ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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お久しぶりです。

今話は、文字数的には前回までよりも短いです。
……なのに更新までに時間を掛け過ぎているという体たらく。……堪忍な。

という訳で、本編行きましょう。


[11/6]特殊タグを追加しました。

 


Stage.12;優しい人

 

 

 

 

 

 《スゴウ ノブユキ》──。

 其れこそが、本来のGMである(はず)の茅場 晶彦の名を(かた)り、今現在此の世界を支配しているという男の名前だと、アスナは語った。

 

「本物の茅場って人がどういう人なのかは知らないわ。……けど、あの声音はよく知ってる。(いや)って言う程(おぼ)えてる。──アレは、あの男の……須郷の声で間違いないわ」

 

 そして、其れを判断する材料となったものはGMの声音だと言う。

 まあ、チュートリアルの際に現れたGMはローブを(まと)っていた上に、其の中身は何も無い空洞であった。そもそもにして、あの巨人はアバターであるからして、見た目で判断するのは不可能だ。……要するに、判断材料は声音しか無い様なものだ。一人称で判断した俺は少し変わっているのかも知れない。

 さて置き──

 

「……どんだけ嫌な奴なんだよ、ソイツ」

 

 明るく礼儀正しそうな印象を受けるアスナが、此れ程までに嫌悪感(けんおかん)(あらわ)にしている様子から察するに、其のスゴウとかいう男が人間性に難有りである事はほぼ間違い無いであろう。

 そんな奴の話をするのは、彼女にとっては業腹(ごうはら)モノなのかも知れない。

 だが、そいつが黒幕であるという以上、俺達も無関係という訳にもいかないだろう。ともなれば、()しもの時の事を考えて少しでもそいつに関する情報を得ておきたいところ。……そして、其れにはどうしても彼女の協力が必要なのだ。

 彼女の不快を承知の上で(たず)ねてみると、やはり不快の念が()もった声音ではあるが質問にはきちんと答えてくれた。

 

「……あの男は、お父さんの会社の部下の人の息子で、昔から家族同然の付き合いをして来たわ」

 

 ……答えてくれたのは良かったのだが、早々に()いた事を後悔した気分になった。

 人間性に難有りな野郎と時折会う程度であるのならばまだしも、長年家族の様に付き合うとか……率直に言って嫌過ぎる。此れはアスナに対する同情の念を禁じ得ない。

 

「頭は良いみたいだし、人の良さそうな見た目をしている。……けど、其れはあくまで目上の人間が居る時だげ。本性は人を平気で見下して、人を()き下ろす衝動(しょうどう)我慢(がまん)出来ない様な性格をしているわ」

 

「「うわぁ……」」

 

 思わず()らした声は、意図せずして後ろのユウキの声と重なった。(すなわ)ち、ユウキもまた俺と同じ様に、スゴウという奴の事を「相当にイヤな奴」「相当にヤベー奴」という風に認識した、という事なのだろう。

 

「アスナッ!」

 

「ふえっ!? な、なに? ユウキ」

 

「此のゲーム……絶対クリアしようね! そんで、現実世界に戻ったら何としてでも其のスゴウって奴を豚箱(ぶたばこ)にぶち込んでやろうね! ボクにも手伝える事が有れば協力するからさ!」

 

「え? ……あ、うん。そうだね。うん! 絶対にあの男を豚箱にぶち込んでやるぞー!」

 

「おー!」

 

 そんな奴からアスナを助けたい、(まも)りたい、と思ったのだろうか。ユウキの気持ちは激しく(たかぶ)り、燃え上がっている様子だ。

 そんなユウキの気迫に押されてか、アスナは毒気を抜かれた様子であり、其れに(ともな)って張り詰めていた空気が一気に霧散(むさん)した様だ。

 

「まあ、その……なんだ。俺も出来る範囲(はんい)で協力するからよ、助けが必要な時には遠慮(えんりょ)せずに言ってくれ」

 

「ありがとう、リョウヤ君! (たよ)りにさせて(もら)うね! 差し当たっては、SAO(このせかい)での戦い方の指南(レクチャー)をお願いします!」

 

「了解」

 

 ユウキのお(かげ)で明るく、ふわっとした感じとなったアスナに、俺もまた助力する(むね)を伝える。

 俺としても、こんなアスナを嫌悪感丸出しで不快にさせる様なヤベー奴が、此れから先も彼女に近付き続けるのを想像すると、あまり良い気分はしない。

 何よりも、野郎は此のデスゲームをおっ始めやがった黒幕だ。相応に(むく)いを受けて貰わなくては此方の気が済まないというものだ。

 

 という訳だからして、私怨(しえん)を晴らす意味も()ねて、彼女の事情に首を突っ込ませて貰う事にしたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─Asuna side─

 

 

 リョウヤ君は、優しい人だ。

 

 出会って間もないから、当然彼の事なんて何にも知らない。

 だけど、短い時間だけど彼と接してみてわたしは、彼は優しい人だ、と感じた。

 

 先ず始めに、一人でモンスターと戦うわたしの事を気に掛けて、声を掛けてくれた。

 一ヶ月が経ったとは言え、恐らくは満足にステータスや武器の強化を行えていないであろう現状では、多分(ほとん)どのプレイヤーが自分が生き残る事に精一杯で、見ず知らずの他人の事を気に掛ける余裕(よゆう)なんてあんまり無いと思う。

 けれども、リョウヤ君はそうじゃなかった。通り掛かりに見掛けただけでしかないわたしの事を気に掛けて、わざわざ近くまで来て声を掛けてくれた。わたしの主観でしかないけど、此れは優しいと思う。

 声を掛けられた時には(すご)吃驚(びっくり)して、思わず警戒(けいかい)しちゃったけど、今になって思えば、心配して声を掛けて貰えたのは凄く(うれ)しかった。やっぱり一人は心細かったから、誰かが(そば)に居てくれるのは凄く安心する。

 

 次に──此れがわたしの中では一番大きい──、彼はわたしの罪を(ゆる)してくれた。

 わたしは……他の人達が意を決して命()けの攻略(たたかい)に挑もうとしているのに、自分の命()しさに《はじまりの街》の宿屋に籠もって、現実世界(そと)からの救援を待つという安全な選択肢(せんたくし)を選んだ。──其れが、わたしが(おか)した罪だ。

 けれど、此の話を聴いた彼は……「其れは罪なんかじゃない」「間違った事なんて何もしてない」と言ってくれた。──わたしの罪を赦してくれたのだ。

 他人(ひと)の罪を赦してしまえる、というのは『優しさ』以外の何物でもないとわたしは思う。……と言うか、わたしの心を救ってくれた彼が優しくない訳がないのだ!

 

 おまけとばかりに、彼は、あまりの嬉しさから込み上げて来る涙をどうにか(こら)えていたわたしを()き寄せて、文字通りの意味で胸を貸してくれた。

 其れをされた時はいきなりの事に吃驚したし、何が起きたのかも解らなかったけど、其の後に後頭部をぽん、ぽんと何度も優しく叩かれているうちに、彼の行動の意図を(さと)った……彼の優しさに気付いた。──泣いても良いのだ、と彼は行動で示してくれたのだ。

 彼の其の優しさが引き金となって、とうとう感情の抑制(よくせい)が利かなくなってしまい、《はじまりの街》を飛び出して以来抑えていた、『(こわ)い』や『(つら)い』、『心細い』などと言った感情から来る『泣きたい』という気持ちが(あふ)れ出てしまった。彼の優しさに甘えて泣いてしまった。

 後になって物凄く()ずかしい気持ちになった。何せ、初対面の相手……しかも、わたしと同い年くらいの異性(おとこのこ)に甘えて泣いてしまったのだから。…………まあ、お陰で気持ちは大分すっきりしたんだけどね。

 

 ごほん! え、えーと……他には、彼はわたしからの『SAO(このせかい)での戦い方を教えて欲しい』という(たの)みを、(こころよ)く引き受けてくれた事だろうか。

 さっきも言った通り、デスゲームの開始直後、わたしは自分の命惜しさに《はじまりの街》の宿屋に籠もった。──()まる所、わたしは彼が開いてくれた初心者講習には参加していないのだ。……攻略に挑む事を決めた時には、講習は(すで)に終わってしまっていたのだった。

 そんな、折角与えられた機会(チャンス)を一度は棒に振っておいて、後からになってもう一度機会(チャンス)(めぐ)んで欲しいと強請(ねだ)る様な図々しいわたしの頼みを、彼は嫌な顔をせずに引き受けてくれたのだ。彼にだって当然、攻略や、其れに伴う自身の強化などといった都合が有る筈なのに、貴重な時間をわたしの我儘(わがまま)の為に()いてくれようとしているのだ。

 

 もっと言えば、初心者講習の事だってそうだ。

 普通だったら、ゲームオーバーになったら本当に死ぬなんて言われたら、誰だって自分の命を最優先に考える筈。他人の事を気に掛けている余裕なんて一切無い筈だ。

 けれども、リョウヤ君はそうじゃなかった。彼だって本当だったら自身の生存率の向上に専念するべきだっただろうに、自分の生存率が下がる事を承知の上でか、他のプレイヤーを助けるべく初心者講習を開いた。

 右も左も分からない初心者プレイヤーにとって、彼が()った救済措置(きゅうさいそち)がどれ程までに喜ばしい希望であった事か。其れ故に彼らが自分達の救世主とも言える彼の事をを英雄視してしまう……其の気持ちは、充分に理解出来るものだ。

 

 彼にとって、其れらは何を思っての事なのか。当然、其れは彼にしか分からない事だ。

 それでも、其処には多少なりともの優しさが在ったと、わたしは思っている。

 

 まだ有る。

 彼……だけじゃなくて、彼とユウキは、須郷 伸之という名前の男の逮捕(たいほ)に協力してくれると言ってくれた。

 そもそも、いきなり名前が()がった其の男は何者なのかと言うと……詳細(しょうさい)(はぶ)かせて貰い要点だけを言えば、SAOの開発者である茅場 晶彦の名前を騙って今現在SAO(このせかい)を支配している男だ。

 実を言えば、わたしは其の男と現実世界に()いて面識が有る。だからこそ、其の事実に気付く事が出来た。だからこそ、其の事実に気付いているのはわたしだけだと思っていた。……のだけれど、どういう理由でかリョウヤ君も其の事実に気付いていた。正確に言えば、GM(ゲームマスター)の正体に(うたが)いを(いだ)いていたらしい。

 (ちな)みに、GM(ゲームマスター)が茅場 晶彦じゃない事を彼らに伝えた際に、彼らがわたしの話をすんなりと信じてしまった事には吃驚してしまった。わたし自身、簡単に信じて貰える様な話ではないと思っていたから。……だから、わたしの話を疑わずに信じてくれた事はとても嬉しかった。

 そうしてわたしの話を信じてくれただけではなく、彼らはあの男の逮捕に協力してくれると言ってくれた。彼らが協力を申し出る直前に、あの男の人となりについてを伝えたから、多少なりともの同情は有ったのかも知れない。……それでも、彼らが優しい事に変わりはないだろう。

 

 以上が、わたしが彼と出会ってから此れまでの間に感じた彼の優しさだ。

 勿論、此れだけが彼の優しさではないだろう。彼は色んな所で、そして、わたし以外の沢山の人達にも其の優しさを見せているのだろう。

 

 今だってそうだ──

 

 

 

 

 

「本当に、良いの……?」

 

「ああ。我慢も遠慮もしなくて良いんだからな」

 

「……それじゃあ、その…………すみません、先輩。正直、今はまだ自信が無いから、あたしは今回のボス攻略から降りさせて貰います」

 

「了解。ああ、何時(いつ)かは必ず、なんて無理に気負わなくたって良いんだからな、リズ」

 

「あ、あははは……考えを読まれちゃいましたか。……ありがとうございます、先輩」

 

「あいよ。あんまり気にし過ぎるなよ」

 

「……私も、ごめんなさい。……でも、本当にありがとう」

 

「了解。サチもな」

 

 《迷宮区》を出たわたし達は、《迷宮区》から程近い所に在る谷間(たにあい)の町《トールバーナ》へとやって来た。此の町で開かれるという、一回目の《第一層フロアボス攻略会議》に参加する為だ。

 町に到着したわたし達は、先ずは彼が行動を共にしているというパーティーメンバーと合流する事になった。彼とユウキがわたしと接触するに当たって一旦別れ、先行して町へと向かって貰ったのだそうだ。

 マップに表示されるというパーティーメンバーの位置情報を頼りに進む彼らの後に付いて行くと、其処には男女合わせて八人のプレイヤーが居た。

 無事にパーティーメンバーと合流する事が出来たわたし達。其の中で唯一の初対面であるわたしは、リョウヤ君に紹介して貰う形で彼らに挨拶(あいさつ)をした。其れに対して、彼らもそれぞれに簡単な自己紹介を返してくれた。……攻略会議の時間が(せま)っているという事で、きちんとした交流は会議の後でという事になった。

 そうして、では、攻略会議へ向かおうかという雰囲気(ふんいき)になった所で、リョウヤ君は思いもよらない事を言い出したのだ──

 

 

 

 

 

 ──あ、ボス攻略から降りたいって奴は、遠慮なく降りて良いぞ。

 

 

 

 

 

 ……彼の言葉に、わたしは呆気に取られてしまった。多分他の(みんな)もそうだろう。

 だってそうだ。まだ会議(を始める前)の段階であるとは言え、わたし達は勇気を振り(しぼ)り、覚悟を決めてボス攻略に挑もうとしているのだ。なのに、ボス攻略から降りたければ降りても良いなどと、此方の出鼻を(くじ)く様な事を言うのだ。……わたし達の覚悟を()(にじ)られた様な気がして、少しばかり怒りも覚えた。

 

 とは言え、彼がそう言ったのだって、彼なりの考えが有っての事。

 曰く──ボス攻略はこれまでのモンスターとの戦闘とは訳が違う。強さも危険度も、これまでのモンスターの比ではない。だから無理をしなくても良い。……と。

 

 結局の所、彼は優しいのだ。

 彼は、最前線にまで付いて来ているのだからボス攻略に参加するのも当然の事…………という考え方ではなく、重要な場面でも──いや、重要な場面だからこそ──選択肢を与えて、行動の自由を与えて、相手の意思を尊重(そんちょう)しようとしている。──優しいのだ、彼は。

 そんな彼の優しさに甘えて、リズベットさんとサチさんの二人はボス攻略から降りる事を申し出た。……やっぱり、女の子には少しきついよね。

 

 二人の申し出を承諾(しょうだく)した彼は、静かに此方を見詰め続ける。即ち、わたしを含めた残り八人の反応を待っているのだ。

 ……けど、ごめんね。わたしは降りないよ。

 わたしは、もう逃げる様な真似はしないって決めたから。逃げて、罪悪感を(いだ)いて、後悔する──そんな(みじ)めな思いは、もう二度としたくないから。

 

「…………OK。後の奴らは参加って事で良いんだな。…………たくっ。強情だな、オイ

 

 強い決心を胸に(いだ)いて見詰め返していると、(ようや)く彼が口を(ひら)いた。此れ以上待ってももう攻略から降りたい者は居ないのだと、悟ったのだろう。

 ただ、其れを悟った時の彼の表情は、何処か残念がっている様に見えた気がした。(またた)く間に背中を向けちゃったからよくは見えなかったんだけど。

 あと、背中を向けた状態で何かを言った様な気がしたんだけど、気の所為だろうか?

 

「んじゃ、そろそろ行くとしますか」

 

 其れを尋ねる前に、彼は話を先へと進めてしまった。……まあ、良いか。大切な話だったのなら、ちゃんとわたし達に聴こえる様に言うだろう。

 

「リズとサチは自由にやっててくれ。あ、それと、アルゴの奴を見掛けたらとっ(つか)まえといてくれないか…………ちいとばかし大事な話をしたいからよぉ」

 

「ア、ハイ……」

 

「わ…わかった…よ……」

 

 改めて、いざ攻略会議へ──。

 ……そう意識を切り替えたわたしだけど、直後に彼から放たれた軽い威圧感(いあつかん)の様なものに萎縮(いしゅく)してしまった。……え? リョウヤ君……ちょっと(おこ)ってる? な、何で…?

 アルゴさんには何度か会った事が有るけど、基本的には良い人だ。情報関係でお世話になった事も有る。

 そんな彼女が彼に一体何をしたと言うのだろうか…?

 

「頼むわ。……そんじゃあ、改めて攻略会議へ向かうとしますか」

 

「「「お、おー……」」」

 

 彼は直ぐに切り替えて、重たい空気は霧散したけれど、わたし達は状況に付いて行く事が出来ずに困惑(こんわく)するばかりだ。

 

 取り()えず、会議が始まるまでには気持ちを落ち着かせようと考えながら、わたしは彼の後を追い掛けるのであった。

 

 

 

 

 




 

という訳で、後半はアスナから見たリョウヤの人物像を交えながら、話を進めてみました。……物語的には殆ど進んでいないんですけどね。
「アスナさんがチョロ過ぎませんか」って思う方も居ると思いますが、其処は「うーん……そういうものなのかな」といった具合に何卒(なにとぞ)ご理解を。

それでは、今回は此の辺りで。

 
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