ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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大変お待たせ致しました。

……ですがごめんなさい。
(ようや)くチュートリアルに入る訳ですが、ほぼ前振りです。
あまりにも長々と、自分が疑問に思う点などを掘り下げて書いてしまいました。
それでも、此の話にも工夫は()らしてありますので、どうぞ最後までお楽しみ下さい。

それでは、第5話……どうぞ。


[8/27]段落付けを行いました。

[12/31]タイトルにルビを振りましま。



Stage.5:疑心暗鬼(ぎしんあんき)(しょう)

 

 

 

 

 

 突如として大音量で鳴り響いた(かね)の音。

 そして、其の鐘の音が鳴り止んだ直後、俺達四人は其の身を鮮やかなブルーの光の柱によって包まれた。

 

「……ッ!?」

 

「えっ……!?」

 

「お、おわわわっ……!?」

 

「い、一体何が起きているんですか、此れは……!?」

 

 突然の出来事の連続に驚く俺達。ユウキ達姉妹には更に戸惑いの色も(うかが)える。

 そうこうしている間にも、俺達を包み込む光は徐々に其の強さを増して行き、其れに(ともな)って、青い膜の向こうに広がる草原の風景がみるみる薄れて行く。

 やがて光の(かがや)きが最高潮に達した様で、一際強く脈打った。其の瞬間、俺の視界は完全に奪われてしまった。

 とは言え、其れはほんの一瞬の事。直ぐに青い輝きは薄れて行き、其れに伴って俺の視界に風景が戻って来た。

 ……だがしかし、俺の目に映ったのは夕暮れ時の草原のソレではなかった。

 広大な石畳(いしだたみ)。周囲を囲む街路樹と、瀟洒(しょうしゃ)な中世風の街並み。そして、正面遠くに見える黒光りする巨大な宮殿。──其れは間違い無く、四時間も前に此のゲームにログインした際に最初に降り立った、ゲームのスタート地点である《はじまりの街》の中央広場の景色である。

 どうやら俺は、(かたわ)らに居る妹達共々、草原から此の《はじまりの街》まで移動したみたいだ。

 

 今の短い時間で、其の場から一歩も動く事無く、草原から《はじまりの街》までの長い距離を移動する事は、物理的に考えれば普通に不可能な話だ。

 当然の事ながら、絡繰(からく)りはきちんと存在する。

 其れこそが、先程の青い光の柱による現象──《転移(テレポート)》である。

 各層の主街区を(つな)ぐ《転移門(てんいもん)》に加え、特定のアイテムを使う事によって、一瞬にして指定した場所にへと移動する事が出来るのだ。少なくとも俺は、ベータテストの時に何度も此の現象を体験している。

 

 しかし、俺達は場所移動用のアイテムを使ってはいないし、そもそも現時点に()いて場所移動用のアイテムを所持してすらいない。詰まり、今回の此れは俺達の意思によるものではなく、運営側による強制的な転移という事になる。

 此処まで一切の反応が無かった運営側が、何故今更になって、何故一切のアナウンスも無しにいきなり強制転移を行ったのだろうか、と疑問に思うし、強制転移ではなく強制ログアウトを行うべきではないのだろうか、とも思う。其れ故に、俺の中に在る運営側に対する不審の念は消えるどころか、更に(つの)るばかりである。

 運営側が(ようや)く動き出してくれた事には安堵(おんど)の念を(いだ)くものの、どうにも手放しでは喜べないのだ。

 

「あっ……上を見ろ!!」

 

 今現在、中央広場に居るのは俺達四人だけではない。

 俺達四人の周りには、ぎっしりと幾重にも(ひし)めく人波が出来ている。色取り取りの装備、髪色、秀麗(しゅうれい)な容姿をしている彼ら・彼女らは、ほぼ間違い無く俺達と同じSAOプレイヤー達なのであろう。

 ざっと見た感じでは数千人……いや、一万人近くは居るだろうか。恐らくは、現在ログインしているプレイヤー全員が強制転移させられたのであろう。

(しば)しの間押し黙り、キョロキョロと周囲を見回していたプレイヤー達であったが、やがて、ざわざわ、ざわざわと声を上げ始め、徐々に其のボリュームを上げて行く。「どうなってるの?」「此れでログアウト出来るのか?」「早くしてくれよ」などという言葉が断続的に耳に届いて来る。

 (ざわ)めきは次第に苛立ちの色合いを帯びて行き、「巫山戯(ふざけ)んな」「GM(ゲームマスター)出て来い」「三枚に下ろすぞコラァァアアア」などといった(わめ)き声も散発し始める。……何やら奇矯(ききょう)な……けれども内容としては物騒な怒号が聴こえた様な気がした。しかも其の声音に何処か聴き覚えが有る様な気がしたのだけれども……取り敢えず、深くは追究しないでおく事にした。

 そんな喧騒の中、不意に誰かが叫ぶ声が聴こえた。

 何故かよく(ひび)いた其の声に、反射的に視線を上へと向けた。そして、其処に異様なものを見た。

 百メートル上空に在る第二層の底部。其の全てを、真紅の無数の六角形(ヘキサゴナルパターン)が猛烈な勢いで埋め尽くして行くという光景だ、

 よくよく目を()らして見てみれば、其の表面には二つの英文が交互に表示されていた。真っ赤なフォントで(つづ)られた単語は、【Warning】、そして【System Announcement】。

 其の光景を見た俺は──

 

(……あ、コレ……多分ダメなパターンだわ……)

 

 運営側が動き出してくれた事によって(いだ)いた安堵の念を振り払うと共に、此の異常事態が人為的に引き起こされたものであると推測して、運営側に対する警戒心のレベルを最大限にまで引き上げる。

 

 どう考えてもおかしな話だと思う。

 高々不具合に対するアナウンスをするのに、此処までの派手な演出をする必要が有るのだろうか?

 しかもだ、アナウンスが行われる事を知らせるに当たって使用されたメッセージが、()りに選って【warning】──『警告』だと?

 何故、此れから運営側からのアナウンスが行われる事に対して、注意をする様にと(うなが)す必要が有るというのだろうか。ただアナウンスが行われる事を知らせるだけならば、【警告(warning)】などという物騒なワードなどではなく、『案内』などの意味合いを持つ【information】の方が相応しいのではないか、と思うのだが。此れでは、プレイヤー達を安心させるどころか、(むし)ろ不安を(あお)る事になるではないか。

 おまけとばかりに、空一面を染め上げている──真紅(あか)

 赤は『危険』を示す色として使われる事が多い。赤信号(しか)り。レッドカード然り。ゲームに於いても、HPが残り少ない状態──所謂(いわゆる)《危険域》に入るとHPゲージが赤く変色したり、危険そうなモンスターの目やオーラなんかが赤かったりする、等といった具合に、危険を示す色として使われる事がよく有る。

 其の習慣に照らして考えるのならば、詰まり──此れから危険な事……(ある)いは、良くない事が起こると言っている様なもの。──(すなわ)ち、此れから行われるアナウンスで伝えられるであろう内容は、状況改善を(しら)せるものではなく、更なる悪化を報せるものである可能性が高い、という事だ。

 そう考えるのであれば、成る程……確かに【警告(warning)】なのであろう。

 

 さて置き。

 此処までの派手な演出を仕出かした事から察するに──どうやら運営側は、此の異常事態を解決しようとする気は無いと見られる。

 そしてもう一つ……自然に発生した不具合に対して、運営側が其の様な態度を取るなどというのは、普通であれば考え難い話である。──詰まる所、此の異常事態すらも運営側が仕組んだものである可能性が高いと思われるのだ。

 

 ……飽くまでも、其れらは全て俺の推測でしかなく、実際にそうである、其の様な事態に(おちい)るとは限らない。

 けれども、目の前の光景が光景であるが故に、其れらの可能性が無いと断じ切る事は……少なくとも俺には出来ない。

 それにだ、万が一にもと用心をしておくに越したことはないだろう。其の様な可能性が有ると心構えをしておけば、実際にそうであった時に受けるであろう精神的ダメージを軽くする事が出来る……筈だ。

 ……とは言うものの、其の様な可能性は出来れば有って欲しくはないのだが。

 

 運営側による救済は見込めそうにない。

 其の様に推論を出した俺の周りでは、先程までの騒めきが終息しつつあり、プレイヤー達が耳を(そばだ)てる気配が満ちて行く。

 直後、事態が動き出した。

 

 ──そして……俺の目は再び、異様な光景を(とら)えた。

 

 上空を埋め尽くす真紅の六角形のパネル。其の隙間から、まるで巨大な血液の雫の様なものがどろりと垂れ下がって来た。高い粘度を感じさせる動きでゆっくりと(したた)り落ちて来た其れらは、だがしかし広場へと落下する事はなく、空中にて(とど)まり、集まって其の形を変えた。

 現れたのは、全長二十メートルは有ろうかという、真紅のフード付きのローブを(まと)った巨人……(いな)、巨大な人型だ。

 と言うのも、其の風貌(ふうぼう)が実に異様であるのだ。俺達は地上から其れを見上げている形であるが故に、深く引き下げられたフードの中が見渡せるのだが──其処には、何故か顔が無い。全くの空洞なのだ。おまけに、だらりと下がる(すそ)の中も、同じく薄暗い闇が広がっているのみである。

 何とも不気味な雰囲気を(かも)し出す中身無き巨人ではあるが、其れが纏っている(?)ローブそのものには見覚えが有る。アレは、ベータテストの時に、アーガスの社員が(つと)めるGMが必ず纏っていた衣装だ。詰まる所、上空に浮かんでいる中身無き巨人こそがGMだという事だ。

 しかし当時は、男性のGMであれば魔術師然とした長い白髭(しろひげ)の老人の、女性であれば眼鏡の女の子のアバターが、フードの中に必ず収まっていた。

 何かしらのトラブルの所為(せい)でアバターを用意する事が出来ず、せめてローブだけでも出現させたのかも知れない──

 

 ──運営側に対する疑念が無ければ、其の様に考えていたのだろう。

 だが、運営側に対する警戒心がMAXの状態であり、疑心に満ちている俺はと言えば……何を意図しての事なのかは理解出来ないまでも、運営側が故意にそうしているのではないか、と勘繰(かんぐ)っている。……確かな根拠など無い、ただの憶測でしかないが。

 (いず)れにせよ、真紅のフードの下の空疎(くうそ)間隙(かんげき)は不安感を(あお)るものであり、周囲では他のプレイヤー達が、「あれ、GM(ゲームマスター)?」「何で顔無いの?」という、(いぶか)しみや戸惑いを(はら)んだ(ささや)き声を上げている。

 

 と、其れらの声を抑えるかの様に、不意に巨大なローブの右(そで)が動いた。

 ひらりと広げられた袖口からは、純白の手袋が(のぞ)いた。……しかし、袖口と手袋との間には、やはりと言うべきか肉体らしきものは見受けられない。

 同様に、左の袖もゆるゆると(かか)げ、両腕を広げるかの様なポーズを取る。

其の直後、(はる)かな高みから男性の声が降り注いだ。

 

 

 

 

 

『プレイヤーの諸君、()の世界へようこそ』

 

 

 

 

 

 開口一番に(つむ)がれた其の言葉の意味を、俺は咄嗟(とっさ)(つか)む事は出来なかった。

 あの真紅のローブの巨人がGMなのであれば、確かに此の世界の操作権限を持つ神の如き存在なのであろう。

 だがしかし、先程も述べた通り、ベータテストに於いては男性と女性とでそれぞれにGMが存在した。詰まる所、GMは一人という訳ではないのだ。

 それに、商用のオンラインゲームに於けるGMというのは、実際にはゲーム全般の管理者というよりも、サポート業務に直接従事するスタッフとしての意味合いの方が強いのだ。要するに、GMであるからと言って、此のゲームが其の人個人のものであるという訳ではない、という事だ。

 そうであるにも(かか)わらず、目の前の巨人は、(あたか)も此のゲームが自分のものであるかの如く口にしている。

 仮に、目の前の巨人がただのGMなどではなく、此の世界の創造主──詰まりはSAOの開発ディレクターなどといった人物なのであれば、自分の世界であると表現しても何らおかしな事ではないだろう。

 しかし、そうだとしても、そんな事は言われずとも解る事であり、今更其れを宣言する必要が有るのだろうか、と疑問が()いて来る。

 アナウンス開始早々からの奇言に思いを巡らせていると、俺の耳に、巨人からの次なる言葉が届いた。

 

 

 

 

 

『僕かい? ──僕の名前は茅場 晶彦。今や此の世界をコントロール出来る唯一の人間さ』

 

 

 

 

 

 瞬間、俺は驚愕した。

 確かに、巨人の中身が開発ディレクターである可能性を考えはしたが、まさか本当に、茅場 晶彦──SAOの開発ディレクターがGMとして出て来るなどとは思ってもみなかったのだ。と言うのも、茅場 晶彦という男は、今まで常に裏方に徹し、メディアへの露出を極力()け、更にはGMの役回りすらも一度たりとも行った事が無いのだ。

 そんな彼が、何故急にGMとして現れ、此の様な真似をしているのだろうか、という疑問が浮かぶ。……いや、疑問はそれだけではない──

 

 ──そもそも、()()()()()()()()()()() ()()()()()()()()()

 

 憶測によるものなどではない。

 目の前の茅場 晶彦を自称する巨人は、一人称を《僕》と呼んだ。……だが、ルポライターである親父が書いた記事の中での茅場 晶彦の一人称は……確か《私》となっていた筈だ。余所行きとそうでない時とで使い分けている、などと言われてしまえば其処までの話なのだが、其れだと、俺達プレイヤーを相手に改まった態度を取る必要や価値など無い……其の様に思われているという事になってしまう。

 其の説が違うとなれば、巨人の中身が本物の茅場 晶彦ではない、という可能性が高まる事になる。……何れにせよ、人を見下したり、他人を(よそお)って其の人物を(おとし)めようとしたり、人を(だま)そうとする様な人物など、信用する事なんて出来はしない。

 

 さて置き。

 それにもう一つ。……此れは『根拠』と言うよりも『直感』なのだが、本物の茅場 晶彦と、巨人の声とのイメージが合わないのだ。

 写真で見た本物の茅場 晶彦は、線の細い、鋭角的な顔立ちをしており、金属的な(ひとみ)双眸(そうぼう)に宿している。しかし、其の表情からは感情をあまり読み取る事が出来ない。所謂無表情という奴なのである。

 其れに対して巨人の声は、何処か(ねば)つく様な嫌な感じがあり、そして、何処か俺達を見下しているかの様な雰囲気を感じさせるのだ。

 飽くまでも、俺が其の様に感じるというだけの話であり、イメージが合わないというのも、俺の主観に過ぎない。

 そういう訳なので、ちゃんとした判断材料は、実質《一人称》の一つだけである。

 

 さて。

 以上の理由から、巨人に対して疑いの目を向ける俺。

 自分に疑いの目が向けられている事など露程(つゆほど)も知らないであろう巨人は、更に言葉を続ける。

 

『君達は、既にメインメニューからログアウトボタンが消滅している事に気付いている事だろう』

 

 此の後に続く話の内容が、碌なものではない事は分かり切っている。そして、其れを告げる事によって、漸くログアウトする事が出来るのだろうと安堵し、喜んでいるプレイヤー達の期待を裏切り、落胆させようとしているのであろう事も、見え見えだ。

 

『しかし、此れはゲームの不具合なんかじゃない。もう一度言おう。此れは不具合などではなく、《ソードアート・オンライン》本来の仕様なのさ』

 

「はぁッ!?」

 

 上げて落とす──そういう流れになるであろう事は、予想はしていた。……だが、流石に此れは予想の斜め上であった。

 仕様、だと? ──其れだとまるで、SAOは(はな)から俺達プレイヤーを閉じ込める事を目的として作られた、という事になってしまうではないか。……自分で考えておいて何だが、何じゃそりゃ! と思ってしまう。

 あまりにも受け容れ難く、理解し難い仮説に思い至った事で、動揺を隠し切れない状態へと陥る俺。

 だが、巨人はそんな俺達の心中など御構い無しと言わんばかりに──

 

 

 

 

 

『──君達は今後、此の城の頂を極めるまで、此のゲームから自発的にログアウトする事は出来ないよ』

 

 

 

 

 

 ──最も核心的な部分に触れる、特大級の言葉(バクダン)を落としてくれたのであった。

 

 

 

 

 





はい。
という訳ですが、皆さまお気付きになられましたでしょうか?

そう! GMの一人称が変更されています。
此れが意味する事は、お分かりですよね?
という訳で──


【今回の可能性(もしも)

・茅場 晶彦がGMではなかったら。


──という事です。
もう既にお分かりの方もいらっしゃるかとは思いますが、茅場氏に代わるGMの正体とは一体誰なのか……其れに関しては、現時点に於いて言及は致しません。
ですが、そう遠くない内に正体を明かす予定ではあります。
それまでは、想像を(ふく)らませてお待ち下さい。

それでは、また次回の更新で。
……今度は早めに上げられると良いんですが、ね……。
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