「モモンガ君、モモンガ君」
「うーん……」
「モモンガ君。目を覚ましなさい!」
「え?」
聞き覚えのある声だった。この声は誰だっただろう。
(寝ていた?いや、アンデッドは睡眠不要のはず……)
モモンガは意識を失っていたことに驚く。この世界は何かがおかしい。たっち・みーに続き、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノが失踪したことについてもそうだ。
だが、そんな葛藤も目の前に現れた大きな顔をみたとたん吹き飛ばされる。
そこにいたのは懐かしくもゴツくて巨大な
「……やまいこさん?」
「やまいこさんじゃありません!僕の事はやまいこ先生と呼びなさい!モモンガ君」
「はぁ!?」
「さて、授業をはじめますよ。モモンガ様お席におつきください」
やまいこの隣にはデミウルゴスがいる。二人は教壇に立っておりモモンガに着席を促しているのだ。
(……教壇?)
なぜ教壇がとモモンガが周りを見渡すとそこには整然と並べられた机と椅子、その前には黒板があり、窓からは日の光が差し込んでいる。
(え?何ここ!?学校!?いやいやいや、俺はナザリックにいたはずだぞ!?)
またどこかへ転移でもさせられたかとモモンガは慌てて教室の扉から外に出る。
しかし、そこには見慣れた風景、ナザリック地下第9層、ギルドメンバーの部屋が並ぶ廊下であった。
(……あれ?やっぱりここはナザリック?この部屋は……?)
後ろを振り向き今出てきた扉を見つめる。そこにあったのはやまいこのギルドメンバーサイン。
(やまいこさんの部屋!?やまいこさんの部屋の中ってこうなってたの!?ペロロンチーノさんとかとナザリック学園を作ろうって話はあったし、データは作ってたけど……)
「モモンガ様。皆さん待っていますので、お席におつきくださいますか」
部屋からひょっこり顔をだしてモモンガを呼ぶデミウルゴス。
中に入ってよく見れば教室の席には守護者筆頭のアルベドを始め、ガルガンチュアを除く全階層守護者に、各領域守護者たち、プレアデスの面々も席についている。
(聞きたいことは山ほどあるが……仕方ない)
モモンガが一つだけ空いている席に着く。
「おい、デミウルゴス。これはどういうことだ」
「モモンガ様。私は私立ナザリック学園の副担任でございます。申し訳ございませんが、私を呼ぶときはデミウルゴス先生とお呼びください」
「デミウルゴス先生!?あの、やまいこさんどうなってるんですか!?」
やはり何かがおかしい。だがやまいこは小学校の教師でありギルドの中でも常識人だ。どこかの正義馬鹿や変態たちとは違う。まともな返事が返ってくるだろうことをモモンガは期待する。
「ボクは担任教師です。やまいこ先生って呼ぶようにいってるでしょう。モモンガ君。ぶん殴りますよ」
半魔巨人の太い腕に巨大な鉄拳を構えるやまいこ。
(あー……そう言えばやまいこさんってこんな感じだったかー……)
「さて、それではナザリック学園の開校式を行います。それでは一同起立!」
ザッ、っと全員が起立する。
「校歌斉唱!」
(校歌!?)
アルベドが、デミウルゴスが、シャルティアやアウラ、マーレたちが。ナザリックのシモベたちが一斉に聞いたこともない私立ナザリック学園の校歌を声高らかに歌い始める。
(何で!?なんでみんな歌えるの!?)
「さて、一同着席!」
モモンガは戸惑いながら着席する。全員が着席したことを確認するとデミウルゴスがあらためて教壇に立った。
「それではまずテストから始めます」
(いきなりテスト!?授業すら受けてないんですけどー!?)
「では第1問。『あなたは初めて人と出会ったときどうしますか』。さあ、分かる者は挙手をしたまえ」
(なんだ?1問1答形式で進めるのか?常識問題?いや、これは……なるほど!やまいこさん、そういうことですか。ナザリックのシモベ達は世間の常識の範疇にない。その彼らに常識を学ばせようと……。そう言うことなんですよね!やまいこさん!)
モモンガのやまいこへの期待の視線を他所にシモベたちが一斉に挙手をしている。
「では、ナーベラル」
デミウルゴスに指されたナーベラルは真面目な表情で言い切る。
「はい。殺します」
躊躇することなく言い切るナーベラル。
(……相変わらずだな。デミウルゴス、やまいこさん。ちゃんと常識を教えてやってくれ)
「素晴らしい!うん、いい答えです。さて、他には?」
(ちょっ、おいデミウルゴス!?)
「では、エントマ。答えてもらおうか」
「はぁい。デミウルゴス様ぁ。人に出会ったらぁ、食べちゃいマスぅ」
「正解だ!他には?ソリュシャンどうだい?」
「ただ食べるだけじゃつまらないわ。じっくりじっくり痛めつつ苦痛を長く与えながら食べるのがいいんじゃないかしら」
「ああ、いいね。良い意見だ。皆参考にするように」
「はいはいはい!わらわも答えるでありんすよ!」
プレアデスたちが褒められるのに触発されてかシャルティアが挙手した手を左右に振っている。
「そうかい?じゃあシャルティア」
「『■■■■■■■■■■■■■る』でありんす!」
(おいシャルティア!?それ放送できないやつー!)
「ふふんっ、どうでありんすか?」
アルベドやアウラが顔を赤らめ、シズやマーレなどは何を言われたのか分からないのかキョトンとしている。モモンガも頭を痛める中、シャルティアは自信満々に胸を張っている。
「不正解だ」
「えー!?」
「さて、それでは最後にモモンガ様から模範解答をいただくとしましょうか」
「えっ?俺?それは人と初めて出会ったら……あいさつ……するんじゃないか?」
「……」
デミウルゴスは今まで正答を書いていた紙をビリビリに破り捨てる。
「《
さらに念入りに紙を地獄の炎で塵へと変える。
「さて、この問題の答えは『あいさつをする』だ。異論は……ないね?さすがはモモンガ様」
周りを見渡すと全員がうんうんと頷いている。
(いやいやいや、それ俺の答えを解答にしただけだろ!?後出しだろ!?)
「やまいこさま。よろしかったですか?」
やまいこに確認を求めるデミウルゴス。
「そうね。初見の相手には一発殴るあいさつをかまして様子を見る。さすがモモンガさん分かってますね」
(あいさつってそう言うあいさつ!?さすが脳筋……)
思い返せばやまいこはギルド時代も相手の強さが分からなければ一発殴って確かめればいいと言う主義だった。何とも恐ろしい。
「ふふっ、私と同じでしたね」
「くぅー。惜しかったでありんす」
さすが創造したものとされたものと言うべきか。ユリは同じ答えにたどり着いていたらしい。シャルティアはモザイクを解答したにも関わらず悔しがってる。
「さて、第2問にいきます。『あなたは複数の人間に襲われました。しかしあなたのレベルでは勝ち目がありません』。この場合どうしますか?」
(PKの際の心得か?勝ち目がなくても次で勝てばいい。まずは情報収集……だな)
「おっ、ナーベラル。挙手が速いね。答えをどうぞ」
「殺します」
(さっきと同じ!?)
「ちなみにナーベラル。理由を聞いても?」
「虫けらを殺すのに理由なんていらないわ」
「惜しい!」
(惜しいの?!)
モモンガが頭の中でツッコミを入れる中、自信満々の笑みを浮かべ、元気よくピンと伸びた腕が上がる。
「はいっ!」
「シャルティア。返事だけはいいね。どうぞ」
「■■■■■■■でありんす!」
「そうかい。他には?」
(デミウルゴス!?スルー!?いや、モザイクはスルーしたいだろうけど!)
その後も先ほどと同じようなモモンガが頭を痛めたくなるような解答が続き、最後にモモンガが指名される。
「モモンガ様の解答『情報を持ち帰り、後日策を練った上で罠を張って倒す』ですか。すばらしい。さすがモモンガ様」
シモベ達から一斉に拍手喝采が飛ぶ。
「ちなみに模範解答は、『情報を持ち帰った上で相手を罠にはめ、拷問室に送り地獄の悲鳴をあげさせ、永劫の苦しみをあげさせてから殺す』です。ナーベラル惜しかったね」
(いやいやいや、俺そんなこと思ってないですけど!)
ナーベラルは無言でふんふん頷いている。
「くぅー。わらわも惜しかったでありんす!」
(全然意味が分からないんですけど!)
「ん?どうやら理解できない愚か者もいるようだね。仕方ない。モモンガ様?みんなに分かり易く、そう、わかりやす~くご説明していただいてもよろしいですか?」
(え!?それ俺の!俺が困ったときにお前に振る時のやつー!)
困ったときにデミウルゴスに答えるようにする流れを逆に返されて困惑するモモンガであった。
♦
その後も問題に対して非人道的ともとれる解答。そしてそれに対する解説を依頼されるモモンガ。拷問とも思える時間が過ぎ、問題は40問目に突入しようとしていた。
全問正解はモモンガのみ。
なお、全問不正解はシャルティアのみであった。最初は楽しそうにしていた顔も涙ぐみ手が震えている。
(さすがに可哀想だな……。でもモザイクを正解にするわけにもいかないし……)
心配そうにシャルティアを見つめるモモンガ。
「さて、第40問。あと問題は2問だよ。あ、ちなみに問題の数は至高の御方々の人数と同じにしています。問題、次の言葉に続く言葉を答えなさい。『エロゲー・イズ・〇〇〇〇〇』」
聞いたこともない言葉にシモベ達が固まる。
「エロゲーって何かしら?」
「マーレ。あんた知ってる?」
「ううん。お姉ちゃん。魔法の名前かなぁ」
「武器ノ名前カモシレヌナ」
ざわつくシモベ達の中、スッと一本の白魚のような手が上がる。目をつむり一直線に掲げたその手はまさに優等生と言っても過言ではないほど洗練されている。
「はい。ではシャルティア」
「『エロゲー・イズ・マイライフ!!!』でありんす!」
「正解だ!素晴らしい!これは至高の御方々の御一人、ペロロンチーノ様の語録にある言葉だ!おそらくはアインズ・ウール・ゴウンに栄光あれとかそう言った意味ではないかと思われる」
「ふふんっ。当然でありんす」
自信満々に胸を張るシャルティア。それを見て何故かモモンガは涙ぐむ。涙は出ないが。
(優しい世界!デミウルゴス優しい!全問不正解のシャルティアを気遣って……。意味は違うけどな!でもその優しさを少しは人間にも持ってくれよぉ……)
ふと想いをよぎるのは今までの人間への残虐行為を含んだ正答の数々。デミウルゴスの優しさはナザリックに属する者に限るのだ。
「至高の御方々に関する問題に正解するとは素晴らしいですね。モモンガ様。もちろんモモンガ様はご存知でしたよね」
「当然だ。ペロロンチーノさんとは仲が良かったからな。シャルティアよく覚えていたな」
「はぅぅっ。モモンガ様にお褒め頂けるなんて幸せでありんす」
両手で赤く染まった頬を押さえて顔を振っている。そしてそれを見つめる殺すほどの嫉妬の視線を感じるが見なかったことにしよう。
「では、最後の問題だ。これはやまいこ様が特別に作られた問題だ。よく考えて答えるように。第41問、『あなたには仲の良かった仲間たちがいました。しかし時間がたつにつれ、一人、二人と仲間が減ってゆき最後はあなた一人だけになってしまいました。あなたの気持ちを述べなさい』」
(これ……、これってギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のことか?みんな仕事や家庭の事情から辞めていってしまった……。あの時の気持ち……。俺を、俺一人を置いて……)
「はい!」
手を挙げたのはアルベド。
「
「なるほど、他には?」
デミウルゴスの言葉に他の守護者も反応する。
「アルベドの言葉も分かるでありんすねぇ」
「そうだね。許せないよね」
「う、うん。僕もそう思います」
「造反行為ナドダロウカ。ソレナラバ切腹ガ望マシイ」
(そうだよ……みんな俺を裏切って……それで……俺はこのゲームに一人きり……)
守護者が、プレアデスが、様々なシモベ達が異口同音に離れていった仲間たちを責める。
「さて、意見は出尽くしたかな?ではやまいこ様。正解をお願いします」
「あなたたちの言葉も一つの正解かもしれないね。でもボクはそれ以外の考えもあると思う。もしボクが答えを作るとしたら。『新しく仲間を作る』かな」
(新しい仲間?)
「過去のことを想うのもいいけど、未来を考えるなら新しい道を進まないとね。そのためには今の世界から 」
さらに何かを言いかけた時、アルベドが鬼気迫る目でやまいこを睨みつける。それと同時に終業のベルが鳴り響いた。
「それでは授業はここまでとする。やまいこ様、モモンガ様。お付き合いありがとうございました」
デミウルゴスが終業を宣言して、私立ナザリック学園の最初の授業は幕を閉じるのであった。
♦
授業を終えるとシモベ達はそれぞれの職務へと戻っていった。その場に残ったのはやまいことモモンガの二人だ。
モモンガは今までの我慢していた疑問をぶつける。
「やまいこさん。何だったんですか、これ」
「モモンガさん。久しぶりね。また会えてうれしいよ」
「そりゃ俺も嬉しいですけど、説明してくださいよ」
「説明……ね。んー、ここじゃ難しいかも……」
「どういうことですか」
「モモンガさん。一つだけ言っておくと、モモンガさんはまだ一人じゃないってこと」
「え」
「NPC達のことじゃないですよ。モモンガさんは一人じゃありません。あと、NPC達とは少し距離を取ったほうがいい。これはアドバイスね」
「ど、どういう……」
「やまいこさま。お部屋の片づけが終わりました」
モモンガとやまいこの間に割って入るようにアルベドが現れ、教室での最後の凶相はなんだったのかと思えるような笑顔を向けている。
「ありがとう。アルベド。じゃあ時間はここまでかな。また会いましょうモモンガさん」
聞きたいことも聞けず呆然と立ち尽くすモモンガを置いたまま、部屋を片付けたと言うアルベドに連れられやまいこは部屋へと戻っていった。
そして、モモンガの脳裏にたっち・みーとぶくぶく茶釜、ペロロンチーノのことがよぎる。
(まさか……な)
♦
翌日、モモンガの予想は悪い形で的中した。やまいこが行方不明になったのだ。
そして悪い知らせの矛先はアルベドへと向いている。モモンガから端を発したそれは守護者全員からのアルベドの糾弾という形へと発展していく。
特に怒り心頭なのはデミウルゴスだ。
「アルベド!答えなさい!やまいこ様はどうなされたのだ!」
「それはもう答えたわ。お帰りになったって言ったでしょう?」
「それを信じろと!?今までのことを思い出してみてください!たっち・みー様、ぶくぶく茶釜様、ペロロンチーノ様、そして今回のやまいこ様!すべてあなたが最後の目撃者です!あなたが何も知らないわけがない!」
「そうだよ、アルベド何か知ってるなら言ってよ!わたしもぶくぶく茶釜様に会いたかったのに!」
「う、うん。ずるいよ。そんなの」
「守護者筆頭ニアルマジキ行為。許セルモノデハナイ」
一方的にアルベドが責められる構図であるが、モモンガ自身もアルベドが疑わしくて仕方がない。
「アルベド。例えお前が本当のことを言っていたとしても守護者筆頭としてギルドの仲間たちを見失った責任はある」
「モモンガ様……」
モモンガはアルベドの設定を自分を愛するように書き換えた。その罪悪感ゆえになかなか強く出られなかったが、再発防止という意味ではここは譲れない。
もしこのまま放置すれば別の仲間が来た際も同様の事態を招きかねないのだ。
「よって、デミウルゴスの提案通り、アルベドを第5階層の氷結牢獄送りとする」
「「「「異議なし」」」」
♦
モモンガは玉座の間で落ち込んでいた。仲間たちが再びいなくなったこと。そしてアルベドに疑いがあるとは言え、確証もなく監禁という処置をとってしまったこと。
(この世界はおかしい……。それは間違いない。ではどうするべきか……。仲間たちの捜索は遅々として進まない。外部の情報収集をもっと行うべきか?それとも……)
モモンガが思考の海へと沈んでいこうとしていたその時、ノックもせずに玉座の間の扉が音を立てて開けられる。
そしてそこから現れたのはメイドのシクススだ。金色の髪をして明るい性格ではあるが、仕事の際、音を立てて扉を開けるような失態を犯すようなことはない。ということはまた異常事態が発生したと言うことだろう。
今度はどんなことが起きたのかとモモンガが身構える中、シクススが絶叫する。
「モ、モモンガ様!執事助手が!執事助手のエクレアが反旗を翻しました!」