カーテンが秋風に揺れている。
ひらりと翻った先から朱に染まった鱗雲が覗く。僅かに開いた窓から風が吹き込んでいて、先程から読書の邪魔をしている。
そんな放課後、私は所属している部活の部室で本を読んでいた。
その対角線上には同じ部員の男子。
彼、比企谷八幡は先程から彼の視界を遮るカーテンと時折格闘しながら彼もまた本を読んでいる。
「…風、強くなってきたわね」
夏休みが終わり、九月も数日が経った今でも蒸し暑い夏の気配を色濃く残しているが、今のように夕暮れが差し迫ってくるとだいぶ涼しくなってくる。
特に意味は無かったが、ぼそり、と何気なくそんなことを呟いた。
その言葉に答える声はない。
いつもならば、もう1人の部員である少女が何かしら会話の突破口を作り、それに私と彼が返答するという場合が殆どなのだが、生憎と彼女は今日部室に来てはいない。
なんでも今日は彼女の家で飼っているペットを動物病院に連れて行かなければならないとかで部活には出られない旨が書かれたメールが先程私の携帯宛に届いた。
「…今日はもう終わりにしましょう」
時刻はもうすぐ下校時刻。
おそらくこのまま待ってもやることは無いだろう。
パタン、と読んでいた本に栞を挟んで立ちあがる。
「ん、了解」
彼も部活を終えること自体に特に異論がないようで、帰り仕度をして、揃って部室を出た。
「…私は鍵を返しに行くから」
部室に鍵を掛け、それだけ言うと、彼の前からそそくさと立ち去る。
別段やましいことがあるわけではない。
………訂正、本当はやましいと感じることはある。
私は彼に1つ嘘をついた。
厳密には嘘をついたわけではないのだけれど…いいえ、言い訳ね。
入学式当日、私が乗っていたリムジンが彼を跳ねて怪我を負わせた。
そして、そのことを彼に伝えることなく今まで部活を共にしてきた。そのことがひょんなことから彼の知るところとなった。ただそれだけの話。
彼は別段私を糾弾しようとしているわけではない。
ただ、私が彼に対し罪悪感を覚えているだけなのだ。
我が事ながらなんとも女々しいと思う。
謝る…べきなのかしら、ね?でも今更どうやって?落としたミルクはもう皿に戻ることはない。人間関係も同じこと、今更謝ると言ってもそれは…。
部室の鍵を職員室に戻すと、小さくため息をつく。
…変わらないわね、私。
下駄箱からローファーを取り出し、校門をくぐり出る。
学校から出れば、学生である雪ノ下雪乃の時間は終わり。
残りの半日は学生ではない自分、雪ノ下の魔術師としての自分に切り替わらなくてはいけない。
マンションに帰ってきた私を迎えたのは、1つの郵便物だった。
差出人の宛名は
…要するに、逃がさないぞ、という保険掛けみたいなものだ。
「…ふん、わざわざ、こんなの送ってこなくてもわかってるわよ」
引き伸ばしも今日でおしまい。
幸い、前回姉さんが残した遺品は回収してあるし、サーヴァントの召喚スポットも確保してある。
つまるところ、戦いの準備は既に整っているのだ。
…後は文字通り、この戦いの資格を得るだけなのだが…
「聖杯戦争…たった1つの聖杯を奪う殺し、ね…」
聖杯戦争に参加する魔術師はマスターと呼ばれている。
これは階級を表す呼称ではなく、単純に''主''としての役割を意味する。
聖杯戦争に参加する条件。
それはサーヴァントと呼ばれる使い魔を召喚し、契約することのみだ。
いくら魔術師としての格が高くても、サーヴァントを従えなくてはマスターとは認められない。
サーヴァントは普通の使い魔ではなく、その使用方法も異なる。
聖杯戦争に参加する魔術師はこの日に備えてサーヴァント召喚用の触媒を用意するものなんだけど…
「…本当にこれがその触媒なのかしら…」
郵便物の包みを破り、中にあった物を取り出す。
これは前回姉さんが使わなかった触媒で一番魔力的価値が高かった物。
平べったい鉄のようなナニかで、何に使うモノなのかいまいち理解できない。
…昔、こんな形の入れ物の中にラムネのお菓子が入って売られているのを見たことがあるわね…。
とにかく、触媒は用意出来た。
後はサーヴァントを召喚するだけなのだが…
サーヴァントはその気になれば今すぐでも呼び出して契約出来る。
この街の霊脈、並びに地盤を固めているのは雪ノ下家だ。
代々、この街の土地を管理してきた雪ノ下の娘として、他から来た魔術師に劣りを取ることはまず無いだろう。
取らないのだけれど…流石に体内の魔力が溜まりきってない状態で召喚するのは無謀というか…自慢ではないが、私は体内に貯蔵できる魔力量は平均的な魔術師と比べ比較的少ない。その分質や燃費、技量によって調節し、一流の魔術師と遜色ないところまではいくのだけれど、サーヴァント召喚となるとやはり万全の状態を期したい。
今夜万全の状態でサーヴァントを召喚し、完璧な形でサーヴァント召喚儀式を終えましょう。
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深夜。
時計の針は深夜3時を指している。
私にとって、魔力の流れが最もいい時間。
制限的にも召喚できるチャンスは一度きりだから、僅かなミスが致命傷となる。
私は完全を期す為に以前から調べていた霊脈スポットで一番優れたポイントに魔法陣を刻む。
…実際、サーヴァント召喚には大掛かりな仕掛けは必要ない。
サーヴァントは聖杯によって招かれるもの。
マスターは彼らを繋ぎとめ、実体化に必要な魔力を提供することが第一なのだから、召喚は勝手に聖杯がやってくれる。
それでも、最新の注意と努力を。
本来なら何かしら生き物の血液で描く魔法陣だが、流石に魔法陣のためだけに動物虐待をしようとは思わないしできない。
だから、溶かした水銀で陣を描く。
…姉さんは何を使ってこの魔法陣を作ったのかしら。
水銀もかなりの量を溶かして陣を描いた。これを動物の生き血で作るとしたらとても一匹や二匹でどうこうなるものではない。
…まさか、ね。
当時、世間を騒がせた野良猫の死骸山積み事件の犯人が実の姉でないことを祈りながら、着々と準備を進めていく。
「…セット」
私の中にある、カタチの無いスイッチをオンにする。
かちり、と身体の中身が変わるような感覚。
通常の神経が反転して、魔力を伝わらせる回路へと切り替わる。
これより雪ノ下雪乃は人ではなく。
ただ、1つの神秘を具現化する部品の1つとなる。
…身体が熱い。
額から汗が溢れる。
背中に焼きごてを突き立てられたような痛みが走る。
気を抜けば足から崩れ落ち戻ってくるのは不可能とすら思える。
それは人である私の身体が、魔術の部品となることを拒絶している証拠。
いかに優れた魔術師であっても、この痛みだけは逃れることはできない。
それでも…私は…!!
「…告げる」
始まる。
取り入れたマナを固定化する為の魔力へ変化させる。
後はただ、この身体が空になるまで魔力を注ぎ込み、召喚陣というエンジンを回すだけ。
「…告げる。汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に、聖杯の寄る辺に従い、この意、この理に従うならば応えよ」
視覚がぼやける。
あたりはまばゆい光に満ち、深夜だというのにここだけ昼間のように眩しい。
「誓いをここに、我は常世全ての善となる者、我は常世全ての悪を敷く者。汝、三代の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」
やったわ…!!
大きな手ごたえがあった。
それはもう、エビで鯛どころかマグロやクジラを釣り上げるくらいには完璧な召喚。
ぼやけていた視界が元に戻る。
ソレは確かにそこにいた。
使い魔と呼ぶには強力過ぎる魔力を纏ったソレ。
ヒトのカタチをしているけれど、ヒトとは大きく離れた''異世界の英雄達''。
あまねく人の夢と希望で紡がれた英雄が目の前の魔法陣に降臨していた。
そして…。
「聞こう、貴女が俺のマスターか」
全身真っ黒なパワードスーツの様なものを着込み、黒のヘルメットを被った男は第一声にそんなことを口にした。
こんにちは、島田ミカです。
プロローグの2つ目でございます。
…しかし、まあ、全然進みませんね。本来ならばfateよろしく、雪乃と彼女のサーヴァントの戦いをもう少し書いてから、本編に行こうと思っていたのですが…キリが良さそうなのでここらで今回は切らせて頂きました。
エピローグの続きは…書いた方がいいかしら?それとももう本編に直接?特に某SNよろしく潰された心臓治したりしないし、なんなら雪乃のサーヴァントが未来の八幡なんてことも無いですから、ここらで本編に移っても問題ないと言えば無いのですが…そこら辺は、まあ、追い追い考えるということで!
さて、今回雪乃が召喚したサーヴァントの現在開示できる内訳は大体こんな
感じ。(大いに作者の偏見が入ります)
class ???
真名 ???
マスター:雪ノ下雪乃
性別 : 男
身長: 178cm
属性: 秩序・善
筋力 A+
耐久 B
俊敏 B+
魔力 C
幸運 D−
宝具 ??
クラス別能力 ??
固有スキル ??
宝具 ??
適正クラス ??
総合ランク A
総合レアリティ 星5
(このレアリティは単騎で平均的な聖杯戦争に参加した場合どの程度勝ち残れるかを基準にしています。よって、ランクとレアリティは異なる審査基準にあります。)
レアリティ基準
星5 単騎で優勝を狙うことも可能。
星4 単騎で聖杯戦争を生き残ることも可能
星3 他陣営と共闘することで優勝を狙うことも可能。
星2 星3以上と共闘することで聖杯戦争を生き残ることも可能。
星1 他陣営と共闘しても生き残るのは難しい。
勿論、聖杯戦争は原作同様ケースによって規模もまちまちなので、この基準が該当しないことも多々あります。
(ちなみに、総合ランク・レアリティは単騎における聖杯戦争の生存を基準にしているため、例えどれだけステータスが高かったとしても固有スキル、宝具等総合的な判断でレアリティが1つ下だったり上だったりします)
ここまで読んでくださった皆様に感謝を込めて、次回またお会いしましょう。