「新年あけましておめでとうございます。 待たせちゃった?」
そう言って待ち合わせ場所に現れたあやせ。
予定の時間よりは早く着いたつもりだったが、彼方が到着したのもほぼ同刻だっただろうか。
「こうやって過ごすのも初めてだから…」
待っていないよ、と返しつつ、予定よりまだ早いことを本人に告げると、少し恥ずかしそうに答えた。
新年というのもあってか、着物を着付けてきている。
赤よりピンクに近いだろうか、そんな色をした梅の柄。
薄っすらとではあるが、化粧もしているだろうか。 普段に比べて表情に色っぽさがある。
それに、普段であれば結っているか下ろしているかしている長いピンクの髪も、後ろで団子を作って簪が挿してある。
「あんまりジロジロ見ないでもらえますか?」
今まで見たことのない姿に目を奪われていたら、釘を刺されてしまった。
どれぐらいの時間見ていたのかもわからないが、少しばかり困惑した表情を見せていた。
「普段が似合わない…とでも言いたそうですね?」
化粧で華やかになっているとはいえ、いつもの暗黒微笑。
誤魔化し気味に着物も似合うね、なんて言ってはみたが、少々彼女の逆鱗に触れてしまったようだ。
「そんなことより早く行きませんか? 折角早く来たんですから」
まだ若干黒い笑みを浮かべてはいたが、本来の目的を促してくる。
今日は学園近くの神社への初詣。
あやせ自身は、去年まで学園の云々が忙しくて来れなかったそうな。
彼女にとっては久しぶりのこともあって、浮かれ気味である。
かといって自分もこうやって来るのは久々だったりするのだが、その話は置いておくことにする。
待ち合わせ場所は駅にしていたので、ここからさらに歩くことになる。
町の大通りを抜けて、かなり長い参道。
少し調べてみたが、かなり由緒正しい神社らしく、毎年人がごった返すらしい。
駅前の雰囲気だけではそうも感じないのだが。
来るのは初めてのことなので、スマホを片手にあやせと歩く。
特に複雑な道もなく参道の手前までたどり着いたが、前方には満員電車を想起させるような雑踏。
鳥居が見えるので参道だとはわかるが、ここまで人が多いと逸れてしまいそうなものである。
「どうするもなにも、初詣行くんでしょ?」
少しばかり怖気づいてしまった自分が、立ち止まってどうするか問いかけると、そんな返事。
彼女の中に戻る選択肢はないようだ。
「でもこれじゃはぐれそうだから… はい。」
そう言って右手を差し出してくる。
何か渡すのかと思ってちょっと考えていると、ややイラついたような表情。
「これぐらい分かりなさいよ…!」
そう言って軽く小突くと左手を握ってくる。
ようやく、逸れない為に手をつなごうとしていたと気づいた。
怒りとも恥ずかしさともわからないが、少し赤面したあやせの顔を見て納得する。
「まったく…」
そう言いながらも強く手を握るあやせに、かわいらしさを覚える。
その手を握り返して、再び雑踏に向けて歩き始める。
いざ人混みに入ると、なんだかんだスムーズには進行できた。
少し歩いてみてわかったが、この参道は参拝客の往路だけらしい。
逆に歩いてくる人がいない分、自然と歩を進められるので、意外と見た目以上に逸れる心配はないのかもしれない。
どれくらい経っただろうか、参道も半分ぐらい進んだ頃になると、道の左右に屋台が見え始めた。
それに、その屋台からもいい香りが。
朝こそ寮で食べたので空腹感こそないが、不思議と屋台に目が行ってしまう。
「少し小腹も空いたし、何か食べません?」
そんな自分の様子を見てか、あやせがそう提案してくる。
断る理由もなかった。
これが食べたいというのもないようなので、手近だった屋台に立ち寄る。
「シャーピン?なんですかこれ?」
正直自分も何の屋台だか把握せずに近寄ったが、意外と客が並んでいた。
鉄板の上のものを見てもなんだかわからない。平らに広がった丸い何か、としか表現できない。
鉄板脇の材料を見るに、餃子みたいだが…?
スルスルと客が捌けていき、気が付けば自分が頼むタイミングに。
気さくそうなおじいさんに2つ頼んでお代を渡すと、一つ分のお代を返される。
別嬪さん連れてんだ、サービスしとくよ、と。
あやせのほうを見ると、恥ずかしかったのか俯いている。
手早く紙に包まれた鉄板の上のものを渡されて、そのままあやせにも渡す。
何なのかもわからないまま口に運んだが…これは餃子?
口に合うか心配だったが、あやせは満足そうな表情。
「前に食べた七海ちゃんの餃子みたい。」
そんな感想。 自分も同じような感想だった。七海の餃子、それがちょっと大きくなっただけ。
食べながらも、屋台に並んでいた間少し離していた手を再び取ると、少しびっくりした表情でこちらを見上げてくる。
今度は笑顔だった。
何も会話はなくとも、手を繋いだまま歩くだけで幸せだった。
ようやく本殿前の大鳥居が見えてくる。
「どんなお願い事をするんですか?」
あやせがふとそんなことを聞いてくる。
さて、なんてお願いしようか。なんて誤魔化して、もう一度手を強く握る。
この幸せが続きますように、なんて本人には恥ずかしくて言えなかった。