赤の女王   作:HIPのYOU

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日常という物は非日常にとって掛け替えのない物である。そこにあって当然だと思っているその意識はただの思い込みに過ぎないのである。

つまり失って初めてその大切さと尊さがわかるってそれ一番(ry


五話:私たちの日常

 突然だが、外周区に住む子供の中に文字の読み書きができる者はどれほどいるのか、想像できるだろうか。

 

 驚くなかれその識字率五パーセント以下。だが世界の情勢を考えればむしろ当然とも思えた。このご時世、誰が好き好んでガストレアウィルスに感染している子供に文字など教えるだろうか。

 

 あまり想像できないかもしれないが、文字を覚えるというのは非情に大変だ。日本人でも「ハロー」やら「ニーハオ」など、外国の簡単な挨拶程度ならばそこそこ出来るだろう(大体の場合発音は杜撰だろうがその問題は置いておく)。

 

 だがそれを「文字に起こせ」と言われてできる者は、個人的な想像であるがほぼいないと見ていい。世界中で普及している英語はともかく、中国語やフランス語、ドイツ語等々は無理だ。

 

 文字を教えるというのは非常に大変だ。そして、この外周区には『呪われた子供たち』に文字を教えたがるような物好きは一握りで、探すのは困難を極めるだろう。更に雇うための費用も掛かる。当然、日々を生きるのに精一杯のマンホールチルドレンの小規模集団にそんな懐の余裕などある訳がない。

 

 だからこそ私たちが――――即ち文字の読み書きができる者ができない者に教えるしかなかった。

 

 生きるのに文字の読み書きなんて必要なのか? と思うかもしれない。実際、生きるだけなら”必要”ではないことは否定できない。だが”役立つ”のは確かだ。それに、できるのとできないのでは大きな格差があるのだから、読み書きができるに越したことは無いだろう。

 

 少なくとも本が読めれば子供の知識と見識は豊かになる。立派な大人に成長するためにも、こういったスキルは決して外せないものなのである。

 

 計算も大事だ。これができなければ、彼らはこれからの生活を無計画に過ごさなければならない。一日一日を行き当たりばったりのその場しのぎの生活になる――――そんな生活が長く続くわけがない。

 故に、しっかりと計算・計画できる能力を育てなければならない。万が一、文字の読み書きや計算のできる年長者組が何かしらの切っ掛けで消えてしまったとき、何の能力も持たなければ彼女らの未来は問答無用で閉ざされてしまうのだから。

 

 この子達には未来がある。だからこそ未来を豊かに、安全にする能力を身に付けさせなければならないのだ。

 

 だからこそ年長組はある程度心の育ってきた者達――――主に四歳から五歳以上の者に対して、一週間に数度程文字の読み書きができる者と共に教鞭を取っている。無論、彼女らとて複雑な知識は無い故に、基礎中の基礎しか教えられないのが難点だが、何もしないよりはよっぽど良い。

 

 現在、私のいる場所はすっかり壊れ果てた小学校だったものの残骸だった。砲弾や爆弾が直撃したのか天井や壁は残らず崩れており、三階建てだと思われた小学校は一階部分にあった教室を幾つか残して跡形もなく消滅していた。

 

 その残った教室も殆ど吹き抜けの様な物で、イーヴァたちは辛うじて黒板が無事だった教室を利用して教鞭を取っていた。

 因みにチョークはホームセンターで買ってきた焼き石膏や卵の殻を使った自家製の物だ。質が良いとは言えないが、それでも黒板に文字を描くには十分な代物だ。

 

 それて、今はイーヴァが三人の子供たちに算数を教えている様だが――――。

 

「――――だから、ゼロはどんな数で割ってもゼロになるんだ。わかったかガキども」

「せんせー! ならゼロはゼロで割っても一にならないんですかー?」

「は?」

「さっきせんせーは『同じ数字同士で割ると必ず一になる』って言ってました。それって嘘だったの~?」

「あ、いや……え? ゼロをゼロで割ると一になる……のか?」

「せんせー! りんご三個をゼロ人で割るとどうなるですかー? 三個になりますか、それともゼロ個なんですかー?」

「え? え? ……えぇ?」

「せんせー!」「せんせー!」「せんせー! せんせー!」

「うるせぇぇぇぇええええええ――――ッ!! 私が知るかァァァァ――――ッ!!!」

 

 すっかり古びたかなり昔の教科書を隙間から芝生の生えたフローリング床の上に叩き付けてイーヴァは悲鳴にも似た声を上げた。

 

 彼女の名はイーヴァ。算数に関しては九九と二桁の計算はできるが、三桁からは「生理的に無理」と言いだしてやる前から匙を投げるタイプの女児である。

 

「もー、駄目だよイーヴァ。割り算くらいちゃんと教えてあげなよ~」

「私は学校の先生じゃないんだよ! クソッ、こういう余計な質問ばっかりしてくるからガキの相手は嫌いなんだ! これやるくらいなら私は警官(サツ)とやり合う方が断然いいわ!」

「イーヴァは我が儘だなぁ……。あ、みんな~。休み時間だからもう自由にしていいですよ~」

「「「やったー!」」」

 

 待ちに待った休みの時間が訪れたことで、小さな椅子に座っていた子供たちは一斉に立ち上がって外へと駆けだした。やはり子供にとっても勉強と言うのは窮屈なモノらしい。

 

「……その点、お前は教える前に全部覚えていたからずっと楽だったな。ったく、一体どこから覚えてきたのか……」

「個人的にはレーナちゃんと一緒に勉強したかったんだけどな~」

「あ、あはは……」

 

 端っこで歴史書を呼んでいた私はそんな指摘をされて苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

 だって仕方ないことだ。生まれた時から既に頭に”在った”のだから。一応私の頭は大学レベルとまではいかないが、高校レベルまでの知識を修めている。今から飛び級して高校にぶち込まれても、恐らく中堅クラスの成績なら取れるだろう。

 

 うん、我ながらズルいとは思う。おかげで助かっている所は多いけど、子供たちと一緒に一から学ぶ喜びを知れないというのは、少し残念だった。

 

「ま、その分戦い方は杜撰も杜撰だがな。そっちを教えるのは得意だから、私としては楽で助かるよ」

 

 私が食料強奪チームに編入されておよそ一週間。その間に私はイーヴァに徹底的に扱かれていた。

 

 彼女の戦闘術は我流。長年路上でチンピラやら警察やらと戦っている内に洗練されたのだろうか、型にはまらない動きながらその動きは無駄と言う物を可能な限り切り詰めた代物だった。

 

 故に言葉での指導は難しく、彼女や他の者と実際に手合わせして体で覚えていくというのが一番良いとは彼女の弁。この一週間で基礎能力を地道なトレーニングで伸ばしつつ、一日の最後には必ず組手を行うことで私の戦闘スキルは一週間前とは比べ物にならないレベルで上がっている。

 

 教え込まれたのは基本的な徒手格闘は当然の事、周囲にある物を使っての戦闘が主だ。外周区には武器に使えそうな瓦礫などが探せばそこら中にある。

 

 何故そんな戦い方なのかというと、私たち『呪われた子供たち』はとんでもない怪力や俊敏さを持っていると言っても、一部を除いてリーチは子供のソレ。故に遠距離から攻撃されればひとたまりもない。

 その為の道具を使った戦い方。棒切れを使ってリーチを埋めたり、石を投げつけて相手の飛び道具を弾いたりと――――野性味満点ながらその戦闘スタイルは「外周区で生き残る」ことに関しては実に完成度が高い。

 

 無論、周りに使えそうなものがなくても最低限戦えるようにも訓練している。そういう意味では私が習っているのは「戦うための術」ではなく「生き残るための術」と言えるかもしれない。

 

「いやぁ、レーナちゃんは私と違ってグングン強くなっていくよね……。羨ましいなぁ」

「お前は成長方向が索敵特化だからな。ま、その方面で役に立ってくれれば文句は言わないさ」

「私も、真璃はそのまま得意なことを伸ばしていけばいいと思う」

「えへへ、ありがと、二人とも」

 

 そうやって三人で談笑していると、外から子供がボロいサッカーボールを持って飛び込んできた。ああ、そう言えば次の授業は……。

 

「せんせー! もうサッカーの時間始まってるよ! 早く来て!」

「ん、もうそんな時間か。はいはい、今行くよ」

「ほら、レーナちゃんも行こ!」

「うん」

 

 数学や国語などの学問は基本的に午前で終わる。それ以上は子供たちが癇癪を起こすというのが年長組の長年の研究の末の結論であり、その後は運動によってストレスの解消に励むことで次の日まで疲労を持ちこさせないという中々考えている方法を取っていた。

 

 運動は色々な種類をローテーションで行っており、今日はサッカーだ。ルールもかなり緩めで、オフサイドの様な子供にとって複雑なルールは採用せず基本的なモノのみで構成されている。

 

 更に言えばこの放課後運動、かなり巧妙な意図を持って運行している。そう―――――「力の制御」だ。

 

 私たちの全力の力ではボールは瞬く間に破壊されてしまう。その為年長組が毎度の如く子供たちに「ボールを壊さない様に」と再三忠告をし、子供たちもボールを丁寧に扱うために努力する。これによって「力の加減」という事を覚えさせるのだ。

 

 その事実を聞いた時にはよく考えていると素直に感心したものだ。

 

「はーい! それじゃあみんな~。ボールを壊さない様に楽しく遊びましょうね~!」

「「「「「は~い!」」」」」

 

 こうしてサッカーを始める私たち。しかし人数は全員合わせて十二人程とそこまで多くは無いし、年齢にもかなりバラつきがある。

 仕方ないと言えば仕方ない。前に述べたと思うが、ここの下水道に住んでいる少女たちはおよそ二十人ちょいだ。その中には赤ん坊もいるし、モデルになった動物の影響かあまり外に出たがらない者もいる。

 

 サッカーをする人数としてはかなり少ないが、それでも軽く遊ぶには十分か。私は少し離れた所からイーヴァの快進怒涛のテクニックを眺めながらそう独白する。

 

「ほらほら! ちゃんと身体を動かせ! 相手の行動を先を読むんだ!」

「せんせーつよーい!」「ずるいずるーい! 私にもボールちょーだい!」「手加減してぇ~」

 

 イーヴァは力を解放せずともプロ顔負けのテクニックで年下の子供たちを複数人相手にしていながら歯牙にもかけない。これを凄いと思うか大人気ないと思うかは人それぞれだ。因みに私は後者だった。

 

 ついに子供たちは一斉に飛びかかるが、イーヴァはそれすら読み切っていたのかボールを両足で挟んで高くジャンプ。子供たちの猛攻を華麗に回避し切って見せた。シメのドヤ顔が地味にイラッとくる。

 

 頬を爪で掻き、私は日々の練習を思い返しながら数泊の間を挟み、疾駆する。

 

「むっ!?」

「ふっ――――!」

 

 勢いを保ったままイーヴァがキープしているボールに向かってスライディングを繰り出す。が、あちらもそう簡単にボールを取らせてはくれず、ボールを足のつま先に引っ掛けて空中に浮かせることで回避した。

 

 それを読んでいた私はスライディング中に体勢を変えて両足を軽く開き、身体を仰向けにしたまま両手を地面に着かせて――――そのまま跳ね起きの要領で空中に躍り出て、開いた足でボールを挟んで確保しながらイーヴァの横を通り抜けた。

 

「はあぁぁっ!?」

「あでゅー」

 

 フハハ、余裕で躱せると思ったうぬが不覚よ。

 

 密かに練習していた超絶的なテクニックで不意打ちに成功した私は悪い笑みを浮かべながらボールを蹴りつつ全力で相手側のゴールへと迫る。

 

「させなーい! たいちょーのゴールは私が守る!」

 

 後十メートルに差し掛かった頃、横からディフェンス役である同僚の佐奈が飛び出してきた。

 

 私は即時に減速しながらインサイドでボールを高く、佐奈の身長では届かない高度まで打ちあげる。予想外の行動に茫然とする彼女を一瞥しながら間髪入れずに少しだけ力を解放しつつジャンプ。そのまま佐奈を飛び越えながらオーバーヘッドシュートで相手側のゴールにボールを叩き込んだ。

 

 佐奈が割って入ったことでボールが来ないと油断していただろうキーパー役の子供はボールがゴールの中で転がっていることにようやく気付き、私の着地と共にガクッと膝から崩れ落ちた。

 

「レーナちゃんすごーい!」「かっこいー!」

「ぶい」

 

 ドヤ顔と共にVサインを空に突き上げて勝利アピール。ふぅ、決まったぜ(ドヤァ)。

 

「お前そんな技何処で覚えてきたんだよ……いや本当に」

「イーヴァにギャフンと言わせるためにいっぱい練習した。いつも訓練でやられているお返し」

「私への当てつけかよ!? せめて組手中にやれアホタレ!?」

「イーヴァ、負け惜しみは良くないと思うよ~」

「うんうん」

「お前らなぁ……」

 

 最近は真璃と一緒にイーヴァを弄るのが楽しくなってきた今日この頃。勿論やり過ぎず適度に、だ。彼女もそれをわかっているのか、毎度額に血管を浮かべてはいるものの、最終的には水に流してくれる。

 

 日々が充実しているというのは本当に素晴らしいことなのだと改めて思う。

 

「むぅぅ~~~……!」

「ん……? 佐奈、どうかしたの?」

「フン!」

 

 私に抜かれたのがそんなに悔しかったのか、佐奈は恨めしいものを見るような目で私を睨みつけてきた。そんなに悔しかったのか? と思ったが……何となく違和感がする。

 

 そう。確か彼女は別に勝負事にこだわるような性格ではなかった、はず。だったら一体何故……? 何か彼女の気に障るようなことをしただろうか。

 ……駄目だ、何も思いつかない。というか彼女と交流した記憶がそもそもあまりない。あるのは大体組手の時とリザと食い物を奪い合っているのを眺めているものくらいだ。

 

 一体私の何が彼女を不機嫌にさせているのだろうか……?

 

 結局、サッカーが終わるまでその原因がわからないまま悩み続けたが、一向に疑問の答えは見つからず、そのまま日が暮れて一日の働きは終わるのだった。

 

 

 

 因みにサッカーの試合の行方は、突如本気を出したイーヴァによって十点もの差を付けられてボコボコに叩きのめされ、私の方のチームの敗北に終わった。その大人気ない行動に子供たちは泣いた。

 

 そしてイーヴァはシルに怒られた。

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼

 

 

 

 

 私たちは一ヶ月に一度身体を清潔にするために一緒に住んでいる者全員で一緒に体を洗うようにしている。

 

 例え私たちがガストレアウィルスの恩恵により下手な病原菌程度ならば数秒もせずに死滅させられるとは言え、下水道に染みついた臭いを四六時中嗅ぐとなると精神的に厳しいと言わざるを得ない。一応慣れればそこまで気にはならなくなるし、天幕の中には申し訳程度ではあるが消臭剤を置いていたりするが、それでも人間臭いものは臭いのだ。

 

 少なくとも下水道の外に出ても己の体に付いた悪臭を常に吸うなんて余程頭のイカれたアホでもなければしたくはないだろう。だからこそ私たちは下水を可能な限りろ過した水を加熱した水や他所から汲んできた塩素たっぷりの水道水を使い、そして消費をできるだけ抑えるために全員で体を洗うようにしている。

 

 ……しかし、身体を洗う場所が下水道の中のままなのはどういうことだろうか。

 

 幼女たちが何の囲いも無い屋外で身体を洗うのもそれはそれで問題ではあるのだが、鼻がひん曲がりそうな匂いとシャンプーやボディーソープの香りが混ぜ合わさってクソみたいな不協和音のハーモニーを奏でているのはどうにかしてほしい。

 

 私はため息を吐きながら少し温めのお湯に浸らせたタオルで全身を拭き、希少なボディーソープをタオルに少しだけかけるとゴシゴシと擦って泡を出して再度身体を擦る。

 

 一人でやるのは初めてだが、今まで他の人がやっているのを何度も観察しているので問題は無い。

 

「お、一人でもちゃんと出来てるみたいだな」

「ん、大丈夫」

 

 イーヴァが私の隣に腰掛ける。彼女は年長組故、赤ん坊の体を洗うという役目がある。今しがたそれが終わったのだろう。

 

 彼女から目線を外しつつ全身を擦り終えると、次は手桶に入った少ない水を最大限節約しながら身体の泡を落とす。無計画に使うと確実に泡を落としきる前に使い終えてしまうので慎重にやる。因みに落としきる前に使い終わった場合、他の者が終わって水が余っていることを祈るしかない。

 

 最後はシャンプーだ。二つ目の手桶の水を使って髪全体を濡らし、それから丁寧にシャンプーを手の上で泡立たせ、頭のてっぺんから毛先まで丁寧に髪に泡を馴染ませていく。

 

 ――――いや、良く考えたらウィルスの恩恵のおかげで多少髪が傷んでも勝手に治るから問題無いのでは?

 

 その結論に至った瞬間、今まで『女子の髪の正しい洗い方』という本で勉強していた髪の洗い方が頭の中からすっ飛んだ。途端に馬鹿らしくなった私はイラつきに従ってワシャワシャと乱暴に腰まで届くほどに無駄に長い髪を泡立て、これまた節約しながら髪に着いた泡を落とす。

 

 が。

 

「――――いぃっ!?!?」

「うわっ、なんだいきなり叫んで。どうした?」

 

 ヤバイ。泡が目に入った。メッチャ痛い。

 

「目、目にシャンプーが入ってぇっ……!」

「あーったく、仕方ないな……。ほら、こっち向け。洗ってやるから」

「うぅ……」

 

 イーヴァは暖かいお湯でシャンプーが入った方の目を丁寧に洗ってくれた。いくらウィルスの恩恵があっても異物に対する反射行動と刺激は防げないらしい。

 

「むぅぅぅぅううう~~~~!!」

「あん? どうした佐奈。お湯が無くなったか?」

「何でも無い!!」

「?」

 

 目が見えないのでよくわからないが、佐奈の機嫌が過去最高に最悪なのは理解出来た。

 

 何故だ。私何もしてないのに。……いや、もしかしてイーヴァか? イーヴァが彼女に何かしたなら納得はできるが、彼女はガサツで物騒で口が悪くて言動がちょっとアレなだけで根は良いし、可能性は低い……低いか?

 

「イーヴァ。あの子に何かしたの?」

「いや、さっき会った時は普通だったんだが。……お前、何かしたのか?」

「覚えがない」

「だよなぁ……」

 

 そもそもここ一週間イーヴァに引っ付いていたようなモノなので、私が佐奈と関わりが薄いのは彼女が既に知っている事だろう。だからこそ何故あんな態度なのかが不可解すぎる。

 イーヴァが原因でないとしたら必然的に原因は私ということになるのだが――――本当に心当たりがない。

 

 彼女とは今後一緒に仕事をしていく仲なので、可能ならば彼女とも潤滑な関係を結びたいのだが……。

 

「まあ、その内気も晴れるだろ。ほら、もう綺麗になった。早く服着て寝ろよ。子供は寝て育つんだから」

「……九歳って子供じゃ無いの?」

「他に大人がいるなら、私だってこうやって大人の真似事はしないんだけどな」

「……そうだね」

 

 現状における一番つらい問題を皮肉のお返しに受けてしまった。

 

 恨めしいかな、真の意味での年長者がいない我々のグループ内では精神的な拠り所がかなり限られている。年長組という頼もしい存在が居るものの、彼らは一体何を拠り所にして過ごしているのだろうか? 自身らが間違えれば他の者が死にかねないという重圧に対するストレスを誰に吐き出しているのだろうか?

 

 ……まだ幼い彼らにとって人の命は背負うには重すぎる。私ですら御免だと思えるのに、それを自ら率先して背負おうとしている彼女らの様は痛ましさすら感じる。

 

 一番良い対処法は、私たちに悪い感情を持たない、頼りになりそうな大人を連れてくることなのだが……砂漠の中から一本の針を探すようなモノだ。現実的じゃなさ過ぎる。

 せめてこんな場所よりもっと良い環境を用意できれば、ある程度失敗しても大丈夫なくらいの”保険”を用意できれば良いのだが。

 

(……寝よう)

 

 此処で確かに言えるのは、彼女らより多くの知識を持っている私でさえ現状を明確に打開できる策は思いつかないという事だ。仕方ないだろう、『呪われた子供たち』には人権など存在しないも同然だ。一部の例外を除いて隠れてコソコソと暮らすしかない。

 

 この憎しみの炎が広がり過ぎている世界で生きるには、私たちはあまりにも弱すぎる。肉体的にではなく、社会的に。

 

 此処東京エリアの統治者たる『聖天子』が『ガストレア新法』という、私たちの基本的人権を尊重するべしという法案が通れば幾分か改善はされるだろうが……施行されるかどうかはかなり厳しいだろう。

 個人的意見を言わせてもらえば八割通らないと見ている。世界人口の八割以上がガストレアに対して憎悪を抱いているというのに、誰がヤツらと同じ目を持つ得体の知れない何かに対しての人権などを尊重するというのか。

 

 それに、どうせ通ったところで私たちへの憎しみは消えない。

 

 どれだけ偉い人間が説こうが、命令しようが、自分の中で折り合いが付けられないならば、自分から消そうと思えないなら――――人の中に在る憎しみは絶対に消えやしないんだ。絶対に。

 

 服を着て、毛布を手に自分の天幕の中に入る。

 

 

 ――――一体何時まで、こんな生活をしなければならないんだろう。

 

 

 その問いに対する答えは、きっと誰も返せない。

 

 深いため息を吐いて、私は瞼を閉じて深い眠りの中に入った。

 

 

 

 

 

 

 

 冷たい風が顔を叩く感触が、微睡の海の底に沈んでいた私の意識を引き上げる。

 

「あ…………?」

 

 ちょっと待て、冷たい風? 馬鹿な、あり得ない。下水道の中は発電所の排水が流れているから寒いなんてこと決してありえない。あったとすれば発電所の稼働が止まることだが、止まったところで数時間程度で熱が全て消えるなんてことは無いだろう。

 

 だとすれば、此処は下水道の中では無い(・・・・・・・・・・・・)、ということになるのだが……?

 

 

 重い瞼を開けると――――私は何故か送電鉄塔の最上部に宙づりになっていた。

 

 

 

「…………………………は?」

 

 

 

 




ブラック・ブレットの二次小説もっと増えろ増えろ……(願望)
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