八龍士   作:本城淳

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物語が動き始めます。


長い一日の始まり

ー流星高校ー

 

明達がホームステイを始めてから一週間が経過した。

あれから敵の動きは全くなく、平穏そのものだ。

「しかし、ホントにまた来るのかね?奴等は」

昼休みが終わり、麻美と真樹、信と旭は食堂から教室に戻るべく連れだって歩いていた。すれ違う者達は信達が健斗以外の誰かと共に歩くのを珍しがり、二度見するのが殆どだ。

それをうざったそうにしながら、信は麻美に尋ねる。

「それは間違いないと思うけどね?現に襲撃が一回あったわけだし……」

「目的が不明なのも不気味なんだよな………いったい奴等の目的は……」

目的のクラスがある四階に差し掛かった時、学年全体が何やら騒がしい。

何だ……と、旭が続けようとしたが、その騒がしさに眉を潜める。いつもの喧騒とは何かが違う。

ザワザワとした、何かにつけて異質な事態が発生したような騒ぎだ。

「おい。何かあったのか?」

信は適当なヤンキーの肩に手を置いて尋ねる。

地元のチームに属している………一昔前のチーマーやら暴走族やカラーギャングやらのメンバーの見事に金髪に染めた中々気合いの入った奴だ。

「あっ!?んだテメ………」

「あ?」

気安く話しかけたのが気に入らなかったのか、喧嘩腰に返事してきたヤンキーだったが、相手が信と健斗だと気が付くと、一気に顔を青くさせた。

視界の下でキレイな顔をヤンキー顔負けのガン飛ばししている旭が怖かったこともあるだろう。

前に旭にしめられて酷い目に遭ったのもある。

「す、すんません………安倍さんと和田さんだとは気が付かず……あ、そちらの方達は彼女っすか?噂の転校生じゃないっすか。さすがっす!」

ヤンキーはヘコヘコして信達におべっかを使うが、それが却って信達の勘に障っていることに気がついていない。

「下手なお世辞を使うんじゃねえ。こいつらは訳あって一緒に行動してるだけで、そんなんじゃねえ」

旭が更に目付きを鋭くしてヤンキーに凄む。

信と旭が女子と付き合うことはない。

過去の傷が癒えない限りは……。

「で、何があったんだ?」

信が再度ヤンキーに尋ねる。

ヤンキーはハッとして信の方に向き直った。

「それが……木藤さんが血相を変えて出ていったんですよ。あんな木藤さんを誰も見たことが無かったんでみんな慌てているんです」

確かに健斗はよっぽどの事がなければまず慌てることはない。前の学校などでは信と旭が騒ぎを起こしても大抵は落ち着いて対処をしているほどだ。

「あのすかした転校生が木藤さんを追っていきましたけど……何があったんですかね?」

「まさか………」

邪教徒絡みの問題の可能性がかなり高いだろう。だが、それだけで健斗が慌てる事はまずない。

信達はクラスにはいり、適当なクラスメイトに尋ねる。

健斗の鞄はそのままだ。ここまで我を忘れて慌てるなどただ事ではない。

旭はクラスメイトに尋ねる。

「おい、健斗に何があった?」

するとクラスメイト達は互いの顔を見合わせ、そして…

「次の授業の準備を始めていた健ちゃんが、机の中身に入っていた風当を見つけて、それを見たら急に……」

「机の中に入っていた封筒?」

信が健斗の机の上を見ると、確かに握り潰されたような便箋らしき物が転がっていた。

かなり強く握り潰されたらしく、信がそれを破らないように慎重に便箋を広げると……

「なっ!?」

「どうした。何が書かれてる?」

便箋を見て固まった信の姿を不審に思った旭がそれを奪い取り、中身を確かめる。その内容は……

「何だ…………と?」

旭も絶句する。

『木下恵里香は預かった。返して欲しくば木藤健斗一人で横浜港の○○倉庫まで一人で来い。張紅龍&張白龍』

そして、それを裏つけるように同封されていたらしき写真には拘束され、時限爆弾らしき物が仕掛けられている恵里香の写真が。

「明らかに罠………あいつめ、まさか!」

旭が便箋と写真を元通りにくしゃくしゃに握り潰す。

「行っただろうな……恵里香は健斗にとっては姉みたいなものだ……健斗の弱点とも言えるな」

健斗は恵里香を二人以上に慕っていた。

もちろん、二人も身の回りの世話をしてくれる恵里香は嫌いではないので恵里香が浚われれば頭にくる。しかし、健斗はそれ以上だろう。

もしかしたら、健斗の初恋の相手は恵里香なのかも知れないと思うほどだ。

信が紙を自らの魔力で作り出した炎で灰に変える。

「解せないのは張大人の双子の息子であるはずの張紅龍と張白龍が何でこんなことをするのかが気になるな…」

信は張大人の秘書である徐の電話にコールする。

しかし、スピーカーから聞こえるのは無機質なアナウンスだった。

『お掛けになった電話は、現在使われておりません』

「どうなってやがる……」

思わず携帯を握り潰しそうになるほどの激情に駆られるも、通信手段を失うわけにはいかないので踏みとどまる。

張白龍と張紅龍は健斗達の仕事の大口クライアントである張大人……張蒼龍の双子の息子だ。

直接は会ったことはないが、張大人がこれまでこちらを裏切った事はないし、仕事上での信頼関係はそれなりに作ってきたつもりだ。もっとも、それ故にいつでも切り捨てられる可能性は考えていたが、それにしたって突然すぎる。ましてやこんな手の込んだ事をしてくる程の事をした覚えはない。

手を切るなら切るで、互いに不干渉を貫くはずだ。

張大人に取ってみれば健斗達など取るに足らないこじんであるし、張のファミリーと木藤の本家はそれなりの付き合いがある。

互いに手を出せない間柄であるはずなのに、その息子が裏切って来た……これは普通ではない。

「いずれにしても……奴等のねらいは健斗だったわけかよ……」

「急いで追うぞ……このままだと……」

二人が行動を起こそうとすると………

ガンッ!

強烈な痛みが信の即頭部を襲う。

「がぁ!」

「信!」

「あんた!何するの!?」

いきなり殴り飛ばされた信。振り向くと白目を剥いてよだれを垂らしながら、信を殴ったであろう椅子を持った健斗の級友がいた。

「こ、これは………呪術で操られてる……」

見れば他のクラスメイトも…いや、クラスメイトだけではない。廊下でたむろしていた生徒達……恐らくは前項生徒達が同じように椅子やら机やらを持って信達四人を囲んでいた。

「俺達を足止めをするって事かよ……張兄弟は邪教徒、もしくは邪教徒に操られているってところか?」

四人は背中合わせになり、臨戦体勢をとる。

真樹は懐から拳銃を取り出した。

「敵なら容赦なく殺す…ってか?やっぱりテメェも俺達と同じ……」

「一緒にしないで」

真樹は机で襲いかかってくる操られた生徒に向けて発砲する。

「がぁぁぁ!」

バチン!

バタッ!

「魔霊弾。グリップに仕込まれている魔霊石を通じて弾丸を飛ばす銃よ。私の発明品」

撃たれた生徒はそのまま倒れて動かなくなる。

「殺したのか?」

「この世界で言うスタンガン?って言うやつかしら?私は雷の八龍士。魔力を電力に変えてスタンガンの威力で筋力を弛緩させただけよ。ただの一般人を殺すような真似はしないわ」

バチン!バチン!バチン!

真樹は次々と魔霊弾を放って操られている生徒達を気絶させていく。

「急いで。私は基本的に頭脳戦担当よ。魔力だって安倍信のように高くないし、近接戦は護身術程度しか扱えない。学校を脱出して、木藤健斗を追うわよ」

四階の教室という場所では飛び降りる事は出来ない。必然的に敵中を突破するしかないのか……?

「麻美!信!旭!窓側の方が層が薄いわ!そっちから行くわよ!」

真樹がわざわざ追い込まれる方向の敵を倒していく。

だが、信達三人は驚きはしなかった。

「おう!旭、麻美!道を作るぜ!」

「ちっ!何を考えてるかわからねぇが、この場は信用するぜ!」

「信頼してるよ!真樹!」

信が拳の連撃で次々と生徒達を殴り飛ばし、拳の死角から襲ってくる生徒達は旭が掴んで他の生徒を巻き込んで投げ飛ばす。反対側の死角は麻美が手から作り出した水の固まりを固めて投げ、放水銃のように圧力を高めて吹き飛ばす。

「殺さないようにしなさい!彼等は操られてるだけよ!」

「一般人を殺すかよ!そんな事をするのは和田や安倍の下衆どもに対してだけだ!蛇雷(へびいずな)!」

信が魔力の帯を敵に纏わせ、何人かを絡めとる。そこから魔力を電撃に変換し、生徒達を気絶させる。

「後遺症が出たら勘弁な!旭!肩を借りるぜ!」

信が真樹を抱え、旭の肩に飛び乗り、そこを足場に一気に壁までジャンプする。

「あたしも行くよ!」

今度は麻美が相手の頭を足場にピョンピョンと飛び乗って移動する。

「ちっ!」

旭は気で高めた身体能力を使って信達を追う。そして壁の方向まで飛ぶと……。

「旭!気で壁に穴を空けて!」

真樹が叫ぶ。

「そういう事か!確かにそのばか野郎だと学校が火災になるもんな!」

旭が両手に気を溜める。

「はああああ!双若砲!」

覇王翔○拳よろしく人の大きさ程の気弾を放つ旭。

気弾は壁をぶち抜き、程よい抜け道を作る。

「ばか野郎は余計だ!このクソチビ!」

信は真樹を抱えながら抜け道となった壁の穴をくぐり抜ける。

「いつまで抱き抱えてるのよ!下ろして!」

「うるせぇ!先導しろ!旭!」

真樹の予測通り、隣のクラスの教室の生徒は信達のクラスに殺到しており、無人状態だった。

だが、すぐにでも廊下の生徒達がなだれ込んで来るだろう。

「指図するんじゃねえ!麻美!殿(しんがり)は任せるぞ!」

「うん!任せて!ジュライン・ハーツ・アニー!」

麻美は先ほどの圧縮の放水を放って追ってくる生徒達に浴びせる。

真樹がこの手段を考えたのは逃げ道を作るだけでなく、狭い穴から入り込んでくる追っ手を狙いやすくするためでもある。

そして、非殺を前提とするならば麻美ほど殿に適している存在はいなかった。

「オラァ!次の壁をぶち抜く!双若砲!」

旭が次の教室、更に次の教室と壁を破壊して脱出口を作る。

「そこの教室で止まって!非常用ロープを使って一気に下るわ!」

真樹が火災用に設置されている避難用ロープを垂らす。

そして、レンジャー部隊よろしく一気に懸垂降下で下っていく。

真樹もかなりの訓練を積んできていることが伺える。

「大した女だな……避難用ロープで懸垂降下をやるかよ!」

信達も真樹を追って懸垂降下をして一気に一階に降り、最後にロープを信が燃やして学校の敷地内から脱出する。

普通なら大激戦を避けられないところであったが、四階に暴徒が集中していたことから真樹の作戦が上手くいき、容易に脱出できた。

「健斗………無事でいろよ……… 」

 

続く





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