ソードアート・オンライン ─集約した世界の物語─   作:和狼

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皆様、お久しぶりです。
三ヶ月ぶりの投稿になります。……前のペースに戻って来てしまっているのだよ。
しかも、思いの外長くなってしまい、今回も内容はあまり進んでいません。

そんな感じではありますが、年内に一話投稿出来てホッとしています。
という訳で、2019年最後の更新──どうぞお楽しみ下さいませ。


[2/2]一部修正しました。
[2/6]一部修正しました。
[8/27]段落付けを行いました。
 


Stage.7:選択と決意

 

 

 

 

 

 突如として開始を宣告され、攻略をする事を(なか)ば強要された、《ゲームオーバー=現実の死》という、文字通りの命を()けてのゲーム。

 其のチュートリアルが、真意が一切語られる事無く締め(くく)られてしまった。

 其れまでの、俺達プレイヤーの思考を読み取ったかの如く事態の説明をしていた巨人の様子から、今度もまた此の事態を引き起こした真意を説明してくれるのであろうと、俺は……いや、恐らくはプレイヤーのほぼ全員が期待していた。

 其れ故に、真意を語らぬままにチュートリアルを終えるという、まさかの期待を裏切られる事態に俺達は呆然となり、(しば)し無言のまま、巨人が消えて行った上層の天井を見詰める事しか出来なかった。

 

 何秒か……何十秒か……はたまた何分か……。

 どのくらい続いたのかは分からない沈黙は……だがしかし、唐突に、ほぼ一斉に、圧倒的なボリュームにて放たれた多重の音声によって破られた。

 

「嘘だろ……何だよ此れ、嘘だろ!」

巫山戯(ふざけ)るなよ! 出せ! 此処から出せよ!」

「こんなの困る! 此の後約束があるのよ!」

「嫌ぁあ! 帰して! 帰してよぉおお!」

「う゛お゛ぉぉぉおおおおおい! どうしてくれるんだァ!? 明日は仕事なんだぞ! 社長(ボス)にかっ消されちまうじゃねぇかぁぁぁあああああ!!」

 

 悲鳴。怒号。絶叫。罵声(ばせい)懇願(こんがん)。そして咆哮(ほうこう)

 (ようや)く自分達が置かれている現状を理解したらしいプレイヤー達が、(しか)るべき反応を示した。

 ……其の中に、先程『三枚に下ろす』と奇矯(ききょう)な怒号を上げていたプレイヤーの声も混じっていたのだが……どうやら、俺の気の所為ではなかったらしい──口癖なのだと思われる特徴的な叫び声といい、例の大声のプレイヤーだ。

 相変わらず物騒な文句が含まれている怒号ではあるのだが……其れとは裏腹に、今の()のプレイヤーの声音からは《怒り》よりも、《焦燥感(しょうそうかん)》や《悲痛さ》、そして《恐怖》の念が色濃く表れている様に感じられ、何だか(あわ)れまずにはいられなかった。

 

 ……などと、事ここに至ってもやはり受け容れ(がた)い現状に、思わず現実逃避をしてしまっていた俺は……不意に、連続して様々な感覚に見舞われた。

 何かが()つかって来たかの様な、軽い衝撃──。

 何かしらの細いものが俺の腰の辺りへと巻き付き、そして強く締め付けて来るかの様な感覚──。

両の腕が軽く引っ張られ、それぞれが強く(にぎ)られるかの様な感覚──。

 其れらを感じた瞬間、俺は意識を思考の海から引き戻し、感覚の出所(でどころ)へと視線を向ける。

 其処に在ったのは、俺の身体に()き付き、しがみ付いている妹達の姿。

 妹は俺の腰の辺りに()き付いており、俺の胸に顔を(うず)めている。

 俺の両の腕にしがみ付いているのはユウキ達姉妹。二人共が俺の両の腕を両の手で強く握り、額を腕に押し付ける様にして下を向いている。

 三人共が顔が見えない姿勢である為に、表情からは彼女らの感情を(うかが)い知る事は出来ない。だが、俺の身体に密着している彼女らの腕や手が、頭が、彼女らの身体の震えを伝えてくれる。其処からであれば、彼女らの感情を窺い知る事が出来る。──其れ(すなわ)ち、現状に対する《恐怖》だ。

 今まで気丈に振る舞っていたのだろうが、どうやら其れも最早(もはや)限界の様であるらしい。

 其れを察した瞬間、俺は自身を恥じ、叱責(しっせき)した。何時までも目の前の受け容れ(がた)い状況から意識を背けてばかりいては駄目なのだ、と。

 現状に対する不安の念は尽きない。故に現実逃避もしたくなる。……けれども、不安の念を(いだ)いているのは、何も俺一人だけではない。現に俺の視線の先には、不安に怯え、震えている少女が三人も居るではないか。

 彼女達に頼りにされている俺がしっかりとしなくては、彼女達だって何時までも不安なままだ。

 その事に気付いた俺は、一旦彼女らによる拘束を振り(ほど)き、右膝を突いて身を(かが)め、両の腕を広げて彼女らの身体を()き寄せる。少しでも、彼女達の心の()り所になれる様に、と。

 どうやら、効果は有ったらしい。抑えていた感情が爆発した様で、彼女達は先程までよりも一層強く()き付き密着して来た。

 

 震える彼女達を受け止めながら、俺は思いを巡らせに掛かる。──デスゲームと化してしまったSAOに於いて今後どの様に行動をするべきなのか、と。

 其の為にもと、先ずは俺自身が落ち着く事も兼ねて、判断材料を(そろ)えるべく、今一度現状を軽く整理してみる事に──。

 

・現在、俺達約一万人のプレイヤーは、《茅場 晶彦》を名乗る人物によって、ゲームからログアウトする事が出来ない状態に(おとしい)れられている。

 

・ログアウトする為には、SAOの舞台である浮遊城《アインクラッド》の頂上──第百層へと到達し、其処に待ち構えているラスボスを倒し、ゲームをクリアしなくてはならない。……其れが唯一の方法なのだという。

 

・ただし、あらゆる蘇生(そせい)手段の一切が機能せず、HPがゼロになった瞬間に、ゲームのアバターは永久に消滅。──同時に、ナーヴギアによって脳を焼かれ、現実世界の俺達もまた死ぬ事になる。

 

・また、現実世界の第三者によってナーヴギアの強制除装が行われた場合にも、脳破壊のシークエンスが実行されてしまうという。

 

・既に、ナーヴギアの強制除装を試みようとした例が少なからず在り、其の結果──二百十三人の死者が出ている、との事。其の結果は繰り返し報道されている為、今後ナーヴギアが強引に除装される危険性は低いだろう、との事。

 

 以上の事を()まえた上で、では、どの様に行動をするべきなのか?

 とは言え、取れる行動の選択肢は、大きく分けて二つ。──《動く》か、《待つ》かの二択だ。

 

 恐らくだが、外部からの救援はほぼ見込めないものと思われる。

 と言うのも、事件が発生してから大分時間が経過しているにも(かか)わらず、未だに強制的にログアウトさせられる気配が無い。……詰まり、外部からどうこうする事は困難……(ある)いは不可能なのであろう。

 仮に救援の可能性が在るとしても、此の様子では、其れが叶うのが何時になるのかは不明瞭(ふめいりょう)だ。

 また、他のプレイヤーがゲームをクリアしてくれるのを待つ、という他力本願な案もあるが、此れもあまり期待は出来そうにない。

 千人近くのプレイヤーによる二ヶ月間のベータテストでも、攻略出来たのはたったの九層のみ。現状では其の十倍である約一万人のプレイヤーが参加しているが、正式版として難易度の調整が行われているであろう事と、《ゲームオーバー=現実の死》という特殊なルールの実装により、ゲームの攻略は極めて困難になるものと思われ、攻略のペースはテスト時よりも遅くなる事が予想される。であれば、全百層を攻略するまでに要するであろう時間は計り知れない程長いと思われる。

 ……従って、何時訪れるのかも分からない救援やゲームクリアを《待ち続ける》のは、得策であるとは言い(がた)いだろう。

 

 そうなると、取れる選択肢は(おの)ずと《動く》の一択──より具体的に言えば、危険を(おか)す事を覚悟の上での《攻略への参加》、に(しぼ)られる事になる。

 だがしかし、其れは超ハイリスクな()けだ。自らを常に《死と隣り合わせ》という危険極まりない状況下に置き続ける訳であり、失敗すれば一生(すべて)を失う事になるのだ。当然の事ながら、恐怖の念を(いだ)かずにはいられない。

けれども、其の選択肢を取る事こそが最善の策である、と俺は考えている。

 攻略の途中で死んでしまう可能性が在る以上、確実であるとは言えない。それでも、何時訪れるのかも分からない救援を待つよりかは、現実世界への帰還の確率は高いであろう。自身も攻略に参加する事で、現実世界への帰還の確率を上げる事が出来るであろう。現実世界への帰還を少しでも早める事が出来るであろう。

 

 以上の事を踏まえた上で……では、どちらの選択肢を取るべきなのか?

 ……なんて、そんなのは考えるまでもない事だ。答えなど、()っくの()うに決まっているのだから。

 

 ──言うまでもなく、《攻略への参加》の一択である。

 

 先に述べた、《待つ》のは得策ではない、というのも勿論理由ではある。

 だが其れ以上に、攻略への参加を決意させた強い理由が、俺には在る。

 

 ── 一分一秒でも早く、妹を……妹達を現実世界へと無事に帰す事、だ。

 

 俺にとって妹は、護るべき大切な存在だ。

 ユウキ達姉妹に対しても、此処数時間一緒に遊んだ事によって友情を感じており、彼女達が困っているのならば助けてあげたい、と思っている。勿論、優先順位は妹の方が上ではあるが。

 そんな彼女達を助ける為に、俺は動くのだ。

 先程も述べたが、死ぬ事に対する恐怖は勿論有る。……()れど、彼女達の為を思えば、躊躇(ためら)いは無い。

 

 さて、大まかな行動方針は決まった。

 とは言え、事はそんなに容易な話ではない。

 先程、俺が攻略に参加する事で現実世界への帰還の確率を上げる事が出来る、と述べた。……だがしかし、俺一人の参加によって上がる確率など微々(びび)たるものでしかない。

 それに、SAOはMMORPG(大規模オンラインロールプレイングゲーム)だ。此の手のゲームは、基本的には大勢のプレイヤーが協力する事によって攻略出来る様に難易度が設定されており、個人、或いは少人数で攻略するのは困難……或いは不可能とされている。

 

 結論──ゲームを攻略する為には、相当数のプレイヤーの参加が必要不可欠なのだ。

 

 それに、ただ人数が集まれば良いという訳でもない。

 幾ら人数が(そろ)っていたとしても、其れがただの烏合(うごう)(しゅう)であっては、(いたず)らに死者を増やす事になるだけだ。

 要するに、攻略に挑むのであれば相応に力を付けて貰わなくてはならない、という事だ。レベルやステータスなどの数値的な意味でもだが、戦闘の為の知識や技術などといった、俺達自身の能力的な意味でもだ。

 ……とは言ったものの、参加しているプレイヤーの九割は今日此のゲームを始めたばかりの初心者(ニュービー)だ。(ほとん)どのプレイヤーが右も左も分からず、知識も技術も持っていない状態だ。其れでは、攻略に参加する以前に、まともに闘う事すら(まま)ならないであろう。

 では、どうするのか、と()かれれば……答えは至極単純だ。──知識や技術を持っている者が、彼らに教えてあげれば良いだけの話だ。そして、其れを行うのは、必然的に俺達ベータテスターの役目だ。

 

 ……ただ、其れにも(いささ)か問題は在る。

 先ず一つ。俺は、先述した通り多くのプレイヤーの参加が必要不可欠であると判断した。其れ故に、初心者プレイヤーの救済は(やぶさ)かではないと思っている。……だがしかし、其れは()(まで)も俺個人の意思であり、詰まり何が言いたいのかと言えば──他のベータテスター達が、俺と同じ様に初心者救済に対して賛同的・協力的であるとは限らない、という事だ。

 状況が状況だ。恐らくは……いや、ほぼ確実に、ベータテスターを含めた殆どのプレイヤーが、自分の命を守る事を最優先に考え、其れに準じた行動を取るであろう。赤の他人でしかない他のプレイヤーの事を気に掛け、()してや助けようなどとは思うまい。

 其の場合、俺一人で何百、何千人ものプレイヤーの面倒を見なくてはいけなくなるやも知れず、其れは流石に俺へと掛かる負担が大き過ぎるというものだ。

 もう一つは、リソースの問題だ。

 システムが供給するリソース──お金やアイテム、経験値などには限りが在る。

 SAOに慣れているベータテスターであれば、レベルが低くとも、難易度が少し高い先のフィールドでも闘う事は出来るであろう。だが、慣れていない残りのプレイヤー達では其れは出来ないであろう。そうなれば、初心者プレイヤーへの指南(レクチャー)は、難易度の最も低い《はじまりの街》周辺のフィールドにて行わざるを得なくなる。

 指南(レクチャー)の為には、一人につき最低でも一度はモンスターとの戦闘を経験させるべきであろう、と考えている。口であーだこーだと説明するよりも、実際にやってみた方が早く身に付く事だって有るだろう。

 そうして、大勢のプレイヤー達でモンスターをどんどん倒していけばどうなるか? ……其処ら一帯のモンスターは狩り尽くされ、(またた)く間に枯渇(こかつ)。モンスターの再湧出(リポップ)只管(ひたすら)探し回る羽目になってしまうであろう。

 まあ、慣れて来た人から先に進んで貰えれば良いのかも知れないが、慣れるまでが大変だろう。

 

 ……とまあ、色々と問題は在るものの、指南(レクチャー)を行う、という方針に変わりは無い。ゲームの攻略には、どうしても人手が必要なのだから。

 問題に関しては……まあ、此方の説得と(みな)の理解次第であろう。

 

 と、何気に俺が(みな)扇動(せんどう)する様な口振りになっているが……まあ、其れも致し方無い事だと思う。

 今の所、誰一人として初心者救済を(うた)う者は現れてはいない。そもそも、俺以外に初心者救済を考えている者が居るのかすらも怪しい雰囲気だ。となれば、此のまま待っていても状況が改善される見込みは薄い、と思われる。

 そんな状況下に於いて俺は、状況の改善──初心者救済の為の指南(レクチャー)を行おうと考えている。

 当然、考えているだけでは状況を変える事など出来はしない。真に状況を改善したいと願うのであれば、自ら率先して動くべきであろう。

 そして、自ら率先して起こした事態を、他人に丸投げして良い訳がないだろう。……要するに『言い出しっぺの法則』というやつだ。

 

 さて、今後の行動方針については大凡(おおよそ)決まった。

 今現在も広場を包み込んでいる喧騒を(しず)めて、(みな)の注目を俺に集める為の方法にも、一つだけ当てが有る。

 此れで準備はほぼ万端

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……と、言いたい所だが……あと一つだけ、やっておかなくてはいけない事が有る。

 

「そのままでも良い。お前ら……落ち着いて、俺の話をよーく聴け」

 

 俺は、未だに恐怖から身体を震わせている妹達へと声を掛ける。

 其れに反応した彼女達は、ただ、俺の身体に(うず)めていた顔を律儀(りちぎ)にも上げて、三対の双眸(そうぼう)を俺の方にへと向けて来た。

 まあ……顔を上げても上げなくても何方(どちら)でも構わない、と言ったのは俺である為、気にせずに話を切り出す事にする。

 

「俺は、一刻も早くこんな巫山戯たゲームを終わらせる為にも、ゲームの攻略に挑む」

 

 単刀直入に、俺の決意を妹達へと伝える。

 直後、彼女達はびくり、と一際大きく肩を震わせた。其れは、自ら進んで危険へと飛び込もうとしている俺の正気を疑ってのものなのか。或いは、自分達も攻略(きけん)に巻き込まれる事への不安や恐怖から来るものなのか。()しくは、其の両方によるものなのか。

 彼女達の真意は分からないが、()しも後者であったとすれば、早々に彼女達の誤解を解いておくべきだろう。

 

「安心しろ。──お前らに、攻略への参加を強要したりはしないから」

 

 暗に、「お前達は攻略に参加しなくても良い」と伝える。

 すると、彼女達は再び肩を震わせたかと思うと、目を丸くして俺を見詰めて来た。俺の言葉に驚いている、のだろうか。

 若しかしたら彼女達は、攻略に参加する事に対して恐怖の念を(いだ)きながらも、其れでもやはり攻略に参加するべきなのかも知れない、と考え、覚悟を決めていたのかも知れない。其れなのに、俺が「攻略に参加しなくても良い」と出端(でばな)(くじ)く様な事を言ったが為に、鳩が豆鉄砲を食ったような反応になってしまったのであろう。……飽く迄も、俺の憶測でしかないが。

 そんな彼女達の反応には構わず、俺は話を続ける。

 

「闘うのが怖い? 死ぬのが怖い? ──そんなのは当たり前の感情だ。無理して抑え込む必要なんか無いんだ。だから、怖いのに無理して攻略に参加しなくても良いんだ。怖くて攻略に参加したくないって言うのなら、其れでも全然構わないんだ」

 

 本音を言ってしまえば、彼女達には攻略に参加して欲しくはない。彼女達はまだ幼い少女なのだ。そんな彼女達を危険な目に()わせたくはない。出来る事ならば、安全な場所でゲームがクリアされるのを待っていて欲しいのだ。……危険な目に遭うのは、俺一人だけで充分だ。

 ……流石に、其れは俺のエゴである為、口には出さないが。

 

「「「……………………」」」

 

 妹達からの反応は無い。

 まあ、唐突に決断を迫られても、直ぐに答えを出せる筈もないであろう。

 

「今無理に答えを出そうとしなくても良い。俺は今から、やっておかなきゃいけない用事を済ませて来るから、其の間に、自分達がどうしたいのかを考えておいてくれれば良いよ」

 

 時間が必要だ。自分達の気持ちを整理して、答えを出す為の時間が。

 ただ、其れを待っていてやる事は出来ない。妹達が答えを出すのを待っている間にも、他のプレイヤー達が好き勝手に行動を起こし始めてしまう事だろう。そうなると、俺の計画に多少の狂いが生じてしまう事になる。出来る事ならば、余計な手間は掛けたくはないのだ。

 そういう訳だからして、俺は妹達を()き寄せていた腕を離し、多少強引にだが彼女達を振り(ほど)いて立ち上がる。

 俺が離れた事によってか、不安そうな表情を浮かべる妹達だが、そんな彼女達と顔を合わせ続けていては行動に移る事を躊躇ってしまいそうになるかも知れないので、俺は早々に彼女達に背を向けて、(なか)ば逃げる様に足を

 

 

 

 

 

「──待って!」

 

 

 

 

 

 ──踏み出そうとした瞬間に、妹から制止の声を掛けられた。

 

「……もう、答えが出たって言うのか?」

 

 妹の強い口調に動きを止めはしたが、振り向きはしない。

 彼女に背を向けたまま、まさかと思いながらも問い掛けると、彼女からは力強い声で「うん」と返って来た。

 

「…………そうか。……それで、お前はどうしたいんだ?」

 

 彼女のあまりの即決っぷりに内心驚きながらも、では、彼女はどうしたいのかと(たず)ねる。彼女の意思を聞くのだから、流石に身体の向きを変えてきちんと顔を見合わせる。

 果たして、彼女が出す答えとは……

 

「──あたしも、一緒に行くよ」

 

 ──攻略への参加、だった。

 

「…………良いのか? (いばら)の道……なんてもんじゃない。常に死と隣り合わせの危ない橋なんだぞ」

 

 彼女が自分の意思で決めた事である為、其れに対して俺があれこれ言うべきではないのは重々理解している。……だがしかし、彼女の選択した道は本当に危険極まりないものであるが故に、本当に其れで良いのかと……覚悟が有るのかと問い掛ける。

 

「…………正直に言えば……攻略に挑むのは物凄(ものすご)く怖いよ……」

 

 少しだけ(うつむ)いて弱音を()いた彼女だが、「けど……」と言って上げた顔には、続いた言葉には、非常に強い心念が宿っている様に感じられた。

 

「けどッ! 其れ以上に! お兄ちゃんだけが攻略に行って、あたしが知らないうちにお兄ちゃんが死んじゃってる事の方が怖いよッ!」

 

 だから、と──

 

「あたしも一緒に行くッ! あたしも一緒に闘って、お兄ちゃんを護るんだッ!」

 

 ……こうまで言われてしまっては……此処までの覚悟を示されてしまっては、最早(もはや)彼女を止める事なんて出来はしない。

 

「……後悔、するなよ?」

 

「後悔なんてしないよ。何もせずにただ待ってるだけの方が、もっと後悔すると思うから」

 

 苦笑いを禁じ得ない俺のせめてもの抵抗にも、彼女は、先程までの力強い形相とは打って変わる、穏やかな笑顔でそう応えた。

 ……やっぱり、彼女は強情だ。お陰で完全にお手上げだよ、まったく……。

 

「──私も、攻略に参加します!」

 

 と、暗に妹の同行を認めた直後に、なんと……今度はランが攻略への参加の意思を表明した。

 此れには驚いた。冷静そうなイメージの有るランが命の安全を第一に考えての《待機》ではなく、積極的に攻略への参加を選んだ事もそうだ。が、其れ以上に、ユウキよりも先にランが攻略への参加を言い出した事の方が驚きだ。此れも俺の勝手なイメージだが、ランは活発なユウキを抑えるブレーキ役を(にな)っているものだと思っていたのだが。

まあ、其れはさて置いて、だ。

 

「……妹にも言った通り、危険な橋なんだぞ?」

 

 ランにもまた、本当に攻略へと挑む覚悟が有るのかと問い掛ける。

 

「解っています。……それでも行きます! 私もリョウヤさんと同じ様に、一分一秒でも早く此のゲームを終わらせて、ユウを現実世界に帰してあげたいですから!」

 

「……俺の意図に気付いていたのか」

 

「私もリョウヤさんと同じ、上の兄姉(きょうだい)ですから」

 

 成る程。彼女もまた護りたい・救いたいものが在るからこそ、頑張ろうと思えるのだろう。彼女もまた強い人間なのだな。

 

 ……いや──()()()()()()()()()()、のかも知れない。

 

「だったら! 姉ちゃんはボクが護る!」

 

「ユウ……!?」

 

 そんなランを護るんだと、ユウキもまた攻略への参加を表明した。

 

「現実に帰る時は、二人一緒にじゃないと嫌なんだからね!」

 

「…………うん。そうだよね。それじゃあユウ……私と一緒に闘って!」

 

「勿論だよ、姉ちゃん!」

 

 そう言ってお互いの拳を合わせたユウキとランは、直ぐ様、同時に顔の向きを俺の方にへと向けて、決意と覚悟の()もった眼で俺を見詰めて来た。

 そして、妹もまた真剣な面持ちへと変え、俺の事を真っ直ぐに見()えながら、三人を代表して口を開いた。

 

「そういう訳だよ、お兄ちゃん」

 

 三対の力強い眼差しを向けられた俺は、内心にて彼女達に対する愚痴を(こぼ)す。──まったく、人の折角の好意を無下にしやがって、と。

 ただ、其処に怒りの感情は無い。(むし)ろ、彼女達の(たくま)しさに嬉しさすら感じる。それに、やはり何処かで不安を感じていた俺の心が、彼女達の協力を得られた事によって軽くなった様に感じる。

 

「……OK、Alright、理解把握。──んじゃ、全員で足掻(あが)いてやるとしますか」

 

「「「おー!!」」」

 

 彼女達と一緒であれば、何だか行けそうな気がする──。

 そんな根拠の無い自信を胸に、俺は彼女達と共にゲーム攻略への第一歩を踏み出したのであった。

 

 

 

 

 




 
という訳で、リョウヤ達四人がゲーム攻略への参加を決意しました。
そして、恐らくは次回でデスゲーム開始直後の内容は終わらせられると思います。

それでは皆様──良いお年を!
 

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