八龍士   作:本城淳

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異世界「ウェールテイ」の民

ー伊勢崎町廃ビルー

 

GPSで二人を追った健斗達。やっと見つけた先は元々は潰れたラブホテルだったような建物で、そこでは激しい戦闘の形跡があった。

「おい……何だよ、これ」

既に黒焦げの状態の死体が転がっていた。

あちこちに傷を負いながらも勝利を収めた信が足元に転がっている死体に指差しながら明達に尋ねる。

それは普通の死体ではなかった。

異形……そういった存在が背広などを内側から引きちぎり、正体を現した状態と言うべきか…。

獣人………

そんな存在が人間に化けて襲ってきた。

「まるで本当の妖怪……何でこんなものが襲って来るんだ?おおよそオカルトじみた力を持つものとは戦って来たが、妖怪そのものと戦うなんて初めてだぞ?」

「キメラ人間相手に良く勝てたな。お前ら」

明は転がっている異形の死体に近づく。

それを旭が横飛びして明を押し倒す。

「止めとけ。さっきやられたが、そいつら、死体になったら自爆するぜ。そんなの嫌だべ?」

ドオオォォォォォン!

死体が爆発し、キメラ人間と呼ばれた化け物は跡形も無くなる。

明は一瞬、こいつはそっちの気があるのかと勘違いしたが、単純に明を庇ってくれたらしい。

場所が場所なだけに勘違いしかけたが、まさか和田家の人間が他人を庇うなんて思わなかっただけに驚いた。

「わりぃ。サンキューな、旭」

「ああ。クライアントにケガをされたら困るからな」

旭が手を付いて立ち上がる。

「旭!お前、ケガを……」

「言ったべ?さっきやられたって。掴んで投げ殺した直後にチュドーンだったからな。体は気で防御したが、直接触っていた腕はどうにも出来なかったんだよ。あーあ

ーあーあー。時計が完全に壊れてら。安物だったから良いけどさ」

旭は壊れた腕時計を外して握りつぶし、ポイ捨てする。

旭が脱ぎ捨てたらしい制服を拾い、肩に掛ける。袖を見ると、見事に焦げて破れており、そして旭の腕は血は自らの血で濡れていた。

何でも無いように見せて結構な深手を負っている。

それで平然を装って見せているのだから恐れ入る。

「旭。お前、ドジこいたな。心霊術」

健斗が霊力を込めて旭の腕に霊力を込める。すると、徐々に旭の外傷に瘡蓋がはられ、そして綺麗に消える。

健斗の霊力には破邪の力だけではなく、こうして自己治癒力を高める力もある………が、完璧ではない。

重症な物は跡が残るし、切断なども治すことなど不可能。綺麗に断面を縫われた上で、術を施さなければ効果がない。

「大した腕だな。その治療術」

「木藤の家では一番腕が良いと言われているよ。それでも色々制限はあるけどな。やられたのは表面だけのようだな。跡は残らなそうだぞ」

「ああ。ありがとな。投げるために内功を巡らせていなければ吹っ飛んでいた可能性もあったわ。今になったぞっとするべ」

方言がバリバリ出ているところを察するに、内心はかなり焦っていたのかも知れない。

「へ、ドジこくからだよ」

「うるせぇよ。てめえだって吹っ飛ばされた俺を庇って腕に背中にダメージもらっべ。俺を庇うなんてヤキが回ったんじゃねぇの?」

言われて健斗が信の背中を見ると、鋭い刃物に斬られたような傷があり、そこから血が滲んでいる。

「けっ!庇って貰っておいて悪態を吐くんじゃねぇ。テメェがミスするからこうなったんだろうが。ちっとは感謝しろよ。このドチビが」

「ケンカしてねぇで背中を見せろ。治療してやるから」

「要らねぇよ。かすり傷だ」

「強がって無いで見せろっつってんだよ。ったく、意地を張るんじゃない」

「ケッ!」

悪態を吐く信に健斗が心霊術を施す。

こういう場において本来の人間関係が浮き出てくる。

三人は普段は共に行動している仲良しグループにみえるが、実際はこうだ。

しかし、咄嗟に庇ったりする辺りは深い部分では繋がりあっているかもしれない。

そうでなければ仕方がないとはいえ、二年も一緒には過ごせない。上っ面だけではとっくの昔に生活は破綻している事だっただろう。

「あーあ、こりゃ制服はダメだな。しばらくは1着でどうにかするしかねぇわ。かー!結構な値段がするのによぉ!恵里香さんにまた言われるぜ」

「こいつらの事情が終わらなくちゃ学校も私服かジャージでどうにかするしかねぇな」

二人はどかっと座り込んで溜め息を吐く。

どのみち制服は諦めるしかなかっただろう。

何故なら大きな傷がなかったにせよ、細かい破れや焦げ跡、返り血か自分の血かはわからない血痕が残っている。戦いがどれだけ激しかったのか、それで見て取れる。

「お前ら、実は相当強かったんだな。コイツらは結構手を焼くぜ?」

明が素直に二人を誉める。

「あ?舐めてんのか?確かに手は焼いたけど、倒せないほどじゃ無いぜ?」

「安倍や和田の手練れ位だと思えば、何て事はないな」

(だとしたらコイツらはやはり相当な手練れ………それが奴等の狙いか?だが、ちょっと強いくらいじゃここまでこいつらを狙う理由がない。それに、何で本命とも言える俺達には何も無かった?)

明は真面目な顔をして深く考え込む。

あくまでも邪教徒の敵は八龍士であるはず。でもあるのに明達には何の邪魔も入って来なかった。

そこが大きく引っ掛かる。

(………まだ結論を出すには情報が少ないな。心の隅に留めておく程度にしよう)

明はこれ以上考えるのを止める。

「で?まだ肝心な事を聞いていないぜ?アイツらは何なんだったんだよ」

信が肩をぐるぐる回して調子を確かめる。

旭も手を開いたり閉じたりしていた。

明達八龍士は互いの顔を見合わせ、観念したように溜め息を吐く。

「先に話して置くことがある。俺達はこの国の人間ではない」

衝撃の事実!明達は日本人では無かった!

……と、どや顔で告白する明。それに対して健斗達の反応は冷ややかだった。

「そんな事は解ってるんだよ。バレて無いとでも思ってたの?」

健斗が冷たく言うと、明が舌打ちする。

「そこは嘘でも『な、何だってぇー!』と驚く場面じゃないのか?」

『な、なんだってぇ!』(三人の棒読み)

「あ、良いわ。わざとらしすぎて却ってムカつくわ。けど、これは予想外だろう」

明はここで息を吐く。

妙に芝居がかって引っ張っているように見えるのは気のせいではあるまい。

「俺達は異世界・ウェールテイ……この国の言葉に直すと龍の世界からやって来た」

『は?』

三人がはもって疑問符を浮かべる。

「だから、異世界・ウェールテイから来たって言ってるのよ。冗談でも何でもなく」

シーン………。

『な、何だってぇぇぇぇぇ!』

今度こそ本気で驚いた叫びを三人はあげた。

 

木藤家セーフハウス

 

家に到着した一同はまず、着替えを始める……のだが。

「あんた達は何でいきなりお茶の準備を始めているのよ」

真樹がこめかみに人差し指を当てながら怒鳴る。

健斗はスポーツドリンク、信はコーヒー、旭は緑茶の準備を始めている。

………それぞれグラス、マグカップ、湯飲みを一人分だけ用意して。

それは構わない。それは大して問題ではない。

「あ、わりぃ。お前らも何か飲むか?一応はクライアントだしな」

信が気が利かなかったと気が付き、とりあえず人数分のカップやら何やらを出す。

元々客を招く事なんて想定に入れていないこの家の食器は基本的に彼らの予備を使わざるを得ないのだが、問題はそこではない。いや、そこも問題なのだがそれ以上に問題がある。

「何で帰って来たそのままの格好でお茶を飲もうとしてるのよ!特に血まみれの二人!早くシャワーを浴びて着替えて来なさい!」

そう、衣服がボロボロで血まみれの状態でお茶をしようとしているのだ。本人達は良くても見ている方は気分良くお茶を飲む気にはなれないだろう。

「あ、結局朝風呂も入ってなかったな」

「何て神経してるの?早く入って来なさいよ。とてもじゃないけどお茶をする気にも話の続きをする気にもなれないわよ」

今にも頭が噴火しそうになる気持ちを必死に押さえ込んでいるのか、真樹は深呼吸とため息を繰り返す。

モテそうな顔をしているのに女っけがない理由はこういうところも多分に含まれているだろう。

まともに結婚ができるのか心配になってしまう。

「わかったよ。入れば良いんだろ?ったく」

旭と信はおもむろにその場(・・・)で脱ぎ出す。

「ちょっと……何で嫁入り前の娘の前で裸になるのよ」

「え?何か問題が?」

「大有りよ。ねぇ?麻美?」

真樹が麻美に同意を求めると、麻美は首を捻る。

「え?何で?戦場の駐屯地とかじゃ当たり前だから気にしてないけど?」

「これだから戦場育ちは………」

真樹は更に頭を抱えて深く溜め息を吐く。

麻美も健斗達三人と同じく平和な世界には馴染めないタイプの人間である。

せっかくの美少女も本性を男に見せたら誰も近付かないだろう。

「お、流石はビッチ」

「やめて。あたしはそっち方面では身持ちが固いんだよ。まぁ、キスならしたことあるけど」

それを聞いてヒュウ♪と口笛をふく三人。

「延命措置の人口呼吸をキスとカウント出来るのか?」

明が笑いながら言うと、麻美は首をコテンと傾ける。

コレが漫画なら頭の上に大きなクエスチョンマークが浮かんでいるだろう。

「あれ?違ったの?」

救急救命士や看護師などは人口呼吸で異性と唇を重ねる事に仕事以外の感情を持ち合わせる事などないし、裸や性器等を見ることも何とも思わなくなる。

そういう仕事だからだ。

麻美は戦場育ちだと真樹は言っていた。

そうなると必然的に救命措置等をとる場面が多かったであろう。

(こいつはビッチなんかではない。俺達と同じなんだな)

つまるところ、一般人と常識が大きくずれている。

育ちの段階から大きなストレスがかかるなかで、この日常の風景が嘘臭く感じ、そして常に気を抜けない。

そうなれば、あのおつまみやらブロック栄養食品が日常の食事だというのも頷ける。腹を満たせ、そして栄養があれば良い。

味など二の次三の次。

だからだろうか。麻美はこう言ってきた。

「でも、お風呂は入った方が良いよ?」

「ほら麻美だってこう……」

「見た目や匂いで敵に発見される恐れがあるし、なにより自然に溶け込む必要があるし、衛生面を気にしないと感染症とかの恐れがあるからね。この界隈だったら石鹸の匂いをプンプンさせた方が自然かな?」

やはり理由が斜めに飛んでいた。

要は周囲に溶け込めるか溶け込めないかの理由だ。

それで良いのか?美少女。

「……もう良いわ。とにかくお風呂に入って来て頂戴。シャワーでも良いから」

「わかった。行くぞ、信と旭」

健斗がそう言うと、やっと入る気になったのか、信達も講堂を開始する。

「………待って。何でここで脱ぐの?しかも何で脱ぎ散らかすの?」

「え?ダメ?」

「ダメに決まっているでしょ!女の子もいるのよ!?」

「俺達は気にしないけど?」

「私が気にするわよ!ほら!脱衣所で脱ぎなさい!そして脱いだものは洗濯かごに入れる!後、捨てるものは捨てなさい!散らかさない!ああもう!恵里香さんがヒステリーを起こすのもわかるわ!」

案外真樹はおかんだった。

 

しばらく後…

「ふう、さっぱりした」

三人が入浴を終え、戻ってくる。

その間に真樹がそれぞれの飲み物を用意し、八龍士達は座って待っていた。

客人に飲み物を用意させるなんて困った連中である。

「それで、詳しい話を聞かせて貰うとして…お前らは何人だったっけ?」

やっとそこに話が戻ってきたと思いつつ、明がもう一度自分達の素性を言った。

「俺達は異世界人、ウェールテイの人間だ。そして俺は流星王国の王族をやっている」

「へぇ……王族ねぇ。それは大変だ」

話し半分で聞いていた健斗達。

しかし………

………

………………

………………………

「な、なんだってぇー!」

「反応がおせえよ」

 

続く




今回はここまでです。

異能バトルや異世界のタグが徐々に出てきました。残酷な描写のタグも。
流木明の語る異世界ウェールテイの内容とは何なのか。
それは次回以降に語って行きたいと思います。

それでは次回もよろしくお願いいたします。
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