お待たせしました。第4話の更新です。
此の話で、前作の内容を少しばかり超える事になります。
……文才様に降りて来て頂くには、どうすれば良いのでしょうかね?
[6/16]一部修正しました。
[8/27]段落付けを行いました。
突如として起こった、とあるプレイヤーによる大声騒動。
其の事後処理として、俺は妹達三人を落ち着かせる羽目になってしまったのだが、幸いにして、彼女達は其れ程までに怯えたり、取り乱したりなどはしていなかった為、大して手間は掛からなかった。
そうしてある程度まで三人を落ち着かせた後、俺達はレクチャーを再開した。ソードスキルの事以外にも、戦闘を行うに当たって重要となるであろう様々なテクニックを、俺達が教えられる限りでユウキ達姉妹に教えた。
まあ、そんな事はさて置きだ。
一通りのレクチャーをし終えた後は、妹達と合流してモンスター狩りへと移行した。
あまりにも楽しいものだからついつい夢中になって遊んでしまい、気が付けば時刻は夕方の五時を回っていた。浮遊城外周の開口部からは
「……何度見回してもやっぱり信じられないなぁ。こんなにもリアルな光景をしている此処がゲームの中だなんてさぁ」
狩りの手を止めて、モンスターが出現しない場所にて休憩を取っていた俺達。
身体は
さて置き。
初冬の夕暮れ時を思わせる冷たく乾いた仮想の風に当たりながら、目の前に広がる現実世界の其れとも
「確かにそうだね。何度も此の光景を見てるあたしでも、未だに信じられないもん」
ユウキが
いや、景色だけではない。射し込む陽の光の暖かさや
ベータテストでも何度も体感しているにも
「確か、
「だな」
《茅場 晶彦》──。
其の名前の人物こそ、ランが言った通り、
親父がルポライターとして働いている為に、彼の事は親父の記事を読んで多少なりとも知っている。若きゲームデザイナーにして物理学者である彼は、
其の実績を聞くだけでも彼の凄さが充分に伝わって来るのだが、こうして彼が創り出した
「さてさてさぁて……」
改めて茅場 晶彦氏の凄さを理解した所で、俺はちらりと視界右端に表示されている現在時刻を確認してから、話題を変えるべく口を開く。
「俺はもう少しだけ狩りを続けるつもりだけど、三人はどうする?」
「当然、あたしも続けるよ!」
我が家の夕食は大体七時頃になる。なので長くても後一時間くらいだろうか、と考えながら、さて他の三人はどうするのだろうかと問い掛ける。
いの一番に応えを返して来たのはやはり妹であり、彼女の返答は此方が予想していた通りの『継続』だった。大方は俺に合わせてのものなのだろうが、当然ながら彼女自身の意思も踏まえた上での応えだろう。
「ボクも続けるよー! こんなにも楽しいんだもん、もっと遊びたいよ!」
続いて応えを返して来たのはユウキだ。SAOの
そして、残ったランはと言うと……
「えーと……」
何処か決め兼ねているかの様な素振りを見せる。真面目そうな彼女の事だ、恐らくは、もっとゲームを続けたいとも思っているのだろうが、其の一方で、長時間やり続けている為にそろそろ切り上げなくてはならない、とも思っているのだろう。
全く迷う素振りも無く、速攻で継続の意思を表明したユウキとは違うランの様子に、やはり双子であっても考え方は全然違うものなんだな、などと当たり前な事を考えていると、
「……私も、もうちょっとだけやろう…かな。……初日くらい、羽目を外しちゃっても良い…ですよね」
其れがちょっと可愛く見えて一瞬ドキッ、とした俺は、当人達に気付かれない様にと視線を軽く
「う゛お゛ぉぉぉぉぉおおおおおおおい!!!」
──その時だった。
またも、例の大声プレイヤーの絶叫が辺りに
突然の事なので驚きはしたものの、此れが二度目である事や、先の一件で少しばかりとは言え大声の主の人柄について理解した為、無闇に怯えたりする事はしなかった。
──だからなのだろう……今度の絶叫は、先の絶叫とは違うものだと気付いたのは。
具体的に言えば、今度の絶叫は先の絶叫よりも大分荒々しく、『怒気』が含まれている様に感じられたのだ。
「こりゃあ一体どういう事だぁぁぁあああああ!!?」
どうやら推測は当たっていたらしい。相当お怒りのご様子である。加えて『困惑』の色も
一体全体、何が大声の主を此れ程までに怒らせているというのだろうか? 只事ではない事は確かなのだろうが……。
──そんな風に考えつつも、心の何処かでは楽観視をしていた俺は、次いで発せられた絶叫によって自身の認識が甘かった事を思い知らされる事になった。
「
……。
…………。
……………………。
「…………………………………………は?」
……どれ程の間が空いたのだろうか? 大声の主が叫んだ内容を直ぐには理解する事が出来ずに、時間を要してしまった。
そうして時間を要した末に俺の口から出たのは、何とも間抜けな声であった。
嗚呼、此れはちゃんと理解出来ていない奴だな、などと何処か他人事の様に
記憶力に少々難有りの俺ではあるが、其れを思い出すのには時間は掛からなかった。詰まり、其れ程までに絶叫の内容は印象が強かったという事なのだろう。
さて、肝心の言葉だが……言い回しは変わるが、大声の主は確か此の様に言った筈だ──
──ログアウトが出来ない、と。
……。
…………。
……………………。
「「「「ええぇぇぇぇぇえええええええ!!?」」」」
告げられた内容を思い出し、そして其の言葉の意味を脳が漸く理解した瞬間、俺は
妹達も同時に言葉の意味を理解したらしく、俺の絶叫に彼女達のものも重なる。
只事……どころの騒ぎではない。ログアウトが出来ない──詰まり、此のゲームの世界に閉じ込められて現実世界に戻る事が出来ないなど、とんでもないまでの
有り得ない、有る訳が無い、有ってはならない、何かの間違いだ、冗談であって欲しい──そう強く願いながら、事の真偽を確かめるべく、右手の人差し指と中指を
これまたほぼ同じタイミングで鈴の様な効果音が鳴ると共に、俺の視界中央に紫色に発光する半透明の横長の
早く真偽を確かめなくては、と
──刹那、俺は全身の動きをぴたりと止めた。
「……………………マジで、かよ……」
目の前の事実に、俺はついそんな呟きを漏らしてしまった。
──無かった。
本来であれば存在していなくてはならない筈の其の箇所には、《
ベータテストの時には──いや、今日の午後一時にログインした直後にも確かに有った筈のログアウトボタンが、
空白になっている其の箇所を数秒程じっと見詰めてから、再度メニュータブを上から順番にゆっくりと
──俺の、メインメニューには。
では、妹達はどうなのだろうか?
もしかしたら、ログアウトボタンが無くなっているのは俺や大声の主を含めた一部のプレイヤーだけであり、彼女達は難を逃れているかもしれない──。
……そんな都合の良過ぎる可能性をつい思い浮かべてしまったが、俺の直感が訴えている──其の可能性は極めて低い、と。
……それでも俺は、万に一つの可能性として有るかもしれない、と往生際悪くも願う。せめて……せめて彼女達だけでも助かっていて欲しいのだ。
そんな強い願いを胸に、俺はウインドウに向けていた視線を上げる。……ただ、願いとは裏腹に過度な期待は
「「「……………………」」」
三人の浮かべる表情は思わしいものではなかった。……やはり、彼女達もまた此の異常事態に巻き込まれてしまったらしい。
「……OK、Alright、理解把握。……先ずは全員落ち着こうか」
其れを理解した俺は、
此の場に
「取り敢えずはGMコールをしてみよう。そうすりゃあ、運営側の方で何かしらの対応をしてくれる筈だ」
そう言って、俺はウインドウを操作してGMコールの画面へと進み、透かさずボタンを押して運営への連絡を試みる。
……しかし、待てど暮らせど運営側からの反応が一切返って来ない。其の様子に、三人の表情に不安の色が見え始める。
「……落ち着け。他の奴らも俺達と同様にGMコールをしている筈だ。其れでコールが殺到していて
三人を不安にさせてはならないと、半ば自分にも言い聞かせる様にそう楽観的に告げる。……だが、自分で言った其の言葉に、思考にはどうにも自信を持てない。悲観的な思考に
「…… 一応確認しますけど、他にログアウトする方法って有りませんでしたっけ?」
其れは俺に限った話ではなく、他のログアウトの方法を問い掛けて来たランもまた、不安を隠し切れない様子だ。当然、其れは妹とユウキもだ。
此れ以上彼女達を不安にさせない為にもと、俺は知っている限りのログアウトの方法を思い浮かべる。
此の
其れが一番簡単な方法だ。……だがしかし──同時に其れが唯一の方法だ。其れ以外の方法を、残念ながら俺は知らない。
「……無いな。俺が知っている限り、自発的にログアウトする為の方法はログアウトボタンによるものだけだ」
不安を煽りたくはないのだが、其れが紛れもない事実である為に、仕方無く素直に告げる他無い。
「……マジで? ボイスコマンドとか、そう言うのとかは無いの?」
「……無いな」
「あ! じゃあ、ナーヴギアの電源を切ったりとか! それか、頭からギアを取り外せば……!」
「……其れは無理だな。ナーヴギアが脳から現実の身体に向かって出力される命令信号を
「……うっそぉーん。……じゃあ、此のバグが直るか、向こうで誰かがギアを外してくれるまで、ボク達ゲームの中から出られないって事かぁ……」
其れまでゲームを続けられるのは嬉しいけど、なんて
……だがしかし、生憎と俺はそうではない。
《ログアウト不能》などと言う、今後のゲーム運営に関わる様な問題が、ただのバグなのだろうか?
……いや、どう考えたって大問題だろう。
運営の対応だっておかしい。
此の様な状況であれば、運営は何はともあれ一度サーバーを停止させて、プレイヤー全員を強制的にログアウトさせるのが最善の措置であろう。にも
付け加えて言えば、SAOの開発運営元である《アーガス》は、ユーザー重視の姿勢で名前を売って来たゲーム会社だと聞く。
此の様な大ポカをやらかしてしまった以上、会社の信用の低下は
其処まで考えてみると、いよいよ
──リンゴーン、リンゴーン──
其の結論に至った瞬間、突如とした
──其れを皮切りに、世界は其の有り様を大きく変えたのであった。
ハイ。と言う訳で、強制転移の直前まで進みました。
次回はいよいよ、デスゲームの開始宣言となりますね。
何処まで進めるかは分かりませんが、此処でも工夫を凝らす予定でいますので、まあ、その、アレですね……楽しみにしていて下さい。