八龍士   作:本城淳

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流木明と花月真樹の学校生活

ー流星高校ー

 

「今日は転校生が二人、入ってくる。みんな仲良くするように。男子も女子も喜べ。美男美女の転校生だ。入って来なさい」

担任の中年数学教師の神崎が少し疲れた様子で転校生二人を呼び、呼ばれた転校生が入室してきた。

入って来たのは夏服をチャラチャラと気崩し、さらさらな薄めの金髪をお洒落に、かつわざと崩した感じのチャラチャラしたイケメン、流木明。ひと昔前なら少女漫画のヒーロー約として活躍する正統派イケメンだ。少年漫画であれば主人公のライバル的な存在か、もしくは主人公のライバル兼サブ主人公というところであるだろうか?体型はまた中肉中背。しかし、適度に崩している半袖のワイシャツから覗く胸元は筋肉質だ。クラスの男子からはやっかみの視線を向けられている。いや、顔面偏差値から見れば並の男では太刀打ち出来まい。

チャラい姿でありながら、どこか気品を感じさせるのは何故だろうか?コレが漫画であれば背景に薔薇でも背負っていそうなくらいに爽やかに笑い、ワハハハという笑い声が聞こえて来そうである。

そして、ショートの髪型を真ん中で分け、整った顔ではあるが、ザマスな眼鏡がきつ目の印象を与える少女、花月真樹。少しやせ形の体型で、それに比例するようにスレンダー。身長は旭より少し高いくらいであろうか。表情もファーストコンタクトの時くらい愛想よくしたら?と言いたくなるくらい無表情。確かに美女ではあるのだろうが、おおよそモテそうなタイプの女には見えない。

これならば旭を女にした方がまだモテるだろう。委員長でもやっていそうなタイプである。

「流木明だ。富士の方から来た。よろしく頼むな?特に女子はよろしく♪」

もう少し言い様ってものがあるだろうに、あからさまに女子を強調して自己紹介をしてきた。

これが二次元ならば黄色い声の1つでも上がったり、なにアイツバカじゃない?とかでも言いながらも、クラスの変わり者の美少女辺りのフラグが立つ、または冗談とかだろうと言われて爆笑の渦でも起きるのだろうが、現実で女好きを第一声であげればどうなるか……。

「うわぁ……ない。どんなにイケメンでもあれはないよねぇ……」

「服装とかも狙いすぎだし、ちょっとあれは……」

「時代を間違えてるよ……」

完全なドン引きである。男子も女子も、完全にドン引き状態で痛い奴を見るような目で明を見ていた。

一方で健斗達はと言えば健斗は机に突っ伏して頭を抱え、旭は興味無さげに携帯をいじくり、信は健斗と同じように机に突っ伏しているが、反応は真逆で腹を抱えて悶絶して笑いを堪えている。

仲間である麻美と真樹はと言えば包み隠さずにゲラゲラ笑い始め、真樹は冷たい目で明を睨んでいる。誰もフォローをしない辺り、健斗達も八龍士達も冷たい奴等である。

「そ、そうか……くれぐれも風紀を乱さないようにな。それと、問題を起こさないように頼むぞ?次は君、自己紹介をしなさい」

神崎教諭が次は真樹に自己紹介をするように促す。

「花月真樹」

名前だけを言い、それ以降は何も喋らない真樹。

………

………………

……………………………

「あの………それだけ?」

「はい。それだけですが何か?」

これ以上、何か必要でも?と言いたげに真樹は冷たく、そして突き放すようにそう言った。

「いや、他にも何かあるだろう。趣味とか出身とか得意な科目とか……」

「何故初対面の人に必要以上に情報を与えなければならないのかお聞きしても?私の名前以外に答える必要があるのですか?」

とりつく島のない拒絶の声。

「なんだコイツら……」

教室の複数の場所から明と真樹に対する至極全うな感想が漏れ出てくる。

私立流星高校は進学校でも無ければバカ学校でもなく、至って普通で平均的な学校である。

普通に真面目な生徒がいて、普通にスポーツマンがいて、普通に不良がいて、普通にオタクがいて、普通に中二病がいて、普通に孤立している奴がいて………。そん普通の学校なのである。

健斗や信、旭でだって二次元では普通のキャラ付けであったとしても、この学校にしては充分個性的な部類であるといえる。

ヤクザの2代目がいたり、金髪のアメリカ転校生がいたり、どっかの防衛組織の隠れ隊員がいたり、ひねくれボッチがいたり、スタ○ド使いがいたり、変なアンテナを頭に刺した超能力者がいたり、十年後のブラックテクノロジーを受信する天才がいたりと言うわけではまったくない。

なのに麻美を含めてこの個性的な3人の転校生。

神崎教諭が顔を窓の方に向けて胃を押さえてしまうのは当たり前の反応だと言える。

「と、とりあえず席は……流木君は木藤君の後ろの席に、花月さんは安部くんの席の隣へ……えっと、木藤君と安倍君は………」

「あ、知ってます。和田くんも含めて3人とは友人なので」

「はぁっ!?」×3

思わずすっとんきょうな声をあげてしまう3人。

学校では極力関わらないようにしようと思った3人の目論見が初っぱなから崩されてしまった。

別にありがちな学校では目立たないようにとか望んでいるわけではない。

スポーツ万能で神社の跡取りの健斗、なんちゃってヤンキーの信、男の娘の旭……これだけの要素があれば普通とは言い難い個性なのは自覚しているし、今さらだ。

それでも何とか馴染めているのだからそれで充分だったのだが、それが脆くも崩れ去りそうだ。もちろん悪い意味で。

ファーストコンタクトから盛大に失敗している明と真樹の友人なんて何の冗談なのか……。

あんぐりと口を開けて固まっている三人をよそに、明は相変わらずうざったい爽やか顔を浮かべ、対照的に真樹は拒絶オーラを醸しながらそれぞれの席へと移動する。

「やぁ、健斗。よろしくね♪」

(やめろ、親しげに話しかけるな。仲間だと思われるだろ!それになに勝手に下の名前で呼んでやがる!馴れ馴れしすぎるのも程があるだろうがよ!)

健斗が心の中で思いっきり否定する。

一方では……。

「安倍信。普段は馴れ馴れしくしないで……わかった?」

「だったら話しかけて来るんじゃねーよ。普通にスルーして座れっての」

自分から話しかけておいて馴れ馴れしくするなとは矛盾している。こいつは一体何がしたいんだろうか?

(でも、飯は上手いんだよな……)

朝食で彼女が作ったポトフみたいなスープとチリソースみたいな物をかけられたちょいピリ辛の鰤の煮付けは確かに美味しかった。どこか独特なクセのある味ではあったが、妙に後を引く味だったと信は思い出す。

本人いわく、「基本さえ押さえていればありあわせの材料と調味料で大抵の物は美味しく作れるわよ。むしろ、苦手な人の気が知れないわ」らしい。

その物言いに生活力ゼロの三人は軽く殺意を覚えたのだが。

とにかく、波乱の日常が幕を開けることは間違い無さそうである。

 

ー特別棟ー

 

どこの学校でも理科室や美術室、科学実験室、音楽室などの特別な機材を使う教室というものは一ヶ所に集められ、特別棟として別棟にあるのが普通である。

この私立流星高校もその例に違わず、特別教室は別棟に建てられている。そしてこれらの教室は普段は人気が少ない。

朝のHRが終わった後に木藤家の3人は八龍士3人を連れて特別棟の階段踊り場に連れ出して詰めよっていた。

何故この場所なのか…。

この学校はご多分漏れず、屋上は立ち入り禁止だ。近年の生徒の自殺等が騒がれ、この学校も七不思議が騒がれるくらいには昔は何かあったらしく、屋上は常に締められているので立ち入りが出来ない。なので、落ち着いて話が出来る場所は限られているし、盗難やさぼり、喫煙をする生徒が隠れられないように使われていない教室は鍵が掛けられている。

加えて健斗達は特に何の部活にも所属していないので自由に出入りできる教室はどこにもない。

なので、比較的人がやってこない特別棟の階段で話をすることにしたのだ。

大抵の生徒は特別棟の階段を使用しない。大抵はそれぞれの普通教室の階から目的の教室に移動するからである。

他の学校はどうであるかはわからないが、少なくともこの学校の生徒の大半は、移動教室の際にはそうしている。それでもまったくいないと言うわけではないし、授業を持たない教師の巡回もあるので長話をするわけにもいかないのだが。

どうしてそうしているか…。

普通ならば転校生というものは、最初の挨拶が終わればクラスメイトの質問攻めがあったりするものだが、麻美はともかく八龍士の二人はやらかした。

その結果は遠巻きに彼らを見て、ヒソヒソと殺っている次第である。そして、それに巻き込まれた健斗達もまた、腫れ物を扱うようになってしまった次第だ。

そんなクラスの状況では落ち着いて話など出来るはずもなく、仕方なく校舎を案内する体を装って八龍士3人を連れ出したのである。

「どういうつもりか着させてもらおうか?ええ?」

階段に3人を座らせ、それを囲むように立っている健斗達。端から見れば転校生にヤキを入れようとしている不良グループに見えなくもない。

特に不良っぽい信や、不良を絞めたことのある旭、そして体格が一般よりもがっしりしている健斗がやればなおさらである。教師に見つかろうものならば、即生活指導室に連行されるのは間違いないだろう。

「いやぁ……普通、俺くらいの色男が挨拶するって言ったらああいう態度じゃないの?」

いつの時代の漫画の設定なのだろうか?少なくとも現実であんな挨拶が許されるはずがない。

「お前……今までどういう学校生活を送ってきたんだ?」

「知らないな。学校なんてこれまで一度も通った事がないからな。こんなのどかで高等教育を受けられるこの国の環境には素直にビックリしている」

学校に通ったことがない………。それについては健斗達3人も何も言えない。

今の生活を送る以前は健斗はともかく、信と旭もそうだったからだ。中学2年になるまで、一切登校をしたことがない。四則計算と読み書きくらいしか学が無く、当然高校受験なんて出来るはずも無い。血生臭い事が生活のすべてだった。

二人は健斗の父の力によってこの学校に裏口で入らせて貰っている。むしろ何とか赤点スレスレを低空飛行している現状でも奇跡と言える。

人間関係だってそうだ。中学の時はそれはもうトラブルの絶えない日々だった。

そもそも何故二人が学校に通っているのかと言えば、このまま実家から離れるのであれば、最低限の一般常識を身に付けさせなればならないという理由で、学校に通うことが前提で木藤の家に亡命している状態だったりする。

今後二人がどういう人生を歩むにしても、一度きちんと学校に通わせる必要があると木藤家は判断したのだ。

それくらい、信と旭の一般常識は破綻していた。

だからこそわかる。明達もこの年でエージェントのような活動をしてのだ。学校に通った事がないと聞いても自分達がそうであったのだから、納得がいく。

それに、この口振りから察するに、明達は日本人ではないだろうし、名乗っている名前も偽名だろう。信と旭もそうであるのだから。

転校に関しても裏口だ。偽の戸籍、偽の学歴……。そんな事を容易に出来るのだから、明達のバックにいるのは相当大きな力を持っているに違いない。

「そういうことよ。私だってこの国のマンガ?と呼ばれるもので知識を得たのよ。それの様式美に従っただけ。私のようなクール系キャラってああいうものなのでしょう?」

「色々参考にしたのが間違っていると思うぞ。まぁ、最低限馴染もうとしたその姿勢だけでも称賛に値するわ。この二人なんてもう……中学の時は京都から転々と転校を繰り返す羽目になるくらい酷かったからな。この2年でやっと横浜に落ち着くことが出来たし……」

「~~~♪」

信と旭は明後日の方向を向いて下手な口笛で誤魔化す。

「あたしも肩凝るよ。ああいうキャラ付けっていうの?何か疲れるよねぇ……。変な男が付きまとってくるし。下心バリバリでまじで勘弁」

麻美が肩を抱いてブルブルと震えて見せた。

「キャラ旁だったのかよ……そのわりには上手かったな。見た目のビッチっぽさも相まってはまり役だったぞ」

「は?やめて貰える?仕事柄、ああいうのが必要だったから慣れていただけであって、あたしはそういうんじゃないから」

麻美が初めて素の態度を見せてきた。やはり今まで猫を被っていただけのようである。こちらの態度の方が妙な警戒をしなくて済む分、少しは親しみが持てる。

「それはそれとして、あんまり目立つことは止めてくれよ。こっちだって目立つのは今更だが、変な意味ではあんまり目立ちたくないんだからさ」

健斗が言うと、明は首を振る。

「残念ながら、何が普通で何が目立つ行動なのかさっぱりわからんのでな」

そう言われてしまっては何も言えなくなってしまう。

「まぁ、安心してくれ。全部が終わったらまた転校していった事にして出ていくさ。それまでの付き合いだ」

「………それまでは大人しくしてくれよ?」

しばらくの我慢だ…そう思うことにした健斗達だった。

「ところで、1時間目をサボっちまったけど良いのか?」

「あ……」

その後、授業を遅刻した事で職員室に呼ばれ、その上更にクラスメイト達との溝が深まったのは言うまでもない。

 

続く


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