ!」

「ジャンヌさんコーヒー初体験ですからねー。砂糖とか要ります?苦味を抑えられますけど」

「いえ、驚いただけですので大丈夫です。それに、この苦味は悪くはありません。スッキリとした酸味と合わさってとても美味しいです」

「それは良かった」

「サマナー、お茶菓子はないのかい?せっかくの聖女様の初のコーヒーブレイクなのだし」

「...んー、オレオしかねぇな」

「あるのだね」

「ああ、スマホの方のストレージは普段使いの奴だったけど、補給手段がないからなー。...砂糖工場は優先度低いだろうから、コレ実は値千金のお宝なのでは?」

「食べるのを躊躇うのかい?」

「冗談。だけど全部はなしな、カラドリウスにちょっと食わせたい」

「神鳥に、食事を?」

「はい。功績には報いてやらないと」

「俗世の物を食べるのですか...」

「そんなもんですよ、悪魔って」

 

そんなわけで始まったコーヒーブレイク。なんとなく、ジャンヌさんに異端と言われてからあった溝が少し埋まったような気がする。始めこそぎこちなかった会話は、コーヒーを飲み終わる頃には前のように戻っていた。

 

そんなとき、ジャンヌさんが俺を見る。なにか、真摯さを感じる目で。

 

「...花咲さん、悪魔とはなんなのですか?」

「マグネタイトで体を構成する情報生命体の総称です。...ってテンプレな答えが聞きたいわけじゃないですよね」

「はい...少しだけわからなくなったのです。これまでの私が正しいのかどうか。私は、天使様の言葉だからと納得していました。たとえ魔女と呼ばれても、この身を主に捧げたのだからと。天使様達は、その祈りに答えてくれたのだと。ですがそれは、違うのではないかと思ったのです」

「そりゃまたどうして?」

「花咲さん、私はあなたに一緒に飲むまで、コーヒーのことも、その美味しさも知りませんでした。このオレオというクッキーもです。私の生きてきたフランスと、この街は、この国は違うのです。...そんな程度のことも、見えていなかったのですね、私は」

 

「...ジャンヌさん、悪い物でも食べました?」

「失礼ですね、私のことをどう思ってたんですか」

「こう、優しい狂信者?」

「サマナー、それは流石にない」

「....狂ってると言われるのは慣れています」

「メシア教の良い所をしっかり守って、当たり前のように他人に優しくできて、けど悪魔相手には割と容赦ない。そういうのが良いんだと思います。ジャンヌさんは。...サマナーとしては悪魔との交渉や同盟とかの寝技を覚えて欲しい所ですが、それはそれとして」

「花咲さん...」

 

「まぁ、話を戻しますね。この世界において、悪魔ってのは危険だけど使える隣人ですよ」

「使えるとは、サマナーの方々のように?」

「いえ、悪魔って色々いるんですよ。人を襲ってMAGを奪う過激な連中だけじゃなく、商売をしてその時の感情を糧にするもの、恵みを与えてその感謝を糧にするもの、自分の楽しみの為に動くもの、仲間の為に強く在ろうとするもの...街を作って、そこの信仰を集めるもの。本当に色々です」

 

「だから、違うのは体だけなんだと思います。心は、きっと人と悪魔は大して変わらない」

「では、花咲さんは悪魔を、心あるものを殺しても平気なのですか?」

「...その辺は人でなしですからね、俺。悪魔も人間も、必要なら殺します。それがどんなに良い奴でも。じゃないと、次に殺されるのは自分じゃないかもしれませんから」

「...戦の常ですか」

「はい」

 

その言葉を聞いて、ジャンヌさんは腰の剣をギュッと握った。ただ邪悪だと断じて殺すのは、楽なのだ。

けれど、それじゃいけないとずっとどこかで思っていて、そのきっかけはずっとどこかで探していて、そのきっかけがたまたま俺のコーヒーだったという事。奇妙な事もあるものだ。

 

「けど、無理に考えを変える必要はないと思いますよ。ジャンヌさんはジャンヌさんの心のままに動くのが、きっと一番楽しいでしょうから」

「楽しみを求めてはいないのですけどね」

「それは勿体ない。人生って楽しんだもん勝ちですよ?デオンを見習って下さいな」

「...確かに私は現状を楽しんでいないとは言わないがね」

「デオンさんは、何を楽しんでいらっしゃるのですか?」

「サマナー達、仲間と過ごす時間をだよ。生前私はこんな奇妙な集団とはあまり関わらなかったからね。波乱万丈で心休まる時はあまりないが、どこか心地いいのだよ」

 

「つまりおまえには変人仲間がいなかったと」

「サマナー、今真面目な話をしているんだ。オチを先につけるのはやめてくれ」

「自分でオチつけるつもりだったんかい」

「当たり前だろう?サマナー達との話で笑い話にならない話はあまりないのだからね」

 

そんな言葉の応酬で、ふとジャンヌさんが優しい笑顔を作っていた。

デオンの計算とも俺の計算とも違うが、まぁ結果オーライだろう。

 

「...あ、動き出した。この速度、車ですか?」

「確かに、物資運搬用には車が使われていますね」

「...やっぱ加工前はストレージには入らないのか」

 

そうして、内門の中に入っていく車。

流石にここから先を調べるのは結界の強度的に不可能だ。仕込みをしていたのならともかく、今回は監視がある。

 

ここが、引き時だろう。

 

「すいません、内門まで入られたんで追うのは無理でした。これなら帰って寝た方がよかったですね」

「いえ、コーヒーブレイクでしたか?私は楽しかったですよ」

「それは良かった。じゃあ、ラブホまで監視お願いしますねー」

「はい。...ですが、今更ながらよろしいでしょうか?」

「なんなりと」

「ラブホ、ラブホテルとはなんなのですか?実は誰に聞いてもはぐらかされてしまっていまして」

「あ、連れ込み宿です」

「...つまり、花咲さんとデオンさんは⁉︎」

「やってないですよー。なんか恋愛感情には発展しない感じのアレなんで。というか、性別不詳とやるのは怖いですよ。1/2の確率でホモセックスになるとか」

「...デオンさんは女性ではないのですか⁉︎」

「さて、どちらだと思います?」

「い、言われてみれば男性にも女性にも見えてしまいます...」

「では、答えはまた別の機会に」

 

その後、なんだか緩んだ空気で他愛のない会話を続けた。

宿に着く、その時まで。

 

「そう言えば、どうして啓示が外れたのでしょうか?」

「あー、オンギョウキ達の所ですか?」

「はい、私は行くべきだと思ったのです。ですが、結果はあのような形になりましたから」

「案外、オンギョウキと私たちが結ぶことが主の御心だったのでは?」

「メシアンの主ってそんな鬼とかに寛容な感じだったか?」

「さてね?見たことも話したことも無い私にはわからないよ」

 

その時、なんとなく想像が浮かぶ。

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだと。

 

それがどうジャンヌさんの利益なり主とやらの利益に繋がるのかは不明だが、仮説の一つとしておいておくくらいは良いだろう。

 

そんなことを考えながら、壁の薄い部屋のあるラブホテルに戻るのだった。




緑の髪のにんじんみたいなライダー、一体何レウスなんだ?

というのはともかく、星4確定でバサスロット交換しました。パーフェクトデオンを作る為に宝具4にしようか迷いましたが、周回効率を高めたかったのです。

だってスカディ引きましたしね!(勝利宣言)
まぁ、QP足りないんでクリスマスイベントまでにスキルマ間に合うか微妙ですけれど。

週間連載やってるこの作品の文字数は、どれくらいが望まれているのかのアンケート。尚、作者の力量を超える文字数の場合は頑張るだけ頑張りほしますが、まぁ無理でしょうねー。

  • 4000字〜6000字のお手軽コース
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