八龍士   作:本城淳

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明達の素性

ー木藤家セーフハウスー

 

「メッメオイード・タガヴォルトーユン・ロマルティク・ターホウスキー・ルース。コレが俺の本当の名前だ。この国の言葉に直訳すると、『流星王国の王族、流木明』となる」

明が自分の国の言葉で自己紹介をする。

「妙に長い上に、王族らしかぬ名前だな」

信が思わず突っ込む。

だが、案外他国の人間からしてみたら、直訳してみたら案外地味という名前が貴族だったりする場合もある。

そんなものだと思い直そうとしたのだが……

「まぁ、これは平民としての名前だからな」

「は?」

旭の返答が間抜けっぽくなってしまったのは仕方がないだろう。

王族の癖に平民としての名前があるのはおかしい。

「事情があるんだよ。うちの国の憲法では八龍士……またはそれに準じた力を持つものは力を持つものの定めとして平民となり、民のために戦うべしっ……てな。記録が残されている建国王、初代八龍士の『流星の龍』という人物が考えたらしい。その憲法の制定後に流星の龍は退位して何処かに消えたと言われているが……それが三千年前の話だな」

「何だその憲法は。権力を持った能力者は危険ってか?」

信はそう言うが、実際安倍家や和田家を見ていればそうなのかも知れない。

両家は日本の裏の裏…つまりは闇の部分を牛耳り、闇から甘い汁を啜っている。

流星王国の建国王はそれを恐れてその憲法を制定したのか、それとも建国王の没後、または(しい)して(王、または王族を殺すことを『弑す』という)その威をかりた元家臣達が作ったのか……。

とにかく明は王族から平民になり、国の為にエージェントの真似事をしている。あまちゃんが世間の荒波に呑まれた結果があの勘違いの痛々しいキャラの出来上がり…かと思えば。

「いやぁ、かの建国王の時代とかならともかく、このヴェレヴァムのほとんどの国と同じように民主化が進んでいてな?堅苦しいボンボン生活よりは自由気ままに動けて清々しているぞ?」

自由気ままに…という言葉に少し苛ついてくる信と旭。

二人の過去は自由とは無縁だったからだ。

それに、また新しい単語が出てきた。ヴェレヴァムとは一体何なのだろうか?

「なぁ、ヴェレヴァムって?」

「この世界の事よ。この世界だって、国家の民主化が進んでいるわよね?」

確かにそうだ。王が実権を握っている国は少ない。

大抵が議会政治を行い、王は象徴として政務を進めるくらいのものだ。もっとも、それも結構大変なことなのだが。

「で、本題となる奴等の事に関してなんだが…」

明はやっと本題を切り出すことにしたようだ。

「キメラ人間ってのは邪法によって生み出された改造兵士というところかな。動物とかの生き物と人間を融合された存在でな。奴等の主力戦力として使われている。更なる異世界から召喚されているとも言われているが、実のところは説の1つに過ぎないんだよ」

それはほとんど何もわかっていないのと同じでは無いのだろうか?

「おいおい。お前らが異世界人ってだけでも衝撃なのに、その上更なる異世界だって?冗談も程ほどにしてくれよ」

信がお腹いっぱいと言った感じで溜め息を吐き、ぬるくなったコーヒーを一気に飲み干してサーバーから新しいコーヒーをカップにつぎたす。

「因みに、その二人の素性は?」

旭が急須にお湯を足し、じっくり抽出をさせながら真樹と麻美の素性を尋ねる。

「私は大した素性じゃないわ。幼い時に親元から離されて色々と研究とかをさせられていたけど」

「雷の八龍士の特性は異常なまでの頭の良さだ。真樹はその知力を軍に目を付けられ、半ば強引に国に協力させられていたんだ」

流星王国も色々と黒い事をやっているらしい。

いや、表に出ていないだけで、国家のほとんどはこういう後ろぐらいところはあるだろう。

真樹は今さら何とも思っていないのか、優雅にコーヒーを飲んでいる。

「あたしの場合はストリートチルドレンだったところを拾われて軍人の教育を受けさせられたなぁ」

「麻美は一人で1個小隊を相手取るような戦闘能力に目をつけられ、検査をしたら八龍士とわかったパターンだな。以降は真樹共々俺の専属になったわけだ」

麻美の場合は何となくそんな気がしていた。

ウェールテイの生活水準がどのレベルであるかは不明だが、麻美の食生活に関しては何か物申したい真樹の反応から、少なくとも一般人のそれとは大分ずれていると予測できる。そこから導かれるに、信や旭と同じように一般的な常識が根本から欠けているのだろう。

学校での態度などは本当にキャラ作りだったと考えて良いのかも知れない。

ただ、信と旭は多少は共感したのか、麻美の肩に手を置いてウンウンと頷く。まともな幼少期を送っていないのはこの三人も同じ。この中では明と健斗が少しまし…な程度であろう。

「そもそも、八龍士ってのは何人いるんだ?」

「その名の通り8人だ。こうして三人が同じ場所な揃う事は希だな。伝説の初代八龍士は8人全員が揃っていたと伝承に語られているが……そういうのはいつだってねじ曲げられるものだから、頼りにならないな」

明に言われ、健斗は昨日の朝に見た夢を思い出す。

夢で見たリフォン達の戦いとあの強力な力。何となくそれが伝説の初代八龍士では無いのかと直感的に思ってしまったからだ。

だとしたらゼルガティスやディアスも……。

「伝承によれば風、炎、水、土、雷、氷、光、闇の8つに強い適正を持ち、常人離れをした神の眷属……という話だな。対する敵は邪神族…いわゆる邪教徒と言われる存在だ。奴等は奴等で俺達のような存在がいるという話だが………」

健斗はまさかな……と、思う。

白神将とかいうナラバ・レナ……。太古の戦いが初代八龍士だったものだったとするならば、あのナラバ・レナがそれに該当するかもしれない。夢の話を個々で出したところで笑われるだけなので、今は黙っておくことにする。

「それにしてもわからん。俺達が狙われている可能性が高いことはわかった。だけど、何で俺達を狙う?」

信と旭が首を捻る。

実家の絡みや仕事の関係で自分達が狙われるならばまだ解る。しかし、異世界の連中に狙われるのがわからない。

「それとよ。気になるのがうちの高校とお前の国の名前がそっくりなのは何か理由でもあるのか?」

「ああ、それはこの学校はうちの国がこの学校を作ったからだな。お前らがこの学校に入学するように木藤健三が勧めたのも、木藤とはこの国で活動する為に協力体勢にあったからだ。ウェールテイとこの世界は、昔から裏で交流があったんだよ。そうでなければ、この国の戸籍とかがない俺達が学校に入学できる訳ないだろ?2代目とかの情報とかだってな」

ここにきてまた衝撃の事実。

つまりは太古の八岐大蛇はウェールテイ人がこの世界に介入してきた歴史でもあるということなのだろうか?

「じゃあ言葉も……」

旭が疑問に思っていたことを口にする。

確かに明達の言語は流暢過ぎる。言語の端とかを掴まなければこの国の人間だと言われても違和感が無いほどに言葉が上手い。

「これはある意味ではこの世界にとってチートかも知れんが……まぁ、よくある翻訳魔法とかその類いのものだと思ってくれて良い」

明がポリポリと頬を掻きながら言葉を濁す。

確かに異世界転移もののほとんどにはそういうものがたくさんある。自分達がその類いの能力を持っている以上は、そういうものがあっても不思議ではない。

そんなものだと思えば深く気にすることでも無いのかもしれない。

ピロン♪

そんなとき、リビングのパソコン経由で健斗達三人の形態にメールの着信があった。

内容については……。

「依頼の着信?しかも張大人絡みの?おかしいな……しばらくは仕事の依頼はないと聞いていたのに……しかも大人の依頼にしては内容が何も触れていない……」

健斗は不審に思い、眉をピクリと動かす。

「今は依頼中だからな………こっちに集中したいところではあるぜ?」

「そもそも、実質はこっちはボディーガードをしてもらっているような物だしな」

信も旭も乗り気では無いようだ。

それにしてもガードしてもらっている自覚があるのならば、その相手から金を取るのはどうなのだろうと明達は苦笑いをする。金にがめついと言うべきか…。まぁ、ガードしてもらっていると同時に釣り餌となっているのも事実なので、五分五分と考えているようだが…。

「今回の依頼は見送ろう。同時に複数の依頼をこなすなんて真似は不可能だ」

学校を休んだにしても、同時に依頼をこなすのは実質的に不可能であろう。健斗達はそう判断して依頼中であることを理由に丁重に断りのメールを送る。張からは残念だ……依頼の成功を祈る。という内容のメールが届き、それきり返ってこなかった。

そういうときもあるので、気にしなかったのだろう。

ピンポーン♪

……と、明達の会話もここまでのようだ。恵里香のハウスキーピングの時間である。

「こんにちわー♪さぁ、お夕飯の支度に参りましたよー……あら?お客さん?大変!脱ぎ散らかして無いでしょうね!」

恵里香が慌てて家の中に入ってくる。

そして綺麗なままで保たれている状態に驚く。

「あら?脱ぎ散らかしてないし、お客さんにお茶まで出しているなんて………お姉さんは嬉しいよ……やれば出来る子達だと信じていたわ……ヨヨヨヨヨ……」

わざとらしく泣き真似をして目元の涙を拭く恵里香だったが……。

「感動に水を差すようで申し訳ないのですが、これは私がやった事で、彼らは脱ぎ散らかしていましたよ?お茶も私がいれました。苦労してますね……家政婦さん」

それを聞いた恵里香はくわっ!と目を見開き、三人を睨み付ける。確かに客人に家事をやらせるなんてもってのほかである。

彼女の顔は真っ赤に染まる。雇い主のあまりの愚行に、そりゃ赤っ恥も良いところだろう。

顔から火が出る程恥ずかしいとは正にこの事だ。

「ちょっとあなた達!お客さんに家事をやらせるって何なの!?さすがにそこまでとは思わなかったわよ!ホントにごめんなさい!花月さん……だったわよね!?もういっそのことこの中の誰かと付き合っちゃわないですか!?」

「朝も言いましたが、冗談はこの三人の生活力だけにしてもらえませんか?あり得ません」

「そっかぁ……」

「こっちも御免だよ、ちくしょう……」

ホントにこの三人は生活力が壊滅的すぎる…。

 

「あひゅう~~~!ここで働いて2年!健斗君達が友達を連れてくるなんて……しかも下宿先がない留学生三人に部屋を貸すだなんて…初めてで…うっうっうっ…嬉しいよぉ……お姉さん、感動したよぉ……」

恵里香が(捏造した)明達の事情を聞いて号泣を始める。

明達は学校の短期交換留学生として日本に来たが、不運な事に下宿先が事情によって取れず、困っていたところを健斗達が下宿先が見つかるまで部屋を貸す……という設定のもとで木藤家に来たという事にした。

元々流星高校は偏差値が普通より若干高い程度の割りには交換留学を盛んにしている学校である。

これは明達のようにウェールテイの人間が日本の学業やらを研修する等の為にしている名目であり、それが不自然にならないように実際に海外から交換留学を盛んに行っている。流星高校の姉妹校は世界中の先進国にあり、そこから交換留学をしているのだ。それだけを聞いても流星王国の国力がいかに高く、そして上手く溶け込んでいるかを物語っている。

「それも、三人の生活を知ってもなお……世の中には優しい人がいるんだねぇ………うっうっ……」

「私も出来れば逃げたいわ……」

「え?」

三人の生活力を知って、思わず……と言った感じで真樹は呟いた。国の任務でなければとてもではないが、短期とはいえ一緒に生活しようだなんて思わない。

「何でもありません。いきなり現れた私達に部屋を貸して頂けるのです。このくらいはさせて頂いて当然でしょう」

(真樹にしてはえらく迂闊だな。気持ちはわかるが)

明はそう思ったが、それも仕方がない。

明も王族の生まれから、幼少期は何もかも身の回りのことはやってもらっていた故に生活力は高くない。

しかし、それでもこの三人よりは自分の事が出来ていたし、特別法によって王族から半ば除籍された今では最低限の事は出来る。

この三人の生活力は本当にどうなっているのかと正直疑ってしまうのは仕方がないだろう。

「あんたは俺らの母親か?」

「あら?いつも言ってるじゃないの。私はあなた達の姉のつもりで接しているって」

「たった2年で厚かましいな!」

「人の付き合いは時間じゃ無いのよ?フィーリングなの。私くらいよ?半週に一度だけとはいえ、めげずに世話を焼くの。普通の家政婦なら逃げ出していても仕方がないんだから!自覚してよね!?」

そこを言われると三人も黙るしかない。

実際、京都に奈良、名古屋等の地域で生活していた時の家政婦は、大抵1週間くらいで辞表を出されていた。恵里香はそれを2年も続けてくれている。なんて心の広い人だろう。

「愛情のなせる業ね……あたしは親の愛情なんて知らないからわからないけど

麻美も親の愛情を知らずにこれまで生きてきたが、これが愛情なのだろうか?麻美も『愛』という言葉の意味を良く知らない。これまで麻美は劣情を向けられる事はあっても愛情を感じることは無かった。

「出来れば三人に教えてあげて!最低限の家事や常識を!」

「恵里香さん。人間、出来ることと出来ない事があるから無理です」

考えるまでもなく真樹が即答した。

「そうね………それは私が良く分かってるから仕方がないわ……でも、頼まずにはいられなかったの…」

恵里香は深く……それはもう深く溜め息を吐いた。

そして諦めた恵里香は仕事である夕食の準備を始める事にした。

「あなた達……誰か恵里香さんをお嫁さんにしたら?」

「そうだな……それが良い」

明達がそういう。

「無理だな。俺達はまともな人生を歩めねぇ。健斗はともかく、俺と旭は………」

「そんな人生に恵里香さんを巻き込めねぇよ……のたれ死ぬのが似合いだ」

信と旭の瞳は、どこか悲しげで……

 

続く


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