「真樹と麻美……あそこまでやるとは思わなかった」
魔術のスペシャリスト、信。迫撃砲のような使い方をした魔力の流れを感じとり、遠方から健斗が捕まる様子を見ていた。そして戦慄していた。
素人目では簡単ににやっていたように見える二人の砲撃だが、信はその難しさをよく知っている。似たような事をしようとして失敗したことがあるからだ。
(ゴミ箱にゴミを投げ入れる……そんなことだって確実に放り込むなんてのは難しい。ましてや直接見えない位置へ精密に攻撃を叩き込むなんて……)
球技等で選手が狙った位置にフライでボールを入れるのは難しいだろうが出来ないことではない。だが、見えない位置に入れるのはプロでも中々難しい。
放った魔力を自在に弾道修正できるならば話は別だが、放った後にやるのは中々骨がいる。
落焔をやれる信のように有り余る魔力を持っているならば話は別だが、麻美はそうではない。それを補助していた真樹の実力に舌を巻くしかなかった。
「健斗が捕まったのはあいつのミスじゃない……。あの二人が凄すぎるんだ」
「そういう事だ。力というのはただあれば良いものでは無いんだよ。弱くても使い方次第で何とでもできるって事だな」
「!!!」
突然聞こえた明の言葉に驚く信。
そちらに目を向けるとジョイントが壊れてプランプランしている三節棍を担ぎ棒のように持っている明がニヤニヤして立っていた。
「何でここに……」
「真樹と麻美の派手な作戦は健斗を捕まえるだけじゃないんだぜ?あれだけの派手な魔力の行使だ。お前ほどの魔力のスペシャリストなら、必ず魔力を感じとる。そして状況を確かめに狂って踏んでいた」
「………同時に俺を釣り出す囮だったと。そう言うことか。俺が無視して逃げるとは考えなかったのか?」
「まぁ、それも考えていたわけだが…どちらに転んでも良いようにはしていたさ。どちらも押さえてあるからな。真樹と麻美が健斗を打ち取った砲撃の射程から逃げられる山の出口は限りがある。和田旭が見つかり、捕まるのも時間の問題だろうな」
「どちらのパターンも考えていたと……あの砲撃にそこまでの意味があるなんて考えて無かったぜ」
真樹の実力。信は正直侮っていた。
だが、あの将棋の強さなら簡単に考える事だっただろう。セオリー通りでは真樹を欺く事なんて出来はしない。
「ま、お前はここに来る。旭は逃げる。そこもお前らの性格や能力から割り出していたけどな」
(チッ!ノコノコと釣りだされたってのかよ!)
砲兵から安全を確保するにはどうするか。
色々あるが、信と旭がこの場合に咄嗟に考えられるのは2つだった。射程内から逃れる事。もう1つは砲撃の元を潰すこと。
旭は信ほど精密に魔力を感知する事は出来ないし、目的の為なら逃げる事も躊躇わない性格だ。
一方で信は正確に魔力を感知できるし、倒せるならば倒してしまう事を優先する。
「その通りだ。あいつなら確保した食糧を優先して戦いは避ける口だな。まったく恐れ入るぜ」
「だろ?」
明はククククク………と笑う。
「まぁ、恐れ入るって点では、俺らもお前らに対して思ってることだ。ここまで俺達を手こずらせるとは思わなかった。段階を踏んでいずれは山でのサバイバルを兼ねた戦闘訓練をやらせようとはしていたけど、いきなりこれとはな。総合訓練並みに充実しているじゃないか。一気に数週間分の訓練が進んだぜ?」
「そりゃどうも。じゃあペナルティは無しか?」
「それとこれとは話が別なんだよ。今日、まともな飯にありつけると思うなよ?テストはたっぷり用意してあるからな」
「だったらお前を倒してもっとここの食材を確保しなきゃなぁ!」
信は明との間合いを一気に詰める。
「訓練期間中の飯を全部ここで確保する気か?ふざけるな。ここでサバイバル訓練ができなくなるだろ。一般の部隊だってここは使うんだぞ」
明は信の拳を迎え討つべく構える。
「おらよぉ!」
信は明の人中を狙って拳を放つ。
「なっ!」
だが、それは見えない何かにクッションにされ、衰えた勢いを棍で逸らされる。
「そう言えば言ってなかったな。お前らが魔力や気、霊術に長けているように、俺にも1つだけ特化した異能があってな?」
明は軽く信の胸を棍でつつく。近間からの……体重も乗せられない体勢から放たれるそれほど力が込められていないはずの突き。にも関わらず……。
「ぐはぁ!」
信は思いっきり飛ばされ、近くの木に激突する。
(なんだ?あの程度の突きで何で吹っ飛ばされる?)
つつかれた胸は大したダメージを受けていない。なのに何故?という思いが信を支配する。
「超能力。とりわけ念動力の扱いは得意なんだ」
(そうか……それでさっきは俺の拳の威力も……)
念動力のバリアのようなもので軽減された事に信は気が付いた。
「ス○ンドみたいなものか……」
「なんだそりゃ?」
「こっちの話だよ」
信は2年前の異世界の不思議な体験を思い出す。
もっとも、明の超能力はあの世界の物とは違い、世間一般的なものなのだろうが。
「そうそう、いまお前をつついたこの三節棍だけどな?三節棍なんてのはそうそう使いこなす奴がいなくて普通に売ってないんだよ。特にジョイントで普通の棒にもなる特殊なタイプなんて、それはそれは特注で頼むにしても金がかかって仕方がない。それがお前らの仕掛けた罠のお陰でジョイントが壊れて使えなくなっちまってな?」
「…………それで?」
「確かこんなものに押し潰されたっけ?」
明は倒れた老木の丸太に得意の念動力で持ち上げる。
「おい……それは流石に殺意が高くないか?」
「その殺意の高い罠を仕掛けたのはどこの誰だったんだろうな?」
明は意地の悪い笑みを浮かべる。
「俺じゃない……なんて言い訳は通用しないぞ?言ったよな?ここにいる間は連帯責任だって……」
「……さあ?前にここの訓練場を使った部隊が片付け忘れたんじゃないか?」
「それは基本的に無いな。安全管理上そういうのはキチンと片付けるようになってるし、管理者が点検をしっかりやってるんでな。じゃあ、そろそろ苦しい言い訳は良いか?」
明はさらに笑みを深くする。
「それじゃ……弁償金はしっかり払って貰うとして、手こずらせてくれた礼でも食らえ!」
「なっ!?」
普通なら言い切ってから倒木を飛ばす。しかし、明も含めてここの人間は超実戦的な人間ばかりである。
明は言い切る前。喋っている最中の間に倒木を信に対して飛ばした。
「嫌なタイミングでやって来やがるな!おい!」
信は当初倒木を燃やして砕く予定だったが、タイミングをずらされたおかげで回避に変更せざる得なかった。
咄嗟に回避が出来ただけでも信は大したものである。
ずらされたタイミングというのは結構厄介なものである。
「子供の頃から場数を踏んできただけはあるな!おらよ!」
だが、明もそれは読んでいた。信が回避することを見越して三節棍を伸ばした突きを放って来たのである。
明は何もカッコ付けて三節棍を愛用している訳ではない。通常ならばこういう使い方はしないのだが、明は得意の念動力で繋ぎのロープを固定し、伸びる棒として利用したり、通常の棒術では防がれる攻撃を曲げて意のままに攻撃したりと念動力を器用に使って攻撃しているのである。
「ぐっ!」
「チェックメイトだ。信!」
明はそのまま信を念動力で吹き飛ばし……。
「ナイスパスよ。明」
飛ばした先にいた真樹が電気の魔術で信をスタンさせる。
「何でお前が………」
「これだけ派手に暴れてれば位置がバレない訳が無いでしょ?」
スタンさせられた信がその場に組伏せられる。
明の一連の会話等は真樹が到着するまでの時間稼ぎ。最初から自分で倒そうなどとは考えてなかった。
「くそ……お前一人なら何とかなったのによ……真樹を忘れていたぜ………」
「だろうな。吹き飛ばされるのをこれ幸いにと笑っていたもんな」
一見、一方的だった明の攻撃。これらは信に見せていない攻撃法だったから何とかなったのである。
信は八龍士ではないのに八龍士と渡り合える力を持っているし、同じ手が通用するとは考えていない。
事実、信は伸びて来た三節棍には驚いていたものの、吹き飛ばされた時にはニヤリと笑っていた。大方その勢いを利用して逃げようとしていたのだろう。
「もっとも、ご存じのように俺は足の速さにも自信があるし、なによりここは俺の庭のような場所だ。真樹が来なくても簡単には逃がさねぇよ」
「次は……山の食糧を全部狩り尽くす……」
ガクッ!
安部信……捕縛
「本当にやりそうだな……こいつらなら……」
「基地管理隊から苦情が来るわよ?ただでさえねじ込んだ訓練場使用申請だったのに……」
「演習場、遠いのになぁ………」
「こんなことを続けていたら使用禁止になるわ。というか、させられないわよ。とりあえずは後で考えるとして、今は目の前の事よ。こういう場面で一番厄介なのは旭のはず」
「まぁ、そうなんだけどさ……」
明はため息を吐く。
「良い訓練になってるから茶番を続けてるけど、逃げきったところで無意味なの、コイツらわかってんのか?」
「………わかってないと思うわよ?そうでなければヴェレヴァムの生活があんなことにならないと思う」
信を縛り上げた真樹と明は互いの顔を見合わせ、もう一度深いため息を付いた。
山狩り対象者…残り一名。和田旭。
今回はここまでです。
あっさり捕まった信ですが、これは説明通り明が信に見せたことのない手段で攻撃したからです。
情報というのがいかに大切か……と言うことですね。
残るは問題児の中の問題児、必要ならプライドすらも紙屑のように捨て、騙し討ちなんて事は呼吸のように当たり前にする精神破綻者和田旭。
明達は旭を捕まえられるのか!?