世にも奇妙なオーバーロード   作:kirishima13

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第4話 ゴーレムクラフター

 『エクレアが反旗を翻した』。その言葉を聞いた時、モモンガが思ったことは、『だから何?』である。

 エクレア・エクレール・エイクレアーはレベルは1のバードマン。本来は半人半鳥の亜人なのだが、なぜかペンギンそのものの姿をしている。

 モモンガに敵うどころかナザリック外でも最弱であろう彼が反旗を翻したところで何の影響もない。それにナザリックの支配権を狙っていると言うのは彼を創造したギルドメンバーの創った設定であり、それを責めることはモモンガには出来ない。

 

「それで反旗を翻したエクレアはどうしたんだ?」

 

 特に慌てることもなく、報告を上げてきたシクススに優しく問いかける。しかし、シクススの表情は硬いままだ。

 

「は、はい!エクレアはメイド達でボコボコにして、このとおり捕えております」

 

 シクススは持っていた袋から両手でエクレアの首を捕まえてまるでぬいぐるみのようにモモンガに見えるように突き出した。

 

「えっ。捕まえたの……か?」

「はい。他のメイドたちと一緒に」

 

 一般メイドはエクレアと同じレベル1。単純に数の多いメイドにエクレアでは手も足も出ないだろう。

 

(……すでに解決してしまった)

 

 では何を報告に来たと言うのであろうか。

 

「ならば何も問題はないだろう?何をそんなに震えているんだ?」

「そ、それが……」

 

 シクススが震えながら続きを報告しようとしたその時、エクレアがその手、いやフリッパーに持っていた何かをシクススへと投げつける。

 投げられた黒い何か。それはシクススの足元に落ちると動き出し、そのままシクススの服の中へと入っていた。

 

「ひあああああ!ふ、服に!服にあれが!()()がああああああああああ!きゃあああああああああ!」

 

 急いでメイド服を脱ごうとするシクススであったが、脱いでいる途中で意識が途切れ倒れてしまう。

 

「ふふっ、他愛もないことですね」

 

 スタッとシクススの腕から降り立ったエクレアはモモンガに丁寧な一礼をする。

 

「モモンガ様。この度はナザリックの支配者の地位を譲っていただきたく参上いたしました」

「エクレア!?シクススに何をした?」

「至高の御方の御名のもと、このナザリックの新支配者たる私の元には協力者たちが集いました!」

「協力者だと!?」

「そう!今回の私は違いますよ!我が協力者、それは恐怖公殿とその眷属たちです!」

「そ、そうなんです!モモンガ様!恐怖公と眷属たちがあふれ出し!すでに第3階層より上は眷属たちがミッチリ……」

「おや、気づかれましたか。ではおかわりをどうぞ」

 

 何とか意識を取り戻し報告しようとするシクススにエクレアは反対側のフリッパーに持っていた恐怖公の眷属をシクススの顔へと投げつける。

 

「~~~~~~~!?」

 

 顔に張り付いたそれに悲鳴にならない悲鳴を上げ、今度こそシクススは意識を手放した。その様子に玉座の間にいた守護者たちがざわつく。

 現在玉座の間にいるのは仕事の報告に来ていたアウラとマーレ、そして執事のセバスだ。

 アルベドは牢獄で謹慎中。デミウルゴスとコキュートスは守護階層にいるはずである。

 そしてシャルティアは今の情報が正しければ恐怖公の眷属がミッチリ詰まった第1から第3階層にいるはずだ。

 

(まじか……!?シャルティア……)

 

 緊急事態と判断したモモンガはシャルティアへと《伝言(メッセージ)》を飛ばす。

 

「シャルティア!応答しろ!」

『モ、モモンガ様!モモンガ様!いやああああああああああああ!服に服に入ってくるなあああああ!体があああああ!』

「おい!シャルティアしっかりしろ!」

『何も見えないでありんす!耳に……口に……。や、やめろおおお!スポイトランス!』

 

 戦闘音のようなものが聞こえるが、単体攻撃で群体を攻撃しても効果は薄いだろう。

 

『あ……や、やめ……。入ってこないで……きゃああああああああああああああ。ブッ』

 

 突然通信が途切れる。

 

「お、おい。シャルティア!?シャルティアあああ!」

「さ、さすがに気を失ったんじゃないですか?」

「シャルティアはアンデッドだぞ?アウラ」

「でもでも……もし私だったら恐怖公の眷属に全身弄られたら状態異常無効だったとしても意識を手放したくなりますよ」

「そうなの?お姉ちゃん」

「女の子っていうのはそういうものだよ。マーレ」

「しかし、いかがいたしましょうか。これは第3階層までは既に落ちていると考えて行動すべきなのでしょうか」

 

 セバスの言葉にモモンガが対処法を考える。しかし情報が足りなさすぎる。そもそも主導者がエクレアとは考えにくい。

 

(……それに恐怖公が裏切る?いや、エクレアは何と言った?至高の御方の御名のもと?それは俺ではない誰かと言うことか!?)

 

「エクレア。恐怖公が裏切ったと言うのは本当か」

「本当ですとも。そして恐怖公殿は眷属の召喚を使い続けておるだけではありませんよ。眷属の繁殖能力を促進させる魔法道具(マジック・アイテム)も使用しております。その繁殖速度たるや毎秒数万匹を超え、さらに加速しております。はははははは、まったく。性欲旺盛なことですな」

「ひぇぇぇ……。笑い事じゃないよ!エクレア!」

「お、お姉ちゃん落ち着いて」

「待て。魔法道具だと?誰がそんなものを渡した」

「おや?ご存じない?恐怖公殿へ乗騎を与えたたもうた御方の名を。私にナザリックの支配を命じ、恐怖公殿とともに使命を与えたもうた御方の名を!」

「いいから早く答えろ!」

「その尊き御名はるし☆ふぁー様!」

「るし☆ふぁー様!?」

「るし☆ふぁー様が来てるんですか!?」

「……あんのやろお」

 

 モモンガの脳裏にるし☆ふぁーと言う男との思い出の走馬灯が流れる。そのほとんどが碌でもない思い出だ。

 ゴーレム製作の造形には定評のある男であるが悪戯が好きと言うか、限度を知らないと言うか。モモンガを悩まし続けてきた男だ。はっきり言って好きではない。

 

(恐怖公の乗騎ってあの希少金属を使ったゴキブリ型ゴーレムのことか!?)

 

 仲間が苦労して集めた希少金属をちょろまかしゴキブリ型ゴーレムを作ったのもあの男だった。

 

「ありえる……。あいつならあり得る」

 

『モモンガ様!』

 

 かつての思い出に怒りを燃やしているモモンガに今度は別の相手から伝言が入る。デミウルゴスの声だ。

 

「どうした!?」

『第7階層に異変が!突然恐怖公の眷属たちが現れとてつもない勢いで増殖を……。ええい、うっとうしい!」

「溶岩地帯でまでか!?炎で殺しつくせないのか!?」

『駄目です!数が多く仲間の死体を盾に熱から身を守っております!ガボッ。く、口に入ってくるんじゃありません!ええい!《獄炎(ヘルフレイム)》!ぐうううう!」

「大丈夫か!?デミウルゴス!」

『だ、大丈夫です』

「自分ごと焼き払ったのか!?」

『ごほっ、ごほっ!大丈夫です。それよりモモンガ様。眷属よりもまずは恐怖公です。発生源を止めない限り解決は……。うっ、うああああああああああああ!ゴボボボボ」

「デ、デミウルゴス!?おい!切れた……」

 

 確実に迫りくる恐怖公の眷属。その恐怖に場が静まり返る。

 

「デミウルゴスの言っているとおり、まずは恐怖公を見つけないことにはどうしようもない。誰か頼める者は……」

 

 アウラが顔を真っ青にして首をブンブン振っている。モモンガだって行きたくはない。

 

(女の子のアウラは可哀そうか……。マーレも……見た目は男の娘だしな……)

 

「私が行きましょう」

 

 そこに男らしい壮年の声が重々しく響いた。

 

「セバス……」

「第7階層を超えたとすればここまではもはや目と鼻の先。ナザリックの執事(ハウス・スチュワード)として至高の御方々の住まうこの領域まで敵を侵入させるわけには参りません。やれ、とお命じください」

「そうか。ではセバス……」

「ふふふっ、そううまく行きますかな」

 

 不敵な声に目を下げるとモモンガに掴まれてぶら下がっているペンギン、否、バードマンのエクレアであった。

 

「どういうことだ?」

「はたして間にあいますかなということですよ。モモンガ様。これをご覧ください」

 

 エクレアがフリッパーを見せつける。その先には腕輪、いや、指のないエクレアが着けているからそう見えるが指輪だ。

 

「これは魔力系魔法の行使を可能とする指輪です」

「なんてことのないアイテムじゃないか。それで私に攻撃するとでも?レベル1では大した威力はないだろう」

「そしてこちらから取り出したるは魔法のスクロール。発動!《上位転移(グレーター・テレポーテーション)》!」

「何!?」

 

 目の前に現れたのは黒く四角い立方体。いや、そう見えただけで、それは転移空間一杯に詰め込まれた恐怖公の眷属であった。黒く蠢く物体が地面に落ちる。その瞬間、それは一斉に飛び立った。

 そしてそれはアインズの顔や体から眼孔や口、肋骨の隙間から内部、体の中どころか頭蓋骨の中にまで入り込みカサカサと大量に蠢く。

 

「うああああああああああああああああああああああああ!」

 

 頭蓋骨の中で飛び立ち、跳ね回る想像を絶する音に精神鎮静化能力を持っているとは言え、人間、鈴木悟としての精神の残滓が恐怖公の眷属への嫌悪感に耐えかねる。

 これはかつてナザリック防衛の際にも使用された戦略だ。大量の恐怖公の眷属で埋め尽くされた黒棺と名付けられた一室。そこへ転送された女性プレイヤー達は自身のHPの損耗など皆無にもかかわらず、この見た目と感触に恐怖し、ログアウトを余儀なくされたのだ。

 今のモモンガはその時のプレイヤーたちの気持ちがよく分かった。これは悪辣非道だ。考えた奴は頭がおかしい。

 

「うおおおおお、《獄炎(ヘルフレイム)》!」

 

 モモンガはエクレアを手放すと、デミウルゴスと同じく自分自身に魔法をかける。体の内と外から焼かれダメージを負うが、遥かに弱くHPの低い恐怖公の眷属が体から焼け落ちる。

 周りを見渡すと逃げ回るアウラを他所にマーレが範囲魔法でほぼ倒し切るというところであった。

 

「エクレア。お前なんてことを……いや、なぜ転移魔法が使用できた?階層間の転移は不可能なはず……」

 

 転移魔法。それはナザリックにおいては階層内でしか意味のないものだ。階層を跨いでの転送は不可能。ならば答えは一つだ。

 

「まさかすでにこの階層まで!?」

 

 扉を蹴破るように開け放つモモンガ。そしてその先からはカサカサという小さな音が重なり大音響となって近づいている。

 

「う、うそだろ!?」

「マ、マーレ!あんたならいけるんじゃない!?」

「む、無理だよ。お姉ちゃん。数が多すぎるもの」

 

 恐怖に震える3人の前に、白髪の執事が進み出る。

 

「モモンガ様。私にお任せください」

「セ、セバス!?」

「この身はすべて至高の御方々に捧げたもの。我が生涯に一片の悔いなし!うおおおおお!」

 

 セバスは拳を突き上げると、扉の先、ナザリック最終防衛ラインである広間、ソロモンの小さな鍵(レメゲトン)の先の扉まで進むとその奥で仁王立ちになる。

 

「モモンガ様。ここは私が死守させていただきます」

「セ、セバスー!!」

 

 セバスは内開きの扉の取っ手に手をかけると通路へ向かってそれを力いっぱい引く。そして、重い扉が閉じたその瞬間、大質量の何か物体がぶつかる音、さらに何かがはいずり引っ掻き回す音がする。

 しかし扉はビクともしない。セバスが内側から絶対に扉を開けられないよう押さえているのだ。迫りくる放射能……ではなく、恐怖公の眷属から主を守るために。

 

「ほぉ、見上げた忠誠心ですね。ですが、やはり大量の眷属のおかげで気配の察知は難しかったようですね」

「何!?」

 

 エクレアからの言葉に周りを見渡すと一部空間に歪みが発生している。

 

「エクレア様。工作活動お疲れさまでした。さぁ、モモンガ様。潜伏(ハイド)を解除しましょうか。我輩はここまでの侵入に成功しましたぞ」

 

 空間の歪みに色が付く。そこから現れたのは全長30cmほどのゴキブリ。頭には王冠、手には王錫、背中には真っ赤なマントを羽織っている。

 そしてその騎乗しているのは銀色の巨大ゴキブリ型ゴーレム、シルバー・ゴーレム・コックローチだ。

 

「恐怖公!?」

「さて、エクレア様に玉座を譲っていただけますかな。るし☆ふぁー様のご命令ですので」

「お……お前。るし☆ふぁーさんと俺とどっちに忠誠つくしてるんだよ!?」

「それは我輩に乗騎をいただいたるし☆ふぁー様につくのが道理かと」

「ぐっ……。しかし、姿を現したのは間違いではないのか?お前のレベルは高々30程度。殺しはしないが眷属を召喚させる前に意識を奪うことくらいはさせてもらうぞ」

「ほほほほほっ!さすがはモモンガ様。ですが、ここに我輩が来たことでほぼ目的は達しているのです。エクレア様がここに連行されると分かっていればお渡ししておいたのですがな」

「何!?」

「ここがどこかお忘れで?」

 

 モモンガは周りを見渡す。ナザリックの最終防衛ライン。ソロモンの小さな鍵。そこにはかつてるし☆ふぁーが作った悪魔の像が並んでいる。

 ソロモンの七十二柱の悪魔。それを模倣して作られたゴーレム像だが、途中でるし☆ふぁーが飽きて67体しかないという酷いオチがついた代物である。

 最終防衛ラインということもあり、希少金属を使ったそのゴーレムのレベルは優に80を超えている。

 

「ま……さ……か……」

 

 恐怖公は腕輪型の魔法道具を起動。そこから音声が流れる。

 

『起動!レメゲトンの悪魔たちよ!目覚めるのだ!』

 

 るし☆ふぁーの声だ。それに呼応するように周りを取り囲む悪魔像たちの目に赤い光が宿る。

 

『めざめよ……』

『めざめよ……』

『めざめよ……』 

『愚か者に現実を叩きつけるのだ』

 

 悪魔像たちから発せられる音声もるし☆ふぁーのものだ。その中でいち早く起動した蒼く輝く剣を握りしめた長身の悪魔像がモモンガへと斬りかかる。

 

「モモンガ様!」

 

 飛び出してきたアウラが鞭で剣を弾き飛ばす。しかし、その後ろから今度は別の悪魔像が口から火炎を吐こうとしていた。

 

「《上位魔法盾(グレーター・マジック・シールド)》!」

 

 迫りくる炎をマーレの防御魔法が阻む。しかし、相手は67体。3vs67と言う数は暴力その物であり脅威だ。

 

「あ、あんのやろおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

 この場のモンスターは天井に配置された地下風水のエレメンタルも含めるとレベル100の2パーティをも崩壊させるほどの戦力だ。レベル100のNPC二人とモモンガ一人では圧倒的に不利だ。

 モモンガは一声咆哮を上げると戦闘態勢へと入った。

 

 

 

 

 

 

 依然戦闘状態のソロモンの小さな鍵。その中でモモンガは違和感を感じていた。悪魔像たちの挙動がおかしいのだ。

 彼らは何故かダメージを負うと攻撃を中断し、入口の扉のあたりを死守している。

 

「《現断(リアリティ・スラッシュ)》!」

 

 また1対悪魔像に致命的なダメージを与える。するとやはり入口の扉でスクラムを組むように周りのゴーレムと固まっている。

 それを幾度繰り返しただろうか。悪魔像の塊が入口を完全に塞ぎ切った時、()()は発生した。

 

<警告!警告!ダンジョン最奥部までの通路が繋がっておりません。システム・アリアドネを発動します!直ちに通路を確保してください。警告が無視された場合、ダンジョン維持費用にペナルティーを科します!>

 

 突然どこからともなく発せられる警告メッセージ。それを聞いたモモンガは顔が真っ青になるほど驚愕する。

 

「ま、まさか!?」

 

 システム・アリアドネ。ユグドラシルにおけるダンジョン作成制限システムだ。ダンジョンにおいて最奥部を守る簡単な方法がある。それは最奥部までの通路を作らなければいいというもの。

 完全に隔離した空間であれば安全に守れる。しかし、それではゲームとしての公平性にかけ、製作者サイドとして許せない。そこで取り入れているシステムがシステム・アリアドネ。

 入口から最奥部まで1本の線で結ばれていなければペナルティーとしてギルド資産が恐ろしい速度で消費されていくのだ。当然資産が尽きればギルド本部を維持できない。それはつまりギルドの崩壊を意味する。

 ユグドラシル金貨は山のようにあるナザリックであるがシステム・アリアドネで消費される資産はその比ではない。金貨が消費されれば次は保管しているアイテムが換金されて消えていってしまうのだ。それは絶対に避けなければならない。

 

「ゴーレムで道を塞いでアリアドネ発動だと!?るし☆ふぁあああああああ!あのゴーレムクラフトの糞野郎!ここまでやるか!?悪戯ってレベルじゃないぞ!?」

 

 よく見ると入口に集まったゴーレムは目の光を消し、すでに彫像と化している。つまり物質で最奥までの線を塞いでしまっているのだ。これを排除しなければならない。

 

「《爆裂(エクスプロージョン)》!」

 

 モモンガが悪魔像の塊に魔法を叩きこむが崩れるのは表面のみだ。

 

「糞!硬い!希少金属を使ったことを後悔する日が来るなんて!」

 

 悪態をついている間にもまだ起動している大量の悪魔像たちが攻撃を仕掛けてきている。そして、アウラとマーレも善戦しているが、そこでHPを失った悪魔像は入口をさらに分厚い壁と化す材料となる。大魔法を入口に叩きこむような隙もない。

 

(どうする!?あと何分持つ!?早くしないとギルドが崩壊する!殲滅は無理だ!時間的に間に合わない。どうする……どうすれば……)

 

 考えている間にもシステムからの警告が鳴り響いて頭がどうにかなりそうだ。

 

(システム?このゴーレムはシステムで動いている?上書きは……もしかして可能じゃないのか!?)

 

「ゴーレムたちよ!止まれ!止まるんだ!」

 

 モモンガはギルドマスターとしてゴーレムに命令を発する。しかし、聞こえているのかいないのか、まったくゴーレムたちは行動をやめようとしない。

 

「やめろ!やめ……システム……システム・コマンド!?」

 

 頭に閃光のように思い浮かんできた言葉。システム・コマンド。これはNPC達を操作する手段。今でこそ自由に動いているNPCたちであるが、本来はこれなしで動くことなどありない。

 

「システム・コマンド!!!!『停止』!『停止』だ!すべてのものは動くのをやめろ!!」

 

 藁にもすがるつもりで絶叫するモモンガ。

 

―――そしてすべてが()()した

 

 

 

 

 

 

(やったのか!?やったんだな!?よし、すぐに入口を解放しないと!)

 

 モモンガは超位魔法を発動する。悪魔像と戦いながらでは発動する隙がなかったが、今ならば可能だ。そして迷うことなく即時発動の課金アイテムを使用、砂時計を握りつぶす。

 

「《失墜する天空(フォールンダウン)》!」

 

 上空から堕ちた超高熱源体によって生じた絶熱が一気に膨れ上がり、効果範囲内の全てを貪欲に貪り尽くす。

 塊となった超希少金属製のゴーレムたちが融解し、爆散すると同時にうるさく鳴っていた警告メッセージも聞こえなくなった。

 

「や、やった!やったぞ!アウラ!マーレ!」

 

 自分とともにナザリックを守ってくれた子供たち。それに感謝しようと後ろを振り向いたモモンガは凍り付く。

 そこにいたのは鞭を振るう姿勢のまま固まっているアウラ、魔法発動姿勢のまま固まっているマーレであった。

 

「お、おい!?おまえたち!?」

 

 近寄って肩に手を置くもピクリとも動かない。

 

「マーレ!おい、マーレ!」

 

 顔を近づけ、揺さぶろうが何をしようが瞬き一つしない。

 周りを見るとエクレアと恐怖公の動きも止まっていた。周りの悪魔像と同じくピクリともしない。

 

「なんだ?どうしたんだこれは!?」

 

 そこで思い出すのは先ほどのシステム・コマンド『停止』。

 

「まさか……嘘だろ。おい、アウラ!マーレ!」

 

 壮絶な戦闘痕を残すソロモンの小さな鍵。そこで動いているのはモモンガ一人だ。他のすべてが停止している。

 それでも何かの間違いだと思わずにいられないモモンガはいつまでも叫び続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

 ナザリック地下大墳墓。玉座の間。そこに守護者たちが集まっている。デミウルゴス、コキュートス、シャルティアの3人だ。

 モモンガは頭を抱え沈んでいた。

 

「モモンガ様。アウラとマーレ、それからセバスはベッドに寝かせてきました」

「そうか……ご苦労」

 

 ソロモンの小さな鍵での戦闘の後、動かなくなったNPCはアウラにマーレ、そして扉を隔てた向こう側にいたセバス、そしてナザリックに反旗を翻した恐怖公とエクレアの5人であった。恐怖公とエクレアについては念のため氷結牢獄に入れてある。

 恐怖公が停止状態になったことにより眷属たちも一斉に活動をやめており、見た目上はナザリックは平常通りに戻ったと言える。

 

「ナザリックの資産についてはほぼ壊滅です。ユグドラシル金貨はすべて失われました。また、ワールドアイテムを含むほぼすべてのアイテムも喪失しております」

「そうか……」

 

 それでも何とかナザリックの喪失は免れたと喜ぶべきだろう。今は手持ちのアイテムをエクスチェンジ・ボックスで換金し何とかギルドを維持している。

 ナザリックが崩壊したらギルドシステムより生み出されたNPCたちが消える可能性は大である。そんなことになったら本当に一人ぼっちだ。

 

(でもなぜだ……。なぜこんなことになった。エクレアたちから話を聞けないが、るし☆ふぁーさんはナザリックにはいない)

 

 ナザリックをくまなく捜索したがるし☆ふぁーさんが現れた形跡はない。

 

(ナザリックを崩壊に導くなんて……。もしかして他のギルドメンバーも同じ目的でナザリックに現れたのか?いや、そんなことは……。でもそうだとするとアルベドの行動はギルドを守ろうとした?分からない……。どうすればいいんだ……)

 

 守護者たちに心配そうに見守られながらモモンガが頭を抱える中、さらに頭を痛くさせる報告が届く。

 

 

「モモンガ様、騒ぎで報告が遅れましたがナザリックへ(ふみ)が届いておりまして……。僭越ながら事前に確認させていただいたところ……これは宣戦布告の文かと……」

「なに!?ナザリックに宣戦布告!?誰からだ!?」

「それが……アインズ・ウール・ゴウンを名乗る者から……」

 

(俺から手紙!?いや、この世界じゃまだ俺はアインズを名乗っていない。だとするとギルドメンバーの誰かか!?)

 

「我らがギルドの名を名乗るとは不届き千万……お許しいただけるなら私が相手を殺してまいります」

「待て、デミウルゴス。その前に手紙を見せて見ろ」

 

 デミウルゴスから奪うように手紙に目を通すモモンガ。そこには宣戦布告文と開戦の場所、時間が指定してある。そして最後にはアインズ・ウール・ゴウンの名前とともに見覚えのあるマークが刻印されていた。

 

 

 

―――マーク、それは山羊の頭を持つ悪魔がデフォルメされたギルドメンバーサインであった

 

 

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