ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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…………筆が進まなかった(汗)


[8/28]一部修正しました。
[11/16]一部修正しました。

[8/7]一部修正しました。

[12/31]タイトルにルビを振りました。
 
[11/6]特殊タグを追加しました。



Stage.9;実から()れるは『あくしゅう』なれど……

 

 

 

 

 

─??? side─

 

 

 

 

 

 ……何故だ?

 

 

 

 

 

 何故だ、何故だ?

 

 

 

 

 

 何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ!?

 

 

 

 

 

 ──何でだぁぁぁぁぁあああああああ!!?

 

 

 

 

 

 此れは一体全体どういう事なんだッ……!?

 

 俺は、(おそ)われないんじゃなかったのかッ……!?

 ……いや、訂正しよう。時として襲われる事は在った。だが、それでも頻度(ひんど)は少なかった。

 と言うのも、俺は他の奴らに恐れられる様な見た目をしているのだ。俺の姿を見た奴らの(ほとん)どは、俺の姿にビビり、俺と関わり合いになる事を恐れて、()ける様に俺から逃げて行った。……別に其れが悲しいと思った事は無い。(むし)ろ、関わり合いになろうとしてこない事に安堵(あんど)の念すら(いだ)いている。

 もう一つ……俺には強力な後ろ盾が在る。こんな俺ではあるが、それでも仲間はちゃんと居るのだ。俺に手を出そうものならば、仲間達は黙ってはいない。(すさ)まじい報復が待っているのだ。其の事を知っているからこそ、俺の事を襲おうとする奴なんて殆ど居なかったのだ。……本当に時折、其の事を知った上で俺に手を出そうとしてくる、命知らずな馬鹿が居たけれども。

 

 ……なのにだ、此処最近の俺は頻繁(ひんぱん)に襲われている。其れ故の冒頭の叫びなのだ。

 どういう訳なのか、奴らは俺の姿を見ても恐れなくなった。

 後ろ盾による報復にも、奴らは(おく)していない様子なのだ。

 

 改めて物申したい──此れは一体全体どういう事なんだッ……!?

 

 そんな訳だから、此処最近の俺は奴らに見付からない様にと、身を(ひそ)めながら日々を過ごしていた。

 今日だってそうだったのだ。……けれども、今日の俺は非常に運が悪く、進んだ先で奴らと出会(でくわ)してしまったのだ。

 其れ故に、俺は奴らに見付かってしまった瞬間に(きびす)を返し、俺が出し得る限りのスピードを()って其の場から逃げ出した。──そして、今現在進行形にて絶賛逃走中ナウである。

 戦う(すべ)が無い訳ではないのだ。……けれども、多人数を相手に俺一人で戦えるのかと()かれれば、答えは『(いな)』……勝てるのかと訊かれれば、断じて『否』である。

 であれば、取るべき選択肢は『逃走』一択。『三十六計逃げるに()かず』である。……のだが──

 

「折角見付けた獲物だ! 絶対に逃すなよ!」

 

「「「応ッ!」」」

 

 ……そうは問屋(とんや)(おろ)してはくれないらしい。奴ら……執拗(しつよう)なまでに俺の事を追い掛けて来やがる。

 畜生がッ! いい加減に(あきら)めやがれってんだッ!…………って、マズい! 行く手を囲まれたッ……!?

 

「やっと捕まえたぜ」

 

 ……ヒィッ!? い、いい……!?

 

「てな訳で……大人しく俺らに狩られて(もら)おうか──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──《実付きネペント》!」

 

シャァァァァァアアアアアアア(いやぁぁぁぁぁあああああああ)ッ!!?」

 

 

 

 

 

「…………なんか今の、悲鳴っぽくなかったか?」

 

「んな訳ねーだろ」

 

 

 

 

 

 本ッッッッッッッ当に──何でなんだぁぁぁぁぁあああああああッ!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─No side─

 

 

 ──話は、命()けのゲームの開始から数日が経った頃にまで(さかのぼ)る。

 

 唐突だが、SAOには《クエスト》というものが存在する。

 最上階を目指す、というのが勿論SAO最大のグランド・クエストである訳だが、其れ以外にも大小様々なクエストが無数に用意されている。

 NPCにお使いを頼まれたり、護衛をしたり、探し物をしたりと内容も幅広く、其れらをクリアすれば相応の報酬を得る事が出来るのだ。

 

 其の中の一つに、《森の秘薬》というタイトルのクエストが存在する。

 《はじまりの街》を出てから次に辿(たど)り着く村─《ホルンカ》にて受けられるクエストだ。

 其の内容は──重病に(かか)ってしまった女の子がおり、母親が市販の薬草を(せん)じて飲ませてみるも一向に治る気配がみられない。残る治療法は、西の森に棲息(せいそく)している捕食植物の胚珠(はいしゅ)から取れる薬を飲ませる事…………なのだが、其の捕食植物はとても危険な上に、胚珠を持っている花を咲かせた個体は滅多に見付ける事が出来ない為、母親にはとても手に入れる事が出来ない。なので代わりに剣士達に胚珠を取って来て欲しい、といったものだ。

 

 此れをクリアする事で手に入れられる報酬が《アニールブレード》という片手剣だ。

 此の《アニールブレード》……初期装備の《スモールソード》は勿論のこと、《ホルンカ》の武器屋にて購入する事が出来る唯一の片手剣である《ブロンズソード》よりも性能が高く、しっかりと強化を重ねれば第三層の迷宮区まで使い続ける事が出来るのだ。

 詰まる所、片手剣使いにとって《森の秘薬》クエストは攻略必須なクエストだと言える、という事なのだ。

 

 初心者講習(の指南役)を終えて、本格的にゲームの攻略へと乗り出したリョウヤ達も、勿論のこと此の《森の秘薬》クエストを受ける事にした。

 ……クエストを受注する際に、ユウキが病気の女の子の事を気遣(きづか)うという一幕があった。

 残念な事に、此のクエストは何度でも受注する事が可能なクエストだ。──詰まる所、誰かが此のクエストを受ける度に振り出しへと戻り、女の子は病気に苦しみ続ける羽目になるのだ。

 ただ、女の子を気遣う心優しき少女(ユウキ)に其の様な残酷な事実を告げる事は気が引けてしまい、リョウヤは「少しでも良くなるといいな」と明確な回答は()けたのであった。

 

 さておき。

 そんなリョウヤ達だが……実は、彼らの一団に新しいメンバーが加わった。

 

 先ず一人は、《メイス》使いの少女─《リズベット》。彼女は現実世界(リアル)()けるリョウヤの中学時代の後輩だ。

 リョウヤが現実世界(リアル)に於いて自分がよく知っている先輩であると解った彼女は、彼による演説の直後に、此の世界に於いて唯一頼れる存在である彼の(もと)へと突撃をかまして来て、自分も助けて欲しい、仲間に加えて欲しいと懇願(こんがん)して来たのだ。

 

 更に加えて五人。此方もリョウヤとは現実世界(リアル)に於ける知り合い──同じ高校の同級生──であり、知り合いの(よし)みで協力する事になったのだ。

 それぞれ、《(こん)》使いの《ケイタ》、《メイス》使いの《テツオ》、《長槍(ながやり)》使いの《ササマル》に、《短剣》使いの《ダッカー》。そして紅一点の《長槍》使い─《サチ》だ。

 残念ながらパーティーの人数制限──最大六人──の関係上、()()()()()()彼らとパーティーを組む事は出来ず、其れにより何かと不都合な事は生じるが、其れでも彼らは共に助け合う仲間(パーティー)である、とリョウヤ達は認識している。

 

 一方で、リョウヤ達と別れて行動に出たプレイヤー達も存在する。

 リョウヤ達による指南(レクチャー)を受けた初心者(ニュービー)達もそうだが、特筆すべきはリョウヤの演説を手伝った《スクアーロ》達三人だ。

 彼らはある程度の技術を身に付けると、「此れ以上テメェに手間を掛けさせる訳にはいかねぇ」「先に行って道を切り(ひら)いといてやる」と言って先へと進んで行ったのだ。

 別れる前に彼らとはフレンド登録をしており、フレンドリストから彼らの名前が消えていない事から、彼らが此の時点では存命である事をリョウヤ達は把握している。

 

 ──閑話休題。

 

 そんな訳で、経験値(かせ)ぎも兼ねて十人で協力して(くだん)の捕食植物である《リトルネペント》を狩るリョウヤ達。

 余談だが、装備柄やる必要の無いクエストを手伝ってくれる仲間達に申し訳なさと感謝の念を(いだ)いたリョウヤは、今後彼らの装備強化に関わるクエストには()しみ無く力を貸す事を心に決めた。

 

「……結構探してるのに、全然見付かんないね……目的の《花付き》ネペントって奴」

 

 狩り続けて大分時間が経つが、ユウキの言う通り、彼らは未だに標的(ターゲット)である《花付き》のリトルネペントを見付けられずにいる。

 何も付けていないノーマルのネペントを狩れば狩るほど《花付き》の出現率を上げる事が出来る。なのでリョウヤ達は見付けたノーマルのネペントを片っ端から狩っているのだが、其れでも《花付き》の発見には至っていないのである。

 幸いな事は、必要としているクエストのキーアイテム《リトルネペントの胚珠》の数が二個で充分であるという事だろう。総勢十人という大人数のパーティーだが、片手剣使いはリョウヤとユウキの二人だけなのだ。

 未だに一個も胚珠を獲得(かくとく)出来ていない状況ではあるが、二個くらいであれば……まあ、何とかなるだろう、とリョウヤは特に根拠の無い見当を立てている。

 

「まあ、希少種だからなぁ。出現率が低いのは仕方が無いさ」

 

 そんなリョウヤは、ゲームの設定なのだから仕方が無い、とユウキを(なだ)める。

 

「地道に数を狩り続けて見付けるしかないだろうけど、まあ……根気良く行こうや。それにほら……倒せば倒した分だけ経験値も稼げて強くなれる訳なんだから、あんまり悲観する事ばっかでもないだろ」

 

 《花付き》ネペントを見付けるには地道に探すしかないのだが、ただ其の事を伝えるだけでは彼女達の士気を低下させてしまう事になりかねないと考え、彼は彼なりに明るく(つと)めながら言う。

 (ちな)みに、彼は其の手の地道な作業にはある程度慣れている為、あまり苦には感じていなかったりする。

 

「流石はお兄ちゃん。出現率の低いポケ○ンの捕獲を根気良く粘ってるだけの事はあるね」

 

「そうなのかい? ……あ! ならもしかして、性格の厳選とか理想個体の厳選とかも粘ってるタイプだったり?」

 

「はい、割と粘ってますよ。6Vが理想個体なら出るまで孵化(ふか)させ続けますし、なんなら、次の時の為にって理想個体のメスの厳選までしてますよ」

 

「うっわマジかよッ!? メスの出生率低い奴の理想個体が6Vとかだったらかなりハードじゃん……」

 

「予備用……で良いのかな? ……は兎も角、育成する個体はおうかんとか使ったりしないの?」

 

「貴重な道具だから、伝説系とか以外にはなるべく使いたくないんですって」

 

「……変な所でストイックなのね」

 

 兄のそんな一面を知っているシリカが何気なく(つぶや)いた所、其処から何故かポケ○ン談義が始まってしまった。

 自身のプレイスタイルの事が話題にされている事に対して妙な気恥ずかしさを感じたリョウヤは、(みな)の意識を集めるべくゴホン、と咳払(せきばら)いを一つ。

 

「……つー訳だから、ノーマルのネペント共をどんどん狩って行くぞ」

 

 やや強引に話を(まと)めてから、そっぽを向いてそそくさと歩き出す。そんな露骨に話題を()らして逃げたリョウヤの様子を可笑しく思いながら、残りの九人も彼の後に続いて歩き出す。

 

 そんな感じで再開となった花付きネペント探し。

 ……ただ、メンバーの中でただ一人──リョウヤだけは心穏やかではなかった。理由は言わずもがな、自分の事を話題にされた事に対する気恥ずかしさによるものだ。彼は、自分の事を話題にされる事があまり好きではないのだ。

 そんな好ましくない気分を振り払うべく、彼は気を紛らわす事の出来るナニかを探し求め、視線を彷徨(さまよ)わせる。

 

 ──そして、視界の先に《ソレ》を見付けた。

 

 リョウヤの視界に映ったのは、小さなカラー・カーソルだ。己を強化する事で此の命懸けのゲーム(デスゲーム)を生き残るべく、狩りの効率を上げる為にもと取得した《索敵(サーチング)》スキル──其れによって反応距離が広がっているので、本体はまだ視認出来ていない。

 カーソルの色は、モンスターである事を示す《赤》であるが、色合いは一般的なものよりもほんの少し濃いものになっている。此の濃淡によって、敵の相対的な強さを大まかに計る事が出来るのだ。今回の場合であれば、相手はリョウヤ達よりもほんの少し強いレベルである、という事になるのだ。

 だからと言って、そんな事に(おく)するリョウヤではない。

 ……と言うよりも、今の彼はそんな事など全くもって気にしてはいない。ただただ、期せずして(いだ)く羽目になってしまった不快感の()け口に出来る《獲物》を見付けられた事に、《歓喜》の念…………否、《狂喜》の念を(いだ)いているのだから。

 

 狂った喜びを胸に、カーソルが指し示す(もと)へと駆け出すリョウヤ。そして其れを追い掛ける残りのパーティーメンバー達。

 向かった先に居たのは、ウツボカズラ(ネペンテス)彷彿(ほうふつ)とさせる胴体をした植物型のモンスターであり、胴体の下部では移動用の根が無数に(うごめ)いている。左右には鋭い葉を(そな)えたツルがうねっており、頭に当たる部分では捕食用の《口》が粘液を垂らしながらパクパクと開閉を繰り返している。──其れこそが、先程からリョウヤ達が狩り続けている《リトルネペント》である。

 因みに、名前に《リトル》と付いてはいるが、其の身の丈は一メートル半とそれなりに大きかったりする。

 そして(まれ)に、口の上に大きな花を咲かせた個体が出現する事があり、其れこそが、リョウヤ達が探し続けている《花付き》のリトルネペントである。……ただし、今回見付けた個体は残念ながら何も付けていないノーマルのネペントであった。

 

「──らあッ!!」

 

 またしても目当ての個体ではなかった事に落胆する事も無く、リョウヤはネペントの(もと)へと駆け寄って行き、カーソルを視認した時点で既に抜いていた得物をネペント目掛けて勢い良く振るう。

 

「シュアッ……!?」

 

 背後からの奇襲であった為に当然ながら反応する事が出来ず、リョウヤの攻撃を受けて悲鳴を上げるネペント。

 其れにより(ようや)くリョウヤの存在に気付き、リョウヤが居るのであろう攻撃が襲って来た背後にへと振り返るネペントであったが、振り返った時には既にリョウヤはバックステップで距離を取っており、何時攻撃が来ても迎え撃つ事が出来る様にと剣を構えている。

 そんな自分に《敵意》……いや、《殺意》を向けて来るリョウヤを前に、ネペントもまた殺意を持って二本のツルを高々と(かか)げる。

 

「シュウウウウ!」

 

 (しば)しの(にら)み合いの末、先に動き出したのはネペント。捕食器の口から咆哮(ほうこう)()らしながら、自身の右のツルをリョウヤ目掛けて突き込んだ。

 ただ、ベータテストに()いて嫌と言うほど経験をしているリョウヤに其の攻撃が当たる筈も無く、彼はツルの軌道を見切り、左へと()んで回避。そのまま勢いを殺す事なくネペントの側面へと回り込み、剣をウツボ部分と太い(くき)の接合部──ネペントの弱点へと叩き込んだ。

 結果、ネペントのHPが更に二割以上も(けず)られる。

 

 自身の攻撃が(かわ)された挙句にまたしても傷を負わされた事で、リョウヤに対する(いきどお)りを(つの)らせたネペントは怒りの声を上げると、ならばとウツボの部分をぷくっと(ふく)らませた。

 当然、其の動作の意味するところもリョウヤは知っている。──其れは、腐蝕液(ふしょくえき)噴射の予備動作(プレモーション)だ。

 腐蝕液は、浴びてしまえばHPと武器防具の耐久度を大きく減らされてしまう上に、粘着力によって(しばら)くの間動きを阻害されてしまうのだ。……が、その分効果範囲は正面三十度と狭いのだ。

 ギリギリまでタイミングを見極め、ウツボの部分の膨張(ぼうちょう)が止まった瞬間、リョウヤは今度は右へと大きく跳んだ。

 ぶしゅっ! と薄緑色の液体が飛沫(ひまつ)状に噴射され、地面に落ちて白い蒸気を上げる。だがしかし、其れを一滴たりとも浴びる事なく回避したリョウヤは、右足が地面に触れた瞬間に透かさずネペント目掛けて駆け出し、再度剣を弱点部分へと叩き付けた。

 再び痛烈な一撃を受けた事で、悲鳴と共に()け反ったネペント。其の捕食器を、黄色いライトエフェクトがくるくると取り巻く。──バッドステータスの一つ──《気絶(スタン)状態》だ。

 当然ながら、其の様な絶好の機会を逃すリョウヤではない。剣を右に大きく引き、一瞬のタメ動作を取る事でソードスキルを立ち上げる。

 

「──せいやあッ!」

 

 気合の咆哮と共に激しく地面を()り、剣身を薄水色に光らせた片手剣を水平軌道で振るう。──片手剣単発水平ソードスキル《ホリゾンタル》が、スタンから回復する寸前のネペントの()き出しの茎へと直撃した。

 追い討ちとばかりに、リョウヤは蹴り足と右腕の動作により威力をブーストさせる。其れにより、エフェクト光により輝く剣身が硬い茎へと食い込み、一瞬の手応えをリョウヤに残した直後──

 

 ──すかぁぁん!

 

 という乾いた音を(ひび)かせて、ウツボの部分が茎から斬り離され、丸ごと宙へと舞った。

 先の三撃によって残り四割ほどにまで削られていたHPゲージが物凄い勢いで減少して行き、ゼロとなって消滅する。その直後、分断されたネペントの巨体全てが青く凍り付き、爆散した。

 剣を前方に振り切った技後動作(ポストモーション)のままのリョウヤの視界に、経験値の加算表示が浮き上がる。其の数値は、なんと青イノシシの二倍近くにもなる。

 

「──次ぃッ!」

 

 剣を振り払ったリョウヤは…………だが、加算表示を(ろく)に見ぬままウィンドウを閉じる。其の意識は、既に次の獲物を探す事にへと向いている。

 

「つかお前らァ! ボケーっと見てないで、次からはちゃんと手伝えよ!」

 

 それでも、遅れて到着し、気迫に呑まれて戦闘を見ているだけになってしまっていた他のパーティーメンバーに対して、注意の言葉を掛ける事は忘れない。

 リョウヤが一人で勝手に先走り、勝手に戦闘を始めた訳だが、それでも加勢もせずに観戦をしていたのは事実である為、シリカ達は彼の言葉に文句を言う事無く、それぞれに了解の意を示す。

 そして改めて、次なる獲物を見付けるべく動き出した。

 

 其の後の彼らは、今度は協力をして、見付けたネペントを根刮(ねこそ)ぎ狩り取って行った。お陰でお金(コル)や経験値がどんどん貯まって行き、レベルアップも出来た。

 ……けれども、肝心の標的(ターゲット)である《花付き》は見付けられていない。其れにより、SAO未経験者であるユウキ達は、《花付き》が如何に希少種であるのかという事を改めて思い知らされた。

 一向に《花付き》を見付けられない事に、経験者(ベータテスター)であるシリカも含めて辟易(へきえき)とし始め、一方で、(ほとん)ど八つ当たりに近いネペント狩りによってリョウヤの荒れていた心が落ち着いて来た頃────状況が一変する様な事態が発生した。

 

 彼らの視界には、本日百何十匹目ともなる新たなネペントの姿が映っている。

 だが、今度のソレは、今までのノーマルのソレとは異なっている。生物めいた光沢を持つ緑色の茎、個体差のある斑模様(まだらもよう)(いろど)られた捕食器、そして其の上に──薄闇の底でも毒々しい赤色に(かがや)くモノが付いているのだ。

 

「…………Oh my。そっちかぁ……」

 

 今までのネペントとは明らかに別物であると思われる其の個体の発見に…………だがしかし、冷静に戻ったリョウヤの表情は優れない。そんな彼の様子を見て怪訝(けげん)に思い、ユウキが声を掛ける。

 

「ねえリョウヤ……あのネペント、今までのとは違うみたいだけど……アレってもしかして……」

 

「あー……残念だけど、ありゃあ《花付き》じゃあないぞ」

 

「えっ!? アレも違うのか……!?」

 

「ああ。……ありゃあハズレもハズレ──大ハズレの《実付き》だ」

 

「《実付き》……ですか?」

 

「あ、アレが話に聞いてた《実付き》ネペントなんだ」

 

 実物を見るのは初めてだよ、と一人呟くシリカの横で、リョウヤは残りのパーティーメンバーに、目の前に存在する直径二十センチ程の赤い球体を頭に付けた個体──《実付き》ネペントの生態についてを語る。

 とは言え、攻撃パターンや、弱点などといった大凡の部分はノーマルのネペントと変わりは無い。

 唯一の差異である頭の上の赤い球体だが…………此れがかなり厄介な代物であるのだと、リョウヤは語る。と言うのも、其の実を攻撃してしまうと巨大な音と共に破裂し、嫌な匂いのする煙を辺りに()き散らすのだ。幸いにして煙には毒性も腐蝕性も無いのだが、其れ以上に《広範囲から仲間のネペントを呼び寄せる》という厄介な特性が有るのだ。

 エリアの湧出(ポップ)状況次第では(さば)き切れない数のネペントが集まって来る、という説明を聴いて、各々顔を引き()らせたり、青褪(あおざ)めさせたりする。リョウヤが『大ハズレ』と称した理由を理解したのであった。

 

「成る程ねぇ。……けど、此れってある意味チャンスなんじゃないかな」

 

 ──ただ一人──ユウキだけは説明を聴いて理解をした上で、他のパーティーメンバーとは異なる感性を(いだ)いていた。

 

「……大量のネペントが集まって来るんだぞ。其れの何処がチャンスなんだ? 寧ろ……と言うかどう考えてもピンチだろ」

 

「いやー……もしかしたら《花付き》も一緒に集まって来たりしないかなー、って思ってさぁ」

 

「……ッ!!?」

 

 頓珍漢(とんちんかん)な事を言い出すユウキに呆れを(いだ)くリョウヤであったが、更なるユウキの返しによって度胆(どぎも)を抜かれ、逆に納得をさせられてしまう。

 

「…………盲点だったわ。確かに其の方法なら《花付き》を見付ける確率を上げられるかも知れない」

 

「ちょ、正気なの!? 大量のネペントが集まって来るって言ったのは先輩じゃないですか!」

 

「あ、ああ。そうだったな……」

 

 ユウキとリズベットの双方の意見の間で揺れるリョウヤ。

 ユウキの意見は狩りの効率がぐん、と上がる為、実に魅力的(みりょくてき)であるとリョウヤは考える。

 だが、経験者(ベータテスター)という事で頼りにされているリョウヤは、必然的にパーティーのリーダーとして白羽の矢を立てられ、他のメンバーに任せる訳にもいかないだろうと、一応はリョウヤ本人も其の立場を受け容れている訳で────詰まる所、彼の意思がパーティーの行動を決める事になると言っても過言ではないのだ。

 であるからこそリョウヤは、ユウキの意見を採用してパーティーを危険に(おちい)らせる訳にもいかない、とも考える。

 

「きっと大丈夫だよ! 此処までの戦闘でボク達は強くなってるし、何より頼れる仲間が九人も居る。お互いに助け合いながら戦えば、何匹来たって乗り越えられるよ!」

 

「「「……………………」」」

 

 はてどうしたものか、と考えようとするよりも前に、自分達ならば大丈夫だ、とユウキが力強く説得をしようとする。やけに自信満々に語る彼女の言葉に、リョウヤだけではなく他のパーティーメンバーも異を唱えようとはしない。

 そうしてそのまま沈黙が続いたが、やがて──

 

「ユウキがそこまで言うんだ、ちょっくらやってみようか」

 

 意を決した様子で、リョウヤがユウキの案に賛同の意を示した。しかも、其れに対する他のメンバーからの反感の声は何故か上がらない。

 

「『虎穴(こけつ)()らずんば虎子(こじ)を得ず』なんて言うしな。いっちょやってみて…………んで、ダメそうだと思ったら死に物狂いで逃げるって事で」

 

「オイオイ、何言ってんだよリョウヤ! オレらが協力すりゃあ乗り越えられるって、ユウキは言ってんだぜ? ダメそうになる事なんてねーよ!」

 

「俺達の事を信じてるユウキの事を信じてみようよ」

 

「……ソレ、何処の天元突破なアニキだよ、ササマル」

 

「あ、リョウヤも知ってるんだ。アレ……回を追う毎に段々台詞が変わって行ったよね。最初は確か『お前を信じる俺を信じろ』で、次に『俺が信じるお前を信じろ』、それで最終的には『お前が信じるお前を信じろ』だっけ」

 

「ちょっと意味が解らなかったりもしたけど、カッコ良かったよね」

 

 寧ろ他のメンバーも乗り気である。……そして、何故か其処から話が妙な方向へと逸れて、笑い出す男子達。

 

「……まったく、ホント男ってのは単純でバカなんだから」

 

「そんな風に言ってますけど、リズさんだって充分やる気になってるじゃないですか」

 

「そりゃあねぇ。自分よりも歳下の子にあんな風に言われちゃったら、やる気にならざるを得ないっしょ」

 

「あはは……何か、ユウがすみません」

 

「良いのよ良いのよ。てか、ランやサチは大丈夫なの?」

 

「あ、ハイ。ユウの無茶に付き合うのには慣れてますから」

 

「えっと……やっぱりちょっと怖いけど、(みんな)と一緒なら頑張れると思う、から……」

 

「そう。でも、無理だと思ったら遠慮(えんりょ)せずに言ってね」

 

「……うん」

 

 女性陣の方も、多少なりとも不安を抱えている様子ではあるが、それでもやめようとする者は居ない。

 

「んじゃまあ……ちょいとばかし危険な綱渡りに挑んでみるとしましょうか!」

 

「「「おーーッ!!」」」

 

 メンバー全員の目を見て、覚悟を悟り、リョウヤが掛け声を掛ける。

 威勢の良い返事と共に一歩踏み出した彼ら。其の視界の先に捉えるのは、闇夜に赤く輝く実を頭に付けた一体の食虫植物。

 

 ──こうして、彼ら十人による危険な挑戦劇が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………んで、ネペントの大群を全員で協力して狩り尽くして無事に生還。胚珠も見事に二個獲得出来た、ト?」

 

「そういうこった」

 

「……………………お前ら、大した度胸だナ」

 

 場面は移り、《ホルンカ》の村の一角。

 

 察しての通り、リョウヤ達はネペント無双を乗り切って無事に生還した。

 胚珠も見事に二個獲得する事に成功し、リョウヤとユウキはそれぞれ依頼主の母親に胚珠を渡して、報酬である《アニールブレード》を受け取った。

 ……此の時、依頼主の家から出て来たユウキが(つぶや)いた「……アガサ……ボク達が取って来た胚珠の薬で、少しでも具合が良くなるといいね」という言葉に、リョウヤは少しばかり胸を痛めたのであった。

 

 さておき。

 クエストを完了させたリョウヤ達は、其の時点で既に夜が()けて来ていた為に、其の日の活動を終了する事にして宿屋へと向かった。

 モンスターの大群を相手に戦闘、という危険な挑戦に精神的に疲労していたリョウヤではあったが、寝る前にとある一人の知人プレイヤーにメッセージを飛ばしたのであった。

 

 プレイヤー名を《アルゴ》──。

 《(ねずみ)のアルゴ》の名で通っている、情報屋として活躍している女性プレイヤーであり、元ベータテスターだ。

 彼女は《売れる情報は全て売る》をモットーとしており、例えば誰かが彼女から情報を買えば、其れによって生まれた《誰それが何々の情報を買った》というネタも情報として売ってしまうのだ。

 そんな商魂(たくま)しい彼女ではあるが、しかし決して無節操なハイエナという訳ではなく、自分なりのルールを持って活動をしている。真偽の怪しい情報を有料では売らず、きちんと裏を取り、彼女が価値が有ると判断をした話のネタ元には其れ相応の情報料を払っているのだ。

 総じて、彼女の情報屋としての腕前は確かなものであるのだ。

 そんな彼女とは、演説直後に彼女の方から接触して来た事で知り合った。曰く、同じ元ベータテスターの誼みで仲良くしようゼ、との事でお互いにフレンド登録をする事になったのである。

 

 さて。

 腕利きの情報屋である彼女へとリョウヤが連絡を取ったのは、勿論の事情報の購入の為だ。

 購入する情報の内容は、《《片手剣》以外の装備の強化クエスト》について。

 と言うのも、彼はベータテスト時、自身が選んだ《片手剣》以外の装備の強化クエストにはあまり関心を寄せなかった。その為に、何処の町や村にどの装備の強化クエストが有るのかを知らないのだ。自分達の装備強化を手伝ってくれた返礼に仲間達の装備強化の手伝いをしたいと思っても、その為の方法が分からなくてはどうしようもない。

 其れ故の情報の購入、其れ故の情報屋(アルゴ)への連絡なのである。

 

 という訳で、朝早くに起床して待ち合わせの場所へと向かったリョウヤ。

 相手方がわざわざ遠方から来てくれるとの事なので、せめて相手を待たせてしまわない様にと思い、待ち合わせの時間よりも前に着いて待っていると、暫くして丈の長いフード付きのマントを着用したプレイヤーが近付いて来た。

 近付いて来るに連れて明確となる其の人物の背丈は、大柄ではないリョウヤよりも更に頭一つ以上低く、フードの隙間から(のぞ)く巻き毛は金褐色(きんかっしょく)である。そして、其の人物の容姿で最も目を引くのは、メーキャップアイテムにて描き込まれたのであろう、両の(ほお)に在る動物──齧歯類(げっしるい)を思わせるヒゲを模したであろう三本線である。

 ──ズバリ言うと、()の人物こそが(くだん)の情報屋──《鼠のアルゴ》である。

 

 やって来たアルゴと一言二言言葉を交わし、さて、情報購入の話を切り出そうとした所で、そう言えば、とアルゴが先に話を切り出したのである。

 其の内容は、たったの一晩の内に何処からどの様にして聞き及んで来たのか、リョウヤ達がネペントの大群を相手に無双を行った事についてであった。

 彼女の情報収集能力に舌を巻いたリョウヤは、さておき、特に隠し立てする様な事でもないと判断して、アルゴに事の詳細を語った。──そうして先の会話に至る、という訳である。

 

 結論として、ユウキが考案した方法は裏技として《アルゴの攻略本》に()せられる事となり──『実行する際は自己責任で』という真っ赤なフォントの注意書きが()えられて──、リョウヤは情報の提供料の代わりにと、購入した情報の料金を少し負けて(もら)ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぶっちゃけた事言っていいか?」

 

「何ダ?」

 

「《実付き》の出す煙って『あくしゅう』だけどさぁ……効果はどっちかっつーと『あまいかおり』だよな」

 

「にゃははは! そー来たカ! けどまあ、言われてみれば確かにそーだナ!」

 

 ……余談だが、何やら吹っ切れた様子のリョウヤは、思いっ切りネタに突っ走っていたのであった。

 

 

 

 

 




ネタ回! …………と言う割には、サラッと原作のキーキャラ達が出て来ているという。
ぶっちゃけた事を言うと、最後の会話の(くだり)がやりたくて此の話を書きました。

それと、スマホのアップデートによって一マス分の空白を空ける事が出来る様になったので、段落付けが出来る様になりました。
其れに当たって、此れより前の話にも段落付けを行いたいと思います。


[今回の可能性(可能性)

・リズベット / 篠崎(しのざき) 里香(りか)に仲の良い先輩が居たら。
・《月夜の黒猫団》と同校の生徒がSAO事件に巻き込まれていたら。
 
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