ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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お待たせ致しました。
前回の投稿から約5ヶ月…………早かったり、遅くなったりで申し訳ないです。
文章力・表現力・語彙力・アイデアが思う様に湧き出さないと執筆を投げ出して、他の事に意識が向いてしまう…………そんな悪癖(あくへき)持ちの作者ではありますが、何卒(なにとぞ)温かく見守って下さい。

それでは、そろそろ本編の方へ参りましょう。
例の如く、ルビ振りの傾向がバラバラかも知れませんが、何卒ご容赦(ようしゃ)下さいませ。

 


Stage.16:姉として、妹として

 

 

 

 

 

 攻略会議は続く…………と言うよりも、此処からが本格的な会議の始まりだ。

 

「それじゃ、早速だけど、此れから実際の攻略作戦会議を始めたいと思う! 何はともあれ、レイドの形を作らないと役割分担出来ないからね。(みんな)、先ずは仲間や近くに居る人と、パーティーを組んでみてくれ!」

 

 ディアベルの号令で、参加者が一斉に動き出す。

 最終的に集まった攻略参加者の人数は、総勢七十人。SAOに()ける一パーティーの最大人数は六人なので……単純に考えれば、六人パーティーが十一組と、四人パーティーが一組出来る計算だ。

 リズとサチの二人を呼べば総勢七十二人となり、六人パーティーをぴったり十二組作る事が出来る。……が、生憎と其れをする心算(つもり)は無い。俺は彼女達の意思を尊重する事にしている。どうしてもという状況でもない限り、俺自身の意思を曲げ、彼女達に意思を曲げさせてまで、彼女達をボス攻略に参加させる心算は無い。

 他にも、彼女達を呼ばない理由は有る。彼女達がボス攻略に参加した場合……俺達のパーティーは十一人になってしまう。六人パーティーに拘るのであれば何処からか一人連れて来なくてはならないのだが、そんな都合良く一人(ソロ)のプレイヤーが居るとも限らない。……六人に拘らなければ特に問題は無いだろうし、(むし)ろ其方の方がパーティー数が増えて都合が良いかも知れない。

 

 まあ、仮定(たられば)の話だ……。

 そんな事よりも、当座の問題に意識を向ける。

 俺達のパーティーは九人。戦力を均等に分けるのであれば、五人と四人で分かれるのがベストであるだろう。其の場合、問題となるのは四人パーティーの方だ。戦えない訳ではないとは思うのだが……やはりと言うべきか、心元無さを禁じ得ないのだ。

 出来る事ならば、最低でも一人は欲しいところなのだが、はてさて──

 

「おっ、丁度十二人居る事だし、俺達でパーティー組もうぜ、リョウヤ!」

 

 ──どうしたものか、という悩みは、今回もまた俺達の(そば)に座していたスクアーロのパーティーのタケシによって、秒で解消される事となった。

 彼からの提案を断る理由は特には無く、(むし)ろ此方としては好都合。他の面々に視線を向けてみても、彼らもまた異論は無い様子。そう言う訳で、俺達のパーティーとスクアーロ達のパーティー ──計十二人で六人パーティー二つを作る事になった。

 メンバーの振り分けは、武器や男女などのバランスを考慮(こうりょ)した結果──

 

 

 

 

 

《グループA》

リョウヤ、シリカ、ユウキ、ラン、テツオ、ササマル

 

《グループB》

スクアーロ、タケシ、クローム、アスナ、ケイタ、ダッカー

 

 

 

 

 

 ──といった具合に分かれる事となった。

 

 (しばら)くすると、他のプレイヤー達もパーティーを組み終わった模様。結果として、六人パーティーが十組、五人パーティーが二組出来上がった。

 合計十二組のパーティーを検分したディアベルは、最小限の人数を入れ替え、目的別の部隊へと編成(へんせい)した。勿論、編成は俺達二グループの間でも行われ、テツオとササマル、アスナとダッカーが入れ替わる事となった。

 そうして編成した十二組を、六組ずつに分けて二つのレイドを作った。俺達二グループは、ディアベルの計らいなのだろうか、同じレイドに割り振られた。

 

 だがしかし、此処で一つ問題が生じた。

 どう言う訳なのか、俺が一方のレイドのレイドリーダーに推薦(すいせん)されてしまったのだ。しかも、他のプレイヤー達からの異議の申し立てが上がる様子が全く無い。それどころか、(みな)此の意見に納得している素振りすら見られた。

 レイドリーダーに推薦された事や、其れに対する賛同的な場の雰囲気に戸惑いながらも、推薦した理由について(たず)ねてみると、元ベータテスターである事と、救済演説や初心者講習の件による俺に対する他のプレイヤーからの信用度合い……以上の二点が挙げられた。

 まあ、信用されている点については嬉しく思う。

 だがしかし、生憎と俺は、指揮能力が高いとは言えない。コミュニケーション能力の低い俺は、こういった集団戦闘では専ら指示を受けて行動する側だ。

 なので、指揮能力が高くない事を理由に暗にレイドリーダーを辞退したい、という(むね)を伝えた……のだが、其の瞬間、俺と同じレイドに割り振られたプレイヤーの大半が、何気に視線を()らしていた。面倒事は御免だ、体よく押し付けてしまいたい、と言わんばかりの彼らの態度には、若干の(いきどお)りを覚えた。

 更に追い討ちを掛けるかの如く、「それなら、尚の事一度経験しておくべきだよ。此れから先、必要になる場面が有るかも知れないからね」「安心しろ。()しもの時は俺がフォローしてやる」と、ディアベルとスクアーロから説得をされてしまう始末。ディアベルの其れに至っては、俺の将来性を期待しているかの様な物言いだ。

 其処まで言われてしまっては、どうにも断り辛い。……なので俺は、腹を(くく)ってレイドリーダーの任を引き受ける事にしたのだった。

 

 其の後は、各パーティーの役割分担、ボス攻略でドロップしたコルやアイテムの分配方針、ボス攻略の日時などの確認となったが、其れら全ては滞りなく決まった。

 尚、ボス攻略の決行は翌日ではなく、二日後という事になった。ディアベル達のパーティーが、《カタナ》スキルのクエストを受けていない事が理由として挙げられ、此れには誰一人として異議を唱える事はなかった。知識を頭に詰め込んでおくだけなのと、実際に戦って経験するのとでは、動き方は全く違ってくるというものだ。

 

 そんな感じで、二回目のボス攻略会議は終了・解散となった。

 会議終了後は、今度は同じパーティー・レイドとして組む事になったスクアーロ達を(タケシがやや強引に)誘って、親睦会(しんぼくかい)名義の食事会を行ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日。

 ボス攻略の為に組んだパーティーの連携の確認と、ボス攻略前最後の《カタナ》スキルの対策強化の為に、俺達は再度《カタナ》スキルのクエストへと挑んだ。

 とは言え、連携の確認に関しては、主にスクアーロ達のパーティーにとって必要な課題だ。

 スクアーロ達三人と、ケイタ達三人は双方共に面識が有るものの、此れまでにパーティーを組んで戦闘を行った事は一度も無い。やはり、実際に戦って連携を確認しておくのと、そうでないのとでは、本番での動きが全然違ってくると思うのだ。

 そして、此れまでのモンスターとは違い、即席のパーティーでどうにか出来る程、ボスは甘い相手ではない。本物の命が()かっているともなれば、尚の事連携は必要不可欠だろう。

 

 そんなスクアーロ達のパーティーの一方で、俺達のパーティーはと言えば──

 アスナを除いた五人が、一ヶ月近くもの間共に戦い続けて来た訳であり、充分な程に連携は取れていると思われる。新参のアスナに関しても、前日一日の共闘で、思いの(ほか)俺達との連携は取れる様になったと思われる。──(すなわ)ち、俺達のパーティーの連携は大凡問題無いだろう。

 だからと言って、慢心は禁物だ。ほんの(わず)かな慢心からでも危機的状況が生まれる可能性は大いに有る。本物の命が懸かっている現状に於いての其れは致命的であり、何が何でも()けなくてはならない。

 念には念を、『石橋を叩いて渡る』精神の(もと)、俺達もしっかりと連携の確認を行う事となった。

 

 そうして、午前中いっぱいを連携の確認と《カタナ》スキル対策に(つい)やした俺達は、昼休憩の為に一度《トールバーナ》の町へと戻った。

 SAOに於いて、絶食によって餓死(がし)するという事は無いのだが、一度感じた空腹感は食事をしない限り消える事は無い。其れが長く続けば集中力が切れてしまい、戦闘中に於ける集中力の欠如は命取りだ。

 そんな訳で昼食を摂った俺達は…………前日は午後からも《カタナ》スキルのクエストに挑んでいたのだが、此の日の行動は違った。

 先ず、《鍛治(かじ)》スキル持ちのリズに、スクアーロ達を含めた俺達全員の武器を()いで貰った。

 

 リズの《鍛治》スキルは、彼女がどんな形であれ俺達の役に立ちたい、という思いの(もと)に取得し、攻略の合間にコツコツと(きた)えていた製造系のスキルだ。

 SAOには、《片手剣》や《カタナ》などといった戦闘系スキルや、《索敵》や《隠蔽(ハイディング)》などといった補助系スキルの他にも、《鍛治》や《裁縫(さいほう)》などといった製造系のスキルも在るし、果てには《料理》や《釣り》などといった日常系のスキルまで存在している。下手をしたら仮想世界で生活をする、なんて事も可能だ。……現状では、そんな余裕なんて(ほとん)ど無い訳だが。

 話を戻すと……彼女が《鍛治》スキルの取得に()み切ったのは、彼女が自身の戦闘の実力に迷いを覚えた際に、俺が其の手の選択肢(みち)を示したからだ。以降、彼女は攻略に付いて来れるだけの実力を付ける(かたわ)らで、俺達のサポートの為にと《鍛治》スキルを鍛える様になった。スキルの熟練度を上げたら、何れは鍛冶屋として店を構えるのだと意気込んでいる。

 サチも、戦闘に関して思い悩んでいる様で、製造系スキルを取得して俺達のサポートをする心算でいるらしい。ただ、今は()だ何をしたら良いのか判らないらしいので、焦らずゆっくり見付ければ良いと伝えておいた。

 

 ところで、何故昼のうちから武器を研いで貰ったのか、と思うだろう。午後からも戦闘を行うのであれば、無意味な行動だと思われるだろう。

 勿論、理由は有る。──ボス攻略に参加しないリズとサチには、《はじまりの街》へと戻って貰うからだ。

 何故二人を《はじまりの街》へと戻すのかと言えば、其れは先を見()えての事──ボスを攻略した後、直ぐに合流出来る様にする為だ。

 

 上層と下層を行き来する方法は二つ。

 一つは、《迷宮区》を上り下りする方法。……ただし、此の方法だと移動に時間が掛かるし、道中ではモンスターと遭遇(そうぐう)してしまうだろう。そうなると、余計に時間が掛かってしまうだろう。

 ボス攻略の後に其の様な余計な時間と労力を費やすのは、正直に言えば御免(こうむ)りたいところだ。

 

 そしてもう一つは、《転移門》を使うという方法だ。

 此の方法であれば、一瞬にして上層と下層とを行き来する事が出来るのだ。……ただし、此方の方法にも欠点が有る。其れは、《転移門》は其の層の主街区にしか無い、という点だ。

 ボス攻略の後、長い時間を掛ける事なく合流する事が出来るが、其の為には一度《はじまりの街》へと戻らなくてはならない。

 

 何方の方が楽かを考えた結果、俺は後者を選ぶ事にした。

 ただ、幾らレベルを上げたからといっても、二人だけで《トールバーナ》から《はじまりの街》までの長い距離を歩かせるのは少し心配なので、俺も同行する事にしたのだ。其れに(ともな)い、俺が《トールバーナ》と《はじまりの街》とを往復する時間を考慮して、午後の早いうちに《トールバーナ》を出発する事にした。──其れ故に、昼の内から武器を研いで貰ったという訳だ。

 ただし、此れらは翌日のボス攻略が成功する事を前提にして考えられたものだ。失敗した場合の事に関しては、其の時の状況次第で決める事にする心算である。……要するに、問題の先送りである。

 

 ともあれ、リズとサチを《はじまりの街》へと送り届ける事にした俺だが、此の送迎には一人助っ人を頼んだ。

 其の助っ人というのは……ランだ。と言うのも、彼女とは少し話したい事が有るからだ。

 そんな訳で、残りのメンバーには自由行動を告げ、ランと共にリズ達の送迎に出た。

 

 結果だけを言えば、俺達は無事にリズ達を《はじまりの街》へと送り届ける事が出来た。

 道中の戦闘で軽く消耗した武器を再度研いで貰い、翌日のボス攻略の成功と無事を約束してリズ達と別れた俺達は、《はじまりの街》の出入り口へと差し掛かっていた。

 

 

 

 

 

 ──俺は、此処でランへと話を切り出した。

 

 

 

 

 

「なあ、ラン」

 

「あ、はい。何ですか、リョウヤさん?」

 

「今のうちに、話しておきたい事が有るんだ」

 

「そう言えば、《トールバーナ》を出る前に、後で話したい事が有るって言ってましたね。何でしょうか?」

 

 ランからの問い掛けの言葉を聴いた直後、俺はランの事をしっかりと見詰める。其れに伴って俺の表情が変わったのだろうか、其れを見たランの表情が少し固くなる。

 あまり緊張感(きんちょうかん)を与え続けるのも可哀想であるし、ゆっくりしていられる時間もそれ程長くもないので、早々に本題へと移る事にする。

 

「……正直に答えて欲しい」

 

「……はい」

 

「……明日のボス攻略……降りる気は、本当に無いのか?」

 

「…………え?」

 

 俺が彼女に話しておきたかった事──訊いておきたかった事というのは、明日のボス攻略への参加の意思…………いや、攻略から降りる気は無いのかの確認である。

 今更何を言っているんだと思われるだろう。何せ、昨日確認を取った際に、彼女は攻略から降りる事を選ばなかったのだから。実際、彼女は俺が何を言っているのか理解出来ない様な表情を浮かべており、自身の意思を今一度伝えて来た。

 

「と、突然何を言い出すんですか、リョウヤさん? わたし……昨日の確認の時に、ちゃんと『参加』の意思表示をした筈ですよ」

 

「……けど、其れはユウキの手前、姉として情け無い姿を見せられなかったから、だろ?」

 

「……ッ!?」

 

 気丈に振る舞っていたであろう彼女だったが、俺の指摘によって図星を突かれた様で、其の表情に動揺の色を浮かべる。

 

「あ、あははは……気付かれちゃってましたか……」

 

「そりゃあね。何せ、俺は君と同じく、上の兄姉(きょうだい)だからね」

 

「……そう、でしたね……成程です……」

 

 俺が彼女の心境を押し測る事が出来たのは、俺と彼女が同じ境遇──即ち、上の兄姉(きょうだい)であるが故だ。

 俺が挙げた根拠に納得している様子の彼女に、俺は早急(さっきゅう)に先の質問に対する答えを求める…………のではなく、別の角度から彼女の本心に切り込んで行く方針に切り替える。

 

「上の兄姉(きょうだい)ってのは、辛いよなぁ」

 

「……え?」

 

「だってそうだろう……自分がどんなに怖くて不安でも、どんなに逃げ出したくても、下の弟妹(きょうだい)が居る手前じゃ不安にさせない為にも、弱音なんて吐けないんだからさぁ」

 

「あ、あははは……そう、ですね……ええ、本当に、上の兄姉(きょうだい)というのは割と辛くて、損な役回りですよね」

 

 俺の、(なか)愚痴(ぐち)る様な思いで口にした上の兄姉(きょうだい)としての境遇に、共感の意を示してくれたラン。

 ……しかし、共感を求めて話した手前、彼女が共感の意を示してしまった事には、悲しさを覚えてしまう。

 彼女は自分の事を姉だと言ってはいるが、ユウキとは双子の姉妹──明確な上下関係は存在しないのだ。加えて、彼女はまだ少し幼いだろうし、何よりも女の子だ。

 まだ年端(としは)も行かないであろう女の子が、自分と全く歳の違わない妹を不安にさせない為に、自分は不安や恐怖を押し殺し、涙を流さずにいるなど、俺からすればあまり気分の良い話ではない。……結局の所は、また俺の快・不快(エゴイズム)でしかないのだ。

 そうだとしても、俺は彼女を助けてあげたいと思っている。其の小さな身体に抱え込み過ぎて壊れてしまわない様に……彼女がもう涙を(こら)えなくても済む様に、と。

 

「だったらさぁ、ラン──」

 

 だからこそ、俺は彼女へと手を差し伸べる──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──俺の、妹にならないか?」

 

 

 

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ……………………。

 

「……………………え?」

 

 ……表現が(いささ)飛躍(ひやく)し過ぎた所為か、呆気に取られた様な反応を返される結果となってしまったが。

 

「ごめんごめん……表現がちょっと飛躍し過ぎたね……。えーっと……詰まり、俺が何を言いたいのかと言うと……俺の事を本当の兄だと思って甘えてくれても良い、って事だよ。

 ランにはさぁ、『自分は上の兄姉(きょうだい)だからしっかりしなくちゃいけない』って意識が有るんだと思うんだけど、其の所為で、弱音を吐く事を良しとしていないんだと思う。──だから、俺がランの兄の様な存在になる事で、ランが他人に甘えられる様に……弱音を吐く事が出来る様にしてあげたいんだ」

 

「……成程、そういう事ですか。確かに、ちょっと……ちょっと? 表現が飛躍し過ぎていますね……」

 

 なので、俺が本当に伝えたかった事を詳細に話すと、彼女は呆れた様な表情を浮かべながら、今度は理解する事が出来たと告げる。

 ……ただ、何故自分が情を掛けられているのかは、理解出来ていない様子だ。

 

「……でも、どうしてですか? リョウヤさんは、どうしてそんなにも私に優しくしようとして下さるんですか?」

 

「其れはさぁ、ランがまだ幼い女の子だからだよ」

 

「私が、幼い女の子だから…ですか?」

 

「そう。ランはユウキのお姉さんなのかも知れないけど、其れ以前に一人の幼い女の子だ。ランくらいの幼い女の子なら、現状に不安や恐怖の念を(いだ)いて(しか)るべきだと思うんだ。……だけど、ランは其れらを押し殺して気丈に振る舞おうとしてる。でも、そんなのは何時までも続く訳がない。ランの小さな身体じゃ、何時か不安や恐怖を抱え込めなくなって、姉としての重圧に耐え切れなくなって壊れちゃうよ。──だから、そうならない様に助けてあげたい……そう思ったんだ」

 

 彼女からの問い掛けに対し、俺が彼女の事を心配している事を理由に答えれば、彼女は困った様な表情を浮かべながら尚も俺に問い掛けて来た。

 

「……良いんでしょうか? 私…姉なのに、他人に甘えてしまって……弱音を吐いてしまっても良いんでしょうか…?」

 

「良いんだよ。下の弟妹(きょうだい)の手前じゃ不安にさせない為に弱音を吐けない、ってだけで、上の兄姉(きょうだい)が弱音を吐いちゃいけない、って訳じゃないんだから。……若しも、ランが弱音を吐く事を否定する様な奴が居るなら、俺がそいつを否定してやるよ」

 

「……ッ! ……その……ありがとう、ございます……」

 

 自身が他人に甘える事を、弱音を吐く事を尚も躊躇(ためら)う様な、けれども何処か俺に(すが)るかの様な……そんな彼女からの問い掛けに、俺は透かさず『()』と返す。

 そうすると、彼女は不意に俺に抱き付いて来た。

 突然の事に一瞬(おどろ)いたものの、直ぐに彼女が求めている事を理解した俺は、静かにメニューを操作して、ブレストプレートを解除した。そうすると、其れに気付いたランは一層身体を密着させて来た。

 

「……すいません……早速で申し訳ないですけど……少しだけ、甘えさせて下さい」

 

「うん、構わないよ」

 

 アスナにした時の様に、右手でぽん、ぽんとランの後頭部を繰り返し優しく叩いてあげる。最初は(しゃく)り上げていた彼女だったが、やがてくぐもらせながらも、声を上げて泣く様になった。

 

 ……まったく……俺ってばSAO(このせかい)に来てから、女の子を泣かせてばかりいるなぁ……何やってんだろ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、どうする? 明日のボス攻略……」

 

 思いっ切り泣いて、落ち着いた所で俺から(はな)れたラン。其の表情は、()き物が落ちたかの如くスッキリとしたものであった。

 そんな彼女に、俺は改めて最初の問いを投げ掛ける。最初に質問した時とは違い、今の彼女には別の選択肢──即ち『辞退』を選ぶ心の余裕が生まれている。そんな彼女が選ぶ選択肢は──

 

 

 

 

 

「……申し訳ないですけど……私は、やっぱり明日のボス攻略には参加します」

 

 

 

 

 

 ──まさかの『参加』であった。

 

「……理由を訊いても、良いかな?」

 

「はい。リョウヤさんのお気遣(きづか)いには、凄く感謝しています。……ですけど……私はやっぱり、ユウのお姉ちゃんなんです。あの子の姉は、私だけなんです。──あの子を護るのは、姉である私の役目ですから」

 

 彼女が『辞退』の選択肢を()ってまでもボス攻略に『参加』する事を選んだのは、彼女の上の兄姉(きょうだい)としての自覚と覚悟が理由であった様だ。……どうやら俺は、彼女の事を少し()めていた様だ。

 そんな己の認識の甘さには羞恥の念を(いだ)く一方で、彼女に対しては、上の兄姉(きょうだい)としての意識の高さに尊敬の念を(いだ)く。同じ上の兄姉(きょうだい)として、俺も負けていられない思いだ。

 

「……解った。其処までの強い意志が有るのなら、俺はもう止めたりはしない。──明日のボス攻略…… 一緒に頑張ろう」

 

「はい!」

 

 何はともあれ、其れ程までに強い意志を示されてしまっては、其れを無下にする事など出来ない。故に、俺は此れ以上の彼女への説得を(あきら)め、彼女のボス攻略への参加を認める事に。

 気持ちを一転し、明日のボス攻略に向けて鼓舞(こぶ)する俺の言葉に、勇ましく応える彼女であったが……

 

「……あ、でも……」

 

 唐突に、何やら少しはにかんだ様子を見せるラン。

 

「ん? どうかした?」

 

「…… 一つだけ、我儘(わがまま)を聞いて貰っても…良いですか?」

 

 そんな彼女の変化に、何事かと尋ねてみると、彼女は我儘を一つ聞いて貰えないだろうか、と問うて来た。

 

「構わないよ。遠慮なく言って。可能な限り応える様にするから」

 

 其れに対する俺の返答は『(だく)』だ。折角彼女が俺に甘えてくれようとしているのだから、可能な限り応えてあげたい。

 

「ありがとうございます。それじゃあ──」

 

 俺が承諾(しょうだく)すると、彼女はやはり少しはにかみながらも、意を決した様子で我儘を口にした。其の内容とは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆   ◆   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 

 

「……という訳で、今夜はランと一緒に寝る事になった。そういう訳だから、シリカ……今日の所は我慢してくれ」

 

 《トールバーナ》の町へと戻って来た俺達は、仲間達と合流し、夕食を摂り、宿へと入った。

 其処で俺は、ランからの我儘──お願いを叶えるに当たり、其れに至る背景を語った。彼女だって現状に不安を(いだ)いている事を、そんな彼女を俺が支えてあげたいと思っている事を。

 

 さて、もうお分かりだと思うが、彼女からのお願いというのは──ズバリ、今夜一緒に寝る事だ。しかも、同じ部屋でベッドは別々……ではなく、ベッドも一緒で、だ。

 ……若干の抵抗感は(いだ)いたものの、ただ一緒に寝るだけであって(やま)しい事なんて何も無い、と強く自分に言い聞かせ、此れを承諾する事にした。それに何よりも、折角の彼女からの我儘なので、極力叶えてあげたいと思ったのだ。

 

「むぅ……」

 

 ただ、そんな俺の思いを他所に、此の状況を面白くないと感じている様子の人物が一人──シリカだ。

 ブラコンのケが有る彼女の事だから、大方、俺が自分(シリカ)を差し置いてランを構う事が気に食わないのかも知れない。……まったく……いい加減に兄離れをして欲しいものだ……。

 

「…………」

 

 それともう一人…………アスナさん? 何でちょっと(うらや)ましそうな目で此方を見てるんですか…? 何かの冗談ですよね…?

 

「あ、そう言えばリョウヤさん」

 

 そんな微妙(びみょう)な空気の中、俺と共に渦中(?)の人物である(はず)のランは場の雰囲気に動じた様子などなく、何かしらを思い付いた様で俺に話し掛けて来た。

 

「ん? 何?」

 

「リョウヤさんと話をした後から、ずっと考えていた事が有るんですけど……」

 

 はて、俺と話をした後から考えていた事とは何なのか……俺だけではなく、他の面々も気になる様子で耳を(かたむ)ける中、彼女は答える──

 

 

 

 

 

「リョウヤさんの事……『兄さん』って呼ばせて貰う事にしますね!」

 

 

 

 

 

 …………其れは、微妙な空気が流れる今此の状況を更に()き乱すかの様な、爆弾発言であった。

 おかしいなぁ……ランって、こんなにも空気の読めない子だったっけ…? それとも、読んだ上でわざとやっているのだろうか…? 若しも後者なのだとしたら、ちょっと(たち)が悪いぞ……。

 

「に、兄さん…?」

 

「はい。『お兄ちゃん』だとシリカさんと(かぶ)ってしまいますし、かと言って『お兄さん』だと何だか折角の距離感(きょりかん)が離れてしまう感じになってしまいます。それで、他にも色々と考えてみた末……思い切って『兄さん』って呼ばせて貰う事にしました」

 

 思いもよらぬ彼女の発言に現実逃避気味で思考が追い付かず、思わず『兄さん』の部分を復唱してしまったところ、彼女は其れに反応し、訊いてもいないのに『兄さん』呼びの理由を説明してくれた。

 

「ちょ、ラン…!? 何でランがお兄ちゃんの事を『兄さん』なんて呼ぶの…!?」

 

「何でかと訊かれたら、リョウヤさんが、自分の事を本当の兄だと思って甘えてくれても良い、と言ってくれたからです。だからお言葉に甘えて、リョウヤさんの事を兄だと思って甘えさせて貰う事にしました」

 

「お兄ちゃんッ…!」

 

「……ランに心の余裕を持たせる為だからな?」

 

 そんな中、一番に思考が回復したのはシリカ。若干()み付き気味な彼女の言葉に、対してランは動じる事なく落ち着いて答えを返す。其れを聞いたシリカは、其の矛先を俺にへと変えて来たのであった。

 

「あ、ならボクも、リョウヤの事『義兄(にい)ちゃん』って呼んでも良い?」

 

 そんな俺達のいざこざを尻目に、(ラン)の兄呼びに便乗する様に、(ユウキ)もまた俺の事を兄呼びしたいと言い出す。……当然ながらシリカは其れにも反応し、今度はユウキにへと矛先を向けた。

 

「ちょ、ユウキまで…!?」

 

「シリカぁ……お前、ちょっとは大人になれって……。んで、兄呼びに関しては、二人の好きな様にしてくれて構わないよ」

 

「ありがとうございます!」

 

「ありがとう!」

 

「むぅぅぅ……」

 

 そんなシリカを(たしな)めた俺は、ユウキと、それから事後承諾の様な形となったランに、もう成る様に成れ、と若干投げ()りな気持ちで兄呼びの許可を出す。……ただ、一つだけ気になる事が……

 

「……構わないんだけど…………ユウキの兄呼び……なんか、ニュアンスがおかしくなかったか?」

 

「え? ソンナコトナイヨー。キノセイダヨー」

 

 ユウキ本人は気の所為だと言うが、どうにも引っ掛かりを覚えて気が晴れない……。本当に俺の気の所為なのだろうか…?

 

「あんまり深く考えない方が良いと思うよー?」

 

「……まあ、其れもそうだな」

 

 とは言え、呼称一つで何かが変わるという訳でもないので、彼女の言う通り深くは追究しない事にした。

 

 ……とまあ、紆余曲折(うよきょくせつ)が有りはしたものの、此の後は、俺とランの二人で一緒に寝る事となった。ランは、此れまでずっと弱音や不安などの感情を抑え込んでいた反動なのか、俺に思いっ切り甘える様に抱き付いて来たのであった。

 (ちな)みに、シリカは最後まで不服そうな表情を浮かべて俺達の事を(にら)んでいたみたいが、今夜はランを優先なので、あまり気にしない様にした。……明日以降の夜が少し心配だな。

 ……それと、アスナから向けられる羨望(せんぼう)の様な眼差しも無視する事にした。……マジで何の冗談だよ?

 

 何はともあれ、ボス攻略直前の夜はこうして()けていった。

 

 そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──決戦の日の朝が、迫りつつあった。

 

 

 

 

 




 

……という訳で、今回はランにスポットを当ててみました。
実は、地味に《Stage.7》に伏線を張ってあったんですよね。付け加えて言えば、《Stage.12》に於けるリョウヤの発言もランに対するものだったのです。

さて。
原作22巻を読んでみても、ランのキャラを完全には(つか)めず、作者の想像が多分に含まれています。……若しかしたら、見当違いな部分も有るかも知れません。
そんな、自分なりの想像を詰め込んだ本作のランですが、リョウヤのお蔭で重荷が少し軽くなりました。
……其の結果が妹っておかしくないか、と思われるかも知れませんが……其れが、作者が考える上の兄姉(きょうだい)への救済措置、という事で……其れも一つの考え方という事で、理解をして頂けると幸いです。

そして、其れに伴ってユウキがリョウヤの事を『義兄』と呼ぶ事に。……妹の(かん)か何かで、姉の何かを察したのでしょうね。

リズとサチに関しても、少し触れてみました。……割と重要な内容の筈なのに、サラッとしていてすみません……。

そして、アスナさん…………本編でも、意外とアレな部分有りますもんね? ……本作では、其れが出て来るのが早まった……という事で。うん……。
──反論は聞く! だが軌道修正はしないッ!

さあ。
次回はいよいよ、第一層フロアボス攻略となります。……長かったなぁ。
戦闘描写はあまり得意な方ではありませんが、精一杯描きたいと思います。

それでは、また次回!

 
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