東雲は声が詰まる。
まさかその質問がされるとは思ってなかったのだ。
分身は対象者の記憶を除き、その人間の弱いところをついてくる。
そして、その質問は東雲には効果覿面だったらしく、珍しく困ったような表情を浮かべる。
『…時間経過は少し危険だよ、たとえ天津神の力を持ってしてもここに長時間止まるとなると、どうなるか分からないよ』
早く答えなければならないのに、うまく言葉に出来ないもどかしさ。
確かに篠目のことは好きだ、しかしそれは友人としての好きであって、恋愛的な意味での好きではないと脳をフル回転させる。
しかし、恋愛的な意味での好きも思い当たる節があった。
☆
それは神世紀800年8月ーー。
東雲の一室に東雲と篠目の姿があった。
「さあ、篠目ちゃん!火を消して!」
「はい!…ふー!」
この日は篠目の11歳の誕生日だったことを東雲は鮮明に覚えている。
二人だけの小さな誕生日会だったが、篠目はすごく喜んでいたのだ。
篠目がケーキを口いっぱいに頬張り、頰にクリームが付いてしまうほど夢中に食べている。
「篠目ちゃん、口」
「え?」
東雲は頰の付いたクリームを人差し指ですくい、舐めとる。
いくら優秀な巫女であろうと、まだまだ子供だなと思ってしまった。
しかし、東雲の行動は少しデリカシーがなかったと言える。
顔を真っ赤にしてしまった篠目が、俯いてしまう。
しまった、やってしまったと思ってしまった。
いくら子供でも、女の子だ。そんな女の子の肌を無断で触ってしまうなど、配慮に欠けていたと東雲は思う。
「あ…篠目ちゃん?」
「……ゆうなさんはずるいです…。私の気も知らないで…」
やはり相当傷つけてしまったようだ。
東雲は猛省する。せっかくの誕生日なのにこんなことになってしまったなんて。
「だから…これはお返しです…」
篠目は東雲に近づく。
そして、東雲の頰に篠目がキスをした。
「…え?」
「ゆうなさんはこうやって行動で表さないと…わかってもらえないから…」
そして、篠目は部屋からケーキを持って飛び出してしまった。
東雲は自分の頰に手を当てる、柔らかい唇の感触がいまだに残っていた。
これは子供のしたことだ…。しかし、そう割り切ろうとしても割り切れない自分がいる。
結局この件は後で東雲に御役目の出動要請がかかり、あやふやになってしまった。
そして、この世界に連れて来られた後でも、今だに自分の答えが出せずにいる。
☆
『さ、答えは出せたかな?随分考え込んでたようだけど』
東雲はゆっくりと目を開ける。
考えがまとまった、顔つきに見える。
より一層凛々しい顔になったと分身は思った。
「…今はまだわからない」
『分からない?そんなはずは』
東雲は分身の言葉を遮るように、喋る。
自分の思い。
そして決意を。
「だけど、僕は篠目ちゃんのことを本気で守りたいと思っている」
『…!』
「一緒にいると、心がぽわぽわしてくる。そんな篠目ちゃんの隣に居続けたい。だから守る!だって僕は……勇者だから!」
(……ふふ、それが恋という感情じゃなかったらなんだっていうのかな)
分身は何か諦めた表情をする。
これは自分が教えることではない。東雲自身が答えを出さないといけない問題だと思ったからだ。
『うん、いい回答だね。負けたよ…。さあ、一緒に神樹側の勇者たちに勝とうか!』
「うん!」
こうして精神世界は溶けていく。
☆
「…おかえり」
東雲は目を覚ますと、目の前に親指をぐっと立てた赤嶺がいた。
「ナイスファイト」
「うん」
精神の部屋に閉じ込められた時より、現実の世界は少し時間は経っていた。
それほど、東雲は考え込んだというわけだろう。
「東雲くんの事だから一瞬で帰って来れると思ったけど」
「ちょっと、大事な事考えてたんだ」
赤嶺が何かニヤついた顔で東雲に近づく。
「何考えてたの?」
「…内緒!」
赤嶺は思った、前より少し顔がスッキリしていると。
何か憑き物が落ちたような感じだ。
そして赤嶺は思う、計画通りだと。
「ふーん、まあいいけど…。さて問題はなかった?」
「うん、問題はなかったよ。でも、これは失敗した時、相手の士気が高まるやつだね」
「それは唯一の欠点だね」
二人して笑い合う。
こうして夜も更けていき、次の日に備える。
夜空を見ながら東雲は思う。
(待っててね、篠目ちゃん。必ず帰るから)
遠い時代にいる、篠目に想いが届くように東雲は祈った。
そしてこの想いが伝わったかどうかは、また別の話だ。
『はあああ!?キス!?灯さん、東雲さんにキスしたの!?』
「う、うん…」
『は、犯罪が密室で横行されたわ……つ、通報…』
「ふえ!?つ、通報!?」
こんな会話が繰り広げられたとかなかったとか。
誤字とかありましたら教えてくれると嬉しいです。
感想もお待ちしてます。