八龍士   作:本城淳

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学校での三人と仕事

ー横浜流星高校ー

 

朝八時、健斗は教室の机に座り、おにぎりを食べていた。育ち盛りである健斗がカ○リーメイト1つだけで足りるわけがない。

「お、さすがに足りなかったか?」

「……足りるわけが無いだろ」

結局、逃げ切った信が健斗の席にやって来てにやついた笑顔を浮かべて話しかけてきた。朝のホームルームまでに買い込んだおにぎりを食べきらなくてはならない。

そんな状況を作った信に対し、健斗は軽い殺意を覚えた。このおにぎりだって遅刻覚悟でコンビニに寄って買い込んだ物だ。

「あ、健斗君。学校で朝御飯?」

「珍しいこともあるもんだな。っていうか学校で朝飯を食うなよ」

「単身赴任のサラリーマンかよ」

まだ食べている途中で健斗に話しかけて来るクラスメイト達。学校ではそれなりにコミュニケーションを取り、周囲に溶け込んで生活している。

もっとも、放課後等では家業の神社の修行という事で、横浜には他の神社で仕事をしていることになっているので、あそびに行く余裕が無いことになっているが。

「………で、なんか面白い記事はあったか?それ」

「いや、暇潰しにはなるが大して面白くはないな」

一方で信と旭は普段は大抵二人で行動している。

互いの席のどちらかに行っては本を読んでいたり、持ち込んでいる将棋やら囲碁やらチェスやらをやっている。

健斗のように仲が良い者達が集まってくるわけでもなく、まるで彼等二人だけの世界がここに展開されている。

今は旭がどこかのゴミ箱に捨てられていたであろう週刊誌を読んでいるが、特に気になる記事は無かったようで、直ぐに鞄にしまっている。

R-18な数ページのグラビア以外は捏造とかパパラッチ内容だけのつまらない三流誌だ。帰りにでもこっそり駅のゴミ箱に返すつもりだろう。

だが、そんな三流誌でも表の雑誌や新聞には掲載されない時折バカに出来ない裏の世界の動きを載せている時もあり、それが情報現として役に立ったこともある。もっとも、ガセネタに踊らされ、赤っ恥をかいたことも少なくなかったが。

そんな二人の行動に、一部の腐った女子からは餌食にされているが、二人はそんな事を知りつつも、歯牙にもかけていない。

そういう世界もあるのだろう程度にしか考えていないからだ。だが、間違っても二人はそういう展開にはならない。それは何故だかは答える時がまたあるだろう。

ただ、一つ言えることは健斗も含めた三人は友人関係であるかと聞かれれば「否」と答える。

強いて挙げれば呉越同舟であり、運命共同体であるとも言える。

そして、それは彼等の仕事にも関係している。

キーンコーンカーンコーン

「あ、ホームルーム始まるぞ。ケンチャンも早く飯を食い終われよ?」

「ふがふが!(おう!)」

始業のチャイムが鳴ると同時にクラスメイト達は自分の席に戻っていく。

「おーい、ホームルームが始まるぞぉ。お前ら席に着けよぉ。それと、木藤……朝から早弁か?」

早弁とは違うだろう。強いて言えば遅い朝食だ。

今日も彼等の普通に馴染んでいる学校の1日がはじまる。

「なぁ、旭……」

「ああ……」

 

ー校長室ー

 

流木(ながれぎ)様。彼らが裏の……いえ、闇の世界の一部では有名の三人です」

校長がそう言うと、軽薄そうな感じの男はニヤァっと口の端を上げる。

「奴等がそうですか。噂通り……ってところですかね?」

「噂通り?別段、現段階では彼等は何もしていないですが?」

「いえ、隠し撮りに気付いていますよ」

男……いや、まだ健斗達と同い年の少年は楽しそうに笑う。

「…そうには見えませんが?」

まぁ、素人目にはそう映るんだろうな。だが、少年は素人ではない。

(直接会うのが楽しみだぜ?木藤、安倍、和田。俺をがっかりさせるんじゃねぇぞ?)

 

ー休み時間ー

 

「おい、信と旭。気付いたか?」

休み時間になるや否や、健斗は信と旭の所に詰め寄った。

「ああ、神崎のスーツの胸ポケットに入っていたペン。カメラを仕込んでやがったな」

信は何でもないような態度で言っているが、警戒心は解いておらず、周囲の様子を伺っている。

「誰の差し金だろうな?というか、お前の実家が絡んでるんじゃないのか?この学校はお前の親父が紹介してきたがっこうだろ?」

旭は健斗を睨んでいうが、健斗には身に覚えがない。

そもそも、信と旭は依頼以外では特に変な行動を起こしている節が見られない以上は健斗の実家が動くことはまずないはずだと考えている。

「考えても仕方がないだろ?少なくとも、うちの実家絡みでは無いはずだな。奴等は俺の事は既に興味無いはずだ」

旭は吐き捨てるようにいう。信や旭の実家は、家業から逃げた二人を勘当扱いにして見捨て、それ以来は共に関係を絶っている。今さら自分達を始末しようとするならば、とっくに刺客を放って来ているハズだ。

「何か相手に思惑があるのなら、その内何らかのアクションがあるだろ?警戒だけは怠るなよ?」

健斗がそう締める。相手の意図が読めない以上は特にアクションに出ずに、当面は様子を伺って見ることにしたようだ。

その意見には信も旭も賛成のようで、話は別の事にスライドした。

「それよりも、今夜は仕事がありそうだ」

旭が携帯に送ったメールを二人に見せる。

「何だ……依頼が入ってるのかよ。受けるのか?」

信が尋ねると、旭は少し考え込む。

「今月は仕事が少なかったからな。来月を迎える前にもう一仕事しておかないと、生活が苦しいぞ?」

「まぁ、内容についてはいつも通りみたいだな」

三人が互いに頷いて話を終わらせる。

そこで健斗は元の自分の席へと戻っていった。

そこで信と旭の二人もいつも通り、バックから文庫本を取り出して読み始める。少し会話に時間を使ってしまった為、何かゲームをする時間も無い場合は大抵こんなものである。

ところが今日は二人の日常とは少し異なっていた。

「安倍君、和田君?」

「あん?」

先週に転校してきた女子が話しかけて来た。

「塚山か。何だ?」

塚山麻美。セミロングの茶髪の髪型を纏めた美少女と言っても過言ではない女だが、少し馴れ馴れしい態度で人と……特に男と接するどこのクラスにも一人はいるどこかビッチ臭い女だ。

「何だって…扱いが軽いなぁ~。そんなんじゃ、彼女が出来ないぞ?」

その言葉に顔をしかめる信と旭。

顔から滲み出てるのは嫌悪感のそれだ。

「結構だぜ。なぁ?旭」

「だべ。特にお前みたいな奴はな」

生粋の神奈川南部の育ちである旭は特有の語尾で答える。「だべ」は海辺の神奈川県民に時々現れる軽い方言みたいなものだ。

「えー、なにそれひっどぉい!あたしが何をしたっていうの?」

膨れっ面になる麻美。

大抵、麻美クラスの女の子が相手ともなれば、思春期男子たるものこんな塩対応をすることはあり得ない。芸能人でも中々お目にかかれないパッチリした目、バランスの取れた顔のパーツ、そしてあどけない表情。

普通ならそんな女子に……噂の美少女転校生にそんな態度を取る男はいない。中には気にしてませんよー、とかいう態度を取りながら、バッチリ意識している自称ひねくれ君とかもいるにはいる。

しかし、信も旭も麻美に対しては完全なる嫌悪感を出していた。

「なにもしてねぇよ。単純にお前みたいな奴は生理的に受け付けねぇんだよ。何を考えてるのかわからなくてな」

信の言葉。これは本音の言葉だろう。

「自分でもわかってるとは思うけどな」

旭もそれに続く。

「ハイハイ。もう良いですよーだ。ちょっと挨拶しただけなのに何?その態度じゃ、ホントに彼女が出来ないよ?安倍信君、和田旭君」

麻美は肩を怒らしてその場を去っていった。

「生憎と女には苦労してないんでな」

「だな。一番苦手なタイプの女だしな、ああいうの」

二人の態度にクラスが騒然とする。

確かに二人とも他人と関わるのはあまり得意な方ではないし、異性ともなればなおのこと関わりがない。

だが、かといってこうまでコミュ障ではないはずだと。

先程もあるように、麻美のように男に媚びを売ったりするようなタイプの女はいくらでもいる。そう言った女に対しても信と旭はそれなりに今まで普通に接して来ている。

「珍しくない?安倍や和田があんな態度を取るのって」

「俺なら思わずおっふとか言っちゃいそうなのに…」

「ていうか、近付き難くはあるけど、安倍も和田も話せば案外普通な奴だよね?」

「怒らせなければな」

クラスメイトが口々にそう言う。

「今度こそ安倍も和田も落ちちゃったかな?ホラ、好きになっちゃった子には冷たくしちゃうあれ的な?」

「ええ~!あたし、結構和田君のことちょっと狙ってたのに!ほら、可愛がり的な?」

「ショタしゅみだったの?でも、和田って見た目はああだけど中身は………」

命知らずの女子が旭の禁句をいう。

それを聞き逃す旭ではなく……。

「おい……」

旭が頬杖を突きながら怒りのオーラを醸しながら鋭い声をその女子にかける。

「あっ!ごめん!嘘だから!全部嘘だから!」

「お、落ちつきなって!別に和田君にケンカ売りたい訳じゃないから!」

二人の女子が慌てて弁解する。普段からつるんでいる信の影響からか、無駄に恐がられるのはもちろん、案外旭もケンカ慣れしていることは学校内では有名な話だ。

旭の見た目に騙されて禁句を言って見下した態度を取ったヤンキーが、次の日には顔をボコボコにして旭に道を譲っていた所を目撃されている。

「ったく……あんま変な話を本人の前でするなよ。別にそんなんでは本気で怒らないから。あと、お前、それ嘘だろ」

旭が言うと、女子があちゃーとか言ってギャハハハ!と笑う。本気で狙っているとかではなく、何となくクラスの男の娘をいじってみました的なノリで言ったのだ。

あとはどの辺りまでがセーフなのかを見極める的なあれだろう。

入学してから2ヶ月。まだまだこのクラスの人間関係の距離感は図りかねる。

「でも、何であいつら、塚山さんにはあんな態度だったんだ?ケンチャンはわかる?」

「……さぁ、あいつらの考えがわかるわけ無いだろ?あの手のタイプは元々嫌いで、それがもろに出ているタイプだったからじゃないか?」

ちょっと苦しい理由かな?とは健斗も思う。

何故信と旭が彼女に対してはああいう態度だったのか、健斗もわかっているからだ。

先週、健斗の所に来たときもあんな感じだったが、健斗も対応には苦労した。

「まぁ塚山さんも前はどうだったかはわからないけど、横浜の街は危ないよねぇ~。チャイニーズマフィアとかいっぱいいるしさぁ。変な男とかに拐われたら大変だよね~」

確かにその通りだ。こういうきらびやかな街は危ない。

チャイニーズにかぎらず日本のヤクザとかがしのぎを削っていたりする。

「あ、だから安倍君とかに近付いたのかな?ボディーガードとかになりそうじゃん?安倍君も和田君もケンカ強いしさ」

「さすがにヤクザとか相手じゃどうしようもならないよ!いくら安倍君達でもさ!」

それを聞いて健斗は思わず吹き出しそうになる。

何故ならどうにかなってしまうからだ。

それも、わりかし楽に。

「あ、ところでさあ~。塚山さんって言ったら…」

話題は別の話にスライドした。

話題の美少女転校生ともなれば次から次へと話題が出てくるものだ。一過性のアイドルのような扱いである。

そして再びチャイムの音で次の授業が始まる。

 

ー夜ー横浜中華街ー

 

「今日はこの町で仕事かよ」

白い神主のような格好をした健斗が憮然とした顔をして言った。日本最大のチャイナタウンであると同時に中国マフィアが我が物顔で闊歩する町だ。

「仕方ないだろ?依頼なんだから」

普段気と変わらない黒の胴着に青い袴の旭が言う。

「で、ターゲットは何だ?コレか?」

信は自分のほほに斜めに線を引く。いわゆる893である。

「それだったらお前を連れてきてねぇよ。基本、お前はそっちの事情や抗争には関わらないだろ?」

逆を言えばそっちの事情にこの二人は関わっていることになる。

「じゃあコレか?」

健斗は手を下に垂らして腕を上げる。

いわゆるゴースト……お化けの類いである。

「まぁ、半分は正解だな。どっちとも、かな?」

旭が以来内容を簡単に説明する。

ここに拠点を置くチャイニーズマフィアの事務所の構成員が最近、次々と謎の変死を遂げているという。

警察とか消防も調べてみたが、事件性は何もない。

オカルトの方面で霊媒師とかを呼んでみても特に何の効果も無かったという。

そこで依頼が入ったのが、オカルトの類いからそこのボスを守れという依頼だ。

「まぁ、その大抵が霊感商法だからな。で、本物の場合は俺達の領域って訳だが……」

「どうして俺達はこういう裏の稼業からの依頼しか来ないかね?」

信と旭がため息をつく。

「元々コネクションが裏の世界にしか無いからな。必然的にそうなるだろうよ」

健斗達の仕事とは、要は横浜の街の傭兵的な仕事だ。業種はオカルトじみた物からヤクザの始末、時には暗殺等だが、学業の傍らと言うこともあって依頼は中々来なかったりする。

別に学業はどうでも良い、仕事一本で生活していくと信と旭は言ったのだが、二人を匿っている健斗の父、木藤健三が高校まではせめて出ておけと言うこともあって今の学校に入学しているの。

もっとも、どちらも中途半端な状態になってしまっているが。

何でも屋としての仕事は平日の昼間は出来ない上に、日を跨いだ仕事は出来ないので依頼もたまにしか来ない。

学業の方も最低限卒業出来れば良いという考えなのか、成績は軒並み悪い。単位さえ取れてしまえば出席すらもしないつもりだろう。家でも勉強している所なんて見たことがない。

一回でも依頼をこなせば数十万から数百万の収入が手にはいるが、それだって不定期の収入で安定していない。

しかし、現状で彼等が生活の収入や万が一の為の糧をえる手段は、非合法ながらこの手段しかない。

「じゃあ、行くか。お仕事に」

信の号令で三人はビルにはいった。




はい、今回はここまでです。

裏の一族故に仕事もまともではありませんでしたね。そして謎の少年に塚山麻美……彼等は何なのでしょうか?
それでは次回もよろしくお願いします。

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