活動報告で愚痴ってみるものですね。相変わらずUAは増えませんが。それはきっと時間がなんとかしてくれる!
そんな思いからの投稿です。
「知ってるかい千尋くん。メシアとガイアが休戦交渉を始めたみたいだよ?」
「知ってます。サマナーネットもその話題で持ちきりですから」
「え、メシア教とガイア教ってノリで殺しあってるって前聞いたんですけど」
「時期が悪いんだよ。4月から平成結界のアップデートの本格的な準備が始まるからね。そんな時期に下手な抗争をしたらクズノハが出てくる」
「クズノハ?」
「「ヤベー奴ら」」
「...そこまでの者達なのかい?」
「日本の最強戦力だよ。戦艦を日本刀でぶった切ったことがあるらしい」
「「...え?」」
「所有する悪魔は全てハイクラス、おまけに悪魔の忠誠心も高いから合体奥義なんてものをバンバン撃ってくるんだと」
「そして何より、特殊な歩法を使った移動術であらゆる攻撃を回避するサマナー自体の生存能力の高さ。ぶっちゃけ、睨まれたら死ぬね」
「しかもこの伝聞は俺たちにわかりやすいようにスケールダウンさせて伝えられているんだ。本物とか会いたくねぇよ」
「「なんでそんな化け物のいる国で暴れてるんだメシアとガイア...」」
「ま、兎にも角にも今は依頼だ。名前が売れたのか、人探しの依頼が来てるよ。依頼者は風切さん。テンプルナイト時代の同期だった人だ。射撃の名手だよ」
「へー、ありがたい縁ですね」
それから20分後、テンプルナイトの正式装備のままで風切さんはやってきた。年の頃は40程度、しっかりと鍛えられた筋肉が、戦う者の空気を醸し出している。
「
「花咲千尋です。この事務所の探偵業を取り仕切っています」
「...浅田、お前は大人として恥ずかしくないのか?」
「だって千尋くんのが出来るんだもん、仕方ないじゃん」
「いい大人がそんな言葉を使うな...」
「苦労なさっていたんですね」
「浅田とは同期でな。よくバディを組まされていた」
契約書類にサインをしてもらい本題に移る。どうやら、人を探しているらしい。
「私の身の上話は、やはり必要か?」
「いえ、要点さえわかれば大丈夫です。あとはこっちで調べますので」
「頼もしいな。だが、正直藁にも縋る思いなんだ。全てを話す」
「私は、若くからテンプルナイトとして働いていた。だが、ある時知り合った女性と恋に落ちてな、結婚の約束をしたんだ」
「おおっ!」と目を輝かせる神野。黙ってなさい。
「だが、私は任務で意識不明の重体に陥ってしまい。復帰した時には彼女の影も形も見えなくなったんだ。後から聞いた話によると、ガイア系列に出資している彼女の父親が彼女を見つけて連れ帰ってしまったらしい」
「彼女の父親の所へは行かれましたか?」
「ああ、行った。だが、そこでは彼女はもうその屋敷から逃げ出したという事実しか知ることができなかった」
随分とアグレッシブな花嫁だ。流石テンプルナイトのお嫁さん。
「それから、方々を探したのだが見つからず、結局見つかったのは彼女が交通事故で死んでしまったというニュースだけ。それも事故から1ヶ月も経ってからだ。」
「では、その女性のお墓を探して欲しいというのが依頼ですか?」
「いや、少し違う。彼女には、娘ができたらしいんだ」
「それはあなたとの?」
「...違うだろう。14年も教会の施設で昏睡していたからな。」
「なら、依頼内容は娘さんを見つけてあなたと引き合わせる、という事でよろしいですか?」
「いや、彼女の娘が幸せに過ごしているのならそれでいい。私は身を引くよ。だが、彼女の娘が母を亡くして困っているのなら、彼女を迎え入れたい。彼女の忘れ形見だからね」
その瞳は、強かった。父親の瞳とはこういうものなのだろう。
「わかりました、受けましょう。それで、奥さんの名前は?」
「
「「「...え?」」」
「どうしたんだ?鳩が豆鉄砲を食ったような顔をして」
「...そちらの少女をご覧下さい」
「ああ。...歳若いのにこんな業界に踏み込んでしまい大変だったろうね」
「いえ!私は人に恵まれましたから!千尋さんにデオンさん。所長さんにタラスク。それにマルタさん。どの出会いも、私の宝物です!」
「そうか、それなら良かった。それで、彼女がどうかしたのかい?」
契約書類をしっかりと回収した後で、事実を告げる。この風切さんのリアルラックの珍妙さを示す言葉を。
「彼女が、神野縁さんです」
「...はい⁉︎」
「えっと...お父さん?」
「...つまり私は、紬の娘に全部聞かれていたのか...恥ずかしいッ!」
ちなみに、所長はバカ笑いしていた。あの人人生楽しんでんなぁ。
「ほら、一応MAG分析しましょう?同姓同名の別人という可能性もないわけじゃないですし」
「...やってくれ。私の娘かもしれないという夢を、打ち砕く為に」
「じゃあ神野、推定お父さんの隣に座ってくれ」
「...なんか、ちょっと気恥ずかしいですね。生まれた時からお父さんは死んだって聞いていたので」
そうして、二人のMAG反応を比較分析する。魂の構造はよっぽどの事が無ければ変わらない以上、結果は変わらないはずだ。
そう、二人は親子ではないと...え?
「風切さん、どーにもややこしい事になってます。あなたと神野の魂に血縁関係はありません」
「え?」「...まぁ、そうだろうな」
「神野が覚醒した事が原因での不一致の可能性も、この数値ではありえません。貴方方の適合率は、ゼロです」
「えっと、あなたはお父さんではないんですか?」
「じゃあ、一体誰が彼女の父親なんだ?」
「それを、これから調べましょうか」
「まだ、依頼内容の確定はしていません。どうせならしっかり最後まで調べちゃいましょう。神野縁っていうウチの職員のルーツについて」
そんなわけで、神野縁という少女をを追いかける仕事が始まった。
「まずは、お前ん家からだな」
「...紬が暮らした家か」
「ま、ただの安アパートなんですけどね」
「...こんな所に年頃の女の子が一人で住んではいけない!」
「あ、来月引き払う予定です。事務所の宿泊室片付けたら泊まれるスペースできたので、最近はもうほとんどあっちに住んでるんですよ」
「あの事務所、無駄に部屋が多いんですよ。なんせビル1つが所長の所有物なんで」
「...なるほど、わかった。誤解してすまなかったな」
仏壇に焼香をあげてからとりあえずの家探し。
もっとも、見つかるものはかつての風切さんとの恋文くらい。古風なことで。
「風切さんのこと、大切にしていたんですね!」
「...物凄く恥ずかしいから言わないでくれ」
「これが所帯を持ちかけた男子力か、勉強になります」
「サマナー、彼に追い打ちをかけないでやってくれ」
「それで、どうするんだ?情報は得られなかったが」
「いやー、取っ掛かりでも掴めればよかったんですが、この分だと突撃しかないみたいですね」
「突撃ですか?」
「ああ、前にお前の調査依頼をしてきた十文字さんって人のところ。住所は控えてるんだよ」
主に、報酬を払わなかったときの取り立てのためにだが。
「紬は、私を忘れないでくれたのにな...」
「大丈夫ですよ、風切さん。風切さんの愛は、お母さんにしっかり残ってます。じゃなきゃラブレターなんて取っておきませんよ」
「ありがとう、縁さん」
「待った。サマナー、周囲の警戒を」
「百太郎に感あり。囲まれてるな。サモン、スパルトイ」
「敵に心当たりはありますか?千尋さん、風切さん」
「私はありすぎるね」「俺もだ」
「まずは斥候を放とう。それへの対処でどう逃げるかを決めるべきだ」
「というわけで、スパルトイGO」
スパルトイにドアを開けさせ、アパートの外へと進ませる。ドアを開けた瞬間に集中砲火はないようだ。会話の余地はあると。
「デオン、神野、俺、風切さんで行きます。デオン、神野、盾は任せた」
「了解だ、サマナー」
「任せてください!」
風切さんがすっごい微妙な顔してる。だが、防御能力に関しては神野は超一流だ。
メシア教に押し付けようとしていた過去は、なかったことにしよう。彼女はメシアンになったら所長コースだ。アクが強すぎる。
周囲の警戒をしつつ大通りに出る。人払いの結界が張られているが、これは一山いくらの呪符を使ってのものなので術式の種類から敵を逆算することはできない。
「スパルトイと合流できたよ。次の指示は?」
「いや、アクションなんでないんだよ。アナライズは飛んでこないし。殺す気ならさっさと来いっての」
「デオンさん、人数は前に3、後ろに2であってますか?」
「正解だ、エニシ」
「強かだな、縁ちゃんは」
すると、烏の使い魔が飛んできた。見た感じ術式は密教系、天草式とも呼ばれるメシア系列の術だ。
「ニゲロ、ココハ、戦場ニナル」
メッセージは警告のみ。呪いの類は無い。
「...どうしますか、千尋さん」
「まぁ待て」
当然のように使い魔をデオンに捕まえさせ、逆探知術式をかける。術者は、正面側のものだった。
故にこのコンタクトの理由は、第三者である俺たちを状況から除外するためのものだと仮定する。
それはつまり、メシアンが風切さんに隠れて動いている別の案件があったという事だろう。
「皆さん、正面側に逃げます。その際、術者を探すのを忘れないように。次の手掛かりになりそうですから」
神野と目配せをしてから、3カウント指で数える。
それがゼロになると同時に、戦端は開かれた。
「サモン、ダンタリアン!」
「来たれ天使よ、ヴァーチャー!」
「ハイクラスの悪魔同士をぶつけるなんざ、戦争でもすんのかよ!」
思わず叫んだ風切さんの言葉。非常に同意だが、そんな場合ではないのだ。
「足を動かせ!堕天使の方は魔術タイプ、攻撃の余波で殺されるぞ!」
サマナーネットで情報を見たことがある。片手に本を持つ知識の悪魔、堕天使ダンタリアン。あらゆる魔法を使う術師なのだと。
なのでメシアンの方に走り出しながら殿に置いた神野に防御は任せる。
例えダンタリアンとて、神野のアレを抜くには三手は必要だろう。
「この本によれば、貴方方は聖女一人を置いて全滅する。
「死なせないのが、私だぁ!
召喚されたタラスクの鱗の盾が、
その隙に、ヴァーチャーが神野の横を通り過ぎてダンタリアンに襲いかかる。「流石です、聖女よ」と呟いたのが聞こえた。厄ネタが増えた。
「神野、オーケーだ!」
「はい!逃げます!」
余波を火炎耐性で受けた神野に回復の為の魔石を放り投げつつヴァーチャーの飛んできた方に全力で走り抜ける。おっかないことこの上ない。神野を連れてきてよかった。さすが聖女だ。
そして、柱の影に隠れている術者に警告感謝すると目配せをして走り抜ける。年若い、女の術者だ。金髪がテンプルナイトの正装に映えることで。
とりあえず、このまま認識阻害結界の外側まで行こう。
認識阻害結界を抜け、ついでに十文字さんの住所である繁華街にたどり着いた所で一息つく。
「あー、死ぬかと思った」
「どっちの悪魔も強かったですね。多分片方ずつならどうにかできるんですけど」
「...お前ら、鉄火場に慣れてんな。いつからこっちの業界に入った?」
「1ヶ月前くらいです」「そういえば私、1ヶ月経ってませんね」
「化け物はお前らか⁉︎」
心外な、神野は受けた教育が良かったからこうなったのだ。マルタさんの聖女の100の闘法を短期間で身につけ、それを進化させつつあるのには感嘆の念しか抱かないが。
「皆、飲み物と軽食を買ってきたよ。何はともあれ体が資本だ。今は休むといい」
と言って、鶏肉を揚げたホットスナックと午後の紅茶を投げ渡してくる本当はアルコールを取りたい所だがまだ仕事途中だ、我慢しよう。
「しっかしなぁ...」
「「何だ/ですか?」」
「こうして食事の癖とかを見ると、二人が親子でも違和感はないんですよ」
「「癖?」」
「油を小指から舐めとる所」
「あ」っと反応する二人。無意識だったのだろう。言われたからすぐにおしぼりで手を拭いていた。その仕草もシンクロしているように一致している。十文字さんの所で何も得られなかったら、時間はかかるが他の検査法でも二人が家族かどうか調べてみよう。
「「「ごちそうさまでした」」」
ゴミ箱にホットスナックを包んでいた紙を入れ、ストレージに飲みかけの午後の紅茶を入れて先に進む。
十文字さんの書いた住所は、建築事務所のものだった。
裏の世界の事情を知っていると、しょっちゅう謎の事故で建物がぶっ壊れるので超優良企業なのだ。建築業は。
「...ヤーさんかねぇ」
「でも、事務所は綺麗ですし雰囲気も悪くありませんよ?」
「エネミーソナー見てみ」
「...青ですね」
「警戒に低級の悪魔を召喚してるって訳か...ガイアに関わってなきゃいいんだが」
4人で中に入る。警戒の様子はあった。そりゃあ認識阻害の札を使っているとはいえ、見える奴にはテンプルナイト御一行に見えるのだから当然だ。
「あの、何の御用でしょうか?」
「十文字小太郎さんに用件があってきました。花咲千尋と申します」
「...アポイントメントはお取りになっておられますか?」
「いえ、ありません」
「そうですか...それなら日を改めて頂けると助かります。十文字は今多忙ですので」
ただの受付嬢にしては、十文字さんのスケジュールを何も見ずに把握している。妙だ。内線で確認くらいは取ると思うのだが。
なので、ちょっとカマをかけてみることにした。
「神野縁にメシアとガイアが目をつけました。連絡ついでにそれを伝えてください」
「ッ⁉︎お待ち下さい、すぐ小太郎に連絡を取ります」
大当たり。この受付嬢のカワシマさんは十文字さんと親しい。話が早そうだ。
『デオン、周囲の悪魔の様子は?』
『ピクシーが植木の影、リリムがカウンター下、どちらも警戒しているだけだね』
『てことはガイア系列の会社か?お抱えのサマナーでもいるんかね』
『従えている悪魔がこの程度なら、心配はないのでは?』
『消費MAGと仕事の重さで使う悪魔を変えるのがサマナーだ。多分結構なやり手だぜ。戦いたくはないな』
そうして内線で連絡を取ったカワシマさんは、俺たちを奥の応接室に通した。十文字さんと会わせてくれるようだ。
出されたお茶に無警戒に手を伸ばそうとした神野を制止して5分ほど、十文字さんは応接室に現れた。
霊的な加護を受けているスーツを纏った男性と共に。
「久しぶり、というほどではないですね、花咲さん。その節はどうも」
「どうもです、十文字さん。色々話があってここに来ました」
「それは、急ぎの用ですか?」
「はい。神野が住んでいたアパートが、メシアンとガイアーズの抗争の舞台になりました。しかも、問答無用じゃなくて神野が狙いだったようです。天使と悪魔どちらもが神野を意識していました」
「...術者の顔は見たか?」
「メシアの方は」
「...わかった、腰を据えて話そう。あんたも聞きたいだろ?風切」
「...ああ」
「まず、俺が知っている情報が全てじゃないって事は最初に理解してくれ。俺も所詮、組織の中じゃ高い地位にはいない」
「神野縁さん、よく聞いてくれ。君は、メシアとガイア、両方にとって火種になるかもしれない」
「...メシアとガイアって理由なく殺しあってないか?」
「メシアもガイアも、この街を更地にする程の行為は行なっていないだろ?一応手加減してんだよ」
「...すいません、すっかりさっぱりわかりません!私、今は聖女(笑)ですけど、元は普通の女子中学生ですよ?」
「まさか、ガイアーズが紬に何かしたのか!」
「やったのは貴様らだろうが!メシアン!」
風切さんと十文字さんが睨み合う。どうにも話がこじれていそうだ。
「落ち着いてください。話を続けましょう」
「そうですぜ、社長。じゃねぇとあっしはともかく社長は死にますよ。テンプルナイト相手ですぜ?」
「そうです!よくわかりませんけど、お母さんのことで言い争わないでください!」
渋々といった表情で、二人はソファに座る。
「それで、火種とは?」
「神野縁さん。あなたは、伝説のガイアーズ、後藤の血縁者であり、奇跡の子だ」
「...はい?」
「状況証拠しかねぇが、あなたは、紬の姉さんが産んだんだよ、
衝撃が、ここにいる一同を襲った。
「待ってくれ!出産器なしで子供を産むなんて正気の沙汰じゃない!どこかの出産院に記録はなかったのか⁉︎」
「それが、ねぇんですよ。どこの出産院をさがしても紬の姉さんが縁さんを作った記録が。なんで、なんかの邪法じゃねぇかと疑ってます。メシアンのね」
「邪法使ったとしても生身での出生率なんて0.1%切って50年は経ってますよ⁉︎どんな奇跡ですかそれは⁉︎」
「それは、こっちにも分からん。だが現に、産まれた神野縁さんは聖女だ。なんかあるだろ」
そんな時、一人冷静さを保っていたデオンがトンと床を叩く。それだけで皆の視線はデオンに集中した。
「私には、少し真相が見えてきた」
「本当か?」
「ああ。だが、その為にはエニシのお母さんの交友関係を調べる必要がある。一人で子供を産むというのは、まず不可能だ。必ず手助けした者がいる。憶測で誤った道を行くよりは、真実を知る者を探す方が効率的だ」
「流石、博識だな。デオン」
「...最近、古典文学にはまっていてね」
なんにせよ、次の目的は決まった。14年前、神野紬を助けた人を探し出すこと。大仕事だな。
「十文字さん、忙しい所すいませんでした」
「いや、構いませんよ。まぁ、縁さんを連れてきたのは驚きましたが」
「そういえば、母さんと十文字さんってどんな関係だったんですか?」
「...クソジジイの遊びで作られた、姉弟ですよ」
「じゃあ、伯父さんですね!」
「...ああ、そうなりますね」
「家族が増えました!」とガッツポーズを決める神野。まったく、呑気な奴だ。
「それで風切さん。心当たりはありますか?」
「ああ、一人。1ヶ月前に飛行機事故で亡くなった、私の姉だ」
その言葉に、ズキリと心が痛む。1ヶ月前の飛行機事故など、アレしかないのだから。
とりあえず、今日は時間も遅くなってきたので解散とする。その際に風切さんと神野の血液を採取して、DNA検査機関への依頼を済ませておく。結果が出るのはMAG反応比較と違い遅いが、神野の事を考えると古典的な方法の方が正確な結果が出るかもしれない。まぁ、経費で落ちるのだ、問題はないだろう。テンプルナイトの給料って高いらしいし。
「それで、どうしてドクターさんの所に向かってるんですか?」
「お前の検査だよ。体の中に異物入っているとかの厄ネタがこれ以上あったらたまらない。ただでさえ若干キャパオーバーだってのに」
「すいません、千尋さん」
「ま、半分くらいは好きでやってる事だ。気にすんな」
「千尋さんって、いつもそうですよね」
「性分だからな」
「辛く、ないんですか?」
「辛くても、苦しくても、やるべきことは変わらないよ」
「ま、サマナーってのは一人にはなれないんだ。多分大丈夫さ」
「...そうですね」
「フゥーッハッハッハ!よくぞ来たな新人サマナーよ!ちょうどこちらから連絡を入れようと思っていた所ダァ」
「どーもです、ドクター。電話の件お願いできますか?」
「ああ、聖女の検査だろう?正直何があるとは思えぬが、まぁやるとしよう」
「じゃあ報酬はいつも通りMAGで...」
「いいや、悪魔を2体貰おう。」
「まさか、完成したんですか⁉︎」
「その通ぉり!純粋な魔導科学のみによる悪魔合体システムがな!」
それが本当なら、ちょっとどころじゃない大発明である。悪魔召喚プログラムのブラックボックスとなっていた悪魔合体プログラムを解明できたのなら、それは値千金だ。理論がわかれば次なる進化系へとステップアップすることができるのだから。
「ところで、悪魔合体ってなんですか?」
「2体以上の悪魔の魂を合体させ、より強い悪魔を降臨させる邪法だ。元の悪魔の能力をある程度継承できることから、この業界における強者の使う悪魔は大体が合体産だ。うまくすれば、弱点をなくせるわけなのだからな」
「...じゃあ、元になった悪魔はどうなるんですか?」
「当然消えるさ。強い悪魔の意思に塗りつぶされてな」
「だから邪法なんだよ、悪魔合体は」
「そんなのダメです!悪魔だって意思を持ってるんですよ⁉︎」
「ところが、そういうわけでもない。悪魔が現世に出てくる理由は色々あるが、サマナーの仲魔になるものに多いのは悪魔合体により高位の悪魔へと転生したいという理由だからな」
「...え?」
「価値観の違いだろ。俺もその辺はよくわからんがな」
「...そうなんですか」
「さぁ、まずは検査の時間だ!カプセルに入るがいい」
その後、30分ほど検査を行った結果、神野縁の肉体は普通の人間
「ふぃー、疲れました」
「おつかれ、午後ティー飲むがいいさ」
「そういえば、買ってたの忘れてました」
「さて、新人サマナーよ、生贄に出す悪魔は決まったか?」
「...サモン、ノッカー、スパルトイ」
「ふぉっふぉっふぉ。別れの時か」
「より強い俺になってみせるぜ!サマナー!」
「2人とも、今までありがとう。礼の酒だ」
ストレージから吟醸ゆめさくらと皿を3つを取り出し、3人でそれぞれ注ぎ合う。
「お前たちの魂は、俺が有効に使ってやる。だから、心配なく行け」
「そんなものしとらんよ。サマナーは、初めて会った時から折れぬ心を持った者だったからの」
「そうだ、お前に命を救われたお前に戦う場所を貰った!悔いはないぞ!サマナー!」
なら、かける言葉は1つだろう。
「「「乾杯!」」」
「さぁ、合体だ!サーキットロック!ターゲットはノッカーとスパルトイ!追加MAGは2000!行くぞ!」
2つのカプセルにより、ノッカーとスパルトイの体を構成しているマグネタイトは解け、パイプを通って空のカプセルに入り、混ざり合い、新たな姿を形作った。
「鬼女 雪女郎。あなたの心が氷に侵されつくされるその時まで、側にいますわ、サマナー」
「ああ、ありがとう雪女郎。俺は
心に残るしこりは、雪女郎の目にあるノッカーの優しさが解いてくれた。
「ふぅむ、成功といえば成功だな。本来ならあの合体で生まれる悪魔はリャナンシーあたりがいい所。それをミドルクラス一歩手前の悪魔にまで上げられたのだ。悪くはない。だが、ハイクラスには届かなかったか...」
「じゃあ、ついでにもう一回合体依頼していいか?」
「ホウ、随分と積極的だな」
「今絡んでるヤマが、一筋縄じゃ行かなそうでさ」
「なら、悪魔を呼び出すがいい!」
「...サモン、モコイ、スダマ!」
「うーん、ついにこの時が来たって所だね。僕は別に構わないよ」
「し、めっ、ぽ、い、の、は、に、が、て、ダ」
「スダマ、お前喋れたのか⁉︎」
「練習してたんだよ。いつかくる別れのためにさ。僕ら、弱いから」
「...わかった、じゃあ酒だ!」
「おーけーさ!」
「さ、け!」
「「「乾杯!」」」
「さぁ、合体だ!サーキットロック!ターゲットはモコイとスダマ!追加MAGは1500!行くぞ!」
2人の消え行く様を、しっかりと見届ける。スダマは喋れないなりに愉快な奴で、突然の念話で笑わされそうになったことは一度や二度ではない。そしてモコイは、俺の二番目の仲魔だ。買ってからずっと、俺を守る盾であってくれた。本当に、感謝しかない。
2人のMAGが混ざり合い、新たな悪魔への誕生を導く。そんな時に「あ、事故った」との声が聞こえてきやがった。
「おい待て!こっちの貴重な仲魔に何してやがんだ!」
「仕方ないだろう!このシステムは試作品だ!これからのアップデートが必要なんだよ!」
そうして、カプセルの中の煙が晴れる。合体事故で現れる悪魔は、契約が結ばれていない。デオンを前に、雪女郎を中に、俺を後衛にして戦闘態勢に入る。
「そう構えんなやサマナー。殺意はねぇ」
「じゃあ、その戦意はなんだ?」
「...クカッ!手前らの力、試させろやぁ!」
「千尋さん!」
「手を出すな、神野!これは契約の為の戦いだ!」
「合体結果は、幻魔バルドルだ!弱点無し!打撃、電撃に耐性あり!」
「デオン、雪女郎、行くぞ!」
「ああ、魅せようか、私たちの力を!」
「初っ端かますぜ?万魔の乱舞!」
俺たち全員を狙っためくら打ち。技がないのか、大した精度ではなかった。余裕で回避可能だ。
「随分と品のない動きだね、バルドル!」
デオンの華麗な斬撃がバルドルの首を獲るかと思われた。だが、その剣は力場ではなくバルドルの肌により阻まれた。
「ッハ!温りぃな!」
「では、冷ましてあげましょう。
雪女郎の氷結魔法かバルドルを襲う。全身を氷で固められたバルドルは、動くことができなくなった。
だが、あの不敵な笑みは言っている。ダメージはないのだと。
「..逸話による防御か」
「知っているのかい?サマナー」
「悪魔の中には、大昔に語られた逸話の力を持っている奴がいるんだと。多分だが、あのバルドルって奴もそうだろう。頑強の逸話。多分伝説の聖剣だとかの弱点はあるんだろうが、今からそれを用意すんのは無理だな」
「では、逃げるかい?」
「いいや?殺して死なない奴ならば、殺さないで無力化すれば良い。サマナーの鉄則だよ」
「雪女郎、氷結を続けろ!バルドルを動かすな!」
「了解です、サマナー!」
「雑魚が粋がってなにかするってのかぁ?やってみろや!」
魔法陣展開代行プログラムを起動。リソースの限界である8つの魔法陣でバルドルを囲んで捕らえる。
「雪女郎、もう良いぞ」
「あら、もう終わったんですの?」
「早業が基本なんだよ」
空のMAGアブゾーバーのスイッチをオンにしてから、8つの魔法陣を作動させる。術式の内容は、サマナーや異界との契約によりこの世界にラインを結んでいない者に対しての絶殺技。
「しゃらくせぇ!万魔の...ッ⁉︎」
「吸魔術式、起動」
周囲のMAGの強制排出によるマグネタイトの真空状態を作り出す術式だ。形作るのに自分のMAGを使っているバルドルは、マグネタイト欠乏症で立つ事もできないだろう。傷をつけなくても、悪魔は殺せるのだ。
「さて、バルドルくん。ここでマグネタイトに分解されたくなきゃ、言うべき言葉はわかるよな?」
「...カッ!良いサマナーだな手前は!俺はバルドル、オーディンの息子!手前の勝ちだ。好きにしろ」
「
「言ってろ、悪魔よりも悪魔なサマナーさんよ」
バルドルと正式な契約を結び、新たな布陣となったところでまずはすることがある。
「雪女郎」
「はい」
「バルドル」
「おう」
互いに、皿に酒を注ぎ合う。バルドルも意外とノリは良いようだ
「「「この出会いに、乾杯!」」」
その日、俺は2人の強力な仲魔を味方につけることができた。
浅田探偵事務所にて、今日の調査報告書をまとめ、明日からの調査計画を所長に提出したところ、少し待ったをかけられた。
「千尋くん、この件だけともう少し守りに入らないかい?」
「どうしてですか?」
「メシアンとガイアーズの休戦協定が結ばれる前に、宿敵を殺そうと動いている者たちが多い。今彼らと接触するのは危険だよ」
「でも、待っていても巻き込まれます。神野の完全な人体に聖女の魂。悪用の仕方なんて思いつくだけでもごまんとあります」
「...じゃあ、事務所の皆で逃げちゃう?」
「それはないでしょう。敵は、いずれ来るんです。殺せる時に殺さないと後を引く。所長が言ったことでしょうに」
「...そだね。じゃあ、明日からは私も同行するよ。今日は風切さんが居たけど、明日からは君と縁ちゃんの二人になってしまうからね。ハイクラス使いからしたらカモだと見られてしまう」
「ありがとうございます、所長」
「いいさ、ここまできたら。誰が敵で誰が味方かはっきりさせた方がいい」
「間違って殺したら、大変だからね」
所長は、やはり
縁ちゃんの謎を追いかけながら所長のキチっぷりを紹介するお話が、次から始まります。書き切れるかなー?
調整平均8.9とかいう作者的にはヤバイ数字出しているこの作品の評価について、評価機能がどれほど使われているのかの個人的興味からのアンケート。暇な時にでもどうぞ。
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