ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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……(ようや)く書けた。
今更ながら、自分に足りていないのは文才ではなく語学力ではないのか、と思えて来た今日この頃。……文才も無いと思われるが。

さて置き。
どうぞ、本編をお楽しみ下さいませませ。


[5/18]誤字を修正しました。
 


Stage.11;涙、衝撃(しょうげき)嫌悪感(けんおかん)

 

 

 

 

 

 此の世界での戦い方を教えて欲しい──アスナは俺にそう依頼して来た。

 

「え、どういう事? だってアスナ、さっきだってトルーパーを相手に充分に戦えてたじゃん? しかも無傷で。なのに何で今更……?」

 

 そんな彼女の頼みを聞いて、ユウキは……やはりと言うか怪訝(けげん)そうな、困惑した様な反応を示す。

 ユウキの言う様に、第一層《迷宮区》に()いてかなりの強敵である《ルインコボルド・トルーパー》を相手にアスナは充分な程に対応し、そして倒してみせた。しかも無傷でだ。

 それなのにアスナは、戦い方を教えて欲しい、と頼んで来たのだ。普通に考えれば、今更どうして、と不思議に思ったりするのだろう。

 

 ただ、見る奴が先のアスナの戦闘を見れば、彼女が戦い方を教えて欲しいと頼んで来た事に納得がいくであろう。

 かく言う俺も彼女の戦い方には違和感を(いだ)き、とある可能性を予想していた。そして今、彼女の言葉によって其れはほぼ確信へと変わった。其れ(すなわ)ち──

 

「多分アレだろ? アスナ……君は初心者講習には参加していないんじゃないのか?」

 

 ──初心者講習への不参加。

 

 どうにも彼女には戦闘の才能は有れど、戦闘に関する知識は欠如している様に思われたのだ。

 

 例えば防御──。

 彼女がやってみせた様な《最小限の動作によるステップ防御》は、武器や防具による受け流し(バリィ)受け止め(ブロック)に比べれば反撃の開始速度を上げられるし、武器防具の耐久動作も減らさずに済む。

 だが其の代わりに、防御に失敗した時のリスクは相当にデカい。下手をすればカウンターダメージを適用されて一時行動不能化(スタン)(おちい)り兼ねない。ソロでの戦闘に於けるスタン状態は、文字通り致命的だ。

 

 次に攻撃──。

 はっきり言って、彼女の攻撃はオーバーキル──モンスターのHP残量に対して、与えるダメージ量が過剰であったのだ。先程の戦闘に於いて、コボルドは二撃目の《リニアー》で(すで)瀕死(ひんし)状態であった。故に、(とど)めはソードスキルではなくても通常攻撃で充分であったのだ。

 オーバーキルをしても、システム的なデメリットやペナルティが有る訳ではない。ただ、ソードスキルは集中力を要求される為、連発し過ぎると精神力の消耗(しょうもう)が早くなってしまうのだ。ゲームで言う所のMP(マジックポイント)PP(パワーポイント)SP(スキルポイント)概念(がいねん)に近いだろう。

 ただし、コンピュータゲームではMPを消費し切っても其れらを用いての戦闘が出来なくなるだけで其れ以外の行動は出来るのに対して、SAOはVR──自らの力で身体を動かしてプレイしている為、精神力を消耗し過ぎて疲労してしまっては行動全般が出来なくなってしまうのだ。詰まる所、疲労を抑える為にもソードスキルの連発はなるべく()けるべきなのだ。

 

 そういった知識が欠如しているのは、講習に参加していないが故だろう。

 

「……うん、そうなの……。やっぱり戦うのは怖くてね、外からの救出に期待してずっと宿屋に(こも)っていたの……」

 

 俺の立てた予想に、彼女は申し訳なさそうな表情をしながら(うなず)いた。

 此れは、アレか? 他のプレイヤー達が勇気を出して命懸けの戦いに挑もうとしているのに、自分は命()しさに安全な宿屋に逃げ籠ってしまった──其の事に罪悪感を(いだ)いているとか、そんな所だろうか?

 

「んな顔しなさんなって。アスナが取った行動は何も間違っちゃいねえんだからよ」

 

「……え?」

 

「死ぬのが怖いと思うのは当たり前の事だ。生き残りたいと思うのは当たり前の事だ。……死と隣り合わせになる攻略(たたかい)が怖いと思って何が悪い? 死にたくないから攻略(たたかい)から逃げたいと思って何が悪い? 自分の命を惜しんで何が悪い?」

 

 飽くまで其れは俺の推察に過ぎないが、だとしても彼女が罪悪感を(いだ)く必要なんて無い、と俺は思う。

 それに、彼女の(くも)ってしまった顔を見ているのはあまり良い気分ではなかった。

 そんな俺の勝手な判断と快・不快(エゴイズム)の元、彼女を(はげ)ますべく、彼女を落ち込ませている(もと)となっている後ろ向きな思いを正当化してやる。

 んで、励ましを受けた当の彼女の反応はと言うと…………面食らった表情を浮かべているよ。…….あー……そりゃあまあ、後ろ向きな思いなんてのは普通は良い風には捉えられないものであり、肯定されるなんて事は滅多に無いだろうからなぁ。そうなるのも当然だろうな。

 ……まあ、お陰で彼女の表情から陰りが消えたから、結果オーライって事で別に良いけど。

 

「──アスナは何も悪くねえよ。だから、あんまり自分を責めなさんな」

 

「……ッ……!」

 

 で、話の()めにと最終的に言ってやりたかった事を伝えれば……………………って、え? ちょっ、ええッ!? な、涙ァ!? オイオイオイオイ……俺の言葉に目を見開いたかと思えば、彼女の目の(はし)から涙が(こぼ)れ始めちゃったんですけどォ!?

 

「ええッ!? ちょ、アスナッ!? ……リョ、リョウヤ! なにアスナを泣かせてるのさッ!?」

 

「い、いや……別にそんなつもりじゃ……。てか、励ましたつもりなのに何で泣かれてんの!? 何で俺責められてんの!?」

 

 思いもよらぬ面食らい返しを受けた俺とユウキが言い合いをしていると、「お、(おどろ)かせちゃってごめんね!」とアスナが声を(さえぎ)って会話に入って来た。

 其れによって俺達の意識はアスナへと向かい、其れを察した様子のアスナがぽつり、ぽつりと己の心境を語ってくれた。

 

「その、ね……嬉しかったの。私、戦う事から逃げる事は悪い事だと思っていたから……他の人達が頑張ろうとしていたから、尚更にね。……でも、リョウヤ君は其れは悪い事じゃないって言ってくれた。私は何も悪くないって言ってくれた。……やっぱりね、心の何処かではね、誰かに罪を(ゆる)して(もら)いたいって思っていたんだと思う。だから……だから……やっと、罪を赦して貰えて……其れが……それ、が……凄く、嬉しく、て…………」

 

 やはり、彼女は自身の行動に対して罪悪感を(いだ)いていた模様。──そして、彼女は其の罪を誰かに赦して貰いたいと望んでいた。

 其の望みは、今、俺によって叶えられた……のだろう。

 其れが嬉しかったが故に涙が(あふ)れてしまったのだ、と語る彼女は……罪悪感に(さいな)まれる事が余程(つら)かったのだろう。そして、罪を赦して貰えた事が余程嬉しかったのだろう。語る途中からまた其の感情が溢れて来てしまったのか、(うつむ)き加減になった顔は涙ぐんでおり、声も震えてしまっている。

 

 忘れられているかも知れないが、俺は社交性に欠けており、故に対人スキルは高いとは言えない。──当然、目の前で泣きそうになっている同年代の女の子を(なぐさ)める、などという高等スキルなど持ち合わせてはいない。……スキルの取得レベルに達していません!

 降って湧いたハードミッションに、どうしたものかと戸惑ってしまう俺。

 だからと言って、ユウキに任せるにしても、彼女には少し荷が重いかも知れないし、目の前で泣きそうな女の子を放置、なんてのは幾ら何でも論外だろう。

 

 少し悩んだ末に、ええいままよと、メニューウインドウを呼び出し、《装備フィギュア》の胸部装甲の部分をタップ。現れた小ウインドウの中から《解除》のボタンを押すと、銅のブレストプレートが音も無く消滅した。

 戦場で防具を解除する、という命を危険に(さら)す暴挙に出た俺は、未だに地面に座り込んだままのアスナの(もと)へと歩み寄る。……尚、彼女の視線はやや下を向いている為、俺が戦場で防具を外すという暴挙を仕出かした事には、まだ気付いていない様子だ。

 そもそも俺の接近にすら気付いていないかも知れない彼女の前で、俺は右膝を突いて片膝立ちとなり、右手を彼女の後頭部へと回す。そして俺の(てのひら)が後頭部に触れた瞬間、我に返った様子の彼女は、(たちま)驚愕(きょうがく)の表情を浮かべて俺を見て来る。

 彼女が何かを言おうとする前に、俺は彼女の頭を俺の胸元へと()き寄せる。……わざわざ命の危機を(おか)しているのは、こうするに当たっての彼女へのちょっとした気遣(きづか)いだ。

 俺の胸元に(うず)めさせている為に顔は見えないが、恐らく彼女は突然の抱擁(ほうよう)に更に(おどろ)いてしまっている事だろう。……だが、俺はそんな彼女の事など気にせず、更に左手も彼女の背中へと回す。そして、何も言わずに右手でぽん、ぽんと彼女の後頭部を繰り返し優しく叩く。

 ぶっちゃけた話、妹や小さい子供に接している様な感覚だ。対人スキルの低い俺では、此れ以上に気の利いた方法なんてのは浮かばない。

 

 ──何より、此の行動の趣旨(しゅし)自体、本来の目的からは外れていたりする。

 

 (しばら)くそうしていると、不意に感じたのはレザーコートを引っ張られる感覚と、抱き寄せていた彼女の頭が俺の胸元へと押し付けられる感覚。──そして聴こえて来るのは、彼女のものだと(おぼ)しきしゃくり上げる声。

 慰めるどころか、逆に彼女を泣かせてしまう結果になってしまった。

 ……だが、此れで良い。

 下手に泣きたい気持ちを抑え込んでしまうよりも、こうして泣いて溜め込んでいたものを全部()き出してしまった方が気持ちが楽になる……と俺は思うのだ。

 

 何はともあれ…………言い方はアレだが、彼女を泣かせてしまった訳なので、泣かせてしまった俺が最後まで責任を負うのが筋というもの。

 勿論、其れに関しては(やぶさ)かではない。

 其れ以外で問題が有るとすれば、モンスターの襲撃(しゅうげき)だ。……此処、戦場(ダンジョン)ですし。俺、今動けないし、其の上防具(むねあて)外しているからめっちゃ無防備ですし。

 だが、其れも心配は要らない。何故なら、今此の場には(たよ)れるパートナー様が居るのだから。

 という訳で、アスナの頭を優しく叩くのを続けながら、俺は首だけを動かして(たの)みの(つな)であるユウキの方にへと視線を向ける。そして「護衛(ごえい)頼むわ」と手短に用件を伝える。

 其れに対して彼女は、仕方が無いなあ、と言わんばかりの表情を浮かべると、指を一本立てて「ご飯、一回(おご)りね」と返して来た。……引き受けては貰えたが、報酬(ほうしゅう)を要求されてしまった……。

 けどまあ、俺とアスナの二人分の命を(まも)って貰う事を考えれば、飯一食分の費用なんて安いもんだ。

 そう思った俺は、ユウキからの要求に「了解」と快く承諾(しょうだく)の返事を返したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え、ええぇぇぇえええええッ!? あのGMが茅場じゃないって、どういう事なのぉぉぉおおおおおッ!?」

 

 暫く経った所で、アスナが泣き止んだ。

 上げた顔には、()き物が落ちた様なすっきりとした表情が浮かんでいた。

 ……が、其れは束の間の事で、其の(ほお)(たちま)ち赤く染まった。そしてそんな彼女の口から出て来たのは、「……お見苦しい姿をお見せしました」という羞恥心(しゅうちしん)(うかが)える言葉であった。

 そりゃまあ、泣いている姿を他人(ひと)に見られるのは正直恥ずかしいわな。其れこそ(かしこ)まった言葉(づか)いになってしまうくらいには。

 そんな恥ずかしがる様子の彼女にどう声を掛ければ良いのか迷ってしまったが、取り()えずは早急(さっきゅう)に話題を()らして忘れてあげるのがベストだろう、という結論に思い至り、俺は彼女に背を向けながら「……まあ、気にすんな。それよりも指南(レクチャー)の話に戻ろうや」と、本来の話題へと軌道修正をする事を提案する。

 其れに対してアスナもユウキも異を(とな)える事は無く──と言うか、アスナに至っては「そ、そうだね……と言うか、是非ともそうして下さい」と懇願(こんがん)する様な雰囲気であった。何処と無く切実さを感じて哀愁(あいしゅう)を覚えたぞ……──、すんなりと指南(レクチャー)の話に戻る流れとなった。

 

 ただ其の前に、俺は二人に場所を移動する事……話は移動しながらする事を提案した。

 其の理由は二つ。

 一つは、自分達が居る場所が戦場(ダンジョン)であるという事。アスナの気持ちが落ち着くまでは奇跡的にモンスターが再湧出(リポップ)する事は無かったが、話をしている間もそうであるとは限らない。長居は無用であろう。

 もう一つは、後に《第一層フロアボス攻略会議》が控えているという事。万が一の事も考えて早めに攻略を切り上げた為に時間には間に合うと思うが、それでもあんまりのんびりとしてもいられないだろう。

 其れらを()(つま)んで説明してやると、二人は納得した様子で(うなず)いてくれた。

 尚、説明の際に、後者の理由を聴いたアスナが、自分の所為(せい)で時間を取らせてしまった、と再び自責の念に()られる可能性を懸念(けねん)して、「謝るなよ。気にすんじゃねえぞ」と釘を刺しておいた。其の甲斐(かい)あって、雰囲気が悪くなる様な事にはならなかった。

 

 さて置き。

 そんな訳で、《迷宮区》の出口を目指して移動を開始した俺達。

 先頭を歩くのは俺。……という事で、此の(すき)に外した防具を着け直しておいた。ユウキには外した所をがっつり見られてしまったが、何も言って来ないあたりアスナには気付かれてはいないのだろう。気付かれてまた面倒な事になる前に隠蔽(いんぺい)させて貰う。

 

 ──閑話休題。

 

 それで、肝心の指南(レクチャー)の件だが──。

 結論から言えば、俺はアスナの依頼を引き受ける事にした。

 此のゲームをクリアする為にも戦力は一人でも多い方が良いので、彼女が強くなってくれる事は大変好ましいのだ。

 ──それに何より、俺に指南(レクチャー)を依頼して来た時の彼女の目からは、本気で強くなりたい、という思いがひしひしと伝わって来た。そんな彼女からの願いを断る事などどうして出来ようか。

 故に、俺は彼女からの依頼を引き受けたのだ。

 

 そうして話が(まと)まった所で、不意にユウキが疑問の声を上げた──「でもどうして? 何で急にゲーム攻略に挑もうって思ったの?」と。

 正直に言えば、其れは俺も気になっていた事だった。何故戦う事を……死ぬ事を恐れて宿屋に籠っていたアスナが、安全な《はじまりの街》を飛び出して攻略に挑もうと思ったのか。

 正確に言えば、『何が』彼女を攻略に挑む様に(ふる)い立たせたのか。……きっと有る筈なのだ。俺の『妹達を現実世界へと返してやりたい』という思いの様な、死の恐怖を上回る様な強い『何か』が。

 

 ユウキからの問い掛けに、アスナは理由(『何か』)を答えてくれた。

 

 ──曰く、あの男に弱っている自分を見せて(よろこ)ばせたくはない。あの男が支配する此の世界には負けたくない。そして、絶対に此のゲームをクリアして、あの男の罪を白日の(もと)に晒してやるのだ。……と。

 

 アスナの言葉から察するに、『あの男』というのはGM──茅場 晶彦の事を指しているものだと思われる。……若しかしたらGMは茅場ではない可能性が高いのだが、其れは飽くまでも俺の推測だ。彼女が額面通りに『GM = 茅場』だと受け取っているのであれば、『あの男』というのは茅場の事である筈だ。

 それにしても、此処まで嫌悪感(けんおかん)(いだ)かれているとか……茅場は彼女に何かしたのであろうか? そもそもにして、彼女と茅場は知り合いなのだろうか……。

 なんて事を思っていたのは、どうやら俺だけではなかったらしい。ユウキもまた『あの男 = 茅場』という推測に至った様で、茅場との関係についてをアスナに問うた。

 しかし、アスナの口から返って来た応えは、俺達が思っていた様なものではなかった……。

 

 

 

 

 

 ──え? えっと……どういう事? わたしと茅場 晶彦との間には何の関係も無いんだけど?

 

 

 

 

 

 茅場とは無関係──困惑の色を含んだ様な声音で語った彼女の其の言葉に、俺は思わず足を止めて振り返った。……ただし其れは、君こそ何を言っているんだ、という『困惑』の念からではなく、まさか……、という『驚き』の念からだ。

 ユウキもまた足を止めてアスナを見ており、此方は『困惑』の色を其の顔に浮かべていた。

 そして、アスナこそ何を言ってるの、と言わんばかりに問い掛けた。「此の世界を支配してるって事は、『あの男』ってGMの事だよね。GMって茅場 晶彦だねよ。だから『あの男』って茅場の事だよね」と順を追って確認する様に。

 そんなユウキの問い掛けを聴いたアスナはというと、「あ、そっか。わたしと(みんな)とじゃGM(ゲームマスター)に対する認識が違うんだった」と、自分とユウキとで話が()み合っていなかった事に合点がいった様子。……そんなアスナの(つぶや)きを耳にした俺の中で、彼女に対して(いだ)いていた推測が愈以(いよいよもっ)て確実なものとなった。

 そして……彼女は(つい)に、その衝撃的(しょうげきてき)な内容を告げたのであった──。

 

 

 

 

 

 ──信じて貰えないかも知れないけど……あのGM(ゲームマスター)の正体は、本物の茅場 晶彦じゃないの。

 

 

 

 

 

 で、此の発言に対するユウキの反応が、先の絶叫という訳である。

 ……其の気持ちは解るが、まだ此処《迷宮区》の中なんですよね。モンスター呼び寄せちゃいますよ。

 という訳なので、俺は二人に移動の再開を促し、先行して歩き出す。

 

 それにしても驚いた。まさか、俺以外にもGMの正体を疑っている奴が居たとは。……いや、俺の場合は確信には至らなかったのに対して、アスナの場合は違うと断言しているので、少し違う……のか。

 

「ちょ、ちょっとリョウヤ! アスナの話聴いてた!? GMの正体が茅場じゃないって言ってるんだよ! なのに何でそんなに落ち着いてるのさッ!?」

 

 そんな俺の心中など分からないユウキには、俺がアスナの話を聴いても冷静でいる様に見えたらしい。其れがユウキ的には見過ごせないものだった様で、若干取り乱し気味に何故なのかと問うて来た。

 まあ、衝撃的な話を聴いて落ち着いていられるというのは不思議な……理解し(がた)い事なのかも知れないが、だからと言って取り乱してしまうのもどうなのかと思う。

 

「ん? ああ。実の所、俺もGMの正体の事は疑ってたからな。だから、アスナの話聴いても、やっぱりそうだったのか、ってくらいにしか思わなんだ」

 

「え、ええッ!? そうだったの!? ……でも、だったら何でボク達にも教えてくれなかったのさ!?」

 

「俺の場合は確信には至ってなかったからな。ただの憶測にしか過ぎない情報を話す訳にもいかんだろ。……そもそもにして、GMの正体が茅場じゃないと知った所で事態が好転する訳でもないんだから、ぶっちゃけ話す必要も無いだろ」

 

「うっ……た、確かに……」

 

 なんて問答をユウキとしていると、今度はアスナが慌てた様子で話し掛けて来た。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ二人とも!」

 

「ん? 何だ?」

 

「その……信じてくれるの? わたしの話を……」

 

 アスナからの問い掛けを聞いて、はたと気付く。俺達は彼女の話を信じる(てい)で問答をしていたが、普通ならば、会って間もない相手の話を簡単に信じたりはしないだろう。

 

「ああ、信じるよ」

 

 それでも俺は、彼女の話を微塵(みじん)も疑う事無く信じた。

 

「な、何で……」

 

「いや、だって……そんな事で俺らを(だま)したって、アスナには何の得も無いだろ」

 

「そ、其れは…そうだけど。……と言うか、GM(ゲームマスター)の正体の事をそんな事って……」

 

「後はまあ、アレだ……アスナが他人(ひと)を騙す様な悪い奴だとは思えないからな」

 

「ッ! ……あ、ありがとう……」

 

 理由を挙げるのであればそんな所だが、一番の理由はアスナの人となりだろう。

 会って間もないから、当然の事ながら彼女の人となりの全てを知っている訳ではない。が、此の短時間で俺は彼女に対して、悪い奴ではない、という印象を(いだ)いた。──信じる理由なんて、其れだけでも充分だと思う。

 

……リョウヤって、若しかして天然のタラシなのかな?

 

「ん? 何か言ったか、ユウキ?」

 

「え? ううん、ナニモイッテナイヨー」

 

 はて? 今、ユウキが何か言った様な気がしたのだが……気の所為(せい)だったのだろうか?

 ……まあ、良いか。其れはさて置いてだ……。

 

「ところでアスナ」

 

「な、何かな、リョウヤ君……?」

 

 何故にちょっと取り乱してるんだよ、とアスナの反応を不思議に思いながらも、だがしかし追究はせずに此方の疑問を(たず)ねる。

 

「茅場の名を(かた)ってるあのGMの正体──お前の言う『あの男』ってのは何者なんだ?」

 

「…………」

 

 ……刹那(せつな)、《迷宮区》内の空気が……いや、俺達の周りの空気が冷たくなった…………様に感じた。……まあ、当然の帰結とも言えよう。だって、彼女……『あの男』って奴に対して相当な嫌悪感を(いだ)いている訳だし。さっき話していた時だって、声音に鬼気迫るものを感じたし。

 何か後ろから「ヒェッ……」って悲鳴(こえ)が聴こえて来た気がしたけど…………多分、気の所為だよな。うん、きっと気の所為だ。……気の所為だと思うから、後ろは振り向かないぞ。決してアスナの顔を見るのが怖い訳ではないのだ。確認をする必要性を感じないから振り向かないだけだ、うん。

 

 ……なんて現実逃避(だれにたいするものともしれないいいわけ)をしていたが、そんな事をしている雰囲気でもない事を思い出し、慌てて思考を切り替える。

 丁度其の瞬間、アスナの口が開かれ、『あの男』なる人物の正体(なまえ)が語られた……。

 

 

 

 

 

 ──其の声音は、重たく、

 

 

 

 

 

 ──其の声音は、冷たく、

 

 

 

 

 

 ──其の声音は、険しく、

 

 

 

 

 

 ──そして、強い『不快』の念が多分に含まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────須郷(すごう)……《須郷(すごう) 伸之(のぶゆき)》──其れが、今此の世界を支配している男の名前よ」

 

 

 

 

 




 

[今回の可能性(もしも)

・GMが須郷 伸之であったら。


──という訳で、此処で『Stage.5』で提示した可能性の答え合わせです。
GMの正体は、SAO屈指のクズ野郎であるあの男──須郷 伸之でした。
……まあ、皆さん気付いていた事でしょうけどね。それでもまあ、一応の答え合わせを。
さてさてさーて、野郎がGMのSAOは、一体どういった展開を迎えるのでしょうか……………………どういった展開を描けるんでしょうかね……。

さて置き。
……思ったよりも縮まってしまったリョウヤとアスナの距離。実の所、此の時点ではまだ此処まで縮める予定ではなかったんですよね。
なんですけど、書いていたらあれよあれよといううちに勝手に縮まってしまいました。……ナニソレコワイ。
……まあ、いっか。どの道アスナも候補の一人でしたし。

──という訳で、今回は此処までです。
ご観覧、ありがとうございました。

 
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