八龍士   作:本城淳

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横浜から異世界ウェールテイまでの道を描きます。
明達はどうやってこの世界のヴェレヴァムへやってきたのか!?
信と旭の秘密は!?
第2章、異世界ウェールテイ編の始まりです!


ウェールテイ修行編
ウェールテイへの扉


J○東海道線…横浜駅

 

大きなリュックをもって、明達は横浜駅で電車を待っていた。時刻は夜7時。

「なんっつーかさ、こう……転移の魔法か何かを唱えてさ、一気にバビョーンってウェールテイに転送されるかと思ったんだけどな」

そう愚痴るのは信だ。

異世界ものの定番である転移の魔法……もしくはそれ系統のアイテムを使って魔方陣やら光に包まれ、そして目を開けた瞬間には幻想的な世界へ……というのを想像していた信達であったが、そんな都合の良いものは存在せず、特定の場所まで行かなければウェールテイに行けないのだとか。

「そんな便利なものじゃねぇよ。異世界転移ってのは。それに、そんなに簡単に出来たら入国管理とか出来ないだろ。そんな真似をしたときには、密入国で逮捕されるか、最悪は邪教徒として処刑されるぜ?特に魔の一族の信と旭は後者の可能性がかなり高いからな」

そりゃそうだ。

聞けばウェールテイ……とりわけ流星王国は大昔から日本をはじめとしてかなりの地球……向こうの言葉で言うならヴェレヴァムとは交流しているらしい。

魔法力が生活に密着している関係から、敢えてヴェレヴァムの産業革命は起こさず、一部の兵器等の技術は伝来されているが、基本的には中性から近世くらいの生活水準なのだとか。

されども入国管理等、機械化以外の部分では近代的な考えやシステムを導入されており、例えば王政は敷いているものの、ほとんど近代的な民主政治を取っていたり、福利厚生や戸籍、教育等も充実しているのだとか。

非日常的な生活をしていたとは言っても健斗達だって現代の男の子。異世界と聞いてワクワクしていたのだが、聞けば聞くほどファンタシーっぽさが薄れて行き、感覚的には発展途上の外国に行くような気分になっていた。

期待していた分、その反動でガッカリ感が半端ではない。

「何か、こう………異世界ってのはさ、モンスターがいて、冒険者ギルドとかがあって、勇者と魔王がいて…エルフとかドワーフとか妖精とか獣人とかいて……そう言うのが異世界冒険ってやつなんじゃないの!?」

信が大袈裟に言う。

「アホ?何でそんな中世の時代のような真似をしなくちゃならないの?」

そんな信の嘆きを真樹が一言の元にぶったぎった。

「だよなぁ………そんなわけ………え?中世?」

「ええ。と言っても、この世界に換算すれば千年前くらいの時代かしら?」

千年前と言えば日本で言えば平安時代の頃だ。

信の先祖とも言われている安倍晴明が活躍し、旭の先祖とも言われている和田義盛が源頼朝と共に平家と戦っていた頃の時代。日本の歴史から見ても古代から中世の時代の話だ。いわゆる公家社会の時代で武士が台頭する以前の時代だ。

「千年前……と言えば、足利時代か?」

「江戸時代だろ?」

信と旭がそう言うと、真樹は頭を押さえる。

「……あなた達、日本の時代を昔から当ててみなさい」

「平安時代、足利時代、江戸時代、鎌倉時代、昭和時代、平成時代?」

口を揃えて言う信と旭。

「縄文時代、弥生時代、大和政権時代、飛鳥時代、奈良時代、藤原京時代、平安時代、鎌倉時代、南北朝時代、室町時代、安土桃山時代、江戸時代、明治時代、大正時代、昭和時代、平成時代よ!」

「何で異世界人の方が詳しいんだよ……」

健斗があきれる。

もっとも、学歴を偽り、中学すらもまともに通っておらず、裏口で流星高校に入学した信と旭は、基本的に社会科……とりわけ生活に密着していない歴史は弱い。

「あたしは………モグモグ……知らなかった……ムシャムシャ……けどね?」

「食うか喋るかどっちかにしろよ」

「モグモグモグモグ……」

「食う方を選びやがった!」

残念美少女、元ストリートチルドレンの流星王国軍大尉の塚山麻美は安定の残念さを発揮する。

もっとも、給料や八龍士としての任務の特殊性と、命令体系による作戦の独立性を確立する為に与えられている階級であるため、部下もいなければ部隊指揮権もない。

扱い的には流星王国軍専属のフリーエージェントという立ち位置なのが浅海だ。

ちなみに後で聞いたことだが、明は少佐、真樹は子供時代からの功績も考慮されて大佐という非常に高い階級であった。しかも真樹は八龍士として作戦に参加する場合は、臨時的に連隊規模の部隊の指揮を執る権限もあるらしく、八龍士チームの実行指揮権も真樹が握っているのだとか。本来ならばヴェレヴァムでの作戦に真樹が出るのは異常だ。明や麻美はエージェントとして現場に出るが、真樹は本来ならば師団クラスの指揮所に詰めて全体の指揮や政治的な活動をしているべき存在なのである。

もっとも、本人的には研究所で勤務をすることが希望らしいが。

ちなみにだが、このままウェールテイの流星王国軍に所属するならば、健斗は士官候補生待遇の曹長、信と旭は明直属の二等兵という扱いらしい。

八龍士の健斗ならばともかく、対外的な理由もない二人についてはこれが妥当と言ったところか……。

「えー。じゃあ、俺。横浜と同じ仕事をしてるわ」

「容認する訳ないでしょ…あなた達みたいな危険人物」

とのこと。

因みに、現行のファンタジーっぽい要素として、中世までは良くあるファンタジー物のようにギルドや冒険者的な存在がおり、モンスターや邪教徒が生み出したり召喚したキメラ人間との戦いを繰り広げていたりしたようだが、今では軍や民間傭兵企業がそれを担っているらしい。

モンスターもいるにはいるが、どちらかと言えば野生の動物や、野良化したキメラの子孫だったりするらしい。

また、エルフや妖精とかもいるにはいるらしいのだが…既に絶滅の危機に貧しているのだとか。

「おおっ!エルフいるのか!?」

「いるにはいるけど、ヴェレヴァムでいう首長族とかそういう扱いだよ?血が薄まって段々耳が短くなっているし、ヴェレヴァムの創作もののような種族とは全然違うから。いつまでも歳を取らないとか、美男美女しかいないとか、菜食主義とか、そういうんじゃ無いから」

「夢がねぇ~~………」

「獣人も正気を取り戻したキメラ人間の子孫とかよね。昔は迫害とかが酷かったらしいわ」

何だか地球の歴史とかの民族問題のようである。

「結局、ファンタジーっぽい所って剣と魔法って部分だけなのかよ」

「一応は銃や大砲みたいな物はあるわよ?飛行船まではあるかな?飛行機は無いけど」

「飛行船はあるの!?」

「この世界でも有るだろうが………あからさまなメカメカしいものは基本的に撤廃してるだけだよ。表向きにはな」

「裏ではあるんだな……」

もう何でもありだ。異世界と現実のごった煮状態。

とは言え、夢も希望もない異世界と言えども、ヴェレヴァムよりかはしがらみが無いだろう。

行けば行ったで新たなしがらみが出来るだろうが、その時はその時だ。

信や旭の幼少期のようなことにはなるまい。

「それよりもだ。もう既に昼のことがニュースになってるぜ?」

駅の売店で新聞を広げていた健斗が社会面を飾っている事件に顔をしかめる。

 

「横浜の高校で集団暴徒化事件発生!多数の怪我人、校舎破壊の痕跡!ゲームの影響か!?」

「横浜港で爆弾テロ事件発生!中国人会社員の遺体あり!高校生暴徒化事件との関連はあるのか!?」

 

デカデカと載っているその事件。本来ならば1面を飾っていてもおかしく無い。

それよりも、記事を追って見てみると、明達6人が行方不明となっており、警察が行方を追っていることまで載っているらしい。

「………おい、目的地まではどれくらいだ?」

「ざっと四時間位だな」

「どこまで行くんだ?」

「………山梨県の富士河口湖町………青木ヶ原樹海」

「はぁ!?」

「特急とか使ってなるべく急ぐぞ!」

早めに来た快速電車に乗って新宿まで出た後に、今度は中央線に乗って特急を乗り、山梨県の大月まで出る。その後は富士急行線に乗って河口湖まで出るが…順調だったのはそこまでだった。

「おい!あの6人は例の行方不明だった高校生!」

「ちいっ!見つかったぜ!」

どこかの監視カメラに映ってしまったのだろう。なるべく避けていたのだが、可能性があるとすれば大月辺りだろうか?

「ちっ!指名手配を食らうのかよ!」

富士河口湖町は広大だ。富士五湖の内、4つの湖が点在している。

「王子!この車に!」

「ありがたい!」

しかし、事前に連絡をウェールテイの職員にしていたお陰か、ウェールテイの諜報員がバンを用意して待っていた。

「乗り込め!行くぞ!」

明達はその車に乗り込み、車は一気に出る。

そこからはパトカーとのカーチェイスだ。

「このままじゃ追い付かれるぞ!」

旭が声を荒げる。

「任せて下さい!この車は水陸両用です!」

車は一気に本栖湖方面に出ず、反対の河口湖方面……つまり富士吉田方面へと逃げる。

「水上に逃げればパトカーは一旦撒けます!その後は湖に飛び込んであそこに待機しているキャンピングカーに乗り込んで下さい!私は自力でどうにかします!」

明達は職員の言うとおりに夜の河口湖に飛び込む。

カナヅチは誰もおらず、夜であるという特性故に温泉街や河口湖大橋のある国道を避ければ闇に乗じて逃げられる場所はいくつもある。

「く………前途多難だな……」

いくら闇に乗じて泳いでいても油断していれば見付かる。警察だって馬鹿ではない。上陸が出来そうな場所は押さえられているだろうし、いずれは検問も張られる可能性がある。

急ぐに越したことはないだろう。

「それに、暗闇の中で泳ぐのって、結構難しいんだな……」

「こんなことになるなんて思わなかったから、水中ライトは持ってないし、使えば目立つしね」

「防水バックで助かったが、携帯はオシャカだな」

「捨ててしまいなさい。どうせウェールテイじゃ使えないんだから」

それもそうだ。これから向かうのは異世界だ。携帯電話なんか持っていたって何の役にも立ちはしないだろう。

「軍用の無線機なら使えるけどね」

「そりゃ、中継局を介さないごく狭いエリアならそうだろうけどな。というか、麻美。水の魔法で移動を速く出来ないのか?」

「あ、その手があった」

案外、うっかり娘である。

「派手なのは勘弁してね?泳ぎを後押しする流れを調整するくらいで良いわ」

「了解♪水流の魔法!ジリオスキー!」

麻美が魔術を使用すると、湖の流れが風を無視して緩やかな波を立て、一行を後押しする。

「これならすぐに付きそうだ!」

明達は水流の乗って人気のない岸から上がると、職員が言っていたようにキャンピングカーが停車していた。

明達が近付くと、ドアが開いて先程とは違う職員が出てくる。

「お待ちしていました。花月大佐」

出てきたのは大学生くらいの女性職員だった。茶髪の栗色のボブカットで、目付きは軍人らしく少しきつめだ。

見たことのない軍服を纏っている。

「織山少尉。あなたが迎えに来てくれたのね。お疲れ様」

「はっ!王子、大佐、大尉、そしてヴェレヴァムの戦士。早く乗車願います!」

織山と名乗る軍人の言われるがままに車両に乗り込む明達。

「ゲートまで急いで!レプエイツ軍曹!」

「はっ!発車します!」

木戸と呼ばれた人物はギアを入れて走り出す。

しかし、急ぐと言っても法定速度の範囲でだ。また、キャンピングカーを用意しているのもこの季節には合っている。

この夏の時期は山梨県は避暑地として有名だ。

もっとも、言うほど涼しくは無いのだが、富士五湖を始めたとしたキャンプ地としても有名で、キャンピングカーが走っているのは珍しいことではない。

警察もまだ先の水陸両用車を追っているのか、パトカーとすれ違っても今のところは怪しまれていないのか、普通に通行できる。

車は一気に国道へと出て、そして本栖湖へと続く道へと出る。そして、西湖付近で降り、青木ヶ原樹海へと6人は降りた。

「我々はもう少し付近でドライブをしております。王子達は帰国を急いで下さい」

車を降りた明は織山少尉の肩を抱いて甘い声で囁く。

「いやぁ、ありがとね?美代ちゃん」

「王子……お戯れは時と場合を選んで下さい。あと、普通に婦女暴行です。ヴェレヴァム的に言えばセクシャル・ハラスメントです。そんなことですから身に覚えのない子供の認知を迫る女性がいるんです」

どうやら女好きなのはポーズだけではなく、普段かららしい。その明の耳を引っ張って真樹が無表情で樹海へと入っていった。

「おいおい……軍属になったとはいえ、一応は王子なんだろ?不敬罪とかにならないのかよ」

「心配無用。王子と呼んでいますが、実際には王子は王籍から外れていますし、階級や職責上では大佐の方が上ですので」

「あ、そうなの?」

「ついでに言えば、あなた達は現段階ではお客さん扱いですが、軍属になれば私より下の階級になる。気安く話すのを許されるのは今だけだと思え。良いな?」

信の敬語のけの字もない喋り方に気分を害したのか、織山少尉は冷たい瞳を信に向けて言い放つ。

「だったら今のうちに気安く話しておくぜ。織山少尉さんよ。行くぞ、健斗、旭」

「ああ。はぐれたりしたら大変だからな」

健斗と旭を伴って信も真樹達を追う。

ここにあるゲートとやらを通れば、新天地であるウェールテイだ。早速ウェールテイ人を嫌いになりかけたが、異世界コミュニケーションなどそんなものだろう。

一行は樹海へと入り、しばらく進む。

すると、何の変哲もない二つの岩が並んで立っている地形に出た。

「さぁて………ゲートを開くか……バーナジ・パッツァム!」

明が魔力を込めた岩に手を起き、呪文を唱える。

すると、岩が青く光り、その間に光の渦が出来上がる。

「この岩そのものが偽装された魔霊石よ」

「旅の○タイプの転移か……」

「時々お前らの言うことは意味が解らないな。良いから入れよ」

そういって渦に飛び込む明。そしてその姿が光って消える。

その後に健斗達も続く。

光が体を包み込み、次の瞬間には……

 

見知らぬ西洋の城みたいな塔の上へと転移していた。

先にゲートを潜っていた明が振り返る。

「ようこそ。我が世界、ウェールテイへ」

そこには………近世を思わせるような町並みが眼下に広がっていた。

 

続く




はい、第2章開始です。
やっとここまで来ました。
本当はここで安倍と和田の親族と戦う事も考えていたのですが、後に持ち込む事にしました。

それでは次回もまたよろしくお願いします。

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