八龍士   作:本城淳

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安倍信

ー流星王国軍・宿舎前ー

 

「さて、始めよう」

喬は剣を一振りすると、その軌道からつららが発生し、信の方へと飛んでいく。

「へっ!しゃらくさい」

信が炎の拳でつららを全て殴り砕く。

「なっ!私の氷柱を!」

「お返しだ。鼠火!」

拳大程の小さな炎を信が放つ。

ドラ○エで言うならメ○。F○で言うならファイヤー。異世界物のほとんどのものであるならばファイヤーボール。鼠火ほ安部流陰陽術の基礎中の基礎ともいえる術だ。

「ふん!しゃらくさいのはどっちだ!」

喬は氷の盾を生成して鼠火を防ぐ。だが信は意地の悪い顔を崩さずに喬を舐め腐った目で見る。

「てめぇの得意な技は氷、または水だ」

「わかったからと言ってなんだというのだ?先ほどのファイヤーボールごとき力では得意気になってるなら、ヴェレヴァムの実力などたかが……」

「初伝技を防いだだけで何を得意気になってるんだ?こっからが本番だろうが。おりゃおりゃぁ!」

信は北斗百烈拳を放つかのようにシャドウで拳を放つ。そこから次々と鼠火が生まれ、喬を襲う。

「なっ!これだけのファイヤーボールを一気にこれだけ放てるなんて!化け物か!」

喬は辛うじてそれらを弾き飛ばす。

それを見ていた明達は冷や汗を垂らしながらポツリポツリと漏らす。

「たかだかファイヤーボールもあんな撃たれ方をされては中級魔法と変わらんな」

「いいえ、上級魔法クラスよ」

明の言葉に真樹が訂正を加える。

明の知識で言うならば、ファイヤーボールという魔法は初級だ。

いくら信の魔法の撃ち方が強力だと言えども、精々中級のそれだろう。

「わからない。何であれで上級?」

明と麻美が真樹に訪ねる。

すると、真樹は「ふっ……」と笑う。

いや、嗤うと言った方が正しい。何故なら…。

「安倍信……大した物だわ。八龍士の二人を欺くなんて……そうね、ヒントよ。安倍信は、あの連続ファイヤーボールでダメージを与えようなんて考えていないわ。もっと意地の悪い事を考えてる」

「もっとえげつない事?」

「見てればわかるわよ」

防がれているのになおも懲りずに連続ファイヤーボールを喬に放ちまくっている。

「無駄なことを!慣れてしまえばこんなもの、ただ早いだけの連続ファイヤーボール!」

「だったらスピードアップ、行ってみようか?」

「何だと?!」

「アホか。こんなんが全力の訳ねぇだろ。拳技の安倍の拳の速さがよ。ついでに、魔力も増し増しで行ってやるよ。おりゃおりゃおりゃおりゃあ!」

信のファイヤーボール連発がより速く、そして○ラだったファイヤーボールがメ○ミ……人間の胴体位の大きさとなって喬に襲いかかる。

「すげえな………コレが信の策か?」

「違うわね。こんなものは策にもなってないわ。ただの地力の問題。でも……なるほど、あなた達を勘違いさせると言う点では、確かに有効的な手段ね」

ヴェレヴァムでいう所のクエスチョンマークを浮かべて首を捻る明と麻美。

唯一、真樹だけが信の策を見切っていると言うのだが、それが全くわからない。

「そうね。野田伍長は二つ、ミスを犯しているわ。いえ、実力を知らずにヴェレヴァムの人間を舐めたと言う点では3つね」

「ペラペラ喋ってるんじゃねえよ。花月大佐さんよ」

信の拳の速度は尚も炎が速度を増し、威力も大きくなっていく。

「そろそろ止めておいた方が……良いんじゃないか?正直、驚きはしたが………私は」

「へっ!息もキレキレで説得力がゼロなんだよ」

信と喬。どちらに分があるかは一目瞭然だった。

「そうね。信、それをやるのは止めてくれないかしら?流石に野田伍長が死ぬもの」

「なっ!?隊長!?」

真樹の発言に対して愕然とした表情を浮かべる喬。

ボクシングで言うならばセコンドがタオルを投げ入れた状態である。

信はヤレヤレと言わんばかりに両手を上げ、攻撃を止めた。

「野田伍長。コレが実戦なら、あなたは二回……いえ、三回死んでいるわよ。」

「良く見破ったな。もっとも、どれもこれも野田伍長教官様が間抜けだった……と言うことだがな」

「よく言うわ。そこの二人も見抜けなかったもの。野田伍長が間抜けなだけじゃないわ。あなたの実戦経験を元に色々分析したわ。良くもまぁ、こんな意地の悪い戦法を思い付くのかしら?」

真樹が心底感心したように言う。

気に入らないのは扱き下ろされる形となった喬だ。

「大佐!どう言うことですか!」

「こういう事だよ」

「何で信だけしか視野に入れないかな?」

そこで冷水を浴びたように熱かった汗が冷えた。

喬の首筋に背後から健斗と旭がカッターナイフを突きつけていたからだ。

信が囮として派手なファイヤーボールを放ちまくっている間に、二人がこっそり回り込み、いつでも攻撃できる体勢を整えていたからである。

「花月大佐どの殿が言う三回の死の内の二回がこれだ。俺と旭の奇襲。二人でワンデスずつって所だな」

「お前から3対1の勝負を挑んできたんだ。卑怯とは言わねぇよな?」

ニタニタと笑う旭と健斗。

そう、喬はチームとしての三人にケンカを売った。

だから、当然健斗と旭も勝負をしていることになる。

「く………」

「もっとも、一対一でもお前、死んでたぞ?」

旭の物言いに本気で怒る喬。

「何っ!?」

「怒るのなら、信の戦術にはまった自分の間抜け具合に対して怒りな。旭」

「おう。瞬移」

健斗を掴んで闇空間に入り込んだ旭。

そして、信の背後に出現する。

そして、信はグッジョブと言わんばかりのサムズアップを喬に向け、その指を下に向ける。

ヴェレヴァムでも国や地域によってハンドサインというのは意味がまちまちである。

例えば日本でオッケーという意味のハンドサインはフランスではゼロを意味し、更に無能という意味に取られる。

サムズアップは日本ではグッドと取るが、ギリシャ、中東、南アフリカでは中指を立てるのと同じくらい性的な意味で侮辱を意味したりする。

ピースサインですらギリシャでは犯罪者に向けて物を投げる時に使うハンドサインとし、今でも侮辱を表現するハンドサインである。

では、指を下に向けるサムズダウンは?

……少なくとも良好な意味を示す例は知らない。

日本ではブーイングや「引っ込め!」などのバッドな意味ではあるが、場所を変えれば「相手を殺せ」という意味のハンドサインとなり、個人的に向ければ「お前を殺す」という意訳に捉えられる。

このウェールテイでもサムズダウンは良い意味では無いらしく、喬は顔を真っ赤にして激昂した。

「き、き、貴様!その卑猥なサインは何だ!」

どういう意味なんだろう……と、信は思う。だが、より注意力散漫になればよし。

何も信は挑発の為だけにサムズダウンをしたわけではない。サムズダウンの本当の意味は……

ボボボボボボボボボボボボボボボ

上空から感じる熱気。チリチリと空気が焦げる音……。

喬が上を見ると……

巨大な火の玉が……それこそジャンボジェット一機分の炎が自分目掛けてゆっくりと降りてくる。

巨大な○気玉を不意打ちで食らったフ○ーザや、反対にフリ○ザのデ○ボールを食らった惑星べ○ータ等はこんな気分だったのかも知れない。

とにかく、渦を巻きながらジワジワと降りてくる巨大な炎の塊。

「あ………あんなものをいつの間に……」

驚愕する喬。

「そうだな。落焔(らくほむら)……とでも名付けるか?鼠火を弾くお前の動きを見て閃いたんだよ。弾かれる事を前提に何発も何発も撃つ。弾かれた魔力は上空に流れるように飛んでいき、巨大な魔方陣を作っていく。そして最後に夕日をカモフラージュに落焔を作って落とす。何発も鼠火を当てようと必死になっているように見せかけてな。お前が俺に釘つけになっているから、簡単に騙せたぜ」

信は腕を振るうと、落焔は炎を散らして元の魔力に戻っていき、信へと吸収される。

魔方陣は魔力をブーストさせる効果がある。

こうすることにより、信の消費した魔力以上に魔力を回復させる効果を落焔は生んでいた。信はそこまで計算して放ったのだ。

「負けた……だと?私が……八龍士以外に……」

喬のプライドはズタズタになる。タイマンでも負けた。しかも魔法技術が衰退しているヴェレヴァムの民に。

これには八龍士達も驚いていた。

あっさり負けたように見える喬。では喬が弱いのかと言われれば、答えは否である。

喬は特殊部隊のポイントマンである。ポイントマンとは最前線で姿を晒し、敵の囮としての役割を果たすポジションである。弱くては務まらない。20そこそこの年齢としては破格の軍曹への昇進も打診されていたくらいであり、八龍士以外では実力で敵うものはいないとされていた。それこそ氷の八龍士では無いかと噂されるくらいには……。

その喬の敗北……。

(こいつは思った以上に拾い物かもな……性格を除けば)

横浜ではあまり活躍が少なかった信。しかし、健斗や旭と何度も対等にやりあっていただけはあり、その実力は甘く見て良いものでは無かった。

性格に難はあるが、戦いにおける天才…安倍信。

今後どういう成長を遂げるのか……明は楽しみで仕方が無かった。

「ところでよ。サムズダウン……このハンドサインは何のサインなんだ?うちらだと反対の意思とか、悪意のある意味ではお前を殺すとかの意味なんだけど」

すると明と麻美はゲラゲラ笑い始め、真樹は顔を赤らめた。

「性的な意味よ。男が……その、性器を……」

キレキレになっているが、要は中指を立てる意味と同じなのだろうか?と信は思ったが……。

「ヴェレヴァム日本のサインで現すなら……握った拳の人差し指と中指の間に親指を入れるサインと同じだな。卑猥さレベルなら中指を立てる以上の意味だな」

つまり、信は喬に対して………

「想像したら気持ち悪くなった……」

どこかで赤い眼鏡の少女が絶叫している気がしたが、信は気にすることを止めた。

なお、その存在とは二年前の京都の平行世界でニアミスし、間接的にその集団を助けたこともあるのだが…それはまた、別の話である。

 

続く




はい、今回は信無双です。
信も普通ではありません。咄嗟にこんな作戦を考え、二重三重に罠を仕掛けた挙げ句に新技を作り出すくらいには天才です。
それを見抜く真樹も相当ですが。

ちなみに、握った拳の人差し指と中指の間に……のハンドサインを知らない方は間違っても異性にやってはいけません。知らない人はググりましょう。

また、赤い眼鏡の少女は二次創作の方の例の腐女子の事です。そしてそのニアミスの話は今のペースなら、ゴールデンウィークにあちらの方で二年前のヴェレヴァムトリオが登場します。というか、既にそちらは2ヶ月先の話まで書き終えているんですよね(^_^;)
隔日ペースで。

作風を乗っ取る掟破りをします。

それでは次回もよろしくお願いします。
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