少女はある一軒家を近くのビル屋上から眺めていた。その家はライブの際に負傷した観客の家だった。
ついさっき彼女がこの家に入っていくのが見え、ここが彼女の家なのだと理解した。ちょうど窓から中の様子が見え、母親と祖母らしき人物が彼女を見て喜んでいるのがわかる。恐らく彼女が無事に退院できたことが嬉しかったのだろう。
特に問題はなさそうだと判断し、その場を離れようとした時、何人かの少年達が彼女の家の前で立ち止まった。何事かと思っていると、少年達は塀に「人殺し」や「税金泥棒」と落書きしていく。それを見るなり少女は少年達に詰め寄る。
「おい、何してるんだお前らは?」
少年達は少女の存在に気付くも、悪びれた様子も無く言った。
「は?何って、お前知らねぇの?ここに住んでる奴ってあのライブに行ってたんだとよ。ニュースじゃノイズに殺された奴もいたけど、それ以上に避難する時の事故で死んだ奴の方が多いって話でさ。それってつまり、あのライブで生き残った奴は他人を蹴落とした人でなしじゃん。その上政府から保険金とか言って金貰うとかマジでふざけてるだろ。そんな奴はこんな事されても文句は言えないだろ!」
言い切ると同時、少年は窓へ向け石を投げつける。ガラスの割れる音が響き破片が飛び散る。家の中から怯えるような声も聞こえた。
その反応に対し、少年達はゲラゲラ笑っていた。まるで悪人が成敗される瞬間を見るように。
それを見た彼女の怒りのメーターは既に振り切れていた。最初に石を投げた少年を殴り飛ばし、何が起きたか理解できてない他の取り巻きも殴る。
「な、何すんだよ!?」
「黙れ!お前らはあの地獄をその目で見たのか!?一方的にノイズに殺されるしかなかったあの場所で、あの娘は周りの奴らを見捨てるどころか逆に助けていたんだ!」
殴られた頬を擦りながら少年は言う。
「それを見てたってことはお前も人でなしの仲間ってことじゃねぇか。お前ら!こいつのことやっちまおうぜ!」
仕返しとばかりに少年達が詰め寄ってくる。しかし、数年間をノイズとの戦いで過ごしてきた彼女からすれば、ただの喧嘩しかしたことのない動きなど簡単に対処できるものだった。息一つ上げず一方的にやられ、少年達が戦意喪失するのはすぐだった。そんな彼らに彼女は言い放つ。
「私のことをどう言おうが気にしない。だがあの娘を、人として尊い志をもった彼女を貶すことだけは許さない!」
少年達は必死に頷き、一目散に逃げていく。
この日を境に、彼女への嫌がらせは起きなくなった。学校での嫌がらせも今回の1件が噂として伝わり、する者がいなくなったのだ。
少女がこの事実を知るのはしばらく後のことだった。