赤の女王   作:HIPのYOU

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矛盾点や誤字があったら遠慮なく指摘してくださって結構です。設定も「違うだろォ?」と思ったら容赦なく私の事を蹴りしばいてくれてもいいのよ?

でも無言で低評価は簡便な!(切実)


二話:生きるために

 ガストレア大戦からおよそ九年。人類は一世一大の大博打に負けたことにより、その生存圏を大幅に縮小することを余儀なくされていた。

 

 殆どの国々は主要な都市以外をガストレアに明け渡し、そうして捻出した時間を使って『モノリス』を作り上げた。

 

 しかもただのモノリスでは無く、『バラニウム』と呼ばれる特殊な金属を用いたモノだ。漆黒の金属で構成された超巨大な構造体は人類が死守した区域である『エリア』を囲むように等間隔に配置されている。

 

 これに何の意味があるのか? 答えはバラニウムという金属の特異な性質を聞けば理解できるだろう。

 

 バラニウム――――火山列島に偏って埋蔵されているこの金属は常に特殊な磁場を発生させる性質を持っており、その磁場はガストレアの再生能力を著しく低下させることができる。

 即ち、人類がガストレアという怪物に対してほぼ唯一の切り札とも言える資源だ。これがなければ、恐らく人類は今頃全てガストレアに貪り尽くされ、地球上にガストレア以外の生命体は悉く消失していただろう。

 

 そして、そんなモノリスに囲まれた場所をエリアと呼び、此処『東京エリア』は隣接していた神奈川県、千葉県、埼玉県の一部を切り取りながら東京都から東京エリアへと改名された経緯を持つ。

 更に、元東京都中心部から若い番号が振られていき、国境線――――つまりモノリスに近いほど番号は嵩んでいく。その数、実に四十三。

 

 私の住んでいる下水道があったのは第三十六区。おおよそ三十番台から外周区という認識なので、ある意味ではまだマシと言える環境か。

 

 四十番台など原子力発電所や試作の核融合実験炉まで設立されているという話だ。とても人が住めるような場所では無い。……否、そもそも外周区の大半は廃都と化しているため、普通ならば誰も住みたがらない劣悪な場所なのだが。

 

 住んでいるのは私たちの様な『呪われた子供たち』や、何かしらの犯罪を犯して内地にいられなくなった無法者、後は好き好んで外周区に住みたがる物好きくらいだ。故に、治安も最悪であり、人影も少ないので人知れず誰かを殺すのにも最適な場所である。

 

 総評を下そう。最悪の場所だ。

 

 隠れ済むには最適だろうが、だからと言って満足に暮らせているのかと言われれば私は間違いなく否と答えるだろう。しかし、他に住める場所があるのかとも問われれば、同じ答えを返す。

 

 全くもって優しくない世の中だと思う。

 

 さて、長々と語ったが、今私たちは第二十六区に来ていた。外周区と比べれば幾分良い環境ではある者の、景気は余り良くないらしく、人の声も少ない。

 我々食糧調達班――――またの名を食料強奪チームは全員安売りの仮面を被りながら、路地裏から目標であるスーパーマーケットを凝視している。

 

 人気は少なく、警官もいない。襲うには最適な状況だろう。

 

 ……まずいな、公共施設を襲撃することに戸惑いがなくなってきている。私もだいぶこの世界に馴染んでしまった影響かもしれない。

 

「よし……もう一度作戦の再確認をするぞ。まず私が”コイツ”を使って中に居る人間を威嚇、動きを制限させる。その隙にお前たちは一気に目的のコーナーに行って、片っ端から可能な限り食料をナップサックに詰め込む」

 

 この集団のリーダー格であるイーヴァは腰のホルスターから小さな回転式拳銃(リボルバー)、ニューナンブM60と呼ばれるソレを取り出した。

 

 ………本当に一体どこからこんな物を調達しているのか。

 

「マリ、周囲の索敵しっかり頼むぞ。お前がしくじったら下手すれば全滅だからな?」

「わかってるよもう。そんなプレッシャーかけるような言い方しないの!」

「責任重大だから言ってるんだよ……」

 

 そう言えば、真璃は一体どうやって索敵を行っているのだろうか。

 

 力の解放による特殊能力の発露だというのはわかるが、どのような能力なのかは私は知らないし見たことが無い。別に質問するなと言われていたわけでは無いが、あまり個人的な事に深く踏み入るのはどうかと思い訪ねていなかったのだ。

 共に仕事をする中になるのだから、そろそろ詳しく質問して良いころなのかもしれない。

 

「そういえば、真璃はどんな能力を持ってるの……?」

「ん? あー、そう言えば一度も言ったこと無かったね~」

 

 その質問に対して真璃は驚いた表情になり、次にニッコリと笑顔を浮かべて――仮面で顔は見えないがそんな気がした――被っていたベレー帽を外した。

 

 すると、彼女の帽子の中から何か長いモノが肩まで垂れる。

 

 ――――それは、兎の耳だった。

 

「えーっと、私のモデルはウサギさんなの! だからとっても耳が良くてね――――」

「――――音が聞こえる範囲は一方向に意識すれば最長で二キロ。そして半径五百メートル以内なら一円玉の落ちた音すら聞き分けられる。欠点としてウサギの癖にあまり足が速くない上に、力を解放してない時はデカい耳がただの飾りになるがな。……で? あの中に何人いるんだ?」

「もう! 私に最後まで言わせてよ~! ……えーと、たぶん二十人くらいかな。出入り口近くに五人、レジに八人。残りは奥にいるっぽい」

 

 凄い能力だと、素直に思った。

 

 聴力が良いだけと書けばショボいと思うかもしれないが、それも突き抜けてしまえば大きな利点へと変わる。所謂エコーローケーションだ。

 音を利用しての周囲の情報収集。かなりの高精度が保証できるなら、索敵でこれ程頼りになる能力はそうそう無いだろう。

 

「手前に居る十三人は威嚇で抑えられるとして……奥に居る奴らが面倒だな。他三人はともかく自分の力すら把握しきれていないガキんちょじゃ荷が重いか。……アクィラ、コイツとツーマンセルだ。フォローしろ」

「……了解」

 

 ボサボサ髪の女の子が頭を掻きながら気怠そうに返事をした。どうやらこの子の名前はアクィラ、と言うらしい。

 

 ところでサラッと述べられてしまったが、実を言うと私は自分の能力を把握していない。

 別に怠けている訳では無い。力の解放自体はできるのだが、特に目立った特徴が現れなかったためモデルとなった動物が今だにわからないのである。

 

 幸い身体能力の上昇率は高水準らしいので鍛えればそれなりらしいが……如何せん地味だと言われると否めないのが困る。別に見栄えを求めているわけでは無いのだが。

 

「準備は良いか?」

「!」

 

 と、考え込むのも此処までにしよう。そろそろ作戦開始だ。

 

 

 ――――全員の瞳に紅い光が灯る。

 

 

 全力解放では無いが、それでも一般の成人男性を翻弄するには十分なレベルだ。

 

 

「…………走れッ!!」

 

 

 合図と共に全員が正面へと駆ける。おおよそ子供とは思えない速度が発揮され、ほんの数秒で数十メートルは開いていたはずの距離が詰められた。

 

 しかしこのままガラス張りの自動ドアに突っ込んでも大丈夫なのだろうか、と思っていると背後から影が凄まじい速度で飛び出してきた。

 その影は鳥のようでいて、しかし人の形の様でもあった。現実は、その半々だ。

 

 私の後ろにいた筈のアクィラは両手を鳥の翼に変貌させ、圧倒的な速度を叩き出しながら勢いを保ちながらその足をガラス張りのドアに叩き付ける。

 

 けたたましく鳴り響く硝子の割れる音が耳を刺した。思わずチラリと隣を見ると真璃が耳を押さえながら辟易としている。

 耳が良すぎるというのも考え物らしい。

 

「全員動くな! 手を頭の後ろに置いて屈め! 少しでも余計な動きを見せれば撃つぞ……!」

 

 硝子が割れた音に硬直していたスーパーマーケット内にいる者たちは、小さな銃口が向けられたことでようやく現状を理解したらしい。誰もが一歩後ずさり悲鳴を上げようとしている。

 

 それに対しイーヴァは無言で天井に一発だけ発砲した。自分の持っている拳銃が本物だと示すと同時に余計な動きを封じるためだ。

 

「お前ら、早く行け! 警戒を怠るな!」

『了解!』

 

 リーダーの指示に従って私たちは散開し、スーパーの客達の間を縫いながら各自の目的コーナーへ到着する。

 

 私の担当は保存の利きそうな菓子、乾パンのような類だ。私の年齢がまだ幼い故に軽い物を運べ、ということなのだろう。イーヴァは普段の態度こそ粗っぽいが、意外と皆への気配りは上手い。

 伊達に数年間もリーダーを務めていないという訳か。

 

 と、こんな事を考えている状況ではなかった。私は思考を中断させ、軽くジャンプしながら商品の棚をよじ登り、片っ端からナップサックの中に詰めていく。

 

 味はこの際無視だ。できるだけ長持ちする物を選んで――――

 

 

「――――このクソガキがァッ!!!」

「ッ!?」

 

 

 身体に怖気が走り、ほぼ同時に私の顔へと誰かの拳が叩き込まれた。

 

 あまりの突然の事に私は茫然としながら地面を撥ねる。しまった、選り好みするあまり周囲の警戒を怠った――――!

 

 すぐに立ち上がろうとするが、頭を踏みつけられて脳を揺らされる。まずい、不味いマズイ――――力上手く出せな――――

 

「は、ははっ。人間様に逆らうからこうなるんだよ、赤目風情が。お前たちは黙って俺たちに嬲られていれば――――」

 

 

「――――退け」

 

 

 背後で空気を叩く轟音が鳴り響いた。

 

 辛うじて眼だけを動かせば、両手を翼に変えたアクィラが空中で足を振り抜いた姿勢で固まっているのが見える。そしてさらに背後を見れば、通路の一番奥の食品棚を破砕しながら身体埋めている、私の背中を踏んでいたであろう男の姿が。

 

 目と鼻から血を流している悲惨な状態ではあるが、辛うじて生きてはいる様だ。

 

「…………え?」

「――――欲を出すなと、”片っ端から詰めろ”と言われたはず。……余計なことを考えているとこうなる。忘れるな」

「ご、ごめん、なさい……」

 

 ああ、成程。あの言葉には欲を出して余計なモノまで詰めるだけでなく、変な事まで意識しているとこうして足を掬われるという意味も籠っていたのか。嫌な形ではあるが、味方のフォローがついている時に気付けたのだから幸運とも言えるかもしれない。

 

「イー……リーダー! ヤバイ! 一キロ先からパトカー来てる!」

「チィッ! 近場で誰かがミスってやがったなクソッタレ……! 全員撤退だ! 早く戻れ!」

「!」

 

 流石の私も緊急事態と理解し、地面に転がったナップサックを拾いながら即座に離脱行動へと移行した。

 

 可能な限りの速度で全員と合流してスーパーマーケットを脱出し、四輪駆動を待機させている場所まで走る。いくら常識外の身体能力を持つ『呪われた子供たち』(私たち)でもスタミナは有限。何時間も走行できる自動車相手では流石に分が悪い。

 

 百数十メートル程駆け抜け、全員が隠していた車両に飛び乗る。間髪入れずにイーヴァはエンジンを点火して、ペダルを全力で踏みつけて第二十六区からの脱出を始めた。

 

「マリ! パトカーの数は?」

「えっと、えっと……二台!」

「たいちょー! それヤバくないですか! 前一台相手にしただけで全滅しかけた記憶があるのですが!」

「黙っていろ伏せてろサナ! 舌噛むぞ! くそっ、どうする……?」

 

 どうやらかなりマズイ事態らしい。……だが悲しいかな、私にはもう祈ることしかできやしない。

 

 私は銃の扱いも知らなければ周囲の地形を把握している訳でもないのだ。不本意ではあるが、こうしてお荷物としての立場に甘んじるしかない。精々が物でも投げつける程度が精一杯で――――

 

「この中で車の運転ができる奴手ェ上げろ!」

 

 手を挙げる。

 

 

「「「「「………………」」」」」

 

 

 全員から真顔で眼差しを向けられ、顔から冷汗が流れた。

 

 マズイ、完全に無意識だった。恩人たちのために役に立ちたいのは山々だが、流石にこれはふざけていると思われて殴られても仕方ないかもしれない。何処の世界に車の運転ができる四歳児がいるんだ。

 

 苦し紛れに「冗談です」とでも言って手を下げる――――前に、イーヴァに腕を掴まれる。あ、コレ殴られる。

 

「……できるんだな?」

「え?」

「ちょ、ちょっとイーヴァ!?」

「できるんだな?」

 

 運転中故に顔は見えないが、彼女が今現在とても真剣な表情をしているのは何となく理解した。

 

 ……運転ができると言っても、所詮は知識だけ持っているという話だ。経験は、無い。だがイーヴァが態々自分以外の運転手を探そうとしたのだから、恐らく彼女が戦闘に加わることで実行できる打開策があるのだろう。

 

 私はそう信じて、こくんと首を縦に振った。

 

 瞬間、私は腕を引っ張られてイーヴァと入れ替わるように運転席に座らされた。

 

「えっ」

「おら! ちゃんと前見て運転しろよガキんちょ!」

「ちょっ、待っ――――」

 

 急いでハンドルを握ってスリップしそうな車を落ち着かせる。ハリウット映画じゃあるまいしちょっと行動が無茶苦茶過ぎるぞリーダー。

 

「イーヴァ、何か手があるの?」

「でなければアイツに運転任せるか。ええと、たしか此処に……あった!」

 

 イーヴァは車体の奥からアタッシュケースを手に取った。一体何を――――と思った瞬間、ケースの中からやたらゴツイ武装が出てくる。

 無論ロケットランチャーやグレネードランチャーの様なトンデモ装備でこそ無かったが、その銃は映画やアニメでもよくよく見かけるほど有名なものであり、すぐに何なのか理解した。

 

 H&K MP5K。所謂短機関銃であるMP5のコンパクトモデルであった。更によく見れば、ケースの中には予備弾倉だけでなく手榴弾らしきものまで入っている。

 

 本当に何処から入手したんだそんなもの……!?

 

「えっと、イーヴァ。なにそれ?」

「昔、性質の悪い民警に襲われたことがあってな。その時に返り討ちにしてぶんどった装備だ」

「民警……?」

 

 民警。民間警備会社(PMSC)の略語だろうか。何故そんな物が日本に? 日本では銃刀法や警備業法によって行政機関である警察の様な者でも無い限り銃器の所持はできないはずなのに何故短機関銃なんてモノを持っていたんだ。

 

 いくらガストレアという怪物が蔓延る世界とはいえ、民間人に銃器の所持が認められているならば――――この世界、予想以上に治安がマズイことになっているのかもしれない。

 

 そんな私の考えを切り払うように、イーヴァはMP5Kのコッキングレバーの引いて重々しい音を響びかせる。つくづく子供とは思えない慣れた手つきだ。

 

 それから数秒後、パトカーがけたたましくサイレンを鳴らしながら追いかけてきた。その気迫に思わず硬直しそうになるが、唇を噛んだ痛みで心を誤魔化しながらアクセルを更に深く踏みつけた。

 

 

 ――――パァン!!

 

 

 背後から飛んできた弾丸が耳を掠めてフロントガラスに撃ちこまれた。

 

「ひっ――――」

 

 股の間から暖かいものが少しだけ漏れた。中身が成熟している癖にビビり過ぎだろって? 無茶言うな、成熟していようが銃弾が自分の傍を通り過ぎて怖がらないなんて訓練された軍人でもなきゃ無理だ。

 むしろ恐怖に負けてハンドルを切ろうとしなかったことを褒めて欲しいくらいだ。

 

「アイツら! 警告も無しに発砲かよ!」

「これが『犯罪者に人権は無い』ってやつなんですねリーダー!」

「たいちょー! これが『年貢の納め時』ってやつですか!」

「お前らは黙って伏せてろ言ってんだろうがアホ共! マリ、ナビゲーション怠るなよ!」

「合点承知! レーナちゃん右に曲がって右に!」

「ひぃぃぃぃ」

 

 情けない声を上げながらハンドルを右に切った。駄目だ、今の私では状況が整理しきれない。

 

 何でこの子供たちは今の状況をすんなり受け入れられているんだ。四歳児が車のハンドルを握ってパトカー相手にカーチェイスを繰り広げ、九歳児がサブマシンガンを警察に向けて構えている。おまけに警察の方は何も言わずに発砲してきている。

 

 訳が分からないよ。

 

 背後から何かが破裂する音が何度も聞こえてくる。イーヴァがサブマシンガンを乱射する音だ。しかしパトカーの走行は一向に止む気配は無い。

 

 背後を一瞥すれば、弾丸はボンネットやフロントガラスを貫けずにいた。そうか、防弾加工済み――――!

 

「チッ、ご丁寧にガラスまで防弾仕様か。だったら――――」

 

 サブマシンガンが効かないことを覚ったイーヴァは舌打ちしながらセーフティをかけて銃を放り、ケースの中から手榴弾を取り出した。

 そして、目を赤く変化させる。

 

「――――オォォォォラァッ!!」

 

 腕を鞭のようにしならせながら、イーヴァは全力で手榴弾をパトカーに向かって投擲した。

 

 目にもとまらぬ速度で安全ピンを抜かれていない手榴弾という名の金属の塊がパトカーのバンパーに叩き込まれる。あまりの衝撃にバンパーだけでなくボンネットが拉げたりしたが、パトカーは少しよろめいただけで走行を続けてきた。

 

「……あれ、何で爆発しないんだ?」

「イーヴァ、手榴弾はピンとレバーを外さないと爆発しないよ?」

「マジか。……まあいいか」

 

 イーヴァは面倒くさそうに腰のホルスターからニューナンブM60を引き抜くとおもむろにパトカーへと向けて数発程発砲。その内の一発が手榴弾に当たったのか、パトカーは前部を爆発させ地面を削りながら停止した。

 

 幸か不幸か、警官はどうにか脱出できたようだ。命が散る場面を見ないで済んだことに胸を撫で下ろしていると、私の肩が悲鳴と共にガクンガクンと揺らされる。

 

「レーナちゃん!? 前、前!?」

「え?」

 

 後ろに向けていた意識を前方に戻すと、もう一台のパトカーがこちらに向かって突っ込んできていた。

 

 そういえば、パトカーは二台だったと、真璃が言っていた。

 

 状況が余りにもコロコロと変わる者だから、すっかり忘れてしまっていた。まずい、正面からぶつかれば屋根が無いこの車両では全員放り出される。致命傷は必至。

 

 今から回避行動――――横転――――無理――――、

 

「チッ……」

 

 一瞬の出来事だった。

 

 アクィラは一秒も使わずに車両の横へ飛び出すと、ドアの縁を掴みながら身体を大きく振って車両に蹴りを叩き込んだ。その衝撃で車両は速度を保ちつつも真横にスライド移動し、アクィラはその反対方向へと弾かれるが腕を翼に変化させて上空へと逃れた。

 

 しかしこれですぐそばまで迫っていたパトカーとの正面衝突コースからずれることができた。

 すれ違う双方の車両。側面の塗料を甲高い金属の擦れる音と共にまき散らしながら、パトカーは私たちの車両を横切った。

 

「――――プレゼントだクソッタレども」

 

 いつの間にかイーヴァはサブマシンガンを構えていた。躊躇なく引かれるトリガーに合わせて無数の弾丸が隙だらけのパトカーの側面へと吸い込まれ、前輪と後輪のタイヤを食い破って中に詰まった空気を破裂させた。

 これでもうあのパトカーは私たちを追跡することができなくなった。

 

 

 私たちの、勝ちだ。

 

 

 因みに、その暴力的な不快音の波に優れた聴力を持つ真璃は耳を抑えて限界まで顔を歪めていた。彼女だけは索敵のために力の解放を続けていたので咄嗟の事態により起こされたソレを防ぐことなどできず、ほぼ最大音量であの音を耳に入れてしまったのだろう。

 

 後で何かしらの労いをしてあげた方がいいかも知れない。

 

「……よい、しょっと」

 

 空を飛んでいたアクィラが元居た席へと帰還する。……最初は互いに気にもしない関係のはずだったのに、二度も域的状況を救われてしまった。

 

 後でちゃんとお礼を言っておこうと、私は心に深く刻んだ。

 

「ナイスだ、アクィラ。ガキんちょのフォローも含めてな」

「ん……なら報酬は弾んでね」

「わかってるよ、ったく。相変わらずがめつい奴だな……おいガキんちょ、もういいぞ。運転代われ。お前の滅茶苦茶な運転がこれ以上続いたら酔っちまいそうだ」

「え、あ、はいっ!」

 

 とっさにブレーキを踏んで減速し、ふらふらと力の抜けた身体を動かしながらイーヴァと席を交代した。

 

 ああ……疲れた。

 

「…………おい」

「え? な、なんです……?」

「運転席がなんか濡れてるんだが」

「――――――――」

 

 ……そういや弾丸が耳をかすった時に漏らしたんだ。

 

「漏らしたんですか?」

「漏らしちゃったんですか!?」

「そっ、その……ごっ、ごめんなさいぃ……」

 

 自分の情けなさに涙が出てくる。何だろう、この、いい年した大人がおねしょしたのを家族にバレてしまった様な羞恥心は。

 

「レーナちゃん! だいじょーぶ! 美少女のおしっこはご褒美だって、なんかの本に書いてた! ……あー、耳痛い……

 

 お前は何を言ってるんだ。

 

「おいアホマリ、後でその本教えろ。今日の分の燃料にするから」

「イーヴァ、本は大事に扱わないと駄目だよ?」

「んな本は大切にしてても子供たちへの悪影響にしかなんねーんだよこのバカ!」

 

 何だろう。今の今まで真璃の方が常識人だと思っていたが、実はイーヴァの方が一番常識を持っているのではと思えてきた。いや、実際にそうである可能性が実に高い。

 

「……あのさ、いい加減出発しないと追いつかれるよ?」

「リーダー! お腹が空いたのでなんか食べてもいいですか!」

「たいちょー! お肉食べたい!」

「うるせぇぇぇぇええええ!! 勝手に食えアホ共!!」

 

 殆ど半ギレ状態になりながら、イーヴァは我々の家(下水道)への帰還を再開させる。

 

 ……気が付けば、空はすっかり夕暮れ模様だ。綺麗な絵の具で塗ったような夕焼けがボロボロの廃都を照らす様は、まるでこの時代の象徴のようにも感じた。

 

 身体を縛っていた緊張感が抜けたことでふと、思う。

 

 

(……どうして、私はこの世界に生まれたのだろうか)

 

 

 私は、自分の事を”異物”だとしか思えなかった。

 

 前世――――と言えるかどうかは怪しいが、普通ならば子供が持ちえない知識と視点を与えられ、私は終わりゆく世界に組み込まれた。それに一体、どんな意味があるのだろうか。

 

 意味など無いかも知れない。ただの偶然だと言った方が一番説得力はあるだろう。

 

 探すべきだろうか。

 

 自分がこの世界(ここ)に居る意味を。

 

 

「レーナちゃん? 空なんかじっと見つめてどうしたの? 何か見つけたの?」

「……ううん。――――こんな世界でも、夕日は綺麗なんだな、って」

 

 

 真璃の手を握りながら、私はそんな他愛のない答えを返した。

 

 

 




Q・主人公って中身男?
A・(男でも女でも)ないです

Q・こいつら幼女にしてはメンタルが強すぎる
A・(こんな幼女に厳しい世界で何年も何度も略奪を繰り返して生き抜いているんだから)当り前だよなぁ?

Q・この小説ってこんなノリで行くの?
A・(色々成長して乗り越えて最終的には大暴れするようなモノ書きたいから)見とけよ見とけよ~。

Q・その……幼女が死ぬ展開というのは?
A・やりますねぇ!(無慈悲)
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