登校日、事務所の4階にある宿泊スペースから最低限の荷物を持って学校に行く。
徒歩15分、実に良い立地だ。
「おいーっす」
「よっ」
制服の前ボタンを全部開けている不良スタイルのシュウが後ろから追いついてくる。昨夜俺に飯テロ未遂を行ってきた悪漢だ。ちょうど夜食を食べているとき出なかったら大ダメージを受けていただろう。
「昨日送ったチャーハンの画像どうだった?」
「30点。アングルが悪かったな。もうちょい低めから撮って山っぽさを見せて良かったと思うぞ」
「手厳しいね、先生」
「後は、脂っこさだな。テカリがあると良い感じに美味そうに見える」
「なるほど、今度誠に送るとき試してみるわ」
「君達はなんで朝っぱらから飯テロの相談をしているんだ...」
新人メシアン西条誠が後ろから追いついてきた。良い子ちゃんな誠にはわかるまい。飯テロが決まった時の気持ち良さは。
「そういやさ、東のクレーターから現れた槍使いの噂聞いてるか?」
「僕は知らないね。千尋は?」
「噂は聞いた。赤い槍に青いスーツの奴か?」
「そう、腕試しにウチから何人か行ったんだが、全滅よ。全員心臓を貫かれて即死。すげぇ腕前だぜ」
「ガイアーズは命が軽いねぇ」
「メシアンが命を大事にしすぎなんだよ。んで、今度は上の方が勧誘に行こうとしてるらしいんだわ」
「僕らとしては認めたくないが、悪魔を倒す強者が増えるのは良い事だよ」
「でも、俺の聞いた話じゃそいつ闘鬼だって話だぞ?そんな強い奴を従えられるサマナーいるのか?」
「さぁ、その辺はわかんね」
「適当だね、ガイアーズ」
「そんなわけでさ、俺たちでちょっとちょっかいかけてみね?」
「「すまん、話の繋がりがわからん」」
「ほら、槍使いがガイアーズに入ったら迂闊に殺しあえないだろ?だからやり合えそうならやろうって話」
「馬鹿じゃねぇの、ていうか馬鹿じゃねぇの?」
「千尋に同意だ。命は投げ捨てるものじゃないんだよ?」
「...良い考えだと思うんだがなぁ」
「というか、メシアンとフリーのサマナーを戦力に数えるなよガイアーズ」
「いや、ダチの力を頼るのは悪い事じゃねぇだろ」
「...しゃーなし、報酬出るなら俺は付き合うぜ。一目見て無理なら逃げるのが条件だけど」
「千尋...仕方ない、僕も今日は非番だ。付き合うよ、シュウ」
「よっしゃあ!二人にはとっておきの報酬を用意するぜ!」
「あ、前払いな」
「僕も」
「...しれっと見殺しにする気じゃねぇだろうな、お前ら」
そんなわけで今日の放課後、槍使いの見物に行く事となった。
東地区の駅前広場にて、3人でデオンを待つ。
「なぁ、お前の仲魔ならどうしてCOMPに入ってないんだ?」
「ああ、デオンは造魔でな、ドリー・カドモンっていう肉の器を媒体に存在しているんだ。だから身体をMAGに変換して収納するって事が出来ないんだよ」
「成る程、肉の器を持つ事でMAGの消費を抑えるという事か。天使様の召喚にも応用できそうだね。千尋、そのドリー・カドモンとはどこで手に入るんだ?」
「...すまん、ゴタゴタで研究所潰れたから今の入手経路はわからんわ。情報屋を頼ってくれ」
そんな会話をしていると、周囲の視線が1つの方向に引き寄せられるのが感じられる。誠とシュウもそうだ。
「やぁ、サマナー。待たせたかい?」
「いや、大して待ってない。...どした?お前ら」
「「ち、千尋が女連れてきたぁああああ⁉︎」」
確かに、今日のデオンは女の格好をしている。その華麗な立ち振る舞いには人を惹きつけるものがあるのはわかる。
だが、この二人には事前にデオンが造魔であると伝えたはずなのだが。
「いや、どう考えてもおかしい!千尋だぞ!なんでこんな美人がついてるんだ⁉︎」
「主よ、私に試練を与えるのですか!私は友人を殴り飛ばさないといけないのですか!」
「オイ、シュウはいいとして誠!お前の主はそんな事を教義にしてるのか!」
「愉快な友人だね、サマナー。紹介してくれるかい?」
「お前を美人だと言ったガイアーズがシュウ、こっちの俺を殴ろうとしてるメシアンが誠。まぁ、いい奴らだよ」
「...メシアンとガイアーズ、逆ではないのかい?」
「「コイツと一緒にするな!」」
などと若干空気が緩んだ所で、早速報酬を受け取る事にする。
今回の報酬は、宝石。異界のMAGを存分に吸って成長したアメジストとイエロートルマリンが俺たちへの報酬だ。アメジストは邪悪なモノから身を守る性質を持っており、装備に組み込む事が出来れば
「誠、お前はどっちにする?」
「僕はアメジストを貰おう。天使様への献上品としては破邪の宝石は悪くないだろうからね」
「じゃあ俺はトルマリンだな。爆弾になる未来しか見えないけど」
「決まりだな。くれてやるよ!」
「でも、デオンさんは報酬なしでいいんですか?」
「構わないよ。僕はサマナーの仲魔だ。サマナーへの報酬が僕の報酬さ」
「とか言いつつ仮契約なんだけどな、コイツ」
「「マジか⁉︎」」と驚く二人。まぁ、コイツの精神性を知らないと確かにそう。デオンは裏切るなら裏切ると宣言してから裏切る奴だ。その辺の心配はしていない。懸念事項はあるが、それもまぁそのうちにだ。
「じゃ、行こうぜ。槍使いを拝みにさ」
東地区のクレーター。そこの中心部には異界の入り口がある。中のゲートパワーが高い上、先の見えないダークゾーンが至る所にあるが故にヤタガラスの術者でもたやすく討伐できず放置している異界だ。
まぁ、市街地から遠く、封鎖されているため侵入する一般人も居ないのだから問題はとりあえずないのだが。
「君達、ここは侵入禁止だよ!」
「げっお巡りかよ」
「サマナーの花咲千尋と言います。この“暗黒荒野”の調査依頼を受けて来ました」
嘘ではない。依頼人が隣にいるだけだ。などと考えつつも魔法陣展開代行プログラムにより
「サマナーの方でしたか。私はヤタガラスの協力者です。この異界は現在ウチの腕利きが討伐を行っています。巻き込まれないようにご注意を」
そこで止めないあたり、この業界やっぱ命が軽いわ。
「シュウ、槍使いが見れなくても文句言うなよ?」
「いや、ヤタガラスの使い手との戦いが見れるかもしれないんだ。こりゃ一挙両得だぜ!」
「これだからガイアーズは...」
「だが、気になるのは私も同意だ。この世界の実力者とサマナーがどれほど差があるのか気になっているからね」
「止めろ、世界トップレベルと新米サマナーを比べんな」
フォーメーションは3:1、デオン、誠、シュウが前衛で俺が後衛だ。全体指揮も俺が取る事になる。まぁ、悪魔を呼んだらアイテム係になりがちなサマナーの役割としては順当だ。
特に何かを言うまでもなく暗黒荒野へと侵入する。警戒していた異界入り口での出待ちはないようだ。ヤタガラスの術者が軒並み倒してしまったのだろうか。
「サマナー、生き残りがいるよ」
右手と左足が吹っ飛んでいる骸骨の戦士がいる。グラディウスを持っている事から絞り込むと、これはおそらく...
「闘鬼スパルトイだな。おい、話せるか?」
「MAGを...くれ...」
「その代わり、仲魔になれ。呑めるか?」
「わかった、なろう。俺は、もっと闘いたいッ!」
「決まりだな。俺は花咲千尋、サマナーだ」
「闘鬼 スパルトイ。竜の歯より産まれた戦士だ!」
契約は結ばれた。
「誠、
「了解だ、案内役は欲しいからね」
誠はスパルトイに手を触れ、癒しの術をかける。こういうところでメシアンの教義を持ち出さないのが、コイツの良い所だ。ロジカルに物事を考えられる。
「隊列変更、誠は裏に、その前にスパルトイ」
「わかった」
「任せろ、サマナー!俺は闘う!」
「しっかし、俺は千尋がスパルトイを拷問するのかと思ったぞ」
「私もだ」
「お前らどんな風に俺を見てんだよ」
スパルトイの先導の元、暗黒荒野を進んでいく。この荒野は開けているように見えて結構な横道がある。先導がなければ気付かなかっただろう。とは言っても見つかるのは人間の死体ばかり。腕を過信して暗黒荒野を討伐しようとした者達だろう。時間のたった異界を討伐した時に取れるマグネタイトは膨大だ。一攫千金を狙う気持ちはわからなくない。
手荷物を漁った後、COMPをストレージに回収してから施餓鬼米を使う。破魔の力で魂は浄化され、ゾンビになる事はなくなっただろう。
「サマナー、死体漁りを咎めるべきか魂を救ったことを認めるべきか私の良心が迷っているんだが」
「別におかしな事はしてねぇだろ。良いじゃねぇか、死体に金は使えないんだから」
「倫理の問題だよ、シュウ。」
「すまんかった、次行くぞスパルトイ」
「次は戦いがあるか?」
「それは分からん。ヤタガラスの術者は手当たり次第に悪魔を殺してるからな」
にしても妙だ。異界討伐が目的なら、戦闘を避けて最奥まで向かうと思うのだが。
「んじゃ、こっからはダークゾーンだ。サモン、ノッカー、モコイ。前衛はスパルトイとデオン、中衛には誠と俺とシュウ、後衛にノッカーとモコイ。全方向からの奇襲を警戒していくぞ」
皆の了承を得てからダークゾーンの中に入る。人であれ悪魔であれ、先を見通す事の叶わない暗黒の空間。これが所々にある上に最奥に進むのに避けられないとかいうクソ立地が、この異界がまだ討伐されていない理由だ。
だが、存分に警戒したのに意味はなく、すんなりとダークゾーンを抜けられてしまった。
「なんだかねぇ...どんだけ悪魔と会えないんだよこの異界。悪魔召喚してる分だけ赤字だぞ」
「サマナー、ここは引いてみないかい?この異常な悪魔討伐がヤタガラスのサマナーのものなら構わない。だが、槍使いの仕業だったなら?」
「MAGの大量摂取による強化か...うん、俺も逃げたくなってきた」
「何言ってんだ千尋、槍使いを見れる最後のチャンスかもしれないんだぞ?」
「その槍使いに殺されたら元も子もないだろうがよ」
「...いや、僕はシュウに賛成だ」
意外な援護射撃である。
「理由は?」
「...槍使いが、この異界の主ではないからだ。この異界から抜け出して街に繰り出す可能性がある」
「...あー、それがあるか。...うん、引くってのはなし、撤回する。最低でもアナライズデータくらいは抜いて帰るぞ」
「私もそこまでは考えが及んでいなかった。ありがとう誠、君に感謝を」
あ、若干顔が赤くなった。まぁ、戦闘態勢を取っていない今のデオンは美人な女の子スタイルだからな。初心なメシアンは見た目に騙されるか。
そうして、異界の奥に進んでいくと、金属同士がぶつかり合う音が聞こえてきた。遠いが、鋭い。互いの力量がこの時点で推し量れる。
「皆、行くぞ!」
「「ああ!」」
そうしてたどり着いたのは、紅の棍をもって槍を迎撃する悪魔、斉天大聖とそれを操る黒服のサマナー、ミズキさん。
対するは、槍の冴えのみで斉天大聖を押し切っている青いボディスーツの槍使い。
正直、想定しているよりも5段階は次元が違った。
「ヤタガラスのサマナーを一旦援護する。異論はあるか?」
「ねぇな!血がたぎるぜ!」
カラドリウスを召喚。これによりモコイとノッカーを組み合わせたいつもの強化魔法三連で斉天大聖を強化する。
だが、それで拮抗状態が崩れたりはしなかった。槍使いは、一瞬で強くなった斉天大聖に対応したのだ。
「ミズキさん、花咲千尋です」
「ッ⁉︎どうしてここに!逃げなさい!」
「アレを見逃せはしませんよ」
「ッハ!新手か、よ!」
斉天大聖を槍の払いで吹き飛ばし、自身もバックステップで距離を取り仕切り直しを行った槍使い。こちらの数が増えた事で警戒を高めたのだろう。歴戦だ。そしてどこか清々しい。
「俺は
「ランサーと呼びな。あいにくと弱点の多い身でね、たやすく名前は明かせねぇのさ」
「じゃあランサーさん、交渉だ」
「一応聞くが、信用はしねぇぞ。お前からは狡い奴の匂いがする」
「否定できねぇ...それはともかくランサーさん、この異界の主を一緒に倒さないか?」
「さっきまで殺しあってた俺とか?」
「この業界じゃよくある事ですよ」
「花咲さん、勝手に話を進めないでください。あの槍使いは殺さなくてはなりません。間違いなくアウタースピリッツです」
「でも、あの人は無辜の民を殺したりはしませんよ。だから、まずはこの異界を潰すのが先決かと」
「...へぇ、少しは話が通じるみてぇだな。だが、何を見て俺がそうだって思ったんだ?」
「あんたの槍捌きは、美しい。そんなのを汚れた魂で振れるものか」
その言葉にランサーは一瞬固まったあと、敵前であるにもかかわらず大笑いを始めた。何かおかしな事を言っただろうか。
「すまんなチヒロ。第一印象で手前を図り違えた。面白え奴だよお前さんは」
「じゃあ、異界の主を殺すまで休戦って事で」
「構わねえ。あと、主の居場所はとうに検討はついてる。俺から逃げ回ってるが、
「ルーン魔術まで使えるんですか。凄いですねランサーさん」
「ま、昔習わされた程度の腕前だよ。行こうぜ、チヒロ」
横に来たミズキさんが、小声で話してくる。どうにも、納得がいってないようだ。
「花咲さん、どういうつもりですか?勝手に割り込んで休戦を決めてしまうなんて」
「仕切り直しですよ。あのままじゃ、ミズキさんは殺されていました」
「...否定はしません、それほど強敵でした」
「なら漁夫の利狙いをするまでです。ランサーが主と共倒れになるように俺たちが戦況をコントロールする。正面からやり合うより成功率は高そうでしょう?」
「...他に手は思いつきません。乗りましょう、千尋」
「ども」
そんな会話ののち、ランサーさんは主を見つけた。
「貴様、何故ここに!」
「ちょっとした知恵だよ、ベルセルク」
一触即発の空気。今から俺たちはランサーさんのMAGを浪費させなければならない。妖鬼ベルセルクを陰ながら支援して。
だが、そんな考えは歴戦の戦士には見抜かれていたようだ。
「ああ、お前らが狡い事考えてるのはわかってるから、一瞬で終わらせてやる。さぁ、行くぞ狂戦士!その心臓、貰い受ける!」
穂先を地に向ける奇怪な構え。込められたMAGの量からアレが必殺の一撃であるとわかる。
「グオオオオオオオオ!」
「
その光景をなんと言い表せばいいのだろうか。ランサーが地に放った刺突は、どういうわけかベルセルクの心臓を突き破っていた。
ゲイボルクという槍の名前、ルーン魔術の腕、そしてなにより並ぶもののない槍の腕。
あれは、異世界における英雄、クー・フーリンだ。
「さ、続きと行こうや」
その言葉に乗った戦意で、一瞬呑まれかけた。
ただ一人、恐怖を蛮勇に変えた一人の馬鹿を除いて。
「ペルソナ、バロール!」
シュウの解き放った霊体、困難に立ち向かうための人格の鎧を形として召喚する異能、ペルソナによって顕現されたバロールが蒼き衣のクー・フーリンに襲いかかる。
「お、良いじゃねぇかお前!曾ジジイの力を引き出すか!ペルソナってのは面白えな!」
「悪い、その辺の事情は知らねぇ!
「お前ら、続けぇ!」
誠の銃撃がバロールに押さえ込まれているクー・フーリンを襲い、それが不自然な軌道で逸れた。当たらないタイプの銃撃耐性か。
「誠!
「ああ!」
「デオン、斉天大聖!前に出てシュウの援護を!燃費悪いから長くは保たない!」
「承知したよ、サマナー!」
「勝つ為ならなんでもするさ!」
「ミズキさん、指揮をお願いします!俺は大技をぶちかます!」
「任されました。サモン、猪八戒、沙悟浄!出し惜しみは無しです、死ぬ気であの英雄を抑え込みなさい!」
COMPの処理容量確保の為にモコイ、ノッカー、カラドリウスを
これが、今の俺にできる最上の一撃。
「数が増えても、繋がりが甘めぇ!」
ルーン魔術で筋力を強化したのか、魔槍のなぎ払いで斉天大聖と猪八戒が吹き飛ばされる。その隙にデオンが槍の内側に入り込み斬撃を加えるも、流れを殺さない石突きによる打撃により十全なダメージを与えるには至らなかった。
だが、手傷は負わせた。
「バロール、ムドオン!」
「沙悟浄、百烈突き!」
仕切り直しをさせまいと、吹き飛ばされなかった二人が怒涛の連撃を仕掛ける。だがクー・フーリンは流れるような動きで沙悟浄の百烈突きを捌き、最後の1突きを足場にして宙に逃げる事でムドオンを回避した。
その致命的な瞬間を、西条誠が逃すはずがない。
「主の敵を討ち滅ぼせ、
マグネタイトの奔流がクー・フーリンを襲う。逃げ場のない空中では回避行動を取れない。このマグネタイトを消失させる最強の魔法を躱すことはできない。
それが、普通の考えだ。
「甘ぇ!」
クー・フーリンは、あろうことか体捌きだけでメギドの射線から自分の身体を逃した。ダメージを受けてすらいない。
駄目か、と皆が思いかけたその時、クー・フーリンの背後に回らせていたスパルトイが一撃を食らわせた。それは、技量の問題で力場を貫く事は出来なかったが、メギドの余波にクー・フーリンの指先をぶつけるくらいのダメージを与えてみせた。
これで、クー・フーリンはゲイボルクを投げる事は出来ない。ゲイボルクが脚による投法だったとしても、足に持ち替える隙など与えない。
一瞬で、その命を終わらせるからだ。
「サモン、
空を舞うペガサスが、最高速で俺の展開した加速の術式を通る。それを5つ繰り返したその先には、光の矢となったペガサスがあった。
「天馬流星砲!」
光の矢は狙い違わずクー・フーリンを貫いた。
異世界の英雄、クー・フーリンの最期である。
異界化が解けて、マグネタイトがアブゾーバーにより吸収されていく中で、胴体がなくなったクー・フーリンは、笑顔でいた。
戦える体ではないというのに、戦おうとしている。その強かさに、英雄の矜持を見た気がした。
「...完敗だよ、お前ら」
「俺らも、いい経験になりました!」
「ハッ、あんな死闘の後にその元気か。大物になるぜ、お前」
「...あんた、生きたくはなかったのか?」
「俺は腐っても英雄だ。英雄は、二度目の命なんざ求めたりはしねぇんだよ」
「格好いいね、君は」
「じゃあ、トドメを頼むぜ。千尋」
「どうして俺に?」
その言葉に、英雄は笑って答えた。
「勘だ。お前がきっとこの世界を救うって、俺の勘が言ってんだよ」
「...スケールがでかい事で」
「頼むぜ、
「ああ、承った」
クー・フーリンの脳天にP-90の銃口を押し当て、引き金を引く。
彼のマグネタイトが霧散していく様が、星が空に昇っていくかのように見えた。
それからのこと、ミズキさんの持ってる検査機で俺たちを検査した後、俺たちは解放された。ヤタガラスから後日異界討伐支援の報酬が貰える事となり、懐具合はかなりあったまりそうでちょっと未来が楽しみだ。
「それにしてもデオン、なんでお前ちょっと機嫌が良いんだ?」
「クー・フーリンの事だよ」
「...あー、世界を救うとか言う奴か。重いもん託されたよなぁ」
「私は、そうは思わない」
「この世界を救えるのは、きっと君みたいな人だ。僕の勘もそう言っているんだよ」
「だからスケールでかいっての」
「まぁ、いつか世界を救う為に、今はゆっくり体を休めるとするか」
「そうだね、サマナー」
ちゃっかりと起動していたMAGアブゾーバーのお陰で、突発的な異界討伐は超黒字。やってやったぜという感じだったのだが、神野はどうやらお冠なようだ。アレか?自分達にも分け前を寄越せというのだろうか?
「サマナー、冗談は時と場合を選ぶべきだ」
「だよなぁ...いや、わかってんだよ軽率なことしたって」
「じゃあ千尋さんは、これから無茶はしないと約束できますか?」
「無理」
「即答⁉︎」
「そりゃ、あの強力無比なクー・フーリンを殺し得る手が他にあったなら安全策取るが、そうじゃないなら命くらいかけるさ。人の命がかかってんだから」
「...所長さんからも何か言ってください!」
「いやー、縁ちゃん。ぶっちゃけ私は千尋くんに賛成。殺せる時に殺しておかないと後を引くからね」
「...そうだ、所長さんが一番カオスなんだこの事務所」
「ま、湿っぽい話は後にして、ケーキ買ってきたんで、食べましょうよ」
「...仕方ありません、納得しておきます」
「というわけで、出てこいお前ら!」
「えっと...召喚、タラスク!」
「ケーキだ!やっぱ甘味はいいよね!」
「知性派のオイラが、チーズケーキを切り分けるとするよ」
「縁の嬢ちゃん、あっしはこの甘味を食っても平気なんでしょうか」
「えっと、亀ってケーキ食べられるのかな?」
「悪魔だし大丈夫だろ。...にしても凄えのを仲魔にしたもんだ」
「あげませんよ?千尋さん」
「盗らねぇよ」
「逕伜袖縺ォ縺ッ蠑輔°繧後k繧ゅ�縺後≠繧九↑縲ゅ□縺御ク�袖繧貞�繧後※縺ソ縺溘¥縺ッ縺ゅk《甘味には引かれるものがあるな。だが七味を入れてみたくはある》」
「おい待てスダマ、どっから取り出したその七味!」
「賑やかになったね、この事務所も」
浅田彼方は、そんな言葉を、思わず零した。
この事務所に、その少年がやってきたのはドクターの紹介からだった。現代魔導の知識を持った素人がいるので、生きる道を示してもらいたいと。
「俺は、花咲千尋。
「私は浅田彼方。早速だけど、君の実力を見たいから模擬戦をしよう」
その模擬戦の結果は、50戦50勝。彼には、悪魔と戦うための力が圧倒的に足りていなかった。
だが、足りてないのはそれだけだ。知識は深く、術は上手く、心は折れない。いや、
だから、千尋くんに教えたのは格上からの生き残り方だけ。それだけを覚えれば、彼は生き残り続ける。そうなれば、きっと化ける。私の勘はそう言っていた。
そして1ヶ月がたってから、デオンくんを連れてきた。彼に足りなかった唯一のもの、力を持った存在として。
もう、彼は一人で歩き出せる優秀なサマナーだ。殺すことしかできない私がとやかく言う所ではないだろう。
だが、彼を巣立たせる気にはならなかった。
彼の持つ冷たさと、それに似合わない温かさは裏に生きる者としては本当に心地良いのだ。
もう少しだけ、彼を見ていたい。それはきっと、私に欠けているなにかを思い出させてくれるから。
暗黒荒野が討伐された。その知らせは瞬く間に裏の業界を席巻した。なにせ、ハイクラスの悪魔を主とした大型異界だ。それがヤタガラスの術者の助けがあったとはいえ、学生3人に討伐されたと言うのだから驚きしかないだろう。
西条誠、シュウ、花咲千尋
メシアンとガイアーズとフリーのサマナーの変則チーム。
彼らの行動は、裏の業界に1つの波紋を生み出した。
長年に渡って戦い続けている宿敵、メシア教とガイア教の一時休戦交渉という大事件の始まりは、おそらくそんなものだったのだろう。
次回から第1章の山場、一時休戦交渉編です。VSメシアンガイアーズダークサマナーの選り取り見取り。
そして、ついに悪魔合体の解禁です。合体法則はフィーリングでやるので、細かいところを期待しないでください。流石に合体法則からの逆引きで仲魔を作るなんてことは、この作品の設定上したくなかったのだ
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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