ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

11 / 17
 
名前;和狼(わのかみ)
特性;スロースタート / なまけ
持ち物;なし(文才が欲しい)

…………要するに、遅れてすみません。

[12/21]一部修正しました。

[1/15]一部修正しました。
[8/8]誤字を修正しました。
 
[11/6]特殊タグを追加しました。



Stage.10;流れ星に願いを……

 

 

 

 

 

─No side─

 

 

 デスゲームの開始から、一ヶ月の月日が経過した。

 

 残念な事に、あれから更に千人近くものプレイヤーがゲームから、()いては現実世界からも永久退場──(すなわ)ち《死亡》してしまった。

 ベータテスター達による救済措置(レクチャー)の甲斐有って、初心者プレイヤー達が何も出来ずに一方的にモンスターに殺される、という事態に(おちい)る事は少なくて済んでいる。

 ……だがしかし、知識が有るというだけで生き残れる程、此の《SAO》というゲームは甘くはなかった。

 幾ら知識が有り、其れを上手く活かす事が出来たとしても、一瞬でも、(わず)かにでも油断をすれば其処から自分達の優位性は見る見るうちに崩れて行き、最悪の場合は命を落とす事にもなるのだ。

 いや、(むし)ろ知識を得た・持っているからこそなのだろう。『知識を得た』『知識を持っている』という安心感が油断へと(つな)がり、死に至っているのだろう。其の実例とでも言うべきなのか、死んだ千人近くの内の約三割がベータテスター、という情報が《鼠のアルゴ》の調査によって判明しているのだ。

 とどのつまり、彼らが真に警戒するべきなのはモンスターなどではなく、自分自身の心だったという訳だ。

 

 ……(もっと)も、デスゲーム開始後に最初に命を落としてしまったプレイヤーの死因は、其れらとは一切合切全くもって関係の無いものなのだが。

 

 《はじまりの街》の中央広場に在る《黒鉄宮》の、元は《蘇生者(そせいしゃ)の間》であった場所には、ベータテストの際には存在しなかった金属製の巨大な()(もう)けられており、其の表面には約一万人のプレイヤーの名前が刻印されているのだ。

 しかも、死亡したプレイヤーの名前の上には判り易いようにと横線が刻まれる、という配慮された仕組みになっており、更に其の横には詳細な死亡時刻と死亡原因が記されるのだ。

 

 さて、話は(くだん)の最初に死亡した男性プレイヤーの話題に戻るのだが──。

 死亡時刻は、デスゲームが開始されてから僅か三時間後の事。

 そして、肝心の死亡原因は────《自殺》だ。

 

 事の詳細はこうだ──。

 ナーヴギアの構造上、ゲームシステムから切り離された者は自動的に意識を回復する(はず)。その様な持論を展開した男性プレイヤーは、《はじまりの街》の南端──詰まりは《アインクラッド》そのものの最外周を構成する展望テラスの高い(さく)を、勇敢(おろか)にも乗り越え身を(おど)らせたのであった。

 浮遊城《アインクラッド》の下には、どんなに目を()らしても陸地などを見付ける事は出来ず、ただ何処までも続く空と幾重(いくえ)にも連なる白い雲が存在するだけだ。沢山のギャラリーがテラスから身を乗り出して見守る中、絶叫の尾を引きながら落ちて行く彼の姿は見る見る小さくなって行き、やがて雲間に消えて行ったのであった。

 

 ──彼の名前の上に簡素かつ無慈悲な横線が刻まれたのは、其れから二分後の事。死亡原因は《高所落下》であった。

 

 其れが、システムから切り離されての現実世界への無事な帰還なのか、はたまたGM(ゲームマスター)の宣言通りに脳を焼き切られるという結末を招いたのか……どちらを意味しているのかは、ゲームの内側からでは知る(すべ)は無い。飛び降りた男性プレイヤーにしか知り得ない事である。

 ただ、その様に手軽な手段でゲームの中から脱出が出来るのであれば、直ぐにでも全員が外部から回線切断・救出されていてもよい筈だ、というのが殆どのプレイヤーの共通の見解であった。即ち、飛び降りても無事に現実世界に帰還出来る可能性は低い、と判断したのだ。

 ……だがしかし、それでも男性プレイヤーがゲームの世界から消えた後も、《アインクラッド》から身を投げ出す者は散発的に出現した。……彼らは、其の単純な決着の誘惑に負けてしまったのであった。

 

 そんな一部の例外を除き、残りのプレイヤーは大きく分けて二つのグループ──《はじまりの街》にて現実世界からの救出を待つ《待機組》と、自力での脱出を目指してゲーム攻略へと挑む《攻略組》に分かれた。

 

 幾ら初心者講習に参加して戦う為の技術を身に付けたとしても、やはり《死》に対する恐怖心は(ぬぐ)い切れるものではなかった。故に、初心者講習に参加したプレイヤーでも、出来る事であれば安全無事に帰還したいと、安全地帯である《はじまりの街》に残って現実世界からの救出を待つ事を選んだ者は数多く居る。

 そして勿論の事、初心者講習に参加すらせず、《はじまりの街》に()もって救出されるのを待つ事を選んだ者達も居る。

 

 そうして、自分達の身の安全を選んで《はじまりの街》に(とど)まる事にした《待機組》。

 其れに当たって必要となる食費や宿代……其れらを消費し続ける事によって起こるであろう所持金の枯渇(こかつ)の問題が懸念(けねん)されたが、其処は初心者講習での経験が役に立った。

 彼らの一部は、勇気を振り(しぼ)って《はじまりの街》近辺のフィールドへと足を運び、モンスターを倒して資金を(かせ)いだのだ。中には、自分が稼いだ資金を善意で他のプレイヤーに分け与える者も居た。

 彼らの頑張りの甲斐も有って、今のところは《はじまりの街》は平穏が保たれている状態だ。

 

 一方で《攻略組》はと言うと──。

 元ベータテスターや、初心者(ニュービー)の中でも腕が立つプレイヤー達が主導となって、少しずつではあるが道を切り拓いていた。

 勿論順風満帆(じゅんぷうまんぱん)にとは行かず、志半(こころざしなか)ばで倒れてしまった者や、進むに連れて強さを増して行くモンスターに恐怖心を(いだ)き、後退する事を選んだ者も居る。

 其れ即ち、攻略に参加するプレイヤーが減って行く一方…………という訳でもなく、減ってしまった人数分を(おぎな)うとまでは行かないまでも、意を決して《はじまりの街》を飛び出し、最前線にまで追い付いて来て攻略に参加する者も居るのだ。

 

 そうして前進をし続ける《攻略組》…………ではあるが、彼らの頑張りに反して、残念ながら一ヶ月が経過した現在に於いても未だに第一層の攻略にすら至ってはいない。

 其の原因は……言わずもがな、GMによって設けられた《ゲームオーバー = 現実の死》という特殊ルールの存在だ。此れによって、《攻略組》だけに(とど)まらず、死にたくはないと思う多くのプレイヤー達は、慎重な行動を取らざるを得なくなっているのだから。

 

 ただ、そうした攻略の遅滞に対して、不満や焦燥(しょうそう)の念を(いだ)く者は(ほとん)ど居ない。

 モンスターと戦った経験の有る者であれば解る事だが、スクリーンモニタを通して2Dグラフィックの敵を攻撃するのとは違い、SAOに於ける戦闘は其の圧倒的なリアリティ故に原始的な恐怖を呼び起こすのだ。どう見ても本物としか思えないモンスターが、凶悪な爪や牙で自分達を殺そうと襲い掛かって来るのだ。余程の者でなければ怖くならない訳がない。

 其の恐怖を理解しているが故に、ゲームを攻略する──詰まりはモンスターと戦い続けて行く事が如何に大変な事であるのかを理解出来てしまう。

 理解出来るからこそ、恐怖と闘いながらも攻略の為にと戦ってくれている《攻略組》に不満をぶつけるのはお門違いだと考えるのだ。

 

 一方の焦燥感だって、自分の命と現実世界の時間とを天秤に掛け、命の方がより大事だと判断する事が出来れば自ずと無くなるのだ。生きて帰還する事さえ出来れば、人生は如何様にでもやり直す事が出来るのだから。

 そして多くのプレイヤーが、リョウヤが演説で言った『現実の時間の事なんて考えるな』『生き残る事を最優先に考えろ』という言葉によって其の判断をする事が出来たのだ。

 

 …………勿論、全員が全員そうであるとは限らないのだが。

 

 さて。

 そうした中で、リョウヤ達一行もまた攻略に(はげ)んでいた。

 しかも、彼らは《攻略組》の中でも最前線にて活動するグループであり、上層と下層とを繋ぐ唯一の道であるダンジョン──《迷宮区》を、探索とステータスの強化(レベルアップ)を兼ねながら登り進んでいる。

 (ちな)みに、彼らは効率を上げる為として手分けをして探索を行っており、後程合流した際にマッピング情報を共有する様にしている。

 レベルアップ──経験値稼ぎに関しては、其の日の探索の後に時間を設け、効率良く稼げる様に二人一組(ツーマンセル)で行っている。戦闘に参加した人数が少ない方が、より多くの経験値が分配されるからだ。

 一人で倒せば、当然経験値は全て其の一人に入る事になる…………が、最前線のモンスター相手に一人で挑むのは流石に危険が過ぎると判断し、最小ユニットである二人にした次第である。

 

 さて置き。

 そういった感じで、彼らを含めた《攻略組》による攻略は進んでいる。

 現時点に於いて《迷宮区》の攻略は終盤に差し掛かっている為、第一層《迷宮区》のボス部屋の発見、其処からのフロアボスの攻略の日はそう遠くはないだろう。

 

 

 

 

 

 そうした中で、出会いは唐突に訪れた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─Ryoya side─

 

 

 流れ星──。

 現実世界(リアル)で実物を見た事なんて一度も無いのだが、偶然にも目撃した、灯りの乏しいダンジョンの薄闇を貫いた純白の光芒は、そうとしか形容出来ない程に(すさ)まじい速度であり、そして────とても綺麗(きれい)だった。

 

 其れを目にしたのは、《迷宮区》を出る為にと来た道を歩いて戻っていた時だ。

 現時点では一瞬でダンジョンを抜け出す為のアイテムなんて売られてもいなければ、宝箱から出たりモンスターがドロップしたりする事なんて無いので、《迷宮区》を出る為には必然的に自分達の足で来た道を戻らなくてはならない。一階や二階といった低い階層の時は全然苦ではなかったのだが、階層が上がって行くに連れて引き返す距離がどんどん長くなって行くものだから、此れが結構しんどいのだ。ゲームの中だから体力切れになったりしないのがせめてもの救いだ。

 

 さて置いてだ。

 今日は夕方から、《迷宮区》の最寄りの町である《トールバーナ》に於いて、一回目の《第一層フロアボス攻略会議》が開かれるとの事なので、俺達は何時もよりも早めに攻略を切り上げて帰る所だった。

 其の道中、とある十字路に差し掛かった際に剣戟音(けんげきおん)が耳に届いたので、俺は一応の確認のつもりで音の聴こえて来た方向にへと視線を向けた。

 十五メートル程離れた視界の先では、細身のシルエットをした細剣(レイピア)使いのプレイヤーが一人で、亜人型モンスターの《ルインコボルド・トルーパー》を相手に戦っていた。

 最前線で一人で戦うなんてなんつー無茶な真似を、と呆れの念を(いだ)いた俺は、せめて俺の目が届く範囲内では誰にも死んで欲しくはないので、何時でも助けに入れる様にとレイピア使いとコボルドの戦闘を注視する。

 

 レイピア使いの戦い方は、かなり際どいものであった。

 コボルドが振り下ろした無骨な手斧を、見ている此方の背筋が(こお)ってしまいそうな程のギリギリの間合いで(かわ)す。三回連続で攻撃の回避に成功するとコボルドが大きく体勢を崩すので、レイピア使いは其の(すき)を見逃さず、全力のソードスキルを叩き込む。

 放つのは、《細剣》スキルで最初に習得出来る単発突き攻撃の《リニアー》。剣を身体の中心に構え、其処から(ひね)りを入れつつ真っ直ぐに突くだけのシンプルな基本技…………なのだが、レイピア使いのソレは速さが凄まじい。明らかにシステムのモーション・アシスト任せではなく、プレイヤー自身の運動命令によって速度をブーストしていると思われる。

 同じくレイピア使いであるランでも、レイピアの刀身そのものではなく、ソードスキル特有のライトエフェクトが(えが)軌跡(きせき)しか(とら)える事が出来ない程速く撃ち出す事は出来ない。其れだけでも、レイピア使いが相当な腕前の持ち主である事が(うかが)える。

 まさに流れ星と言うべき《リニアー》が(ひらめ)き、胸当てをぶち抜かれたコボルドが退(しりぞ)く。其の瞬間、俺は別の意味でレイピア使いの戦いから目が離せなくなってしまった。

 其処から更に、コボルドの攻撃を三回回避してから反撃、というパターン化された攻防を二回()り返し、此の第一層《迷宮区》に於いてかなりの強敵である武装獣人を(ほふ)ってみせたのだった。

 しかも驚くべき事に、確認したレイピア使いのHPゲージは満タンの状態。──詰まる所、レイピア使いは無傷で先の戦闘を乗り切ったというのだ。相当な腕前…………どころか、凄まじい才能の持ち主なのではなかろうか。

 ……とは言え、決して余裕の一戦という訳でもなかったらしい。最後の一撃を受けてコボルドが四散すると、レイピア使いは実体の無いポリゴン片に押されたかの如く蹌踉(よろ)めき、通路の壁に背中をぶつる。そしてそのままズルズルと座り込んでしまったレイピア使いは、荒く呼吸を繰り返している様子だ。

 まあ、無理も無い事だろう。強敵を相手にたった一人で戦い、挙句に敵の攻撃をギリギリの間合いで躱すという無茶な真似を幾度となく繰り返したのだ。精神的に削られて疲れてしまってもおかしくはあるまい。

 

 幾ら無傷とは言えど、そんな様子を見てしまっては放っておく事など出来る訳もなく、(つい)でに指摘しておきたい事も有るので、俺は妹達に小声で先に《迷宮区》を出る様にと指示をしてから、ユウキを(ともな)って座り込んだままのレイピア使いの(もと)へと歩みを進める。

 余り大勢で行っても逆に警戒されてしまうだろうし、かと言って一人で行っても其れは其れで警戒されてしまう可能性が有る。そう判断して最小限の二人で向かう事にした。因みにパートナーにユウキを選んだのは、彼女のフレンドリーな性格が、其れでもやはり(いだ)いてしまうであろう警戒心を解くのに役に立つと判断したからだ。

 

 近付いて行くと、其れまでは薄闇の所為でよく判らなかったレイピア使いの容姿が確認出来る様になった。

 細身のシルエットである事から予想していた通り()せ型であり、やや小柄な体躯(たいく)。装備は暗赤色のレザー・チュニックの上に軽量な銅のブレストプレート、下半身はぴったりしたレザーパンツに(ひざ)までのブーツ。頭から腰近くまでを(おお)うフード付きのケープを羽織っており、顔を隠している。……此れでは男性か女性かの判別は難しい所だ。

 

 近付く俺達の足音に気付き、ぴくりと肩を(ふる)わせたレイピア使い。此方がモンスターではない事は、向こうの視界に表示されているであろう緑色のカラー・カーソルで証明されているだろう。其の為慌てる様子を見せる事は無いが、やはりと言うべきか此方に対して警戒心を向けている。

 此処で対応を間違えてしまえば、余計に警戒心を強めてしまう結果になり兼ねない──

 

「待って待って! ボク達は敵じゃないよ! 大丈夫だから落ち着いて、ね?」

 

「……」

 

 が、其処はユウキが上手く対応してくれたお陰で、レイピア使いの雰囲気が少し(やわ)らいだ様に感じた。どうやらある程度警戒心を解いてくれた様だ。やはりユウキを連れて来て正解だったみたいだ。

 

(おどろ)かせて悪かったな。俺はリョウヤ。攻略の帰りにアンタを見かけて、お節介かも知れないが放っておけなくてな」

 

「ボクはユウキだよ。宜しくね」

 

 更に警戒心を解いて(もら)う為にと、此方から名前を名乗り、接触した理由についても明かす。

 

「……リョウ、ヤ?」

 

 すると、レイピア使いの雰囲気がまたも変わった。どうやら此方に対する警戒心は無くなった様なのだが、其れとは別の視線を俺達──正確に言えば俺に対して向けて来ている。

 はて、急にどうしたのだろうか? と不思議に思っていると──

 

「! リョウヤって……あなたもしかして、ゲームが始まった日に初心者講習の開催を宣言していたリョウヤさんですか!?」

 

 弾かれたかの様に俺の事について確かめて来た。

 

「うえっ!? え、あ、ああ……そうだけど。……取り()えず、モンスターを呼び寄せ兼ねないからちょい声量落とせ、な?」

 

「あ、すみません……」

 

 突然のレイピア使いの反応に驚いて()頓狂(とんきょう)な返事を返してしまった俺は、どうにか自分を落ち着かせながら、レイピア使いに少し声を抑える様にと注意をする。此の第一層《迷宮区》の主要モンスターであるコボルドを含めた人型のモンスターは、プレイヤーの叫び声(シャウト)にも反応して寄って来てしまうからだ。

 

 それにしてもだ。

 成る程、レイピア使いが俺の名前を聞いて反応を示したのはそういう事だったのか。まあ、あんだけどデカい事をやらかした訳だから、やらかした事と共に俺の名前が知れ渡っていてもおかしくはあるまい。

 ……ただ、何となく英雄視されている様に聴こえるのは気の所為だろうか?《リョウヤさん》って……急に敬称付いちゃったんだけど?

 

「それにしても驚きました。まさか《救済の英雄》であるリョウヤさんと出会えるだなんて。……あっ! すみません! わたしったらまだ自己紹介をしてませんでした……」

 

 《きゅうさいのえいゆう》って何ッ!? どういう字を書くの!?《えいゆう》はやっぱり《英雄》って書くのかな!? そうだとしたら、英雄視されてる様に聴こえたのは気の所為じゃなかったのかな!?

 ……などと、レイピア使いの口から出て来た思いも寄らない情報に驚愕(きょうがく)の念を(いだ)いていると、レイピア使いは(にわ)かに頭に(かぶ)っていたフードを(めく)って素顔を(さら)すと、自己紹介をし始めた。

 

「わたしは《アスナ》って言います。以後宜しくお願いします」

 

 先ず目に入って来たのは、薄闇の中に於いても目立つ明るい栗色の長いストレートヘア。小さな卵型の顔の中には、大きな榛色(はしばみいろ)(ひとみ)と、小ぶりだがスッと筋の通った鼻が収まっている。……何処かランを彷彿(ほうふつ)とさせる様な容姿をしている。

 高めの声を聴いた瞬間から予想は出来ていたが、アスナと名乗ったレイピア使いの正体(せいべつ)はやはり女性──しかも、俺と同い年くらいの少女だった。それも、妹やユウキ、ラン、リズベット、サチともまた違う、華麗(かれい)な美少女だ。

 因みに、リズベットは童顔の可愛い系の美少女であり、サチは(はかな)い系の美少女だ。……他三人に関しては以前に話したと思うので省略させて貰う。

 

「ねえねえ、お姉さん」

 

「ん? なーに? あ、わたしの事は気軽にアスナって呼んでね」

 

「分かったよ、アスナ」

 

 さて置き。

 礼儀正しい雰囲気の華麗な美少女─アスナは……かと思えば、ユウキに対しては物腰柔らかくほんわかした雰囲気で接しており、二人は既にフレンドリーな雰囲気を(きず)いている模様。速ェ……。

 んで、俺とユウキとで接する態度が異なるのは……アレか? 俺に対しては英雄視(?)しているが故に恐縮しているからなのだろうか? ……いや、別に俺なんかに対して(かしこ)まる必要なんて無いと思うのだけれども?

 

「それで、どうしたのユウキ?」

 

「あ、うん。アスナが言った《きゅうさいのえいゆう》って何なのかなぁ、って思って」

 

「あれ? ()しかして聞いた事無い?」

 

「うん。無い」

 

「リョウヤさんも?」

 

「……初耳なんだが」

 

「そうなんですか……」

 

 やはり俺に対しては丁寧(ていねい)な口調で接して来るアスナは、俺とユウキが知らないと答えた《きゅうさいのえいゆう》についての詳細を教えてくれる。

 

「えーっとですね……リョウヤさんが初心者講習を開いてくれたお陰で、沢山の初心者の人達が戦い方を教えて貰えて助かったって喜んでいたんです。そんな彼らにとって、救済措置を()ってくれたあなたはまさに英雄なんですよ。だから彼らは、感謝と尊敬の意を込めてあなたの事を《救済の英雄》って呼んでいるそうなんです」

 

「へぇー。そうなんだー」

 

 ……俺自身はただ戦力欲しさにやっただけの事なので、大した事をしたという自覚はあんまり無い。

 けれども、(ほどこ)しを受けた側からすれば、俺がやった事は大いに喜ばしく、感謝すべき事の様だ。……其の喜びや感謝の結果が英雄視とか妙な二つ名というのは、ちょっとどうなのかと思ってしまうのだが……。

 と言うか、冷静になった頭でよくよく考えてみたら、コレ……十中八九アルゴの奴知ってるんじゃね? アイツあっちこっち飛び回って情報の収集とか売買してるんだろうから、どっかで此の(うわさ)を耳にしてるだろ? 知らないのなら兎も角、知ってたとしたら何で噂になってる張本人に教えてくれない訳!?《ホルンカ》の時といい、こっちに来てからといい、何度も会ってるんだから話す機会は結構有った筈だぞオイ!?

 

「…………OK、Alright、理解把握。……けど、だからってそんなに畏まらなくたって良いぞ」

 

「で、ですけど……」

 

「というか、寧ろ普通に接してくれないか? 変に畏まられたりしてもこっちが困っちまうからさ……」

 

「……そういう事なら分かり……ううん、分かったよ、リョウヤ君」

 

 取り敢えずアルゴには今度会った時に問い(ただ)してやると心に決め、目下の問題である俺への接し方について、どうにか変えて貰える様にとアスナに(たの)み込んでみる。

 最初は逡巡(しゅんじゅん)する様子を見せた彼女だったが、此方の思いが伝わった様で快く聞き入れてくれた。其れに伴って途中から敬語が砕け、呼び方も《リョウヤさん》から《リョウヤ君》に変わった。……うん。こっちの方が楽で助かる。

 

「ところでね、リョウヤ君」

 

 ……と、思いも寄らぬ展開がどうにか片が付いた事で、ついつい安心してしまった。此処らで先程の戦闘に対する指摘でもしておこうかと思ったのだが、タイミングを(いっ)してアスナに先を越されてしまった。

 仕方が無いので指摘するのは後回しにして、彼女の話に耳を傾ける事にする。……指摘の件、忘れん様にしとかんとな。

 

「何だ?」

 

「実はね……《救済の英雄》であるあなたに、お願いしたい事が有るの」

 

 やはり其の二つ名で呼ばれるのはこそばゆいからどうにかならんものか……、という割と切実な思いは今は脇に置いておく事に。

 何せ、直前まで穏やかだったアスナの表情は、真剣なものに一転したのだから。であれば此方も中途半端に聴くのではなく、真摯(しんし)な態度で向き合わなくてはいけないだろう。

 

「言ってみてくれ。協力出来るかどうかの判断は其れからだ」

 

「そんなに心配しなくても大丈夫だよ。あのね──」

 

 俺の(たよ)りに欠ける様な物言いに大丈夫だと返したアスナは、次いで依頼内容を明かした。

 

 

 

 

 

「──わたしに、SAO(このせかい)での戦い方を教えて欲しいの」

 

 

 

 

 




 
流れ星(アスナ)に願いを────聞いて欲しいと頼まれました。


[今回の可能性(もしも)

・アスナの態度が最初から軟化していたら。


──という訳で、原作でのメインヒロインたるアスナの登場です。
そんな彼女は原作とは大きく異なり、ご覧の通り物語序盤から丸くなっています。
其れは何故か?

──此れには、現実世界に於けるアスナ / 結城(ゆうき) 明日奈(あすな)の交友関係に理由が有ります。

其の友人のお陰で、此の通り丸くなっています。
ぶっちゃけると、其の友人(パロキャラ)もSAOプレイヤーとして出す予定でいます。
はてさて、一体誰なのでしょうか。

さて……一方で、リョウヤ君は物語の序盤からいきなり妙な二つ名を付けられてしまいました。
こうなったのも、アスナから依頼を受ける、という展開に持ち込む為です。
良い意味での有名人であれば信用が置かれて、此の運びに持って行き易いですからね。
其れには、其れ相応に有名だという証明が必要。
其の結果が《救済の英雄》という二つ名となりました。

以上、諸々(もろもろ)の裏話でした。
 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。