「おっぱいまんこまんこちんこゲーム……?」
「なによ……それ……意味が分からない」
ゲームマスターの口から発表されたゲーム名は聞いたこともないものだった。
『では、『おっぱいまんこまんこちんこゲーム』のルールを説明させていただきます。まずあなた達の前に4つのお酒の入ったグラスを用意させていただきました』
私達の近くにあったテーブルを見ると、いつの間に置かれていたのか液体の入った4つのグラスが並んでいた。
「さっきは何もなかったのに……」
『このグラスの内の1つには即効性の毒を混入しております』
「…………毒」
そこで本当に、これが死のゲームだということを私達は再認識させられた。
しかし、私達の不安など露知らずゲームマスターからゲームの説明が行われ始める。
ゲームのルールの要約はこうだ。
〜おっぱいまんこまんこちんこゲームのルール〜
・4つのお酒の内の1つに猛毒が仕込まれている。
・一時間毎に、順番に親が決められ、親はお酒を飲むか飲まないか選択することができる。(本人の意思で飲めるのは一つまで)
・ただし、他の参加者から『おっぱいまんこまんこちんこ』とコールされると親は強制的にお酒の一つを飲まなければならない。(一人一回まで)
・つまり、最大で参加者の数までお酒を飲むことができる。
・最後に毒を飲んでしまった人が負け。
・最後の一人になるまでこのゲームは繰り返される。
という、いたってシンプルなゲーム。だが、負けたときの代償が……重すぎる。
そして、最も残酷なのが友人の死が自分たちのコールに左右される点だろう。
(こんなもの、ゲームでもなんでもない。ただの殺し合いだわ……)
『最初の親はこちらで決めさせていただきました。最初の親は――――ゆかり様です』
「……私ね」
私はお酒のあるテーブルの前へと立った。
『それでは、おっぱいまんこまんこゲーム、開始!!』
………………
……………………
…………………………
しかし、訪れたのは沈黙だ。ゲームマスターが開始の合図をしたにも関わらず私達は一歩も動かず、一言も喋らなかった。
というより、どうしたらいいか分からない。
(私達が、このゲームで助かるには……)
沈黙の中、私はダブルピース、ミスターに向かって重い口を開いた。
「二人とも、聞いて。今はとにかく時間を稼ぐしかない。私が今日家に帰らなければきっと私の両親が警察に通報してくれるはずよ。それまで誰も何もせずじっと助けを待つべきだわ」
それが、今のたった一つの希望。私達ができることなんてないのだ。
「……それもそうだな! ここは繁華街の近くのはずだし助けなんてすぐ来るだろ!」
「……………………」
そうだ、繁華街にはカメラも多い。私達の行方も分かりやすく、助かる可能性は高いだろう。
(このまま、誰も動かなければ……。)
『ダブルピース様、ミスター様。コールしないのですか? もし、ここでゆかり様が毒入りの酒を引けば貴方方は勝ち進めるのですよ? それと、言い忘れていましたがコールする場合、十分間コールし続けなければコールは無効となります。コールする際はご注意下さい』
「……私達は友達よ。貴方の言いなりになんて―――――」
そう、私が言いかけた瞬間。
「――――――ちんこ」
小さな声が耳に、届いた。
その声の主は――ダブルピース。
「え……。ダブルピース……?」
よく聞こえなかった、きっと私の聞き間違いだと、気のせいだとそう信じたくてダブルピースに何と言ったのか聞き返す。
しかし。
「――おっぱいまんこまんこちんこ」
ダブルピースは、はっきりとそう呟いた。
「ダブルピース……何言ってるの? ちょっと……」
「アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!」
「ッ!!!」
私は、夢中で『おっぱいまんこまんこちんこ』と叫ぶダブルピースに唖然とするしかなかった。友達だと思っていたダブルピースが、まさかこんな馬鹿げたゲームにのり、私を陥れようとするなんて――――。
時間があれば助かる可能性は高い、にも関わらず今コールするしようとする意味を考えると――強烈だ。
…………即ち、ダブルピースは私を殺そうとしている。
「どう……して……?」
「おい……ダブルピース。……お前は……」
私もミスターも、信じられなかった。まさか、ダブルピースが私を殺すために「おっぱいまんこまんこちんこ」と言うなんて。
『ダブルピース様がコールを始めました。ゆかり様には、4つのコップの内どれか一つを飲んでいただきます』
「どうしてよ……。ねえ、どうして!!」
「おっぱいまんこまんこちんこ!!!!! ……ごめん、ゆかり。ウチは……お金が欲しいから」
『ダブルピース様、コールは10秒間止まると無効となりペナルティが課されます』
「え!? ……おっぱいまんこまんこちんこ!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!」
「そんなッ……」
私は失望しながら、友人の繰り返す淫語を聞くことしかできなかった。
ダブルピースのコールが始まって数分が経った頃だろうか、ゲームマスターの声が再びフロアに響き渡る。
『ふふふ、ダブルピース様には特別に素敵なサプライズを用意しております。それがこちら!!』
そして、ゲームマスターの映っていたはずのテレビは暗転し、画面が切り替わった。
……そこにはいたのは。
「アイ、おっぱいまんこまんこちん―――えッ!?」
『ダブルピース!? ちょっと、あんた何をしてるの!?』
「お母……さん……?」
画面に移されていたのは、ダブルピースの家族だったらしい。ダブルピースの母は、ただただ困惑の表情を浮かべるしかできないようだ。
すると、ゲームマスターの声がどこからともなく聞こえた。
『特別に中継させていただきました。ダブルピース様の戦いはテレビを介してリアルタイムでご家族にご覧いただいております』
「な……!?」
「中継ってどういうことだよ!?」
「いや、ちょうどいいわ!! 彼女の親に警察を呼んでもら――」
『そう言えばいい忘れていましたね。ゲームに参加していることや外部に助けてなどと発言する場合、ゲームを放棄したとみなし即刻処刑させていただきます』
「くっ!!」
(先手を打たれた!! すぐに、助けが呼べる状況なのに!! これじゃあ、ダブルピースがただ家族の前で淫語を叫ぶことになるだけだわ!!)
何か助けを呼べる方法は――――。
「おっぱ……、ま…こ……」
『ダブルピース様、声が小さければコールは無効と見なされます』
「くッ!! なんで家族の前でこんなことをッ!」
『ダブルピース様、コールが中断され10秒経つとペナルティが執行されます』
「ぅううううううううううううう!!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!!!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!!!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!!!!! アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!!!」
『ダブルピース……あんた、何を言って……!!』
ブツッ
そこで画面は暗転し、中継は途絶えた。
最後に画面に写ったのは、ダブルピースの母が目を見開き、驚き、困惑したような表情だった。
「ダブルピース……」
ダブルピースの顔を見ると私以上に絶望を浮かべている。
彼女の頬に一筋の涙が溢れ落ちた。
だが、そんな彼女に追い打ちをかけるようにゲームマスターの声が無常にも響く。
『続いてのゲストは、ダブルピース様の高校時代の友人達です』
再び画面は切り替わり、数人の女が映りこんでいた。どうやら、彼女達もダブルピースの関係者だったらしく、ひどく動揺していた。
「ッ!! ……おっぱいまんこまんこちんこ!!」
しかし、彼女は止まらない。それだけの強い意思が彼女の「おっぱいまんこまんこちんこ」からは感じられる。
『えっ、何これ』
『ダブルピースじゃん、まじやばくね。うけるんですけど』
ブツッ
画面はまた暗転、そして。
『続いてのゲストは、中学時代の友人達です』
☆
―――――こうして、ダブルピースはこれまでに関わってきた様々な人達と中継され続けていった。
小学校の先生、大学の友人、ダブルピースが好きな芸能人まで。
本当に色んな人の前で彼女は、「おっぱいまんこまんこちんこ」と連呼した――――いや、させられた。
にも関わらずダブルピースの心は、強かった。半端な覚悟でやっていない、彼女は今きっと人間の本能に忠実なのだろう。
己の欲望を求めるため、全てを投げ売っている。
このまま、彼女は十分間コールをやり切るだろうと誰もがそう思った瞬間だった。
『そして、最後のスペシャルゲストはこの方です。どうぞ――――』
「おっぱいまんこまんこち――――ッ!?」
『ダブル……ピース?』
「力也……君ッ……!」
画面に映されたのは、茶髪でチャラそうな男。
その顔は……私にも見覚えがあった。
『最後はこの方、ダブルピース様の恋人。力也様です』
この男とダブルピースのツーショットをダブルピースが自慢気によく私に見せてきていた。
もうすぐ付き合って一年記念日だとか言って――――。
『急にスマホからテレビ通話がかかってきたと思ったら……。どうしたんだ突然? つーか、非通知だったから誰かと思ったじゃねえか』
「いや、その……。何もないっていうか……」
『ハハッ。何もなくても連絡したくなるよな。俺も……ちょうどお前と話がしたかった』
「いや、そうじゃないの! 別に今連絡したかったわけじゃないの!!」
『ああ、今度の一年記念日のことだよな。何かしたいことあるか? 遊園地、水族館……動物園もいいよな』
ダブルピースの様子とは対象的に、幸せそうな彼氏だ。
しかし、時間は無残にも経過していく。
『ダブルピース様、コールが中断され7秒が経ちました』
「む、無理よ!! 彼氏の前でこんなことッ……!!」
『ダブルピース様には、あと3秒でペナルティが執行されます』
「待って!! 中継はやめて!! お願い!!!!」
『3』
「お願いよ!! やめて!!!」
『2』
「い、……いや!! いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
『1』
「ッ!!」
その取り乱した声は彼氏にはなぜか届いていないのか呑気に、一周年記念日にどこに行くか聞いている様子が画面に映っている。
だが、彼女はそれどころではなく、今究極の選択を突きつけられていた。
プライドを捨てるか、死ぬかの二択。
『ぜ――――――――』
「アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!アイ、おっぱいまんこまんこちんこ!!!!!!!」
彼女が捨てたのは――――――――プライドだった。
一心不乱に淫語を繰り返すダブルピース。ダブルピースの目には、もう何も写っていない。
号泣しながら彼女は叫ぶ。やり場のない思いを大声で吐き出した。
きっと彼女は、もう諦めてしまったのだろう。
そして、画面に映るダブルピースの彼氏は。
『……………………は? お前、一周年記念日にしたいことが『おっぱいまんこまんこちんこ』って……。しかもそれを大声で連呼とかいくらなんでも……。わりぃ、今聞いたこと無しな。いや、今のっていうか付き合うのも……無しだわ』
ブツッ
その台詞とともに、画面は消灯した。私たちは、そのあまりの光景に絶句するしかない。
私は、ダブルピースの顔を見ることが……できない。
しかし、まだ声は続いていた。
「おっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこ」
―――――ダブルピースは壊れてしまった。声には覇気はなくなってしまいお経のように延々と唱え続けている。
彼女の前には一つの木魚が見えてくるような、悲しみの
「おっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこ」
それはまるで、幾多の経験を経て無の境地に達し人を超越した僧侶だ。
とっくに、コールして10分間は経っていただろう。
「分かった! 飲むから! もうやめて!!」
私は淫語を壊れたリセットボタンを押し続けるように連呼する友人を見ていられず目の前の飲み物の一つを飲むことを決めた。
迷うことなく右側のグラスをサッと手に取り、一気に飲み干す。
「……なんとも……ない」
『おめでとうございます、ゆかり様。それはただのお酒でございます』
ホッとしたのも束の間、ダブルピースは止まらない。
「おっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこ」
「もうやめて、ダブルピース! 私は飲んだから! そんなこと言わなくていいの!!」
繊細なものほど、壊れてしまえばもう元に戻らない。きっと人間でもそれは同じで。
「おっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこおっぱいまんこまんこちんこ」
「やめて……もう……やめて……」
私の声は、彼女には届かない。
ミスターは顔を背け、悔しそうな表情を浮かべている。
みんな、やりきれない思いを抱えていた。
そこで初めて私達は、この殺し合いゲームの残酷さを思い知った気がした。
そして。そんな様子の私達にかけられたのは、非常な宣告だった。
『ダブルピース様、ルール違反のためペナルティが執行されます』