いつものように発生したノイズを駆逐し終わった時、その男は現れた。茶髪でスーツを着た細身という見た目、周りにも同じような黒服がいることからどこぞの裏組織的な所の人間という予想がある。
「なんだ、お前ら」
「少し貴女の武装について話があるのですが、ご同行願いませんでしょうか?」
物腰は丁寧だが逃がす気は微塵も無い。どっちにしろついて行けば面倒くさいことには変わりないだろう。
無言でその場から駆けだし撒こうとする。しかし男は慌てる様子もなく拳銃を1発だけ発砲する。
「いきなり発砲とか荒すぎじゃないか」
「いえ、はじめから貴女を狙ってませんから」
「は?何言って…」
突如身体が動かなくなる。見ると先程の弾丸は少女の影の落ちた位置に撃たれている。
「ちっ、妙な技使いやがって」
「すみませんが、少しの間拘束させていただきますね」
手錠を付けさせられ連行されたのは学校のような建物だった。1台のエレベーターに乗せられ、途轍もなく長いエレベーターシャフトを下っていく。
やがてある部屋の前まで辿り着く。どうせコレを奪うか逆らえないようにしていいように使われるだけだろ。そんなことを考えていたが、そんな考えは大量のクラッカーの音で掻き消された。
「ようこそ!特異災害対策機動部二課へ!」
正面に立っている赤いシャツを着た逞しい体つきの男が言う。呆気にとられている少女をお構いなく男は言葉を続ける。
「我々は君を歓迎する。ゆっくり寛いでくれ」
「いや、ちょっと待て」
やっと思考が追いついた少女は男の言葉を遮る。
「いきなり手錠付けられて、連れてこられた場所で歓迎ムードってのはどういうことだ?あんたらがどういう組織で、何で私を連れてきたのか説明が欲しいんだが」
「あぁすまん。緒川、外してやってくれ」
先程妙な技を使った男・緒川が彼女の手錠を外す。
「それじゃあ改めて自己紹介させてもらおう。俺の名は風鳴弦十朗、ここの責任者だ。簡潔に言おう。君に来てもらった理由は我々に協力して欲しいからだ」
そう言うと同時、弦十朗の後方から2人の少女が歩いてくる。確か2人はあのライブで歌っていたツヴァイウイングの天羽奏と風鳴翼だったか。
「ダンナ!本当にこんなやつを仲間にするのか!?」
奏は始めから否定的な態度である。無理も無いだろう。文字通り血反吐を吐いてまで手に入れた力をもって人々を守ってきたのに、いきなり現れた人物から弱いと言われたのだ。到底協力関係を築けるとは考えられない。
「随分な嫌われようだ。お前が何でそんな態度なのかは理解している。だけど私は事実を言ったまでだ。『お前はまだ弱い』と」
「っ!テメェ!」
少女の言葉で完全に頭にきて殴りかかろうとするも、翼が奏を抑える。
「まったく、話にならない。今の言葉を聞いてこちらに怒りをむけるのか。お前は私を殴ることで強くなるのか?そうなら殴ればいい」
この少女の言葉は、言ってることは無茶苦茶だが結論は的確なことを言っている。だからこそ奏は少女の言葉に苛立ちを隠せない。
「じゃあ少し話題を変えよう。お前は何の為にギアを纏っている?」
「なんだと?」
「お前がギアを纏って戦うのはお前の意思なのか?それとも命令されて戦っているのか?」
その問いに奏は迷いなく答える。
「そんなの決まってる!家族を殺したノイズを殲滅させる為に、アタシはガングニールを纏ってる!その為だったらアタシは命だってー」
奏がそこまで言うと少女は目を見開き、貫手を奏の喉元寸前まで繰り出す。
「あんたの覚悟はわかった。それを否定する気もない。だけど簡単に命を懸けるなんて口にするな」
手を引きながら続けて少女は語る。
「それに、あの娘にあんたは言った筈だ。『生きるのを諦めるな』と。それを言ったあんたが命を捨てるようなことをしてどうする?」
その言葉を聞いて奏は気付かされ、何も言い返すことが出来なかった。
「少なくともそいつが、口先だけじゃなく真に纏う理由を持てるまでは仲間に加わるつもりはない」
「わかった、君の意思は尊重しよう。だがせめて、これだけでも受け取ってくれ」
弦十朗はそう言うと少女にデバイスを渡す。
「これは?」
「我々が使用している通信機だ。ちょっとした買い物もそれで済ませられる便利な代物だ。君の方から連絡したい時にでも使ってくれ」
「わかった、貰っておく」
そう言って少女は去ろうとする。
「そういえば、まだ君の名前を聞いていなかったな」
弦十朗の発言に少女は答える。
「紫雷ノエル、何かあれば連絡してもらってかまわない。話くらいは聞く」
そう言って少女・ノエルは部屋を出ていく。
「緒川、藤尭」
弦十朗が名前を呼ぶだけで二人は意図を察する。
「はい、彼女の身元調査ですね」
「ああ、拒絶まではいかないがあの様子じゃ話してくれなさそうだからな。何かしら情報が出たら報告してくれ」
「了解しました」
一方、奏はギアのペンダントを見つめている。
「アタシがギアを纏う本当の理由…」
その様子を翼は見ていることしかできないでいた。