世にも奇妙なオーバーロード   作:kirishima13

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第2話 二人の変態

 たっち・みーが帰った。その知らせにモモンガは悄然とする。

 すぐさまアルベドから事情聴取をするも、「本人からそう言うように言われた」と言うのみであった。  

 切望してやまなかったギルドメンバーとの再会から一転、釈然としない気持ちのまま、ナザリック内の捜索を命じていた。

 

 (でも、たっち・みーさんが帰ってきたことは間違いない!もしかしたらナザリックの外に出ているかもしれないし、他の仲間たちも……)

 

 可能性と言う希望を捨てきれないモモンガが出向いたのは城塞都市エ・ランテル。それも漆黒のモモン、漆黒の全身鎧を纏った戦士としてだ。向かうは当然冒険者組合である。

 なお、ナザリック外の状況が不明確なため、相棒役のナーベラルはナザリックに残してきている。

 

「すまない。冒険者としての登録をお願いしたい」

「冒険者の登録でございますね、それでしたら……」

 

 早速、受付嬢へと声をかけ登録手続きに入ろうとしたその時、後ろから壮年の男が切迫した様子で声をかけてきた。冒険者組合長のアインザックだ。

 よく見ると周りにいる冒険者たちもざわついており、装備品を取り出すもの、急いで扉から出ていくものなどただ事ではない様子だ。 

 

「待ちたまえ。君、冒険者になりたいと言ったのか?よし!ほら、受取りたまえ」

 

 言うが早いか(カッパー)の冒険者プレートが放り投げられてモモンガは混乱する。

 以前はこんなことはなかった。あまり詮索されるということもなかったが最低限の質問や手続きを得て冒険者プレートを受け取ったはずだ。

 

(なんだ?本当に何が起こっている?)

 

「組合長!今手続きをしているところです。それに手数料をいただいておりません!」

 

 アインザックの余りにもルールを逸脱した行為にさすがの受付嬢も異議を唱える。しかし、アインザックはそれを意にも介さず断言する。

 

「手続きも手数料もあとで構わん!緊急事態だ!猫の手も借りたい。君、裏の訓練場にすぐ来てくれ!おい、この場の冒険者もすべて裏に集まるんだ!」

「は、はい」

 

 アインザックの鬼気迫る雰囲気に飲まれたのか受付嬢も顔に冷や汗を垂らすと、席を立ちあがり冒険者たちを集めるべく走り出した。

 

 

 

 

 

 

 裏庭に集まった冒険者たち。本来この場所は訓練などに使用される場所だ。

 そこには様々な階級の冒険者たちが集まっていた。それこそエ・ランテルでの最高位であるミスリル級から冒険者になりたてのモモンのような銅級まで、その数は数百人はいるだろうか。冒険者は一騎当千の傭兵のようなものだ。この数の冒険者は国家の保有する軍の数千人どころか数万人に値するだけの兵力だ。それも過剰と言えるだけの兵力だろう。

 

「さて、諸君に集まってもらったのは他でもない。緊急の依頼があるからだ。それも非常に重要なものだ。心して聞いてほしい」

 

 アインザックの重々しい宣言にざわついていた冒険者たちも静まり、表情も真剣なものへと変わる。

 

「この町に危機が訪れようとしている。そう!墓地からこの町を脅かす者たちがあふれ出ようとしているのだ!今まで衛兵で何とか抑え込めていたのだが、それも難しそうな状況にある!」

 

(墓地からあふれ出す?ああ……そういえばいたな。アンデッドを召喚して町を襲おうとしていたやつらが。そうか!あの時はンフィーレアが浚われたから場所を特定できて解決できた。それに墓地からあふれ出す前だったな……少し行動が遅かったな)

 

「なんだと!?まさか組合長。()()のことか!?」

 

 フルプレートメイルを纏った屈強そうなミスリル級冒険者の男が驚きに声を上げている。普段から高位の依頼を受けているだけあって墓地に不穏な動きがあるという情報を持っていたのだろうか。

 

(もしかしたらあの時俺が解決しなくても何とかなったのかもしれないな……)

 

「そうだ。()()が街に雪崩れ込んでくれば被害は想像もできんだろう。今は何とか墓地の入り口で抑えているがいつまでもつか分からん!そこで、王都に伝言(メッセージ)を送り急遽アダマンタイト級冒険者にも来てもらった」

 

 アインザックの立つ台の上に複数の人間が現れる。自信を持った佇まい、その身にも纏った多大な魔力を保有する輝きを持つ武具、そして雰囲気。只者ではない。

 

「まず、この依頼の指揮を執ってもらう彼女らを紹介しよう。王国からお越しいただいた、アダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』の()()だ!」

 

 アインザックの紹介にモモンガは違和感を覚える。

 

(ん?6人?蒼の薔薇は5人じゃなかったか?あの派手な武器やら装備の貴族と仮面の子供……それから巨漢の男のような女、それから忍者の二人……だったよな?)

 

 モモンガの疑問を他所に台の上では蒼の薔薇が自己紹介を始めていた。

 

「リーダーのラキュースです。回復や支援を担当させていただきます。それから彼女が魔法詠唱者(マジック・キャスター)のイビルアイ」

「よろしく」

「彼女が戦士のガガーラン。頼りにしてくれて構わないわ」

「おう、俺に任せておけ」

「それから忍者のティアとティナ。索敵は彼女たちに任せるつもりよ」

「ん」「よろしく」

「それから最後に私たち蒼の薔薇のお姉さま。ペロロンチー子お姉さまです♡」

「ペロロンチー子です♡よろしくお願いしますわ」

 

 最後に紹介されたのは長身で金髪の美女であった。金色に輝く鎧を着ているがそれが非常に似合っている。鎧のそこかしこから金色の羽が飛び出している。

 

「はぁぁ!?何か違うの混じってる!?」

 

 思わずモモンガは声に出して突っ込んでしまう。いや、顔も声も違っているが名前と雰囲気から《アイツ》に違いないという確信があった。カルネ村に引き続きおかしな感じに世界が歪んでいる。

 

(ってあれペロロンチーノさんの擬態だろ絶対!なんだよペロロンチー子って!)

 

 突然叫びだして漆黒の戦士にペロロンチー子と名乗った女性は首を可愛らしく傾げ、それが非常に似合っているだけあってモモンガをイラつかせる。

 

「あら、どうしたのかしら。突然叫びだして、あの御方は?」

「ああん、お姉さま。ああいううるさいのは私が締めてこようじゃないか」

「うふふ、駄目よ。イビルアイ。少し黙りなさい」

 

 ペロロンチー子は人差し指と中指をイビルアイの口に当てたかと思うと、それを口の中へと入れ、彼女を黙らせるようにその舌に指を絡ませる。

 

「お、おねえはまぁ……」

 

 仮面の外からでも分かるくらい顔を真っ赤にして甘えるような声を出すイビルアイ。しかし、その様子に抗議の声が上がる。蒼の薔薇の他のメンバーだ。

 

「お姉さま!イビルアイばっかずるいです」

「ん」「わたしも」「俺も……」

「ふふっ、みんな欲しがりねえ。でも、今は作戦の説明が先でしょ。ラキュース」

「そ、そうね。みんな!敵の数は多い!しっかりと心を強く保ってください。弱い心を持っていては敵に取り込まれる危険があります」

 

(ええぇー……)

 

 モモンガはドン引きである。

 

(確かめたい……。あの変態がペロロンチーノさんなのかどうか……。でもここじゃ不味いか……確か墓地の敵はそう強くなかったはず。その後でいいか)

 

 すべて終わってから声をかけようと心に決める。

 

(それにしても……蒼の薔薇はチームだけあってさすが作戦慣れしてるな。アンデッドの精神系攻撃などの対策は必須だし……恐怖に支配されないよう心の強さも求められるか)

 

 戦いは準備の段階で勝敗はほぼ決すると言ってもよい。どのような戦術や対策が取られるのか期待しつつ、アダマンタイト級冒険者の油断のない対策に感心しているモモンガだったが、ラキュースの次の言葉でモモンガの精神ははるか彼方へと飛んでいった。

 

「時間がありません。みんな行きますよ!絶対に街に入れてはなりません。さあ、一人残らず討伐するのです!墓地からあふれた()()()を!」

 

 

 

 

 

 

 エ・ランテル共同墓地。魂の安らぎの地であり、霊的なエネルギーの集結しやすいスポットでもある。そして大都市ということもあり、非常に広大な敷地を誇っている場所でもあった。

 そして今、見るも恐ろしい光景がそこに広がっていた。

 見渡す限り、溢れるほどの男の娘、男の娘、男の娘。皆が皆可愛らしい服と顔をしており、どこからどう見ても美少女にしか見えないが性別はれっきとした男なのである。

 

「あ、あいつらと戦うのか?あんな可愛い子が……男?うそだろ?」

「付き合ってって言われたら付き合っちゃうよなぁ……」

 

 男性冒険者たちが怯んでいる中、ラキュースから激が飛ぶ。

 

「みんな惑わされないで!あれは男の娘!あなたたちと同じものがついてるの!ついてるのよ!」

 

 そんなラキュースをあざ笑うように男の娘の後ろから二人の人物が現れた。

 

「んふふふ、ついてるからいいんじゃない。ねぇ、カジッちゃん」

「ああ、そのとおりだな」

 

 奥から二人の人物が現れる。一人はモモンガにも見覚えがある。記憶の中では魔法道具(マジックアイテム)を使いアンデッドを召還していた深くローブを被ったハゲた男、カジットだ。

 そしてもう一人はさらに明確に見覚えがあるピンク色の粘体であった。体にプレートを張り付けたような金属のビキニアーマーを身に着けて……貼り付けている。

 

「ピンクの肉棒……ピンクの肉棒だ!」

「ピンクの肉棒が動いている!」

 

 冒険者たちが恐怖と困惑の中で叫ぶ中、ピンクの肉棒が名乗りを上げた。

 

「ピンクの肉棒言うな!私は茶釜ンティーヌ。……私はね、男の娘が大好きで、恋していて、愛しているの。んふふふ、よろしくね」

 

(ぶくぶく茶釜さん!?何やってんですかー!)

 

 モモンガの心の叫びをあげる。

 あの体に張り付けている意味があるのかないのか分からないプレートメイルは何の冗談だろうか。しかし、それ以外はモモンガのよく知っているピンクの肉棒こと、ぶくぶく茶釜そのものである。

 

「そこまでだ!ねーちゃ……じゃない茶釜ンティーヌ!今すぐ投降してそのおぞましい男の娘たちをさっさと元に戻せ!」

「あんたこそ何その恰好!?あんたが男の娘になろうとかキモいんだけどー」

「あー、分かってないな、ねえちゃんは。女の園に潜入するための女装はエロゲの王道の一つなんですー!それに見た目上俺にはついてない!だから男の娘とは違うのだ!ジャンルの違いを理解しろ!」

「はぁぁ!?あんたこそ分かってないわね。ついてなくてどうするのよ!可愛らしい男の娘同士がからみあうからいいんじゃない!」

 

(いや、あんたらどっちも間違ってる!間違ってるからー!)

 

 今すぐ飛び出して二人に超位魔法でも叩き込みたいのを必死にこらえるモモンガ。人がいなければ確実に殺っていただろう。

 

「男の娘だらけの世界なんて絶対に断る!ラキュース!やってしまいなさい!」

「はい♡ペロロンチー子お姉さま!《病気治癒(キュア・ディジーズ)》」

 

 ラキュースの治癒魔法により、墓地に溢れる男の娘の数人が男に戻っていく。

 

(はぁ!?え!?男の娘って病気……。いや、ある意味病気かもしれないけど!それで治るの!?)

 

 モモンガの困惑を他所に本人たちは真剣そのものだ。

 

「あくまで邪魔するってわけね。いいわ、とことんやってやろうじゃないの!カジッちゃんやっちゃいなさい!」

「ふふふっ、いいだろう。見るがいいこの至高なる力を!わしが望んで望んでついに手に入れたこの世界で最高の力!《腐の宝珠》の力をな!」

 

(あの黒い石は……死の宝珠では?ふ?ふってなんだ?もしかして腐るって書くやつ!?)

 

 カジットの握った宝珠から桃色の光が放たれる。そしてその光を浴びた冒険者たちに変化が訪れた。

 当の本人たちはそれにすぐには気づいた様子はない。しかし、周りの冒険者たちが先に気づき顔色を青くさせて一歩二歩と彼らから距離をとる。

 そこにトドメとばかりに茶釜ンティーヌ率いる男の娘たちが鏡を差し出した。

 

「な、なんだこれは……。お、俺が男の娘になって……いる?」

「これが俺……?俺はなんて可愛いいんだ!?」

「何これ……素敵 」

「男の娘もいいかも……」

 

 腐の宝珠の光を浴びた男たちは着ているものも女性用となり、その体も華奢に、顔つきも可愛らしく少女のように変わる。

 元の顔の特徴は残っており、まさに『僕の考えた最高に可愛い僕』といった様子だ。変身させられた者の中には可愛くなった自分に見とれる者がいる一方、その現実を認められず痛痛しさに悶絶するものたちがいるなど反応は様々だ。

 しかし、男性冒険者たちの反応とは裏腹に、女性冒険者たちは興奮して頬を赤らめている者もいる。

 つまり腐っているのだ。

 

「くははははは!見たか!どうだ見たか!これぞ《腐の宝珠》の力よ」

「くっ、なんて(おぞ)ましい!みんな!気をしっかり持つのよ!ラキュース。それにみんな!彼らに《病気治癒(キュア・ディジーズ)》を!」

 

 ペロロンチー子の指示によりラキュースをはじめ、治癒魔法を使えるものが腐の病気を治していく。しかし、いくら治療され男の娘から男に戻されようとカジットは諦めない。

 必死に宝珠の力を放ちそれに対抗している。

 

「させん、させんぞ!わしの悲願を……わし自身が男の娘になるために絶対に腐のエネルギーをまき散らしてやる!」

 

 そう、カジットの目的。それは自分自身が男の娘になることなのだ。

 それは幼き頃のこと。友達と外で遊んでいたカジットはつい家に帰るのが遅くなってしまった。その日のことをカジットは後悔している。自分がもう少し早く帰っていれば、そうすれば……。

 家に帰ったカジットの目にしたものは女の子の服を用意し、カジットへそれを着せようとする母の姿だった。そして、それを着たカジットを母の一言が心を抉る。

 

『可愛くない……』

 

 そう、腐女子となった母に自分を認めさせるためには男の娘になるしか、これしか方法はないのだ。

 

(その宝珠の力を自分に向ければいいのでは?)

 

 その場の誰もが思った。しかし、それをぶくぶく茶釜が否定する。

 

「ああー、それなんだけどさー。カジっちゃんには無理なのよねー」

 

 その場の冒険者たちの頭にクエスチョンマークが浮かぶ。

 

「ハゲは男の娘になれないから……」

 

 ぶくぶく茶釜の無慈悲な言葉に周りの男の娘たちがうんうんと頷いていた。

 カジットはその言葉に怒ることもなく、受け入れ悟った表情で言葉を紡ぐ。

 

「そのとおりだ!ハゲに男の娘になる資格はない!なぜなら……可愛くないからだ!だからこそこの街に腐の力をまき散らし、大儀式を行うのだ。《腐の螺旋》をな。腐による()()なる力を使えばこのわしでさえ男の娘になれるだろうよ」

 

(神聖なる力って……俺の思ってるのと違うよね!?たぶん違うよね!?あと俺もハゲでよかった……あんな姿になるのは……)

 

 男の娘と化した冒険者たちを横目に混乱と安心でモモンガが悶絶している。

 

「んー、でも困ったなぁ。状態異常で治されちゃうし。もうちょっと男の娘いたほうがいいわよねぇー。んふふふ、あの子の出番ね。いらっしゃい!ンフィーリアちゃん 」

「はい、茶釜ンティーヌ様!」

 

 そこに現れたのは金色の髪で目を隠した青いワンピースを着た美少女だった。目元が隠れていることによりより一層その可愛らしさを引き立たせている。

 

(ンフィーリア!?あれンフィーレアなのか!?薬師の!?めっちゃ可愛いんだけど……)

 

 モモンガの心の叫びを受け取ったのか、冒険者に同行していた薬師、リイジー・バレアレが涙を流しながら頬を染め感動している。

 

「おお、わしの孫がこんなに美しく……可愛い男の娘に……。その者蒼き衣をまといて……。おお、盲いたわしの目が覚めて……)

 

(リイジー・バレアレ!目覚めちゃだめなやつ!それ目覚めちゃだめなやつだから!)

 

「《腐死の軍勢(Man Death Charmy)》」

 

 モモンガの心の絶叫も空しく、ンフィーリアが魔法を唱え、十数体の男の娘が召喚される。

 

「なっ、まさかあれは第七位階魔法《腐死の軍勢(Man Death Charmy)》!?そ、そんな。そんな高位階の魔法を人間が使えるはずがない!」

 

(《腐死の軍勢(Man Death Charmy)》ってなんだよ!?《不死の軍勢(アンデス・アーミー)》じゃないの!?)

 

「んふふふー、それはねー。魔法道具《賢者の額冠》の効果だよー。かつてあらゆる欲望に満足した賢者が作り出したという魔法道具。それによって高位の()()魔法の行使が可能になってるのー。さらに、自我が男の娘になっちゃうおまけつきよ」

 

(それ絶対呪われたアイテムだよね……)

 

 モモンガの精神は諦めの境地に達しようとしている。そして目の前で繰り広げられるのは醜い姉弟喧嘩だ。

 

「姉ちゃん!いい加減目を覚ませ!男の娘増やしたって彼氏できるわけじゃないんだぞ!変態!」

「弟黙れ!あんたこそ、そんな風に女の振りしなきゃ女の子に相手にされないくらいだったらいい加減現実見つめて目を覚ましなさいよ!変態!」

 

 ぶくぶく茶釜とペロロンチーノはもうなりふり構わずにお互いを貶しあっていた。

 男の娘に囲まれたいぶくぶく茶釜、女の子に囲まれたいペロロンチーノ。どっちもどっちだ。

 あふれる男の娘、狂乱する冒険者たち。事態は収拾がつかなくなり、悟りの境地にいたモモンガもついに堪忍袋の緒が切れる。

 

「ああ!もう!二人ともいい加減にしろ!ぶくぶく茶釜さん!ペロロンチーノさん!あんたら二人とも真正の変態だよ!目を覚ませ!」

 

 心の中のつっこみも限界にきたモモンガは戦士化の魔法を解除して元の姿を現す。

 

「「モモンガさん!?」」

 

 驚く二人の反応と異なり、周りの男の娘たちや冒険者たちは恐怖から恐慌状態へと陥る。それはそうだ。見ただけでとてつもなく恐ろしいアンデッドと分かるモンスターが突然現れたのだ。

 しかし、モモンガとしては釈然としない。

 

「いや、おい!ちょっと待て!アンデッドの俺一人より今のこの変態だらけの状態のほうがよっぽどおかしいだろ!?」

 

 モモンガのそんな言葉も空しく、男の娘も冒険者たちもその場から逃げ去ってしまった。

 残ったのは蒼の薔薇のメンバー、ぶくぶく茶釜、そしてその相棒のカジットのみである。

 

「邪悪なアンデット!ああ、この身に宿る神聖なる力よ!内なる闇力よ!今こそその力を発揮するとき!さあ来なさい!例えこの強大なアンデッドが相手でも私の中の闇の力が覚醒すれば……」

「ラキュース、それはもういいから。中二的なそれはもういいからここは私に任せて他の人を避難させて。ねっ」

 

 ペロロンチーノが先ほどのイビルアイにしたのと同じようにラキュースの口に指を入れ、舌を転がす。ラキュースの頬が薔薇のように染まり目がトロンと蕩ける。

 

「ふああ……。はぃ、ペロロンチー子お姉さまぁ」

 

 ギギギと音が聞こえてきそうなほど蒼の薔薇のメンバーが嫉妬する中、ペロロンチーノの言葉に従い蒼の薔薇は墓地から去っていった。

 しかし、そんな中でも諦めない男が一人。カジットである。高々と宝珠を掲げ臨戦態勢を維持している。

 

「ふんっ、アンデッドだろうが冒険者だろうが、わしの目的の邪魔はさせん!させんぞ!《腐の宝珠》よ!」

「ああ!もう!いい加減にしろ!」

 

 そんな変態に付き合う必要は一切ないモモンガは無情にもカジットの宝珠をあっさりと奪った。カジットが取り返そうとしがみ付いてくるのが煩わしい。

 魔法で黙らせようかと思ったその瞬間、モモンガの頭に声が響いてきた。

 

(あ、そう言えば前もこれインテリジェンスアイテム《死の宝珠》だったな)

 

『返せ!私を返せ!至高にして腐の支配者たる茶釜ンティーヌ様のもとへ」

 

(な、なんだこいつ?腐の支配者って……)

 

『返すのだ。この悍ましいアンデッドが。我は腐の宝珠、この世のすべての腐に感謝し、腐の支配者となる茶釜ンティーヌ様に仕えし……』

 

 モモンガは最後まで言わせずにもう何も聞きたくないと、もうこれ以上変態に関わり合いになりたくないとばかりに宝珠を握りつぶした。

 

「「ああーーーー!!」」

 

 ぶくぶく茶釜とカジットが膝をついて宝珠の破片を拾いながら嘆き悲しんでいるが、少しだけ心がすっきりしたモモンガであった。

 

 

 

 

 

 

 宝珠とともに夢も希望も失ったカジットは去った。彼は男の娘になることも出来ずこれからもハゲたおっさんとして生きてゆくのだろう。

 しかし、そんなことはどうでもいい3人がそこには残っていた。かつてのアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの3人、ギルドマスターのモモンガと二人の変態だ。

 

「で、どういうことなんですか、これは?ぶくぶく茶釜さん、ペロロンチーノさん」

「モモンガさん違うんです!私そんな趣味ないんですよ。私腐ってないですから!この馬鹿弟を止めるために仕方なくやってただけだから!」

「何言ってんだよ、姉ちゃん。モモンガさん、姉ちゃんの趣味は真性ですからね。俺のほうが真っ当でしょ。女の子の園に入り込みたいって気持ちわかりますよね?ね?ね?」

「おい、モモンガさんに失礼なこと言ってんじゃねえ弟」

「はぁー、姉ちゃんは男心がわかってないね。そんなんだからいつまでも彼氏できないんだよ。胸もぺったんこだし、女としての魅力に欠ける自覚持ったら?」

「はぁ!?モ、モモンガさんの前で何言ってんの!?それともここでお前が小学生の時何したかモモンガさんに言ってやろうか!」

「姉ちゃんごめん!」

 

 ぶくぶく茶釜の伝家の宝刀にペロロンチーノが撃沈し、土下座を敢行。かつてギルドでよく見ていた光景の再現にモモンガはさっきまでのことは忘れて嬉しくなる。

 

「はははははは、懐かしいなぁ。お二人はいつも喧嘩してましたものね。それをここでもやっているなんて!」

「「モモンガさん?」」

「ぶくぶく茶釜さんが男の娘の世界を作ってもいいし、ペロロンチーノさんが女の園で楽しんでもいいですけど、とりあえず仲良くやりましょうよ。意見が分かれたら()()。でしょ?」

 

 そう言ってモモンガはユグドラシルコインを取り出す。意見が分かれたらコインで。それはギルド『アインズ・ウール・ゴウン』時代の決まりだ。

 それを思い出したのかぶくぶく茶釜とペロロンチーノはニヤリと笑い……。

 

―――コインが宙を舞った。

 

 

 

 

 

 

「納得いかない!男の娘の世界を作るとか納得いかない!」

「弟本当に黙れ。ギルドのルールで決まったんだから守りなさい。あんたの作ろうとしてたナザリック学園よりまだマシだから」

「あー、そう。あー、そうなんだ。じゃあ姉ちゃん自分が腐女子だとモモンガさんの前で宣言しちゃうんだ。へー、モモンガさんドン引きだろうなー」

「うっ……それは……」

「っていうかさ、そのビキニプレートメイル何?粘体に何貼り付けてんのって感じなんだけど。必要ないでしょ。あ、そっか。姉ちゃんはもともとブラなんて必要ないぺったんこだったよねー。ゲームの中でくらい理想を求めればいいのに。ぷぷー」

「ぶっ殺す!おい、弟。ちょっとこっち来い!闘技場でぶちのめす!」

「は?防御特化の姉ちゃんが俺を?リアルじゃともかくPVPで勝てると思ってるの?」

「姉に勝る弟などいない!さっさと来い!あ、モモンガさん。ちょっと弟の目を覚まさせてきますから」

「現実を見据えて目を覚ますのは姉ちゃんでしょ。あ、そうそうモモンガさんも      」

 

 仲がいいのか悪いのか。お互いにどつき合いながら第6階層の闘技場へと向かって行く二人を見ながらモモンガは一人残される。

 

(ペロロンチーノさんが最後に何か言ってたような気がするけど……聞き取れなかったな……)

 

 今日は色々とありすぎてモモンガはアンデッドであるにも関わらず疲れを感じているような気もしていた。

 しかし、それを上回る懐かしさとともに嬉しさがじんわりと湧いてくる。たっち・みーに続き、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノもあの頃のままだった。

 ぶくぶく茶釜の男の娘の世界というのはどうかと思うが、国にひとつくらいそんな世界にしてしまってもいいのでないかと思っています。リ・エスティーゼ王国などどうだろうか。

 モモンガはニヤつきそうになる顔を抑えきれず、3人となったギルドメンバーで再開するギルド活動について頭の中で妄想をはじめるのであった。

 

 

 

 

 

 

 しかし、翌日モモンガはその妄想が叶えられないことをアルベドから伝えられることとなる。

 

―――ぶくぶく茶釜様とペロロンチーノ様はお帰りになりました。


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