第三話 power
………
俺達ァは健康優良不良少年だぜ!!
「友達……?」
「ああ。ダチだよ…。」
特異点に、彼の友達がいると言う。普通は信じられない。特異点とは言え、違う世界の、違う人間がいる可能性なんて……とは思ったが現に彼のように違う世界から来ている人間がいるのだ…。もしかすると…
「あぁ。その通りだ。もう特異点だけの問題じゃねえよ。」
「!!」
まただ。また心の中を覗かれた。思わず、震える。相変わらず笑顔のままだ。
「ドクター…」
「ん?」
「え?」
「特異点の説明だよ。」
「あ、はい。」
「え、ちょっ…」
マシュが言う前に止めた…。それには理由がある。だがそれは好奇心でしか無いような…そんな下らない理由でしか無い。
「何故です!先輩!?」
「なんでって……どうせもうすぐ行くつもりだったんでしょ? それに私は知りたいの……。」
「…何を?」
「あの“キャスター”についてよ…。」
知的好奇心。いつも人はそれを抱いて進化していくものだ。だが、今回は少し違う。この感情は“人類として知らなければならない”そんな感情だ。
「………」
「ごめんね…でも…。」
「…私も薄々感じていました…。」
「え?」
「私もですよ。さっきからずっと」
マシュも一緒だったのか……不思議な感覚だ。誰かと同じ考えをするだけで、こうも違和感を感じるなんて…私はマシュにこう言う。
「大丈夫……いざとなったら皆がいるしね!」
「先輩…。」
特異点という現場にいるのはマスターだ。勿論それは戦闘の指示でだが、だからこそ、怖い。立香は“冬木”で溢れんばかりの狂気と恐怖を知った。しかしそれらを照らす優しい光でもあるのが、マシュなのだから。
マシュはこれまで孤独だった。ただ、それが何故かは今は知らない。だが、ああも、必死で私や…今はいない“所長”も…守ろうとした。その優しくも、険しい、今にも崩れそうな心で、その十字の盾を振るって、周りの“影”に囚われず、唯我独尊の如く、守り続けてくれたのだから。
「……よし、じゃあ行こう!」
「はっや!」
「N○ROばりの速さで説明が……?」
「聞いてないだけでしょ……」
冗談で洒落込む。いつもこんな感じだ。いつ死ぬか分からない。だから必死で笑顔を作ろうとする。
「……」
「どうしたの、キャスター?」
「無理して笑うんじゃねェ……」
「……ふふ。」
「んだよ?」
心配してくれているんだ。優しいサーヴァントだなと、ただそれだけ。
「………だからそんなに“遠慮”するんだ……。」
「……チッ!……ま、行こうぜ。」
「ハイ!」
マシュの明るい返事だ。本当に可愛い。流石うちのカルデア可愛さナンバーワンだ。
「それじゃ、レイシフトするよ。……ちゃんと説明聞いてないみたいだけど…まあ、大丈夫だろ!」
「聖杯を取りにいけばいいんでしょ!」
「聞いてたのか……(困惑)」
「マシュも……」
「ハイ! 大丈夫ですよ。霊脈に召喚サークル確立させればいいんですね!」
「お、おう……」
時代も勿論分かる。“1431年のフランス”。なるほど、つまり“百年戦争”の真っ只中だ。少し緊張し、深呼吸をして……
「んじゃ!」
コフィンに乗り出し、目を瞑る。どうか、生き残れますように。と
………
「……んーっ……ん?」
目覚めたそこは草原だった。
「マシュー……キャスター…ってうおっ!」
「フォーウ!」
フォウ君。前回の特異点の冬木で見つけた小動物。相変わらず可愛らしい。モフモフしてしまった。
「先輩………ってフォウ君じゃないですか?」
「フォウ君もレイシフトできるの?」
「……そのようです。先輩かわたしのコフィンに忍び込んだのでしょう。幸い、フォウさんに異常はありません。わたしたちどちらかに固定されているのですから、わたしたちが帰還すれば自動的に帰還できます。」
「はぇー……すっごい博識。」
「はい。わたしたちは運命共同体です。──マスター。時間軸の座標を確認しました。どうやら1431年です。現状、百年戦争の真っ只中という訳ですね。ただ、この時期はちょうど戦争の休止期間のはずです。」
「戦争に休みなんてなー…」
「歴史なんぞ知るかよ。」
相変わらずキャスターも腕を組んだまま無愛想にぶっきらぼうな返事をする。
「……百年戦争はその名の通り、百年間継続して戦争を行っていた訳ではありません。この時期の戦争は比較的のんびりとしたものでしたから。捕らえられた騎士が金を払って釈放されるなど日常茶飯事だったそうで……先輩?」
「……空が…。」
「………。」
そして、そのタイミングに通信が入る。
『よし、回線が繋がった! 画像は粗いけど映像も通るようになったぞ!って、どうしたんだい三人とも? そろって空を見上げちゃったりして?』
その声に反応し、マシュは持っていた機材を操作する。
「ドクター、映像を送ります…。あれは、何ですか?」
『これは──光の輪……いや、衛星軌道上に展開した何らかの魔術式か………?』
ロマンおじさんの反応から見て、“アレ”は普通の現象では無さそうだ。
『なんにせよとんでもない大きさだ。下手をすると北米大陸と同サイズか……? ともあれ、1431年にこんな現象が起きたという記録はない。間違いなく未来消失の理由の一端だろう。アレはこちらで解析するしかないな……。キミたちは現地の調査に専念してくれていい。まずは霊脈を探してくれ』
「分かった! 解析頼むね!」
「わかりました、ドクター。周囲の探索、この時代の人間との接触、召喚サークルの設置……やるべきことは山ほどあります。一つずつこなしていくしかありません。まずは街を目指して移動しましょう、先輩。」
マシュにそう言われ、キャスターと共に20分近く歩いた頃、向こう先にそれなりの人影が見えた。
「先輩、止まって下さい。確認……どうやらフランスの斥候部隊のようです。どうしましょう。接触コンタクトを試みますか?」
「ちょっと…怖いな…。」
「見たところヒューマノイドです。話し合えばきっと平和的に解決します。ヘイ、エクスキューズミー。こんにちは。わたしたちは旅の者ですが──」
そう話しかけるマシュとは裏腹に私は嫌な予感がした。何秒か沈黙した後、兵士たちは
「ヒッ……! 敵襲! 敵襲ー!」
兵士たちはそう叫びだし、仲間を呼び始めた。予感的中とはこのことだ。だが、“冬木”よりは、まだマシだろう。
『ヤッホー、手が空いたから様子を観に……って、何でまわりを武装集団に取り囲まれてるんだい!?』
「ちょっと黙れ…」
『……はい……』
余りにも哀しくなる、一瞬の刹那である。
「………おい…」
『は、ハイ!』
「…“殺さなかったらいいんだろ?”」
『え? …えぇ、まぁ…』
「……おーけぇー…。」
キャスターは、笑顔でこちらを向き、
「……期待はすんなよ。」
「え?」
「行けぇぇぇぇぃ!!」
隊長格と思わしき兵隊が叫び、争いは勃発する。
──だが、
「……ウぉぉぉぉぉ───!!」
──地面はひび割れ、地震が発生する。キャスターを取り囲む“赤い光”が一層輝きを増す。
「なっ!?」
「先輩! 掴まってください!」
「──────!!」
─────刹那、爆発が起きる。
「うわぁぁぁぁ!」
「ぐぁぁぁぁぁ!」
兵士たちは、突風に揺らされる瓦礫の如く飛んでゆき、
「ぎゃっ!!」
「ぐれっ!!」
血を吐き、倒れてゆく。
「………あ、ぁぁ……。」
「………す、すごい…」
「………。」
「やりすぎちまったか?」
まだ、始まったばかりだ───