ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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「四ヶ月。此処まで、四ヶ月も掛かった……………………さーせんッ!」

 


Stage.13;第一層フロアボス攻略会議(ヒーローズ・アシェイムド・タイム)

 

 

 

 

 

 時刻は、もう(しばら)くすると午後四時になる。

 場所は、《トールバーナ》の噴水(ふんすい)広場……其処から少し(はな)れた所に在る野外ステージ。半円の()(ばち)状になっており、中央のステージを階段状の観客席が囲んでいる。

 

 今此の場には、続々とプレイヤー達が集まって来ている。

 目的は、十中八九(みな)同じの(はず)──(すなわ)ち、此れから行われる《第一層フロアボス攻略会議(こうりゃくかいぎ)》への参加であろう。かく言う俺だって、其の為に仲間達と共に此処に来ているのだから。

 

「……(すご)い。こんなに沢山集まるなんて……」

 

 其の様子を見て、アスナが感嘆(かんたん)の声を()らす。

 ざっと見た感じ、現状此の場に居るのは四十人前後といった所。俺達九人を加えても大凡(おおよそ)五十人くらいだ。

 此のSAOでは、一パーティーの定員が六人であり、其れを八つまで束ねて、合計四十八人の《連結(レイド)パーティー》を作る事が出来るのだ。

 俺はベータテスト時にフロアボス戦に参戦した事が有るのだが、其の時の経験からすると、フロアボスを犠牲者(ぎせいしゃ)ゼロで倒そうとするするのであれば、レイドを二つ作って交代制を()いて戦うのがベストであると思われる。そうすれば、片方のレイドがボスと戦っている間に、もう片方のレイドが安心して消耗(しょうもう)したHPの回復に専念する事が出来る。

 其れを考えると、現状の人数であれば一レイド作る事が出来る為に少なくはないだろうが、安全を考えるのであれば少々心許無(こころもとな)くも思ってしまう。

 

「欲を言えば、もう後一レイド分集まってくれると(うれ)しいんだがな……」

 

「……確かに人数が多い方が良いとは思うけど、あんまり望み過ぎるのも良くないよ。だって、此れがデスゲームになってから初めてのボス攻略なんでしょ? 全滅(ぜんめつ)しちゃう可能性だって有る筈なのに……それでも、其れを覚悟の上で(みんな)集まってくれているんだから」

 

「…………そう、だよな……。悪い、ちょい欲張り過ぎた……」

 

 其の思いが有るが故に、彼女の(つぶや)きに対してつい「もっと人手が欲しい」という本音を返してしまったのだが、其れを彼女に(たしな)められてしまった。

 何度も言うが、今のSAOは《ゲームオーバー = 現実の死》のデスゲーム。HPがゼロになれば本当に死んでしまうのだ。

 そんな状況下に()いて、フロアボスという此れまでの奴らよりも(はる)かに強力なモンスターとの戦闘(せんとう)。当然ながら死の危険性も高くなるし、最悪の場合は彼女の言う通り全滅してしまう可能性だって有る。其れに対する恐怖心だって強くなる筈だ。

 恐怖心に打ち勝つ事はそう容易な事ではない。……けれども、そうと解っていた筈なのに俺は、男性プレイヤーであれば女性よりはまだ、などと男性プレイヤーに対して過度な期待を寄せてしまった。男性であっても怖いものは怖い筈なのに、だ。

 其の所為(せい)で不用意な発言をしてしまった。申し訳なく思う……。

 

「でも、もっと人が集まってくれれば、それだけ安全にボス攻略が出来る、って思ったんだよね?」

 

「……まあ、な」

 

「もう少し集まってくれるといいね」

 

「……だな」

 

 そう思い反省していたら、今度は(なぐさ)めとも取れる言葉を掛けられた。お(かげ)で気持ちが少し軽くなった。

 

 

 

 

 

「う゛お゛ぉぉぉおおおおおい! 首はまだ(つな)がってるみてぇだなァ!」

 

 

 

 

 

 そうして一段落ついたかと思えば、一息つく間もなく新たな物事が降って()くという。

 とは言え、其れは決して面倒な事ではない。(むし)ろ喜ばしいものだ。

 

「お久振りです、スクアーロさん。タケシとクロームも久し振り」

 

 ()き覚えの有る大声の方へと振り向いてみれば、其処に居たのは案の定、相変わらず綺麗(きれい)な銀色の長髪をした長身の男性プレイヤー ──スクアーロだった。

 フレンドリストの名前の有無で彼の生存を確認する事は出来るが、それでもやはり、こうして実際に顔を合わせて無事を確認出来た方がより安心するというものだ。

 此方へと近付いて来る彼の後ろには、彼のパーティーメンバーであるタケシとクロームの姿も在り、俺は彼らにも声を掛ける。

 

「オッス、リョウヤ!」

 

「……元気だった?」

 

「おう。今此の場には居ないリズとサチも(ふく)めて全員無事だし、元気に《迷宮区》を()け回ってるよ。そっちも……相変わらず元気そうだな」

 

 久し振りに再会した事、お互いに無事である事を喜ぶ俺達。

 

「……おい……あの銀髪って……」

「あんな馬鹿デカい声の奴を間違える筈がねえって。ゲーム初日の救済演説(きゅうさいえんぜつ)の時にも(さけ)んでた奴だ」

「やっぱりそうだよな……」

「じゃあ、あいつに声掛けられたダークブラウンの髪の奴って……」

「名前を聴く限り多分そうだ……初心者講習を開いて沢山の初心者(ニュービー)を救った元ベータテスター ──」

「《救済の英雄(えいゆう)》──リョウヤ」

「あいつが……」

 

 そんな俺達の周りに居るプレイヤー達の反応はと言うと──。

 当然というべきか、彼らは突然大きな声を上げて現れたスクアーロに注意を向けており、更には其の彼に声を掛けられた俺にも注意を向けている様子。

 そんな俺達二人は救済演説の件で有名であるらしく、俺達二人の事を話す声が聴こえて来る。

 で、其の中には俺の事を例の《救済の英雄》の二つ名で呼ぶ声も在り、加えて俺の事を英雄視する様な視線まで突き()さって来る訳で……………………めっさ()ずいッ! (ただ)でさえ注目を浴びるのは苦手だと言うのに、俺はそういう風に()められたり見られたりするのは苦手な(たち)だから、今の此の状況はめっさ居たたまれない! お願いですから俺の事をそんな目で見ないで! そんな大層な二つ名で呼ばないで! お()めに為すって!

 

「はーい! それじゃ、そろそろ始めさせて(もら)います!」

 

 そんな俺の願いが届いた為に助けてくれた…………という訳ではないだろうが、パン、パン、と手を叩く音と共に良く通る叫び声──勿論、スクアーロのもの程馬鹿デカくはない──が流れる。それにより、(みな)の注意が俺達から外れて其方へと向くのを感じる。

 意図せずとは言え助けてくれた事を感謝(かんしゃ)しながら、俺もまた実に堂々と(しゃべ)救世主(こえのぬし)の方へと視線を向ける。

 

 視線の先──ステージの中央に立っている、今回の攻略会議の主催者(しゅさいしゃ)(おぼ)しきプレイヤーは、長身の各所に金属製の防具を(きら)めかせた《片手剣》使いの男性だ。

 プレイヤー全員が、デスゲーム開始直後のチュートリアルにて現実の姿にそっくりなアバターへと強制的に変更させられた筈なのだが、それなのに其の顔なのか、と思いたくなる程に彼の顔の造りは(ととの)っている。顔の両側を(あざ)やかな青色の長髪がウェーブしながら流れており、見た目からは(さわ)やかな印象を受ける。

 

 そんな彼の開催(かいさい)宣言に応える様に、立っていた会議参加者達が近場の観客席へと腰掛ける。俺達も同様に観客席へと腰を下ろすと、彼は見た目に(たが)わない爽やかな笑顔を浮かべて喋り始めた。

 

「今日は、オレの呼び掛けに応じてくれてありがとう! オレは《ディアベル》、元ベータテスターだ! 職業(しょくぎょう)は気持ち的に《ナイト》やってます!」

 

 青髪の片手剣使い──改め《ディアベル》の言葉に、集まったプレイヤー達がどっと()いた。

 胸と肩、腕と(すね)をブロンズ系防具で(おお)い、左腰には大振りの直剣、背中に背負っているのはカイトシールドと、彼の装備(そうび)所謂(いわゆる)ナイト系装備と言えなくもないものだ。……だが残念ながら、SAOでは《騎士(ナイト)》や《勇者》といった《(クラス)》は寡聞(かぶん)にして聞いた事は無い。

 元ベータテスターであるのならば(なお)の事知っているであろう其の事を、恐らく彼は()えて冗談としてかましてくれたのであろう。お蔭で、重要な会議という事で緊迫(きんぱく)していあ場の空気が和やかになった。

 (つか)みは上々といった所だろう。此の事から、彼には主催者としての高い適性が(うかが)える。加えて元ベータテスターであるという事から、指揮官としての腕も期待出来るだろう。

 

「さて、こうして最前線で活動している、言わばトッププレイヤーの(みんな)に集まって貰った理由は、もう言わずもがなだと思うけど……」

 

 さて、ディアベルが開始早々から冗談をかましてくれたお蔭で(なご)やかな雰囲気(ふんいき)で始まった攻略会議であったが…………彼の表情が(たちま)ちに真剣なものへと変わった事で、場の空気も再び緊迫したものへと切り替わった。

 再三言うが、今のSAOは文字通りの命()けのゲームだ。時には(ゆる)める事も必要だが、()めるべき所ではきちんと緊めなくてはならない。──でなければ、一つ間違えるだけで何もかもを失う破目になり()ねないのだから。

 

「……今日、オレ達のパーティーが、あの(とう)の最上階へ続く階段を発見した。()まり、明日か、(おそ)くとも明後日には、(つい)辿(たど)り着くって事だ。第一層の……ボス部屋に!」

 

 そうした緊迫した空気の中でディアベルから告げられた言葉に、プレイヤー達が(ざわ)つく。

 そりゃそうだ。果てしなく遠い第百層(ゴール)へと辿り着く為の第一層攻略(だいいっぽ)……其れがいよいよ目前に迫っている。(ようや)く希望の光が見えたのだ。(たかぶ)らない訳が無い。

 

「一ヶ月。此処まで、一ヶ月も掛かったけど……それでも、オレ達は、示さなきゃならない。ボスを倒し、第二層に到達して、此のデスゲームそのものも何時(いつ)かきっとクリア出来るんだって事を、《はじまりの街》で待ってる(みんな)に伝えなきゃならない。其れが、今此の場に居るオレ達トッププレイヤーの義務(ぎむ)なんだ! そうだろ、(みんな)!」

 

 集まったプレイヤー達へ向けて、己が考えるトッププレイヤーとしての責務(せきむ)を力強く語るディアベル。そんな彼の言葉に、ステージの其処彼処(そこかしこ)拍手喝采(はくしゅかっさい)が沸き起こる。

 彼の言葉は素直に(うなず)けるものであり、其れによって集まったプレイヤー達の士気を高めている辺り、彼のリーダーシップは非の打ち所が無いものだと言えるだろう。此れならば、ボス攻略は上手く行く……そんな気さえして来る。

 

 そんな(たの)もしいリーダー・ディアベルが、「それじゃあ……」と言って会議を続けようとした時だった──

 

「ちょお待ってんか、ナイトはん」

 

 突然低い声が流れ、プレイヤー達の歓声がぴたりと止まる。

 何事かと思っていると、静まり返ったステージの中、一人のプレイヤーが観客席から立ち上がった。小柄ながらもがっちりとした体格の男性であり、背中にはやや大型の片手剣を装備し、サボテンの様に(とが)った特徴的(とくちょうてき)なヘアスタイルをしている。

 彼はゆっくりと観客席を下りて行き、ステージ中央に立つと、観客席の方へと振り向いてから口を開いた。

 

「わいは《キバオウ》ってもんや。此の場を借りて、どうしても言わせて貰いたい事が有る」

 

 中々に勇猛(ゆうもう)そうなキャラネームの片手剣使いの声音からは、名前とは裏腹に()み付く様な雰囲気は感じられない。

 はて、ならば彼の言いたい事とは何なのだろうか、と思っていると、彼は何故か観客席を上って来るではないか。と言うか、また上って来る()もりだったのならば、態々(わざわざ)下りずとも其の場で発言しても良かったのではないか、とも思うのだが…………まあ、其処はやはり、礼儀(れいぎ)として、という事なのだろう。割と律儀(りちぎ)な人物の様だ。

 ……などと少しずれた事を考えている間も、彼はどんどん上って来る…のだけれども……………………アレ? 気の所為だろうか、真っ直ぐ俺達の居る方に向かって来ている様な気がするのだが?

 

「ジブンがリョウヤはんで間違い無いやろか?」

 

 ……気の所為ではなかった。と言うか、目的地は俺達の(もと)でした。

 彼は俺達の前までやって来ると、大阪方言で俺に名前の確認をして来た。何で俺の顔と名前を知っているんだ、という疑問(ぎもん)は……まあ、()くまでもない事だろう。

 さて。やはり彼の声音からは敵意は全く感じられないので、正直に答えても険悪な事態になる事は恐らく無いだろう。であるのならば、誤魔化(ごまか)す必要も無い。なので俺は、素直に「そうですが」と肯く。

 

「ほんなら、スマンけど一緒に来てくれへんやろか」

 

 そうすると、楽観的な予想は当たって険悪な事態にはならずに()んだが、其の代わりに同行を求められた。

 彼の様子を()まえれば、着いて行っても何も問題は無い様に思える…………のだけれども、注目を浴びるのが苦手な俺としてはあまり気は進まない。いやまあ、今の時点でも充分に注目を集めているのかも知れないけれども。……あと、何となくではあるが……別の意味で(いや)ーな予感がする。

 かと言って、高が個人的な感情(ごと)きで同行を(こば)んで此方の印象を悪くしてしまうのもあれなので、俺は「……分かりました」と(うなず)き、気を良くした様子の彼の後に付いて観客席を下りる。

 やはり浴びせられる周囲からの視線に気恥ずかしさを覚えながらも下りて行き、彼と並んでステージ中央に立った所で、彼はいよいよ其の思いの(たけ)を語り出した──

 

「ベータ上がりの連中に礼を言わせて貰いたい──わいら初心者(ビギナー)を助けてくれて、ありがとう!」

 

 ──其れは、感謝だった。

 彼は、観衆(かんしゅう)の面前に於いて堂々と頭を下げて、元ベータテスター達に向けての感謝の言葉を()べた。

 感謝の念を伝える為に、一個人の意思でこうして行動を起こし、(あまつさ)え観衆の面前に於いて堂々と頭を下げる其の姿勢(しせい)には、脱帽(だつぼう)の念を禁じずにはいられない。──先の律儀さと言い、此のキバオウという人間はかなりの人格者なのだろう。

 

「特に、こんクソゲームが始まった其の日に初心者講習を開いてくれたリョウヤはん……ジブンには、ごっつう感謝しとる。ホンマにありがとう!」

 

 だからだろうか……(ほとん)ど私欲の為に行動を起こした俺が、彼から謝辞(しゃじ)を述べられる事には、気恥ずかしさよりもむず(がゆ)さやら、申し訳なさを覚えてしまう。

 

「い、いえ……自分は、その……ゲーム攻略の為の人手欲しさに行動を起こしただけで、其処まで感謝される筋合いは……」

 

「君はそう思うかも知れないけれども……それでも、君が行動を起こしてくれたお蔭で、オレを含めた他の元ベータテスター達も動く事が出来た。……正直、君が動いてくれなかったら、オレは元ベータテスターである事を名乗り出る事は出来なかったと思う」

 

 そんな思いから、行動を起こした理由を素直に告白し、謙遜(けんそん)してしまうのだが、此処で今まで静かに俺達の話を聴いていたディアベルが口を(はさ)み、俺の言葉に異を(とな)えた。

 

「それに、君が動いた結果沢山の人達が救われたのは事実だ。だからこそ、全プレイヤーを代表してお礼を言わせて欲しい──リョウヤ君、本当にありがとう!」

 

 そして、彼もまた頭を下げて俺に謝辞を述べる。そんな彼に()られる様に、観客席からも「そうだぜ」「ありがとな」「感謝してるぞ」と謝辞と拍手が沸き起こる。

 ……やはりむず痒い感じはするものの、自分のした事が(みな)に感謝されている事を知るというのは、ちょっぴり…嬉しくもある。

 

 ……けど、やっぱり言わせて欲しい──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──めっちゃ恥っずい!!

 

 

 

 

 




 

という訳で、年の瀬に投稿となりました。
キリのいい所まで、という事で、思い付く限りの内容を詰め込んだものの、今回も文字数は6,000字台と少なめ(?)となりました。


内容の方は──

・参加プレイヤーの人数が増えていたり
・ディアベルが元ベータテスターである事を名乗っていたり
・キレイなキバオウさんだったり

……と、初心者講習の影響(えいきょう)考慮(こうりょ)しての変更となっています。
(『可能性』と言う程の変更でもないので、さらっと紹介しました)


さて、長らくお待たせ致しましたが、此の辺りでいよいよ大分前から(ほの)めかせていた《彼ら》の登場となります。
自分の語彙力(ごいりょく)・文才で何処まで彼らを活かす事が出来るのか分かりませんが、ともあれ頑張って描いてみたいと思います。


それでは皆さま、また次回!
(ちな)みに、タイトルに振られたルビの『アシェイムド』は、英語表記だと『ashamed』となります。

 
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