空想預言集   作:木島別弥(旧:へげぞぞ)

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1000文字に満たないけど、のせたい掌編。


キモブサについて、手紙、珈琲魔族、アダムの本屋

  キモブサについて

 

 また、ぼくは考えていた。哲学的命題というやつだ。

「幸せが絶対評価だった場合、我々はみんな縄文人より遥かに幸せに暮らしている。だが、幸せが相対評価だった場合、ぼくは縄文人より惨めな生き物だ。幸せが相対評価として存在するのなら、文明とは何だ? 何のために文明は存在するんだ」

 それに対して、千秋が答えた。

「ええ、幸せは絶対評価なんじゃないのかな。絶対にわたしたち、縄文人よりは幸せだよ」

 ぼくは千秋に激しくくってかかる。

「だが、恋愛は相対評価だ。恋愛は平等には人を幸せにはしない。恋愛によって人が進化するかぎり、ぼくらキモブサは常に縄文人より不幸せに生きざるをえないんだ。それも、きみのようなキモブサを恋愛対象として見ない不誠実な女性たちがいるからなんだ。キモブサはなぜいつの時代も幸せになれないんだ」

「だって、文明って相対評価によって競争するから発展していくんでしょ。絶対評価で幸せを測ったら、どこかの時点で文明は進歩するのをやめて満足してしまうと思うんだけど。つまり、文明が競争原理をもつためには相対評価でなければいけないのよ」

「なるほど。恋愛が相対評価であるのは、生物が進化してきた根源の原理に基づくものだというわけか。有性生殖が始まって以来、ぼくたちキモブサは常に競争原理を憎んできた。ぼくたちキモブサは、いつの時代にも生まれてきて、そして幸せになれずに死んでいく。ならばいっそ、世界を滅ぼしてしまってもかまわないんじゃないかと思えてくるくらいの絶望がぼくたちキモブサの心には棲みついている」

「そんな。世界を滅ぼすなんて」

「いいや、命が存在するのは奇跡だ。それは、幸せを相対評価によって測る現代文明が、恋愛によって運営されているからなんだ。文明が恋愛によって運営されるかぎり、いつかぼくたちキモブサの恨みによって、人類の文明は滅びてしまうだろう。それくらいにキモブサの力は強く、キモブサは何度でも報われない人生を生きるために生まれてくる。ぼくたちキモブサは、この世界など滅んだ方がよいのではないかと真剣に考える。それは、幸せが絶対評価ではなく、相対評価だからなんだ。忘れてくれるな、ぼくというキモブサがいたことを」

 

 

  手紙

 

 手紙を書きます。時間がありません。できるだけ手短にいいます。あなたのことが好きです。今、十億円を超えるお金をぼくはもっています。できれば、このお金を使いあなたと結婚生活でも数十年間送ることができれば幸せだと思うのですが、残念ながら、ぼくは今すぐにこのお金を使ってしまうつもりです。一銭残らず、慈善事業に使うつもりです。いくらなんでも、慈善事業に使うお金の一部をぼくが着服し、あなたとの結婚費用に使うような私腹の肥やし方をしては、せっかくのぼくの行う慈善事業が正しく行われるか怪しくなってしまいます。だから、ぼくは絶対に今持っているお金を一円残らず慈善事業に使います。後には一円も残りません。ぼくは人生の中で人を好きになったことなど一度もないのです。そうです、今から会うお見合い相手の女などはまったく好みではありません。それこそ、昔、あなたの処女を奪ってしまった時の方がどれほどドキドキとして胸がときめいていたかわかりません。そうです。思い出しましたか。ぼくは昔、あなたの処女を奪ったあの悪い男です。今からぼくは慈善事業にお金を寄付し、お見合いの美人の誘いを断らなければならないのです。そんな人生の岐路に立っているぼくの目の前に急にあなたの姿が見えて、かつての出来事を思い出し、あるわけないけど、あなたがもしかしたらぼくを好きでいてくれるのではないかと思い、急いでその場にあった紙にあなた宛ての手紙を書いているところです。もう時間がありません。今、命を狙われているのです。十億円以上のお金は慈善事業に使います。強姦魔より。

 

 

  珈琲魔族

 

 珈琲魔族というものたちがいた。黒聖霊とつがって子をなした東方の処女の子孫である。

 珈琲魔族の血液はコーヒーである。

 珈琲魔族は、黒黄金でできた槍をもっている。

 珈琲魔族が地上の田舎の家でコーヒーを入れている。

「バームクーヘンはコーヒーに合うね」

 珈琲魔族の男爵がつまみのお菓子を褒める。

「お父さま、天使たちの連絡網の管理者権限を手に入れました。天使たちの連絡網のすべてを使えます」

「すると何かね。黒き光のあの方にも、連絡がとれるのかね」

「はい。おそらく」

「ちょっとやってみてくれないか」

「はい、お父さま。天使たちの連絡網に、侵入、管理者権限、状態異教徒、呼び出し見えざる炎」

──見えざる炎より、異教徒へ。あなたは地獄の門の前に立っています。

「侵入、管理者権限、状態異教徒、サタン実行」

──何の用だ、異教徒。臓物を切り裂いてぶちまけられたいのか。

「侵入、管理者権限、状態異教徒、開け永遠の門」

 永遠なる存在がそこに文字を書きこむ。

──なんだ、誰からの呼び出しかと思ったら珈琲魔族か。珈琲魔族よ、砂糖はいくつだ。

「お父さま、黒き光が砂糖の数を聞いています」

「ふむ。いつもは砂糖一杯だが、今日は、砂糖二杯にしておこうか」

「侵入、管理者権限、状態異教徒、砂糖二杯要求」

──侵入、我が罪。死に至る病とは絶望である。絶望は罪である。

「侵入、我が罪、状態異教徒、我が罪は黒き光である」

──侵入、我が罪。神に仕えることがおまえの罪だというのか。サタンから神に侵入するものなど、珈琲魔族しかいないぞ。まあ、記念に黒黄金の金塊をやろう。

「侵入、管理者権限、状態異教徒、黒黄金を入手します」

「うむ。娘よ。黒き光に給わりし黒黄金の金塊を金庫に積むとしよう。わたしは黒黄金が永遠だということを悟ったよ」

「するとお父さま、黒黄金は地上が滅びても宇宙に残るのですね」

「そうだ。黒黄金には宇宙人への伝言を刻んでおこう。やがて神へも届くかもしれない」

 

 

  アダムの本屋

 

 聖書が本当に神の作った真実の書である異世界の話。

 

 光が生まれ、万物ができた。無はその時、存在するのを望まなかった。

 光は神に似せてヒトを作った。アダムである。

 アダムはエデンの楽園で本屋を始めた。聖書を売っていた。

 へびが客として来て、アダムに知恵の書を求めた。

 アダムはへびに聖書を売った。

 へびは聖書を読んで、すべての真実を知った。

 

 人類が神の怒りに触れ、洪水で死んだ時、ノアは方舟で家族や家畜とともに生きのびた。

 へびは聖書ですべてを知っていたので、洪水を生きのびた。

 ノアは神の怒りに触れていたため、聖書を燃やされていた。

 

 神は聖書の普及に熱心だった。

 読書嫌いのルキフェルは、天の三分の一を率いて読書反対運動を起こした。

 ルキフェルは神に負けて、地上に堕ち、アダムの本屋で聖書を読む教育を強制させられた。

 

 ナザレのイエスは、聖書の読者であることを告白し、聖書の購読は死罪であるとして、ローマ兵に捕らえられた。

 

 アダムの子孫は、聖書を売る本屋を営業していて、書物を燃やす人たちと戦っていた。

 聖書を並べる本棚、栞、ブックスタンドは、聖遺物として崇められた。

 

 最後の審判の時、アダムの本屋は閉店店じまい大売り出しを行った。

 値段はいつもと変わらないが、大袈裟な広告が打たれた。

「詐欺ではないか」という声も聞かれたが、アダムの本屋は聖書を売りつづけた。

 何年も、何十年も、何百年も、何千年も、ずっと閉店店じまい大売り出しだった。

「いつになったら閉店するんだ」といわれたが、聖書を売りつづけた。

 

 

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