「どうして!? ダブルピースはちゃんとコールしたはずでしょ!?」
「そうだ! さっきと話が違うぞ!?」
私とミスターは、ゲームマスターにすかさず抗議した。
ダブルピースは心を犠牲にしてまでコールしきったはずだ。
ペナルティを受ける道理などどこにもない。
しかし、ゲームマスターの口から理不尽な理由が発せられた。
『ご家族の前で5秒、恋人の前で9秒、合わせて14秒コールを中断されたためです』
「合わせて……? そんなことさっき一度も言ってなかったじゃない!!」
『聞かれれば答えたんですけどねえ』
「ふざけるなッ!!」
ミスターは、握り拳を床に叩きつけ怒りを滲ませる。
私も、同じ気持ちだ。ゲームマスターはふざけている。
私の傍らには、全てを失い茫然自失となったダブルピースの姿があった。
目のハイライトは消え、今にもそこから消えてしまいそうなダブルピース。
「じゃあウチは……、力也の前でおっぱいまんこまんこちんこする前に死ぬことは決まってたの……?」
ダブルピースはポツリと呟いた。彼氏だけではなく、自分の中の大事なものまで失ってしまったことへの悲壮感が感じられる口調。
「ウチは……一体なんのために……」
彼女にかけてあげられる言葉が見つからない。
何を言っても彼女を慰められないだろう。
「……ダブルピース……」
こんなの……あまりにも酷だ。ダブルピースは友人、家族、恋人の前で淫語を連呼しただけの女となり――――死んでいく。
家族や恋人へ、「おっぱいまんこまんこちんこ」という遺言を遺して彼女はこの世界から消えてしまうのだ。
『それではダブルピース様には、消えていただきましょう』
(………………)
確かに、私は裏切られた。でも、それでも私の友人なことに変わりはない。
ダブルピースがおかしいんじゃない、このゲーム自体が間違っている。
(こんな理不尽な理由で……人が死んでいいわけがない!!)
気がつけば私は画面のゲームマスターに向かって怒鳴りつけていた。
「ダブルピースは、ちゃんとコールしたわ! 恥を捨てて、家族や彼氏の前で……あんなことまでして……!! ペナルティなんて到底納得できない!! それに、おっぱ――――」
その時、私の肩に誰かの手を置かれた。後ろを振り返るとそこに立っていたのはダブルピース。
そして、ダブルピースは首をゆっくりと横に振った。
「ゆかり、もういいの」
今にも泣きそうな、哀しみを孕んだような顔。……ダブルピースは、生きることを諦めていた。
「ウチにはもう、何一つ残ってないから」
そんなこと……知っている。一つづつ大事なものを壊していく所を目の前で見ていたのだから。
でも、今の彼女はあまりにも彼女らしくなくて。
「そんなこと……言わないでよ……」
いつもポジティブだったダブルピースの口から、そんな後ろ向きな言葉なんて聞きたくはなかった。
「さっきはごめんね、ゆかり。……二人ともさよなら」
私達にそう最後に言葉を遺して、彼女は深い暗闇へと吸い込まれていった。
☆
眼鏡ちゃんと同じように、ダブルピースの立っていた床が開き、彼女は重力に乗って落下していった。
私もミスターも、ただ見ていることしかできなかった。
どうしようもなく私達は無力だった。
目の前にいる友人を、助けることができなかった。
きっと、これが本当の絶望というものなのだろう。
「…………」
私もミスターもショックで動くことができず沈黙が続いていた。
私達は二人の友人をどうすることもできず――失ったのだ。
最早ゲームなんてどうでもよくて、どうしてダブルピースを止められなかったのか、なぜこんな建物に入ってしまったのか。
そんな後悔が延々と私の頭の中で巡っていた。
そうこう考えている内に、おっぱいまんこまんこちんこゲームが始まり数時間。
私とミスターの手番は交互に回っていたが、お互いお酒に手を付けることもコールをすることもず、ただ漠然と助けが来るのを待ち続けていた。
…………だが、ゲームマスターはそれを許すはずもなく。
『ゆかり様、ミスター様。どうやら一つ勘違いをされているようですが、ここに助けなんて来れませんよ? 仮に警察がこの建物にたどり着いたとしても、今この建物は外から人が入れないよう万全の設備を施していますから立ち入ることなどできません。あなた方は最後の一人になるまでゲームを行ってもらいます』
どうやらゲームマスターは、私達が殺し合いをするまでここに閉じ込めておくつもりらしい。
でも私は、もう友人を失いたくない。
「それでもいいわ。このまま助けが来なくて餓死したとしても友達と殺し合うより数万倍マシよ」
きっとミスターも同じ気持ちだったのだろう
、私の言葉に大きく頷いた。
「ああ、俺とゆかりが殺し合いをするなんて……ありえない」
きっと私達は、もう殺し合いなんてしない。
しかし、ゲームマスターはその言葉を待っていたと言わんばかりの拍手をして不気味に笑いかけた。
『ゆかり様、ミスター様ならそうおっしゃると思っていました。そんな貴方方に、ここで特別追加ゲームを設定させていただきます』
その不意をつかれた言葉に顔を上げる。
「追加ゲーム……?」
『追加ゲームをそれぞれがクリアできたら、お一人様五千万円の賞金が得られ、『おっぱいまんこまんこちんこゲーム』は終了となります』
意味が分からず、ミスターと思わず顔を見合わせる。
ミスターも眉間に皺を寄せ、ゲームマスターの態度の急変を訝しんでいるようだ。
私はゲームマスターに向かって、率直な疑問を投げかけた。
「……一体何を企んでいるの? 最初のルールでは一人になるまでゲームは続けるって言ってたのに……」
しかし、ゲームマスターは私の質問はスルーし言葉を続けた。
『あなた方の目の前に特殊な飲み物を用意させていただきました。このゲームに同意する場合、飲み物を飲み干してください。それで、このルールにエントリーされたこととなります』
すると、私達の前にいつの間にかニ本の小瓶が出現していた。
(この飲み物を飲めば……私達は二人とも助かるかもしれない)
甘い言葉に吊られ、追加ゲームに同意してしまいそうになるが――――これは確実に罠だ。
殺し合いを強要させるようなゲームマスターの言葉など信用できるはずがない。
きっと、殺されるのがオチだろう。
「そんな見え見えの罠に、私達が乗るわけ――」
「本当に助かる可能性はあるんだろうな?」
しかし、私の言葉を遮るようにミスターは画面のゲームマスターに問いかけた。
「ミスター!? これは罠よ!!」
私は、ミスターに詰め寄り、今にも小瓶を取ろうとしていたミスターの手を掴んだ。
しかし、私の手は優しく振り払われる。
「分かってる。でも、このままじゃ死ぬだけだ。なら最後まで足掻くべきじゃねえか?」
「だからって……」
「俺が先に飲んで、追加ルールとやらに従ってみる。それが、安全そうならゆかり、お前も参加すればいい」
「……そんな危険なこと、ミスターだけに任せるわけには」
「いいんだ。俺は男だ、こんな時くらいカッコつけさせてくれよ」
……そこまで言われてしまうともう何も言えない。ミスターの決意は固まっていて私が入り込む余地などなかった。
「じゃあ……飲むぞ」
そう言ってミスターは小瓶を一気に口に持っていき飲み干した。
ゴクッ
瞬間、異変は起きた。
「んあ? ……なんだこれッ!! は、腹があああっ!!!」
ミスターが小瓶の飲み物を飲み干した直後、腹を抱えてうずくまり苦悶の表情を浮かべた。
『ミスター様が追加ゲームにエントリーされました』
そうして、ミスターへの追加ゲームが始まった――――。